※この作品はR-18です。

魂の座 三部 暁の姉妹   作:伊駒辰葉

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前のエピソードの続きです。
エロシーンはありません。


酒場で追いかけっこ 1

 人の気配がする。ラスティは店主に笑みかけるのをやめ、気配の方を向いた。店主がつられたようにそちらを見る。

 

「あの! 夜分に恐れ入ります!」

 

 いつの間にか水面の上に見知った少女が立っている。ラスティはそれを見止めて僅かに目を細めた。店主が困惑気味に少女を見つめる。

 

「あー、すみませんね。もう店じまいなんですよ」

 

 営業用の笑顔を浮かべて店主が少女に答える。だがラスティはそんな店主を手で制して低い声で告げた。

 

「……あんたが何でこんなところにいる」

 

 見れば少女の後ろから別の誰かが近付いている。ラスティは思わず舌打ちをした。

 

「ラスティさん、お久しぶりです」

 

 にっこりと笑って少女が頭を下げる。ラスティはため息をついてその少女を睨むように見た。相変わらず少女の顔にはあどけない笑みが浮かんでいる。名は確か吉良瀬奈月だったか。思い出しながらラスティは奈月の後ろに現れた別の少女に顎をしゃくった。

 

「おい。お前か。連れて来たのは」

 

 いつもならストレートに飛び掛ってくる少女が困惑したように奈月とラスティとを見比べる。こちらの少女もよく知っている。名は二藍。迷いの森にあるラスティの家と割と近くに住んでいる娘だ。

 

「えーと……お客さん。知り合いかね?」

 

 店主が気を利かせて言葉を挟む。瞬く間に幻影が消え、そこには元の酒場のフロアが現れた。ラスティは機嫌悪くああ、と答えた。

 

「もう今日は遅いし……お嬢さんがた。お部屋を用意しますから、そっちでお話されちゃいかがかね? ダンナがよけりゃ、夜食くらいはサービスしますよ」

 

 にこにこと笑いながら店主が言う。ラスティはすかさずそれを断りかけて思い止まった。確かに店主には関係のない話になる。これ以上、仕事を長引かせても悪い。ラスティはぎらりと少女二人を睨んでから店主に頼む、と短く告げた。それだけ言ってさっさと階段に向かう。

 

「ありがとうございます」

 

 笑顔で奈月が店主に答える。店主はいやいや、と笑ってモップを置くとキッチンに向かった。その背中にラスティは声を投げた。

 

「俺には酒をくれ。……ったく、一発で酔いがさめやがった」

 

 ぼやきながらラスティは階段を上がった。不安そうな二藍を念のため、もう一度睨みつける。すると二藍は泣きそうな顔で奈月とラスティを見比べた。どうやら自分がしでかしたことの重さに少しは気付いたようだ。ラスティはふん、と鼻を鳴らして部屋に向かった。

 

 しばしの後、複数の足音が部屋に近付いてくる。開いたドアから先に顔を覗かせたのは店主だった。テーブルに酒とグラスを置いてから廊下に留まっていた二人を振り返る。

 

「お嬢さんがたの部屋は真向かいでどうですかね」

 

 そう言いながら店主は廊下に取って返す。ラスティは無言で酒瓶の封を切るとグラスになみなみと酒を注いだ。きつめの果実酒を一気に煽って息を吐く。店主に案内された少女たちが向かい側のドアに消える。ラスティはベッドに腰を下ろしたまま、二杯目の酒をグラスに満たした。

 

 向かいのドアを閉めた店主が足早にラスティに近付いてくる。

 

「お客さん。今日は他に客もいないしあれですけど」

 

 潜めた声で言ってから店主がちらりと背後を振り返る。ラスティは判ってる、と呟いて眉を寄せた。

 

「あいつらの分は俺が後でまとめて払う。それに暴れたりしないって」

「どうだかなあ……。ダンナ、前に派手に店をぶっ壊してくれたから」

 

 やれやれと肩を竦めてから店主が部屋を出て行く。嫌なことばかり覚えてやがる、とぼやきながらラスティは二杯目の酒に手を出した。一気に二杯目も干してからラスティはグラスと酒瓶を手にして向かいの部屋に向かった。

 

 閉じたドアを膝で乱暴にノックする。

 

「ラスティさん。念のために二重結界はりますね」

 

 白さんと立城さんで大丈夫かな? そんな奈月の声が中から聞こえてくる。ラスティは苛々しながらもう一度、強くドアを蹴飛ばした。

 

「どうでもいいから先に開けろ。俺は両手が塞がってるんだ」

 

 ラスティが不機嫌に告げるとドアは内側から開いた。二藍が恐々と顔を覗かせる。ラスティは開いた隙間に足を突っ込み、強引にドアを大きく開いた。悲鳴を上げて床に転がった二藍を無視して大股で部屋に入る。

 

 テーブルには二人分の夜食が乗っている。奈月はテーブルの脇の椅子に腰掛けていた。その手の中に二色の力が集まっている。ラスティは不機嫌に舌打ちをしてグラスをテーブルに乗せ、空いた手の指を鳴らした。すると奈月の手の中に集まっていた力が一気に結界に変質する。

 

「ラスティさん、おひさしぶりです……。あの、何かあったのですか?」

 

 困惑気味に奈月が告げる。ラスティはそんな奈月を睨んでからテーブルのグラスをさらった。酒瓶を傾けて果実酒を注ぎながら直に床に腰を下ろす。ドア近くにしゃがみ込んでいた二藍が恐々と奈月の傍に戻る。ラスティは鋭い目でそんな二藍を睨んだ。

 

「いいから早く用件を言え」

 

 奈月の質問を無視してラスティは低い声で告げた。三杯目の酒を一気に飲み干す。

 

「わたしはラスティさんと魔法の契約を結ぶように、総一郎さんから助言を受けて来ました」

 

 神妙な面持ちで奈月が言う。それを聞いたラスティはそっぽを向いたまま舌打ちをした。危うい手つきで酒を再びグラスに注ぐ。




酔っ払ったラスティを書くのは初めてでしたねー。
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