調子に乗ったラスティは次に会った時、二藍をベッドに縛り付けてみた。とにかく常磐にされたことは全部してみようと思ったのだ。
「お前、彼女の視点や、彼女を取り巻く民の視点で、彼女との関係を考えてみたことがあるか?」
「ない」
ラスティは常磐の問いかけに即答した。すると常磐が深々とため息をついて力なく首を振る。
「お前が再び彼女と出あった夜、酔ったお前は彼女に裸になるように命じた。成長した女の体に興味があったからだということはわかっている。だが彼女にとっては意味が違ったのだ」
「え、俺、そんなことしたのか」
目を丸くしてラスティは呟くように答えた。確かにあの頃の二藍は最初に出会った時より成長していた気がする。それなら二藍の身体に興味を持つのもまあ、自然かも知れない。ラスティは自分が当時、どう考えたのだろうと想像して小さく頷いた。
「彼女はお前との誓いを果たすためにお前の言葉全てに従った。乱暴に陰部を割り開かれ、指で処女を奪われ、陰部の奥まで覗きこまれても唇を噛み締め悲鳴ひとつ漏らさなかった」
「へえ」
ラスティはそう返して常磐を見つめ返した。瞬きを数回してから眉を寄せて首を傾げる。
「……それが何かまずいのか?」
観察しようとしてそうしたのだろうか。記憶にない自分の行動の理由を想像しながらラスティは何気なく訊ねた。すると常磐がぴくりと頬を引きつらせる。
「逆の立場になって考えてみろ。お前がそのような事をされたらどう思う?」
「誰にだ」
低い声でラスティは言い返した。別に見せるだけなら見せてもいいが、痛い思いをするのはちょっと遠慮したいな。相手がお前ならともかく。ラスティはそう続けて改めて常磐の目を覗き込んだ。
「俺になら構わないと言うのだな? それでは、俺以外の男に足を開けと、陰部を晒せと命じられたらどうする?」
「張り倒す」
ラスティは即答した。そこでラスティはああ、と声を漏らして手を打った。
「そうか。二藍は俺を張り倒したかったのか」
それなら納得出来る。嫌なら嫌と言えばいいのに。平然と告げたラスティの頭を常磐が軽く叩く。痛いな、とぼやいたラスティを常磐は冷ややかな目で見下ろした。
「お前は俺になら構わないと言っただろう? 二藍はお前だからよかったのだ。誓いの相手のお前だからこそ従ったのだ」
「誓いって何の? そもそも俺は二藍とは何も誓いなんて交わして」
そこまで言ってからラスティは先に常磐が言っていたことを思い出した。酔った頭の中で常磐の言葉を繰り返してみる。それからラスティはぽん、と手を叩いた。
「そうか。俺が女だって判ってないのか、あいつ」
すると常磐がまたラスティの頭を叩く。今度は先ほどより強く叩かれ、ラスティは顔をしかめて叩かれたところを手で押さえた。
「最初は当然知らなかった。二度目に処女を失った時もそうだ。あの時はお前は二藍を弄るだけで服さえ脱がなかったからな。三度目は夢中で気づかなかった。しかし、更に逢瀬を重ねるうちに、彼女はお前の正体に気づいた」
「じゃあ、いいじゃねえか」
別に嘘を吐いていたつもりもないし。ラスティは不機嫌に顔をしかめたままで答えた。常磐が疲れたようにため息をついてラスティの額に手を乗せる。常磐の膝に身体を乗せた格好になったまま、ラスティはじっと常磐の手を見つめた。
「それでも良いと彼女は思ったのだ。お前が何者でも構わないとな」
そう言われてラスティはしばし考え込んだ。うーん、と唸りながら腕組みをする。
「……別に俺、二藍が好きとかじゃないんだが」
さらりと告げたラスティを常磐が呆れた目で見下ろす。
「二藍はそれも気づいている。交わした誓いをお前が守る気が無いことを。いや、そもそもお前に、誓いを交わしたなどという認識が無いことを」
「じゃあ、何なんだよっ。まどろっこしいな。俺にどうしろってんだ」
苛々と頭をかきながらラスティは声を荒らげた。二藍はラスティが女であることに気付いている。誓いを交わしたつもりがないことも知っている。その上でじゃあ、どうしろと言うのだ。ラスティは苛立ちに任せて常磐を鋭く睨みつけた。
「とりあえず、彼女の立場を知れ。その後にどうするかはお前が決めることだ」
「へーへー。あー、もう、めんどくせえな!」
うんざりしながら言ってラスティは勢いをつけて身体を起こした。すっかり酔いがさめてしまった。ラスティは頭を軽く振って三つ編みを解いた。乱れていた髪を手で梳いてから編みなおす。
「で? 言いたいことはそれだけか」
その場に胡座をかいて髪を編みながらラスティは常磐に声をかけた。
「では端的に述べよう。彼女との婚約の誓いは有効だ。彼女の問いに対して、お前は口付けで応えた。それはあの場合は下手に言葉で答えるよりも、より重い誓約となる」
「ふうん」
髪に目を落としたままラスティは答えた。それで、と常磐を促す。
「それでも、誓いの条件の履行が為されなかったら成立しなかっただろう。しかし、お前は彼女の処女を奪い、その処女血を飲んだ」
ラスティは目を細めて舌打ちをした。酔っていたからとは言え、そんな真似までしてたのか。胸中でそう呟いてラスティは編み終わった髪を背中に弾いた。
「俺は二藍とどうこうする気はねえ。男になる気もねえし、重婚する気もない」
言いながらラスティは腰を上げた。立ち上がって横目に常磐を睨む。
もうちょい上手くやれば、ラスティも水輝くらいには女の子と遊べるんですけどね……w