【書籍化】クラスで2番目に可愛いボーイッシュ幼馴染を、二泊三日の修学旅行で寝取って種付けセックス漬けにする話 作:月見ハク
店の横を通り抜け、店先に出る。
オシャレな照明が看板を照らしていて、その光が目の前の駐車場も明るくしていた。
金髪の男はちょうどその光が途切れた先の、
覗き込むスマホのライトが、無表情な男の顔を浮かび上がらせていた。
俺は、金髪の男に一歩近寄る。
ここ最近、アヤを取り巻く世界は本当に目まぐるしいな、と思う。
修学旅行では俺に寝取られ、他校の男子に絡まれ、江藤先生には襲われかけて。
ベストカップル賞ときて、今度はストーカーときた。
もしかしたら、これも神様が用意したシチュエーションなのだろうか。
まあ、だから何だという話だ。
俺は淡々と、アヤを手に入れるためにやるべきことをやるだけだ。
俺は、金髪の男にもう一歩近寄る。
淡々とやる……だけなのだが。
キーンと耳鳴りがした。
神様の直感が、大量のイメージを送り込んでくる。
未来の記憶だ。
――金髪の男を、放置した未来。
今日から数カ月後。
学校帰りのアヤを、路地で待ち伏せする男の姿。
その手には――。
――俺はそこで、未来の映像をシャットアウトした。
ありえない。
アヤがいったい何をしたというのか。
何で、この男はアヤにこんな酷いことを……。
腹の底から、激烈な怒りが全身に広がっていく。
また、キーンと耳鳴りがした。
神様の直感が念押しとばかりに、もう一つの未来の記憶を見せてくる。
これから俺が、取るべき未来を――。
――金髪の男は、突然やってきた俺にギョッとする。
俺は構わず声をかけた。
「すみません、さっきから店の前で何してるんですか?」
男は、俺が制服を着ているのを見ると、急に横柄な態度になる。
「いや……人待ってんだけど」
「中にいる子ですか?」
「君には関係ないよね?」
「いや、あるんですよ。迷惑なんです」
そう言って、俺はスマホで男の写真をパシャパシャ撮る。
「ストーカー行為で、警察に通報しますね。あなたの仕事場にも」
「は!?」
仕事場という言葉に、男はあからさまに動揺した。
なんとなく大学生じゃない気がしたので、学校ではなく仕事場と言ってみた。
そうしたらビンゴだった。
「何でオマエにそんなこと、てか、さっきから何なんだよっ!」
男が立ち上がる。
身長は、俺よりも十センチくらい低い。鍛えているようだが、多分、大丈夫だろう。
俺は男に近づき、圧をかけながら追い詰めていく。
「ストーカーさん、これ以上アヤに付きまとうなら、多分俺、ただじゃおかないですよ」
「ざけんなって、つーかただじゃおかないって何だよっ、こっちこそ脅迫で通報するぞ」
そう言って男は、スマホでパシャっと俺を撮った。
その瞬間、俺が男のスマホを奪い取る。
「あ、おいっ!」
スマホの中を見ると、さっき店内で隠し撮りしたのであろうアヤの写真が二枚。
メニュー越しに遠くのアヤを撮ったものと、テーブルの下から撮ろうとしてタイミングが合わなかったのか去っていくアヤの背中の写真だ。どちらもブレていた。
他にアヤの写真や、アヤの家の近所で撮られたような写真はない。
おそらく、アヤのストーキングを始めて日が浅いのだろう。
アヤに会うのも、おそらく今日が二度目だ。
俺のことも知らないということは、家まで付けたりはしていないってことだ。まだ。
「てめ、返せよ! っざけんな、窃盗だぞ!」
男が手を伸ばしてくる。
俺はアヤの写真を男に見せる。
「これ隠し撮りなんで、立派な犯罪ですよ」
男の目が変わった。
ポケットに手を突っ込み、取り出したのは家の鍵だった。
刃物とかは用意していないようだ。まだ。
男は鍵を握り、それで思いきり切りかかってきた。
俺は肘を立て、ガードするふりをして男の攻撃を受ける。
ジャッと音がして、俺の腕を鍵の先端が走っていく。
鈍い痛み。
でもそこまでの痛みじゃない。切られたところが朱く腫れて、うっすら血が出ていた。
「これ、正当防衛なんで」
そう言って、俺は男を掴み、駐車場のコンクリートに組み伏せた。
「ぼーやんっ!」
店の入り口から走ってくるアヤとリョウジさん。
アヤは、顔を真っ青にしている。
「警察呼んでください」
俺は声を上げ、しばらくしてパトカーが来た。
それから事情聴取を受けたりして、解放されたのは明け方。
そのまま登校すると、学校なのにアヤが抱きついてくる。
そしてしばらく、アヤは俺から離れなくなった。
彼女は、かなりショックを受けているようだ。
ストーカーにではない。
俺が傷ついたのがショックで、恐くて。
リョウジさんの店には行かなくなり、放課後は俺の家でセックス漬けの日々が始まる。
アヤは俺を繋ぎ止めるように、セックスを求めてきた。
一方で、時田とはあっさり別れた。
ストーカー男と重ねてしまったのか、時田を過剰なまでに拒絶するようになって。
同時に、俺がアヤをストーカーから守ったという話は、学校中で広まりだした。生徒たちの目の色が変わる。
俺は、名実ともに、アヤと結ばれることができ――。
――俺はそこで、未来の映像をシャットアウトした。
「ふぅ」と大きく息を吐く。
鮮明なビジョンを見せてくれたおかげで、逆に頭が冷えてきた。
確かに、これがアヤを手に入れる最短ルートに違いない。
心も体も、アヤは俺のものになる。
恐いくらいに。
でも、却下だ。
アヤにショックを受けさせてどうする。
一生もののトラウマを植え付けて、俺に繋ぎ止めても意味がない。
それに、リョウジさんの店で働けなくなるのもダメだ。
この店は、俺とアヤの思い出が詰まった場所で。
ここで楽しそうに働くアヤを見るのが、俺は大好きだ。
するとまた、キーンと耳鳴りがした。
どうやら別の未来を見せてくれるようだ。
俺が、あまりに直感の言うことをきかないからか。
直感が先回りして、妥協案を提示してくれるらしい――。
――俺は、金髪の男と話していた。
「俺、あの子と付き合ってるんですよ」
俺は、アヤの彼氏のフリをする。
「は? 彼氏!?」
「とりあえず、スマホの写真消してくれます?」
「は、いや、何で?」
「隠し撮りしてましたよね、通報しますよ?」
俺は、男のスマホに向かって手を伸ばす。
すると男がとっさにドンと押し返してきた。
俺はそのまま勢いに任せて尻もちをつく。
「ぼーやんっ!」
店の入り口から、アヤが小走りで向かってくる。
手には靴べらが握りしめられていた。
ややあって、リョウジさんが焦ったように店から出てくる。
どうやらアヤは、俺が尻もちをついたのを見て、反射的に飛び出してきてしまったようだ。
アヤは俺の斜め後ろあたりで立ち止まると、男をキッと見据えた。
「その……子に、何の用、ですか?」
緊張のあまり、俺を「その子」呼ばわりしている。
靴べらを握る両手が、ガクガクと震えていた。
すると、金髪の男がうろたえ出す。
「え、あ、いや、俺はアヤさんのアドレス聞ければって、え……?」
「迷惑、ですっ……!」
アヤが喉を絞り、できるだけ大きい声を出した。
「ああ、いや、えーと、彼氏……さんって、マジですか?」
男はショックを受けているようで、それを隠すようにヘラヘラと笑っている。
「……付き合ってます、か、れしです……」
アヤは俺の作戦を読み取ったようで、ぎこちなく話を合わせた。
フリとはいえ、アヤに「彼氏」と言われて俺の心が跳ね上がる。
男はヘラヘラした顔のまま、リョウジさんに肩を掴まれて遠くへ連れて行かれた。
俺は、震えるアヤをそっと抱き寄せて――。
――俺は、未来の映像をシャットアウトした。
確かに、これが一番穏便なルートだ。
直感が提示する道すじの中では、かなりの遠回り。
それでも一番アヤが傷つかないルートが、これなのだろう。
だが俺は、震えながら靴べらを握るアヤの姿を思い出していた。
引きつり、怯えきった彼女の顔を。
そんな思いを、アヤにさせてどうする?
俺は、金髪の男のすぐ側まで歩み寄る。
気づいた男が、怪訝そうに顔を上げた。
「こんばんは。あの俺、あの子の幼馴染なんですけど」
俺は男と向かい合うのではなく、男の隣に腰掛けた。
この男は、尻を痛めながら一時間以上ここで待っていたのだろうか。
「は? えっと、はい?」
男が、戸惑ったように身を引いた。
俺は穏やかな口調で話を続ける。
「あ、いや、あなたも一緒かなと」
「一緒って、何がすか……?」
俺のあまりのフレンドリーな雰囲気に、男は少し怯えて敬語になった。
この男は、わずか数秒の間にずいぶんとやり合った。
だからどういう性格で、どういう反応をするのかが何となく分かる。
「あなたも、あの子のことが好きなんですよね?」
「は!? いや、俺はちょっと……アヤさんの知り合いっつーか」
俺は、男の言葉を無視して続けた。
「でも、こうやって店先で待つのは、迷惑なのでやめたほうがいいですよ」
「いや、そんなんじゃなくて……てかアヤさんは、分かってくれると思うんで」
アヤが何を分かるというのだろうか。
俺は、男の言葉を無視して続けた。
「あの子には、ずっと付き合っている彼氏がいますよ。僕も、もう五年以上ずっと片思い中なんです」
「えっ、彼氏!? そうなんだ、そうか……」
ふと店の中を見ると、アヤが窓越しにこちらをじっと見ていた。
俺は、ニコッと笑って手を上げる。
アヤは「ごめん待っててね」という顔をして、手を振ってきた。
隣を見ると、金髪の男もアヤをじっと見つめていた。
「……でも、アヤさん、彼氏とうまくいってないんじゃ……だから、ほら、諦めたらそこで終わりって名言もあるじゃないすか……だからさ」
何かにすがるような、そんな口調だ。
まだ諦めきれないらしい。
俺は、男の言葉を無視して聞いてみた。
「あの子と、どこで出会ったんですか?」
「あ、はい、この店で……」
「どんなところに惹かれたんですか?」
「……ああ、あの、注文した時とか、お会計の時に凄く笑いかけてくれて……距離がすっごく近くて……近く、感じて」
「他の人には、どういう態度でした?」
「……いや、分かんない、すね」
男は、一瞬考え込んだ。
アヤが、この男以外にも同じように笑いかけて、誰にでも人懐っこい感じだと気づいたのだろう。
「さっき、お会計した時はどうでした? ちょっと困ってませんでしたか?」
「たしかに、ちょっと素っ気なかったようでは……あったけど」
「それで、あなたは少しショックを受けたんじゃないですか? 本当は、気づいちゃったんですよね。だからあなたは、ここで待つことにした」
「ショックっていうか、まあ、なんか……そうすね……」
男は、まだ思考が混乱しているように見える。
アヤに拒絶されて、アヤから何かを得たくて、でもアヤの気持ちや自分の気持ちにも薄っすら気づいて……無理なんだ、と理解する。
まるで夢から醒めるように。
この男は、アヤを知ってたかだか数週間、会うのは二度目だ。
その程度なら、アヤの魅力なんてほんの少ししか分からない。
夢中になる前に、まだ引き返せる。
俺は、男に優しく話しかけた。
「じゃ、俺行きますね。あなたはもう、店に来ちゃダメですよ」
「え、ダメすか……?」
……ダメに、決まっている。
彼女の痛みも分からない、想像できないようなヤツを。
俺がこれ以上、近づけさせるわけがないだろう。
もし近づいたら――。
そうなる前に、早く俺から離れたほうがいい。
俺の不穏な気配を感じ取ったのか、男は静かになった。
それでいい。
俺は軽く深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「あと、そのスマホに入ってるあの子の写真、消してくださいね」
俺は男に微笑む。
我ながら、にこやかな感じに笑えていると思う。
男は目を見開いて、俺を凝視していた。
その顔は、恐怖に引きつっているようにも見える。
「は? いや……」とか言いながら、慌ててスマホをいじりだす。
急いで写真を消しているのだろう。
それでいい。
俺が手を振ると、男はペコリと頭を下げて去っていった。
男のシルエットが豆粒くらいになるまで、その背中を見送る。
直感が、あの男はもう現れないと告げていた。
中学三年の時に、アヤがストーカーに狙われたと聞いて。
俺なりに、対策法や護身術なんかをいろいろと調べた。
警告をすると、八割の人はストーキングを止めるらしい。
金髪の男が、残りの二割じゃなくて良かった。
本当に。
「ふぅ……」
俺はため息をついて、ゆっくり立ち上がる。
お尻が痛い。
店の中を見ると、アヤがまた俺をじっと見ていた。
もう一度、手を上げてみる。
アヤはほっとしたような顔で、「もう上がるね」と口パクをして奥のほうに消えていった。
今日もアヤの身には、何も起きていない。
それでいい。
俺が、アヤの周りには何も起こさせない。
***
「や、お待たせー」
制服姿のアヤが店から出てきた。
リョウジさんは店の中から手を振っている。
その顔には、「今度詳しく聞かせろよ」と書いてあった。
俺はペコっと頭を下げて、アヤの自転車に近寄る。
「俺が引いていくよ。重いでしょ?」
「あ、うん、ありがと」
いつもは何も言わずに、アヤの自転車を引いて歩き出すのだが。
神様の直感が、いちいち言えと告げてくる。
確かに、アヤの反応がいつもより良い。
店からアヤの家までは、自転車で三十分、歩きだと一時間半かかる。
でも俺が迎えに来たときはいつも、歩いて帰る。
話しながらだとあっという間だし、それに……二人乗りした時に背中に当たる柔らかい感触に、俺の理性が持ちそうになかったから。
でも今は。
アヤとできるだけ長く、一緒の時間を過ごしたかった。
「さっきの人、知り合い?」
アヤが、何気ない風を装って聞いてきた。
金髪の男のことを言っているのだろう。
「いや、アヤ待ってる間に世間話してただけ。常連なんだって」
「そう、なんだ……」
おかしい。
アヤの歩くスピードが、少しだけ速い。
アヤは本当に恐いとき、とにかくそこから離れようとする。
最初は愛想笑いを浮かべ、次第に無表情になっていく。
今のアヤは、無表情だった。
「何、話してたの?」
アヤが前を見ながら、聞いてきた。
怯えを隠すように、声に抑揚をつけずに。
アヤは、気づいていたんだ。
あの金髪の男が、待ち伏せしていたことを。
それを、俺が追い払ったことも。
ふと、直感が見せたあの光景を思い出した。
靴べらを握りしめ、ガクガクと震えるアヤの姿を。
思えば、いくらなんでも怯えすぎだった。
おそらく、アヤは知っている。
中学三年の頃に、自分がストーカーに狙われていたことを。
いやもしかしたら、俺の知らないところで、他にも同じような目に遭っていたのかもしれない。
アヤが、横目で不安げな視線を送ってきた。
俺は、安心させるように話し始める。
「あーあの人は……」
――言うな。
――ショックを与えるな。
――匂わせるくらいがちょうどいい。
神様の直感が、囁く。
ストーカーのことを言うと、アヤがショックを受けてしまうという。
さっきはショックを与えろと煽ってきたくせにと思うが、今こういう展開になったら、今度はなるべくショックを与えないほうが吉なのだろう。
その上で、少し匂わせて、不安にさせろと。
相変わらず、常に最善のルートを提示してくれるこの力には、頭が下がる。
でも。
「アヤに一目惚れしたんだって。誰にでもフレンドリーに接しすぎると、付き纏われたりするかもだから、気をつけるんだよ」
「わたっ、し、か……」
予感した通りだったのだろう。
アヤはブルッと肩を震わせ、顔を引きつらせた。
しかし、ここはきちんと伝える。
俺が、アヤの身に降りかかる全てから守るつもりだが。
だからといって危ない輩を量産させるつもりもない。
アヤも多少は、自分がそういう危険を呼び込んでしまうということを自覚しないと。
今、アヤは恐いだろう。
でも、目の前で俺が傷つくよりは。
靴べらを握りしめてストーカーに立ち向かうよりは。
この程度であれば、今のアヤ――少しだけ強くなったアヤなら、受け止められる。
そんな気がした。
「アヤ、大丈夫?」
「あ……え、えと……」
アヤの顔が、戸惑いに染まる。
泣きそうになり、下唇を噛んで堪えた。
鼻からふっと息を吐き、すうっと口で息を吸う。
顔を引き締め、俺を見た。
「ううん、気をつけるよ」
――ごめんね、ぼーやん。
アヤが、そう続けようとした。
でもアヤは、恐がりながらも必死に受け入れたのだ。
俺に謝る必要なんて一切ない。
だから、俺はアヤの言葉を遮る。
「――俺が彼氏だったら、こんな不安な目に遭わせないんだけど」
「へ?」
「そしたら、毎日店に来れるでしょ?」
「別に……今でも来れる、じゃん」
アヤの引きつっていた顔が、モニュモニュと動き出した。
頬も、ほんのり赤くなっている。
「アヤ、少しは自覚して」
「なにを?」
「アヤは自分の良さを分かってない。昔からモテモテなんだから」
「えうっ……あーはいはい、子どもにでしょ」
「いや、牧野さんとこのレオくんなんて、すぐアヤに走り寄ってくるし」
「犬じゃん!」
ひたすらに、アヤをいじりからかう。
アヤの心の中で、俺に対する温かい気持ちが膨らんでいくのが分かる。
俺とアヤは、しばらく他愛ない軽口を叩きあった。
どれくらい笑いあっただろうか。
いつの間にか俺たちは、肩を寄せ合って歩いていた。
狭い路地を歩いているからだろうか。
ふと、アヤが急に真面目な顔をした。
「ぼーやんだって……」
「ん? どうした急に?」
アヤは、意を決した感じで口を開いた。
「いいって言う女の子、いるかもよ?」
「へぇー」
「興味なさすぎない!?」
なぜだかアヤはムッとしている。
触れている肩から、アヤの心が伝わってきた。
――ユカリとか。
ユカリとか、ちょっといいって言ってたし。
助けてくれそうとか。
頼りになりそうって。
そんなの。
私が一番よく知ってる。
ユカリよりも。
誰よりも。
私のほうが。
この感情は、ヤキモチだろうか。
俺が、ずっと時田に抱いていたのと同じ。
それを、アヤが……ユカリに……俺に……。
――落ち着け。
そうだな、落ち着こう。
その時、アヤのスマホが振動した。
「あ、お母さんだ」
アヤがポケットから取り出したスマホを見て、つぶやいた。
帰りが遅くなったから、心配になったのだろう。
「はい、もしもし? ……うん、ぼーやん来てくれたから、うん……うん、そう、今ぼーやんと一緒、うん……そうだよ、だから――」
――私は、大丈夫。
「……ああ、うん、今はね…………商店街のとこ、歩いてる…………うん、もう少し、掛かるかな……うん、ファミレス寄るかも……うん、ぼーやん送ってくれるから……ああうん、お風呂温めといて、うん、ありがと、じゃ」
アヤは電話を切ると、立ち止まった。
商店街も、ファミレスも、三十分くらい前に通り過ぎている。
今目の前には、アヤの家から歩いて三分の公園があった。
「あのさ、ぼーやん……」
――もっといっぱい。
ぼーやんと話したい。
もっと、一緒にいたい。
俺も同じような気持ちだ。
「アヤ、公園寄っていこうか」
「うん……」
そう言ってうつむくアヤは、まるで恋する女の子のようで。
数多あるアヤの可愛い表情を、やすやすと更新してしまった。
話すだけなんて。
無理に決まってる。
神様の粋な計らいだろうか。
いつもはチラホラいるはずの人影が、今日は一つもなかった。
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