【書籍化】クラスで2番目に可愛いボーイッシュ幼馴染を、二泊三日の修学旅行で寝取って種付けセックス漬けにする話 作:月見ハク
俺は、あてもなく校舎内を歩いていた。
――戻れ。
――今日は帰れ。
神様の直感によると、俺は今日学校にいると絶対に時田と出くわすらしい。
――今日は会わないほうがいい。
――回れ右をして戻れ。
なるほど。
この廊下の先に時田がいるようだ。
歩きながら、考える。
直感によると、今、時田と会ってしまうとゴールから遠のくらしい。
だが俺は、妙な違和感があった。
神様の直感と目指すゴールは同じでも、通るルートが良くないような、あの感じだ。
どうもボタンをかけ違えているような……。
多分だが、屋上でアヤが直感の予測を飛び越えてきたのが発端になっている。そんな気がする。
……だが、いずれにせよ。
アヤの心の負担を考えた場合。
俺は時田と、今、対峙する必要があると思った。
ガララ。
目の前で扉が開き、そこから時田が出てきた。
他のクラスの女子に囲まれている。
どうやら実行委員のミーティングがあったようだ。
「およっ、ぼーやんじゃん」
女子の一人が、俺に声を掛けた。
それには返事をせず、まっすぐ時田を見据える。
「時田、今日時間ある? 少しでいい」
「ん、なんだぼーやん?」
時田は、少しだけ緊張した面持ちで答えた。
一方の俺は、できるだけ温和な顔を作る。
「アヤのことで、大事な話がある」
周りの女子たちが、目を見張った。
時田は唇をグッと引き結んでから、俺を睨んだ。
「……俺も、ぼーやんにちょっと話あったわ。お化け屋敷寄らないといけないから、その後でいいか? メールする」
「ああ、じゃあ後で」
時田はふいっと顔を背けると、向こうへ歩いていく。
俺も時田を背にして、校舎出口へ向かった。
***
カキーンッと、爽快な音が響く。
俺は、学校からほど近い場所にあるバッティングセンターで、時田を待っていた。
ベンチに座り、バッターボックスに立つ人たちを眺める。
小学校の頃、アヤに連れられて何度か来たことがある。
アヤはソフトボールにハマっていて、よくここで練習をしていた。
中学に入り、アヤはバッドを握ることはなくなったようだが。
――帰れ。
さっきから直感が警告してくる。
俺はスマホの時計を見た。
十六時過ぎだ。
本来だったら、実行委員の時田は忙しくて、こんな時間に抜け出すなんて難しいだろう。
そんなことを思いながらぼーっと入り口を眺めていると、歩いてくる時田の姿が見えた。
「よお、ぼーやん」
「悪いな、忙しいのに」
「いや、いいよ。とりあえず打とうぜ」
「そうだな」
時田が近くの自動販売機でコインを買った。
俺もコインを買い、二人でバッターボックスに並ぶ。
遠くのモニターに野球選手の姿が映し出され、振りかぶる。次の瞬間、ピッチングマシンから球が飛んできた。
「ぼーやんって、野球やったことあったっけ……かっ!」
カキンと音がして、斜め前方にボールが飛んでいく。
野球部でもないのに、見事なスイングだ。
いろんな女子が時田に惚れるのも分かる。
「いや、やったことないな」
俺の目の前を、豪速球が通り過ぎる。
俺は、球技の類いが昔から苦手だ。
昔アヤと来たときも、俺はバットに球を当てるのすら苦戦していた。
「まあ、ぼーやんだしな。俺も、超久しぶりだわ。アヤ、こういうとこ来たがらないから……なっ!」
カキンと音がして、ボールが斜め横に飛んでいく。ファールだ。
「へえ、デートで来たことないのか」
言いつつ、俺は思い出す。
中学の時、アヤはめずらしく愚痴っていた。
バッティングセンターに誘ったら、時田に「そんなとこ行ってもつまんねーだろ」と断られたのだと。
「デートはさ、基本アヤが行きたそうなとこに行くからな」
「そうか」
「まあ、今週末もデートすんだけどさ、そん時は俺の行きたいとこに付き合ってもらうつもり。ラブホとか……なんつって」
「そうか」
俺の気のない返事に、時田は少しだけイラッときたようだ。
「ぼーやん、明日さ……後夜祭でベストカップル賞ってあるだろ? あれ、俺とアヤが選ばれるらしい」
「そうか」
「最近あんま構ってやれなかったからさ、ちょっとしたサプライズっつーか、まあ……多分アヤ喜ぶんだわ」
赤ずきんと狼の仮装のことだろうか。
さっきから勝手に選ばれて困っているという口ぶりだが、実際は時田もかなり企画に関わっているようだ。
というか、どうやら時田は俺とアヤが屋上でキスしたことを知らない。
色んな人が見ていたから、てっきり時田の耳にも入ると思っていたんだが。
これも、神様の仕業だろうか。
そんなことをぼーっと考えていると、豪速球がまたしても俺の目の前を通過した。
「ぼーやん、せめてバットくらい振れよ」
「ああ、そうだな」
「……で、話ってなんだよ」
一通り俺への牽制が済んだからか、時田が本題を聞いてきた。
俺は、バットを振る。
ボールが目の前を通り過ぎる。
格好はつかないが、俺は淡々と言葉を告げた。
「アヤに、告白したよ」
「は?」
目を見開いた時田が、向こうのバッターボックスから俺を見ていた。
「アヤと、付き合おうと思う」
俺の目の前を、ボールが通過する。
こちらを凝視している時田の背後でも、ボールが通り過ぎるのが見えた。
「いや、何言ってんのぼーやん、ないだろ……人の彼女だぞ」
まったくだ。
俺だったら殺意が湧くと思う。
でも、俺は淡々と言葉を紡ぐ。
「アヤと、別れて欲しい」
「はい?」
時田の目に、怒りが宿る。
「別れるわけねーだろ、何年付き合ってると思ってんだよ! 人のもんに手ぇ出そうとすんじゃねーよ!」
すごい剣幕だ。
そうだよな。
俺だったら、奪おうとする男が現れたら絶対に許さない。
何と言われても、絶対に別れないだろう。
例え、アヤの気持ちが離れてしまっていたとしても。
「てか、ユカリは? お前告られたんじゃねーの!?」
時田は、それを知っているのか。
どうやらユカリと時田は協力関係にあったようだ。
「断ったよ」
バットを振る。
ボールが通過した。
「いやいや、ユカリも可愛いだろ! 多分すっげーエロいぜアイツ」
「そうか」
「つーかお前、女に興味あったのかよ」
「アヤにだけ」
「はぁ!?」
時田の後ろを、何個ものボールが通り過ぎている。
「いやお前はずっとアヤの幼馴染っつーか、保護者だろ、だから安心して任せてたのによ! だいたい俺とアヤが付き合うのプッシュしたのお前だろ!」
「そうだな。でもずっと好きだった。それに気づいたんだ」
ごめんとは言わない。
言い訳もしない。
ただまっすぐ時田の目を見て、事実を言う。
「はぁ!? いつだよ?」
「修学旅行で」
「修学旅行って……まだ二週間前だぞ!」
時田は必死に、俺を諦めさせる糸口を探しているように見える。
しかし。
どうして時田は、俺が告白したと言ったのに。
「アヤはなんて返事したんだ」と聞かないのだろうか。
決めるのは、アヤだろうに。
今の時田には、それを考える余裕もないのだろうか。
時田は、再びバットを振り始めた。
カキンと音が鳴り、ボールが横に飛んでいく。ファールだ。
時田が背中越しに、俺に話しかける。
「てか、どこが好きなんだよ」
試すような口ぶりだ。
男がマウントを取ろうとする時の。
「どこって言われてもな……」
改めて問われると、迷う。
「……笑顔が可愛い」
とりあえずそう答える。
「チッ、結局顔かよ。いやまあ、俺も超タイプだったし……いつもスッピンだから誰も気づかねーけどさ、化粧なんかしたら、すっげー化けんだぜアヤは」
それは、知ってる。
後は――。
「笑い声も可愛い」
「あー分かるわ……アヤさ、たまーにすっげーエロい声出すんだぜ」
時田が得意げに言う。
自分のほうがアヤのことを知っているんだ、アヤとはこんな所まで進んでいるんだと。
俺が黙っていると、時田がさらに言葉を続けた。
「カラダだってよ……むっちゃ柔らけーし」
それも知ってる。
「あ、エッチな意味じゃねーからな! そういう目で見んなよ、アヤはそういうの苦手なんだ」
分かってる。
でも俺はもう、アヤをそういう目でしか見れない。
「おいぼーやん、俺は内面とかの話してんだよ! ルックスばっかヤラシイ目で見てんじゃねーよ」
内面か。
それこそ数えきれないくらいある。
俺はとりあえず一つ挙げてみる。
「いつも明るい」
「そりゃな。そう見えるかもだけど、アイツ……たまにめんどくせーとこあるぜ。意外に人見知りだしよ、断れねー性格だし。何でもかんでも受け入れんなって、俺もよく注意してんだ」
そうだな。
アヤの数多ある短所の一つだ。
周りが傷つかないように、誰にも嫌われないように、自分が傷つかないように……いつも笑ってる。
人見知りのくせに、人懐っこい。
カナヅチなのに、誘われるとプールでも川でも海でもホイホイ付いて行ってしまう。
滅多に怒らない。
平気で変顔ができるくらい、思いきりもいい。
それなのに、誰よりも泣き虫だ。
妙なところで自分に自信がないし。
元気だけが取り柄と豪語するくせに、家では「疲れた~」とか「ダルい~」を連呼する。
俺は、そんなアヤが大好きだ。
黙っている俺に苛立ったのか、時田が強い口調で言った。
「なあぼーやん……勝負しようぜ」
「勝負?」
「三球勝負だ。ヒットの多いほうが勝ち。俺が勝ったら、アヤを諦めてくれ」
「は?」
「じゃあ俺から……なっ!」
カキンと小気味いい音がして、ボールがピッチングマシンのあたりまで飛んでいく。ヒットだ。
どうやら、俺が勝った場合の条件はないらしい。
俺は、とりあえずバットを振った。
目の前をボールが通り過ぎる。
隣でガキンと鈍い音がして、時田の背後にボールが跳ねた。ファールだ。
俺もバットを振る。
またもや、空を切った。
時田のほうからカキンと音がして、ボールは横に逸れた。ファールだ。
これで次に俺がヒットを打てなかったら、俺の負けらしい。
まったく。
決めるのはアヤだろう。
こんな勝負に何の意味もない。
だが、できれば負けたくない。
望む未来に、少しでも近づけるために。
――負けておけ。
神様の直感が囁いた。
俺の意思とは、真逆の言葉を。
――時田に勝たせておけ。
――油断させておけ。
――そのほうが大きなダメージを与えられる。
大きな、ダメージ……?
「ぼーやん、ラスト勝負の一球だぞ! 正々堂々諦めろ!」
時田が、プレッシャーを掛けてくる。
俺は、ピッチングマシンから飛んでくるボールを見つめた。
――半歩前に出ろ。
負けさせるために、神様が囁く。
俺は前に出ず、とりあえずその場にとどまる。
――今だ、振れ。
なるほど。
なら、一か八か――。
俺は神様の直感からわずかに遅れて、バットを振った。
カキンッ――。
自分の手元から爽快な音がした。
打った感覚はない。
しかし確かに俺のバットはボールを捕えて、大きく孤を描いて飛んでいった。
「うっそだろ……」
俺もびっくりだ。
時田が見上げる先で、俺の打ったボールが遠くのネットに吸い込まれた。多分、ホームランだ。
しばし呆然としていた時田が、俺のほうを向く。
時田は開き直ったような顔をして、言った。
「…………まあ、決めるのはアヤだ」
「ああ、そうだな」
俺も、そう思う。
バッティングセンターを出て、去っていく時田の後ろ姿を見送る。
これで、少しは時田も心の準備ができただろうか。
アヤから別れを告げられても、多少は納得できるように。
――――。
神様の直感が、急ピッチで軌道修正しているのが分かる。
最適解から、少し逸れてしまったようだ。
今回の俺の行動もまた、イレギュラーなものなのだろう。
……ここまで直感と噛み合わなかったのは、初めてかもしれない。
この力は、いつだって最適解を示してくれる。
アヤを手に入れるゴールへの、最短ルートだ。それは分かっている。
だが、今回直感が導こうとしているルートは、アヤの心が考慮されていない。そんな予感がする。
俺は、ほんの少しでも。
アヤが傷つかないで済むなら、遠回りな道を選びたい。
――――。
そんな俺の意思を知ってか知らずか。
神様の直感は、ひたすら軌道修正をしていた。
***
夕暮れ時。
俺はアヤの家の前で、ぼーっと立っていた。
道の向こうから、夕陽に照らされたアヤの姿が見えた。
そのシルエットが、だんだん大きくなってくる。
「アヤ、おかえり」
俺の目の前で立ち止まったアヤは、夕陽よりも真っ赤な顔をしていた。
「……待ってなくていいって言ったじゃん……っ」
「正門では待ってないよ」
「そうだけどさ」と言って目を伏せるアヤは、どこか嬉しそうだ。
「……アヤ、大丈夫だった?」
「……うん、いっぱい、全部話して……みんな難しい顔してたけど、分かってくれた……と思う」
アヤの表情を見れば分かる。
きっと、女友達たちにいい顔はされなかった。
それでも自分の気持ちを正直に話して、伝えたのだろう。
思わず抱きしめようとしたとき、アヤが口を開いた。
「あのね、ぼーやん」
「ん?」
「明日私、後夜祭……出るね。出て、そこで、終わらせるから」
アヤは、俺をまっすぐに見つめていた。
その目には、覚悟が宿っていて――。
その瞬間、キーンと耳鳴りがした。
――行かせるな。
神様の直感が、イメージを送り込んでくる。
これは、未来の記憶だ。
――俺は、舞台袖でアヤを見ていた。
壇上には、赤ずきんの格好をしたアヤと、狼の耳と鼻を付けた時田。
観衆からは「キースッ、キースッ」と煽るようなコールが響いている。
アヤの女友達はみんな黙っていた。アヤが事前に俺とのことを打ち明けたからだろう。
時田がアヤの肩を掴む。
しかし、アヤは「ごめん」と言ってキスを拒んだ。
「は、どゆこと!? ここでキスしねーと変だからっ!」
「ごめん、もう……付き合えない」
「はぁ?」
時田の顔が、あからさまに曇る。
「あの、ね――」
「いや、とりあえずキスしとこう」
すると、妙な空気を察した司会の生徒がマイクを握る。
『おっとー! 赤ずきんのイヤイヤ焦らしかぁー!?』
どっと湧く観衆たち。
時田がアヤに顔を近づける。
掴む指が、アヤの肩に食い込んだ。
「やっ……!」
アヤの声が、ぎりぎり歓声にかき消えない程度に響く。
前列の観客には聞こえたのだろう、怪訝な顔を浮かべ始めている。
時田も、慌てて手を離した。
アヤは、真剣な顔で時田を見つめる。
「……ごめんね、もう、別れよう」
「クソ……!」
時田も、うすうすは察していたのだろう。その場でしゃがみ込んでしまった。
『おっとおっとー、まさか振られてしまったのかー!?』
司会の生徒が顔に焦りを滲ませつつ、冗談ぽく盛り上げる。
またしても、客席は笑い声に包まれた。不穏な空気を察した前列以外は。
時田はなんとか立ち上がり、アヤに声を掛ける。
「……後でちゃんと話そう。とりあえず戻んぞ」
そう言ってアヤの手を掴み、舞台袖に引っ込んでくる――。
俺は、流れ込んでくるイメージに、少しだけ吐き気を覚えた。
しかし、なおも神様の直感は未来の記憶を送り込んでくる。
――舞台袖に引っ込んでくるアヤと時田。
そこに、俺が待っていた。
「……ぼーやん」
時田が、すごく嫌そうな顔をした――。
未来の記憶は、なおも続く。
――舞台袖で、俺は時田と向かい合う。
「時田、俺、アヤを奪った」
アヤの前で、ごめんとは言わない。これ以上負い目を感じさせたくないから。
「ふざけんなっ!」
ドンッと大きな音。
時田が、壁を殴っていた。
目を血走らせて、俺に掴みかかってくる。
「んだよそれっ! ぼーやんよおぉっ!」
時田は俺をぶん殴ろうとして、堪えた。
そんなことをしても無駄だと頭では分かっているのだろう。
「つかなんなんだよっ! 俺が何したっつーんだ、ああ!? なんで今日なんだよ! 実行委員でどんだけ忙しかったと思ってんだよ! アヤのためにここまでしてやったのによぉっ!」
時田が狼の耳と鼻を床に叩きつける。
「マジふざけんなよぼーやんっ!」
時田は、激昂していた。
アヤに振られることは、もしかしたら心のどこかで分かっていたのだろう。
でも今の時田は、それだけではなく。
舞台上で恥をかかされ、メンツを潰されたから、ここまでキレている。
「ちくしょう、許さねぇ……」
取り乱す時田の様子を、アヤは黙って見ていた。
泣き虫のアヤが、涙をこらえて。
やがて、静かに口を開く。
「ごめんね時田、私が……悪いんだ」
そんなアヤを、時田は呆然と見つめる。
その瞳は、いつかリョウジさんの店の前にいた、あのストーカー男に似ていて――。
――俺はそこで、未来の映像をシャットアウトした。
俺はアヤを、こんな目に遭わせるつもりはない。
私が悪いだなんて、言わせない。
荒れた時田を見るアヤの顔は、苦しそうだった。
……絶対に、あんな顔をさせない。
神様の直感も、俺がそう思うことは分かっているはずだ。だから今回は、
最適解へ、俺を導くために……。
「――明日私、後夜祭……出るね。出て、そこで、終わらせるから」
アヤが、さっきのセリフを繰り返した。
違う。
どうやら、ここからがもう未来の記憶だったらしい。
俺は、アヤに微笑みながら頷いた。
「うん、分かったよ」
そう返事をしておく。
今ここでダメだと言っても、アヤは納得しないだろうから。
アヤは俺の返事に、フッと安堵のため息をついた。
――後夜祭に行かせるな。
――絶対に。
神様の直感が、俺に警告を発する。
分かってる。
これは、まったく同感だ。
絶対に、アヤを後夜祭には行かせない。
――それでいい。
キーンと耳鳴りがした。
直感がまた、未来の記憶を送り込んでくる。
今度は、最適解のほうだ。
――夕暮れの教室に、俺はいた。
お化け屋敷が半分ほど片付けられている。
窓の外、体育館のほうから軽快な音楽と歓声が聞こえてくる。
他の生徒たちは、後夜祭に行ったのだろう。
そんな寂しい教室で、俺は、アヤとキスをしていた。
俺とアヤの吐息が混ざり合う。
舌と舌が絡まり。
アヤの乳房が上下に揺れる。
激しい水音が教室内に響きわたる。
俺とアヤは、互いを激しく求め合っていて。
アヤは、幸せそうに笑っていた。
「ぼーやん、じゃあ……また明日ね」
アヤの声で、現実に引き戻される。
さっきと同じ、頬を赤らめた笑顔だ。
「うん、また明日」
「おやすみ、ぼーやん」
まだ、夕方なんだけどな。
睡眠をこよなく愛す、アヤらしい挨拶だ。
苦笑しつつ、俺も言葉を返す。
「ああ、おやすみ」
名残惜しそうに家に入っていくアヤを見送る。
と思ったら、アヤがドアからヒョコッと顔を出した。
「ぼーやん、風邪引くなよ」
「アヤもな。お腹出して寝るなよ」
「お腹は出してないよっ」
他にどこを出すというのか。
俺はまた、苦笑してしまう。
今度こそ、ドアがガチャリと閉まった。
しばらくして、二階のアヤの部屋に明かりが灯る。
俺は、しばらくその窓を見上げていた。
窓際には、今朝アヤが置いた猿のヌイグルミが置かれている。
「……大丈夫だから。絶対に」
俺はヌイグルミに向かってつぶやいた。
アヤに……自分に、言い聞かせるように。
ポケットの中で、拳を強く握る。
俺はふっと息を吐き、家路についた。