【書籍化】クラスで2番目に可愛いボーイッシュ幼馴染を、二泊三日の修学旅行で寝取って種付けセックス漬けにする話 作:月見ハク
私がアヤと仲良くなったのは、高校に入ってすぐだった。
同じクラスになった当初は、この子とは仲良くなれないだろうな、と思った。
アヤは明るくて元気で、誰からも好かれる子で……だから私とは住む世界が違うのだと。
私は中学時代「勉強ばかりするマジメちゃん」だったから、そんな自分を変えようと高校デビューした。勉強もそこそこするけど、人付き合いも無難にこなす、親しみやすい女子高生。それが私の作り上げたキャラクターだった。
だから、根っから人当たりのいいアヤとは、本質的には違うのだと。
そう思った。
でも、違った。
アヤと知り合って、「ユカリン」というあだ名を付けられて。
私がつい「ユカリでいいよ」と真顔で言ったとき、アヤはすごく気まずそうに謝ってくれた。
その表情に、一瞬怯えが見て取れて。
ああ、この子も私と同類なんだ、と直感的に分かった。
何かが恐くて、自分を作っている子なんだと。
根はマジメで、臆病な子なんだと思った。
私と、同じように、
だからか、私とアヤは不思議と気が合った。
そうしてアヤと遊ぶうちに、幼馴染のぼーやんを紹介された。
ぬぼーっとしていて、アヤのおじいちゃんみたいな人。
それが私の第一印象だった。
でも、なんとなくぼーやんを見ているうち、その印象は変わっていった。
不器用で、嘘がつけなくて、優しくて、誠実な人。
私は、自然と恋に落ちていた。
そして、すぐに気づいた。
ぼーやんの視線が、いつもアヤに向いていることに。
アヤを気遣って幼馴染として接しながらも、本当は恋心を抱いていることに。
私がぼーやんを見るのと同じ眼差しで、アヤを見つめていたから。
でもどうやら、ぼーやんは自分の気持ちに気づいていないようだった。
あんなに分かりやすいのに、クラスの誰も、アヤも、当の本人ですら、その恋に気づく人はいなかった。
私を除いて。
「――なあ、ユカリ聞いてんの?」
せっかく気持ちを整理していたのに、時田が口を挟んできた。
「聞いてるよ、アヤに振られたんでしょ~」
私は今、ファストフード店で時田とテーブルを挟んで座っていた。せっかくの振替休日だというのに。
時田がポテトを食べる手を止める。
「いや、振られたっつーか、一旦別れたっつーのかな……少し距離を置く、ていうか」
この期に及んで時田は、そんなことを言う。
話半分に聞いていたところによると、どうやら時田は昨日、アヤに「やり直せないか」と迫ったらしい。それで、何を思ったのかラブホテルに誘ったんだとか。馬鹿だ。
で、結局、アヤに別れを切り出された。
「せっかく私がいろいろ協力したのに、水の泡だね~」
「いやちゃんと、ユカリのアドバイス取り入れて……頑張ったし……」
私が助言したのは、アヤとちゃんと向き合って、彼女の意思を尊重して、誠実さを見せるということだ。
それが何を勘違いしたのか、ベストカップル賞でサプライズをするとか、体の関係を求めるだとか、明後日の方向に突き進んでしまった。
アヤの気持ちが離れているのに気づいて、焦ってしまったのだろう。
その気持ちは、分からなくもないけど。
「ベストカップル賞、恥かかなくて良かったね~」
「……知らねーよ」
アヤのクラスの女子たちが、実行委員会に掛け合ったらしい。
組織票のヤラセだから、アヤたちの一位受賞は撤回して欲しいと。
困った実行委員長が時田に聞くと、「それでいい」と了承したもんだから、二位のカップルが繰り上げ受賞して、狼と赤ずきんの仮装も引き継がれた。
なんだかんだで、後夜祭はそれなりに盛り上がった。
客席からは時田とアヤじゃないの? という声も上がったけど、わずかだった。
屋上でぼーやんとアヤがキスしていた、仲良さそうに文化祭を回っていたという噂がけっこう広まっていたから。
みんな、なんとなく恋模様の顛末を察していたのだろう。
「俺、もっかいアヤと、ちゃんと話し合ってみるわ……」
ヤケクソ気味に言う時田が、滑稽に見える。
もう絶対に無理だと、心の底では思っているくせに。
まるで現実逃避だ。
私はスマホを取り出すと、画面を時田に向けた。
「時田、これ観て」
動画のスタートボタンを押す。
そこには、学校の屋上でキスをするアヤとぼーやんが映っていた。
アヤのほうから、求めているように見える。
キスが終わり、二人は幸せそうに微笑み合う。
時田が、画面を見ながら固まってしまった。
まあ、無理もないか。
文化祭初日、ぼーやんに振られた後。
空気を吸いたくて屋上へ上って、私はこの光景に出くわした。
驚いた。
ショックだった。
幸せそうな姿を見せつけられたからじゃない。
アヤが、自分からキスをしていたから。
臆病で、誰よりも人目を気にする、あのアヤが。
……これは、勝てる気がしないや。
吹っ切れた。
往生際悪く私の心にくすぶっていた感情が、やっと消え去った。
気づけば、スマホで撮影していた。
「……えぇ……なんだよこれぇ…………」
困ったような、泣きそうな、そんな情けない声がした。
時田が目を見開いて、顔を歪めている。
でもやがて、その表情がフッとゆるんだ。
ああ、悟っちゃったんだな。
どうあがいても変えられない、圧倒的なものを見せられて。
その気持ちは、痛いほど分かる。
「はああぁぁぁ……」と、時田が大きなため息をついて、大げさに頭を抱えだした。
「俺、なんで振られたんだ。なんで、よりにもよってぼーやんなんかに……!」
その声に、ぼーやんを見下すような感情が見え隠れして、腹が立つ。
「それを言語化するのを、時田が怠ったからでしょ」
つい、素の口調になってしまった。
時田が唖然とした顔で、私を見る。
「……ユカリ、なんで怒ってんの? お前そんなキャラだっけ……?」
「ぼーやん馬鹿にしたでしょ~」
「あ? ああ……そっか悪いな。お前もこっぴどく振られたってのに」
その言い方に、また腹が立つ。
私は時田とは違う。
ちゃんとベストを尽くして、まっすぐ気持ちをぶつけて、そして、ちゃんと振られた。誠実に、振ってもらえた。
時田とは、違う。
「……それで、時田はどうするの~? きっぱり諦められる?」
試すような私の口調に、時田は神妙な顔をした。
「ああ……いや、まあ……なんか、これ無理な感じするわ。まあ……ぼーやんのほうが大事にしてやれるんだろうし……。俺もまあ、一年の子に告られたりしてるし」
悲しげな作り笑いが、少し痛々しい。よく見れば目元が腫れている。
辛いけど、今は受け止めたくない。
納得できないけど、納得せざるをえない。
諦めたくないけど、諦めるしかない。
時田の軽い口調の中にそういう苦悩が見えて、私は不思議と腹が立たなかった。
「そっか~、ドンマイ」
「いや……軽くね!?」
時田のツッコミに、私は自嘲するように微笑んだ。
私も、時田と同じだ。
ぼーやんは、違った。
多分、時田とアヤがうまくいっていたとしても。
神様の不思議な力がなかったとしても。
幸せそうなキスを見せつけられたとしても。
きっとぼーやんは、諦めなかった。
「登校日だりいわ~!」
時田が大声で叫んだ。
店員さんや他のお客さんが、一斉にこちらを向く。
時田のこういう所を、私は一生好きにならないだろうな、と思う。
「ぼーやんと会うから~?」
「それもある。ぶん殴っちまうかも……」
実際に、そんなことをする度胸はないくせに。
精一杯の強がりだろう。
「アヤをよろしく頼む、くらい言ったほうがカッコつくんじゃない? 元彼氏として~」
「……言えるかよ、んなこと」
「そっか~、ドンマイ」
「…………」
意気消沈する時田を眺めながら、私は二週間前の修学旅行を思い出していた。
あの二泊三日の旅行で、私は一大決心をしていた。
ぼーやんに、告白する。
ぼーやんはアヤへの恋心に気づいていない。
今なら、チャンスがあるかもしれない。
そう思って。
でも、修学旅行でぼーやんは、豹変した。
アヤの姿を視線で追う様子は、恋する男の人の目だった。
川でアヤを助けたときのぼーやんの眼差しは、愛する人を見つめるものだった。
そして、アヤも変わっていた。
ぼーやんを見つめるその目が、ただの幼馴染に向けるものじゃなかった。
熱を帯びて、戸惑いながら揺れていた。
私は、その感情が何かを知っている。
そんな二人の変化に気づいたのは、私だけ。
私だけが、突きつけられてしまった。
入り込む余地は、多分ない。
それが、私の出した結論だった。
修学旅行の最終日。
新幹線が最寄りのターミナル駅に着いたというのに、ぼーやんは窓に頭をもたれて眠っていた。
みんなが降りる支度をして、通路に並びだす。
誰も彼も疲れているのだろう。ぼーやんを起こす人はいなかった。
私は並びながら、ぼーやんに近寄る。
気持ち良さそうに眠る、ぼーやんの横顔。
見ていたら、お腹の奥からこみ上げてくる感情があった。
自然と手が伸び、ぼーやんの肩に触れていた。
「ん……」
ぼーやんが、小さくうめいた。
いろいろあって、ぼーやんも疲れたのかな。
昨日、寝れなかったのかな。
どんな夢、見てるのかな。
私のほうが先に、好きだったんだけどな。
気持ちがあふれて、涙が出そうになる。
この感情を、どう処理していいか分からない。
諦められない。
諦められたら、楽なのに。
諦めたら、いつかきっと新しい恋が見つかる。
諦めないと、この先苦しい毎日が待ってる。
でも、諦められない。
どうすればいい。
どうすればこの感情を消せるの。
私はぼーやんの肩に触れながら、一心不乱に願った。
「どうかこの人を、諦めさせてください」
『――叶えます』
誰かの声が、聞こえた気がした。
それから、私はぼーやんの好みが直感的に分かるようになった。
好きな女の子の仕草、言葉遣い、服装、雰囲気、匂い。
素の私に似ているものもあったし、違うものもあった。
私は直感の声に従って、行動した。
ときどき、自分を変えた。
なのに、ぼーやんはそのすべてに見向きもしなかった。
好みど真ん中だっていうのに。
ぼーやんの意識は、いつだってアヤに向いていた。
可能性を一つずつ潰していく作業はしんどかったけど、ゆっくり納得していく時間でもあった。
私は、諦めたいと願った。
時田は、諦めざるをえなかった。
でも、ぼーやんは諦めなかった。
きっと、アヤも。
***
時田を置いて、私はファストフード店を出た。
まだ昼過ぎなので、太陽の光がまぶしい。
涼しい風が、私の前髪を揺らす。
夏が、そろそろ終わる。
十月になれば、中間テストだ。
今から勉強を始めても、早すぎるなんてことはないだろう。
「さて、そろそろ勉強に専念するかな。しばらくは勉強一筋」
素の口調で、一人つぶやく。
今度は紛れもなく、私の本心だ。
神様の声は、もう聞こえなかった。