視点が二転三転とします
「なぁなぁお兄さん、私と決闘してくれへん?」
狐の半面を着け、和弓を背負った女性が石造りの部屋の片隅で物騒な事を言いだした
ただ部屋の片隅に居た、言われた側も言われた側で珍妙な恰好をしている。
平服の上に左肩には棘の付いた肩鎧、更に前腕部に太陽の意匠を象った盾、そして紫のモヒカンヘアーの男である
「ちょい待って……って
普段見ん人じゃね。なんか依頼でも受けたんかな?あ、決闘自体はええよ。」
決闘を挑まれたにしては男側は和やかに、それも慣れた様に応じた。
そう此処はDimension Fix内の決闘場、挑み挑まれは見慣れた光景だ。
だがそんな血生臭い場所に好き好んで行く様な奴なんて大体決まっているし、
システム的にもフリーでインキュー*1しておくか、リーグで自分より上のランクのオンラインプレイヤーを探すのが一般的である
検証の為や性癖のすれ違い等を除いて、こうして直接決闘を持ち掛けられるのは珍しいものだ。
「いやー、ありがとうなぁ
このゲーム、友達に誘われてさっきやり始めてん、ここに案内されてすぅぐ友達が急に用事が出来たー言うてなぁ…
待つにしてもいつまでかかるか分からんし、他に何したら良いかも分からんで…アハー」
「わぁお…初心者さんか
てか真っ先に案内される場所じゃないじゃろ、此処」
女性は何が面白いのか口元に手をやって、語尾が抜ける様な特徴的な笑い方をしている。
逆に男の方は呆れを表情に出さない様、微妙な表情になっていて
(まぁ、ええか。初心者は丁寧に沼に嵌めろって古事記にも記されとる。
何よりソール教官なら道に迷った人を放ってはおかん……)
「それじゃあ1v1でええ?
あ、こっちの職は観ての通りパラディン*2なんで…あと試合でやりたい事あるなら先に言っといてくれたら設定するけど?」
「……聖騎士?*3」
気を取り直した男が言えば、今度は女性側が訝し気な表情をする番となった。
ただ狐のお面のおかげでその表情は窺い知れないが
「やりたい事言われても、よー分からんしなぁ
私よかお兄さんの方が詳しいやろうし任せてもええかな?」
「んじゃあ…秘奥無しのリーグ設定でええか」
コンソールを開いた男が部屋の設定をし、決闘の招待を渡す。
女性側がそれを了承し、2人揃って闘技場へと転送されていった。
【男から見た試合の話】
処は変わって闘技場アリーナ
障害物も何もないシンプルな力と力、技と技のぶつけ合う見慣れた光景へ
「んだば、よろしくなぁお嬢さん
ジョブの関係でステ低いけん。自分で言うのも何じゃけど、入門には丁度良いぞ俺は」
言いながら右手、背中、腰の3カ所に携えたショートソードが、いずれも右手ですぐ使えるか確認する。
防具も兜こそ無いが待機室で着けていたものに加え、胸甲と脚甲も有る。
防御の厚い左半身を相手に向け、右腕は地面と水平に構えてショートソードを相手から見えなくすれば準備は万端だ。
「アハー、よろしゅうなあ。お手柔らかに~」
十分に離れた位置に見える彼女の方の装備はほぼ変わらず、腰に矢筒が追加された位である。
半面から覗く口元に笑みを携えたまま、矢の羽根の感触を確かめ
視界の隅に映る試合開始のカウントダウンを見ているのか、ちょっと左上に首を向けてからゆっくりと弓に矢を番えて…
そのカウントがゼロになると同時に、試合開始の合図が鳴った。
『シールドスロウ』
まず動いたのは自分である。
読んで字のごとく盾を投げるスキルを発動し、左腕の盾を女性へとぶん投げる
なお盾を固定する事で
(初心者って事は仕様なんかもあんま知らん筈
洗礼と思って受けて貰おうか―――――)
このゲームにおいて盾で飛ぶ奴はそんなに多くない、奇襲としては上々の物だろう
まずはこのゲームの理不尽さを身をもって教えてやるべく
自分でも分かる程に邪悪な笑みを浮かべて袈裟に斬ろうとし
弓を構える女性と仮面越しに目が合う
構えは凛とし、矢はこちらを向いている
彼女の口元の笑みが消え…
『バッシュゥ!!!』
シールドバッシュ
装備した盾で相手を殴りつけるスキルだがこれを空中で横方向に使用。
浮かんでいた体が盾に引っ張られ、横方向へすっ飛ぶ。
その瞬間に、自分の側頭部を彼女の矢が掠めて行って。
「んなクソァ!」
体が地面に叩き付けられる前に、手に持った武器を彼女へ投げ付けたが大したダメージは入っていない
予備の剣を引き抜き、起き上がる勢いを使って刺しにかかるが
同じ様に彼女も矢筒から矢を引き抜き、こちらの剣を体を捻じる様にして躱される。
矢を順手に持って振り被った体勢から、それを鞭の如く撓らせ、こちらの両目を一文字に切り裂く様振り抜かれ
それを直に食らい、現実でないとはいえ視界をほとんど潰す様に横切った太矢に驚いて一旦距離を取ろうとしたが
「だぁめ」
耳元で甘い囁きが聞こえた。
背中を優しく手で抑えられ、離れるのを一瞬躊躇うとほぼ同時に、顎と首の間から脳天にかけて衝撃が走る
これは後で知ったのだが、どうやら彼女の手に持った矢で直接、顎から頭にかけてぶっ刺されたらしく
その直後に決着の合図が鳴り響いて、まず敗北した自分が…そして女性が退室処理を行われて―――――
「殺しを生業かなにかにしてらっしゃる???」
「褒めても感謝の言葉しか出ぇへんよ。おおきになぁ」
待機室に戻って真っ先に出た感想がそれだ
あまりに鮮やかに殺されたので称賛の前に畏怖が漏れてしまった
ただ褒めていないのは伝わって欲しかったのだがそれも叶わない様で、彼女の半面から覗く口元は試合前と同じくニコニコしてらっしゃる
「普通はこっから感想戦みたいなんもするんじゃが
即効でカタぁ付けられたけぇ何も言う事がねえわ!ほんま申し訳ねぇ!
あ、最後の囁きは割と癖になりそうでした。対ありでした!」
「やぁん、お兄さん気持ち悪いなあンフフ
感想戦言うなら、私もちょっち聞きたい事有るんやけど」
「…どうぞ?」
内心を吐露するならば
初心者相手にイキって、その結果惨敗した身としては今すぐログアウトしたいのが本音だったりする。
が、一応マナーというものも有る。今すぐ穴を掘って埋まりたくても礼を尽くして戦った相手を蔑ろにしてはいけない
むっちゃこの場から離れたいですって顔には出すが…
まあ目の前の女性はお構いなしに口を開く
「最初、なんで矢ぁ避けれたんかなーって。
スキル?みたいなん使うてもこっちが撃つタイミングなんかは伝わらん筈やんか」
「ああー……あれ何で避けれたんじゃろね」
相対速度的には割と奇跡と言って過言じゃないレベルでギリギリ一矢は避けれた
というかそれしか避けれてないし碌に捌けていない。
スキル云々以前に人としてのスペックの差を思い知らされた試合だなと改めて思い知らされる
いや、多分これに気付いたのは試合中…というか矢を撃たれる直前
「あのまま行ったら多分そのまま、終わりそうな気がしたからなあ」
あ、こいつ斬れるわって判断を下した薩摩マンを思い出したのは黙っておこう
そもステータスも碌に育ってない今でこれなんだからこの女性も末恐ろしい
そんな事を思っていると、視界の隅に通知が浮かぶ
「……『boring bow』さん?」
「は~ぁ~い」
来ていたのはフレンド申請
見覚えも聞き覚えも無い差出人の名前を読み上げると、目の前の女性が上機嫌に返事をした
断る理由もないので承認こそするが……
「別に今回みたいに直接人に挑まんでも誰とでもやれるフリーマッチやら有るけど?」
「アハー、おおきにぃ
でもお兄さんとはまた戦いとぉて」
「うーん、試合内容的に素直に喜べねえなこれ…?」
次会う時はゲームのスキルにも慣れ、サブ職も付いてるだろう
最悪メイン職すら変わってる可能性もある
これだけの対人戦のセンスの持ち主を相手に満足させれるかは正直自信がないが
「まあ次は勝たせて貰うわ、絶対油断しねえ」
「アハァ、楽しみにしとくわぁ……あ、友達が呼んどぉから、今日はこの辺で」
「ういうい。」
どうやら件の友達に呼ばれたらしい
女性がパタパタと控え室から出る…直前にこちらを振り返って
「お兄さん、次は本気で相手してぇな?」
ほな。と言って出て行った彼女の背中を見送って
ゆっくりと俺は床に座り込んで、そのまま横になって
「死にてぇ~~~~~ぃ」
こっちでもリアルでも両手で顔を覆って口から長い長い溜息が出た
試合内容も情けなかった。情けなかったがその上に、相手に手加減…いや、言い繕わなければナメプしてたのがバレていたのだ
恥の上塗りどころかコンクリでがっちり固められてるレベルで生き恥を晒していると言って良いだろう
「でもなぁ…初心者って子を囲んで棒で殴るのも違うってぇ……」
顔を覆ったまま、誰ともなく言い訳をする
こういう時、普通に相手するというのが難しいのだ
ドールメイカー、という職は……
【試合が終わった女の話】
「『藻製毬藻』さん、か…変な名前」
さっきの部屋から少し離れた場所でフレンド欄に追加された名前を確認する
思い返すのは先程行った試合の内容。
あの男は特に得れるものが無かったと思っている様だが自分の感想は違う
フルダイブ型のゲームというもの自体が初めてで、触れた弓矢の感触は現実のものと遜色なく思えた
弓を引いて撃つ、何も持ってない手でその動作をこの場で行えば現実の感覚とほとんど変わりなく行える
強いていうなら動作が少し窮屈に感じる位だが
「矢も思うた様に飛ぶ…飛んだ。のに」
試合の内容を思い返す
完璧なタイミングで、現実と変わりない、いつも通りの所作で矢を撃った、
これは当たると確信が有った、経験で分かっていた、いつも通り的に当たって、これで仕舞かと諦観が有った
しかし……
「避けられたなぁ……んふふふふふ」
思わず口元がふにゃふにゃになってしまうのが抑えられない
アバターで目元こそ隠しているが口元の緩みは隠せないのは分かっている
だからあの場から自分は逃げた。友達に呼ばれたなんて嘘まで吐いて
言い訳になるが初めてだったのだ
自分が
的を狙って矢を放ち、当てるだけの才能が自分には有った
手を伸ばし、触れるのと大差ない認識で当てれるものと当たらないものも分かってしまう
今の時代であれば何の役にも立たず…更に言えばなんの達成感も無い退屈な呪いが自分にとっての弓矢だった
だがそれも、つい先ほどまでの話だ
(はしたない女と思われてへんかなあ…えらいぶきっちょな殺し方してもうた)
あの試合、結果こそ自分の勝ちだが内容には自分も納得が行ってない
自分だって確実に当てれると放った矢を結局当てれなかったのだ
弓を引いて、矢を放つ
徒手のままその動作を、先程の試合をなぞる様に行う
視線の先には
空想の上の自分の矢は確実に当たる筈なのに
「…アカンわぁ、このゲーム」
生まれて初めて自分の才能を超えられた
自分の中で一瞬とは言え的に成り下がった相手に、自分の常識を塗り替えられた
「んふ、ふふっ…ふふふふ」
抑えようとしてもどうしても笑ってしまう
せわしなく、その場で跳ねてしまう
悔しさも有るがそれ以上に嬉しいと思って
自分の矢が当たらなかった
自分が当てたいと思える的が出来た事実に
次こそは、またこの次も……
「
『藻製毬藻』
ソール教官に脳を焼かれたドルメディン
クラフト中は暇なので他人の試合を見にしばしば闘技場を訪れている。
本来のプレイスタイルはドール達に火力を任せ自分は的になりつつ状態異常武器を投げ付けるのだが、初心者相手には流石にそんな真似は出来なかった
結果惨敗どころか生き恥を晒す
『boring bow』
最低限自分に使えそうな弓スキルくらいしか取ってない初心者、愛称はボリさん
並外れた弓の才能とまだ飲めないアルコールへの耐性を天から与えられている様な奴
例のモヒカンとの再戦は割とすぐ叶ったが「眉間撃ち抜きたいわぁ」と口を滑らせ、むっちゃ警戒される様になった。結果試合には勝てても眉間だけは守られる日が続く。
現実と違って胸当て無しで弓を射れる事が割と嬉しいらしい