射る、当たる
射る、当たる
自分のイメージ通り体を動かし、弓を引いて矢を放つ
矢は手から離れても体から伸びていく感覚
上手く説明出来ていないがつまるところ自分にとって矢とはそういうものなのだ
的に向かって手を伸ばす様な感覚で、当たる様に打てば当たる、文字通りの当たり前
現実と同じ様に
ただ違うのはあちらの世界では的が人で、飛ばした矢を受け止められもすれば切り払われたり、避けられたりもする
そもそも動かない的を相手してきた方が長いのだ
それでも撃つ瞬間に相手が対応出来るか否かは分かる
相対する者と視線が合う瞬間もあれば、既に放った矢を受けた所を見てしまう者、攻撃など何するものぞと距離を詰めてくる者、矢を切り払い既に次の動作に移っている者、こちらの射る動作を見て回避する者
短い期間に様々な敵に矢を放った 様々な的に手を伸ばした
当たる、当たる、当たる、当たらない、当たる
全て射る瞬間にわかる
手を伸ばせば敵にこの矢が届くのか、動く的に自分の
だからアレが初めてだったのだ
自分があの世界で矢を放ったことそのものもだが
動くだけの的に過ぎないと思った物が、予想を裏切って自分の手をすり抜けたのも
「ンフフ」
思い出し笑いが漏れたのを弓道部の後輩に怪訝そうな顔で見られた
何でも無いよと言いながらも一度思い出したらそれからの事も思い出してしまう
あれから何度も何度も勝負を挑んだ
それと同じ数だけ勝利を重ねた
等身大の人形を操り、指示を下しながら向かってくる自称聖騎士様*1
実力としては明らかに自分が上、人形の修理費が嵩むと言いながらも付き合ってくれる彼は悪い人では無いのだろう。
たまに修理パーツの素材の狩りを手伝っているが盾役は彼自身がするから後ろから矢を打つだけで良いので楽な物だ。
それで人形を修理して、また戦って
その度に彼の体力を削り切って勝利をもぎ取って
「なんで勝てんのやろなあ」
自然と出た言葉を弦音がかき消してくれる
何度も挑んだ、何度も狙った
あの的を、彼の額を、初めて狙って外したその場所を
狙っては避けられ、或いは防がれ、逸らされて
そして最後は彼をボロボロにして終わってしまう
そう、何度やっても彼は頑なに自分の額だけは守り抜いている
偶然などではなく何度狙っても、何度当てれると確信して矢を放とうとそこだけは死守される
次の矢をつがえ、遠くの的を見据える
こう撃てばこう当たる。イメージするのは簡単であとはそうするだけ
慣れた動作で弓を引き
「アレに当てたらどんなお顔するんやろ」
もしもあの的が彼の額であるならば
その顔は驚いているだろうか、それとも突っ込んでくる時の顔であろうか、或いは別の事に意識を割いてしまっているか
いや
いや
きっと……
---タンッと乾いた的中音がした
それは彼女のイメージ通りに当たり
それは彼女がイメージ出来ない表情であった