世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
「はァ……、はァ……、ゲホッ、ゴホッ」
「チッ……楽しい時もこれで終わりか」
ペッと唾を吐き捨てる勇次郎。その顔には不満の文字がありありと浮かんでおり、この決着に納得を示していない事が分かる。
血を吐きながら膝をつく私にはそれに対して何かを言う事も出来ない。
足を肩幅に、両手がゆっくりと上げられる。
彼の背に浮かんでいるのであろう鬼が、キチキチと音を立てて鳴いていた。
「最後だ。俺の全力、味わってから逝け」
「ひゅ、ひゅっ、ゴホッ……っアアアッ!!」
悲しそうな顔で呟く勇次郎。まるで友を今からこの手に掛けるような、そんな寂しそうな声だ。
それを聞いた瞬間、私は立ち上がらなければと思った。
こいつは私と同じだ。私と同じなんだ。独りなんだ。
なら、せめて私だけでも共感を示してやらなきゃいけねェだろッ!
未だ口の端からは血が零れている。死が近付いている。
それでも尚立ち上がった私に、勇次郎は嬉しそうに、まるで子供のように無邪気に笑った。
目の前にあるのは断頭台。死の確定したそれに、それでも私は構えた。
刹那、拳は振るわれた。
迫る
なんでこうなったっけなァ……
そんな私の思いは、脳裏を過ぎってゆく数多の走馬灯に押し流されていった。
——— ———
場所はアメリカ、グランドアリーナ。
試合の終わりを告げるゴングの音が、高く鳴り響いた。
何処か遠くに聞こえるそれを感じながら、目の前で
「一撃ッ! 正に紫電の如き一撃ッ!」
「強いッ、強すぎるッ! 仮にもチャンピオン戦まで無傷で上がってきた男に対して一撃でKO!」
「またやったッ! この男がまたやってくれたッ! これで世界統一武術大会10年連続チャンピオンッ! 彼が、彼こそが世界最強の男だァッッ!!」
なぁ親友。俺達、もう20年以上の付き合いになるか。
蹲ったまま動かない男を見下ろしながら、そんな男との思い出をぼうっと思い出していた。
小さい頃、僕はいじめられっ子だった。
特にいじめられていた理由はない。強いて言うならクラスの他の子供よりも体が小さく弱そうに見えた事が理由だろうか。母親が早々に死んで片親だったというのもあるのかもしれない。
唐突に殴られ蹴られる。大きさも考えずに石を投げられる。掃除をした後の汚水を掛けられる。持ち物を隠され壊される。自分達がやった事を僕の所為にする。
善悪を知らない子供の無邪気さとは恐ろしいもので、精神的に摩耗した僕は次第に引き籠りになっていった。
子供であるが故に世間の広さを知らず、いじめによってこの世の全てに絶望し恐怖していた僕。
そんな僕を見かねて外に連れ出したのが僕の父であった。
何処に行くかも知らされずに車に乗せられ、着いたのは球状の巨大な建物。
中に入れば、中心にある四面にロープが張られた四角形のリングとそれを囲う様にして無数の座席が並んでいた。
父が良く興奮しながらテレビで見ていたからすぐに分かった。
ああ、ここ格闘技の会場なんだって。
殴られ蹴られ。
実際に暴力を振るわれた事があるからこそ分かる痛み。
それを止めもせずただ傍観される悲しみ。
いじめの象徴。
そんな事を堂々とやろうとする神経が、そしてそれを傍から見るという行動が俺にはまるで理解出来なかった。
帰りたがる僕の手を掴んで引き止める父。
トラウマがぶり返してきていた僕はそんな父に怒りを向け、されど何処か悲しそうで、何処か必死そうなその顔に思わず暴れるのを止めていた。
傷の残る自分の顔を見るのが嫌で家中の鏡という鏡を叩き割ってから見ていない自分の顔。
かつて見たそこに映る顔と、目の前にあるその顔が似ていたから。
なんで僕を虐めるんだよ、他の奴だっているだろ、なんで誰も止めないんだよ。
誰か……誰か、僕を助けてくれよ。
必死だった。必死に助けを求めた。必死に行動した。
そんな行動も実を結びはせず、諦めきっていた時の僕の顔。
冷や水を浴びせられたような気持ちになり、大人しく腕を引っ張る父に従った。
まだ諦めておらず、されど諦めが強く浮かんだその顔に、酷く憐れみと一筋の希望を感じてしまったからだ。
この格闘技の一試合をもって、父が僕に何かを魅せようとしていたからだ。
案内された椅子に座り、渡されたパンフレットを眺める。
パンフレットには褐色の肌をした筋骨隆々の大男と、うっすらと筋肉こそ浮いてはいるものの、大男と比べれば貧弱さを感じる白い肌の男の写真が写っており、それぞれのアピールポイントや煽りなどがデカデカとした文字で記載されていた。
どうやら大男はケリー、白い肌の男はジェイクと言うらしい。
その写真を見た瞬間、もう試合の結果を予測できてしまった。
ケリーの殴りでジェイクがダウン、そのままK.O。
何処かで見たような景色、ただのいじめ。
そんな予測は実際に会場に出てきた両者を見ても変わらない。
見える未来はジェイクの白い肌が青く染まり、血を流して倒れ伏す姿だけ。
ぶり返し始めたトラウマに体が震え、ふとジェイクと目が合った。
思わず心配の目を向ける自分に、彼は一瞬呆けたように目を開閉させ、僕を安心させるかのように薄く笑ってウィンクを飛ばしてきた。
両者がリングに入り、ゴングが鳴る。
それと同時にケリーが大きく右腕を振りかぶりジェイクへと殴りかかった。
殴られて大きく吹き飛ばされるジェイク、そんな景色を見たくなくて目を閉じる。
ゴスッと鈍い音が響き、体が震えた。
ああ、だから嫌だったんだ。
分かり切ってた事じゃないか。
体が強い奴には勝てないんだよ。
そうして恐怖で体を縮こませて震える僕の体を父が揺さぶる。
見ろ、見ろ! と必死に声を掛ける父の言葉に、嫌々ながら目を開いた時、僕の目に映ったのは倒れ伏すジェイクではなく、膝をつくケリーとファイティングポーズのままケリーを見下ろすジェイクの姿だった。
後で父が買ったVHSビデオテープを見た時に初めて知った事だったが、ジェイクはケリーの右の大振りを肌に掠らせるように避けた後、ケリーの顎を擦る様にして左のフックを放っていた。
顎に加えられた衝撃で脳を揺らされたケリーは立つこともままならず膝をついたのだ。
とはいえ、恐怖で目を閉じていた僕がそんな事を知る筈も無く。
自身よりも一回りも二回りも大きい相手に容易く膝をつかせるその姿は、まるで本で見た英雄のように見えていた。
フラつきながらも立ち上がったケリーとジェイクの戦いは第二ラウンドまで続き、結局最後まで少しフラついた様子のケリーをジェイクが殴り倒す形で決着はついた。
試合の後、僕は一つの事を決め、父に相談した。
格闘技を学びたいと、圧倒的な強い男にも勝つジェイクの様な男になりたいと、そう思ったのだ。
そうして格闘技の門を叩いた所で出会ったのがお前だったな、親友。
ジムの中で大人を差し置いて最強の地位に立っていたお前は、常にビクビクとしていた僕に声を掛けて一緒に強くなろうと言ってくれた。
実際に恐怖で体が竦み、上手く動けなかった僕に手取り足取り、技の一つ一つを出来るまで教えてくれた。
強面の道場破り達が来た時にも毅然とした態度で立ち向かって撃退していたし、僕が大会で勝つ度にまるで自分の事のように大喜びしてくれた。
僕をいじめていた奴らが現れた時には、僕がトラウマを克服していじめっ子達を自分の力で撃退出来るようになるまで傍に居て励ましてくれた。
父が死んだ時には、泣くのを我慢する僕の代わりとでも言うかのように泣き喚き、それに釣られて結局二人して大声を上げて泣きじゃくった。
強くなるんだ。その覚悟として僕が一人称を変えた時には、そっちの方が似合ってるぜ! と言って何度も言わせようとするから、俺が拗ねて慌ててた事もあったな。
なんでこんなに良くしてくれるんだ、って聞いたら俺達親友だろ? って言ってくれたよな。
あの時は嬉しくて、思わずボロボロに泣いちゃったっけ。
そんな彼との戦いも次第に俺が勝つ回数が増えていき、勝った数が負けた数を上回り始めた頃、俺は俺の始まりであり、夢でもあるジェイクとのマッチを組んでもらえる事になった。
俺は狂喜乱舞した。
当然だ、相手は俺が格闘技の道に進む理由となった人なのだから。
実際、ジェイクは強く優しくファンサービスも厚く、このまま行けば世界王者の座も狙える、国を代表するスターとまで謳われる存在なのだ。
そんな彼と俺が戦える!
嬉しくて、嬉しくて……
だからこそ、そんなジェイクをあっさりと倒してしまった時、俺の中で何かが崩れた。
あれ、こんなもんだっけ?
ジェイクは強くて……俺の憧れで……
なんで俺はそんな彼を見下ろしている?
呆然と立っていた俺は、ふと気が付いた。
ジェイクに見られている。
こちらを見上げる彼の目は、理解出来ないものを見るような、いつか見た鏡の中の瞳と酷似していた。
俺には才能があった。
才能が有り過ぎたのだ。
俺は強くなりすぎてしまった。
意図せずして、スポーツである格闘技が、いじめになってしまう程に。
克服した筈のトラウマが、すぐそこに立っていた。
一日も休まず通い続けたジムをサボった。
国民的スターのジェイクをいとも容易く倒した俺を見る恐怖と怒りの視線が怖くて、また引き籠った。
こんな力があるからいけないんだと食事を抜き、体を弱めようとした。
全く落ちる気配のない筋肉に、才能に生かされているのを感じて、なおさら絶望した。
もう手を引いてくれる父はいない。
憧れであったジェイクは最早色褪せてしまった。
もう、いいや。
そう思い自殺しようとした俺を殴って止めたのがお前だった。
少し落ち着こうと近くの河川敷に連れていかれ、一緒に星を見上げた。
なんで自殺なんて馬鹿な真似をと聞かれたから、抵抗する気も起きなくて正直に全部話した。
そしたらお前は、唐突に立ち上がって戦おうって言い出したんだ。
ここ一年の俺の勝率は100%。
そうでなくとも今の俺は拳を握る気が起きない。
そう言う俺にお前は無理矢理殴りかかってきて、俺は仕方なく迎撃した。
殴り殴られ、蹴り蹴られ。
結果として先に倒れたのは俺で。
負けるなんて微塵も思ってなかった俺は倒れたまま動けなくて。
そんな俺に向かって、お前は言ったんだ。
俺がお前のライバルになってやる、って。
幼い頃のお前の憧れが色褪せたなら、今の俺が色付けてやる、って
嬉しかったなぁ……
まぁそんな事を言っときながら、その二か月後にお前引っ越しやがったんだけどな。
それでも、新聞やテレビでお前の活躍は聞けた。
ライバルが頑張ってる、なら俺も頑張らなきゃって思えたんだ。
順調に勝ち上がり、世界という海に飛び込んだ。
そんな世界でも俺は強かった。
流石に無傷とまではいかなかったものの、無敗の男として名を馳せた。
勝ちに勝ち進み……そうして世界統一チャンピオンの座にまで至った。
いつかライバルが来てくれる。
いつか俺を倒しに来てくれる。
立ち続ける俺を見上げる視線を積み重ねながらも、俺はそれに期待して待ち続けた。
二回連続優勝し、三回、四回。
この頃から頂点が変わらない事に焦り、俺を殺そうと刺客を差し向ける連中が現れ始めた。
そんな刺客すら軽く撃退し、五回、六回、七回。
現れないライバルに、果たして彼は本当に来てくれるのかと不安になり始めた。
八回、九回。
今まで目を逸らしてきた視線が、無視できなくなってきた。
もう、精神的に大分参っていた。
少しでも気を緩めれば、視界の端にこちらを恨めしそうな顔で見つめる骸と目が合った。
なんでお前だけ。化け物め。そんな俺を呪う怨嗟の声が聞こえてくる。
常に懐に精神安定剤を忍ばせないと満足に動けもしなくなった。
もう、我慢できない。
早く来てくれ……親友。
そうして、俺がチャンピオンになってから10回目の世界統一武術大会が始まった時、トーナメントにお前の名を見た。
来てくれた。
ああ、やっぱり俺にはお前しかいない。
さあ、俺を越えてくれ。
ライバル。
……
……
……
……なのに、これはなんだ?
試合開始から2秒、嬉々として殴りかかった俺の拳を受けて蹲る彼。
10カウントはとうに過ぎており、試合は終わっている。
担架に乗せられ、運ばれていく彼。
おい、行くなよ。
何してんだよライバル。
俺はずっとお前を待ってたんだぜ?
行くな、行くなよ……
「親友」
担架に運ばれたまま、かすかに見えたこちらを見る彼の表情。
いつか、鏡の中で見たものと同じ顔をしていた。
小さな瓶を持ったまま、ベッドに座り込む。
もう、何も考えたくない。
今まで目を逸らしてきた視線が、俺に突き刺さっている。
もう、頑張れない。
心の支えはもういない。
もう、いいだろ?
色褪せた視界の中、瓶のフタを外す。
ああ……嫌な人生だったな。
そんな思いを、瓶ごと呑み込んだ。