世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
一つ目の課題を達成してから一週間。
契約の日まで残る日数は13日、もはや二週間すらもない。
しかし、そんな中で俺は特に焦りというものを覚えてはいなかった。
「すぅー、ふぅー」
その理由として、一ついい鍛錬方法を思いついたのだ。
切欠は鞭打と道場中のガラスを叩き割った技、それがどのようにして行われているかを絹代が知りたがったこと。
特に技の秘匿性を気にしないタイプである俺は、それらの技がどちらもイメージによって成り立っている技であると、やり方などの諸々を含めて全て教えた。
すると、それを聞いた絹代はこう言ったのだ。
『イメージを現実に持って来れるという事ですか?』
結局イメージはイメージでしかなく、そうだと脳を騙しこんで腕を振るだけの技なので、その場では否定して終わった。
だが、ふと思ったのだ。イメージを現実に持ってくる事が出来れば、良いトレーニングになるのでは? と。
思い出すのは、超音速を出すための多関節のままに鞭打をしようとして、脳と体に齟齬が発生して激痛が走ったこと。
つまり、
それを利用して思いついたのが、今からやろうとしているトレーニングだ。
方法は単純。強者をイメージして、その想像上の強者とスパーリングをすること。それだけだ。
「すぅぅ……、はぁぁ……」
多関節で叩きつけて脳と体に齟齬が起きて激痛が走るのなら、想像した強者に殴り殴られた時も、殴られたと認識した脳と痛みを感じない体で齟齬が発生して相応の激痛が走る筈だ。
そうして圧倒的強者と相対した時の戦い方を体で覚える。
そうしてこの弱い体で圧倒的強者を倒す方法を探るのだ。
翁には徒手という条件付きとはいえ、手加減なしで10回やって1回負けるかどうかまで技術を身に付けた。クソ野郎は生存特化型で初めっから俺の方が強い。男衆はクソ野郎よりも更に弱く、絹代やニンジャ達は論外だ。
もう近くに俺よりも圧倒的に強い者がいないのだ。目標に出来る相手がいないのだ。ならば自ら作り上げるしかないだろう。
「すぅぅぅぅぅぅぅ……」
イメージするのは最強の自分、
自らの顔、肉体、服装をイメージしろ。
思い出せ。俺はどんな顔をしていた? どこの筋肉をどれだけ鍛えていた? どんな服装を好んでいた?
目の位置は? 鼻の形は? 口のつり上がり具合は? まつ毛と眉毛はどう整えていた? 頭の大きさは? 髪型は? 耳たぶはどれほど垂れていた? 額の広さは?
ある程度頭部を再現出来たら次は体だ。
胸筋はどれだけ張っていた? 鎖骨の深さは? 腕の太さは? 腰のくびれは? 太もものハリは? 脛はどれだけ浮いていた? 足のサイズは?
肉体の想起もある程度完成したならば服装へ。
イメージするのは試合のユニフォーム。上半身は裸のままで、側面に青いラインの入った白いズボン。裸足のまま歩き、手にはミサイルの描かれた特性の黄色いグローブ。
脳裏に浮かびあがったのは、新聞で見た事のある試合後の俺の姿。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」
さぁ、完成だ。
目を見開き、目の前に佇んでいる筈の俺の幻像をみる。
……されどそこには何も無く、何もいない。
「……いや、まだだ」
俺の前方約10メートル。
そこには何も無く、誰も佇んじゃいない。
だが、確かに何かを感じる。何もない空間に、何かを感じる。
ただの気のせいかもしれない。だが、確かに俺は何かを感じているのだ。
もしかしたら、イメージが足りていないのかもしれない。
既に関節を増やす想像ならば、千を超えて万に到達するほどの多関節化が出来る程に想像はしている。だが、今回は既にある骨にイメージというテクスチャを貼るのではなく、完全に0から1を想像している。
恐らくはその差が表れているのだろう。
しかし、どうするべきか。
イメージは既にした。頭の中にはこれ以上無いほど鮮明に、死んだ顔をした男が映っている。
頭の中でこれ以上想像をした所で、ここからの進展は無いだろう。
「シャドーでもしてみるか……?」
シャドー。
目の前に戦いたい対戦者を想像し、想像の攻撃を躱し、想像の隙を縫って攻撃。ひたすらそれを繰り返し、疑似的なスパーリングを行うトレーニング。
所詮、今やろうとしている事のスケールダウン版のようなものだ。
俺はまだ姿形を想像するに留まっており、実際にそれが動く所を想像出来ていない。
もしかしたら、それが想像上の俺が目の前に現出しない理由なのかもしれない。
このトレーニングさえ確立出来れば、俺は今までにないほどに成長できる。
その為に出来ること、試せる事は全て試さねば。
つま先に重心を置き、足は前後の自然体。
体は必然的に半身。こうする事で相手から見える面積は狭まる。
前の肩は顎をカバー。相手は顔を打ちづらくなり、良い障害物となってくれる。
利き手も顎の横。発射に備えて握りは緩く。
前に出した手は攻守を兼備し、
輝夜の体に合わせた構えではない、前の俺のファイティングスタイル。
今の俺には脂肪の塊である胸が邪魔をし、体の柔らかさが却って構えを崩してしまう。いっそ、手をぶらんと垂らしたままの方がマシなほどに壊れてしまったスタイルだ。
されどその構えのまま体勢は崩さず、思い出すように一つ一つゆっくりと技を出していく。
パンチ。
ただ握った手を突き出すだけのそれ。それを想像上の自分にやり方を教えるように、ゆっくりゆっくりと行う。
脇を締めて後ろ足で床を蹴り、足・腰・上半身の順に連動させながら、顎を引きつつ真っ直ぐに拳を突き出す。
反対側の手でも同様に筋繊維の一本一本の動きにまで意識を張り巡らせ、拳を突き出して引き戻す。
一発ごとに10分以上掛けて行われるそれは、途轍もない疲労を肉体に生じさせる。両手のワンセットを終える頃には、それだけで既に汗だくになっていた。
前を見れば何も無かったそこに、白い靄のようなものが見えていた。
未だに形を持たぬそれ。されど先ほどとは違い姿を持ったそれに、このアプローチは間違っていないのだと確信する。
ストレート、ジャブ、フック、アッパー、ナックル、ハンマー*1、ダブルスレッジ*2、ジョルト*3、ボディーブロー、コークスクリュー*4、肘打ち。
行えば行うほど鮮明になっていくその姿。
されど上半身しか現れてはこないそれに、パンチだけではもはや足りないと判断する。
キック。
自分の身体の直線上に足を置き、反対の足は股関節を伸ばすように後方へ。つま先立ちになって手を前に出し、身体のバランスを取りながら足を膝から上げる。パンチの時とは逆に上半身・腰・足の順に連動させながら、相手の胴に脛が来るように足を伸ばして振り抜く。
反対側の足でも行われるそれは、片足立ちというのもあり、パンチの時以上の疲労に襲われる。
下に下げようとする重力に逆らって長時間上げる作業。左右のワンセットが終わる頃には既に生まれたてのバンビの如く足が震えていた。
それでも、確かに薄ぼんやりと浮かび始めた足に、これでいいと再度構えをとる。
お前の下半身にはこういう物が付いているんだ。それを使えばこういう技を振るえるんだ。
それを一つ一つ、赤子に物事を教えるかの如く、技を振るっていく。
ハイ、ミドル、ロー、カーフ*5、ブラジリアン*6、前蹴り、内回転蹴り、外回転蹴り、膝蹴り、捻り蹴り*7、踵落とし、二段蹴り。
振るえば振るうほど、想像上の俺は明瞭になっていく。
二段蹴りを終える頃にもなれば、そこにはファイティングポーズを取りながら、じっと俺を見つめる
「一先ずは成功、か」
姿は完全に創造出来た。俺の想像上のイメージに過ぎないとはいえ、確かにそこには一人の最強が立っていた。
さて、次の問題だな。はたしてこの想像によって形作られた俺は、果たして脳と体に齟齬を起こせるのかどうか。
そこが上手くいかないとどれだけ鮮明にイメージ出来たとしても、結局ただのシャドー止まりだからな。
それじゃあ試してみるか。
行くぞ、俺。
構えを前の俺の物から、今の輝夜に合ったものへと変える。
そして一歩踏み出し、俺の腕が僅かに動いたのが見え……
——— ———
「……ん、あァ……?」
「あ、起きた!? 大丈夫ですか輝夜様!?」
いつの間にか閉じていた瞼を開く。視界には上下が反転した絹代が映っており、その顔には心配と歓喜が混ざった表情が浮かんでいた。
絹代の顔の下には二つの膨らみがあり、俺の頭の下には柔らかな感触がある。
上下が反転した絹代にこの感触。なるほど、膝枕をされているのか。
……何故?
ボヤーッと霞む意識に痛む頭を手で抑えながら上体を起こし、周りを見渡す。
場所は想像するのに集中したいからと、誰もいない時間を見計らって入った道場。人は俺と絹代以外にはおらず、俺が道場に入った時と殆ど変わりは無い。
一つ変化があるとすれば、それは床だ。
一言で言えば殺人現場。それも猟奇殺人だ。
そこら中に血が飛び散っており、それを辿ると壁や天井にまで届いているものもある事が分かる。
え、こわ……何があった?
思わずゴクリと唾を飲み込めば、途轍もない生臭さが吐き気を誘い、鉄臭さが喉を焼いた。
げほげほと
「うっ、ぅおぇえええええ……」
「か、輝夜様……」
「っぷぇ……っふぅ、ふぅ……」
体を丸めて口の中の異物感を吐き出していると、絹代に背中を撫でられた。
有り難くはあるが、それによって猶更吐き気が増してしまい、口内の異物感どころか胃液ごと内容物が口から排出されていく。
消化しきれなかった内容物が大量の血に紛れ、その比率が逆転する頃には吐き気は大分収まっていた。
涙でぼやけた視界に薬と水の入ったコップが差し出され、それらを受け取って一気に飲み干す。
それから約10分。
薬が効いてきたのもあってか、かなり楽になった俺は血で汚れていない床を探して、そこに寝転がっていた。
絹代は俺の吐瀉物や血を片付けており、忙しそうに走り回っている。
俺の後始末をさせている所悪いが、気になる事があるので声を掛けて手を止めてもらう。
「なぁ絹代。俺、何があった」
「……分かりません。輝夜様は何時もと違う構えでゆっくりと型を行った後、何時も通りの構えに戻しました。その直後、唐突に輝夜様が血を吐きながら後方へと吹き飛び気絶なされたのです。一体何が起きたのか……」
「いや、分かった。ありがとう絹代」
よく分かった。
つまり俺は負けたのだ。前の体の俺が行った攻撃の動作一つすらも見極められず、顔面にパンチ一発。それでK.O。
「なっさけねぇ……」
相手は俺だぞ? どのように体を動かして攻撃をするのか。攻撃の射程範囲は、癖は、付け入る隙は。そういった物をこの世で一番理解している俺だぞ?
なんなら、その一瞬前までこうやってやるんだと見本をその体で実践までしてたクセに。
たった一発? しかも見る事すら出来ずにK.O?
なっさけな。
「あっはっは、だっせェ~」
もはや笑いしか出てこない。
そして、やっぱ前の体の俺ってバケモンだよなぁ、とも。
まぁいちいちそれで落ち込みはしないけども。
むしろ、心を埋め尽くすのは歓喜だ。
実験は成功した。
イメージを現実に創造し、それに殴られた事で殴られたと認識した脳と、殴られていないと判断する体で齟齬が発生。結果、脳の判断が優先されて血をブチ撒けながら吹き飛び気絶した。
俺は、確かにイメージを現実にすることに成功したのだ。
「へへ、鍛錬が捗るねェ……」
ひとまずの目標は、一発でいいから前の体の俺の攻撃を捌くことだな。
一発K.Oはない。流石にない。