※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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原作では愚地VS勇次郎が初対面らしいですが、
あの格闘家狂いの御老公が、勇次郎と一切面識が無かったのか……? と違和感を抱いたため、独自設定タグの働きどころ。




第二十一話 徳川光成

 

 ぱちゃぱちゃという水が弾けるような音が聞こえて、目が覚めた。

 視界に映ったのは、見覚えのないウォールナットの木目天井。

 私の部屋の天井は明るいメープル色のため、まず間違いなく私の部屋ではない。

 

 ここ何処……? 何で私はこの部屋にいるの……?

 記憶を探ってみるが、答えは出ない。

 むしろ余計な記憶がポロポロと零れだした。

 

『ぁ……ぐすっ……すんっ……っふ……ひっく……』 

『んぁあ!? う、うしょっ、うそつき! いッ、イっちゃ……ぁぁあああああああッッ!?!?』

『イギだくな゙いッ!! あああああ!? もうやだっ、やだあああああっっ!? もうイギだくな゙いッッ!! ぎえる゙っ、わだじがッ、お゙れがぎえぢゃうがらぁぁあああああ!?!?』

『……挿入(い)れて』

 

「~~~~~~~!!!!」

 

 顔を手で覆って蹲る。

 耳たぶまで真っ赤になっているという自覚があった。

 火でも出たかと錯覚するほどに顔が熱い。

 

(私は一体何をしてんのよ……っ!)

 

 しかもあの後、勇次郎は興が乗ったのか何度も何度も私の中に精を吐き出して、その度に私は気をやって鳴いていた。

 勇次郎の支配下に置かれた組み敷かれる様な後背位。

 唯一怪我の無かった私の左足を肩に担いで側位。

 再び発作が起きた私の吐血すらも全てキスで飲み干しながら対面座位。

 そんな勇次郎に胸をときめかせられながら最後にまた正常位。

 その全てで最低一回は中出しをされて、最期の正常位で中出しをされた瞬間に意識のブレーカーが落ちて気絶。

 この部屋に来た経緯は知らないけど、ともかく今こうして目覚めたと。

 

(いやホントに何してんの私?)

 

 セックスで昂った結果、豹変して色情狂になるとか童貞じゃないんだから……処女だったわね。もう処女ですらないけど。

 ふと、顔に触れる手の感触に違和感を感じて手の平を見る。手には包帯が巻かれていて、曲がっていた指の形も綺麗に整えられていた。

 同じく、脛の途中からおかしな方向に曲がっていた右足にも包帯が巻かれており、綺麗に形が整えられている。

 流石に動かそうとすると痛い。だが処置自体は完璧に行われている。暫くもすれば傷も残らずに完治すると思う。

 勇次郎がやったのかしら?

 

「んっ、しょ……ひゃっ!?」

 

 左足を使ってなんとか立ち上がろうとする。

 左足をつっかえ棒にして体を起こし……ている途中で、股間の鈍痛に体勢を崩された。尻もちをつき、その衝撃で余計に鈍痛が激しくなる。

 意識してみれば、股間……というよりは膣が熱を持ち、違和感を発していた。異物感ではないのがミソだ。

 要は、私の体は勇次郎の肉棒を欲していた。起きたんなら足りないパーツをさっさと寄越せと訴えていた。

 処女だった癖に、色を知った途端にこのザマ。

 

 その事実に気付いてまた赤面し、黙りなさい小娘と一蹴して体を引きずる様にしながら匍匐移動する。

 明るく色付いたフスマに、今は朝なのだろうかと思いつつ、肘ごと体全体を動かしてフスマをゆっくりと開けた。

 フスマの先に広がっていたのは、一面に砂利が敷かれた少し広めの庭園であった。ド真ん中に広めの池と、それを渡れるように繋げられた橋が設置されている。片隅には、冬だというのに一面に緑を付けた木が立ち並んでいた。

 広さ的には、私の家の方が広いだろう。ただ、どちらが雅かと言われるとこちらの方だと言える。なんというか、イメージ通りの日本庭園といった感じ。

 

 そして、そんな池の前に小さな老人と黒服姿の男、絹代の三人が立っていた。それ以外にも気配を感じるけど、特に動く様子は無いし今は放置。

 視線を老人の方に戻すと、老人は手に持った何かを池に向かって放り投げていた。その度に池からぱちゃぱちゃと水が弾ける音が響く。

 魚かなにかに餌をやっているのかしら?

 

 フスマに身を預けながら三人をぼうっと見ていると、視線に気付いたのか黒服の男がこちらへと視線を向ける。

 老人の耳に何かを囁き、そして老人と絹代もこちらを向いた。

 私を見た瞬間に駆け出し、抱き着いてくる絹代。

 

「輝夜様っ、お目覚めになられたのですね!」

「うん、おはよう絹代」

 

 抱き着くと同時にすすり泣き始めた絹代の背中を撫でる。

 はいはいどうしたのー?

 

「私っ、輝夜様があんなに泣き叫んでいたというのに助ける事もせず……ッ!」

「あー……」

 

 その事に関してかぁ……ぶっちゃけ、その事について私はどうとも思っていない。

 あれは元々私と勇次郎のタイマンで、あれは敗者に与えられる当然の罰に過ぎない。指を一本奪いに行っただけといっても、結局は暗殺である事に変わりは無い。勇次郎にとっては命を狙われたのと大差は無いのだ。

 むしろ、命を狙った襲撃を返り討ちにされたのに命を奪われないだけ、あれはマシな結末と言える。

 

 加えて、私は敗者であり何をされても文句は言えない立場。なのに勇次郎は私を問答無用で犯す事はなく、私と絹代を守るという条件まで付けてくれたのだ。

 あのセックスはその対価。だから、絹代が私を守ろうと邪魔をしたら逆に困る事になっていた。

 どうやら絹代は、私を助ける事もせずに黙って見ていた事を悔いているらしい。けれど、あの場面ではむしろ黙って見ている事こそが最善の行動だったのだ。

 絹代は別に何も悪い事はしてはいない。

 あの情事を見られたと思うと恥ずかしくはあるけどね。

 

 勇次郎もなんだかんだで優しく抱いてくれたし。

 私の性自認を無理矢理壊そうとしてくるから、精神的な強姦ではあったけど。

 そういえば今の私の性自認ってどうなってるんだろう? 均衡が崩壊してる自覚はあるんだけど、どこまで男が消えたのかが分からないのよね。

 今も自然と思考が女性的になってるから、風前の灯火ってのは分かるんだけど。

 取り敢えず、今は泣いている絹代を落ち着かせるのが先決かな。

 

「気にしないで、私は大丈夫だから。むしろよく黙って見ていてくれたわ。えらいえらい」

「うぅ、ですが……」

「いいからいいから。それより、私は何時間くらい寝てたの? あとこの服は?」

 

 私は纏っていた着物の裾を抓んで絹代に聞いた。

 上から下に紺、青、水色でグラデーションのついた、特に柄などは無い着物。

 私はこんな着物を持っていないし、絹代は青系統の着物は着ないので絹代のものでもない。

 これは果たして誰の着物なのか。多分、あの老人関連だとは思うけど……

 

「それはここの女中のものです。あの黒無垢は……その、カピカピになってしまったのでクリーニング中です。それから輝夜様ですが、この家に来てから三日が経っています。なので、おおよそ三日ほど寝ていた事になりますね」

「三日!?」

 

 そんなに寝てたの私!?

 全開で体を動かした後に激しいセックスをして、加えて発作が2回。だから一日くらいは丸々寝過ごしたかなと軽く考えていた。

 まさかの三日かぁ……それだけ疲労が激しかったという事かしら。

 

「まぁいいわ、じゃあ勇次郎はどこ? あのお爺さんは誰?」

「勇次郎様は今出掛けておられます。あのご老公ですが、」

「よいよい、挨拶くらい自分でするわい」

 

 絹代の言葉を遮り、老人が口を挟んできた。

 

「ワシは徳川光成。この屋敷の主じゃな。勇次郎の知り合いといえばよいかの」

「あら、勇次郎の。そうだったのですね、お邪魔しております徳川さま」

「気にするでない。敬語もいらんよ。敬称もな」

「そうで……そう? ならタメ口でいくわね、光成」

「うむ、それでよい」

 

 私の返事に満足そうに頷く光成。

 二度三度と頷いてから、私の顔をジッと見つめだした。

 見開かれたままぎょろりと動く目玉が少し不気味だ。

 

「それにしても、美しいのぉ……動いとらん時は人形かと思うたが、動いとるのもこれはこれでええの」

「あはは……ありがとう、でいいのかしら……?」

 

 何か企んでるわね、このお爺ちゃん。

 別に敵意うんぬんを感じるとかじゃない。

 これは自惚れになるけど、私の顔を見てフリーズしない人間はそうそういない。

 護衛であろう黒服は握り締めた手の平から血が垂れている事から、痛みで我慢しているのだと思う。絹代に関しては見慣れてるから反応が薄いのにも頷ける。

 

 だけど、光成は違う。

 私の顔を見て。美しいと感じて。その上で割とどうでも良さそうにしている。

 美しい。けど美しいだけの女には興味はない。そんな人間が、私に興味を持った視線をぶつけて来る。

 そんなの、何かありますよと自白しているようなものだ。

 

 一応勇次郎の知り合いという話だから、そうそう襲われるような事は無いとは思う。

 ただ、何があっても大丈夫なように左足を動かせるようにはしておく。警戒を強めた私に黒服が目を細めた。

 私の警戒に気付いていないのか、光成が無防備に私の元へと歩み寄って来る。

 

「ところで……」

「……はい」

「勇次郎の指を折ったというのは本当か!?」

「……はい?」

 

 どこか興奮した様子で私の手を取ろうとする光成。その手を躱して、私は肩に入れていた力を抜いた。

 別に光成は何も企んでなどいなかった。単純に知り合いに怪我をさせられて、静かに憤っていただけなのだ。

 その事に気付いて、湧き上がってくる罪悪感。

 そりゃ知り合いの指を折られたら思う所もあるわよね。

 むしろ何でそこに思い至らなかったのよ私。

 

「ごめんなさい、確かに勇次郎の指を折ってしまったのは私よ」

「本当か!?」

「ええ、怒るのも分かるわ。当然の事だもの。けど処罰を下す前にまず勇次郎に会わせ」

「そこはどうでもいいッ!! 本当にお主が勇次郎の指を折ったのだな!」

「え、えぇ……」

 

 やたらと勇次郎の指を折ったかどうかを強調して聞いてくる光成に、意図が読めずに困惑してしまう。

 知り合いの指を折られたから憤っているという訳ではない……のかしら?

 どう答えればいいかが分からず、戸惑いながら頷けば光成は拳を握り締め、感無量といった様子でプルプルと震え出した。

 

「クゥ~~~ッ! 見たかったのぉその勝負ッ!」

 

 ……ああ、そういう。

 光成の言葉に、私は漸く合点がいった。

 要するに、光成は戦いという概念をこれ以上無い程に愛しているだけの老人という事だ。

 光成自身が戦えるという訳ではない。強者を見聞することが何よりも大好きで、その渇仰のためなら自らの命さえも惜しまないということ。

 三度の飯にも、知り合いが怪我をしたという事にも興味はない。その戦いを見たかったという方向にしか興味が向かない。

 つまり光成はある種のバトルジャンキー、重度の格闘技ファンという事だ。

 なんとなく、光成と勇次郎の関係性が見えた気がした。

 

「……聞きたいならその時の事を話すけれど……聞く?」

「聞くッ!!」

 

 わんぱくな小僧のように目をキラキラさせながら頷く光成。

 しわくちゃな老人の筈なのに、その様子がなんとも愛らしくて苦笑する。

 私の横に腰掛けて光成が手を叩く。すると今まで潜んでいた気配が動いた。

 フスマを開けて一人の女中が現れ、茶菓子の入った食籠を置く。その後に緑茶を点てて湯呑に淹れ、再びフスマの奥へと姿を消す。

 

 家主である光成がお茶菓子に手を出すのを確認してから、お茶菓子を抓む。

 花のような造詣をした茶菓子は、噛むと中から甘い餡子がまろび出て来た。

 口の中一杯に甘みが広がり、それらを少し苦めの緑茶で洗い流す。

 お茶も餡子も良いの使ってるわねコレ。

 

 ほうっ、と一息ついてから、私は勇次郎との出会いを語り始めた。

 

「まず、私は勇次郎を待ち伏せていたわ。そして暫くして勇次郎が現れて——」

 

 

 

 ——— ——— 

 

 

 

「最後に放たれる勇次郎のデビルパンチッ! 死を確信しながらも私は消力、剛体術、鞭打、マッハアタック。持てる全ての力を使い、それを勇次郎へと返す! こうして私は両手指が破壊され、反撃が顎に直撃した勇次郎はダウン! 共にもつれ合う様にして地面へと倒れ込んだ!」

「おおおおおおっ!」

「まぁ私は戦闘不能、勇次郎は片手指の粉砕骨折だから、私の完敗ではあるけどね。その後も色々あったけど……これに関しては話したくないわ。いいわね?」

「アッ、ハイ」

 

 すっかり冷めてしまった緑茶を啜り、一息つく。

 一つ何かを言う度に光成が過剰なまでに興奮してくれるから、ついついこちらの語りにも熱が入ってしまった。

 真上にあった筈の太陽が、今や傾きかけだ。

 

 それに気付くと、少しお腹が減っている事も自覚した。

 三日間寝たきりで、起きてから食べたのはお茶菓子くらい。その上でずっと休む事無く語り続けていたのだから、お腹が減るなんて当然の事ではある。

 けど、そんな事にも気付かなかった自分に少し驚いてしまった。

 熱中してしまった自覚はあったけど、想像以上に勇次郎との戦いを語る事に夢中になっていたらしい。

 

「それにしても、お主がそれほどに強かったとはの」

「結局負けたけれどね」

「いやいや、十分過ぎるほどじゃよ。勇次郎が何かを満足そうに見つめる顔など初めて見たわい。ワシではあんな顔はさせられなかったからの」

 

 背中を丸め、少し寂しそうに呟く光成。

 そんな彼を見て、私は湯呑を置いて彼の背中を撫でる。

 

「気にしないでいいのよ、光成。確かに貴方は勇次郎を満足させてあげられなかったのかもしれない。でも、それでもいいと思うのよ」

「む? どういう事じゃ?」

 

 首を傾げる光成に、少し自分の中で話を整理する。

 そして、これだなと思い話を続けた。

 

「勇次郎も、出来ないなりに勇次郎を満足させようと努力した貴方に感謝してるってこと。だって、勇次郎が私をここに連れて来たんでしょう? 私を預けるために」

「深夜に全裸のお主を抱えながら戸を叩いてきた時には、思わず腰を抜かすかと思ったの」

「ぜんっ……!?」

 

 まさかそれ精液塗れの状態じゃないわよね?

 絹代を見れば、少し気まずそうに眼を逸らされた。

 うそでしょ……

 

「~~~っ! ……はぁ、まぁいいわ。つまり、いざという時に頼ろうと思えるくらいには勇次郎は貴方を信用してるって事よ」

「あの勇次郎が……」

「ええ、あの勇次郎がよ」

 

 なんだか全てがどうでもよくなり、結論だけ話してさっさと会話を切った。

 茶菓子を無造作に口に放り込み、よく味わってから緑茶で流し込む。

 横目に光成を見れば、俯いて肩を震わせていた。

 言葉は無粋かと思い、静かにその背中を撫でてやる。

 

 そのまま暫くして、光成がゆっくりと顔を上げた。

 目元は赤く、されどその顔は自信に満ちた表情をしている。

 

「ワシは、今ようやっと理解した」

「何を?」

「天命じゃ。ワシに課せられた勤めじゃ」

 

 私をじっと見つめ、光成が言葉を続ける。

 

「結婚相談所じゃよ」

「……けっこ?」

「おお。世界中の戦いたくて、戦いたくて、戦いたくて戦いたくて戦いたくて仕方のない奴ら。そ奴らそれぞれに相応しき相手を用意する。それがワシに課せられた天命じゃ」

「あ、あぁ……そういう」

 

 真面目腐った顔で結婚相談所とか言い出すから、一瞬思考がフリーズしてしまった。

 つまり、勇次郎のように対等な楽しい戦いに飢えた人間同士を引き合わせ、満足するまで戦わせる。それこそが自らの使命だと言いたい訳だ。

 

「今回、ワシはそれをやり損ねた。お主というワシとは関係のない人間が勇次郎を満足させてしまった。天罰が下っておらんのが不思議なくらいじゃ」

「それでも、今まさに天命を理解したんでしょう?」

「おう! お主がそれを教えてくれた。次こそは必ずや、このワシの手であの勇次郎をも満足させて見せる」

 

 そう言う光成の顔に曇りは一点も無く、必ずやり遂げて見せるという意気に満ちている。

 辺りにパチパチと拍手の音が響いた。私ではない。絹代でも黒服でも、もちろん光成でもない。

 音のする方を向くと、そこには勇次郎が笑みを浮かべて手を打ち合わせていた。

 黒インナーに迷彩ズボンと草履ではなく、黒いカンフー着にカンフーシューズを着ている。

 烈もそうだったが、ダボッとしていて随分と着ていて楽そうな服だ。

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇの爺」

「! ゆうじろっ、きゃっ」

 

 思わず立ち上がり、勇次郎の元へと駆け寄ろうとして、右足に力が入らずにバランスを崩す。顔から砂利の庭園に落ちかけ、衝撃に備えて目を閉じた。

 しかし、私の顔に当たったのは砂利の粒粒とした感触ではなく、硬くて温かい人肌の感触。

 目を開ければ、転びかけた私を支えるようにして、勇次郎が私を抱き留めているのが見えた。

 

「おいおい、寝起きとはいえ自分の体の事くらい把握しておけ」

「ぅ……っぁ……」

 

 勇次郎が何かを言っているのが聞こえる。耳が上手く情報を集めてくれない。

 顔が熱い。耳まで真っ赤になっているのが分かる。勇次郎に感謝を告げようとして、されどわななく唇は言葉を紡いでくれない。

 目は勇次郎の顔に釘付けであり、少しだけ汗臭いその男らしい匂いに胎が疼いた。

 体が私の支配下に無かった。全ての意識が勇次郎を知覚する事にのみ向いており、それ以外の全てをシャットアウトしている。

 

「ふくく、べた惚れじゃの」

「チッ、揶揄うな爺」

 

 私の腰を抱いていた手が膝へと回され、私を横抱きにする。

 勇次郎の顔が少し遠ざかってしまう。代わりにとばかりに、顔を勇次郎の横腹へと押し付ける。

 先程よりも勇次郎の匂いを感じられて心地良かった。

 

「で、どうじゃ。家は満足したか」

「微妙だな。まぁ仮宿としては十分だろう」

「管理人は誰にするかの?」

「そこの女でいい。俺と輝夜は少ししたら別の家に移る。……おい、輝夜」

 

 ゆさゆさと揺さぶられ、何かと勇次郎を見やれば、片手で後頭部を掴まれて勇次郎とは反対方向に向けられた。

 視界に絹代や光成の姿が映る。絹代は少し驚いたような顔をして目を瞬かせており、光成は揶揄う様にくつくつと肩を震わせて笑っていた。

 そこで、ようやく思いっきり勇次郎に甘えていた姿を見られていた事に気付く。

 

「……ぅぁっ」

 

 恥ずかしさのあまり顔を手で隠す。

 光成が爆笑し始め、勇次郎が呆れたように鼻を鳴らしたのが聞こえた。

 勇次郎が私を抱き抱えたまま反転し、そのまま歩き出す。

 慌てた様に絹代がその後を追いかける。

 

「それじゃあ俺はもう行くぜ」

「ああ、ちょいと待て勇次郎」

「今度はなんだ」

「お主じゃないわい、輝夜じゃよ。のぉ、輝夜」

 

 名前を呼ばれて、勇次郎の腕越しにそちらへと顔を向ける。

 何時の間にか取り出していた煙管を咥えて、光成がにっかりと笑っていた。

 

「次に勇次郎と戦う事があったらワシを呼んでくれよ」

「……あったらね」

「絶対じゃぞ~!」

 

 笑顔で手を振る光成に、此方も小さく笑みを浮かべて手を振り返す。

 光成が見えなくなるまで手振りは続き、そのまま私達は光成邸を後にした。

 勇次郎が私を横抱きにしたまま黙々と歩を進める。後ろに付いてくる絹代の事を考えない大股歩きのため、少し絹代が大変そうだ。

 勇次郎の服を引っ張って絹代を指せば、何も言わずに少しだけ勇次郎の歩幅が縮まる。

 

 場所は大通り、時刻は人通りの盛んな夕方。

 存在自体が人目を集める勇次郎に、私の人外の美貌も相まって、老若男女に加えて動物の一匹すらもが余すことなく此方を見ていた。

 ……なんとなく、勇次郎以外に顔を見られたくなくてカンフー着に顔を埋める。

 暫く無言のまま、私は静かに振動に身を揺られていた。おおよそ20分ほど歩き、勇次郎が歩みを止める。

 

「ここだ」

 

 カンフー着に埋めていた顔を上げると、そこには小さな木造の家が二つ並んでいた。

 小さいと言っても一般的な家庭と同じくらいの大きさだ。普通に済む分には十分以上に良いと言えるだろう。

 これを見て真っ先に小さいという感想が出て来る辺り、屋敷や光成邸を見過ぎて毒されているなと自覚する。

 周りは植物で囲まれており、隅っこの方に蛇口が設置されていた。

 表札には何も置かれておらず、小さな窪みだけがある。

 

「ここに住むの? もしかして私と絹代も?」

「定住先があると俺としても守りやすいからな」

 

 そこに住んでる=そこを攻撃するになるからか。

 まぁ私の病弱さで放浪の旅とか言われても、それはそれで困ってたから有り難い。

 家の間取りを確かめてみると、片方が1K、もう片方が2DKだった。ちゃんと人数分の部屋もある為、三人で暮らすのはそう難しい事ではないと思われる。

 割り振りは勇次郎が1K、私と絹代で2DKだろうか。

 

「いえ、私が1Kの方です」

「え、なんで?」

「その……情事、なさるのでしょう?」

「あー……」

 

 特に胎に違和感などはないため、恐らくまだ妊娠はしていない。

 勇次郎との約束は子供を産むことの為、きっとまたセックスはする事になる。

 まぁ、それを隣の部屋で聞いているのは辛いものがあるか。

 

「そういう事です。そろそろいい時間ですので、私は料理に取り掛かりますね」

「材料は?」

「既に一通り入っていました。適当に軽くお作り致します」

 

 そう言って、絹代はパパっと山盛りの野菜炒めと生姜焼きを作り上げて大皿に載せた。

 味自体は可もなく不可もなく。大半を勇次郎に持っていかれつつも、お腹一杯になるまで食べた。

 意外と勇次郎の箸を持つ手が綺麗だった事が印象的だった。戦場ではあまり習う機会は無いだろうから、それ以前に学んだものだろうか。

 ぶっちゃけ、私よりも箸の使い方は上手かった。

 

 食事が終わった後、私は絹代に濡れタオルで全身を拭かれた。

 シャワーは傷に染みる為、暫くお預けらしい。

 私の体を拭き終わった後、絹代はそのままもう片方の家へと向かった。

 行く前に就寝の挨拶もされたため、恐らくはこのまま寝るのだろう。

 

 ガチャリと音がして、シャワー室の扉が開いて勇次郎が出てきた。

 シャワーから上がった勇次郎を見上げる。

 

「……する?」

「しない。今日はさっさと寝ろ」

 

 ぶっきらぼうにそれだけを言って、勇次郎は自分の部屋へと入って行った。

 その事に少し不満を抱きながらも、私の体を気遣ってくれたのだろうと勝手に納得する事にした。

 私の為に用意されたのだろう松葉杖を使い、私も自分の部屋へと入る。

 

 布団に横になれば、使い慣れた何時もの物よりも少し薄くて。その感覚がどうにも慣れなかった。

 目を閉じて、静寂の中で何もせず横になる。

 ……眠れない。布団が薄いのもそうだが、冬だから少し肌寒いのだ。

 かといって、部屋にはエアコンなどの設備は無い。

 どうしようか。

 

 悩み、悩み……私は布団から出た。

 松葉杖を使って立ち上がり、部屋から出てもう片方の部屋へと入る。

 イビキの一つも無く静かに眠っている勇次郎の横に寝転がり、腕に抱き着いて目を閉じる。

 それで目が覚めたのか、勇次郎はチラッと薄く目を開けて私を見た後、特に反応することなく再び目を閉じた。

 

 暖かい……

 使っている布団は私の部屋と同じ薄いものだ。

 肌寒さも、正直勇次郎に抱き着いたところでそこまで変わらない。

 けど、不思議と心が暖かかった。

 

 よく……

     眠れ……

         そ……

 

 

 

 ——— ———

 

 

 

 翌朝、目を覚まして。

 やけに暖かい股間の感触に、嫌な予感を覚えて布団を捲った。

 

 

 私は、真っ赤なおねしょをしていた。

 

 

 

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