※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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第二十四話 天津神直哉・前編

 

 木製の膳を踏み潰しながら力強く畳を駆け、直哉へと接近する輝夜。

 速攻を仕掛けた輝夜に対し、直哉は未だに座ったまま。

 明らかに動きに遅れを取っており、先手を取られてしまっている状態。

 にもかかわらず、直哉の表情に焦りはなく、むしろ涼し気に笑っている。

 

「せぇいっ!」

 

 迫る輝夜に、直哉が畳の合わせ目へと指を這わせた。

 爪を差し込み、指を引っ掛けて持ち上げる。

 完全に浮いた瞬間、その隙間に両手を差しこみ、一気にひっくり返した。

 畳返し。輝夜の視界を青緑色のゴザが埋め尽くし、視認性を潰した。

 直哉の姿が見えない。

 

「せあぁッ!」

 

 輝夜がしゃらくさいと、空中で体を回し、左足で畳ごと奥にある空間を蹴り飛ばす。

 勢いよく吹き飛んで行った畳は壁へと衝突。置かれていた高そうな壺を具に、壁とのサンドイッチを作りあげた。

 ゆっくりと壁と密着していた畳が床へと倒れる。

 そこに直哉の姿は無く、輝夜の視線は、既に畳へと向いてはいなかった。

 

 カカシの様に左足一本で立ちながら、上下左右を確認。

 部屋の隅で懐に手を突っ込んでいる直哉を視認した。

 瞬間、即座に左足の指をむき出しの床に食い込ませ、体を前に傾け……ようとして、ズッバァン! と雷のような轟音が鳴り響く。

 輝夜の足が止まった。

 

 見れば、直哉の手には一丁の巨大な銃が握られていた。

 輝夜の左足が置かれた場所から、約10センチほど離れた場所に、円形の黒い穴が空いている。

 弾痕であった。

 呆れたように輝夜が肩を竦める。

 

「前に見た時も思ったけど、サイレンサーを付けられる銃を使わないの? 暗殺者でしょうに」

「いんや、これでいいのさ。このブラックホークの破裂音が僕の来訪を告げる。この銃声こそが、暗殺者である僕のアイデンティティなのさ」

 

 スタームルガー・ブラックホーク。

 ピー(調)スメ(停)ーカー(者)とも呼ばれるリボルバー、コルトSAAを原型にしたシングルアクションのリボルバー。

 鑑賞用としての人気が高く高価なコルトSAAと比べ、このブラックホークは価格が安く、また耐久性が高くて使いやすい品だ。

 とはいえ、シリンダーが太いため、恐らく通常のブラックホークではなく、マグナム弾を使用できるよう、更に耐久性を上げたスーパーブラックホークだろう。

 どちらであろうと輝夜には変わりはしない。

 当たらないよう立ち回るだけだ。

 

「……ねぇ、一つ質問してもいい?」

「なにかな?」

「なんで、私に課題をさせたの? 狙いは分かるわ。勇次郎と私を交配させて、美しくて強い暗殺者が欲しかったんでしょ?」

 

 勇次郎の名を出した瞬間、どよめきの声が聞こえた。

 首だけを回してみれば、信じられない事を聞いたとばかりに、酷く動揺した表情を浮かべている男衆がいた。

 だがそれも当然とも言える。

 護衛を一人も付けず、病弱な人間を暗殺へ出向かせた。

 更にはその対象が、かの地上最強の生物たるオーガ。

 そして輝夜の、オーガが輝夜を孕ませる事を狙っていたという発言。

 むしろその反応こそが自然だ。

 

「……今の話、マジなんですかいオジキ」

「アンタ、可愛い一人娘を相手に何やってんすか!?」

「あー、今話してやるから黙れ黙れ」

 

 動揺のままに直哉を問い詰める男衆。

 それを手をしっしっと振って黙らせ、輝夜を見つめ返す。

 

「まぁバレてるから言っちゃうけど、地上最強の暗殺者が欲しかったんだよ。輝夜の美貌はそのついで。あればいいなって程度さ」

「ついででここまで私を計略に嵌めておちょくってたの? ふざけてるわね……で? なんで地上最強の暗殺者が欲しかったの? 戦力が欲しいってんなら、既に十分でしょうに」

「自分がいるからって?」

「違うわ。別に暗殺者を否定はしないけど、好んでる訳でもないもの。課題が無ければ、私は殺しなんてしちゃいないわよ。ただ、翁は既に引退しているとしても、あの男衆だって弱い訳じゃない。ある程度の依頼なら、彼らだけでも戦力としては十分に足りている筈でしょう?」

 

 相も変わらず左足一本で立ちながら、輝夜が首を傾げた。

 それを見て、直哉が嗤った。

 

「戦力が十分? 本気で言ってる? キ(・)ミ(・)ですらオーガクラスなのに? この世界で戦力を求めたらキリが無い。翁含めて戦力としては欠片も足りちゃいないよ」

「キリが無いなら求めなければいいじゃない。今の時点でも既にかなり裕福な生活は出来てるでしょう?」

「妥協してる時点で暗殺者としてはゴミ同然なんだよ」

 

 直哉が豹変したように輝夜を睨みつける。

 片手で銃を持ち上げ、無造作に発砲。

 輝夜は、即座に銃口と手の動きから弾道を推測し、放たれた弾丸を避ける。

 着くべき場所を見失った銃弾は、そのまま障子に穴を空け、どこかへと消えて行った。

 

「キミに分かるかい? 『黒鷹』の異名を誇った僕の栄光を。そして一度の依頼の失敗を機に、それが崩れるように地に落ちていった僕の気持ちを」

「栄光云々にはあんまり興味は無いけど……一応、私も強い人間が、対等な強い力を持った対戦相手が欲しいと思ったことはあるわよ」

「でもそれを実行に移そうとした事は無い。他人を無理矢理巻き込もうとまでは思っていない。やたらと臆病な目をしている上に、生温さが抜けていない。典型的な善人だ。決定的な失敗をしてきた事の無い人間だ」

 

 銃を下ろし、ローディングゲートを開ける。

 そして袖から2発銃弾を零し、一発一発手で込める事無く、シリンダーを回転させながら弾倉へと流し込んだ。

 ローディングゲートを閉め、撃鉄を起こす。

 視線の一つも向けない手慣れた作業。

 

「範馬勇一郎、知ってるかい?」

「名前からして勇次郎関連?」

「彼の父親だよ。これまた凄くってね。オーガに負けず劣らずさ」

 

 なんせ、範馬勇次郎の前にアメリカに勝ったとされている男だ。

 その言葉に、輝夜が眉をヒクリと揺らした。

 とはいえ、あの勇次郎の父だ。不思議という程ではない。

 輝夜が続きを促す。

 

「それで?」

「暗殺の依頼が来た。範馬勇一郎のね」

 

 当時、黒鷹の異名は裏では名立たるものであった。

 依頼達成率100%。

 どんな依頼でも達成し、怪我の一つも負わない死神と。

 国からも依頼をされるほど信用され、重宝されていた。

 そのため、こいつならば出来るのではないかと、範馬勇一郎暗殺の依頼が来たのだ。

 

「失敗したよ。死ななかったのは幸運だった。戦闘スタイルは君と同じ近接タイプ。相性が良かったのが幸いした」

 

 しかし、100%の称号が崩れた事に変わりは無い。

 加えて、範馬勇一郎への恐怖で当時の直哉はPTSDを患っていた。

 柔術に限らず、近接戦闘型の相手だと分かった瞬間、トラウマで逃亡。

 当然ながら依頼の失敗は重なり、国からの信頼は失墜。

 

「今や幹部格全員出払う程に大規模な癖に、報酬1500万なんてクソみたいな依頼が来る始末さ」

「……で? 強い暗殺者が欲しいって?」

「そうだッ! あの栄光を取り戻すッ! 黒鷹の異名は死んでいない事を思い知らせてやるッ! こんなクソみたいな依頼だけじゃなく、もっと良い依頼を回させるッ! その為に地上最強の暗殺者が必要なんだッ!」

「オジキ……」

「それならそうと言ってくれれば……」

 

 拳を握り締め、憤怒の表情を浮かべながら力説する直哉。

 そんな直哉に、男衆が同情するように言葉を掛ける。

 悔し気に俯いている彼らを見回し……輝夜が大きくため息を吐いた。

 

 

「…………で、それ嘘よね?」

 

 

「……あ、バレた?」

 

 おどけたようにペロンと直哉が舌を出す。

 カチンッ、と男衆が固まった。

 直哉が首を傾げる。

 

「割と迫真の演技だったと思うんだけど……何でバレたの?」

「黒鷹の異名を取り戻すのに、貴方以外が黒鷹をやっても意味は無いでしょ。それに、例え自分の子供に黒鷹の再生を望むとしても、近接型の私と近接型の勇次郎で子供を作ったって、望む子が出来る可能性は低い。なら、外野で才能のありそうな子供を探す方が、よっぽど手っ取り早く確実よ。……それに」

「それに?」

「アンタみたいなクズに唐突に熱血になられても信用できる訳ないでしょ」

「あはは、そりゃあそうだ!」

 

 冷たい視線を送りながら、そういう輝夜に、こりゃ一本取られたと直哉が腹を抱えて笑う。

 目に浮かんだ笑い涙を拭い、再度直哉が語り始めた。

 

「まぁそうさ。黒鷹の再生になんか興味はない」

「で、本当の目的は?」

「範馬の血を絶やす事さ。黒鷹の異名はもうどうでもいい。けど、それを貶めた範馬は殺したい。勇一郎も、勇次郎もね」

 

 おどけた様に笑いながら、そう言う直哉。

 しかし、その言葉に込められた殺意は本物であり、それこそが真の狙いだと察せられた。

 なるほど、と輝夜が一つ頷く。

 

「私が勇次郎を殺せれば、そのまま範馬を絶やさせに行かせる。失敗して孕んでも、範馬の子供が範馬を絶やすと」

「そうそう。持ち帰られたなら、妊娠するまで待機してね。犯されなかったなら、それはそれで強いと評判の所に政略結婚させて子を得る。再起不能になればそれでも構わない……って計画だったんだけどねぇ……まさかヤリ捨てされるとは……」

「もう一度言いましょうか。……目論見が外れて残念だったわねぇ?」

 

 口角を上げて煽る輝夜に、直哉が無言で発砲した。

 輝夜は顔を傾けて、容易くそれを避ける。

 直哉は苛立ったように鼻を鳴らし、リボルバーの撃鉄を起こした。

 

「まぁいいさ。一番良い所は駄目になったけど、輝夜の美貌なら引く手数多だ。もう反意を抱けない様に調教してから出荷してあげるよ」

「いいの? 彼らが聞いてるけど」

「いいさ、元より入れ替えようとは思ってたんだ。その方法が円満か死かの違いさ」

 

 後ろ手に男衆を指差す輝夜に、どうでもよさそうに答える直哉。

 男衆は未だに、信じられないというような表情で固まっていた。

 ……未だに、行動の一つも起こせないような程度の練度であった。

 いや、一人だけ動いている。

 実鹿角(みかづの)左之助(さのすけ)だ。

 

「……今の話、マジなんすかオジキ」

「マジだよー、マジマジ。そもそも君ら依頼の失敗率高すぎ。弥助もそうだったけどさ、暗殺対象がちっこい女の子だったからって何? 皆に慕われるシスターだったからって何? それが殺さない理由になんの? 裏切る理由になんの? 別に性根が善人寄りなのはいいけどさぁ、お前ら暗殺者なんだけど?」

 

 リボルバーを肩に担ぎ、呆れたようにため息を吐く直哉。

 正論だ。暗殺者が依頼でターゲットを殺さないのはおかしい。確かにそれは正論だ。

 だが、それは人情というものを、ハナから切り捨てている暴論でもある。

 直哉の言葉に、左之助は無言で懐から短刀を取り出し、鞘から引き抜いた。

 

「弥助の死因は、依頼先でトチったからって俺に言いましたよね? ダチが帰ってこないんですが、アイツどうなりましたって、そう聞いた俺に」

「言ったね。暗殺対象が病弱な女の子だった。特に悪い事をしている訳でもない。お嬢を思い出して辛い。殺せない。そう言って裏切ろうとした。トチってるでしょ?」

「その時点では死んでないじゃないですかッ。アイツの本当の死因……まさかッ」

「うん、僕が殺したよ。脳天一発ね」

「クソがあああああああッッ!!!」

「えっ、ちょっ、バカッ、無策で突っ込むんじゃっ!?」

 

 直哉は懐からもう一丁のリボルバーを取り出し、輝夜へと向けた。

 既に手に持っていた方のリボルバーが左之助に向けられる。

 ダダァンッッッ!!!

 同時に発砲されたそれ。

 

 左之助は、咄嗟に心臓の前へと短刀を構え、それを盾に銃弾を弾く。

 短刀にヒビが入りつつも弾いた弾丸は、されど左之助の左足に食い込んだ。

 左之助が崩れ落ちる。

 

 左之助の愚行を止めようと、左足に力を入れて前傾姿勢になっていた輝夜。

 首元へと迫る弾丸、弾道は分かっている。

 しかし体勢が崩れているために避けられない。

 浮かび上がる景色、遅れる視界。走馬灯。

 次々に浮かぶ景色を邪魔だと退かす。

 遅れた世界で銃弾を対処する。

 

 銃弾。

 ものによっては分厚い鉄板すらも貫くそれ。

 しかし、実は割と結構あっけなく軌道を変える。

 人体に潜り込めば、骨に当たって曲がる。

 空気の壁に当たれば、衝撃で弾身を揺らされ。

 あまつさえ、1ミリ以下の薄さしかない植物の葉に当たるだけで、それの向きに合わせて斜めに飛んで行く。

 真っ直ぐは飛ぶ。

 しかし、障害物に当たれば斜めに逸れて行く。

 であるならば、弾いて斜めに飛ばせばいい。

 避けられないなら弾けばいいッ!

 ある意味当然の思考であった。

 

 走馬灯の中にありながら、素早く飛ぶ弾丸。

 輝夜はその横腹へと、斜めに傾けた指を添えた。

 回転するそれに、皮膚の表面が削られる。

 薄皮一枚を削りながら、レールの様に指の腹を滑り……右斜め上に飛んで行った。

 天井を貫き、姿を消す銃弾。

 

「ッッップハッ!? ハッ、ハァッ……!?」

 

 緊張の糸が切れ、床に手を突いて深呼吸をする輝夜。

 しかし、このまま深呼吸を繰り返して、呼吸を整えている暇はない。

 相手はリボルバー、装弾数は6。

 左右合わせて、まだ9発もあるのだ。

 顔を上げ……されど、直哉は銃を輝夜へと向けてはいなかった。

 呑気にリロードをして懐に仕舞い、もう片方のリボルバーにもリロードをしている。

 まだ弾は弾倉に込められている筈なのに、何故か行われるそれ。

 隙だらけの姿。

 

「シヤァッ!」

 

 床を蹴って直哉へと迫り、頭へと叩きつけるように左足を振う。

 それを直哉は頭を下げる事で避け、膝のバネを活かして跳躍した。

 天井へと足をつけ、再度跳躍し、部屋の反対側まで逃げる。

 

「チッ、相変わらず逃げ足だけは速いわねッ」

「猫を参考に鍛えたからね」

「黒鷹なんでしょアンタ!?」

「この銃を使い始めてからはね。それ以前の異名は黒猫だったよ。どんな情報も抜き出してしまう凶兆ってね」

 

 凄いよー、猫は。

 そう言って、何故か猫の強みを語り始める直哉。

 

 曰く、彼らの強みは瞬発力。

 猫の瞬発力が発揮されるのは、獲物が射程圏内に入った後、獲物を捕らえるまでの僅かな時間。

 どれだけ短時間で最高速に達せるか。相手との距離をゼロにできるか。

 それが、彼らの狩りの成否を分ける。

 そのスタートダッシュの主役は、後肢の爆発的なパワー。

 これに着目して、猫を目指して鍛えてきたのが直哉であり、そうして鍛え上げた全てを逃げる事へと費やしているのだと直哉は告げる。

 

「へぇ、逃げる事しか出来ないの?」

「逃げる事は大事だよ?」

 

 挑発する輝夜に対し、直哉はきょとんと首を傾げる。

 

「逃げれるって事は機動力があるって事さ。追い詰められれば逃げれる、逆に相手は逃げられない。不利な位置からの脱出も早い。移動が速いから包囲もされにくい。相手の隙を見つけたら即突っ込んで即逃げられる。機動力は高ければ高いほど良い。軍事の基本だよ?」

「悪いけど、軍事のセオリー云々には興味が無いのよ。逃げ足が速いだけのゴキブリさん」

「確かにゴキブリも速いけどね。猫にはそれ以外にも特徴がある。柔らかく、そしてしなやかな身体さ」

 

 直哉が、手を顔の横に上げた。

 猫の背骨の関節は、とても柔らかい。

 反り返って寝ているかと思えば、今度は起きて逆に背骨をアーチ状に曲げてあくびをする。

 ただ瞬発力があるだけでは、すぐにスタミナが切れ、疲労困憊に陥ってしまう。

 猫の強みとは、瞬発力があり、尚且つしなやかな体で疲労を少なくしながら、更に加速が出来る事にある。

 

「そして、そのしなやかさを目指し続けた結果がこれだよ」

 

 そう言って直哉が挙げた手の指を動かす。

 指の一本一本が、それぞれが生きた蛇のように動き回る。

 手の甲に着くほど反り返っているのもあれば、互いに絡み合っているものもあるほどだ。

 確かに凄い技術ではあるものの、絵面としてはとても気持ち悪い。

 

「そして、これが出来ると……こんな事も出来る」

 

 直哉はリボルバーを腰に据え、もう片方の手は添えるように乗せた。

 まるで剣術の居合のポーズ。

 それを銃でやるという奇妙さ。ふざけた構え。

 しかし、直哉の顔からおふざけの色が消えたのも事実であった。

 

 同時に、輝夜は理解した。

 先程弾倉に弾が残っていた筈なのに、何故リロードをしたのか。

 それはこのためだったのだ。

 

「前にも見せたね。あの時は全部逸らしてたけど、今のその怪我をした手で出来るかな?」

 

 直哉はそう言って、腰を捻りながら、居合の様に構えていたリボルバーを、輝夜目掛けて抜き放った。

 

 リボルバーは、二種類存在する。

 シングルアクションと呼ばれるものと、ダブルアクションと呼ばれるものだ。

 それぞれ、リボルバーの発射作動を表現する語句で、銃の構造に違いがある。

 昔の西部劇などに登場するリボルバーは、大体がシングルアクションだ。

 構造が単純で手入れがしやすい分、いろいろと扱いづらい点もあった。

 

 その一つが発射の作動。

 1発の弾を発射するためには、撃鉄を上げて、引(撃)き(鉄)金(を)を(落)引(と)く(す)と言う動作が必要で、連射の時にはこれを繰り返さなければならないということ。

 これがひたすらに面倒なのだ。

 通常は親指で撃鉄を上げ、人差し指で引き金を引く。

 だが、コンマ何秒を争う抜き撃ちや連射の時には、発射まで時間がかかるため、両手を使って撃つ。

 結果、出来上がるのが、西部劇などでよく見る抜き撃ちのあのポーズだ。

 

 銃のトリガーを引き、撃鉄が薬莢を打ち据えて着火。

 これで一発目。

 即座に、空いたもう片方の手の平を滑らせて撃鉄を弾き、リボルバーの弾倉を回転。

 尚且つトリガーは引かれたままなので、即座に弾かれた撃鉄が跳ね返り、二発目の薬莢を着火させる。

 これで二発目。

 

 こうして、本来連射の出来ないリボルバーで連射をする技術の事を、俗にファニングショットと言う。

 世界一早打ちの速い男であるボブ・マンデンの連射を見れば分かるが、上手いファニングショットは本当に一発分の音しか聞こえない。

 それほどの高速連射。

 なお、これを手の平ではなく、親指と薬指で行うことで、最初の一発に加えて二連射、合計三発の弾丸を放つ、ダブルファニングという神業も存在する*1。

 

 そして、直哉の行うファニングショット。

 放たれた弾丸は……6(・)発(・)。

 

 五指全てで行われたファニング、クインテット・ファニングショット。

 居合のような構えは、自由自在に動き回る指は、全てこの為のものだった。

 超神速連射のための予備動作。

 一分の隙もなく、0.1秒未満で放たれた六道の矢。

 当然ながら、これはもはや技術とは呼べない。

 絶技、勇次郎の披露したドレスにも並ぶ奥義だ。

 

 だが、実は輝夜はこれを一度凌いでいたりする。

 依頼から帰還した疲労困憊の直哉を狙って仕掛けられた、輝夜による奇襲。

 これは逃げきれない。殺される。最高級のカードを失うのは惜しいが、この際仕方がない。

 そう判断した直哉が咄嗟に行った。

 

 その時の輝夜は、走馬灯によって視界の速度が遅い中、迫る6つの弾丸を指の一本一本を駆使し、弾丸の側面へと鞭打を放つ事で、指を犠牲にしながらもなんとか生き延びた。

 加えて、今回は事前に一発だけとはいえ、弾く予習も出来ている。

 弾速も、鞭打に込めるべき力も、当てるべきタイミングも全て分かっているのだ。

 故に、輝夜は今回も同様に行い、放たれた6発の弾丸を弾く。

 

 左の人差し指で一発目を弾く。

 薬指で二発目を逸らした。

 次に右の親指で三発目を弾き。

 中指で四発目を凌いだ。

 

 ……しかし、これで終わりである。

 左手の親指と中指と小指。

 右手の人差し指と薬指と小指。

 勇次郎の手によって粉砕されたそれぞれの指は、輝夜の意思に反して一向に動きやしない。

 弾けなかった二発の弾丸が、輝夜の両足の太ももへと食い込む。

 

「ギィッ、ァッッ……!?」

 

 襲い来る灼けるような激痛、自然と崩れ落ちていく体。

 しかし、まだ終わりではない。

 まだ直哉には、予備の二丁目がある。

 手に持っていたリボルバーが捨てられ、懐から取り出されるもう一丁。

 再度、居合の構えへと移行する直哉。

 繰り出される第二波。

 

 輝夜は激痛に倒れながらも両手を掲げ、四発の弾丸を弾いた。

 再び弾けなかった二発の弾丸が、今度は両手の上腕部を撃ち抜く。

 四肢を撃ち抜かれ、もはや起き上がる事すらも出来ない輝夜が地を這う。

 弾丸が貫通した傷跡からは血が流れ、艶やかな着物を赤く染め、畳を鮮血で汚していく。

 

 

「さてさて、どうやら勝負ありみたいだね」

 

 

 

 

*1:
因みに、ファニングショットで有名な次元大介のコンバットマグナムは、実はダブルアクションである。

発射する時、人差し指で引き金を引く事で撃鉄が上がり、引き金を引ききると撃鉄が落ちる。

これにより、引き金を引く片手の動作のみで弾丸を発射でき、その構造上、引き金を引いたままで撃鉄を上げることが出来ない。

つまりはファニングショットも出来なかったりする。

カッコいいからあんま気にならないけど。




 
黒鷹=9.6親友

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