※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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放華ってなんだよぉぉぉ……ッ!
独自設定バンザイ。




第二十八話 ラーメンこずえ

 

 オンボロな、ラーメンを売っているのだと思わしき小さな屋台。

 勇次郎の足は既に止まっており、それが目的地なのだと言外に告げていた。

 本当にここでいいのかと不安になり、勇次郎を見上げる。

 自分の頬がヒク付いているのが分かった。

 

「……これが?」

「ああ、これがだ」

「……本当に?」

「俺を疑うかァ?」

「……行きましょうか」

「うむ」

 

 どこか楽しそうに屋台へと近付いていく勇次郎。

 両手は私で塞がっているため、頭をそのまま暖簾(のれん)の下に突っ込み、持ち上げるようにしてくぐる勇次郎。

 

「邪魔するぞ」

「あぁ、いらッ!? しィ……ゃいま!? …………」

 

 屋台の店主は、少し筋肉の盛り上がった、マッチョと言っていい男であった。

 髪を手拭いで纏め、白いTシャツにジーンズを履いている。

 腰には前掛けをしており、そこにも店名であるラーメンこずえの文字が書かれていた。

 軒先の提灯と同じく、大分崩れた文字である。

 

 彼は、まず勇次郎を見て固まった。

 思わずと言った様子で僅かに漏れた戦意は、彼がボディビルダーや趣味で体を鍛えている人間ではなく、立派な闘士なのだと告げていた。

 彼を見て、少しだけ感じていた不安が増す。

 もしかして、勇次郎の嗅ぎ取った匂いって、美味しいご飯じゃなくて、上(つ)手(よ)い餌(敵)だったんじゃないだろうなと。

 私の不安を余所に、店主は勇次郎から目を逸らした。

 客に喧嘩を売る様な真似はしないと、そう言うかのように。

 そして、次に私を見て固まった。

 

 圧倒的な人外の美貌を誇る私を見て、心から美しいと感じたのだ。

 まるで芸術作品でも見たかのように目を細め、心からの感動を見せていた。

 されど、彼はすぐに私から目を逸らした。

 客をまじまじと見つめるのは失礼と、そう言うかのように。

 そして、最後に絹代を見て固まった。

 

 絹代を見て固まった理由自体は、私を見た時と同じだ。

 彼女を見て、美しいと感じて胸を震わせた。

 だが、そこに含まれた物は、明らかに私の時とは違う。

 彼の瞼から覗く瞳には、確かな熱があった。

 何より、私や勇次郎の時とは違い、客を見つめるのは失礼だと目を逸らさないのだ。

 

「……へぇ?」

 

 面白い事みっけちゃった。

 屋台の味がどうこうはもはや後回しだ。

 もう既に、私の興味は其処には無い。

 

 絹代を見れば、視線には気付いているのか、微かに笑みを浮かべながら店主を見つめ返していた。

 こちらもこちらで、まんざらでもなさげである。

 もしも、この屋台がここで固定開店しているのなら、ちょくちょく絹代を連れてくるのもいいかもしれない。

 初めて会った者同士でこの反応なら、もう何度か会わせたらもっと面白くなりそうだ。

 私がニヤニヤと笑いながら見ているのに気付いたのか、絹代が真っ赤になりながら顔を逸らす。

 

 そんな私達のやりとりを気にもせず、勇次郎が私を椅子に座らせた。

 勇次郎自身も、その隣に別の椅子を移動させて、腰を据える。

 椅子に座った私は、されどバランスのバの字も無く、前後左右にフラフラと揺れていた。

 足にロクに力が入らないために地を掴めず、腕が持ち上がらないために体勢を維持出来ない。

 倒れそうになる度に、腹と背中の筋肉を稼働させて体勢を整えているため、地味に疲れる。

 

 そんな私に気付いた勇次郎が、私がいる方の手をカウンターに置いた。

 体重を掛けるでも、特に何をするでもないそれに、これに寄り掛かれと言ってくれているのだと察する。

 その好意に甘えて、肩をぺったりと触れ合わせるようにして寄り掛かった。

 うん、楽。

 

 メニューは何処かな、と見回せば、屋台の壁に小さな木板が3つ取り付けられているのが見えた。

 それぞれ、醤油ラーメン700、ビール300、日本酒350と書かれている。

 ついでに言えば、その木板の下にはサイズ特+200、並、小-200の文字もあった。

 横目にそれを見た勇次郎が、店主を呼ぶ。

 

「おい大将」

「……あ、な、なんだい!?」

「ラーメンを3つ。2並特1、日本酒1」

「私も飲むわ、日本酒は2ね」

「すみません、ラーメンひとつだけ遅めに出して貰えますか?」

「お、おぉ……並2特1、並一つ遅出し。加えて日本酒2ね。ちょいと待ってな」

 

 勇次郎の注文に私も一つ酒を加え、私の面倒を見る為か、絹代がラーメンの遅出しを頼む。

 注文を受けた店主が、慌しく調理の準備を始めた。

 2つのざる*1を用意し、片方に一個、もう片方に二個麺の塊を入れて茹でていく。

 その合間に、キャベツの漬物が私たちの前に出され、私と勇次郎の前には追加で透明な液体の入ったコップが置かれた。

 ウォッカやジンのように、コップの反対側が綺麗に透けて見えている。

 これが日本酒か。

 

「酒は?」

「前はワインとビール、あと蒸留酒を少し飲(や)ってたわね。今は無いわ」

「なら気を付けろ、日本酒はキツいぞ」

「そこまで?」

 

 絹代が漬物を箸で掴み、私に向かって差し出してくる。

 それを口に受け入れて噛めば、シャキシャキとした心地よい咀嚼音が鳴った。

 うっすらと感じる塩の風味が、舌を楽しませてくれる。

 ポリポリと口の中の漬物を咀嚼していると、絹代が日本酒の入ったコップを差し出してきた。

 縁に唇を付けると、僅かにコップが傾けられ、それによって日本酒が口内に流れ込んでくる。

 お試しの意味も込めてか、少量だけ流し込んだ後、すぐに絹代はコップの傾きを直してテーブルに置いた。

 

 口を僅かに窄め、息を少しだけ吸う。

 ビールのような苦みは無く、またワインの様な酸味も無い。代わりに感じるのは、ツーンとした辛さだ。

 歯茎のほんの小さな隙間にまで入り込み、肉を焼いて行かれてしまうかのような、そんな辛さ。

 耐え切れずに呑み込めば、今度は喉を焼きながら胃へと流れ落ちていく。

 体の中を一瞬で煮え滾らせるような、いっそ痛みすら感じる程の辛さ。

 それを耐え、耐え、耐え抜いた時。心地よさすら感じる清涼感が鼻を突き抜けていった。

 

「んぅ~~~~~!!!」

 

 うん、結構キツいけど美味しい。

 美味しいけど、少し辛すぎじゃないこれ?

 それとも日本酒って全部こういうのなの?

 少量口に含んだだけなのに、もう体が熱くなり始めている。

 アルコールが回り始めている証拠だ。

 

「どうだ」

「美味しいけど、辛いわね!」

「美味いと感じられるならマシだ。合わん奴はとことん合わん」

 

 そう言う勇次郎は、慣れた様子で漬物を齧っては酒を口に含んでいた。

 もう一度絹代に漬物を貰い、日本酒を飲ませてもらう。

 今度は先ほどよりも、少しだけ量を多く口に含む。

 口の中で転がして楽しみ、飲み込む。

 んんぅ~、辛いわ。美味しいけど。

 

「……お客さん」

「ん?」

 

 日本酒を楽しんでいると、店主が声を掛けてきた。

 何か用かと視線を向ければ、店主の視線は私の体に向いていた。

 とはいえ、性的な意味ではない。心配の目だ。

 

「その体、どうしたんですかい」

「あー、ちょっとやっちゃってね。粉砕状態。マトモに持ち上がりもしないわ」

 

 店主からの質問に、特に考えず答える。

 すると店主は僅かに考え、私にそれを言う。

 

「少し、手に触れても? 多少楽になるかもしれません」

「ん、いいわよー」

 

 屋台の奥から、店主が出て来た。

 そしてそっと私の腕に触れると、何やら拳を握り締め始めた。

 ただでさえ太かった筋肉はパンプアップし、浮き上がった無数の野太い脈が血流に合わせて鼓動する。

 

「むんっ、むむむっ……」

 

 脈が腕だけでなく、顔や体にまで浮き上がり始めた頃。

 ふと、ドクドクンッ、ドクドクンッ、という不思議なリズムを感じた。

 同時に、腕に感じていた痛みが少しだけ和らいでいる事に気付く。

 一切持ち上がらなかった腕が、僅かにだが持ち上がる。

 

「これは……」

 

 店主に触れられた所から、波のように不思議な暖かい感覚が広がっていく。

 それと同時に、常に生じていた体の痛みが溶けるように消え始めた。

 原理がまるで分からない。いっそ魔法と言われても信じてしまいそうなそれ。

 思わず目を見開いて凝視していると、それを見ていた勇次郎がポツリと零した。

 

「仙道か」

「仙道?」

「まぁ似たようなものですね」

 

 勇次郎曰く、仙道とは中国の内丹術を中心とした、仙人に至るための修行法なんだとか。

 呼吸法や歩行法、食事の選び方に住居の定め方、房中術(セックス)とさまざまな方法があり、それらを精を零さないように修行する事で仙人を目指すらしい。

 この場合の精とは、そのまま精液や絶頂であり、要するに射精や絶頂は禁止という事らしい。

 そうして、禁じない禁欲の果てに至った仙人は、空を飛んだり、水上を歩いたり、千里を見通したり、忍術を使ったり、猛獣を平伏させたりと様々な能力を得るのだそう。

 

「思ったよりも凄いわね、仙人。ニンジャよニンジャ」

「以前から思っていたんですが、輝夜様のその異様な忍者推しはなんなんですか……?」

「あはは……これは花を咲かせるだけの、なんて事は無いものですがね」

 

 名は放華(ほうげ)。

 体の中を流れる血液を操作して心身を脈動。

 気の流れを操り、疑似的な生命エネルギーを生み出す事で花を咲かせるのだとか。

 ここで言う花に限度は無く、そこら辺の雑草から、葉の抜け落ちた季節外の樹木まで、何でも咲かせるらしい。

 今私にやって見せたのはその応用で、生み出した生命エネルギーを相手に分け与える事で、回復を促しているのだそう。

 

「ほぇぇ、十分仙人じゃない仙人! 凄いわねぇ」

「おれはまだ、小さい花くらいしか出来ない未熟者ですがね」

「でも……凄いと思いますよ」

「え、そ、そうですか?」

 

 絹代の言葉に照れくさそうに頭を掻く店主。

 途端、ピリリリリッ、とタイマーの音が鳴った。

 慌てた様に店主が屋台に戻り、ラーメンの具の準備を始める。

 

 それを見送りながら、試しに自分でも放華とやらをやってみる。

 もしこれが出来れば、多少なりともこの病弱な体もマシになるかもしれない。

 少しだけ楽になった腕に力を入れ、血流を操作する。

 自ら興奮状態を作る事で血流の流れを速め、浮かび上がった細い脈を指で抑える。

 押しては放して、押しては放してを繰り返して、先ほど感じた店主のドクドクンッ、という鼓動に近付けていく。

 

 トクントクン、トトットクン、トクトトクン。

 近付いている。確かに近付いている。

 しかし、どうにもこれではないような気がする。

 確かに店主から感じた鼓動に近付いているのに、まるでエネルギーを感じない。

 先ほど感じた、風呂に浸かっているかのような、そんな暖かい感覚が無い。

 

 もしかして、鼓動自体はそこまで関係ない……?

 個人個人に、それぞれ最適な気の流れとやらがあるとか? ……あるんでしょうね。そう考えた方が自然。

 でなければ、血流を操作するだけで、誰でも放華が使える事になってしまう。

 誰でもは扱えない。すなわち、扱えない理由があるということ。

 

「……そもそも、気ってなに……?」

 

 根本の時点で分かっていない。

 放華は気の流れを操るのだから、気の概念を理解していなければ扱えないのは当然のこと。

 しかし、私はその気がなんなのかすらも分かっていない。

 これでは習得出来る筈もない。

 むむむと呻る私に、勇次郎が口を挟んだ。

 

「中国武術における気とは、万物の構成要素とされている」

 

 風が吹けば気流を感じる。

 近くに人が居れば、気配や人気を感じ。

 自然を眺めた時に、そこにある生気を感じる。

 性的興奮を覚えれば、それは色気を感じている事になり。

 何かをやろうとすれば、気力を感じている事になる。

 

「お前の消力(シャオリー)で言えば分かりやすいか。力の流れを感じ、気体の如く受け流す。お前は既にその身で気を知っているわけだ」

 

 そう言って、日本酒を口に含む勇次郎。

 その顔は緩んでおり、どこか楽しそうだ。

 もしかして、私が放華を習得できるかを楽しんでいるのだろうか?

 それを肴に酒を飲んでいると。

 

「さて、体だけでなく頭でも気を理解したな。イケるか?」

「……やってみる」

 

 正直に言えば、少し複雑な気持ちだ。

 自分が真面目にやっている事を、傍から茶化されているような気分になってくる。

 けれど、勇次郎は私には出来ないとは言わなかった。止めもしない。手伝いもしない。

 ただ、持てる知識を教えただけ。その知識だって、全く核心には触れていない。

 でも、そんな勇次郎の顔には確かな期待があった。

 出来ると思ってるんだ。私ならこれぽっちの助力でも、十分開花させられると。

 なら、期待に応えなくっちゃね。

 

 目を閉じて、少しだけ動くようになった四肢に力を込める。いや、込めない。

 先ほどの力を入れて放華を放つというのは、あくまでも店主が放華を扱うための準備行動。

 幾ら私が同じ事をしたって、永遠に放華を扱えるようにはならない。

 さっき、勇次郎も言っていた。味を感じるのに大事なのは嗅覚。残りの4つはむしろ邪魔。

 この場合、大事なのは私の感覚のみ。店主を見て感じたものに、引っ張られてはいけない。

 目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。

 

 消力。

 極限まで脱力し、ありとあらゆる衝撃を受け流す究極の守り。

 体を貫く衝撃を肉体を通して流し、別の場所にそれを押し付ける。

 体を流れる気を肉体を通して流し、別の場所にそれを流し込む。

 こうして考えると、割と放華と消力は原理が似ている。

 

 正直に言えば、未だに私は気という物を理解出来てはいない。

 理解出来てはいないけれど、先ほどの暖かい感覚こそがその気である事は分かる。

 傷に纏わりつくように残っている暖かい感覚を、全身に流していく。

 手の指先から腕へ。腕から肩へ。肩から胸へ。胸から腹へ。腹から腰へ。腰から足へ。

 足まで行ったら、今度は上げていく。足から腰へ。腰から胸へ。胸から首へ。首から頭へ。

 血流の流れに沿って、少しずつ温かい感覚で全身を満たす。

 

 放華とは生命エネルギーを作り出し、それを増幅させるものの筈だ。

 でなければ、生み出せば生み出すほど使い手は衰弱してしまう。

 なにせ、人間には寿命という生命エネルギーの限界があるのだから。

 だからこそ店主は言った。疑(・)似(・)的(・)な(・)生命エネルギーを生み出すと。

 ならばこうして暖かい感覚で全身を満たせば、分かる筈。見つかる筈。私の中の生命エネルギー。それを生み出す鼓動。その波長!

 

 ふと不意に、とくん、と小さな鼓動が聞こえた。

 胸の奥から発されながらも、心臓の鼓動とは違う。何処から発されているのか、それさえも分からないそれ。

 ————見つけた。これが、これこそが私の生命エネルギー。その鼓動。

 とくん、とくん。その鼓動に、波長に合わせて全身の血液を脈動させる。

 胸の奥に感じる、生命エネルギーを生み出す波長。

 それと同じ波長を、全身で発する。胸の奥でのみ行われる小さなそれを、全身で。

 

 体を満たしていた暖かい感覚が、まるで咲き誇る一面の華畑のド真ん中で寝転がっているような、心地よい感覚へと変わっていく。

 恐らく、これを花に送れば、咲くための生命エネルギーを受け取った花が、開花するのだろう。

 それこそが、放華。

 これが、放華。

 

 目を開く。

 試しに、腕を上げてみた。

 多少の違和感こそあれど、問題なく持ち上がる。

 足も、骨折した右は痛むものの、左にはちゃんと力が入る。

 体が、生み出された生命エネルギーによって、急速に回復を始めていた。

 

 店主を見れば、信じられないものを見るかのように、目を見開いていた。

 勇次郎はカウンターに肘を突き、コップを持ち上げたまま、カウンターに顔を突っ伏している。

 動かない筈の私の四肢が動いている事に驚き過ぎて、絹代の空いた口が塞がっていない。

 

「……エフッ」

 

 隣から音が聞こえた。

 まるでしゃっくりのような、そんな音。

 勇次郎から発せられた異音に、思わずそちらを見る。

 

「エフッ……エフッ、エフッ、アハッ」

 

 未だにカウンターに顔を突っ伏したまま、異音を発する勇次郎。

 もしかして酔い潰れた?

 心配して声を掛けようとして……勇次郎がガバッと勢いよく体を起こす。

 

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」

 

 

 鼓膜を破られそうな程の大爆音。

 動くようになった手で耳を抑える。

 

「体の中の生命エネルギー? 放華!? 気の流れだとォ!? アハハハハハハハハッッ!!」

 

 耳を塞いでガードしても、なお貫通してくる勇次郎の笑い声。

 見れば、勇次郎の顔は浮かんだ笑い皺で、しわくちゃな老人以上にしわくちゃになっており。笑い過ぎて、目には涙が浮かんでいた。

 私の頭くらいなら、そのまま丸呑み出来てしまいそうな程に開いた大口が、大音量のバインドボイスを放つ。

 

「ア~~~、百聞は一見に如かず。百見は一触に如かず。とはいえ、限りなくオカルトに近い幻想。それを一発でモノにしやがった……ククク」

 

 手に持ったコップ。

 それに残っていた日本酒を一気に飲み干し、カウンターに叩きつけるように置く。

 

「おい大将。日本酒、瓶ごと寄越しな。今日は気分が良いぜ。俺の女が二度も面白い物を見せてくれやがった。ククククッッ」

「は、はぁ……」

 

 両耳に突っ込んでいた指を引き抜き、未開封の日本酒をそのまま勇次郎に手渡す店主。

 勇次郎はそれを受け取り、指で瓶ごと口をねじ切り、自身の口をそこにつけてラッパ飲みをする。

 ゴギュンッ、グギュギュギュンッ、という飲み物を飲んでいるとは到底思えない音が、辺りに響く。

 そのまま止める事無く飲み干し、追加を頼んだ。

 顔をヒク付かせながら、店主がもう一本日本酒の瓶を勇次郎に手渡す。

 

 ピリリリリッ、とタイマーが鳴った。

 その音に、店主がようやく惚けていた意識を取り戻す。

 器を用意してタレを入れ、お湯を掛けて割る。

 茹でていた麺の入ったざるを引き上げ、スープの入った器へと流し込んだ。

 軽く箸で形を整え、その上に海苔、メンマ、チャーシュー、鳴戸(なると)を盛り付ける。

 もう一つ器を用意し、そちらにも同様に。

 

「できたよ」

 

 ごとりと、私の前にラーメンの入った器が置かれた。

 温かそうな湯気をあげているそれは、とても美味しそうに見える。

 ……あと別にいいんだけど、置く時に親指がスープに入ってたわね。

 熱くないのかしら。

 

「あー、お手伝いは必要ですか?」

 

 私の手が動く事に対して、絹代が食事の手伝いが要るかと尋ねてきた。

 試しに、指を動かしてみる。

 粉砕した指が、痛くはあるけれど、確かに動いていた。

 とはいえ、今はまだあまり上手く力が入らない。

 このままでは箸を持ったところで、取り落とすのがオチだろう

 

「ごめんなさい、手伝ってもらえるかしら? まだ上手く動かせなくて」

「では、失礼いたします」

 

 絹代がスプーン*2にスープを入れて私の口元へと差し出す。

 それを咥えて、口の中へとスープを迎え入れた。

 

「ん!」

 

 鶏のような風味が口一杯に広がる。

 口当たりがまろやかで、主張の激しくない優しい醤油スープ。

 あっさりしていて、適度なコクもあり、飽きが来ない。

 もう一口スープを貰ってから、麺を頂く。

 

 深く息を吸うようにして、ずぞぞっと麺を啜る。

 噛む度にぷちぷちと小さく音を立てる、適度な弾力のある麺。醤油スープの味が僅かに染みたそれが、とても美味しい。

 ある程度噛んでからそれを飲み込めば、つるりと喉を通っていく。

 その喉越しの良さが心地よい。

 

 肉厚なチャーシューはよく煮込まれていて、唇を閉じるだけであっさりと切れた。

 口の中で溶けるように解けていく。

 メンマは柔らかく、されどシャキシャキ感はしっかりとあり、柔らかい感触に慣れた口内にアクセントを与えてくれる。

 溶けるような柔らかさもいいけれど、それだけが続けば飽きてしまう。

 そんな中に与えられたメンマの食感は、食欲を復活させるだけの魅力を秘めていた。

 

 なんだかんだで、それなりの量があった筈のラーメンを、あっという間に完食。

 加えて、私が完食した直後に絹代の分のラーメンが茹で上がった。

 もしかして、私の食事に掛かるまでの時間を計算していたのだろうか。

 私の前に置かれた空の器を店主が掴み、屋台の裏側へと持って行った。

 

 美味しかったな。

 勇次郎の鼻は、確かに美味しい物を嗅ぎ分けていた。

 そこに店主の強さ云々が含まれているのかは、定かではないけれど。

 この味ならば、絹代をここに連れて来る以外にも、単純にラーメンを食べる為だけに来るのもいいかもしれない。

 

 勇次郎を見れば、先ほどのラッパ飲みから、コップに注いで飲む方法に戻していた。

 上がったテンションが、ラーメンを食べた事で落ち着いたのだろうか。

 私も自分のコップを両手で挟み、口元へと持って行って飲む。

 んんぅ~~~、美味しいけどやっぱり辛いなぁ。

 

「勇次郎」

「ん? あぁ……」

 

 コップを差し出すと、勇次郎が日本酒の瓶を持ち、私のコップに注いでくれた。

 コップを置き、その瓶を受け取って、今度は私が勇次郎のコップへと注ぐ。

 酒を飲み……ふと、店主の名前を知らない事に気付いた。

 

「ねぇ、店主さん」

「ん、なんだい」

「貴方のお名前は?」

 

 凝視しないように、器を洗いながら、チラチラと絹代を見ていた店主が、私の方を向く。

 そう言えば、まだ名乗ってなかったっけな。

 今その事に気付いたとばかりに、指でポリポリと頭を掻きながら呟く店主。

 器を置き、店主が名乗った。

 

 

「おれの名前は太山(たいざん)。松本太山だ」

 

 

 

 

*1:
てぼ。ラーメン屋などでよく見る、麺を入れながら茹でたりする湯切り

*2:
蓮華(れんげ)。ラーメン屋でよく見る底が深いスプーン

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