世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
放華ってなんだよぉぉぉ……ッ!
独自設定バンザイ。
オンボロな、ラーメンを売っているのだと思わしき小さな屋台。
勇次郎の足は既に止まっており、それが目的地なのだと言外に告げていた。
本当にここでいいのかと不安になり、勇次郎を見上げる。
自分の頬がヒク付いているのが分かった。
「……これが?」
「ああ、これがだ」
「……本当に?」
「俺を疑うかァ?」
「……行きましょうか」
「うむ」
どこか楽しそうに屋台へと近付いていく勇次郎。
両手は私で塞がっているため、頭をそのまま
「邪魔するぞ」
「あぁ、いらッ!? しィ……ゃいま!? …………」
屋台の店主は、少し筋肉の盛り上がった、マッチョと言っていい男であった。
髪を手拭いで纏め、白いTシャツにジーンズを履いている。
腰には前掛けをしており、そこにも店名であるラーメンこずえの文字が書かれていた。
軒先の提灯と同じく、大分崩れた文字である。
彼は、まず勇次郎を見て固まった。
思わずと言った様子で僅かに漏れた戦意は、彼がボディビルダーや趣味で体を鍛えている人間ではなく、立派な闘士なのだと告げていた。
彼を見て、少しだけ感じていた不安が増す。
もしかして、勇次郎の嗅ぎ取った匂いって、美味しいご飯じゃなくて、
私の不安を余所に、店主は勇次郎から目を逸らした。
客に喧嘩を売る様な真似はしないと、そう言うかのように。
そして、次に私を見て固まった。
圧倒的な人外の美貌を誇る私を見て、心から美しいと感じたのだ。
まるで芸術作品でも見たかのように目を細め、心からの感動を見せていた。
されど、彼はすぐに私から目を逸らした。
客をまじまじと見つめるのは失礼と、そう言うかのように。
そして、最後に絹代を見て固まった。
絹代を見て固まった理由自体は、私を見た時と同じだ。
彼女を見て、美しいと感じて胸を震わせた。
だが、そこに含まれた物は、明らかに私の時とは違う。
彼の瞼から覗く瞳には、確かな熱があった。
何より、私や勇次郎の時とは違い、客を見つめるのは失礼だと目を逸らさないのだ。
「……へぇ?」
面白い事みっけちゃった。
屋台の味がどうこうはもはや後回しだ。
もう既に、私の興味は其処には無い。
絹代を見れば、視線には気付いているのか、微かに笑みを浮かべながら店主を見つめ返していた。
こちらもこちらで、まんざらでもなさげである。
もしも、この屋台がここで固定開店しているのなら、ちょくちょく絹代を連れてくるのもいいかもしれない。
初めて会った者同士でこの反応なら、もう何度か会わせたらもっと面白くなりそうだ。
私がニヤニヤと笑いながら見ているのに気付いたのか、絹代が真っ赤になりながら顔を逸らす。
そんな私達のやりとりを気にもせず、勇次郎が私を椅子に座らせた。
勇次郎自身も、その隣に別の椅子を移動させて、腰を据える。
椅子に座った私は、されどバランスのバの字も無く、前後左右にフラフラと揺れていた。
足にロクに力が入らないために地を掴めず、腕が持ち上がらないために体勢を維持出来ない。
倒れそうになる度に、腹と背中の筋肉を稼働させて体勢を整えているため、地味に疲れる。
そんな私に気付いた勇次郎が、私がいる方の手をカウンターに置いた。
体重を掛けるでも、特に何をするでもないそれに、これに寄り掛かれと言ってくれているのだと察する。
その好意に甘えて、肩をぺったりと触れ合わせるようにして寄り掛かった。
うん、楽。
メニューは何処かな、と見回せば、屋台の壁に小さな木板が3つ取り付けられているのが見えた。
それぞれ、醤油ラーメン700、ビール300、日本酒350と書かれている。
ついでに言えば、その木板の下にはサイズ特+200、並、小-200の文字もあった。
横目にそれを見た勇次郎が、店主を呼ぶ。
「おい大将」
「……あ、な、なんだい!?」
「ラーメンを3つ。2並特1、日本酒1」
「私も飲むわ、日本酒は2ね」
「すみません、ラーメンひとつだけ遅めに出して貰えますか?」
「お、おぉ……並2特1、並一つ遅出し。加えて日本酒2ね。ちょいと待ってな」
勇次郎の注文に私も一つ酒を加え、私の面倒を見る為か、絹代がラーメンの遅出しを頼む。
注文を受けた店主が、慌しく調理の準備を始めた。
2つのざる*1を用意し、片方に一個、もう片方に二個麺の塊を入れて茹でていく。
その合間に、キャベツの漬物が私たちの前に出され、私と勇次郎の前には追加で透明な液体の入ったコップが置かれた。
ウォッカやジンのように、コップの反対側が綺麗に透けて見えている。
これが日本酒か。
「酒は?」
「前はワインとビール、あと蒸留酒を少し
「なら気を付けろ、日本酒はキツいぞ」
「そこまで?」
絹代が漬物を箸で掴み、私に向かって差し出してくる。
それを口に受け入れて噛めば、シャキシャキとした心地よい咀嚼音が鳴った。
うっすらと感じる塩の風味が、舌を楽しませてくれる。
ポリポリと口の中の漬物を咀嚼していると、絹代が日本酒の入ったコップを差し出してきた。
縁に唇を付けると、僅かにコップが傾けられ、それによって日本酒が口内に流れ込んでくる。
お試しの意味も込めてか、少量だけ流し込んだ後、すぐに絹代はコップの傾きを直してテーブルに置いた。
口を僅かに窄め、息を少しだけ吸う。
ビールのような苦みは無く、またワインの様な酸味も無い。代わりに感じるのは、ツーンとした辛さだ。
歯茎のほんの小さな隙間にまで入り込み、肉を焼いて行かれてしまうかのような、そんな辛さ。
耐え切れずに呑み込めば、今度は喉を焼きながら胃へと流れ落ちていく。
体の中を一瞬で煮え滾らせるような、いっそ痛みすら感じる程の辛さ。
それを耐え、耐え、耐え抜いた時。心地よさすら感じる清涼感が鼻を突き抜けていった。
「んぅ~~~~~!!!」
うん、結構キツいけど美味しい。
美味しいけど、少し辛すぎじゃないこれ?
それとも日本酒って全部こういうのなの?
少量口に含んだだけなのに、もう体が熱くなり始めている。
アルコールが回り始めている証拠だ。
「どうだ」
「美味しいけど、辛いわね!」
「美味いと感じられるならマシだ。合わん奴はとことん合わん」
そう言う勇次郎は、慣れた様子で漬物を齧っては酒を口に含んでいた。
もう一度絹代に漬物を貰い、日本酒を飲ませてもらう。
今度は先ほどよりも、少しだけ量を多く口に含む。
口の中で転がして楽しみ、飲み込む。
んんぅ~、辛いわ。美味しいけど。
「……お客さん」
「ん?」
日本酒を楽しんでいると、店主が声を掛けてきた。
何か用かと視線を向ければ、店主の視線は私の体に向いていた。
とはいえ、性的な意味ではない。心配の目だ。
「その体、どうしたんですかい」
「あー、ちょっとやっちゃってね。粉砕状態。マトモに持ち上がりもしないわ」
店主からの質問に、特に考えず答える。
すると店主は僅かに考え、私にそれを言う。
「少し、手に触れても? 多少楽になるかもしれません」
「ん、いいわよー」
屋台の奥から、店主が出て来た。
そしてそっと私の腕に触れると、何やら拳を握り締め始めた。
ただでさえ太かった筋肉はパンプアップし、浮き上がった無数の野太い脈が血流に合わせて鼓動する。
「むんっ、むむむっ……」
脈が腕だけでなく、顔や体にまで浮き上がり始めた頃。
ふと、ドクドクンッ、ドクドクンッ、という不思議なリズムを感じた。
同時に、腕に感じていた痛みが少しだけ和らいでいる事に気付く。
一切持ち上がらなかった腕が、僅かにだが持ち上がる。
「これは……」
店主に触れられた所から、波のように不思議な暖かい感覚が広がっていく。
それと同時に、常に生じていた体の痛みが溶けるように消え始めた。
原理がまるで分からない。いっそ魔法と言われても信じてしまいそうなそれ。
思わず目を見開いて凝視していると、それを見ていた勇次郎がポツリと零した。
「仙道か」
「仙道?」
「まぁ似たようなものですね」
勇次郎曰く、仙道とは中国の内丹術を中心とした、仙人に至るための修行法なんだとか。
呼吸法や歩行法、食事の選び方に住居の定め方、
この場合の精とは、そのまま精液や絶頂であり、要するに射精や絶頂は禁止という事らしい。
そうして、禁じない禁欲の果てに至った仙人は、空を飛んだり、水上を歩いたり、千里を見通したり、忍術を使ったり、猛獣を平伏させたりと様々な能力を得るのだそう。
「思ったよりも凄いわね、仙人。ニンジャよニンジャ」
「以前から思っていたんですが、輝夜様のその異様な忍者推しはなんなんですか……?」
「あはは……これは花を咲かせるだけの、なんて事は無いものですがね」
名は
体の中を流れる血液を操作して心身を脈動。
気の流れを操り、疑似的な生命エネルギーを生み出す事で花を咲かせるのだとか。
ここで言う花に限度は無く、そこら辺の雑草から、葉の抜け落ちた季節外の樹木まで、何でも咲かせるらしい。
今私にやって見せたのはその応用で、生み出した生命エネルギーを相手に分け与える事で、回復を促しているのだそう。
「ほぇぇ、十分仙人じゃない仙人! 凄いわねぇ」
「おれはまだ、小さい花くらいしか出来ない未熟者ですがね」
「でも……凄いと思いますよ」
「え、そ、そうですか?」
絹代の言葉に照れくさそうに頭を掻く店主。
途端、ピリリリリッ、とタイマーの音が鳴った。
慌てた様に店主が屋台に戻り、ラーメンの具の準備を始める。
それを見送りながら、試しに自分でも放華とやらをやってみる。
もしこれが出来れば、多少なりともこの病弱な体もマシになるかもしれない。
少しだけ楽になった腕に力を入れ、血流を操作する。
自ら興奮状態を作る事で血流の流れを速め、浮かび上がった細い脈を指で抑える。
押しては放して、押しては放してを繰り返して、先ほど感じた店主のドクドクンッ、という鼓動に近付けていく。
トクントクン、トトットクン、トクトトクン。
近付いている。確かに近付いている。
しかし、どうにもこれではないような気がする。
確かに店主から感じた鼓動に近付いているのに、まるでエネルギーを感じない。
先ほど感じた、風呂に浸かっているかのような、そんな暖かい感覚が無い。
もしかして、鼓動自体はそこまで関係ない……?
個人個人に、それぞれ最適な気の流れとやらがあるとか? ……あるんでしょうね。そう考えた方が自然。
でなければ、血流を操作するだけで、誰でも放華が使える事になってしまう。
誰でもは扱えない。すなわち、扱えない理由があるということ。
「……そもそも、気ってなに……?」
根本の時点で分かっていない。
放華は気の流れを操るのだから、気の概念を理解していなければ扱えないのは当然のこと。
しかし、私はその気がなんなのかすらも分かっていない。
これでは習得出来る筈もない。
むむむと呻る私に、勇次郎が口を挟んだ。
「中国武術における気とは、万物の構成要素とされている」
風が吹けば気流を感じる。
近くに人が居れば、気配や人気を感じ。
自然を眺めた時に、そこにある生気を感じる。
性的興奮を覚えれば、それは色気を感じている事になり。
何かをやろうとすれば、気力を感じている事になる。
「お前の
そう言って、日本酒を口に含む勇次郎。
その顔は緩んでおり、どこか楽しそうだ。
もしかして、私が放華を習得できるかを楽しんでいるのだろうか?
それを肴に酒を飲んでいると。
「さて、体だけでなく頭でも気を理解したな。イケるか?」
「……やってみる」
正直に言えば、少し複雑な気持ちだ。
自分が真面目にやっている事を、傍から茶化されているような気分になってくる。
けれど、勇次郎は私には出来ないとは言わなかった。止めもしない。手伝いもしない。
ただ、持てる知識を教えただけ。その知識だって、全く核心には触れていない。
でも、そんな勇次郎の顔には確かな期待があった。
出来ると思ってるんだ。私ならこれぽっちの助力でも、十分開花させられると。
なら、期待に応えなくっちゃね。
目を閉じて、少しだけ動くようになった四肢に力を込める。いや、込めない。
先ほどの力を入れて放華を放つというのは、あくまでも店主が放華を扱うための準備行動。
幾ら私が同じ事をしたって、永遠に放華を扱えるようにはならない。
さっき、勇次郎も言っていた。味を感じるのに大事なのは嗅覚。残りの4つはむしろ邪魔。
この場合、大事なのは私の感覚のみ。店主を見て感じたものに、引っ張られてはいけない。
目を閉じて、感覚を研ぎ澄ます。
消力。
極限まで脱力し、ありとあらゆる衝撃を受け流す究極の守り。
体を貫く衝撃を肉体を通して流し、別の場所にそれを押し付ける。
体を流れる気を肉体を通して流し、別の場所にそれを流し込む。
こうして考えると、割と放華と消力は原理が似ている。
正直に言えば、未だに私は気という物を理解出来てはいない。
理解出来てはいないけれど、先ほどの暖かい感覚こそがその気である事は分かる。
傷に纏わりつくように残っている暖かい感覚を、全身に流していく。
手の指先から腕へ。腕から肩へ。肩から胸へ。胸から腹へ。腹から腰へ。腰から足へ。
足まで行ったら、今度は上げていく。足から腰へ。腰から胸へ。胸から首へ。首から頭へ。
血流の流れに沿って、少しずつ温かい感覚で全身を満たす。
放華とは生命エネルギーを作り出し、それを増幅させるものの筈だ。
でなければ、生み出せば生み出すほど使い手は衰弱してしまう。
なにせ、人間には寿命という生命エネルギーの限界があるのだから。
だからこそ店主は言った。
ならばこうして暖かい感覚で全身を満たせば、分かる筈。見つかる筈。私の中の生命エネルギー。それを生み出す鼓動。その波長!
ふと不意に、とくん、と小さな鼓動が聞こえた。
胸の奥から発されながらも、心臓の鼓動とは違う。何処から発されているのか、それさえも分からないそれ。
————見つけた。これが、これこそが私の生命エネルギー。その鼓動。
とくん、とくん。その鼓動に、波長に合わせて全身の血液を脈動させる。
胸の奥に感じる、生命エネルギーを生み出す波長。
それと同じ波長を、全身で発する。胸の奥でのみ行われる小さなそれを、全身で。
体を満たしていた暖かい感覚が、まるで咲き誇る一面の華畑のド真ん中で寝転がっているような、心地よい感覚へと変わっていく。
恐らく、これを花に送れば、咲くための生命エネルギーを受け取った花が、開花するのだろう。
それこそが、放華。
これが、放華。
目を開く。
試しに、腕を上げてみた。
多少の違和感こそあれど、問題なく持ち上がる。
足も、骨折した右は痛むものの、左にはちゃんと力が入る。
体が、生み出された生命エネルギーによって、急速に回復を始めていた。
店主を見れば、信じられないものを見るかのように、目を見開いていた。
勇次郎はカウンターに肘を突き、コップを持ち上げたまま、カウンターに顔を突っ伏している。
動かない筈の私の四肢が動いている事に驚き過ぎて、絹代の空いた口が塞がっていない。
「……エフッ」
隣から音が聞こえた。
まるでしゃっくりのような、そんな音。
勇次郎から発せられた異音に、思わずそちらを見る。
「エフッ……エフッ、エフッ、アハッ」
未だにカウンターに顔を突っ伏したまま、異音を発する勇次郎。
もしかして酔い潰れた?
心配して声を掛けようとして……勇次郎がガバッと勢いよく体を起こす。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」
鼓膜を破られそうな程の大爆音。
動くようになった手で耳を抑える。
「体の中の生命エネルギー? 放華!? 気の流れだとォ!? アハハハハハハハハッッ!!」
耳を塞いでガードしても、なお貫通してくる勇次郎の笑い声。
見れば、勇次郎の顔は浮かんだ笑い皺で、しわくちゃな老人以上にしわくちゃになっており。笑い過ぎて、目には涙が浮かんでいた。
私の頭くらいなら、そのまま丸呑み出来てしまいそうな程に開いた大口が、大音量のバインドボイスを放つ。
「ア~~~、百聞は一見に如かず。百見は一触に如かず。とはいえ、限りなくオカルトに近い幻想。それを一発でモノにしやがった……ククク」
手に持ったコップ。
それに残っていた日本酒を一気に飲み干し、カウンターに叩きつけるように置く。
「おい大将。日本酒、瓶ごと寄越しな。今日は気分が良いぜ。俺の女が二度も面白い物を見せてくれやがった。ククククッッ」
「は、はぁ……」
両耳に突っ込んでいた指を引き抜き、未開封の日本酒をそのまま勇次郎に手渡す店主。
勇次郎はそれを受け取り、指で瓶ごと口をねじ切り、自身の口をそこにつけてラッパ飲みをする。
ゴギュンッ、グギュギュギュンッ、という飲み物を飲んでいるとは到底思えない音が、辺りに響く。
そのまま止める事無く飲み干し、追加を頼んだ。
顔をヒク付かせながら、店主がもう一本日本酒の瓶を勇次郎に手渡す。
ピリリリリッ、とタイマーが鳴った。
その音に、店主がようやく惚けていた意識を取り戻す。
器を用意してタレを入れ、お湯を掛けて割る。
茹でていた麺の入ったざるを引き上げ、スープの入った器へと流し込んだ。
軽く箸で形を整え、その上に海苔、メンマ、チャーシュー、
もう一つ器を用意し、そちらにも同様に。
「できたよ」
ごとりと、私の前にラーメンの入った器が置かれた。
温かそうな湯気をあげているそれは、とても美味しそうに見える。
……あと別にいいんだけど、置く時に親指がスープに入ってたわね。
熱くないのかしら。
「あー、お手伝いは必要ですか?」
私の手が動く事に対して、絹代が食事の手伝いが要るかと尋ねてきた。
試しに、指を動かしてみる。
粉砕した指が、痛くはあるけれど、確かに動いていた。
とはいえ、今はまだあまり上手く力が入らない。
このままでは箸を持ったところで、取り落とすのがオチだろう
「ごめんなさい、手伝ってもらえるかしら? まだ上手く動かせなくて」
「では、失礼いたします」
絹代がスプーン*2にスープを入れて私の口元へと差し出す。
それを咥えて、口の中へとスープを迎え入れた。
「ん!」
鶏のような風味が口一杯に広がる。
口当たりがまろやかで、主張の激しくない優しい醤油スープ。
あっさりしていて、適度なコクもあり、飽きが来ない。
もう一口スープを貰ってから、麺を頂く。
深く息を吸うようにして、ずぞぞっと麺を啜る。
噛む度にぷちぷちと小さく音を立てる、適度な弾力のある麺。醤油スープの味が僅かに染みたそれが、とても美味しい。
ある程度噛んでからそれを飲み込めば、つるりと喉を通っていく。
その喉越しの良さが心地よい。
肉厚なチャーシューはよく煮込まれていて、唇を閉じるだけであっさりと切れた。
口の中で溶けるように解けていく。
メンマは柔らかく、されどシャキシャキ感はしっかりとあり、柔らかい感触に慣れた口内にアクセントを与えてくれる。
溶けるような柔らかさもいいけれど、それだけが続けば飽きてしまう。
そんな中に与えられたメンマの食感は、食欲を復活させるだけの魅力を秘めていた。
なんだかんだで、それなりの量があった筈のラーメンを、あっという間に完食。
加えて、私が完食した直後に絹代の分のラーメンが茹で上がった。
もしかして、私の食事に掛かるまでの時間を計算していたのだろうか。
私の前に置かれた空の器を店主が掴み、屋台の裏側へと持って行った。
美味しかったな。
勇次郎の鼻は、確かに美味しい物を嗅ぎ分けていた。
そこに店主の強さ云々が含まれているのかは、定かではないけれど。
この味ならば、絹代をここに連れて来る以外にも、単純にラーメンを食べる為だけに来るのもいいかもしれない。
勇次郎を見れば、先ほどのラッパ飲みから、コップに注いで飲む方法に戻していた。
上がったテンションが、ラーメンを食べた事で落ち着いたのだろうか。
私も自分のコップを両手で挟み、口元へと持って行って飲む。
んんぅ~~~、美味しいけどやっぱり辛いなぁ。
「勇次郎」
「ん? あぁ……」
コップを差し出すと、勇次郎が日本酒の瓶を持ち、私のコップに注いでくれた。
コップを置き、その瓶を受け取って、今度は私が勇次郎のコップへと注ぐ。
酒を飲み……ふと、店主の名前を知らない事に気付いた。
「ねぇ、店主さん」
「ん、なんだい」
「貴方のお名前は?」
凝視しないように、器を洗いながら、チラチラと絹代を見ていた店主が、私の方を向く。
そう言えば、まだ名乗ってなかったっけな。
今その事に気付いたとばかりに、指でポリポリと頭を掻きながら呟く店主。
器を置き、店主が名乗った。
「おれの名前は