世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
「俺がカグヤじゃない、ね。……何故そう思った」
「逆に今のお前を輝夜だと思う要素はどこにあるよ」
手に握った箸をユカタ男に投げ返す。
鋭い軌跡を描いたそれは、しかし容易く掴まれた。
「まず輝夜は今のを掴めないよ。それどころか反応すら出来ないね」
「出来たかもしれないぞ」
「無理、貧弱娘だもん。あと言葉遣い違う。そも女が普通俺とか言わないし」
困ったな、言い返せない。
実際に中身が違い、俺がこの体の記憶を持っていない以上、演技で乗り切る事も出来ない。
仕方ない、か。
「まぁ、事実だな。俺はカグヤとやらではない」
「だろうね。もし本物だったらあんな鳥の餌やりみたいな状況になった瞬間に腹を切るよ」
……それはちょっと覚悟キマり過ぎてないか?
それともニンジャ集団のお嬢は基本そのメンタルなのか?
こう、情報を与えたり辱められるくらいなら死ぬ、みたいな。
「それで? 悪いが俺には体の返し方など知らんぞ。薬を瓶ごと飲み干して自殺したと思ったらこの体だ。返せと言われても俺は何も出来ん」
「ああ、そうじゃないよ。そも理由はなんとなく分かってるしね」
「なに?」
投げ返された箸を再びヤスリで削り始めるユカタ男。
しかし今度は殺気は放たれておらず、削り方も鋭くするためではなく、むしろ丸く害の無いようにする削り方だ。
「実は最近、輝夜が見知らぬ霊媒師の婆さんと連絡を取っていてね。連絡内容を知られたら切腹とまで言うから、仕方なく監視に留めてたんだけど」
「その折、俺がこの体に憑依して現れた、と」
「どうやったかは知らないけどね、そういうこと」
それなら猶更俺を追い出してカグヤを取り戻すべきじゃないのか?
配慮しつつ監視なんて面倒な事をするほどだ、大切な子であった筈だろうに。
「んー、なんというか、善人だね君」
「善人?」
「うん、弱い者いじめとか見逃せないタイプでしょ」
当然だ、いじめは俺のトラウマだ。
するのもされるのも嫌だ。
だからこそ俺は自ら命を絶ったのだから。
「でね、そんな君に悲報なんだけど……僕、というかこの家にいる奴らは殆どが暗殺者でね。悪人なんだ」
「具体的に何をしてきたんだ?」
「そうだね、まず殺しかな。善人悪人老若男女、誰だろうと依頼があれば殺すよ」
「そうか。それで」
「誘拐もするね。大体は身代金が欲しいとか、見え麗しい子をペットにしたいって依頼かな」
「……他には」
「拷問だってやるよ。ターゲットが雲隠れした時は知ってそうな奴らに無差別にやった事もある」
「…………そうか」
別に、俺は暗殺者という存在を否定しない。所詮職業の一つという認識に過ぎない。
むしろ、本当にどうしようもなくなった弱き者が最後に縋れる存在の一つ、という意味ではその存在に好感を抱いているとさえ言える。
とはいえ依頼をされて善人や子供が誘拐、殺害される事もあるだろう。それは最早仕方のない事だ。仕事なのだから、依頼をされたらそれを熟すし悪も成す。悲しい事ではあるが。
無論、この手の届く範囲で善人や子供が対象になったなら俺は全身全霊をもって救う。だが目の届かぬ範囲で対象となったなら、俺は謝罪と共に俺以外の誰かに救われる事を、そして救いが無くともせめて苦痛なく死ねる事を祈るだけだ。
……結局、この思考だって強者側に立った者のエゴに過ぎないのだから。
だからこそ、俺はこいつを殺す。
こいつは力の無い者を襲い、あまつさえ依頼とは無関係の人間を害してきた。
そして今此処は、俺の手の届く範囲だ。
床を蹴る。
標的はユカタ男。
射程圏内に入った瞬間地を蹴って宙に舞い、ユカタで足の軌道を隠しつつ後ろ蹴りを叩きこむ。
その足に合わせてユカタ男は箸を掲げ、真っ直ぐに飛ぶ蹴りを横へと流す。
捌かれる足、崩れる体勢。
その崩れる勢いに任せたまま、反対の足を振り上げユカタ男の顎にブチ当てた。
宙に浮かび、吹き飛ばされる勢いのまま後ろにあったフスマに突っ込むユカタ男。
それを確認すると同時、受け身をとりながら着地、追い打ちを掛けに行き
「ゴホッ……!?」
血を吐いた。
俺が。
「んおおおおいってぇ……その体でコレとか強いねぇ君。俺じゃ勝てそうにねぇや。君きっと、元の体の時はあのオーガと同レベルの強者だったんだろうねぇ」
何故? 攻撃は食らっていない。
筈ではなく、確実に食らっていない。
俺はまだ、あのユカタ男に何もされていない。
ということは、問題はユカタ男ではなく、この体。
「ほら、さっき言ったでしょ? 輝夜は貧弱なの。なんかある度に死にかけるし、すぐ倒れる。ちょっと体鍛えればそれだけで多少マシになる筈なんだけどね、あの子凡人だったからさ。痛いのヤー、苦しいのヤーってやろうとしなくてね」
それにしたってこれは異常だろう。
俺がやった事と言えば、ただちょっと走って蹴りを二発放っただけだぞ?
きょうびマンボウ*1だってもう少し頑丈だろう。
視界がぐるぐると回っている。
無酸素トレーニングをした時に見た覚えがある世界。
酸欠の症状。
「で、そんだけ体弱いと嫁にやってーってのもできなくてね。一番の理由としては輝夜が美し過ぎたってのがあるんだけどさ。美貌も過ぎれば毒となるよ。やー、竹取の翁や市姫を嫁にやる信長の気分ってこんな感じだったんだろうね」
「っ……」
必死に呼吸を整える俺の腕をとり、反対側に回して極めるユカタ男。
そのまま俺の上に座り、先が丸くなった箸を首に突き付けてくる。
「でも今は中身が違うからね。君がその体を鍛えてくれれば政略の最上級のカードとして使える。正直輝夜は我儘が過ぎて邪魔だった。消えてくれたならむしろ有り難い」
「ッ、のクソ野郎ッ……」
「うん、クソ野郎だよ。言ったじゃん、俺は悪人だよ。使えるものは何でも使うし、足を引っ張る脳ナシならいらない。弥助もそうだったよー、他の組織に情報をリークしようとしたからさぁ、つい消しちゃった。裏切り者と脳ナシは邪魔でしかないよねー」
駄目だ。
コイツと幾ら話そうが無駄だ。
ハッキリと理解出来た。
コイツは、ゲロ以下の腐ったウジ虫野郎だ。
元の体に戻ったら自殺する前に速攻でコイツを木っ端の木っ端の粉微塵になるまで潰して潰して潰してその魂の一片まで殺し尽くしてやる。
「おおぅこわ……この状況でそのレベルの殺気飛ばせるのか。割とマジでオーガ級じゃないの君? んやー、輝夜もいい置き土産をしてくれたよ」
「……なにが目的だ」
「さっきから言ってるでしょ? 君……というか、その体を嫁にやりたいんだよ。最上級のカードとしてね。だからその体をせめて子供産める程度には鍛えて欲しいなって」
「……拒否す」
「ああ、拒否権無いから。拒否するって言うんなら……そうだね、あの子を殺すよ」
そう言ってクソ男は唖然とした表情のまま固まっていたクノイチを指差す。
唐突に槍玉に上げられたクノイチは既に真っ青だった顔を白くして震え始める。
「罪状はそうだな……輝夜の前を歩いた罪はどうだい? 主の前を歩くなんてお付き失格でしょ、護衛じゃねぇんだからさ」
「なっ、俺の前を歩いただけでっ」
「歩いたからだよ。俺ら闇の住人はメンツが大事だからね。君には理解出来ない感性だろうけどさ。まぁでも、君善人だからねぇ、見殺しに出来ないでしょ?」
「……クソッ」
「はい契約成立! ……っても、俺も鬼じゃないからね。条件を加えよう」
極めていた俺の腕を放し、ゴソゴソと懐をまさぐり始めるクソ野郎。
そして一枚の紙とペンを取り出すと、なにやら書き始めた。
静かな空間に暫くペンの音が響き、書き終わったのかペンをしまう。
上に乗っかられたままで動けない俺の目の前に紙が垂らされたため、怒りのままにそれを奪って読み始める。
それは、簡単に言えば契約書だった。
内容は、
・第一条
甲は乙の提示する5つの課題を乗り越えなければならず、課題の達成に失敗した場合、甲は乙の要求を飲まなければならない。
・第二条
乙は甲に対し、5つの課題を提示しなければならず、甲が全ての課題の達成に成功した場合、乙は甲の要求を飲まなければならない。
・第三条
第二条を達成するまで、または第一条が達成された場合は以後、甲は周囲の人間に対し自身が天津神輝夜ではない事を知られてはならず、また天津神輝夜として振る舞う事
・第四条
以上の三項目を絶対条件とした上で、場合により乙が甲に助力する事を認める。
以上の4つ。
正直契約としては全く信用出来ない。
5つの課題とやらに確実に達成不可能なものが混ぜられている可能性は否定できないし、むしろこのクソ野郎の事だ、絶対に混ぜて来るだろう。
謎の第四条の事も気になる。
なんだ助力する事を認めるって。
加えてこれだ。
「第三条、これは?」
「いやぁ、いくら見た目が輝夜でも中身が男の女を娶りたがる奴はいないでしょって話。最高級のカードを上級カード程度にまで価値を落とされるのは困るからさ」
「振る舞うというのは」
「他人の前ではお淑やかに、そして一人称は私。それくらいかな」
一人称を私に変えるのはいい。
今までも大統領などと会う際には使っていた口調だ、その時の感覚でいけば問題はないだろう。
だがお淑やかにとはどうやればいいのだ?
話に聞く限り、日本のお淑やかの代名詞であるオイランとは、ただの歩き方を習得するだけでも3年はかかるというぞ。
「まぁそこら辺はあの子に教えて貰いなよ。輝夜のお付きにするためにそこら辺はみっちり叩き込んであるからさ」
そう言ってクノイチを指す。
「で、他には?」
まぁ、第一から第三条については理解出来た。
第四条については紙面上でぼかしてあるのだから、恐らく聞いても答えてはくれないだろう。
だからそこはもういい。
一番の問題は、だ。
これはあくまでも
こうして書類こそ用意されてはいるものの、達成した瞬間これを破り捨ててそんな事言ったか? と
「なさそうだね。どう? 受けるかい」
それでも俺に拒否権は無い。
自殺願望こそあれ、あくまでそれは自分の体でのこと。
見知らぬ他人の体で自殺したい訳ではないし、なによりクノイチが人質に取られている。
つい1時間ほど前にあったばかりの女ではあるが、イイ娘である事は間違いないと確信出来ている。
ジョニーなら既に求婚して振られているレベルだ。
そんな娘の命を見捨てる気にはなれない。
「……チッ、分かった」
「よし、今度こそ契約成立! いやぁ良かった良かった」
立ち上がって俺の上から退くクソ野郎。
瞬間、腕の力だけで逆立ちをするように宙に跳び、無防備なクソ野郎の後頭部に回し蹴りを叩きこむ。
今度は顔からフスマに突っ込んだクソ野郎は気絶したのか動かない。
「
呆然としたまま立ち尽くすクノイチの手を引っ張り、足早に部屋を出る。
他の場所は知らないが、朝起きた部屋、輝夜の部屋だけは分かる。
部屋まで辿り着くと、そのままフスマを開け、中に入ってフスマを閉じた。
途端、口の中から血が零れる。
「ゴホッ、ゴホッ……」
「あ、だ、大丈夫でございますか輝夜様! く、薬!」
喉に絡む痰のような血の塊を吐き出したところで、水の入ったコップと錠剤が差し出される。
即座に錠剤を口に含み、未だ口内と喉に残る血をもろとも水で押し流す。
「ゲホッ、ゲホッ……っああ……」
薬を飲んだとてすぐには効きはしない。
壁に付着した汚れのように水で押し流せなかった血を吐き出そうと、体が嘔吐感を煽る。
目は生理的に浮かんだ涙で潤み何も見えず、体は嘔吐感に支配されてえずく以外に何も出来ず何も感じない。
そんな中、用意されるおかわりの水と、優しく背中を撫でる手が、やけに印象的に残っていた。
——— ———
「ふぅ、ふぅぅ……落ち着いた」
「良かった……お水のおかわりは」
「頼む」
地獄のような苦しみを耐え抜き、目に浮かぶ涙を拭う。
時計を見れば、部屋に帰ってきた筈の時間から30分ほどが過ぎていた。
差し出された水を飲み干し、一息つく。
「すまない、ありがとう」
「あり……いえ、輝夜様ではない……のでしたね」
何処か困惑した様子で飲み終えたあとのコップを受け取りながらクノイチが呟く。
「……そうだ、俺は天津神輝夜ではない。すまないな」
「……正直、困惑はしております。ですが、罵倒の一つも無く、暴力も振るわず。そんな輝夜様を不審には思っていましたが……納得が出来ました」
「天津神輝夜はそんなに酷かったのか?」
あのクソ野郎も輝夜は我儘が過ぎて邪魔だったと言っていたが。
「はい。輝夜様は常に何かに怒り、苛立っておりました。近くを誰かがよぎったのが気に入らない。着付けが気に入らない。選んだ着物が気に入らない。風や鳥がうるさいのが気に入らない。果てには視界に入ったから気に入らないと処罰を与える事もありました」
「それは……酷いな」
「ええ、輝夜様のお付きとは死と同義なのです」
だから朝起こしに来た時、静かに俯き目も合わせない様にしていたのか。
何処にあるかも分からない輝夜の逆鱗になるべく触れないようにと。
今更ながら、あの無防備な動作の意味が理解出来た。
「しかし困ったな」
「なにがでしょう?」
「契約に輝夜ではないとバレないようお淑やかに、されど天津神輝夜と同じ振る舞いをしろとあった。俺はいじめが嫌いだ」
「ふむ……」
実は、先ほどから弱い女の体であるが故に静まっていた自殺願望がふつふつと湧きだしてきている。
しちゃっていいんじゃない? 自殺。
しちゃおうぜ自殺。
……いや駄目だ、今俺が自殺したらこのクノイチが殺される。
「ではこうするのはどうでしょう? 何かある度、私を殴ればいいんです」
「は? いやしかし」
「手加減をして下さればよろしいかと。正直、さきほどの御屋形様との攻防にはついてけないので、それよりも更に手加減をしていただく事にはなりますが」
ふむ……手加減か。
両者同意の上で、痛くない程度に手加減をして殴ればいじめにはならない……か?
……いや、弱い者を一方的に殴ってる時点でいじめだろう。
例え痛くないとしても、両者同意だとしても。
相手が何か悪い事をした訳ではないのだから猶更だ。
「いや、悪いが断る。それよりも甘えるのはどうだ?」
「甘える……ですか?」
「ああ、箸の使い方が分からなかったからとはいえ、既に俺はあのクソ野郎の言う通りであれば元の輝夜ならばセップクものの行動をしている。そんな行動を、君にだけは許す。初めて気に入ったお付きとして」
「悪くはないかもしれませんが……」
違和感は出るだろうな。
でも逆に言えば違和感の域を出ない範疇だ。
……というか、そもそも輝夜の性格を知らない時点で演じるも何も無い気はするが。
「そうだ、輝夜の普段の行動が分かる資料などはないか? 日記とか」
「日記……そういえば、輝夜様がどこからか手に入れてきた書物があるとか。そこに何かを書いていたとも。もしかしたら」
「それが日記かもしれないと……よし、探そう」
という事で家探しをして約5分ほど、【見たら切腹するわよ!】と書かれている一冊の手帳を見つけた。
恐らく噂になっていた書物というのはこれのことだろう。
なんというか、本当に覚悟がキマりきってる娘だな。
クソ野郎の言う事とクノイチの言う事から察するに、恐らく脅しではなく本当にやりそうだし。
「では読むぞ」
「え、えと私は……」
「一緒に見てくれ。演技に必要だ」
切腹の文字をみて腰が引けた様子のクノイチの手を引っ張り、近くへと座らせる。
そうして、手帳を開いた。