※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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勇次郎は気が昂ったりするとハンドポケットをする。
グラップラーからバキ道まで見て、感じた印象です。




第三十三話 セカンドバースデー

 

 何時ものカンフー着を纏った勇次郎が、脱衣所から出てきた。テーブルの前で、胡坐を掻いて座る。

 そんな彼の前に、米を大盛りに盛りつけた茶碗とお味噌汁をよそった器を置いた。

 

 一瞬、配膳をする私の姿を見て、勇次郎が眉を上げた。

 次に、絹代の運ぶ食事の載った食器を見渡す。

 そして、特に何を言うでもなく、ただ目を閉じた。

 どういう反応だこれ……? 少し疑問に思いながらも、配膳を続ける。

 私と絹代の分の米とお味噌汁もよそい、テーブルに置いて正座で座った。

 

 絹代と一緒に作った、特に変哲の無い普通の焼魚定食。

 作りたてが故に、湯気を上げる様が食欲を湧かせる。

 丁度三人揃ったし、食べよう。

 両手を合わせ、食材に対して礼をする。

 

「「いただきます」」

 

 箸を手に取り、お味噌汁を啜る。

 スッと喉を通った出汁。そこに味噌が混ぜられた事で、深い味わいが喉に絡む。

 独特のコクと風味の中に、ほんのりとした渋み。熱い液体が食道を通り、お腹を温めていく。

 何処か、安心する味だ。自然と吐息が漏れる。

 美味しい……

 

「ふぅ……」

 

 お味噌汁の入った器を置き、横目に勇次郎を見る。

 私と同じく、お味噌汁を啜っていた勇次郎が器を置いた。鮭の切り身へと手を伸ばす。

 頭は黒く、尻は茶色になっている鮭の皮。その端を抑えて、身の側にある硬い大きな骨と身の間に箸を沈めた。

 そのまま水平に、ゆっくりと箸を滑らせるようにして、大きな骨を切り離していく。

 切り離し切れずに残った小骨を指で取り除き、大きな骨にこびり付いた身を箸で取る。

 あとには、綺麗に骨が取り除かれた魚の切り身のみが残った。

 箸で一口大にカットし、白米の上に乗せて口へと運ぶ。

 

 私も同様に骨を取り除き、白米と共にいただく。

 口に入れて歯を立てれば、ほろりと身が崩れた。

 塩気が効いた鮭が、甘い白米と融和して手が進む。

 

 きゅうりの漬物を箸で摘まみ、口に入れる。

 少し形の歪なそれは、噛むとカリリッと子気味良い音を立てて砕けた。

 カリコリと咀嚼をする度、塩によってぎゅっと閉じ込められた、きゅうりの旨味が弾ける。

 すりおろしたにんにくの辛みが、ごま油によって滑らかに仕上げられていた。

 鼻を吹き抜ける匂いがたまらない。

 

「ん……」

 

 そして、問題の厚焼き玉子だ。

 実は、私の願いで私の作った二つの厚焼きは、私と勇次郎の前にだけ並べられている。

 例え、美味しくないと言われるとしても、それでも勇次郎に食べてもらって感想を貰いたかったのだ。

 絹代に教えて貰って作った、初めての日本料理だしね。

 私の前に置かれているのは、自分で作った厚焼きがどんな味をしているのか、自分で食べてみたかったから。

 あと、単純に失敗したからと、それを人に押し付ける気にはなれなかった。

 それだけである。

 

 5つにカットされた厚焼きの一切れを、箸で摘まむ。

 絹代がレンジで温めて中に熱を通そうとはしていたものの、どうやらあまり意味は無かったらしい。

 私の作った厚焼きは、所々が焦げて黒くなっている癖に、中は真っ黄色にトロッとしていた。

 しかも表面は月の様に、あちこちにあるクレーターでボロボロだ。

 ……まぁ豚肉や鳥肉とかの、しっかりと火を通さなきゃいけない食材ってわけじゃないし。

 なんなら、半熟が良いからと、わざと生焼けのまま食べる人もいるし……

 見た目が悪い事は味には関係ないしね。

 平気平気。

 

 少し無理のある理屈だとは分かっている。それでもその理論で何とか自分を無理矢理納得させ、厚焼きを頬張る。

 味に関しては……まぁ、うん。味付けしたの絹代だしね。無難に美味しい。

 ただ、問題なのは焦げた部分だ。ガリガリしてる。

 焦げて硬くなった部分が、まるで炭のような味を主張していた。BBQの時に焼き過ぎた肉を思い出す。

 甘い美味しさの中で、唐突に混じる嫌な苦み。

 その癖、厚焼きの奥にまで歯を入れると、もちゃりとした柔らかな食感がする。

 う、うぅ~ん……不味くはないが、なんとも言い難い。

 

 勇次郎を見れば、丁度厚焼きに手をつける所であった。

 箸でボロボロの厚焼きを摘まみ、口の中へと運ぶ。

 もにゅもにゅと少しの間頬を動かし、ゴクリと喉が上から下に膨らんで萎んだ。

 どんな感想が出るのだろうか。ドキドキと胸が高鳴る。

 しかし、勇次郎は特に反応する事は無かった。

 もう一切れ厚焼きを頬張り、そのまま食事を続ける。

 

 味の感想を期待していた身からすると、一切反応が無かった事が、少しだけ残念ではある。

 けれど、勇次郎は不味い時は不味いとハッキリ言う。

 その場面を見た事は無いけれど、そういう男だ。

 しかし勇次郎は厚焼きを食べて、特に何かを言う事無く、そのまま食事を続けた。

 それも、作った私自身が微妙と感じた厚焼きを、わざわざもう一切れ頬張ってからだ。

 美味しいとはいかずとも、及第点は貰えたのだろう。

 

 口角が上がっているのが分かる。

 ふと視線を感じて、そちらに目を向ける。

 絹代が、微笑ましい物を見るような目で、私を見ていた。

 

(良かったですね)

(……うんっ!)

 

 パクパクと口を動かす絹代に、笑顔を返す。

 心が暖かい。絹代に教えてもらえて良かったな。

 

(ね、お昼と夜も……いい?)

(もちろんですよ、輝夜様)

 

 やったっ! 喜びのままに、箸を動かす。

 さっきまで普通に美味しいとしか感じていなかった食事が、三ツ星レストランのメインにも劣らぬ美食に感じる。

 舌を蕩かされるそれが、私の心持ち一つの変化による錯覚でしかない事は理解している。

 それでも、ただの食事では終わらない満足感に、それでもいいと浮かれた。

 ポジティブ思考って、こういうメリットもあるんだなぁ。

 ひょいひょいと箸を動かし、食事を続ける。

 

「おい」

「ふぇっ、な、なに!?」

 

 切り身へと伸ばそうとしていた所に、勇次郎に声を掛けられた。突然の事に驚き、体が跳ねる。

 何の用だろうかと疑問に思っていると、茶碗を差し出された。

 

「おかわりだ」

「え、あ……う、うん!」

 

 今まで、おかわりは自分でよそっていたのに。

 他の人間によそってもらうにしろ、絹代だっている。

 それなのに、わざわざ私におかわりをよそえと言ってくる意味。

 

 ……そっか、私が朝ご飯を作るのを手伝ったからか。

 以前聞いた話によると、日本人の家庭ではおかわりの際には、よそうのを妻にやらせるという。

 お前の作った料理が美味いから、もっと食べたい。そういう意味を言外に伝えているのだそうな。

 つまり、そういう事でいいのよね? ……やばっ、予想以上にたまんないわねこれ。

 というか、私が料理を手伝った事には、何も言わないだけで気付いてたのね。

 その上でおかわりと。確かに、もっと良い物を作って食べさせてあげたくなるわ。これから一生、勇次郎の食べるものを、私が作った物だけにしたくなる。

 ほんっと、愛着心と執着心をくすぐるのが上手いわねこの男。

 

 茶碗を受け取り、炊飯器の米をしゃもじで掻き混ぜる。

 釜の底や中ほどの米を空気に触れさせ、一番美味しい部分を大盛りに盛って勇次郎に手渡す。

 

「はい、勇次郎」

「あァ」

 

 食事を再開する勇次郎。

 相変わらず勇次郎の箸捌きは美しく、綺麗な食事だ。

 ナイフとフォーク、スプーンでならば、私もトップレベルにスマートな扱いが出来る自信がある。

 大統領など、身分の高い人間と会食をする事もあったのだから、身につけられていなければ話にならないからだ。

 でも、箸となるとどうにも上手くいかない。試しに勇次郎の真似をしてみるも、やはり難しい。

 しかし最高の男の傍に立つ女となるのだ、それくらいの作法も身に着けられないで、一体どうするというのか。

 四苦八苦しながらも、私も食事を続ける。

 

 時折、勇次郎のおかわりの声が響くだけの食卓。

 それでも、冷たいものは一切感じない。

 無言の団欒。暖かい空気が流れていた。

 

 最後の一切れを口に入れ、お味噌汁で流す。

 箸を置けば、丁度絹代と勇次郎も食事を終えた所であった。

 空になった皿を重ね、シンクへと持っていく絹代。

 

「手伝うわ」

「ありがとうございます」

 

 重ねた皿を運び、皿洗いをする絹代を手伝う。洗い終えた皿を布巾で拭いて、運びやすい様に重ねる。

 皿洗いが終わり、皿を食器棚に戻した後、絹代は外へと出て行った。

 浸け置きしておいた布団を洗って干すのだそうな。

 ご迷惑お掛けします……

 

 絹代を見送り、さて何をしようかと悩む。

 布団を洗うのを手伝おうにも、絹代に一人で出来るのでゆっくりしていて下さいと、やんわり断られたしな。

 新しい技でも開発しようかしら。でも必要に迫られてる訳でもないしなぁ。

 何か暇潰しが出来ないかなぁと周りを見渡す。

 すると、壁に寄り掛かって目を閉じる勇次郎の姿が見えた。

 

 近くまで寄り、しゃがんで顔を覗き込んでみる。

 気配で気付いたのか、片目を薄っすらと開け、何か用かと尋ねて来る。

 特に用事は無いのよね……むしろ用を探してるというか。

 取り敢えず、勇次郎の組まれた足の上に腰を落ち着けてみる。

 特に退かされたりはしないため、そのまま背中を預けて深く座り込んだ。

 

「ん~♪」

 

 背中が暖かい。

 全体重を乗せてもビクともせず、頼りがいのある肉体だ。

 男とは勇次郎の事で、彼以外は男もどきなのではないかという、ある種人類冒涜のような感想すら湧いてくる。

 湖のような輝夜たる私を全て注いでも、海のような勇次郎たるこの男には些細な違いに過ぎない。

 私の全てを、この男には預けられる。

 

「~♪」

 

 ご機嫌に鼻歌を歌っていると、唐突に勇次郎に撫でられた。

 頭に手をやり、ぐしゃぐしゃと髪を掻き乱される。

 少し痛いくらいのそれが、むしろ勇次郎に撫でられているという実感が湧いて嬉しい。

 でも、なんで急に撫でてきたんだろうか。

 ……初料理ご苦労だった的な? それ以外に思いつかないため、恐らくはそうなのだろう。

 残念ながら、頭撫ではすぐに終わってしまった。もう少し撫でて欲しいところではあるけど、我慢する。

 あれはご褒美だ。ご褒美とは与えられるものであり、決して要求するものではない。

 

 だから、逆に勇次郎にしてあげたい事を考える。

 勇次郎にご褒美をやろうと思わせられれば、ご褒美を貰えるのだから。

 私の強さを見初めた勇次郎的に、やっぱり対峙して強さを見せるのがいいのだろうか。

 でも、私の手札は全て見せてしまっている。それに対して、勇次郎は手札も何もなく、力をそのままに振るう。

 私の不利は明確だ。特に消力に変わる防御手段を見つけないと、最悪破られた時にそのまま死にかねない。

 やるなら、新しく色々と習得してからにしたい。

 

 他に何か、勇次郎にしてあげられる事はないかな~?

 

「……あー」

 

 ……そして、ふと思い出した。

 そういえば輝夜って、翁に名乗れと言われて名乗っている名前だったな、と。

 自分に相応しい名前を思いついたら、そっちを名乗ってもいいとも。

 なら、特別な名前をあげるのがいいのではないのだろうか?

 

 別に、輝夜と名乗る事を嫌っている訳じゃない。

 むしろ、誕生日プレゼントとして翁に渡されたこの名前は、一生これを名乗っても良い程度には気に入っている。

 特に自分に相応しい新しい名前を思いついたという訳でもない。

 

 元々、以前から勇次郎には私の持つ、特別な何かを渡したいとは思っていた。

 とはいえ、特別な物自体は、既に勇次郎は私から幾つか受け取っている。

 処女を捧げた。

 強さを見せた。

 中身を晒した。

 私の特別と言える物は、既に明け渡されているのだ。

 

 けれども、それでは私が満足出来ない。

 だって、それは元々輝夜のものだ。

 だって、それは常日頃から見せられるものではない。

 だって、それは渡すのではなく受け入れられたものだ。

 なにより、それらは全て、私から勇次郎に渡したいと思って渡したものではない。

 

 私にとって特別で。勇次郎にとっても特別で。

 その上で、私が日常的に特別な何かを勇次郎に渡したと実感できるもの。

 パッと思いつくのは指輪だが、それは駄目だ。勇次郎は私を愛しているとは言っていない。

 仮に勇次郎が渡してきても、愛してるを言わない限り、私は受け取らない。

 これは勇次郎との勝負なのだ。私が勇次郎に抱かれるに相応しい女であるための。

 だから、指輪は駄目だ。

 

 そうして、他に渡せる物を考えて。

 浮かんだのが名前だったのだ。

 

「ね、勇次郎」

「なんだ」

 

 預けていた背中を取り戻し、腰を上げる。

 勇次郎の前に正座で座り、正面から向き合った。

 

「私から、プレゼント。渡してもいい?」

「何かは知らんが、言ってみろ」

「名前」

「名前?」

 

 どういう意味だと、勇次郎が眉を顰める。

 

「私は今から改名するわ。そして以降はそっちを名乗る」

「それを俺に言ってどうする」

「輝夜を呼んで欲しいのよ。貴方にだけ呼ばせる、私からのプレゼント」

「くだらんな」

「それでも、そうしたいと思ったの」

 

 真っ直ぐに勇次郎を見る。

 真剣な表情を浮かべて、本気だと伝える。

 こちらが本気だというのが伝わったのか、呆れた表情を浮かべつつも、何だかんだで応えてくれた。

 

「……で、何にするつもりなんだ」

「あはは、それがまだ浮かんでなくて」

「思い立ったら目途が立たずともすぐ行動、幼児か貴様」

「う……」

 

 少しだけ怒気を含んだ言葉に委縮する。

 でも引かない。ポジティブポジティブ!

 

「なら、勇次郎が考えてくれない?」

「あん?」

「勇次郎に付けられた名前を名乗って、勇次郎にだけ特別な名前を呼んでもらう。最ッ高じゃない!」

「俺へのプレゼントという話は何処へ行った……」

 

 呆れたような顔をしながらも、僅かに思案するような表情を浮かべて、何処か遠くを見つめる勇次郎。

 黙り込んだ勇次郎の顔を眺めながら、静かに待つ。

 どれくらい経ったか、勇次郎が傾けていた顔を戻した。

 私をじっと見つめ、口を開く。

 

「てるよ」

「てるよ? 意味は?」

「輝らす夜。輝夜と字も意味も変わらん。読み方の違いだけだ」

 

 ふんすと鼻を鳴らす勇次郎。その顔は、何処か満足そうに見える。

 勇次郎的に、割と会心の出来なのだろう。日本人的にどうなのかは分からないけど。

 聞く限り、ジョンやメアリーみたいに、割とありふれた名前のように感じる。

 後でちょっと絹代に聞いてみたいな。

 

 まぁ、正味周りがどう思おうとどうでもいいけどね。

 勇次郎が、私の為にわざわざ考えてくれた名前だ。喜んでそれを名乗ろう。

 むしろ、冗談だと言われても名乗る。絶対に名乗る。

 ありふれた名前? その中で勇次郎にだけ渾名を許すというのは、むしろ特別感が高まって良いではないか。

 

 三つ指を突いて腰を折り、頭を下げて上目遣いで勇次郎を見上げる。

 クソ野郎に習わされた、初夜の時にするのだという座礼。

 初々しい大和撫子の新婦を演じる為の作法らしい。

 こんなもの、絶対に使ってたまるかと思っていたけれど、思わぬ所で役立つ事もあるものだ。

 

 私は既に2回も勇次郎とセックスをしているから、初々しいも何もないけれど。

 それでも、気分的には初々しい新婦だ。

 なにせ、今から私は輝夜からてるよに変わるのだから。

 

「天津神てるよでございます。輝夜の名、これより貴方様にお捧げ致します。範馬勇次郎様、改めまして、これからどうぞよろしくお願い致します」

「範馬は名乗らんのか」

「まだ、勝負は続いておりますので」

「そうか。いや、それでいい」

 

 体を起こし、指の先だけでゆっくりと床を擦る様にして、体を前へと動かす。

 そうして勇次郎の前まで行くと、僅かに腰を上げ、組まれた足の上に座った。

 体を半身にして、勇次郎の胸に肩を預けるような体勢。そこから更に力を抜き、勇次郎の体にしな垂れかかる。

 彼の頬に唇を落とす。一度ではなく、何度も。私の気持ちを伝えるように、何度も。

 勇次郎は振りほどく事なく、ただ手をポケットに突っこんだまま、静かに目を閉じて受け入れてくれた。

 最後に、顔をすりすりと擦り付けて離れる。

 

 再び勇次郎の前で三つ指を突いて首を垂れる。

 それを、ポケットから手を出した勇次郎がただ見ていた。

 

「………………」

 

 ……ここからどうしよう。

 いや、教わったのは今ので終わりなのだ。

 あとは、そのまま抱こうとする相手に身を任せるのだと、それで説明は終わった。

 なので、教え通りに行くのなら、このまま勇次郎に抱かれるのが正しい作法なのだろう。

 けど、まぁ。今からセックスなんぞしたら、外で布団の洗濯をしている絹代がブチ切れるだろう。

 しかもここ、リビングだし。

 ……いや、ホントにここからどうしよう。

 

 頭を下げたまま、勇次郎を見上げる。

 そして、ふと思った。なんでさっき勇次郎はポケットに手を入れてたんだろうかと。

 座ったまま、しかも胡坐の状態で手をポケットに入れるなんて、やり辛くてしょうがないだろうに。

 しかも、私が離れた途端に手を……私が離れた途端?

 

 ゆっくりと身体を起こし、再度勇次郎にしな垂れ掛かってみる。

 身体を傾けて胸を押し付け、勇次郎の首元に顔を埋めた。

 すんすんと匂いを嗅ぎながら、犬の様にぐりぐりと頭を押し付ける。

 そうしながら、視線を下に落とす。

 

 ……勇次郎は、ハンドポケットをしていた。

 さっき出したばかりなのに、わざわざ。

 

 頭を首元から上げ、勇次郎の顔を覗く。

 見た限り、勇次郎にそれをしている自覚は無さそうに見える。

 ……なるほどなるほど。

 

「ふふ~ん♪」

「なんだ、突然機嫌良さそうに」

「何でもございませんよ、勇次郎様♪」

 

 予想外の、されど最高のご褒美だ。

 もう一度首元に抱き着き、鎖骨の凹みに顔を埋める。

 すりすりと顔を擦り付けていると、急にガシッと頭を掴まれた。

 痛くない程度の力でグイッと頭を後ろに引かれ、無理矢理顔を引き離される。

 

「まぁ、なんでも構わんが……」

 

 勇次郎の顔の前へと持っていかれる。

 こちらを見下ろす勇次郎と、目が合った。

 

「敬語は止めろ」

「あ、はい」

 

 

三十話、三十一話の改稿について

  • 純愛方向に傾けて正解
  • 曇らせの方が良かった
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