世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
私が名前をてるよへと変えてから三日。
日の光が眩しい真昼間に、私はその事に関して光成の助けを得るため、光成邸へとやって来ていた。
「お邪魔するわね、光成」
「おぉっ、よく来たのぉ輝夜!」
一面に畳が敷かれた大広間。一段高く作られた上段の間に、光成は座していた。
背中には
事前に電話をして話を通しておいたからか、彼の前、下段には大きな座布団が敷かれていた。
座布団の上に正座で座り、面隠しの為の錦帽子を外す。
外した錦帽子は、一歩後ろに控えた絹代に持ってもらった。
「うむ、相変わらず美しいの」
「よく言うわよ、さほど興味もないくせに」
「いやいや、ワシだって綺麗な物には興味はあるわい。お主と勇次郎の闘いの方が万倍、というだけでの。何時になれば見れるかと考えると心が高鳴るわ」
「相変わらずの格闘技マニアね」
「こればっかりは性分じゃからの」
お茶を点て、茶菓子を置き部屋から出て行く女中。
彼女を見送ってから、光成が軽い世間話を始めた。
それに合わせて、私も軽口で答える。
数分ほど世間話をしていると、喉が渇いたためにお茶を含んで唇を濡らした。
ついでに茶菓子を指で摘まみ、一口齧る。
うん、甘くて美味しい。
茶菓子にパク付く私を見て、どこか期待する様に光成が口を開く。
「それにしても、なんか普通に動いとるのぉお主。もう怪我は治ったのか? 全治5ヵ月の筈じゃが」
「ある程度はね。……言っておくけど、多少の戦闘ならまだしも、勇次郎相手は無理よ?」
「むぅ、そりゃ残念じゃのぅ」
怪我の気配など見せない私に、もしかしたらと思ったのだろう。
けれど、残念ながら今の私では勇次郎とは戦えない。
正確には戦えるけど、どうせ真面な戦闘にはならないからやらない、という方が正しいのだけど。
激戦に耐えうる程には怪我が完治していないのと、単純に私の技術不足が原因だ。
今の私であの夜の闘いを再現するとして、恐らくは虎王辺りで負ける事になると思う。
勇次郎が消力を攻略したら、もっと早くに決着が付く可能性もある。
もう一度あのレベルの闘いが出来る。強い私が見れる。
そう期待させておいて、結局蹂躙で終わってはあまりにも勇次郎が可哀想だ。
私の返答に、少し残念そうに光成が肩を落とした。
とはいえ、なんとなく予想はしていたのだろう。
特に引き摺る事無く、手に持っていた
ふかされた白い煙が空中に溶けていく。
葉巻タバコ特有の、タールの嫌な臭さは特にない。
僅かなタバコの葉が焼ける良い匂いが鼻をつく。
もう一度煙をふかし、光成が本題を切りだした。
「それで、今日は何の用で来たのかの? 用がある事は聞いとったが、用件までは聞いとらんかったからの」
「ん、実は名前を変えたいと思っているのよ」
「なるほど、ワシにそれを法的に受理させてほしいと」
「ええ。職業柄、戸籍なんて無さそうだしね」
戸籍なんてもの、絹代に聞くまで存在すら知らなかったけどね。
なんでも、日本で一般的な生活をするのなら、必ず必要となる人の出生から死亡に至るまでの、親族関係を登録公証するものらしい。
ぶっちゃけそこまで必要とも思わないけど、公的に認められるというのが私の心に刺さった。
勇次郎に付けられた名前を、正式な私の名前だと周囲に周知出来る。
これで気分が浮かれない方が嘘という物だ。
「ふむ、範馬に変えるという事かの?」
「いえ、苗字は変えないわ」
「む?」
光成の言葉に、首を振って否を返す。
小首を傾げる光成に、私が変えたいのは苗字ではなく名だと告げる。
「私の新しい名前はてるよ、天津神てるよよ」
「てるよ……古風な名前じゃの。それでよいのか?」
「ええ、これがいいのッ! なんてったって、勇次郎が付けてくれた名前だもの!」
「……ほほぉ?」
勇次郎の名前を出すと、途端に反応が良くなった光成。
僅かに身を乗り出す彼に、私は一言一句違える事無く事の経緯を説明した。
流石に私と勇次郎の闘いを語った時ほどではないけれど、光成は最後まで楽しそうに、私の話を聞いていた。
身振り手振りを行い、興奮気味に語る私に、絹代は少し呆れたような視線を向けていたが。
背中に刺さるその視線に、気付いてないフリをする。
全てを語り終えた後、光成は興味深そうに頷いた。
「ほっほぉ、まさかあの勇次郎がなァ……それも愛してると言わせる勝負か」
「ええ、これに勝つまで、私は範馬は名乗れないし、名乗らないの」
「その上で、輝夜の名も誰にも呼ばれたくないと」
「その名前は勇次郎に捧げた物だからね」
「うむ……ヨシッ!」
煙管を置き、パンッ! と膝を叩く光成。
そうして立ち上がり、私の元まで歩み寄って来る。
「お主の改名、ワシがやってやろう」
「ほんと!?」
「じゃが、一つ交換条件がある」
ニコリと笑う光成。
彼は手をゆっくりと私に差し伸べ、何処か楽しそうに告げる。
「ちょっと付き合ってほしいんじゃよ」
「え、嫌」
即答で却下すると、光成がカチンと固まった。
いや、そりゃ嫌に決まってるでしょ。なんで私と光成が付き合わなきゃならないのよ。
むしろ、なんであんなにも勇次郎への愛を語ったばかりの私を誘うのよ。靡くわけないでしょうに。
困惑していると、苦笑いを浮かべた絹代が囁いてきた。
「……あの、付いて来てほしい所があるという意味かと」
「あ、そういうこと? なら良いわよ」
なぁんだ、そういう事か。
思わず却下してしまったが、そういう事なら構わない。
というか、冷静になって考えると、そう言う意味にしか聞こえないわね。
私に擦り寄ろうとするものを思わず断とうとしてしまったわ。
身持ちを硬くしようとして、柔軟性と常識まで削れてしまったようだ。
私、反省。
即答で却下されて固まっていた光成の手を握る。
すると、硬直から復帰した光成が私の手を引いた。
抗う事無く、それに従って立ち上がる。
「それで、何処に行くの?」
「うむ、御伽の国じゃよ」
「デ〇ズニーランド……?」
「そんな所より、ずっとスリリングで楽しい所じゃよ」
——— ———
「うむ、ここでよい。護衛も要らん」
「はっ」
黒塗りの高級車に乗って約一時間。
着いたのは、巨大なドームであった。
見ていると、なんだか父が連れて行ってくれたドームを思い出す。
格闘技と出会ってしまった……いや、出会わせてくれたあの会場に。
私の全てが始まったあの場所に。
……なんだか、少しだけ懐かしい。
「こっちじゃ」
何処かへと歩き出す光成を追う。
ドームが近付くにつれ、人の姿も多くなってきた。
三人揃って着物であるが故に、洋服を着用した者達の好奇の視線が集まる。
錦帽子を深く被り、万が一にも顔を見られない様に隠す。
深く錦帽子を被るため、視界が僅かに狭まる。
それでも転ぶ様な事は無いが、少し歩きにくくはなる。
絹代が手を差し出し、杖替わりになろうとしてくれた。
ありがたく手を借り、それを支えにする。
「ねぇ、光成」
「うん? なんじゃ」
「御伽の国ってこのドームの事でいいの?」
「少し違うの。正確には地下じゃ」
「地下? 東京ドームの地下には貯水槽と競輪場のみがあると記憶しておりますが」
光成の言葉に、絹代が口を挟む。
それに対して、光成はひらひらと手を横に振った。
「一般的にはそうじゃがの。事実は違う」
昭和60年5月。
東京都文京区後楽に巨大ドーム建設のため、大規模な工事が行われた。
地上6階、地下2階。本来はこの通りに作られる筈だった。
だったとあるように、事実はそうではない。
この時、一人の財界人が口を挟んだのだ。
彼の要求は一つ。
地下に私的な空間を作らせてくれ。それだけだった。
対価として、建築費の援助を行うともあり、すったもんだはあれど要求は通った。
そうして作り出されたのが、御伽の国。
「その資金援助をしたのが光成って事ね」
「大正解♡」
「あはは……」
お茶目に笑う光成。
でもやってる事はまるでお茶目じゃない。
ドームの側面にある、関係者以外立ち入り禁止の札が貼られた階段を下りる。
階段を降りきった先には、横に繋がる長い通路があった。
一定間隔に取り付けられた天井の丸いライトが通路を照らしている。
通路を渡り、奥まで来ると、あったのはなにやら刻印が施されたエレベーターであった。
「徳川の紋……」
「徳川? 光成の苗字じゃない」
「そうじゃよ? ここは300年前、ワシの曾曾曾……曾曾曾曾曾……? ……まぁええわい。11代前の祖先、徳川光圀がこの地に作りたもうた御伽の国を再築したものじゃからの」
「水戸黄門ですか」
光成が、つらつらと語り始める。
1615年、大阪夏の陣。天下統一を成していた豊臣家が滅亡。
戦国時代に終止符が打たれ、平穏な世が訪れた。
しかし、これは戦のみが自己表現の場であった武芸者にとっては、冬の訪れにも等しい。
どうにかして自身の武を知らしめたい。その結果が、事件へと発展する事など、もはや言うまでも無く。
日本の各地で血なまぐさい事件が急増。平穏な筈の世は再び乱れ始めた。
それを憂慮した時の将軍、徳川家光は武芸者のための自己表現の場の設置を決意。
信を置いていた腹心、光圀にそれを成すように命ずる。
光圀は漫遊記として語られる様な旅を始め、その傍ら、日本各地に存在する武の発散に悩む武芸者をスカウト。
集めた武芸者達を引き連れ、彼は別邸のある後楽園に場を設えたのだった。
……うん。日本の歴史はサッパリだから、全然話について行けない。
大阪夏の陣って何? 天下統一? 豊臣家……戦国時代? 将軍って何よ?
……まぁ、要は光成の祖先がこの場所に御伽の国を作って、廃れたそこに東京ドームが建つ計画が発生。
そこに丁度いいと、光成がもう一度東京ドームの地下に、御伽の国を作ったって事でしょ?
取り敢えずそこだけは理解出来た。
何やら時代考証を始めた絹代と光成に僅かな疎外感を感じながら、エレベーターに乗る。
光成は開くボタンを押しながら、B1と記載されたボタンを6回、B2と記載されたボタンを3回押した。
開くボタンから手を離すと、エレベーターが閉じて動き出し、B1、B2と下り、止まる事無く更に下りていく。
少しして、チンッという軽い金属音が鳴り、エレベーターが止まった。
プシィッという軽い音と共に扉が開く。
そこには、先ほどの通路よりも豪華な通路があった。
天井にはシャンデリアが吊るされ、床にはフカフカのカーペットが敷かれている。
壁も真っ白な先ほどの通路とは違い、赤と黒の二色でゴージャスだ。
通路の奥には、エレベーターの時同様、徳川紋? とやらが刻印された両開きの扉がある。
光成がその扉に手を掛けた。
「準備はええかの?」
「大丈夫よ」
「では、しかとその目に焼き付けい。これが徳川時代より脈々と続いてきた……」
ガチャンッと重い音と共に扉が開く。
途端、今まで静かだった通路に、どこからか発生した大歓声が響き渡った。
いや……これは扉の向こうから漏れているのか。
僅かな隙間からこれほどの音量。はたして、この先には一体どれほどの人間が居るというのか。
「
開かれた扉。
瞬間、とんでもない程の圧が私の体を叩いた。
まるで水中にいるような、腹を圧迫する衝撃。
それが全て歓声によるものだと、私はすぐには気付けなかった。
圧にも慣れてきた頃、視線を上げる。
扉の先にあったのは、八角形の砂場であった。
木製の柵で区切られたそこを中心として、天井に下げられた照明が空間を照らしている。
広い空間には、実に1000人近い人間がいて。
彼ら彼女らは、一人も余す事無く大声を上げてはしゃいでいた。
「ここが、御伽の国」
「ここが何故、こんなにも人が集まるか。分かるかの?」
「え、何故って……」
そういえば何故なのだろうか。
言ってしまえば、格闘技なんて今の時代何処でも見れるものだ。
テレビを点ければ見れるし、スマホ一台あれば満足は出来る筈だ。
にも拘らず、彼ら彼女らはこうしてここに集まり、こんなにも興奮している。
「それはの……」
光成が口を開こうとした瞬間、歓声が更に高まった。
あまりの煩さに、思わず手で耳を塞ぐ。錦帽子の所為で、音が余計に反響して仕方がない。
光成を見れば、あれを見ろとばかりに笑顔を浮かべて砂場を顎で指す。
その先を見ると、どうやら二人の男が砂場へと現れたようだった。
男の片割れを見て、思わず目を見開く。
「え、あれは……」
「大山?」
出てきた男の一人、それはどう見ても松本大山であった。
あの美味しいラーメン屋台の店主。今度絹代を連れて冷やかしに行こうかと思っていた相手。
何故彼がここに?
「お、知り合いかの?」
「まぁね。もしかして、彼も?」
「そうじゃよ。ここ、地下闘技場のファイターじゃ」
へぇ、大山がねぇ……彼強いのかしら。
放華というファンタジー技術は持ってるけど、完全には習得出来てないみたいだし。
筋肉の締まりも、比べる相手が悪いかもしれないけど、勇次郎や男だった私と比べれば大分甘い。
今の私みたいに、技術で押すタイプなら話は違ってくるけど……パッと見、そういった技術屋には見えない。
う~ん、今一強さが見えてこないのよね……
今やるとしたら、大体37秒くらいかしら。
対戦相手は……ボクサーかな。
丹念に練り上げられた、上半身のミッチリとした鍛え方に比べて、下半身が甘い。
また、力でゴリ押す為なのだろうが、少し筋肉を詰め込み過ぎている。
あれではすぐにスタミナが切れてしまうだろう。
典型的な短期決戦型のヘヴィ級ボクサーの仕上げ方だ。
4秒ね。
「そう言えば、なんで人が集まるの?」
歓声も収まってきた為に、光成に尋ねる。
光成は安全用の防護柵に手を掛け、砂場を見下ろしながらそれに答えた。
「ルールが危ないんじゃよ」
「ルールが?」
「まぁ聞けば分かるわい」
口を閉じてしまった光成。
もう一度訪ねても答えてはくれそうにないので、同じく防護柵に手を掛けて砂のリングを見下ろす。
……? あの砂に紛れてる白いものは……?
視界に入った物がなんなのかを考えていると、カンフー着を着た華奢な男が木の柵を跨ぎ、リングに入った。
大山とボクサーの間に立ち、大声を上げる。
「武器の使用以外は全てを認めますッ!」
「……なんでもアリってこと? バーリトゥードなら珍しくも何ともないわよ?」
「バーリトゥードの禁じ手はなんじゃ?」
「え? 目潰しとか、金的とか、噛みつき……まさか」
「全部OKじゃ」
正気の沙汰じゃないわね。
しかも、それを言うだけ言って、審判はリングの外へと出てしまった。
まさか止めすらしないってこと? 本当に立てなくなるまで、ずっと続くと。
なるほど。きっと、あの白いのはここで散っていった者達の歯や爪なんでしょうね。
終わるまで決して終わらない闘いの祭宴。
……確かに、格闘家にとっての御伽の国だわ。
「始めいッ!!」
ドンッ、と大きな太鼓の音が鳴る。
それを合図に、大山とボクサーが拳を突き出した。
互いに頬を殴り飛ばし、殴り飛ばされてのけ反る。
先に立て直したのはボクサーの方であった。
殴られ慣れた彼は、のけ反りながらも一歩踏み出し、最初に出した拳とは反対の拳を振り上げる。
大山は足を振り上げてそれを弾き、のけ反った体を勢いよく戻す。
体勢を整えるだけでは終わらないそれが、ボクサーの顔にめり込んだ。
口から白い物を2~3粒ほど吐き出しながら、吹き飛んでいくボクサー。
本来なら、ここでストップが掛けられてもおかしくないダメージ。
しかし、ここではそれだけでは終わらない。
大山が走り、地面へと握り締めた拳を振り下ろした。
それを見たボクサーが、体を丸めて後転する。
拳が砂に突き刺さり、そこに埋まった物ごと勢いよく砂が吹きあがる。
運の悪い事に、砂が大山の視界を遮った。いや、ボクサーがそうなる事を狙っていたのか。
後転から起き上がったボクサーが、片足を木製の柵に掛けている。
斜めに傾いた体。本来ならば、そんな体勢で殴った所で力などロクに入りはしない。
地に付いた足と、壁に掛けた足とで力が分散するからだ。
しかし、今回の相手はボクサーだ。
普段から足は避けに専念し、どうすれば腰から上のみを使い、力を込めて殴れるかを研究している、いわば殴りの専門家。
歪な体勢であろうが関係ない。振り下ろされた拳は平常通りの、いやむしろ下ろす分いつもよりも強く力が込められている。
砂で視界の遮られた大山がそれに気付ける訳もなく、大山は頭をモロに殴り抜かれた。
大山の頭が砂に沈む。
「あらあら……」
「だ、大丈夫かね……」
絹代の声に横を見れば、胸の前で手を握り締めてハラハラとしていた。
……なにその可愛い体勢。後で私も勇次郎にやりたい。
じゃなくて。
「大丈夫でしょ」
「な、なんで言い切れるンだい!?」
「あー」
なんかタメ口の絹代って新鮮。
パニクッてる姿もちょっと可愛い。
細かな仕草の一つ一つに女が出てる。
これが天然女子と人工女子の違いなのだろうか。
正直もうちょっと見ていたい。
「ほら、起き上がるわよ」
指を指す。
その先にいる大山は、無表情のまま、特にダメージを負った様子も無くむくりと身体を起こした。
顔にめり込んだ白い粒を指で落とし、距離を取ったボクサー相手に拳を構える。
「起き上がった……!」
「あれね」
振り下ろしというのは、正味そこまで拳によるダメージは無い。
あれの真のダメージは、頭が固い地面に叩きつけられる衝撃と、拳と地面に頭がサンドイッチされる事だ。
衝撃を受け流すことも出来ず、ひたすらに硬い地面に人体の弱点たる頭を叩きつけられる。
何処にもいかない衝撃は直接脳をブッ叩き、継続戦闘能力を奪う。
それこそが振り下ろしの真骨頂。
しかし、あれは完全に振り抜いていた。サンドイッチなど程遠い。
加えて地面は柔らかい砂。叩きつけられた衝撃など全て逃げていく。
故に、あの振り下ろしで大山が負ったダメージは、パンチ一発分のみ。
こんな何でもありの試合に出るのだ、その程度のダメージでK,Oするとは思えない。
「って事なんだけど……聞いてないわね」
絹代を見れば、ハラハラしながらリングを見下ろしていた。
私の御高説など、一切耳に入っちゃいなそうだ。
まぁいいかと私もリングを見下ろす。
睨み合っていた両者が、じりじりと距離を詰めていた。
高まる緊張感。観客たちも手に汗を握っている。
互いに構え……ふと、大山の視線が逸れた。
多分、それはフェイントだったのだろう。
わざと隙を作り、攻め入らせる。
攻撃の為に出来た隙を突き、カウンターを打つ。
恐らくそういうつもりだったのだと思う。
……ただ、運の悪い事に。
逸らした視線の先には、絹代の姿があった。
視線だけだった筈の動きが、顔ごとの動きに変わる。
当然そんな隙だらけの姿を見逃す筈もなく、ボクサーが大山の顎を殴り抜いた。
無防備に食らったせいで脳を揺らされたのか、そのままふらりと倒れる大山。
そのまま起き上がる事無く、担架で運ばれて行った。
「……あー」
なんというか、運悪いわね、彼。
ソワソワが止まらない絹代に、行って来ていいわよと許可を出す。
途端、絹代がダッシュで通路を駆けて行った。
あれ場所分かってるのかしら。
防護柵に寄り掛かっていた体を起こす。
視線を横にズラし、光成を見た。
ニッカニカとした眩い笑みを浮かべている。
まぁ、なんとなく何をさせたいのかは分かったわ。
「私はどうすればいいの?」
それでも、一応尋ねる。
光成は、何の為に私をここに連れてきたのかと。
私の問いに対し、光成は笑顔のままそれを告げた。
「お主にここで闘ってもらいたい」