※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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第三十七話 陽性

 

「「「………………」」」

「すみません、朝っぱらから大声を出してしまって……」

 

 絹代から発された、懐妊という単語。

 それを聞いて、私は思わず早朝の良い時間に、歓喜の絶叫を上げてしまった。

 しかし、今住んでいるこの家は、割と住宅街の中心の辺りに建っており。

 当然ながら、住宅街でそんな絶叫を上げれば、近所迷惑になってしまう訳で。

 私は、苦情を言いに来た近隣住民達に頭を下げていた。

 

 苦情を申し立てて来たのは、若い男が二人と、高齢の女性が一人。

 絹代が居ないからと対応した私を見て、彼らは揃って私に見惚れていると分かる、惚けたような表情を浮かべた。

 浮ついた顔をしている彼らを見て、私は顔を隠すのを忘れていた事を思い出す。

 錦帽子を取りにすぐさま席を立ち、深く被って顔を隠してから戻った。

 

 正直、謝罪の場でする行動ではないと理解はしている。

 謝罪をするというのに無断で席を立ち、しかも戻ってきたら家の中だというのに帽子を被り、顔を隠しているのだ。

 ふざけているのかと怒られても仕方のない行動だった。

 だが、私はそれを理解した上で、勇次郎以外に顔を見られる事に耐えられなかったのだ。

 幸いと言うべきか、男達は隠れていない口元を凝視するのに忙しくて、特に言及はしてこず。

 女性はその美貌なら、自衛の為に隠すのが当然だと、一応の納得を見せてくれた。

 

 勝手に席を立った事に対して、軽く一言謝ってから、騒音を上げた事への謝罪をする。

 自身の妊娠を知って気が昂ったという理由を告げ、小さく頭を下げた。

 

「まぁ! ほんとに!? 妊娠したの!?」

「なにぶん初めての事でして……確定ではないのですが、体調が悪い私に、女中がそれはつわりだろうと」

「まぁまぁまぁ!」

 

 問いかけに対して頷くと、女性が喜色を浮かばせた。

 彼女は興奮した様子で、あれは嬉しいわよねぇと頬に手を当てて呟く。

 それに対して、私は思わずはいっ! と大きな声で返事をしてしまった。

 どうやら彼女は二児の母のようで、私も初めての時はびっくりして大声を上げちゃったわ、と許しをくれた。

 その上で、妊娠初期にするべき事や、気を付けるべき事を色々と教えてくれた。

 

 教えてくれた事は主に3つ。

 お腹の赤子に負担を掛けない方法に、つわりが苦しい時の対処法、そして妊娠線の予防方法だ。

 特に妊娠線が残らない予防方法は、メモに取って真剣に覚えた。

 勇次郎の前では、常に彼に相応しい女でいたいからね。

 妊娠線が残って、美貌にケチが付くなんて論外だ。

 

 色々と勉強をさせてくれた彼女と、世間話で盛り上がる。

 勇次郎との出会いや、どんな所を好きになったのかなどを聞かれ。

 流石に事情が事情のため、細かい部分は誤魔化しつつ、大雑把に強い所に惚れたと説明。

 そして今度は逆に、私が彼女の主人との出会いや、子供が出来て思った事などを聞く。

 少しだけ愚痴の混じった彼女の話は、それなりに勉強にはなった。

 メモをするほど真剣に話を聞く私に、彼女の口も軽くなる。

 

 そうして彼女と話をしている内に、彼女の夫が呼びに来たため話を中断。

 私の事はおばさんと呼んでいいわ。今度また話をしましょうと約束をして、彼女は帰って行った。

 ……最後に、夜に私の嬌声が響いている事を告げて。

 

「~~~~~!?!?」

 

 最後にとんでもない爆弾を落とされ、羞恥に顔が熱くなる。

 今度から、セックスの時はもう少し声を抑えよう。出来るかはさておくとして。

 そう考えながら、私は次に、未だにぼうっと私を見つめている男達へと視線を向ける。

 彼らの瞳には欲情の色が浮かんでおり、目の奥に僅かに害意の光が灯っていた。

 どうにかして私を襲い、嬲ってこの美女を自分の物に出来ないかと、下種な考えを巡らせている事が嫌でも読み取れる。

 

 さて、こっちはどうやって対処しようか。あまり強硬手段は取りたくないんだけどな。

 どうするかと頭を悩ませ、しかしすぐに彼らが顔を引き攣らせて後ずさった。

 振り返ると、特に何をするでもなく、ただ静かに座っている勇次郎の姿があった。

 ただ、その体は不機嫌そうなオーラを隠しもせず、冷気をゾワゾワと垂れ流している。

 即座に欲情の色を消し、恐怖に顔を歪めながら、慌しく尻尾を巻いて帰って行く男達。

 

 男達を見送り、玄関の扉を閉じる。

 カチリと閉まる音がしたと同時に、勇次郎のオーラも消えた。

 勇次郎の元まで行き、組まれた足の上に腰を下ろす。

 背中を預け、彼を見上げた。

 

「もー、朝から苦情入れられて苛付いたのは分かるけど、威圧しないでよ」

「身の程知らずには丁度いい薬だろう」

「……まぁ、彼らのオナニーのネタになるのは嫌だけど、近所トラブルなんて面倒の極みじゃない」

 

 それに直接手を出されても、私なら返り討ちに出来る。

 幾らつわりで苦しくたって、私は勇次郎の女なのだ。

 その程度の自己防衛すらも出来ない程、私は守られるだけの弱い女じゃない。

 例え彼らの思考の中だけだとしても、勇次郎以外に体を許す事になるとか不快だけどね。心ッ底不快だけどね!

 油断して顔を晒してしまったのは私だし、そこに関しては仕方ないと我慢はする。

 

 私の言葉に、勇次郎はフンッ、と興味無さそうに鼻を鳴らした。

 近所トラブルが起きたとして、黙らせればいいと考えているのだろう。

 もう少し穏便に行きましょうよと思いつつも、私が好きになったのはそんな唯我独尊な勇次郎だ。

 それ以上咎める気にもなれず、静かに背中を預けた。

 背中から伝わってくる熱を感じながら、プラプラと足を揺らして鼻歌を歌う。

 

「~♪」

 

 声の美しさで誤魔化されてはいるが、何処か音程の外れたヘタクソなそれ。

 一度、上達の方法を聞こうとしたんだけど、歌姫はむしろそれがいいと言って教えてくれなかったんだよね。

 まぁ好きに歌えばいいって事なんだろうけどさ。

 好きに振る舞う姿が好きだし、それが良いのだ。

 今の私になら、それが分かる。

 

 ……まぁ、幾ら誤魔化そうとしても、下手な事に変わりはないんだけどさ。

 特に好きだった歌姫の曲を思い出しながら、目を閉じて鼻歌を歌う。

 そういえば、この曲ももう聞けないんだよな。

 少しだけ、それが寂しい。

 

 ふと、勇次郎が私の喉を親指と人差し指で挟んだ。

 何かと見上げれば、勇次郎は特に何を言うでもなく、ただ静かに私を見下ろしている。

 何の用かも分からず困惑していると、喉に当てた親指で、クリクリと喉を擦られた。

 少し考え、鼻歌を要求されているのだと思い至り、再び鼻歌を歌う。

 

「~~♪」

 

 音程の外れたそれが再度、部屋に響き始める。

 すると、勇次郎が私の鼻歌に合わせて、僅かに喉に当てた指に力を入れた。

 指で挟まれた喉が広がり、呼吸を乱された事で、苦しくて音が乱れる。

 しかし、乱れた筈の音は、むしろ私が歌う時よりも綺麗に響いた。

 

「力むな。喉を開けて腹から音を出せ。鼻で響かせろ」

「~~~♬」

 

 喉から手が離され、私の自由に歌わされる。

 先程の喉が広がった感覚を思い出し、喉を緩ませてお腹に力を入れる。

 吹いた音を鼻で拡声し、外へと出力する。

 

「~~♪」

 

 予想以上に綺麗に響いたそれが楽しくて、少し音を大きくして吹き鳴らす。

 勇次郎は喉に当てていた指を下ろし、私の太ももに乗せた。

 特に揉んだりするでもなく、ただ乗せられるだけのそれを気にせず、上機嫌に教えてもらったばかりの鼻歌を歌う。

 

 暫く夢中になっていると、かちゃりと玄関の扉が音を立てて開いた。

 そちらを見れば、小袋を手に持った絹代が立っていた。

 絹代は草履を脱いで上がると、私へと手に持った小袋を私に渡してくる。

 

「お帰り、絹代。これは?」

「ただいま帰りました。妊娠検査薬ですよ、薬局で買ってきました」

「えっ」

 

 検査薬? なんで? つわりが来てるんだし、既に妊娠は確定してるでしょ。わざわざ確かめる必要ある?

 首を傾げる私に、絹代が続ける。

 

「生理が来なくて、理由も無く体調が乱れる。ほぼ間違いなくつわりだとは思いますが、一応確認はしておこうと思いまして」

「あぁ……そう」

 

 小袋に手を突っ込み、中にある箱を取り出す。

 箱にはPregnancy Test Kit(妊娠検査キット)と書かれていた。

 箱を開けると、中にはペンの様な物が一つ入っている。

 

「確か、尿を掛ければいいのよね」

「蓋を開けると中に紙がありますので、そこに3秒程度ですね」

「そう……」

 

 静かに勇次郎の上から立ち上がる。

 妊娠検査薬を片手に持ち、トイレへと向かった。

 扉を開き、中へと入る。

 

「……」

 

 便器の蓋は閉じたまま。

 両手の袖を腕に巻き付けてクリップで留める。

 しゃがんで着物の左右、襦袢の左右、そして裾を掴む。

 帯に沿わせ、同じくクリップで挟んで留める。

 垂れた着物、襦袢、裾の折り返し部分を腋で挟んで持ち上げる。

 

「…………」

 

 便器の蓋を開け、股を少し開いたまま便座に座り込む。

 蓋を開けた検査薬を片手に持ち、待機する。

 朝はまだトイレには行っていない為、幸いすぐに尿意が湧いてきた。

 チョロ、と何時もより出が悪い尿に、検査薬を当てる。

 1、2、3と数えて、検査薬を退かした。

 排尿を終えた後に股を拭き、検査薬の変化を見る。

 

「………………」

 

 二つある窓の中。検査薬に染み込んだ尿が、一つ目の窓を染めていく。

 じわじわと登って行くそれが、二つ目の窓に到達した。

 ここからは……結果が出るまで水平にして保つのか。

 説明書を読み、蓋を閉めて検査薬を水平にする。

 

「……………………」

 

 まだか、まだか?

 気持ちが急いている。

 焦る私とは真逆に、結果は中々出ない。

 暫く経ち、二つ目の窓に線が浮かび始めた。

 一つ目の窓には、まだ出ていない。

 

「~~~~~~~~~~ッ」

 

 早く早く早く早くッ!

 ここには勇次郎がいない。

 縋れるものが無い。

 私は勇次郎の女よ。

 そう思っても、不安は止まらない。

 

 ……そして、一分ほどが経った頃。

 

 一つ目の窓に、ジワリと線が浮かんだ。

 

 

「キッ、たアあ嗚ああ嗚呼あああアああッッ!!!!」

 

 

 ダァン! と勢いよく扉を開け、勇次郎に飛びつく。

 勇次郎が特に何を言うでもなく、ただ静かに私を見下ろす。

 その顔の前に、検査薬を突き出した。

 

「陽性! 妊娠! 確定!」

 

 興奮しすぎて上手く言葉を話せない。単語だけの報告。

 だが、それを聞いた勇次郎がクワッ、と目を見開いた。

 何も言わず、ただ私の頭に手をやり、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜてくる。

 混ぜられて絡まり、指に引っかかった髪が引っ張られ、頭皮が痛い。

 

 朝の時点でも、よくやったと言われて撫でられてはいた。

 でも、自身が父になったという感覚に、あまり実感は湧いていなかったのだろう。

 こうして、妊娠したという証拠を突き付けられて、私を孕ませたという実感が湧いたのだろうと思う。

 朝撫でてくれた時とは違う、加減を忘れたその痛みが、勇次郎の喜び加減を表していた。

 勇次郎が喜んでくれたという事実に、口元が緩む。

 

「てるよ様!? 今の声は……」

「絹代! 見て!」

 

 洗濯物を干していた絹代が、慌しく駆けて来る。

 手に持っていた洗濯物が、ひらりと地面に落ちていた。

 それを気にもせず、パタパタと箸ってくる彼女の前に、手に持った検査薬を翳す。

 表示されているそれを見て、絹代が微笑んだ。

 

「良かったですね、てるよ様」

「うんっ!」

 

 絹代が、勇次郎に抱き着く私の捲れ上がったままの着物を、ササッと素早く下ろす。

 晒された裸の下半身が着物に隠され、そこで漸く、私は下半身丸出しで勇次郎に抱き着いていた事に気付いた。

 そんな事にも気付かない程、妊娠の喜びで頭が埋まっていたらしい。

 私の喜び様に、絹代は子供を見る様な温かい目を向けていた。

 

 頭が冷えて、流石に少し恥ずかしくなってきた。

 別に裸なんて、勇次郎と絹代になら見られても気にしない。

 勇次郎は言うまでも無く、絹代だってセックスした後の朝とかに、散々見られてるしね。

 とはいえ、流石にその生暖かい目で見られると、子供の様に無邪気にはしゃいでしまった事を突き付けられて、少し気恥ずかしい。

 

「と、トイレ流してくるわ……」

 

 ササッと立ち上がり、トイレへと向かう。

 扉を閉め、空いたままのトイレの蓋を静かに降ろした。

 絹代に下ろして貰った着物を捲り上げ、挟まったままのクリップを一つ一つ抜き取っていく。

 全てを取り終えた後に、再度着物を下ろして整え、少し緩んだ帯を締め直す。

 最後にトイレの蓋を閉め、小側にレバーを引いて流した。

 妊娠検査薬の箱を手に取り、トイレから出る。

 

 最早、定位置と化した勇次郎の膝の上でコロンと横になり、猫の様に丸まった。

 妊娠の褒美は終わりという事か、勇次郎はただ黙ってベッドになり、特に何もしてこない。

 勇次郎の腕を掴み、撫でてと頭に置くと、勇次郎は手を持ち上げ、頭ではなくお腹に手を当ててきた。

 

 すりすりと、私の事を真顔で見下ろしながら撫でて来る勇次郎。

 セックスの時の、肉棒を実感させようとする、揉み込むような撫で方ではない。

 ただ撫でるために撫でる。そういった、表面を擦るような優しい撫で方だ。

 これはこれで、優しさが感じられて好きだな。

 

 そのまま勇次郎に撫でられる事、約1分ほど。

 不意に、勇次郎に膝から降ろされた。

 ご褒美タイムは本当に終わりという事らしい。

 もう少し、と思いはするが、もう幾ら懇願しても無駄だろう。

 大人しく終わりを受け入れ、絹代に朝食を作ろうと声を掛けた。

 

 仕込みは済んでいるので、後はパパっと調理するだけである。

 着物の袖を捲って、エプロンを着用して台所に立ち……ピンポーンと玄関の呼び鈴が鳴った。

 同じ失敗をしない様に、しっかりと錦帽子を被ってから、玄関の扉を開ける。

 扉を開けた先には、帰った筈のおばさんが立っていた。

 どうやら、帰ってからすぐに再び発された奇声に、今度は何事かと確認しに来たらしい。

 

「で、今度は何があったんだい?」

「あ~、その……」

 

 陽性反応を示している検査薬を見せる。

 幸い、おばさんは怒る事無く、納得を示してくれた。

 何処か生暖かい目を向けてくる彼女に、恥ずかしくて顔を向けられない。

 

 いや、あの、朝からホントすいません……

 

 

 

 ——— ———

 

 

 

「~~~♪」

「……なんか、妙に機嫌良いのお主」

 

 鼻歌を歌いながら、手に持った茶色の粒を撒く。

 水面にそれが落ちる度、パチャパチャと赤と白の二色のコントラストが美しい魚が、粒を食べようと顔を出す。

 跳ねた飛沫が着物に掛かり、されどそんな事すら気にならない。

 

「えへへ、まぁね。実は私、勇次郎の子を孕んだのよ」

「…………なんじゃとぉ!?」

 

 場所は光成邸。

 少し用があって足を運んだのだが、その時丁度光成は魚の餌やりをしていた。

 仮にも権力者として忙しいだろう光成を、アポも無しに急に尋ねたのは私だし、仕方ないから終わるまで待っていよう。

 そう考えてぼうっと眺めていたのだが、何故か光成はやってみぃと、餌の入った籠を私に手渡してきた。

 まぁ折角の機会だしとやってみたが、これが意外と楽しい。

 少し違うが、あ~んをしている気分というか……

 もっと食べろよ~と、ホッコリするというか……

 

 そうだ、今度勇次郎にあ~んを仕掛けてみよう。

 ハンドポケットしてくれるかな~? それとも普通に食べてくれるかな。

 でも、メシなんぞ自分で食えるって拒否されそうだな~。

 今となっては、もう断られるかもしれない事すらが楽しみだ。

 

「ほ、本当なのか!? 勇次郎の子を孕んだと!?」

「ええ。ほら」

 

 ジップロックに入れた妊娠検査薬を、光成に手渡す。

 光成は、まるで賞状を受け取るかのように、両手でゆっくりとそれを受け取った。

 検査薬の一つ目の窓を見て、目を閉じ、歯を噛み締める。

 手に力が入り過ぎて、腕がフルフルと震えていた。

 

「くぅ~、そうか……そうかァ……!」

「本当に妊娠出来て良かったわ。ね、光成」

「おうッ! もしやすると、お主と勇次郎だけでなく、勇次郎とその倅の戦いも見れるやもしれん! 感無量じゃあッ……!」

 

 まるで自分の事の様に……というか、80%くらいは自分の趣味であろう。

 歓喜に身を震わせ、心の底から私の妊娠を祝福してくれる光成。

 そこに含まれた思惑は兎も角、こうまで喜んでくれると、私も嬉しい。

 だが、彼には悪いのだが、私が今日来たのは悲報を伝える為だ。

 

「実は、地下闘技場には暫く行かないつもりなの」

「む、そうか……まぁ流産したら事だしの」

「ええ。このまま戦い続けて、もしも流れたら、なんて考えたくもないから」

 

 特に妊娠初期は、多少の事でも流れてしまいやすい。

 今が妊娠何週目かは分からないけど、今までの時点で大分危険は犯していたのだ。

 知らなかったとはいえ、妊娠しながら戦っていたなんてね。

 

 幸い、今までは一発も真面に攻撃を食らった事は無かった。

 けれど、つわりの所為で、これからもそれが出来る保証はない。

 もしも相手の攻撃が下半身に当たり、それを受け流せなかったら……

 考えたくもない。

 

「お主に会えんとなると、みなが寂しがりそうだの」

「こっちの都合で悪いわね」

「……いや、構わんよ。みなも、事情を言えば納得するだろうて」

 

 そうは言うが、光成の顔は露骨にガッカリしている。

 彼の前でしゃがみ、視線を合わせる。

 

「ごめんなさいね、光成。出産が終わったらまた行くから」

「約束じゃぞ? 待っとるからの?」

「ええ。その時には、勇次郎との戦いも見せてあげるわ」

 

 口を開いて、犬歯に親指を這わせる。

 そして、勢いよく指を横に滑らせ、親指の腹を切った。

 血の流れる親指を、光成に向かって差し出す。

 光成が首を傾げた。

 

「……何をしとるんじゃ?」

「え、約束の儀式よ。血を流す親指をくっつけて、約束だって」

 

 もしかして日本じゃ違うのかしら?

 いや、まぁ私も教えてもらって初めて知った事だけどさ。

 結構通じてたから、割と皆知ってるもんなのかと。

 

「それは知らんが……」

 

 光成は手を握り、小指だけをピンと伸ばした。

 そして小指で私の小指を小突き、指を伸ばす様に促してくる。

 私が小指を伸ばすと、光成が小指同士を絡めた。

 

「指切り拳万、嘘吐いたら針千本飲~ます。指切った」

「……なんか怖いわね」

「遊郭の女が、小指を切って男に贈って、約束の印とした事から来ておるからの」

 

 いやいや、怖いって。

 輝夜の腹切りへの躊躇の無さは、暗殺者の家系のお嬢様だからって事で、一応は納得してた。

 クソ野郎も言ってたけど、裏社会ではメンツが大事で、舐められたら終わりなのだから。

 だから舐められない為に、覚悟を示す必要がある。

 そういう事情があるんだと。

 

 でも、こっちはもうそういう立場とかじゃないじゃん。

 素じゃん。素で約束を結ぶ為だけに指切ってるじゃん。

 しかもそれ、多分自分で切ってるんでしょ?

 えー、日本の女こわ……

 

 思わずドン引きしていると、光成が指を離した。

 

「そうじゃ、妊娠祝いに何かプレゼントでも贈りたいの」

「何時も色々と配慮してもらってるし、別にいいのに」

「ワシがプレゼントしたいんじゃよ。そうじゃのう……」

 

 光成がうんうんと呻りだす。

 時間掛かりそうだし、今の内に餌を上げちゃおう。

 パラパラと、粒を池に撒いていく。

 粒を食べようと、水面で口を開閉する姿が可愛らしい。

 

 暫くして、餌が無くなりかけた頃。

 光成が、ポンッと手を打つ。

 ニッ、と笑い、空を指差した。

 

「地下は行ったしの。次は上なんてどうじゃ?」

 

 

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