世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
「ただいまぁ~……」
引き戸を開け、緩い声と共に我が家の中に入る。
玄関には大きなチャイナシューズが一足、綺麗に並べられて置かれている。勇次郎の靴だ。
見た所、特に汚れや履いた跡は無い。恐らく今日は家を出ていないのだろう。
私も靴を脱ぎ、勇次郎の靴の隣に並べて置く。
「勇次郎? ゆーじろー?」
家に上がり、勇次郎を探す。
しかし返事は無く、また勇次郎の姿も無かった。
「地下かしら」
となると鍛錬でもしてるのかな。
勇次郎の膝の上で包まって休みたかったんだけどな。
健診が終わってから、体が妙に重くて気分があまり優れない。
あれからオートで動かすのを止めて、意識して放華を使うようにしたため、体調という意味ではむしろ良くなっている筈なんだけど。
肉体に由来しない体調不良……となると、精神的なものかな?
朝に家を出る時には、こんな感覚は無かった。
迷子の子供を送り届けた時など、むしろ気分が高揚していた程だ。
そこから察するに、やはり原因は健診にあるのだろう。
とはいえ、健診自体に問題はない筈だ。少し軽薄な印象こそ受けたけれど、腕自体は確かだった。
つまり、問題があるのは健診を受けた私の心の変化。
……いくら勇次郎への愛があろうと、流石に自殺紛いの事を決心したのは、精神に負荷を与えていたという事か。
「愛が足りてないわよ、天津神てるよ」
両の手の平で頬を叩く。
これまで行ってきた気分が落ち込んだ時のルーティンは、不思議とあまり気分を好転はさせてくれなかった。
それでも何の問題も無いと、笑顔を浮かべてよしっ、と両の手を握って気合を入れる。
こんなネガティブ思考丸出しの顔なんて、それを好まぬ勇次郎に見せられる訳がないのだから。
タオルを持ってから地下室への扉を開け、お腹がぶつからない様に気を付けながら、埋め込み式の梯子を下りていく。
予想通り地下室には明かりが点いており、中では下にカンフー着を履いた勇次郎が、上半身裸のまま逆立ちをしながら腕を曲げては伸ばしてを繰り返していた。
それだけではまるで足りないとばかりに頭と腕にゴムチューブを巻き、そこからバーベル用のプレートを何枚も括りつけた重りを垂らしたまま、両の拳を二本の平均台の上に立てながら。
流石にそこまですると勇次郎でもキツいのか、彼の肌には薄っすらと汗が浮かび上がっていた。
私が近付くと彼は私の方を軽く見やり、勢いよく腕を伸ばす事で体を浮かせ、逆さまになっていた体を足から着地させた。
はい、とタオルを手渡すと彼は無言で受け取り、軽く体を拭いてから何か用かと尋ねて来た。
そんな彼の手からタオルを受け取ってから、返事を返す。
「健診が終わったから、結果を伝えに来たの」
「そうか。結果は」
「良好よ。ただ、放華が悪さをしたみたいね」
「ほう? どういう事だ」
垂らしていた重りを外し、私の言葉を促す勇次郎。
そんな彼に、私は2ヶ月半しか経っていないにもかかわらず、赤子が妊娠5ヵ月経っている状態であること。明らかな異常成長に、しかし赤子に特に問題は無く、すくすくと成長していること。
それらを、私なりに考えたそれが起きた理由と共に、最後に赤子の性別が男であることを付け加えて話した。
話を終えると勇次郎はなるほどと頷き、機嫌良さそうに笑みを浮かべた。
「やっぱり嬉しい?」
「当然だ。人間食欲には勝てん。眠くなれば無防備な姿を晒して眠り、性欲が昂れば異性を誘いセックスをして発散する。それと同様に、本来妊娠した母体の腹が膨れる速度は変わらない。三大欲求に並ぶ覆しえぬ人体の法則だ。お前はそれを覆して見せた。それも男児を孕むという最上の形で。気分も良くなるというものだ」
「あ、ありがとう……」
私が聞きたかったのは、あれだけ期待した赤子に10月10日の半分もかからず会える事への感想であって、私の放華の腕が異常なまでに熟達していた事への感想ではなかったのだが。
まぁ勇次郎の機嫌が良さそうだし、訂正する必要も無いか。
言外に流石は俺の女だと言っているに等しい誉め言葉に、ルーティンでも取り除けなかった心の負荷が、一瞬でハワイの青空の如く晴れ渡ったくらいには嬉しかったし。
「え、えへへ……」
自分の顔が勇次郎に褒められた喜びで緩み、赤くなっていると自覚出来る程の熱。
それを冷ます事も、隠す事も無く両手を広げ、少しだけ顎を引いて絹代直伝のカワイイポーズで勇次郎を見上げる。
私の意図を組んだ勇次郎が私の腋に手を差し入れ、私のお腹を圧迫しないように優しく抱き上げた。
横抱きのまま梯子の元まで移動し、膝を曲げてからふわりと跳躍し、地下室から一階までを危なげなく移動する。
そのまま私を下ろす事無く居間まで移動すると、腰を下ろして胡坐を掻き、その上に私を乗せた。
遠慮なく体を丸めて丁度いいポジションを探しながら体勢を調整し、すっぽりと勇次郎の膝の上に収まる。
鍛錬直後特有の仄かに香る汗の臭いと、勇次郎の体温。加えて上に何も羽織っていない為、隆々と皮膚を持ち上げて浮かび上がる艶めかしい筋肉が、すぐ目の前にあった。
枕にするには少し硬すぎる太ももに頬を擦り付け、匂い付けをするように身をよじる。
んん~♪ 至福ぅ……♪
「ねぇ、勇次郎」
「なんだ」
「んー、あー……いや、晩ご飯は何食べたいかなって」
放華による赤子の急成長のデメリット、そして私の出産による死。それを言おうとして……止めた。
言った場合の勇次郎の反応が予測出来なかったのだ。
悲しむとまではいかずとも、多少惜しんでくれるならそれでいい。それだけで私はそこに込められた感情に胸を高鳴らせたまま、満足して死んでいける。
だが、もしそれを言って勇次郎に堕ろせと言われては困る。
もうこれは勇次郎だけが望む赤子ではないのだから。
因みに、悲しみも惜しみもせず、だからどうしたと言われる可能性は無視している。
勇次郎の中で私と子供、どちらの比重が上か分からないからだ。
大事にされているのは分かる。愛しているという言葉こそ一度も聞いた事は無いけれど、夫婦は二人で暮らすものという勇次郎の価値観に基づいて、今こうして二人暮らしをしているくらいには好かれているとも思っている。
しかし、いざ子供と天秤に掛けるとなれば、勇次郎は果たして私と子供のどちらを取るのか。
……正直に言えば、子供の方に傾いているとは思ってはいるし、その覚悟もしている。
元々、私と勇次郎の関係はそれを切っ掛けとし、今まで繋がって来たのだから。私と勇次郎の関係は、この赤子無しには存在しえないものなのだから。
けれど、それを直接勇次郎の口から聞く勇気は流石になかった。
あと、今は貴重なご褒美タイムなのだ。
ご褒美は素直にご褒美として楽しませて欲しかった。
「そうさなァ……お前は何が食いたいんだ」
「私?」
「おう。お前は何時も俺の食いたい物を聞くが、お前自身が食いたい物を作っている所は見んからな」
「そんなの気にしなくてもいいのに……」
別に何か特別に食べたい物がある訳でもないし、何より勇次郎が私に食べたい物を言ってそれを私が作るという、一種の夫婦的行動を私は楽しんでいるのだから。
でも、わざわざ勇次郎がそれを聞いてくるという事は、何か勇次郎なりの気遣いがあるのだろう。ならばそれを断るのも悪い。
とはいえ、食べたい物かぁ……ん、あれかな。
「チャウダー」
「チャウダー……クラムチャウダーか」
「うん。ブレッドチャウダー」
チャウダーとは、ベーコンなどの肉や魚介類、じゃがいもなどの食材が入ったスープだ。似た見た目の料理で言えば、シチューが近いかもしれない。
ただ、シチューとチャウダーが似ているのは見た目だけだ。そもそもの本質からして真逆なのである。
どういう意味かと言えば、チャウダーはあくまでスープだという事だ。そもスープは具材から汁に溶け出す旨味や風味を味わう料理であって、具材そのものの食感や味を味わう料理ではない。
対して、シチューは具材を味わう為の煮込み料理だ。分類的にはスープではなく、メインディッシュなのである。
そういう意味ではシチューよりも、出汁を取りその風味を味わう味噌汁の方が見た目は兎も角、本質という意味ではチャウダーに近いだろう。味噌スープと呼ばれるのはそれが原因でもある。
ブレッドチャウダーは、サワードウブレッドと呼ばれるパンをくり抜き、その中にチャウダーを入れる料理だ。
「
懐かしい記憶に、思わず笑みを浮かべてしまった。
あー、今
懐かしき父に想いを馳せていると、勇次郎が私の頭に手を置いた。
指で髪を梳いてくるその手に、自ら押し付けるようにして頭を擦り付けていく。
暫くして、気ままに撫でて来た手が離れていく。去り際に軽く鼻にデコピンをされ、思わず鼻を両手で抑える。何するのと視線で訴えれば、何故か勇次郎は満足げに口角を上げた。
なんなの……?
「ならば夜はチャウダーだ」
「ん……でも材料が無いから買いに行かないと」
「準備をしておけ。俺は上着を取ってくる」
勇次郎が私を膝の上から降ろし、地下へと跳び降りて行く。
それを見届けてから、私も立ち上がって冷蔵庫の中身を確認しに行く。
「ベーコンとじゃがいも、ニンジンと玉ねぎはあるわね」
無いのは牛乳とローリエ、ホンビノス貝*1か。
ホンビノス貝は兎も角、ローリエは近くのスーパーで見ないのよねぇ。かといって遠出するのも面倒だし……ネギで代用しちゃうか。
サワードウブレッドも売ってないから、適当な生地が分厚いパンで代用するとして。
そうなるとあとは牛乳とホンビノス貝だけね。
あと忘れちゃいけないのがメインね。
チャウダーはあくまでスープ。シチューと違って、他にメインの料理が無ければ物足りなくなってしまう。どうせならチャウダーに合うものがいいわよね。
ステーキ……は昨日食べたし、少し変えてチキンステーキにしましょうか。付け合わせにはアスパラのバターソテーと、バジルとクリームチーズをたっぷり混ぜたトマトサラダを付けましょう。
よし、買うもの決まり!
「準備は出来たか」
「ええ、行きましょう」