世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
シリアス
天高く昇った太陽が、雲に邪魔される事も無く、空から顔を覗かせている。
ポカポカと暖かく心地よい空の下、インターホンへと手を伸ばす。玄関の扉の横に設置された鈴のようなマークが描かれた赤いボタン。
ボタンを押した瞬間に指が少し沈み、同時にくぐもった鐘の音が鳴り響いた。
はーい、という返事と共に、足音が近付いてくる。しかし、その音は家の中ではなく外から聞こえて来た。
音が聞こえてくる方向へと視線を向ける。一拍遅れて、目的の人物が壁からひょっこりと顔を出した。
ぱぁっ、と相手の顔が晴れる。
「あ、てるよ様でしたか! お久しぶりでございます」
「ええ、久しぶりね、絹代」
互いに挨拶を軽く交わす。実に2週間ぶりの絹代との再会であった。
玄関の扉を開け、お先にどうぞと促してくる絹代。ご厚意に預かり、玄関の扉を潜る。
靴を脱ぎ、揃えてから家に上がった。
「本日はどうなされたんですか?」
「ちょっと相談があってね」
「相談、ですか?」
冷蔵庫から冷水ポットを取り出し、コップに麦茶であろう液体を注ぐ絹代。
それを尻目に、テーブルの前に座って家の中を見渡す。たった二週間で何か変化がある筈もなく、家の中は私達が住んでいた頃と殆ど変わってはいなかった。
換気の為か、開けられた扉からは部屋の中が見え、部屋に設置された窓からは庭の様子が垣間見えた。
庭には白い泡の溜まった桶が置かれたまま放置されており、物干し竿には干しかけの洗濯物が無造作に吊るされていた。
洗濯中に来ちゃったのか……邪魔しちゃったかな。
麦茶の入ったコップを私と自分の前に置き、絹代も座る。
テーブルの真ん中に茶菓子入れが置かれ、蓋が開けられた。中には大小様々な花形の茶菓子が入っており、見る者を楽しませてくれる。
「可愛いわね」
「ええ、お気に入りのお茶菓子なんです。中のあんこも甘くて美味しいんですよ」
どうぞ、と茶菓子入れを指で押して差し出してくる絹代。
折角だからと手を伸ばし、小さい物を選んで一つ摘まみ口に入れた。あんこの自然な甘みと風味が口の中一杯に広がる。
麦茶を一口飲み、焙煎された茶葉の苦みと清涼感で口に残った味を洗い流す。
うん、美味しい。
「それで、相談とは?」
絹代自身も一口摘まみ、麦茶を飲んでから話を切り出した。
それに対して私も、相談したかった事を話す。
……一部の本題とも言える部分を除いて。
「なるほど……放華の影響で発作が再発し、赤子が急成長していると」
「ん……まぁ、ね」
「……?」
煮え切らない私の発言に絹代が首を傾げた。ここに来て、未だに私は悩んでいた。
果たしてこれを本当に相談してもいいものかと。
そんな私に、絹代が小首を傾げてから口を開いた。
「それ、昨日の話でいいんですよね? なんで今日来たんですか? そんな大事なこと、すぐにでも相談して頂きたかったんですが」
「あー……」
その言葉に、私はすぐに返事を返せなかった。
どう答えようかと迷ったのだ。
初めて発作が起きてから、今日で14日目。
初めての発作が起きてから健診までに5日間の空きがあるため、この事実を知ってから9日も過ぎている。
既に2回目と3回目の健診も受けており、何度確認してもドクタ―に出産を選ぶ限り、私の死はほぼ確定していると重ねて宣告もされている。
加えて3回目の健診時には、妊娠6ヶ月目に入っているとまで告げられていた。
この事をバカ正直に話せば、まず間違いなく絹代はキレる。キレた絹代は怖いのだ。あまり怒らせたくはなかった。
しかし、半端に半年以上も私のお付きをしてはいないということなのか、絹代の観察眼は鋭かった。
右斜め上を見上げながら、どう答えようと悩む私を見て、絹代の目が吊り上がる。
「……何日ですか」
「えっと……」
「初めて発作が起きたのは何日前ですかッ!」
「……14日前……です」
「はァ!? 健診はッ!?」
「9日前……」
「~~~~~ッ!!!」
テーブルに肘を突いて頭を抱え、口角を上げてヒクヒクと痙攣させる絹代。
苛立っている事を隠しもしないその態度に、私はあはは……と苦笑いをしてお茶を濁す事しか出来なかった。
暫くして、絹代が顔を上げる。良い笑顔であった。
しかしその額には青筋が浮かび上がっており、破裂しそうな怒りを必死に抑えているのが見て取れる。
ひぇ、怖い……
「……で、なんでこんなに相談が遅れたんですか?」
「あはは、勇次郎との同棲生活が楽しくて楽しくて!」
「もしかしなくても、発作の再発を割とどうでもいいと思ってません?」
「うん!」
「わぁ~、いいお返事ぃ……」
元気よく絹代の言葉に応える。絹代は頭が痛そうにしながら、指で額を抑えて俯いた。
再び顔を上げる頃には、その表情にはもう苛立ちは微塵も無く、何かを悟った様な諦めの色が浮いていた。
「まぁてるよ様がそれでいいならそれでいいんじゃないですか。赤子も元気そうですし」
「なんか投げやりになってない?」
「誰の所為だと思ってるんですか……」
ダレノセイダロウナー。
明後日の方向を向いて口笛を吹く私に、絹代がもう一度大きなため息を吐いた。
「で、随分楽しかったようですが、具体的にどんな事をしてたんですか?」
「聞いてくれる!?」
「え、うぁっ、ちょっ、」
身体を乗り出してテーブル越しに絹代の肩を掴む。
絹代が顔を少し赤らめ、体を仰け反らせた。
そんな絹代の反応を無視して、この14日間の思い出をドバドバと語る。
「勇次郎ね勇次郎ねホントカッコいいのよ! 私がつわりで苦しんでる時にはトイレまで連れて行ってくれるし、精神が不安定になったら何も言わずに抱きしめてくれるし、少しでも重い物を運ぼうとしたらすぐに奪い取って持って行ってくれるし、気遣いが出来るっていうか? パートナーとして支えてくれるというか? やっぱり優しい所あるんだよなぁって!
筋トレする時には偶に私を背中に乗せたりするんだけど、筋肉の質が凄くてね! どれだけ動いて汗を掻いてても疲労は全然溜まってなくって、時々鬼の貌も見せてくれたりしてね! 明らかに異質な筋肉構造をしてても、人体の構造から逸脱し過ぎるって程ではなくて、勇次郎も人間なんだよなぁって感じさせてくれるのが暖かいのよ!
買い物の時なんかにはさりげなく車道側を歩いてくれるし、錦帽子をしてても寄ってくる有象無象を無言で蹴散らしてくれるのよ! それでも近付いてくる奴には、私の虐め嫌いに気遣ってるのか投げ飛ばしたりして傷をつけない様に追っ払ってくれるの! 買い物の時には私の負担にならないように買い物カゴとかカートを代わりに運んでくれてね、食べたいものがあったら都度ちゃんと言ってくれて、多少手間な料理でも作ってあげたくなるのよねぇ~~!!
料理だってどんな物を作っても食べてくれてね! 勇次郎が狩ってきた獲物の調理を任された時は信頼を感じて胸がキュンッって来たわぁ! あまりにも食材が珍しすぎて、少し調理に失敗しちゃった時なんかも文句の一つも言わずに食べてくれて! 『お前が食材に向き合って真剣に調理したのは分かっている』、なぁーんて! ~~~
セックスの時だってね!」
「あぁ~、はいはいはいはい、分かりました分かりましたから!」
「そう? まだまだ語り足りないんだけど……」
「もうお腹いっぱいですよ……」
若干げっそりとしながら食傷気味に答える絹代に、首を傾げる。あと一時間くらいは語り続けられるんだけどな。
そんな私を見て、絹代はため息を一つ吐いた。しかし、その顔は仕方が無いと呆れた様に笑っていた。
「まぁ、ちゃんと二人だけでも順調に生活は出来ているようで、私としては安心しましたよ」
「私も少し意外だったわ。普段絹代にかなり助けられてたから」
勇次郎に言われて、ようやく絹代に依存するレベルで頼りきっていた事に気付くくらいに、私は絹代に助けられていた。
そんな私と、実質的な三人暮らしの時には、家事を殆どしていなかった勇次郎が、二人だけでの同棲生活。
まず三日目辺りで、炊事洗濯掃除と段々私の手が回らなくなって、最終的に絹代に救援を求める事になると思っていた。
しかし、意外や意外。
勇次郎は二人だけでの生活になった時、さりげない手伝い程度だが、家事をしてくれるようになったのだ。
埃が溜まっていたら軽く掃除をしたり、あの買い物の日からは買った物を冷蔵庫と冷凍庫に分けて入れてくれるようになったり、乾いた洗濯物を取り込んでくれたり、使った食器を一つに纏めてシンクに置いてくれたりと細かな作業をしてくれるようになった。
本当に地味な事なのだが、やってくれるのとやってくれないのとでは、大きな差がある。
主に私の勇次郎大好きメーター……仕事量的な意味で。
ニコニコと笑みを浮かべる私に、絹代が笑う。
微笑ましい物を見るかのような生暖かい視線に、むふー! と私の機嫌も上がる。
しばし雑談をしていると、ふと絹代が思い出したかのように、それを口にした。
「そういえば、発作が相談内容じゃないのなら、何を相談したかったんですか?」
「あー……」
「?」
そこ突いちゃうかぁ。言い淀む私に、絹代が首を傾げる。
首を傾げる絹代に私は答えず、大きく息を吸って目を閉じた。
そう、ここまでは大前提。私の放華が赤子を急成長させて、そして発作が再発した。ここまでが前提なのだ。
ゆっくり、ゆっくりと肺に取り込んだ息を吐く。
そして、目を開けた。
「絹代」
「はい?」
「私は、多分出産した直後に死ぬわ」
「…………………………はい?」
私の言葉に、唖然とした顔で絹代が固まった。そして眉間に皺を寄せ、何の冗談だと私を睨む。
しかし、私が何を喋る事も無く、真剣な表情で彼女を見つめていると、彼女も私が本気だと悟ったのか、身を正す。
「理由は」
「放華による病原菌の進化。そして病で衰弱した身での出産」
「病は抑えられていた筈では? ……いえ、発作が起きたんでしたね」
「ええ。私も初めて知ったんだけどね、放華って侵入した病気や毒を追い出すだけなのよ。細胞自体を変化させている訳じゃない」
確かに放華は、疑似生命エネルギーを生み出して増幅させ、花を咲かせたり体の自然治癒を促したりといった、限りなくオカルトに近い幻想だ。
しかし事実として太山が行い、そして私も習得した仙道。
これがあったからこそ、私は今クソ野郎に付けられた銃痕に悩まされる事無く歩けているし、今まで発作が起こる事も防げていた。
だが前者は外から受けた傷であり、後者は内部から発生した病だ。
その違いを、私は分かっていなかった。
「輝夜の病は、先天性の疾患よ。最初から細胞に異常があるタイプの病。放華では抑える事は出来ても、治す事は出来ない」
当然といえば当然ではあるけどね。そこまで出来てしまったら、人体改造という名のファンタジーだ。
放華はファンタジーではなく、肉体を健全な状態に戻す、所詮一つの技術でしかない。効果量は兎も角として、効果の内容は筋トレやストレッチとさして変わらない。
肉体の活性や再生を促すことはできても、体を作り替える事までは出来ない。
人間を超越した事象は起こせないのだ。
例えばだが、私が
その時にどれだけ放華を行使して抵抗力を上げようと、進行を遅らせる事は出来ても、物理的に摘出しない限り完治にまでは至らないだろう。
何故ならば、癌は風邪などの様に外部から病原菌が侵入しているのではなく、細胞自体が病原体に変化する病だからだ。
むしろ放華の身体活性の所為で、進行を抑えている間に癌が進化して、何時か放華で抑えられる範囲を超えていたかもしれない。
しかし言ってはなんだが、例え癌にかかったとして、私が癌で死ぬ事は無かったと思う。これに関しては、輝夜の持病も同様だ。
自分で言うのもなんだが、私の放華はかなりの練度を誇る。本来ならば、寿命を迎えるその時までに、放華による抵抗に病の進化が追い付く事など無かった筈だ。
だが、事実として今の私は、既に病の進化に追いつかれ掛けている。
その理由こそが、お腹の子供。私の放華を乱す存在。むしろそんな状態で、未だに何とか病を抑制出来るだけの放華を練れている辺り、自分自分に驚く。
常に横から誰かに押されながら、自転車を真っ直ぐ漕いでいるに等しいからね、コレ。
まぁその所為で、病がどんどん進化し続けてるんだけどさ。
つい二日前に、二度目の発作が起きて吐血もしたし。
とはいえ、放華を止めることも出来ない。単純に抑えが無くなって死ぬからだ。
体を治癒する為の放華が、むしろこの体の病を進化させてしまった。
今放華の使用を止めれば、私は即座に病に追いつかれてしまう。
そうなれば、私はお腹の赤子共々終わりだ。
ならば今は堕ろして、体を治してから次の赤子に期待すればいいと思うかもしれない。だがこれも駄目だ。
なんとなく分かるのだ。
私が孕める子供は、この子で最後だと。
そもそもの話、病弱なこの体で妊娠出来たこと自体が奇跡に等しいのだ。例えこの病が治ったとして、病に散々荒らされた後のボロボロの体に、孕めるだけの生殖機能が残る確率はいかほどか。
つまり今回しかないのだ。私が妊娠出来るのは、実質この子で最後なのだ。
これまで共に過ごした3ヶ月の生活で、勇次郎も私に多少の愛着を抱いてくれてはいるだろう。夫婦の真似事をしてもいいと思うくらいには、気に入られているという自覚もある。
だが、彼の子供を産めない私など、彼にとっては所詮契約を履行する事も出来ない、ただの役立たずに過ぎない。
なんだかんだで、彼は認めた相手には優しい人間だ。私が彼の子供を産めなくても、きっと役立たずはいらん、なんて直接私に言いはしないと思う。
胸に秘めるか、黙って次の母体を探しに行くだけだ。
……そんな事、我慢出来る筈がないだろうッ!!
勇次郎に、子供を産み終えた用無しと思われるのはいい。
だが、孕んだ子供を産む事も出来ず、一度の出産すらも出来ない無能と思われるのは我慢がならない。
勇次郎が私に飽きて何処かへ去るならいい。だが、勇次郎が私に呆れて何処かへ去るのだけは絶対に駄目だ。
彼の目に映る私は、最期までイイ女でありたいのだから。
だからこそ、私は私を犠牲にしてでも赤子を取る。
ただの意地と言われれば否定は出来ない。それでも、無為に死ぬくらいなら、私は勇次郎に相応しい女でいる為に、意地を張り通して死にたい。
これはそういう話なのだ。
私の終わりが近いという話なのだ。
「……は?」
話を終えた時、絹代は何を言うでもなく、ただ茫然としていた。
見開かれた目に止まった呼吸が、絹代が私の話を信じられないと、信じたくないと思っている事を如実に伝えて来ている。
気持ちは分かる。妊娠して、二人暮らしを始めて、あれだけ頼っていた自分に頼ってくる事も無く。
絹代はてっきり、何の問題も無く私が勇次郎との二人暮らしを楽しんでいると、そう思っていた事だろう。
勇次郎との生活を語る私に向ける彼女の、呆れたような微笑まし気な表情が、それを証明していた。
まぁ実際そうなんだけどね。勇次郎との生活は凄く楽しかった。
私もあの健診が無ければ、二度目の吐血をしなければ、絹代の元を訪れるのはもう少し先の事になっていただろう。
だがこれは事実であり、現実なのだ。
私の生は、もうすぐ終わる。
「っぁ…………」
無表情のまま絹代を見つめる私に、絹代も確信を持ってしまったのだろう。私がふざけている訳ではないと。本当に、私の死が近いのだと。
歯が強く噛み締められ、表情が曇りを帯びる。顔を俯かせ、両手で顔を覆う。
そうして暫し、絹代がポツリと声を漏らした。
「……ださい」
「え?」
「その赤子を堕ろして下さいッ!! 今すぐにッッ!!!!」
テーブルをひっくり返しながら両手で私の襟を掴み、大声を上げて迫ってくる絹代。その気持ちが有り難くて、嬉しくて。
でも、その気持ちは決して受け入れられない。
私は悲痛な表情を浮かべる絹代に、黙って首を横に振った。絹代が歯軋りを鳴らし、襟から手を離して立ち上がる。
真っ直ぐ台所へと足を運び、シンクの下にある収納を開けて、するりと包丁を取り出した。
ドスドスと力強く足音を鳴らして、包丁を片手に私の元まで戻ってくる。
爪が白くなるほどに、ぎゅっと包丁を握り締めたまま、息荒く私を見下ろしてくる絹代。
それに対して、私は静かに正座で座ったまま、彼女を見上げた。
「私のお腹でも捌く?」
「……そうしたい所ですが、私では不可能です。私では決しててるよ様には勝てない」
「そうね」
私と絹代では戦闘力に差があり過ぎる。
片方は凶器片手に相手を見下ろし、片方は無手で正座のまま見上げる。
こんな有利な状況だとしても、絹代ではどうやっても私には勝てない。
「ならその包丁は?」
「こうする為のものです」
そう言って、彼女は自分の首に包丁を添えた。
刃を首の側面に当て、少し引いただけで頸動脈を斬れる体勢。
「……どういうつもり?」
「堕ろして下さらないのなら、私は死にます」
「……そうきたかぁ」
まぁ私に対して使えないなら、必然使う対象は自分になるか。
「因みにそれ、どうすれば止めてくれる?」
「てるよ様が……お腹の子を堕ろして下されば」
「それ以外で」
「ありません。例え今力づくで私を止めようと、後で斬ります。選んでください。私か、赤子か」
力強く私をねめつける絹代。
そんな彼女に、鎮圧の為に力を入れていた手から力を抜いた。
どうやら、どうしても今選ばなければならないらしい。
大切な友達たる絹代と、愛しい我が子のどちらかを。
「……ねぇ、絹代」
「なんですか」
「私、貴女が好きよ。今まで私のお世話をしてくれた。女の体に慣れない私に、女の生活を教えてくれた。何かある度に吐血をして動けなくなる私を、都度助けてくれた。料理の仕方も、勇次郎の誘い方も、色んな事を教えて助けてくれたわ。大変だったでしょう? 面倒だったでしょう? それなのに、私は報酬の一つもあげられなくて」
「それは……私がしたかった事だからで」
「うん、だから感謝しているのよ。貴女はかけがえの無い友人よ」
言葉を止め、息を吸う。
そして、それを口にした。
あまりにも恥知らずなその言葉を。
「でも、だからこそ……ごめんなさい」
なんと残酷で、なんと恩知らずな人間なんだろうね、私は。
この体に憑依してから、ずっと世話になり続けた絹代。
そんな大切な友達であり恩人でもある彼女を、我が子の命を産む為に、悩む事すらなく捨ててしまえるというのだから。
私は死んだ後、確実に地獄に落ちるだろう。でも、そんな事は承知の上だ。
歌姫を守る事も出来ず、数多の夢を踏み潰し、正当防衛とはいえ人を殺す事すらして、終いには契約が邪魔だからと下剋上すら起こした私に、天国に行ける要素など無い。
私に、地獄以外の道などありはしないのだ。
ただ目を瞑り、絹代の動きを待つ。暫くの間、家の中に二つの呼吸音のみが響き……カラン、と何か硬い物が落ちる音がした。
目を開ければ、床には包丁が転がっていて。見上げれば絹代が泣きながら私を見下ろしていた。
「……何を言っても、きっと貴女は止まらないのでしょうね」
「ええ。この子は産むわ」
「屋敷の者達にこの事を告げ、無理矢理堕ろさせるという手もありますが」
「そうしたら私は自殺するわね」
迷いなくそう告げる私に、絹代が俯いて大きなため息を吐いた。
この5分程度のやり取りだけで、かなり老け込んだように見える彼女に、私はもう一度謝罪した。
「ごめんなさいね」
「……いいんです、謝らないで下さい。私では、共にはあれても、支えにはなれなかった。全ては私の未熟が致す所。ですから……そんな泣きそうな顔をしないで下さい」
手で頬を抑える。そんな顔をしていたのだろうか。
彼女に言われて顔を抑える私に、絹代が何処か寂しそうな顔を浮かべながら聞いてきた。
「……それで、本当の相談は……なんですか」
これまでの会話で、分かってしまったのだろう。
今まで私が喋っていた事は、相談ではなく報告だという事に。
私が本当に絹代に相談したかった事は、ここからだという事に。
唇を噛み締め、俯く絹代。
ごめんなさいね。そう思いつつも、それを口には出さない。
口に出せば、彼女は謝るくらいなら堕ろして下さいと言うに違いないのだから。
だから、私はありがとうと一言告げて、自分勝手極まりないそれを口に出した。
「私が死んだ後、貴女に私の子供を託したいの」