世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
原作だと山岳監視員は過去編で15年前から、原作開始時点で17年前からやってるらしいです。
この作品ではもっと前からという事で。
勇次郎に下ろして貰い、自分の足で立つ。
不思議そうな顔をしてこちらを見下ろす安藤に、まずは挨拶と頭を下げて礼をする。
「久しぶりね、安藤。最後に地下闘技場で闘って以来だから、3週間ぶりくらいかしら。今回はお世話になるわ」
「おう、久しぶり。期間としちゃあそれくらいだろうな。まぁ何もねェトコだが楽しんでけ!」
ハハハハ! と胸毛の生えた胸を張って笑う安藤。彼の手には大振りの斧があり、上半身に何も羽織っていない事も相まって、何かの作業をしていたのであろう事が察せられた。
私が斧を見ていると、その事に気付いた安藤が、斧を逆手に持ち換えて見えやすい様に
「ついさっきまで薪割りしててな」
「もしかして貴方、本業は木こりだったの?」
「うんにゃ、違うぜ。光成の爺さんに頼まれて、とある存在を監視する山岳監視員をしてんだ。あんまり動きがねェから暇だけどよ。そういう意味じゃ、実質木こりにゃなっちまってらァな」
逆手に持っていた斧を肩に掛け、こっちだと言って安藤が歩き始めた。その後ろを勇次郎と一緒に着いて行く。
しかし山で一人暮らしをしているためか、安藤は慣れた足取りですいすいと先に進んで行ってしまう。私の歩幅を考えない大股での歩きに、段々と距離が離されていく。
このままだと置いて行かれて見失いそうだったため、声を掛けて安藤を止めた。
「ふぅ、ふぅ……私妊婦なんだけど……」
「ハハハハ、悪い悪い! 気が利かなかったぜ」
頭を掻きながら爽やかに笑い、再び歩き出す安藤。
今度は少し大股気味ではあるものの、先ほどとは違って着いて行くのに苦労しない程度の速さだ。
「にしても驚いたよ、まさかお前さんが妊娠するたァな。爺さんから話を聞いた時にゃ耳を疑ったぜ」
安藤の隣を少し早足で歩いていると、安藤が話しかけてきた。
見上げて彼の顔を見る。特に含む物は感じられない。ただ単に手持無沙汰になって、話の話題を振ってきただけだろう。
その振りに合わせるようにして話を返す。
「そんなに意外?」
「おうよ。最初の頃はまだしも、積極的に地下に来るようになってからのお前さんは、正に武術家! ってェ感じのお堅い雰囲気出してたからな。恋愛のれの字も感じなかったぜ」
「自覚は無かったわね。純粋に闘いを楽しんでただけなんだけど」
「お前さんの素はあっちって事だろ。あの気持ちの良い闘いぶりは見てて痛快だったぜ? 爺さんもオレ達も観客も、皆がお前さんの闘いを楽しみにしてた。その分、お前さんが来なくなってからは皆寂しがってたけどな」
「そこまで言われると、悪い気はしないわね」
徹底的に褒め
照れる思いに頬を指で搔いていると、安藤が背を屈めて顔を近付けてきた。唐突に迫ってきた私の倍ほどはある巨大な頭に、思わず首を逸らして距離を取る。
何の用かと聞こうとしたその時、安藤が小声で話かけて来た。
「で、あの男がお前さんの男かい」
親指で後ろを指す安藤。指の先には、ただの一言も喋る事無く、両腕を振る事さえもせずに脇に垂らし、黙々と私達の後ろを付いて来ている勇次郎の姿。
安藤に視線を戻せば、彼の顔には冷や汗が流れており、その緊張具合が言わずとも察する事が出来た。
「そうよ。範馬勇次郎、この子の父親よ」
言いながら膨らんだお腹を撫でる。オレンジ程度だったお腹は、今や大振りメロン程の大きさへと変わっていた。
ここまで大きくなると、流石にゆったりとした着物を着ていても体型を隠す事は出来ず、その膨らみは一目瞭然だ。
安藤の視線が、私のお腹へと向く。それを気にせずお腹を撫で続けていると、中からポコリとお腹を蹴られたような感覚がした。
胎動だ。
少し前から始まったこの感覚。最初は何か分からず困惑したものだけど。
か弱いが、確かにある感覚。確かに成長をしている我が子に、思わず笑みが浮かぶ。
微笑む私に、嘘ではないと悟ったのか安藤が息を呑む。
「ってェこたァ……本当にあの男が地上最強の生物、巨凶オーガって事か。どうりで凄まじい威圧感だぜ」
「カッコいいでしょ?」
「その前に畏怖の念が浮かぶわ。お前さんよくアレと子作りしようなんて思ったもんだ。あれの前で全裸になるくらいなら、この山の月の輪熊と裸で戯れる方がよっぽど安全ってモンだぜ」
そこまで言う……? 割と認めた相手には優しいんだけど。
「アレを射止めた辺り、お前さんの手腕にも驚くがね」
「射止めた……射止めたのかしらね」
「アン?」
私の言葉に安藤が首を傾げる。
性懲りもなく不安になってるのよねぇ。
あれだけポジティブ思考を目指してたっていうのに、また私は勇次郎に好きな女ではなく、お気に入りのペット扱いされているのではないかと、心配してネガティブ思考になっている。
自分でもいい加減にしろアホと、若干苛立ってくるくらいだ。それでも不安が止まないのだから、これはもう性根が臆病と言う他ない。
トラウマ引き摺ってるなぁ。妊娠してから更に酷くなってるから、妊娠による影響もあるのかしら。
「なんだ、夫婦ってェ訳じゃねェのか?」
「ん……知り合い以上恋人以下って所かしらね」
「よくそれで子供なんて作ろうと思ったな……」
少し引いた様子で安藤が呟く。
「いえ、私は大好きなのよ? でも……勇次郎はどうなのか」
言いながらも、私は絹代の言葉を思い返していた。
最後に別れる前に言い掛けた彼女の言葉。
『……もしかして気付いてなかったんですか?』
『え、なにに……?』
『なにって、ホテルで彼が言っていたでしょう? 別に子供は女でも構わないと。あれは実質、子供より——』
実質子供より。話の流れからして、その後に繋がる言葉はなんとなく想像は出来る。
しかし、果たしてその予想は合っているのだろうか。正味絹代の勘違いというだけの可能性もある。
でも、もしそれが本当にそうだったとしたら。
胸の中を覆っていたネガティブな雲を、暖かい感覚が晴らしていく。
……そうだったらいいなぁ。
自然と上がって行く口角。
自分でも分かるそれを見て、安藤が不思議そうにしながら言う。
「まぁよく分からんが、あれほどの男が女に困るとは思わねェがな。わざわざお前さんの為にここまで着いて来る辺り、ベタ惚れだと思うぜ?」
「だといいのだけどね」
少しだけ振り返り、横目に勇次郎の様子を見る。
勇次郎は両脇に垂らしていた手を両のポケットに突っ込み、少しだけ背を曲げたまま、猫のように微塵も歩調を乱す事無く歩を進めていた。
その表情に色は無く無表情。私達と10歩程度の距離を保ったまま、着かず離れ過ぎずの距離を悠然たる足取りで歩いている。
ポケット……いや、今回は関係ないか。
これだけ離れてる上に、私と安藤は小声で話していた。恐らくは聞こえてすらいないだろう。
「お前さんは悪ィ方向に物事を考えすぎだと思うがなァ」
「ごめんなさいね、癖なのよ」
「自覚してる分、良いのか悪ィのか。まぁいい、着いたぜ」
安藤が歩みを止める。俯き気味だった顔を上げれば、そこにあったのは一軒のログハウスであった。
身長が2mを超える安藤が暮らすためなのだろう。上下左右の全てが大きく、まるで木造の城のようであった。
加えてログハウスの後ろ半分は崖になっており、遥か下にある河原とその傍を流れている川が眼下に見下ろせる。
ログハウスの前には巨大な丸太がピラミッド状に重ねられており、綺麗な長方形に整えられた木の棒が無数に地面に転がっていた。
安藤が言っていた薪割り、その跡だろう。
「まるで砦ね。山奥にこんな立派なログハウスを建てるなんてね」
「住みゃあ結構良いトコだぜ。都会育ちにゃ辛いかもしれんがな!」
「食う寝る鍛えるが出来れば都でしょ?」
「ハハハハ、違いねぇ!」
機嫌良さそうに笑いながら、斧を丸太に突き立てる安藤。
「さて、どうする。まずはメシにするか?」
「そうねぇ、勇次郎はどうする? 私は小腹が空いてるからご飯にしてもいいと思うんだけど」
振り返って勇次郎に尋ねる。
背負っていた荷物を外し、肩に担いでこちらをジッと見ていた勇次郎がぶっきらぼうに答える。
「何が出るかは知らんが、俺はまだ要らん。だがお前は食え。ただでさえ貧弱な上に、妊娠して栄養失調に陥りやすいんだ。無理にでもたらふく食い続けて肉を付けろ」
「……ちょっと藪蛇つついたかしら」
3時のおやつ感覚で、軽く小腹を埋めるだけのつもりだったんだけどな。明らかに、それだけでは勇次郎は許してくれなそうだ。
私たちのやりとりに、安藤が面白そうに笑う。
「ハハハ、じゃあメシにするか! 着いて来な!」
ログハウスの中へと入って行く安藤の後を追い、中へと入る。
中に入ってまず目に付いたのは、何故か部屋のほぼド真ん中に置かれた巨大なベッドであった。カリフォルニアキング*1よりも更に大きい、特注であろう布団の一つも無い真っ白なシーツが敷かれただけのベッド。
ベッドの傍には、私の胸丈ほどの高さはあるテーブルが置かれている。その上にはまな板代わりなのだろう、ナイフの突き立てられた血の染みついた円形の木造ブロックが、ぽつんと無造作に置かれていた。
壁には無数のラックが打ち付けられており、無数の鍋や箱が置かれている。食料とそうでない物で保存場所を決めているのか、右手の壁には鍋のみが、左手の壁には箱のみが置かれていた。
鍋は漂ってくる獣臭に加えて、傍に獣肉の燻製が吊るされている事もあり、保存用に肉か内臓の漬物でも作っているのだろう事が察せられた。
箱は……銃用の雷管だろうか。
部屋の隅にはなにやら機械の載ったテーブルがあった。機械の上部にはアンテナが付いており、側面からは電線が伸びており、マイクと繋がっている。
恐らくは、あれが麓の病院と連絡を取るための無線機なのだろう。
「そらそら、座った座った」
血の滴る肉の塊を木造ブロックの上に乗せ、安藤が椅子に座る。それを見て、私も対面にある椅子に腰掛ける。
木の塊とも言える椅子は、意外にも座り御心地が良かった。やすりが掛けられているのか、触れた座面は滑らかで、座っていて不快感を一切感じない。
その割に座面以外は樹皮すら剥いでおらず、自然そのままだ。木に腰掛けているという感覚があり、とても味わい深い良い椅子だと思う。
……ただ、問題は。
「……背が届かないわね」
「ブハッ、ハハハハハッッ!!」
「ちょ、笑う必要ないでしょぉッ!?」
予想は出来ていた事だが、元々私が立った状態で既に胸丈の高さがあったテーブル。そこに椅子に腰掛けた私だ。
今の私は、テーブルから額の先端程度しか頭が出ていなかった。当然、私の視界にはテーブルとその下から覗く安藤の下半身しか映っていない。
「ククク、気が利かなくて悪かったな。ちょいと待ってろ」
目尻に浮かんだ笑い涙を指で拭いながら、安藤が外へと出て行く。少しして、安藤が何かをしているのか、外から何やら大きな物音がした。
待ってろと言われた身ではあるが、気になって立ち上がり、何をしているのかを確かめに行く。
扉からひょっこりと顔だけを出して覗いてみれば、安藤は斧を片手に太い丸太を真っ二つにしていた。大きく振りかぶって振り下ろし、長い丸太を短くしていく。
そうして出来上がった木のブロックを担ぎ、安藤がこちらを向いた。
私が見ている事に気付いた安藤が、誇らしげに担いだそれを持ち上げる。
「おー、出来たぞ、椅子だ」
「
節くれとかが凄くて、座っただけでお尻に穴が増えそうなんだけど。
眉を顰めて、言外にそれに座りたくないと示すと、安藤が流石に直には座らせねぇよと言いながら、部屋の中へと入って来た。
テーブルの前に担いでいた木のブロックを置いた後に、タンスからバスタオルを取り出す。そして取り出したバスタオルを畳み、ブロックの上に置いた。
「そら、座ンな。なめすのは後でやってやっからよ」
「ん、分かったわ。ありがとね」
畳まれたバスタオルの上にお尻を乗せる。ふわふわとしたバスタオルは、切られたばかりの木の節くれを余さずガードしており、柔らかな座り心地を実現していた。
新しく作られた椅子は先ほど座っていた椅子よりも高く、座った私は胸から上が出る程度の高さからテーブルを見下ろしていた。
その代わりとでもいうのか、足が指先しか床に着いていないが……まぁこれくらいは許容範囲だろう。
「それで、何を食べさせてくれるのかしら?」
「おうよ、これだ」
品目を尋ねると、安藤はニヤリと笑いながらテーブルを指差した。
指が差す先には血の滴る肉塊が、その姿を晒している。
「これでステーキってこと?」
「いいや、生だ」
「……刺身?」
「おうよ! オレがこの拳で手ずから仕留めた熊の刺身だ! ご馳走だぜ、たらふく食いなァ!」
握り締めた手を掲げて言う安藤に、思わず目を瞬かせてしまった。
……え、正気で言ってる?
「一応聞くけど、これ天然よね?」
「当然だ。殴り合って仕留めたのを捌いたモンよ!」
「寄生虫は?」
「ンなモン消化出来るだろ」
「……ゆーじろぉ~!!!」
寄生虫なんぞ知らんと言い放つ安藤に、こりゃ駄目だと勇次郎にヘルプを求める。
豚などが分かりやすいが、栄養状態や衛生に気を付けて育てた家畜ですら、寄生虫は無数に潜んでいるのだ。野生の肉など言わずもがな。
当然、そんな肉を冷凍も加熱もせずに生で食べれば、寄生虫に蝕まれて苦しむ事になる。というか、普通に死ぬ。
御馳走だからたらふく食えと言ってくる辺り、安藤は今までに何度も食べて来て、その上で寄生虫に苦しんだ事は無いのだろう。
だけど私は無理だ。絶対無理。
ただでさえ病弱なのに、そんな物を食べたら速攻でコロリだ。例え私が死ななくても、お腹の子供に確実に悪影響が出る。
ベッドに腰掛け、私たちのやり取りを眺めていた勇次郎が、私のヘルプに反応して仕方ないとでも言いたげに鼻を鳴らした。
「安藤玲一といったか」
「おう。そういや挨拶してなかったな、勇次郎」
「その肉だが、俺やお前なら兎も角輝夜に食わせるな。せめて焼かせてやれ」
「かぐ……あァ、てるよの事か。いやしかし、折角の刺身だぜ?」
「だから俺とお前は兎も角と言ったろう。毒も食らい、栄養も食らい、共に美味いと感じるのが食には肝要だが……輝夜に生の熊肉なんぞ食わせたら、最悪
「体が弱ェたァ聞いてたが……そこまでかァ? あんだけ強ェお前さんが」
疑わし気に聞いてくる安藤に、コクコクと何度も頷いて肯定を返す。
必死に頷く私に、本当の事だと悟ったのか、安藤がなら仕方ねェわなと残念そうに呟いた。
椅子から立ち上がり、部屋の隅から携帯コンロとフライパンを取り出し、私の前に置く。
「そら、お好みで焼いて食べな。ガスは入ってる」
「ありがとう、安藤。ごめんなさいね、折角獲ってくれたのに」
「んにゃあ、食えねェなら仕方ねェさ。死んでほしい訳じゃねェしな」
コンロの点火ハンドルをひねり、火を付ける。
滴る血を油代わりにたっぷりとフライパンに入れ、湯気が出始めた辺りで熊肉を投入。肉の焼ける良い音が響き、ふわりと香ばしい匂いが広がる。
それを尻目に、安藤はナイフで生の肉塊を切り取り、そのままナイフで刺して口に放り込んだ。咀嚼しながら小皿に載せた棒状の何かを手に取り、そのまま齧る。
「ック~~~~~!!」
「それなぁに?」
「お? おぉ、ワサビさ。この山で取れた新鮮な奴よ。齧ってみるか?」
「ワサビ? ん……肉を食べてから頂こうかしら」
焼けた血で少し赤錆び色ではあるものの、肉自体には赤身が無い事を確認して、フライパンの肉を口に放り込む。
刺身にするためか、脂肪とスジが取り除かれた肉は、よく身が引き締まっていて歯応えがあった。
コリコリとした食感が噛んでいるだけで楽しく、されど噛む度に溶けていく様な柔らかさもある。
塩の一粒すら使わない、自然そのままの美味しさが、透き通るように口の中に染み渡って行く。
「ん! んんぅ~~♪」
「ハハハハ! ンメェだろ。新鮮な良いトコの肉だからな。出来れば刺身で食って欲しかったが、焼いても絶品の筈だ」
「ええ、こんないいお肉高級レストランでも早々無いわよ!」
もう一口肉を齧ってから、棒状の何か……ワサビを手に取る。前の体の時は食べた事が無かったが、この体になってからワサビ自体は食べた事がある。
スシの内部に隠された緑色のそれは、ツーンとした鼻を突き抜けるような辛みがあって。初めて食べた時は、思わず毒を疑ってしまった程だった。
慣れれば辛さの中に甘味もあって、美味しく感じられるようにはなった。けど苦手意識が拭えるまでは、食べたくないと取り除いていたな。
そのワサビとこれが……同じ?
ジッと見てみるも、どう見ても同じには見えない。というか、そもそも色からして違う。
私が見て来たワサビは緑色であり、これはどう見ても白だ。でも安藤はワサビって言ってるしなぁ。
確か、そのまま齧ってたわよね。
安藤の真似をして棒状の細いワサビを口に運び、少しだけ歯を立てる。
味は……しない?
「齧り取ってから歯で
「磨り潰す……」
歯に力を入れて齧り取り、上顎と下顎で擦る様にして磨り潰していく。
ゴリゴリと臼で潰すように磨り潰していき……口の中でワサビが爆発した。
痺れるような辛さが、口の中の感覚を次々に殺して麻痺させていく。
「ッ、フゥ~~~~~!?!?!?」
「ハハハハハ! 辛ェだろ。山ワサビは本ワサビの2倍は辛ェからな!」
ナニコレナニコレナニコレ!?!?
緑色のワサビとは違い、ひたすらに辛い。甘味など無く、鼻を突き抜ける風味が鼻だけでなく舌まで刺激する。
不味くはない。むしろ美味しい。美味しいのだが、辛みが強すぎて自然と涙が溢れてくる。
焼けた肉を口に何個も放り込み、磨り潰したワサビとあえていく。舌や口壁に塗されたワサビをこそげ取る。
最後に肉を飲み込み、水を一杯丸々飲み干した。
……いや、かッッッッら。
美味しいけど辛すぎ。
「悪くねェだろ」
「そうね、痺れるような辛さが美味しいわ。でも私はもういいかな……」
「ハハ、まぁ試食程度ならまだしも、妊婦は食い過ぎねェ方がいいわなァ」
そう言って、安藤は再びワサビを齧り、機嫌良さそうに呻る。
それを見ながら、私は焼いていた最後の肉を箸で取った。肉を口に運び……運んでいた手を取られて持ち上げられた。
口へと運んでいた肉は、私の手を取った人物……勇次郎の口の中へと消えて行く。
「え、え……?」
驚いて目をパチクリと瞬かせていると、勇次郎は最初に私が座っていた椅子を手に取り、私の横に置いた。
ドカッと座り込み、ワサビを手に取って齧る。勇次郎は特に反応する事も無く、ワサビを口の中で磨り潰しそのまま飲み込んだ。
え、結局勇次郎も食べるの? っていうか関節キス……
呆然と勇次郎を見つめていると、彼が私を見る。
「俺の分も焼け」
「あー……それはいいけど、生で食べないの? 勇次郎は食べれるんでしょ? 多分刺身の方が美味しいわよ?」
正直、寄生虫すら殺す体とかいうファンタジーが信じられないのだが。実際に安藤が生で食べている事からして、彼らには寄生虫など何の問題にもならないのだろう。
安藤が平気なのに、勇次郎では無理なんて事があるとは思えないし。
なのに、なぜわざわざ焼いて食べようとするのだろうか。言っては何だけど、魚の刺身を芯まで火を通してから食べるような、無粋な食べ方よコレ?
「俺が食いたいから食うんだ。それに文句があるか」
「いや、無いけど……」
まぁ勇次郎がいいならいいか。
塊からナイフで肉を切り取り、フライパンに乗せて焼く。
暫くしてある程度火が通った辺りで、勇次郎が手を伸ばした。
素手のままフライパンに伸ばされる手。それを止める。
「あ、待って」
「あァ?」
訝し気にしつつも、伸ばしていた手を止める勇次郎。
そんな彼に、箸で肉を取って口元に差し出した。
「はい、あ~ん♪」
「……ガキか俺は」
「……だめ?」
口元へ伸ばした手をそのままに、勇次郎を見つめる。
勇次郎は暫くの間、箸で挟まれた肉を見て葛藤して。そして、諦めたようにため息を吐き、舌打ちをしてから私の差し出した肉に食らいついた。
テーブルに肘を突いた右手でワサビを手に取って齧り、膝の上に乗せていた左手をポケットの中に入れて行く。
その様子を見て安藤が揶揄うように笑い、勇次郎に殺気を飛ばされて冷や汗を掻いていた。
しかし、そんな事に興味は無い。
「~♪」
肉は美味しく、好きな人に手ずから料理も食べさせられる。
楽しい昼食の始まりだ。