※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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第五十話 薪割り

 

「なァ勇次郎よ、ちょっといいかい」

 

 それは昼食を食べ終わり、腹ごなしに私と安藤が雑談をしていた時の事だった。

 食事から時間が経過して少しお腹も楽になり。調理器具や食器、ナイフの片付けも終え。そうして話の種も尽きて来た頃、安藤が唐突に今まで黙って静かに座っていた勇次郎に話しかけたのだ。

 目を閉じて腕を組んでいた勇次郎が、ゆっくりと目蓋を開けて安藤の方へと視線を向ける。

 

「なんだ」

「ひとつ、ゲームをしねェかい」

「ゲーム?」

 

 勇次郎が眉を寄せる。ついでに私も首を傾げる。

 安藤が勇次郎に話し掛けるのは分かる。この場にいる3人を繋ぐのは私であり、安藤と勇次郎は初対面。

 私と勇次郎が何時までこの山にいるかは定かではないが、少なくとも一日二日程度の短い間ではない事は確かだ。少なくとも一週間、長くて出産まではいるだろう。

 その間、友達の彼氏みたいな微妙な関係の人と、ひとつ屋根の下で暮らすとか、気まずいにも程があるだろう。家にいるのが辛いから、何処かへ遊びに出掛けて時間を潰す、なんてのも山の中だから出来ないわけだし。

 

 だから親交を深めるために会話を試みる。それは分かる。

 でも何故唐突にゲーム。

 

「構わんが、何をするつもりだ」

 

 ア、しかもやるんだ。

 

 ゲームをしようなんて提案を、あの勇次郎が素直に受け入れるとは思っていなかったため、少し驚いた。

 勇次郎は表情を微塵も変える事無く、真顔のまま横目に安藤を見ていた。特に思う所は無さそうであり、恐らくは暇潰しに提案を受け入れたのだろう事が読み取れる。

 私が暇だからチェスでもしましょうと遊びに誘った時は、興が乗るまで何度でも何回でも、色んな誘い方をさせた癖に……しかも結局、チェスには付き合ってくれずに、重り代わりに私を背中に乗せて筋トレ始めたし。

 

 私も勇次郎が暇そうな時に誘えば、素直に付き合ってくれるのかな。

 ……絶対駄目だな。必死に一緒に遊ぼうと誘う私を、こうしろああしろと面白がるだけ面白がったあと、結局遊びには付き合ってくれずに筋トレし始める光景が、ありありと目に浮かぶ。

 

 くっ、この意地悪め……っ!

 

「ちょいと付いてきな」

 

 指をクイクイと曲げ、ログハウスを出て行く安藤。それを追うように、勇次郎も椅子から立ち上がってログハウスから出て行った。

 私はどうするか、と悩みはしたものの、このまま二人がゲームをして遊んでる中、放華のために一人で森の奥に行くのもなんだか寂しい。

 

 何をするかは知らないけど、せめて1回。1回くらいは一緒に遊びたい。

 という訳で私も立ち上がり、二人の後を追う事にした。

 

 二人が出てから少し経っていた為、追いつけるか不安に思いながらログハウスを出る。

 しかし、幸いにも二人はログハウスから出て、すぐの所に揃って立っていた。

 

 片手に斧を持った安藤が、切り株の上に太い丸太を乗せる。

 ただし、置き方は断面を上にした縦置きではなく、横に向けた横置きだ。

 

 もしかして、ゲームって薪割りのこと? いや、丸太をそのまま使ってるから、丸太割りの方が正しいか。

 ……丸太割りってゲームって呼べるのかしら? いやまぁ、木こりと化した安藤にとっては、丸太割りもゲームなのかもしれないけど。

 それにしたって、なんで横置き……年輪*1に阻まれて断ち辛いでしょうに。

 

 ……いや、だからか。何回も斧を振り下ろして、先に真っ二つに出来た方の勝ち。そういうゲームか。

 でもそれだと、木こり生活をしてる安藤が有利過ぎると思うんだけど……?

 

「ルールは簡単」

 

 安藤が足を肩幅に開き、両手で斧を握り締めて振り上げる。直角を超え、それでも更に振り上げていく。

 最終的に斧は背中に着き、そうしてようやく止まった。手先から少しずつ赤に染められていく腕は、そこにとてつもない力が込められている事を語る。

 明らかにちょっとずつ傷をつけて割ろうって体勢じゃない。

 

 ……ちょっとちょっと、嘘でしょう?

 

 唖然としながら見守る私など気にもせず、安藤が腹に力を込めた。息が止められ、振り上げられていた手が勢いよく振り下ろされる。

 バッッッ!! っと、斧を木に叩きつけたとは思えない音が響く。

 切り株の上から、真っ二つになった丸太がごろんと転がり落ちた。

 

「技なんざ使わねェ。枝や節の有無、天地の裏表、乾燥して割れの入った部分。そんなトコも見ねェ。ただ全力で振りかぶって、勢いよくブッッッとい丸太に向かって、思いッッきり斧を振り下ろすンだ」

「そうして割った丸太の数を競おうという事か」

「そういうこったな。どうだ、受けるかい、勇次郎よ」

 

 ニヤリと笑って挑発する安藤の言葉に、勇次郎は言葉を返さなかった。

 真顔のまま、ただピラミッド状に重ねられた丸太の山から、丸太を一個拝借して地面に置く。

 足を前後に肩幅に。指を伸ばした右手を振りかぶり左手は丸太に添える。その手に斧は無く、完全に無手だ。

 

「見ていろ輝夜。これが技を超える力というものだ」

「ん」

 

 なんとなく何をするかを察して苦笑する。意外と負けず嫌いよねぇ。

 というか、一度もこっちに視線向けてないけど、見てるのには気づいてたのね。特に隠してなかったし、気配か視線で気付いたのかな。

 

「フッッッ!!!」

 

 直後響くドッッッガッッ!!! という破砕音。

 肩幅に開いた足を沈め、手を地面にめり込ませている勇次郎。

 置かれた丸太は真っ二つになっており、その幾重にも重なった年輪を晒していた。

 

「うふふふ、流石ね勇次郎」

「ふんっ」

 

 笑みを向けて勇次郎を褒め称える。

 いや、単純に凄いからね。前の私でも、同じことをしようとすれば2~3回は必要だったと思う。

 やろうとすれば、多分一回でも出来たとは思うけど、それで手を痛めたら世話ないし。

 

「……しんじらんねェ」

「んふふ、どう? 私の男は凄いでしょ」

「凄いとか以前の話だろコリャァ……うぉ、今すぐ薪に使えそうなぐらい滑らかだなオイ*2」

 

 勇次郎の断った丸太を手に、何処か引いた様子の安藤。

 そんな安藤を尻目に、勇次郎が横目に私を見て、クイッと顎を動かした。

 

 ……私もやれってこと? まぁやりたくはあるし、その為に外まで追い掛けては来たんだけどさ……

 というか、私は技を使わないとそんな丸太なんて割れないわよ? 消力や放華で肉体の活性をしないと、私はただの病弱でひ弱な少女でしかないし。

 多分だけど、斧を振りかぶる事すら出来ないと思う。振りかぶったら、そのますっぽ抜けるか、重さで後ろに倒れるかだ。

 それに……

 

「激しい運動はドクターに禁止されてるのよねぇ」

「かといって動かねば豚になるぞ」

「うっ、それは……嫌ね」

 

 出産と同時に死ぬ可能性が高いとはいえ、生きられる可能性も無くはない。その時に、妊娠中にダラけ切ってたから激太りしましたとか、恥ずかしくて生きていけない。

 そうでなくとも、妊娠で膨らむのはお腹だけだ。多少関節や筋肉が緩むだけならまだしも、腕や脚が不自然にプニったりしたら……死ぬしかないわね。

 

 あのドクターに禁止されているのは、戦闘行為と激しい運動。丸太割りの一回くらいなら……大丈夫よね?

 とはいえ、勢いよくスクワットをする必要があるのはなぁ……あ、そうだ。

 

 階段を降りて地面に足を着け、歩を進める。

 目指す先は重ねられた丸太の山……ではない。

 

「あん? 何する気だ?」

「ククク、そうきたか」

「分かんのか勇次郎」

「まぁ見ていろ。面白いものが見れるぞ」

 

 あんまり期待値を上げないで欲しいんだけどなぁ。

 少し気後れしながらも、私が辿り着いたのは森の入口、そこに生える一本の木の前だった。

 薪割りは基本、斧を振りかぶる、振り下ろす、膝を曲げてスクワットの一連の流れで成り立っている。対象が丸太になろうと、やる事は同じだ。

 これに関しては、安藤や手で丸太を割った勇次郎さえも同じだ。そうしないと力が入らないし、振り下ろした際に膝に負担が掛かってしまう。斧の場合は、万が一斧が丸太に当たらなかった場合に、斧が自分の足に襲い掛かる可能性があるのだから猶更に。

 何が言いたいかと言うと、丸太割りにスクワットは必須という事だ。

 

 しかし、今の私は妊婦。変に上下運動をしてお腹に負担を掛けたくはない。

 なら考えを変えればいい。スクワットをせずに丸太を割れないなら、スクワットをしなければいい。

 つまりどういう事か。

 

 こういう事だ。

 

「いくわよー」

 

 足は前後に肩幅で広げ、左手は膨らんだお腹を支えて、目の前にある木には右手を添える。

 普段から生命力を扱う放華を使っているせいか、木から発せられる生命力が分かる。伐られてすらいない、育った年月に相応しい生きた強い生命力。

 木から発せられる生命力を感じながら、目を閉じて集中する。お腹の子供の所為で、今一生命力の波長を感じにくいが、何とかしてそれを右の掌に集めていく。

 

 肉体は脱力。筋肉に、骨格(ほね)に、健に。

 身体の奥底に居座る強張り。それを徹底轍尾抜き去る。

 

 足は風、手も風。5体これ、全て旋(か)風(ぜ)。

 水より、羽毛より、果てには空気よりも軽く。

 飄となり、全てを超えろ。

 

 ……今ッ!!

 

「はァッッッ!!!!」

 

 直後、鼓膜を何かが叩く。

 もはや音と認識する事すら出来ない轟音。

 加えて轟音は連鎖し、異常事態を察知した鳥が空に飛んで行くのが見えた。

 

「ふぅー、大分視界が開けたわね」

 

 無数の木に覆われていた視界が、今では飛んで行く鳥すら見えていた。

 雲一つない空すらもが見渡せる。

 

「………………うっそだろぉ……?」

「く、クハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!!! おいおい、始まる前から勝者が決まっちまったぞ安藤ォッッ! クックックックッ……!!」

 

 勝敗以前に、そもそも消力と放華……技を使ってるから反則だと思うけどね。

 この丸太割りゲーム、技無しの力だけってルールだし。

 

 機嫌良さそうに笑い声を響かせる勇次郎に、苦笑しながら遠くを見やる。その先には、私の吹き飛ばした木が真っ二つになって転がっているのが見えた。

 根ごと地面を巻き込んで引っこ抜かれた木が、その後ろにある木すら巻き込み、まるで土砂崩れでも起きたかのような様相だ。

 地面には根ごと木が掘り返されたが故に出来た穴が、幾つも刻まれている。

 

 ……ちょっとやりすぎたかな。ここまでする気は無かったんだけど。

 木を叩き折って、ついでに後ろの木の一本や二本折れればいいな。それくらいのつもりだったんだけど……なんか思った以上に大惨事……

 

「力が強くなってる……?」

 

 自分の感覚的には、むしろお腹の赤子に放華の行使を邪魔されてるし、膨れたお腹の所為で思った通りに体を動かせないしで、むしろ大分弱くなっている認識だったんだけどな。

 ……だからこそか? 放華の行使が阻害されているからこそ、認識が歪められてるのか。

 どちらにせよ、悪い事ではなさそうだけど……いや、何か体が重いな。というか、お腹が重い。

 なんというか、お腹に身体中の力を吸われてる感じだ。

 

 ……あんまり、放華の出力を上げない方が良さそうね。

 

「フゥー……なんだ、どうかしたか」

「ん、いや、なんか体が怠くてね。すぐ治ると思うわ」

「……」

 

 握った手を見下ろしていると、勇次郎が近付いてきた。片眉を上げ、不思議そうな顔だ。

 まぁこんな大惨事を起こした後に、黙って握り締めた手を見つめてたら疑問に思うか。

 

 なんでもないと軽く誤魔化し、握った手を下ろす。

 

「それで、ゲームをするのでしょう?」

「お、おう」

「悪いけど、私は辞退させてもらうわ」

 

 呆然と私と私の起こした大惨事の跡を、何度も交互に見ていた安藤にゲームの辞退を申し出る。

 放華を使った技で体に不具合が生じるなら、私はこれ以上攻撃行為に放華は使えない。

 それに、元々私の目的はこの自然あふれる山の中で、効率よく放華をして延命行為をする事だしね。

 

「それは構わんが……」

「ありがとう。ついでにこの山の事で聞きたい事があるんだけど、いい?」

「おお? なんだ? この山は俺の庭みてェなモンだからな。なんでも聞いていいぜ」

「じゃあ聞くけど、この山で一番自然が濃い場所って知らない?」

「自然が濃い場所ぉ?」

 

 何でも聞けと胸を張っていた安藤が、素っ頓狂な声を上げて私を見つめる。

 私を見る安藤の顔は、何処か強張っていた。

 確かに意味不明な質問をした自覚はあるけど、そこまで変な物を見る目で見られる謂れは無いわよ?

 

 少し不服に思いながらも、安藤を見つめて答えを待つ。

 すると暫くして、安藤が口を開いた。

 

「……お前さん、まさか夜叉猿に会いに来たんじゃああるめェな」

 

 安藤の言葉には僅かに怒りが混じっていた。

 視線は鋭くなり、私を真っ直ぐ貫いている。

 しかし、私には何故急に安藤がそんな反応をしたのかが分からなかった。

 口ぶりからして、夜叉猿とやらが原因のようだけど……?

 

 意味が分からず、こちらを睨む安藤を無言で見つめ返していると、何か勘違いをしている事を悟ったのか、強張っていた安藤の顔が緩んだ。

 安堵のため息を一つ吐き、再び口を開く。

 

「ん、いや、悪かったな。勘違いだったらしい」

「それはいいのだけど、夜叉猿って?」

「あぁ、この飛騨に住まう化け物の事さ」

 

 そう言って、安藤は一つ歌を歌い出した。

 短く、しかし何故か耳に残る歌。

 

 天下とるなら飛騨行ってこ、夜叉の大猿天下一。

 

「それは?」

「この辺で伝わる童謡さ」

 

 遥か昔、武芸者達がこぞってこの飛騨の山に腕試しに訪れた。

 なんでも、古の武芸者は宮本武蔵などの超有名な例外を除き、その殆どの末路が不明となっているらしい。

 その理由こそが夜叉猿であり、訪れた武芸者の悉くが、かの大猿に喰われ散ったからなのだと。

 

「でも、所詮は童謡でしょう? そんな大猿本当にいるの?」

「所詮は童謡、そんな大猿はいねェ。……それで片付くんなら、俺もこの山にいる必要はねェんだがな」

「……ということは」

「いるんだよ。天下一の魔猿(まえん)が、この飛騨山に」

 

 そう言う安藤の頬には、額から流れた冷や汗が伝っている。

 嘘ではない。安藤の緊張具合は、それを如実に私に伝えていた。

 

「まぁでも、安藤が此処で暮らせてるって事は、縄張りのようなものはあるのでしょう? ならそこに近付かなければ問題は無いでしょう?」

「ン……まぁそうなんだが」

 

 渋る安藤に、一歩詰め寄る。

 

「大丈夫よ。お腹の子もいるのに、わざわざ危険な場所に行くような事はしないわ」

「んン~~……」

「それに、私の強さは知ってるでしょう? 妊娠してるからって、逃げる事くらいは出来るわよ」

「んぬぅ……仕方ねェな」

 

 安藤が諦めたように笑う。

 

「ただし、二つだけ約束してくれ」

「なにかしら」

「一つ、夜叉岩に近付かねェことだ。これに関しては、葉っぱを付けねぇ森の中にあるから、自然の濃い場所を探してるなら近付くこたァねェだろ」

「分かった。夜叉岩、そして葉っぱの無い森には近付かない」

「ヨシ。次、二つ目だ」

 

 安藤が言い、私が素直に頷く。

 私がおかしな事を考えていないと確信したのか、安藤はニカリと笑う。

 飛騨の山で一番自然が生い茂る場所を教えてもらい、私は丸太割りゲームを始めた勇次郎と安藤を微笑ましく思いながらも、ゆっくりとその場を後にした。

 

 

 

*1:
木の断面に出来る何重にも重なっている輪のこと。木にもよるが、基本一年につき一つ増えるため、成長輪とも言われる。一つの層につきトランプ一枚、それが何十何百も重なっている状態を想像すると、その硬さも理解しやすいはず

*2:
節くれ立ってると、熱を加えた時に弾けて木片が飛ぶ危険性がある

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