世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
安藤達と別れた私は、物珍しい自然の光景に目を奪われていた。
そよそよと風に揺られる新緑の群れ。硬いコンクリートとも、踏み慣らされた地面とも違う、踏みしめる度に僅かに体が沈む、柔らかな土の感触。
天蓋の様に空を覆う木の葉の隙間から漏れる光は、ステンドグラスの様にまばらに地面を照らし、暗い樹海の中でも視界を確保させてくれている。
戦闘を避けるため、大型の動物と鉢合わないために獣道を避けた結果、密集した植物に真正面から突っ込む事になった訳だが、案外それが逆に良かったのかもしれない。
見慣れぬ山の景色は、無造作に足を動かす私を楽しませてくれた。
「存外蒸し暑かったりはしないのね」
山なんて、前の時は登った事も無かった。
公園や空き地にあるような、工事で掘った土を無造作に積み上げた土の塊とは比べ物にならないそれ。無数の木や植物が生い茂り、多種多様な動物が暮らす土と岩の塊。
当時の私は基本的に闘う事、自分を鍛える事にしか興味が無かった。朝から晩まで、ジムで体を動かして汗を流す日々。
当然ながら、そんなただの土くれに興味を示す事も、示す余裕も無い。
だってそうだろう?
確かに、山の山頂の空気は美味しいのかもしれない。
自然に触れて、マイナスイオンに癒されるのかもしれない。
そこで生きる生物に、大自然を感じるのかもしれない。
でもそれだけだ。
美味しい空気はカロリーバーよりも栄養があるのか? マイナスイオンは、サウナやマッサージよりも疲労を削いでくれるのか? 大自然は私を強くしてくれるのか?
そんな事をしている暇があるなら、参考書を片手にジムでサンドバッグでも殴っていた方が、万倍も強くなれる。
例え自分の強さにウンザリしていようと、
……まぁ、その結果は
まぁ、そんなこんなで、私は山に登った事は無かった。
今は少しだけ、その事を後悔している。
山の癒しは存外馬鹿にならない。
「虫が多いのが難点ではあるけど」
耳障りな羽音をかき鳴らしながら飛び回る小さな羽虫に、ブンブンブンブンうるさいなとため息を吐きながらデコピンで吹き飛ばす。
真面にやっては、空気抵抗により発生した空気の壁に阻まれてロクに当たりはしないため、常日頃から鞭打をしていた経験から学んだ、空気抵抗による空気の壁が発生しない限界ギリギリの速度で指を発射する。
人類が最も嫌う虫と名高いG*1も無感情に処理できるタイプだから少し煩わしく思う程度で済んでいるけど、嫌いな人なら発狂するだろうなと思う程度には辺りを飛び回っているそれを、一匹一匹と次々に地面へと叩き落としていく。
指を引き絞ってはリリースすること暫し。私を狙うのは不毛だと本能で悟ったか、虫たちが散るように離れていく。
そうして羽虫たちと別れを告げて再び歩を進め始めた後、少しして生い茂る緑で作られた、土埃で若干薄汚れている壁が現れた。
特に気にする事なく無造作に手を突っ込み、中にある木の枝を一本掴んで持ち上げる。
すると連動して動いた枝葉同士が擦れ合い、鈴の様な音を立てて小さな隙間が出来上がった。その下を、いそいそとくぐり抜ける。
くぐり抜けた先には崖があり、崖の先まで足を運べば、晴れた視界へと透き通った景色が姿を現す。
遥か先の眼下まで見通せるここは、大自然をその身に感じる事が出来た。
背伸びをして関節を伸ばし、大きく深呼吸をする。
「んんーっ、空気が美味しいわねぇ」
都会に住んでいると、空気の違いがよく分かる。
自動車の排気ガスに開発煙、都会は大気汚染が酷過ぎる。それに比べて、ここの空気は何処までも澄み渡っていてありのままに自然だ。
屋敷があるのも山の中ではあるけれど、あそこは自分達が暮らしやすい様に、かなり手を加えてるからね。課題などで外に出る時は、基本現場近くまで車での送迎だったし。
クソ野郎の監視下にあるまま、登山なんてする気にもならなかったしね。
「いい場所だわ」
仙人が山の奥に籠る気持ちも分かる。
便利不便の話は置いておいて、都会と山のどっちで修行をしたいかって言われたら、断然こっちだ。
多分、一回くらい来ていれば、自然の癒しに虜にされていたんだろうなー。山にサンドバッグを持ち込んで、修行もどきをしていたかもしれない。もしかしたら精神に余裕が出来て、自殺する事もなかったかも。
そう考えると、山をバカにしていた私こそがバカだったんだなぁと自覚出来る。
まぁ、トラウマに苛まれて視野狭窄に陥っていた私が、休憩ならまだしも休養を取るなんて、思考の端にチラリと浮かぶ事も無かったろうし、実際無かったんだけど。
女を抱く事で気分転換はしていたけど、こうして山の中で散歩をしている方が、よほど気分転換になっている辺り、私は悪手を選択し続ける運命にでもあるのだろうか。
いや、輪姦されていた女を助けてスラムを改善したり、故郷が震災の憂き目に遭って、寄付金を送るために大富豪に自分を売り込んだりとか、色々と手を回した事に後悔はしてないんだけどさ……
自分の間の悪さに小さくため息を吐いていると、風が吹いて周囲の木が一斉に葉を擦り合わせ、涼し気な曲を奏でた。
風に靡いて乱れる長髪を指で抑えて耳に掛け、目に入りそうな毛先に瞼を閉じる。
聞いているだけで癒されるその音色に耳を傾けながら、もう一度ぐぅーっと背伸びをして背骨を伸ばす。
「ん~、山って良い場所ねぇ」
心なしか、精神が落ち着いているような気もする。ただのプラシーボ効果かもしれないけど。
今の私の精神が安定しているとは言い難いけど、前の私はトラウマに囲まれて今以上に不安定だったからね。
多少気分が楽になっているだけでも、来た甲斐はあったと見るべきか。
まぁ精神的に追い詰められて自殺した後に、無理矢理やらされる暗殺稼業。
果てには切望していたとはいえ、正面からの敗北を味わった直後に、男の私を壊されて妊娠と来たもんだ。
精神的に弱るのも当然か。
勇次郎は気分が乗った時に、夫婦の真似事をしてくれるけど、愛してるの言葉だけは絶対にくれないしなぁ。
愛してくれてるのかくれてないのか、今一ハッキリしやしない。
確かに最高の男で、最強の雄だけど、そこだけはどうしても不満に思ってしまう。
「でも悪いのは絶対に私の方なんだよなぁ」
至高の美を誇る肉体という、これ以上に無い魅力。それを貰っておきながら、愛してるの一言も引き出せない。
そんなの、どうみても悪いのは勇次郎に愛される程の中身が無い私だ。
とはいえどうすればいいのかまるで分からないのがなぁ。どうやら強い女が好みみたいだけど、こんなお腹を抱えた状態で戦闘なんて出来ないし。
かといって、堕ろすのは出産する事が取引で決まっている事だから、それも出来ない。個人的にも絶対したくない。
「どうすりゃいいのよォーーー!!!」
両手を口の横に翳してメガホンにし、大声で叫ぶ。
山彦になって帰って来た言葉は、何処か虚し気に聞こえた。
「ふぅ……」
大声で叫んだからか、少し気分が晴れた。
よし! 気分を完全に切り替えちゃおう。最近はあんまり効いてなかったけど、今ならそれも出来る筈だ。
さっさといい場所を探して、さっさと放華の鍛錬をしよう。
緩んだ気も鍛錬が始まってしまえば、多少なりとも引き締まるだろう。
軽くぺちんと頬を叩いてから辺りを見渡して……それを見つけた。
「あれは……」
ここ飛騨の山は、正確には山脈らしい。いくつもの山が並び、飛騨山脈。
飛騨山というのは、あくまでその中でも一番高い山をそう呼称しているだけだと。
その一番高い山から見渡せる景色の中、私の目にそれは映った。
安藤の語った、夜叉猿の住む森。葉を付けない裸の木が立ち並ぶ森林。
続く山脈の中、私の対面にある山にそれはあった。
「あれじゃあ夜叉の森というよりも夜叉の山ね」
私のいる位置から見えるのは、あくまで山の片面だけ。
しかし、片面だけでも私にはその山の異常性がよく分かった。
山に緑が一切無いのだ。
麓から山の頂上に至るまで、一切だ。
麓には夜叉岩であろう岩が、夜叉の森を囲うように立ち並んでおり、そこを境に緑がスッパリと絶えている。
崖下から続く新緑の森は、視界に映る辺り一帯全土に広がっていて、しかしその山だけを避けるようにして禿げ上がっているのだ。
まるで一生命体など関係なしに、全てを呑み込む大自然が。
この地球という星を支配する、偉大なるこの世の摂理が。
その山を、そこに住む何かを恐れているかのように。
あまりにも非現実的な光景。しかし、確かにそこにある光景。
それは、その山の支配者の脅威をまざまざと私に見せつけていた。
……今の私じゃ、対面は
勇次郎なら逆に喜んで突っ込んでいきそうだけど。
「まぁ、夜叉岩に近付かなければ問題は無いでしょう」
夜叉の森は明らかな夜叉猿のテリトリーだ。
逆に言えば、夜叉の森に近付きさえしなければ、夜叉猿とカチ合う危険性は殆ど無いとも言える。
安藤も、夜叉岩にさえ近付かなければ、まず夜叉猿と鉢合うことは無いと言ってたしね。
「さてさて、どこでやろうかしらね」
安藤から聞いた、この飛騨山で一番自然の濃い場所。
目印にしろと言われていた、夜叉岩を見下ろせる崖も合っているし、この近くの筈だけど。
ここに近付けば近付くほど、空気も透き通って新鮮に、美味しくなっていたのだからまず間違いない。
問題は、何処がその中でも一番いい場所なのかということ。
折角こうして山の奥まで来ているのだから、やっぱり修行をするにしても、最高率でやりたいってものよね。
時間も掛かりそうだし、背中を預ける為の木も欲しい。どうせなら、その木も生命力が強めの木がいいな。
森の中へと戻り、放華の修行に最適な場所を探す。
流石に、見ただけでどの木が一番いいかは分からない。スーパーの野菜の生命力を見分ける勇次郎なら出来るかもしれないし、もしかしたら私も出来るのかもしれないけど、そこに時間を掛けるのも馬鹿らしいしね。
立ち並ぶ無数の木を、一本一本手で触れて確認していく。
少し細いけどその分高い木。
生命力が少し弱め。これは駄目。次。
太いけど少し短めの木。
生命力が強いけど……波長が乱れてる。
成長が歪ね。これも駄目。次。
太くて高く、けど皮が荒れてる木。
生命力は……駄目ね、病気になってる。次。
良さそうな木を探し、暫くの間うろうろと探索する。
そうして見つけたのが、その木であった。
太く高く、葉が少し黄色いけど皮は綺麗。
生命力も他の木と比べると倍……いや、それ以上ね。
周りの木も少し離れていて、まるで小さな広場の様になっているし、体も伸ばせる。
「うん、ここでいいかな」
見つけた木……他と比べると年長っぽいし、長老とでも呼ぼうかしら。
地面を割り、地表に出ている長老の根っこ。そこに手で汚れを払ってから、ゆったりと腰を下ろす。幅もあるから、ついでに胡坐も搔いてしまおう。
普段はどんな座り方をしているのかとドクターに聞かれて、正座と答えたらそのまま正座で座る様に言われたのよね。なんでも、正座と胡坐が妊婦の座り方としては最適なんだとか。
だから基本は正座なんだけど、こんなところで正座なんてしたら足が痛くなりそうだしね。
足を組み、背中を長老の幹に預ける。
手持無沙汰になった手は、体の前で組んで膝の上に。
周囲に動物などの気配がしない事を確認してから、ゆったりと目を閉じた。
意識を体の中へと向ける。
もう慣れたもので、すぐに生命力の波長を感じ取る事が出来た。そして、お腹の中の赤子によってそれが乱されている事も。
正確には、乱されているというよりも、吸収されていると言う方が近いか。
私自身の心臓に、限りなく近い何処かから生命力が放出され、されど全身に行き渡る前にお腹の付近でかき消されている。
そして押しては返す波のように、生命力の波長がかき消される度に、赤子からも生命力の波長が一瞬強く放たれる。
私の放華で生み出した生命力を貪欲に貪り喰らい、成長しているのだ。流石は勇次郎の子と言うべきか。
それで私まで喰われそうになってるんだから、笑えない話だけど。
とまぁ、今の自分の状態を確認したわけだけど、こんな事はとっくに知っている事に過ぎない。今日こうして飛騨山に訪れたのは、それを何とかする為なのだから。
とはいえ、正味私にはこの状態をどうすれば問題が解決するのかは分からない。
今や私は放華を教えてくれた太山よりも、上手く放華を使えているという自負があるが、知識としては太山が教えてくれた以上の事は何も知らないのだ。
だからこそ、何も知らないからこそ考え付いたこの作戦。
名付けて、穴の開いたコップに海を注ごう大作戦!
内容は至極簡単。
お腹の赤子に生命力を喰われるなら、それ以上に生命力を生み出せばいい。
……以上! THE・脳筋!
でもこれ以上に良い作戦が思いつかないのだから仕方がない。
脳筋だろうとなんだろうと、解決さえすれば結果は一緒なんだから別にいいのだ。
というわけで、生命力を全身に流していく。
手の指先から腕へ。腕から肩へ。肩から胸へ。胸から腹へ。
瞬間、生命力がかき消され、それでも尚諦める事無く生命力を流していく。
強く、強く、強く流し続ける。
そうして、ふと気付いた。
前に家でやり、疲労困憊になって動けなくなった時と同程度の生命力を流し、それでもまだ余裕がある事に。
(……うん、どうやら本当に効果があったみたいね)
山奥での修行は、想像以上に効果があるらしい。
ここまで即効性があるのは流石に珍しいだろうけど、仙人が山に籠る事の意味は身に染みてよく分かった。
そして確信もした。これならいける。ニンジャになれる。
貪欲に、多欲に貪り食らう赤子に生命力を喰わせ続けられる。
「……ふっ、ぅ」
とはいえ、限界があるのは当然のことで。
長老の生命力を借りて無理矢理に放華の出力を上げる度、胸に湧く暖かさが徐々に冷たい痛みへと変わって行く。
元々無理をしないために鍛錬をしているのであり、無理をしては本末転倒のため、一旦生命力の生成量を下げる。
一気に下げると心臓がエンストしそうなので、ゆっくりと。
そうして、平常時とほぼ同等な辺りまで放華の出力を下げた辺りで、休憩を挟もうと組んだ足を伸ばし、閉じていた瞼を開けた。
「…………」
「…………」
……なんか目が合った。