※この作品はR-18です。

世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話   作:白髪ロング娘スキー

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第五十二話 動物

 

 不意に目が合ったそ(・)れ(・)と、何をするでもなくただ見つめ合う。

 

「…………」

「…………」

 

 人差し指程の長さの小さな角。

 顔の半分はありそうな、張り出た大きな耳。

 茶色い結膜の上に浮かんだつぶらでまん丸な黒い瞳に、湿っぽい鼻をヒクヒクと揺らす様はなんとも愛らしい。

 モフモフとした灰色の毛は暖かそうであり、見ていると撫でたくなる欲求が湧いてくる。

 20メートルほど離れた木の陰から、にょっきりと顔を覗かせ、口を半開きにして警戒心の欠片も無いアホ面を浮かべて、じっとこちらを見つめている。

 

 閉じていた瞼を開けた先。

 視線と視線を絡ませたそれは。

 

「カモシカ……?」

 

 どう見てもカモシカであった。

 試しに周りを探ってみても他に気配は無い。実は他にもカモシカが木の陰に姿を隠していた、とかもなく、正真正銘一匹だけのようだ。

 

「何してるのかしら、あの子。」

 

 もしかしてここ、あの子の縄張りかな?

 いや、それにしては威嚇したりとかもしないしな。

 まぁあのアホ面を見る限り、特に害意などは無さそうだし、無視しても問題無さそうではあるけど。

 

 さて、どうするか……

 

(まぁ害意を持ったり近付いてくれば気配で分かるからいっか)

 

 特に何かしてきた訳でもないのに、わざわざ追い払うのも少し可哀想だしね。

 カモシカ程度なら、今の私でも簡単に撃退できるし。

 うん、見なかった事にしよう。

 

 胸に走っていた痛みがちゃんと引いているのを確かめ、カモシカから目を外す。

 何時でも立ち上がれるようにと崩していた足を再び組み、目を閉じて放華の鍛錬を再開し始めた。

 ゆっくり、ゆっくりと長老からも生命力を借り受けながら、気を循環・増幅させていく。

 

 一回目よりも僅かに許容量が多くなっている事に、確かな満足感を覚えながら、暴発しないように気を回す。

 そうして生命力を循環させ、胸にチクリとした痛みが走るのと同時に放華を弱めた。

 再び休憩を取ろうと、足を伸ばして目を開ける。

 

「…………」

「…………」

 

 なんか近くなってる。

 あとなんか増えてる!

 

 20メートルほどの距離にいたカモシカが、15メートルほどの位置にまで移動していた。

 相も変わらずのアホ面を浮かべ、ジッとこちらを見つめている。

 

 そんなカモシカに加え、少し離れた場所の木の枝に鳥が止まっていた。

 しかも今度はカモシカとは異なり、一匹だけではなく数匹いる。

 木の枝に止まったまま、ジッと私の事を見つめていた。

 

 カモシカに加えて鳥まで。

 何かが起こっている事は明らか。けれども、その何かがまるで分からない。

 だけど、ひとまず私に対する害意は特に無さそうには見える。

 精神に続き、私の目まで曇っていなければの話だが。

 

 兎も角、先にここに来たのは私だ。

 例え彼らの縄張りだったとしても、強引に取り返しに来る気配も無い。襲い掛かられたとしても、カモシカと鳥くらいなら、重いお腹を抱えてたって対処できる。

 ならば気にする必要も無い。

 

 私は突き刺さる視線を無視して、再び放華の鍛錬に戻った。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ま た 増 え た。

 

 今度はイノシシだ。

 カモシカや鳥と同じく害意は無さそうであり、四本の足を曲げて土に座り込んでいた。

 鼻先には一羽の鳥が止まっており、しかしそれすら気にする事なく、黙ってこちらを見ている。

 

 カモシカは更に距離を詰めて来ており、鳥はその数を増やしている。

 10を超え、20を超え、にもかかわらず視線は一つとして逸らされる事無く、真っ直ぐに私に向いている。

 

「いや怖い怖い怖い怖い……」

 

 あ~、今すぐにでも石を投げて追っ払いたい……!

 可哀想とかの話じゃないわよこれ。物理的に害が無いだけで、普通に精神的なダメージを与えて来る立派な攻撃よ! ただ何もせずに見るだけのイジメよイジメ!

 

「だからってなぁ……」

 

 こちらから手を出したくはない。

 何が起こるか分からない、あまり刺激したくはない不気味さを感じる。

 けどここで鍛錬を中止して帰るのもな。

 

 しばし考えに考え、約3分。

 チラリと視線を向けてみれば、彼らは未だに微動だにする事無く、私を見つめていた。

 愛も変わらず、彼らから害意は微塵も発される事無く、何を考えているのか読み辛い無数の黒真珠が、静かに私を射抜いている。

 

 ……襲ってこないなら、まぁいいか。

 イノシシは微妙な所ではあるけど、まだ対処できる範疇だ。

 一体何が目的なのかと、頭を悩ませながら鍛錬に戻る。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 おいクマはダメだろ、流石にそれは許容出来ねェぞ。

 

 まるで人間の様に足を伸ばしてズッシリと座り込み、胸元に浮かんだ白い三日月マークをこちらに見せて黙り込んでいる巨大なクマ。

 見る限り、他の動物たち同様に害意は無いようだが、流石にクマはダメだ。もしも暴れ出した際に、お腹の子に気遣いながらでは対処ができない可能性が高い。

 加えて放華の鍛錬をしたせいで疲労が溜まり始めている。

 コンディションでいえば最低と言っても過言ではない。

 

(撤退ね)

 

 まだ太陽は上にあるし、体力も残ってはいる。

 けれど、流石にここで粘るほど危機感知能力が死に絶えている訳じゃない。

 組んでいた足を崩し、動物たちを刺激しない様にゆっくりと地面に足をつける。

 太ももに力を込め、膝を曲げ——ようとした時、カモシカが動いた。

 

「……」

 

 のっそりと木陰から姿を現し、こちらへと近付いてくるカモシカ。

 イノシシの傍を通り過ぎ、クマの傍すら警戒心の欠片も抱かぬまま、ゆっくりと歩を進めて来る。

 今まで少しずつ近付いてくるばかりであった相手の、唐突に起こした動き。

 何をしてくるのかも分からぬ、のっそりとしたその動きに、私は一先ず立ち上がるだけ立ち上がった。

 

 しかし背を向ける事は無く、下がる事もしない。

 相手が小鳥の次に対処が楽なカモシカだった事もある。一体彼らの目的が何なのか、知りたかった気持ちも無いではない。

 だがそれ以前に、野生動物にそんな事をすれば、襲って下さいと言っているようなものだ。

 少なくとも、私は森で勇次郎にバッタリ出会ったら、無防備に背中を見せるような事はしない。

 

 なので、私はただ何時でも鎮圧できるようにと拳を構えて、静かにカモシカを睨みつけた。

 

 警戒している事を全身で発している私。

 それを見ていた筈なのに、歩む足を止めないカモシカ。

 距離は段々と縮まり……そして、遂に触れた。

 

「キュ……」

「…………?」

 

 カモシカが、小さく鳴き声を上げた。

 盾代わりに前へと構えていた手に、ゴリゴリと頭部を擦り付けて来る。

 

 ……甘えてる? 野生の動物が?

 困惑しつつも、カモシカの一挙手一投足を余す事無く見つめ、警戒は絶やさない。

 何時どのタイミングで暴れられようとも、即座に相手の意識を断てるように、拳は握り締めたまま。

 

 少しの間そうしていると、次に羽音が聞こえた。

 音の発生源に目を向けると、木の枝に止まっていた子鳥が一羽、円を描く様にして空を飛んでいた。

 私がカモシカへの警戒を解かぬまま、そちらを見上げていると、飛んでいた子鳥がゆっくりと降下してきた。

 

 パサパサと軽い音を立ててカモシカの背中に止まった小鳥と、視線を逸らす事無く互いに見つめ合う。

 そうして視線を逸らした事を、触れる許可を得たと受け取ったのか、次第にカモシカが頭を擦り付ける位置を変え始めた。

 拳から腕に、腕から足に。そして最後にお腹へと。

 

「あっ、こら!」

 

 例え害意が無くとも、流石にお腹に触られるのは駄目だ。

 そもそもからして、野生の動物など細菌の塊なのだ。手や足ならまだしも、お腹や粘膜のある部位には、例え服の上からだとしてもあまり触れて欲しくはない。

 

 何故だかお腹に頭を押し付けようとしてくるカモシカの頭部に軽く拳を落とし、触れるなと警告する。

 すると何処かしゅんとした様子で、カモシカが頭部を私のお腹から足へと戻した。

 それと同時に、カモシカの背中に止まっていた小鳥がピョンピョンと跳ねる。

 頭を下げたカモシカの背中から肩、首と伝って私の手の上に飛び乗った。

 

「……ピピッ!」

 

 握り拳の上に乗った後、私を見上げて小鳥が小さく鳴き、手を握った事で出来た凹凸(おうとつ)に座り込む。

 太陽の光を沢山浴びて来た小鳥の羽毛は、シルクのようにスベスベで柔らかく、触れていてなんとも気持ちがいい。

 試しに握り締めていた手を解けば、開いた手の平に小さく収まった。

 攻撃用に構えていた手も解き、小鳥を指でつついてみれば、ぱっちりとした目が心地よさそうに細まった。

 

(…………可愛い……)

 

 カモシカに足を頭部で削られながら、うりうりと小鳥を弄って遊ぶ。

 その様子を見て、他のこちらを眺めていた動物たちも動き出した。

 

 イノシシがのっしのっしと歩み寄り、小鳥たちはカモシカとイノシシに跨り、共に近付いてくる。

 何時の間に来ていたのか、リスやタヌキ、ムササビなどの小動物も次々に私に群がる様にして集まってきた。

 ただ一匹クマだけは、動いた瞬間に退避を考えて私が一歩後退ったのを見てか、少し寂しそうにしながらも、少し離れた場所で座り込んでいる。

 少し罪悪感を感じなくもないけど……クマだけは対処出来るか怪しいから……

 

(それにしても、なんでこんなに動物が……?)

 

 特に動物に好かれるような事をした覚えは無いんだけど。

 リスなどの小動物ならまだ分かる。

 この体の美貌に釣られてか、屋敷に居た時に時々遊びに来ていたからだ。

 指に抓んだクルミを、カリカリと齧る姿は大変可愛らしかった。クソ野郎の支配下にいる時の、数少ない癒しであった。

 

 だが、それもイノシシやクマなどの大型動物となると話は変わる。

 そもそもの話、相手は野生動物だ。弱肉強食の世界で生きる動物にしては、あまりにも警戒心が薄い事に違和感がある。

 クマなんて、集まって来た小動物を喰い殺す側でしょうに。

 その割にはどう見ても、他の動物たちに恐れられているようには見えない。

 

 考えろ考えろ~。

 この子たちはなんで集まって来た……?

 

 集(たか)られすぎて立つのが辛くなってきた為、長老に腰掛ける。

 膝の上に小鳥とリス達を乗せ、左手でタヌキの耳の付け根を擦りながら、右手でイノシシのたてがみを撫でつつ、何故こうまで懐かれているのかを考える。

 一体何故か、それを想像……するまでもないわね。

 

「放華か」

 

 試しにイノシシを撫でる手に気を集中させてみる。

 撫で方も力加減も変えないまま、生命力だけを少量回す。

 

 途端、私に集っていた動物たちが一斉にぐりんっ、と首を回して私の右手に視線を移した。

 一斉に同じ動きをする様は少々不気味であり、そして何処か滑稽でもあり、可愛らしくもあった。

 右手から胸に移したり、左手に移してみたり。その度に、台本でも用意してあるのかと言いたくなるほど、シンクロした動きを見せる動物たちに思わず笑ってしまった。

 

 放華によって増幅された生命力が、それほどに心地よいのだろうか?

 私にくっつく動物たちは、どの子たちも気持ちよさそうにしており、一部の小動物に至っては膝の上で丸まって眠ってしまっている。

 気を込めて撫でられたイノシシなど、機嫌良さそうに鼻提灯を膨らませている。

 

「ふふふ……可愛いわね」

 

 

 

 ——— ———

 

 

 

 時も忘れて、動物たちと戯れることしばし。

 気付けば日は暮れ、辺りは少し暗くなり始めていた。

 ログハウスからここまで来た道のりを考えると、そろそろ帰らなければならない時間帯。

 ……なのだが。

 

「う~ん、重いわね」

 

 膝の上には、深い眠りに陥った無数の小動物。

 右手はタヌキにキツネに野良猫にと、中型動物がこぞって包まり、暖を取っている。無理に手を引っこ抜いたら、動物の雪崩が起きそうだ。

 左手は、撫でて撫でてと催促をするカモシカの所為で、まるで止め時が分からない。

 高級な着物には動物の毛がびっしりと付いており、だいぶ、というかかなり悲惨な事になっていた。

 

「ログハウスに戻ったらしっかり体洗わなきゃね……」

 

 目や口などの粘膜や秘部、お腹には触らせなかったとはいえ、野生動物とこうも戯れてはね。

 変な病気を移される可能性は高いし、ちゃんと洗い流さないとな。

 

「まぁその前に、どうやって帰ればいいのかって話なんだけど」

 

 一匹一匹は軽くても、数が多い所為でかなりの重量だ。

 とても立ち上がるなど出来そうにはない。

 

「仕方ない、一匹一匹起こしていくか……」

 

 少し時間は掛かるだろうけど、変に横着するよりもそっちの方が多分早いだろう。

 急ぐは回りとも言うしね。……なんか違うな。

 

 どんなんだっけなーと、絹代に教えてもらったことわざを思い出しながら、一匹一匹を慎重に起こしていく。

 雑に起こして怒って暴れられても困るしね。

 小動物は指で揺すり、中型動物は手で起こしていく。

 柔らかい毛皮と体温が名残惜しくはあるものの、それと一つ一つ別れを告げる。

 

 そうして時間を掛け、約半分ほどを起こし終えた時。

 

 

 

それはきた。

 

 

 

 気を与えた中型動物から、与えた気を分けて貰って満足そうにしていたクマが、唐突にガバッと体を起こした。

 鼻提灯を膨らませていたイノシシは提灯を割り。野良猫たちは全身の毛を逆立て、揃ってある一点を見つめて唸り声を上げる。

 眠っていた動物たちを起こしている間も、構えと擦り寄っていたカモシカは、足をガクガクと震わせて固まっていた。

 眠っていた筈の小動物たちは一斉に弾け起き、されど死んだふりなのか、再び目を閉じて動かなくなった。

 

 怯えている。

 50では効かないほどにいる動物たちが、一匹たりとも余さず何かに怯えていた。

 それの正体がなんなのか。

 言われずとも、なんとなく私は察した。

 

 

森を掻き分け、巨体が近付く。

 

 

 私はそれを見ながら、安藤とした二つ目の約束を思い返していた。

 

 もしも、縄張り以外で夜叉猿と出会ってしまった場合。

 迷惑なんて考えず、夜叉猿を引き連れる事になろうが、一目散にログハウスまで逃げること。

 

 無論、私はその約束を守るつもりだった。

 お腹に勇次郎との赤子がいるというのに、無茶をする気など微塵も無かったからだ。

 

 しかし、今の私は重りとなった動物たちにより、逃げることが出来なかった。どころか、立つ事すらも出来やしない。

 明確に危機が迫っている事を理解しながらも、何も行動を起こせない。

 

 ぬぅっと森の奥から出現した手が、木の幹を掴む。

 私の頭など一思いに握り潰せそうな大きな手。

 そんな大きな手に力が入り、何かを引き寄せる。

 もっとも、何かの正体など分かり切っている。

 

 勇次郎の心地よい獣臭とは違う、ひたすらに臭いだけの獣臭。

 限りなく黒に近い灰色の体毛。

 人に限りなく近く、しかし明らかに人間とは違う体型。

 

「ホルルルルル……」

「ッ、夜叉猿……!」

 

 これはちょっ、と不味いなぁ……!

 





 本来は夜叉猿登場の前に、2話ほど歌姫関連の過去編を挟む予定でした。
 しかし、あまりにも筆が進まないイライラに加えて、段々と落ちるやる気。
 このままだとマジでエタりそうなので、そうなるくらいならと、過去編を丸々カットしました。
 なのでテコ入れはしますが、この後の展開に少し違和感あるかもです。
(今までの展開に違和感が無かったとは言わない)

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