世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
前後で終わらせようと思ってたのに……
中編です。
直近で水着出たし、グラブルの呪術コラボでフェディエルが出ると思ってたのに、影すら無かった。
呪術廻戦にinフェディエルは前から考えてたし、今度書いてみようかしら。
一瞬前まで殺そうと殴りかかって来ていた癖に、なんで急に戦意を失ったのかとか、一体どこに連れて行こうとしているのかとか、疑問は幾らでも湧いてくる。
だからといってそれを言葉も通じない夜叉猿に聞くわけにもいくまい。人間の言葉を喋れない夜叉猿を相手に言葉を投げたところで、返事など返っては来ないのだから。それなら聞く分の体力を消耗するだけ無駄というもの。
というわけで、私はいざという時の為に警戒を続けつつ、前後を夜叉猿に挟まれながら無心で脚を動かしていた。
「ふぅ……、ふぅ……、ち、ちょっと休憩……」
しばしの行軍を続けているうち、ふと疲労を感じて足を止める。
木に手を突いて体を預け、肩を上下に揺らしながら深い深呼吸を繰り返す。
放華と半年かけて行ってきた鍛錬のお陰で、多少マシにはなったとはいえ、元々が病弱かつ持病持ちの体だ。少し上限を上げた所で、体力量が少ない事に変わりは無い。
加えて、ログハウスを出た後から水分を一度も補給していないため、喉もカラカラだ。
とはいえ水筒など持っていないし、水分補給が出来そうな川なども近くには無い。
あったとしても、菌や寄生虫がウジャウジャと潜んでいるであろう川の水を飲む気にはならないけど。
仕方なく、梅干しを食べた時の事を思い出しながら、口内をモゴモゴと揺すって涎を出す。
何も知らずに初めて食べた時は、あのシワシワの赤い粒みたいな見た目も相まって、毒を喰わされたのかと思って思わず吐き出しちゃったのよね。
吐き出した後も、舌に酸っぱさが残ってて違和感凄かったし。
レモンのようなものだと理解してからは、なんとか食べられる様にはなったけど。
「んっ……」
少し待つと、口内の唾液腺から涎が湧き始めた。
運動後特有のネバネバとした粘着質な涎が、歯やら舌やらに絡みついて何とも言えない不快感を与えて来る。
それでも勇次郎の精液よりはサラサラしてると自分を誤魔化しながら、嚥下して喉を潤わせた。
正味何の問題解決にもなってはいないが、荒れた喉が発する緊急信号は多少収まったため良しとする。
「ふぅ…………」
木に背中を預けながら一息つく。
喉の渇きが癒された事で楽になって来た呼吸が、精神的な余裕を生んでくれた。
目だけを動かして、何やら顔を突き合わせている二匹の夜叉猿を見る。
「ほァ」
「ホギョア」
猿語、というか夜叉猿語を習得していない私には、何を言い合っているのかはサッパリ分からない。
ただ時折私を見てくる事から、私の休憩が終わるのを待っているのであろう事は察する事が出来た。
そんな彼らを目だけを動かして観察しながら、道中の事を思い返す。
先頭を行く夜叉猿と、私の後を付いてくる夜叉猿。
進む先は道無き道。先ほどのクマなどの怯えた様子からして、私が山を登った時に動物を避ける為に獣道を避けたのとは違い、獣道を通るのを避けているとかではないだろう。
それが一番進みやすい道だから、当たり前にそこを行く。
事実、夜叉猿たちの動きはとても軽快なものだった。
崖があれば周りの木を掴んでぶらさがりながら飛び降り、急な斜面があれば周囲の木に手を引っ掛けてストッパーにしつつ、勢いよく滑り降りる。
なだらかな斜面などは、平坦な地面と微塵も変わらないとばかりに踏破していった。
野生動物ならではの軽快な動きは、身重の身である私では到底追いつけるようなものではない。
最初は慣れた様子で山を下りていく夜叉猿に、もしかしたらこのまま追い付けなければ、そのまま置いて行ってくれるのではないかと期待したりもしていた。
しかし期待に反して、私が置いて行かれるような事は無かった。
慣れた様子で山の斜面を下りているのに、よく見ればその動きは緩慢で。
時折振り返って私の様子を見てきたり、私の前に出て段差を先に降りて手を階段代わりに浮かせてくれたりと、深い知性を感じる気遣いをされたのだ。
その
もしや、私が身重の身である事を分かっていたりするのだろうか。
言語どころか種族からして違うのに、意外なまでに彼らは紳士的だった。
でも正直、そんな気遣いは要らないから、さっさと私を置いて先に行って欲しかった。
そうすればこの意味不明な状況から離脱出来たというのに。
「どうしようかな」
このまま勇次郎が助けにくるまで休憩を続けるのも、選択肢としてはありだ。
私はこれ以上動かずに済むし、攻撃してくる様子も無いから安全も保障されている。
(でも今までに見せた知性からして、あんまりそうやって時間を稼ぎ過ぎると、時間稼ぎしてる事を見破られそうなんだよな)
問題はそこだ。
想像以上に夜叉猿たちが賢い。
同種族でない私に対して、着いて来い/着いて行けと意思を伝えられる。
私の身体を案じて動きを遅くしたり、行動の手助けができる。
終いには私の体力が限界なのを察して、回復を待ってやる事すらする始末だ。
訓練された犬ならまだしも、野生の動物が言葉も通じない異種族に対してする行動では、出来る行動では断じてない。
(最低でも人と同等の知性か)
頭が痛い。
こんな摩訶不思議生物が野生に存在してるとか、日本修羅の地過ぎるだろう。
安藤に事前に教えて貰っていたからなんとかこうして平静を装えているものの、登山をしていてコイツにバッタリなんて事になったらパニックは避けられないな。
(で、そんな生物が私に何か用事があると)
巣に持ち帰ってから食べるため、という可能性も無くはないが、可能性は低いだろう。
なんせその場合、私をこうまで大事にエスコートする必要が無い。
体を鷲掴みして無理矢理持ち去るなり、体を千切って上半身と下半身にしてから二匹で分けて持ち運ぶなり、もっと楽な方法など幾らでもある。
しかし彼らはそうはしなかった。
箱入りのお嬢様に付き添う護衛の如く、慎重に私を誘導している。
まるで私の機嫌を損ねないようにするかのように。
(私にしか出来ない事を頼もうとしている……?)
夜叉猿たちは生態系の中でも頂点に立つ存在だろう。
あのクマたちの怯えた様子や、そこだけ禿げ上がった夜叉の森を見ても、その事は読み取れる。
力仕事であれば彼ら以上に優れた力の持ち主などそうはいないし、人間の手で整備をしなければいけない道具など、自然に生きる彼らからすれば不要の長物だろう。
であれば、彼らが私に頼みたいのは力仕事の手伝いでも人間の手でもなく、文字通り私にしか出来ないことなのだと推測できる。
そして、今日私が見せた私にしか出来なそうなこと。
(放華か)
なぁんか放華のせいで色んな事に巻き込まれるなぁ!
いや、生命維持機構として凄まじく重宝はしてるし、ありがたくは思ってるんだけどさ。
まぁそれはいいや。
不満を愚痴ってても何にもならないし。
(何が目的なんだろうなぁ)
この夜叉猿たちが私の放華を目的にしていると仮定して、では夜叉猿たちは何に放華を使おうとしているのか。
夜叉猿たち自身に使わせるというのは無いだろう。それならば、今此処で私に放華を使わせればいい話だからだ。
最初に殴りかかってきた事から考えて、戦うのが目的? それもない。理由は同上。
……放華によって溢れる生命力を見て、良い母体と認識した? 無い……と思いたい。
猿はヒト亜科だから、もしもがあれば孕む可能性が無くもないのが怖い所だ。
(勇次郎助けて?)
まぁ冗談はさておき。
いや、別に冗談でもないんだけど。
恐らく、夜叉猿の目的は放華による治療行為だろう。
銃、それもマグナムによる火傷を含んだ銃創と、四肢の複雑骨折すらも短期間で治療してのける放華。その治療能力を何かに使おうとしていると見た。
こうして生態系を築いている事から察するに、子供が病気にでも罹ったのだろう。
過酷な自然社会で体調を崩す事は、イコールで死に繋がる。
なんとか助けられないか考えている所に、生命力を撒き散らしながら放華の鍛錬やら、動物と戯れている私を見つけた。
大体そんなところか。
多分この考えは間違っていないだろう。
8割そうだと見る。残りの2割は孕み袋。
(嫌な賭けだなぁ……)
私個人の思いとしては助けてあげたい。
子供を孕んでいる身としては、家族を助けたいのであろう夜叉猿たちに協力はしてあげたい。
ついでに言うと、これほどの知能を持つ生物を相手に家族を救ってあげたら、恩を感じて放華の鍛錬中に襲ってこなくならないかなという打算もある。
私に家族を救ってほしくて、こうして夜叉猿たちが私を案内しているのだとしたら、着いて行くだけの価値はあるのだ。
ただ、もしも孕み袋狙いだった時の事を考えるとどうしても悩んでしまう。
例え治療目的だとしても、助けてあげても恩を感じずに用無しとして殺される可能性も無くはないし。
ん~~~……。
チラリと夜叉猿.sを見る。
少し焦れたように、二匹揃って私を見つめていた。
「……よし、行こう!」
男は度胸だ。いや違う、女は度胸だ。
どうせ逃げられそうにはないし、休憩に入ってからそれなりに時間が経っている筈なのに、勇次郎が助けに来る様子もない。
であれば、少しでも生き延びられる方に賭けよう。
もし駄目で殺されたりしたら……申し訳ないが、勇次郎には私のような精神不安定な不良品ではなく、次のより良い母体を探してもらう事にしよう。
「ほらほら、行くわよ!」
「キャウ……?」
「ホァ……?」
立ち上がってお尻についた汚れを払い、大声を出して先導する様に夜叉猿たちを促す。
急に立ち上がって声を掛けた私に、夜叉猿は少々困惑した様子を見せながらも、先ほどと同じ前後で挟むフォーメーションを組んで山を下り始めた。
道中動物の類と遭遇する事も無く、道なき道を通って山を下りていく。
相変わらず夜叉猿たちは、時折振り返って私が置いて行かれてないか確認したり、高所を背中や手を使って段差になってくれたりと、紳士的に私を案内してくれた。
山の麓についた後、少し歩くと巨大なゲート状になった岩へと辿り着いた。
飛騨山の頂上付近から見えた、緑豊かな森と禿げ切った山を分ける夜叉岩だ。
特に何か反応する事も無く、夜叉岩を潜って夜叉の森へと足を踏み入れる夜叉猿の後を追い、私も夜叉岩を潜って夜叉の森へと入り込んだ。
夜叉の山は、先ほどまで居た飛騨の山とは異なり、乾いてヒビ割れた変色した土と岩、そして葉の付いていない木のみが一面に広がっていた。
乾いた土は足を置く度に崩れて足を沈ませ、岩は一つ一つが巨大なために上るのに苦労した。
枯れ切った葉の無い木は光を遮らず、赤く染まりながら地平線へと姿を消そうとする太陽を隠しもしない。
あまりの悪路に、身重の身である私の歩く速度は落ち、疲労が溜まる速度だけは速まって行く。
それを見て、これまではあくまでも私の後ろに控えて、私が歩くサポートに徹していた方の夜叉猿が動いた。
私の後ろから股の間に巨大な中指を通し、人差し指と薬指で両足を抑えて、手の平を椅子代わりに座らせると、私を手の上に座らせたまま持ち上げたのだ。
私を手に座らせたまま、夜叉猿たちが動き出す。
乾いてヒビ割れた地面など気にもせず、巨大な岩をひとっ飛びで乗り越えていく。
5分もすれば、これまでの移動が嘘のように、あっという間に夜叉の森の頂上まで辿り着いてしまっていた。
とはいえ、動き出した時間が遅かったせいで、既に夕日は地平線に半ば飲み込まれてはいたが。
辺りが薄暗くなってきても分かる程に、相も変わらず荒れ果てた山の山頂。
頂上に着いてしまったが、ここからどうするのだろうか。
目的地は何処なのかと首を傾げていると、今まで前で先導をしていた夜叉猿が、躊躇なく崖から飛び降りて行った。
黒い巨体が、崖の下へと姿を消す。
「……はぁ!?」
どう見ても断崖絶壁の奈落に姿を消した夜叉猿。
すわ自殺かと驚いていると、私を運んでいた夜叉猿も動いた。
のっそのっそと崖へと歩み寄って行く夜叉猿。
「いやいやいやいや、待って待って待って」
静止を求める私の言葉など通じる訳もなく、夜叉猿が崖の前に立つ。
一応見下ろしてみるが、そこには予想と全く変わらない、むしろ暗くなってきた事で底が見えず、予想よりも遥かに不気味になった渓谷が口を開けていた。
当然だが、先に飛び降りて行った夜叉猿の姿など微塵も見えない。
のっそりと夜叉猿が更に足を一歩踏み出す。
「待って待って待って待て待て待てって言ってるでしょうがあああああぁぁぁ!?」
静止の声など微塵も聞き入れられず。
感じたのは、内臓が浮く様な不快感。
(あ、ごめん勇次郎、これ死んだ)
薄れかけた意識の中、勇次郎に謝罪する。
勇次郎は、笑顔で私に向かってサムズアップした。
消えろ、お前は勇次郎じゃない。
「っ、はっ……!?」
ドスン、と重いものが落ちた音が響き、衝撃がお尻を叩く。どうやら一瞬意識が飛んでいたようだ。
先程まで感じていた内臓が浮くような感覚は今は何処にも無く、胸の中で心臓だけが不整脈でも起こしたかのように、バクバクと鼓動を鳴らしている。
股を通していた中指が抜かれ、拘束されていた両足も解放されて、椅子代わりになっていた手の平から地面へと下ろされる。
立つ事も出来ずにお尻を置いた場所には、意外にも滑らかで硬い感触があった。
「し、死ぬかと思った……」
これ絶対お腹に悪いって……!
一応、無事を確かめようとお腹に手を置くと、元気にポコリと中からお腹を殴られた。どうやら無事なようだ。
叩かれる衝撃から不満を感じる気がするが、そこは無視する。
恨むなら夜叉猿を恨め。一応言っておくけど、元々の原因は生命力を吸い過ぎなキミの所為だぞ。
「っ、はぁ、ここ何処……?」
まだ少し震えている足に力を入れて立ち上がる。
辺りを見渡せば、そこにはそこそこ広めの洞窟が広がっていた。
分類としては洞穴の方が近いか?
下を見てみれば、夜叉の森のそれとは違い、光を反射する程度には滑らかな岩肌が広がっている。
そこかしこには食べ残しだろうものが転がっていたりと、生活感を感じさせた。
恐らくはここが夜叉猿の巣なのだろう。
「ホアッ」
「ん、あっちに行けばいいの?」
夜叉猿が私に着いて来いと言わんばかりに、一声鳴いて歩き出した。
特に抵抗する事はせず、大人しくその後ろを付いていく。
洞窟はさほど奥行きは無いようで、すぐに最深部へと辿り着いた。
代り映えしない滑らかな岩肌の広がる洞窟。
その最深部には、二つだけ違うものがあった。
一つは、壁の両側に恐らくは夜叉猿のものであろう骨が、骨格標本のように整えられた状態で置かれていること。
そしてもう一つ。
「ホァッ」
「ンギャグゥ……」
「妊娠してる……?」
恐らくは今まで私を先導してきた二匹目の方であろう夜叉猿が、もう一匹の、三匹目の夜叉猿を気遣うように鳴き声を漏らしながら見下ろしていた。
三匹目の夜叉猿、多分夫婦だから母猿とでも呼ぼうか。
彼女のお腹は巨大に膨らんでおり、妊娠している事が見ただけで分かった。
ただ、問題なのは。
「死にかけてるのね……」
二匹の夜叉猿と比べて、明らかに瘦せこけた顔。
大木と比較できる二匹と比べて、私の胴と同じ程度しかない細い腕。
足は太いが、その巨大な体を支えられるだけの筋肉が詰まった太さでは断じて無い。
見た感じ栄養失調だろうか。
細かい原因までは、医者ではないので私には分からない
だが、妊娠しているその母猿が死にかけているという事だけは分かった。
そして、二匹の夜叉猿が助けようとしていたのは、この母猿なのだという事も。
「ホアァ……」
「……悪いけど、助ける事は出来ないわ」
こちらを見つめる父猿。
そんな彼に、私は静かに首を振った。
私自身ですら生命力不足で倒れそうなのだ。
この体を蝕む持病を治せないように、放華は便利な技術ではあっても、決して万能の魔法ではない。
体調を崩したとか、大怪我をしたとかならまだしも、栄養失調やそれに類するものは私にはどうしようもない。
それは食事をして栄養を取るという、根本的な解決をしないといけないものだ。
食事を一切していないとは思えないので、それ以外にも何か理由はあるのだろうが……
母猿の横にしゃがみ、手に気を集中させて母猿の胸に触れる。
目を閉じて集中し、母猿の生命力と体内の様子を確認する。
結果はすぐに分かった。
これは栄養失調ではない。
だが、どちらにせよ私にはどうしようもない。
(病に蝕まれてるのね)
何の病気かは分からない。
ただ殺意が形を成したかのような塊が全身に点在していた。
ここまで私と状況がシンクロしていると、感情移入してしまいそうになる。
母猿は、何らかの病に蝕まれてその命を落とそうとしていた。
一応生命力で包んで圧し潰せないか確かめてみるものの、まるで潰れる様子が無い。
やはり私にはどうにも出来なそうだ。
父猿にもう一度首を振り、母猿を見下ろす。
何処か虚ろな母猿の視線は、お腹に向いている様に見えた。
「……ねぇ、提案があるわ」
言葉が通じない事など分かっている。
それでも、聞いてみたかった。
「少しだけ延命できるのと、死ぬけどお腹の子供を産めるの。どっちがいい?」
気を込めた手を母猿の体に這わせていて気付いた。
母体が死にかけてはいるが、お腹の子はまだ元気に生きている。
妊娠何ヶ月かまでは分からないが、出産にも十分耐えられるだろう大きさはある。
私が気を注いで母猿を僅かに延命させるか。
それとも、母猿の生命力も全て赤子に流し込んで、今出産して死ぬか。
どうにも親近感を感じて仕方ない母猿を相手に、私は聞いた。
「…………」
「……そう、分かった」
言葉も通じていないだろうに、母猿はただ無言でお腹を撫でた。
……そっか、やっぱり母親ってのはその選択をするのね。
何処か背中を押された気分になりながら、私は頷いた。
「始めるわ、手伝いなさい」
着物を脱ぎ、襦袢姿になる。
夜に薄い布一枚。肌寒くてブルリと体が震えた。
立ち始める鳥肌を無視して、父猿に指示を出す。
「腰を持ち上げて。……何してるの、早く!!」
何故かぼうっと私を見つめている父猿に激を飛ばし、母猿の腰付近で手の平を上にしてから上に持ち上げるよう手で示す。
慌てたように母猿の腰を持ち上げる父猿には構わず、脱いだ着物を母猿の腰の下に敷いた。
一着50万を超える着物らしいんだけど……他に良さそうな布は無いし仕方ない。
母猿のお腹に両手を添え、気を流し込む。
他人の、それも異種族の気を操作するなど初めてだ。
しかし泣き言など言ってられない。
やれるやれないではない、やるしかないのだ。
母猿の全身のあちこちに点在している、微小な生命力の粒を掻き集めて胎へと流し込んでいく。
粒を掻き集める度に、みるみる母猿の体から生命力が失われていく。
それを理解した上で、尚も集めていく。
だけど。
(私と母猿の分だけじゃ足りない……!)
私自身の生命維持に使う分は出せない。
母猿の生命力は残り少なく、足りてはいない。
しかし、このままでは出産には届かない。
悔しさに歯を噛む。けれど今はそんな感情を持っている場合ではない。
なんとかして、不足分の生命力を補わなくてはならない。
「……ホギャッ!」
「……使えって?」
父猿が手を私の前に差し出し、一声鳴く。
躊躇する事無く、私はその手を掴んで生命力を奪い取って母猿に流し込んでいく。
胸に走り出す冷たい痛みを無視して、ただ母猿の胎へと全てを流し込む。
そうして暫く経ち……胎の子が動いた。
「っ! お腹に力を入れて! いきんで!」
額から垂れて来た汗に目を焼かれながら、母猿へと指示をする。
ただでさえ一目で死にかけと分かっていたというのに、更に痩せこけてしまった母猿が、お腹に力を入れた。
お腹の膨らみが、徐々に、徐々に膣口へと移動し始める。
手助けをするため、痛みを気にせず更に気を循環させて産道を外から刺激していく。
最早時間も分からぬほど暫く経ち。
それは産まれた。
「ホギィャアアア!! ホンギャアアアアア!」
「ンギャウ! ンギィウ!」
「キュー……、キィー……」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
敷いた着物の上に、3つの黒い塊が転がる。
父猿に母猿の腰を上げさせ、塊ごと着物で包み母猿に手渡した。
母猿はそれを受け取ると、満足そうに小さく一声鳴き……力なく頭を垂れた。
母としての役目を果たして逝った彼女を眩しく思いながら、胸に走る冷たい痛みに耐えかねて私も座り込む。
汗で湿った髪を後ろに流し、深呼吸を繰り返す。
今の出産で、父猿から受け取った気の一部を横取りして作業の邪魔をしていた我が子を、少しだけ恨めしく思いながら優しく腹を撫でる。
満足そうにポコポコ殴ってくる我が子に、思わず苦笑した。
「ホギャ……」
「ん……」
父猿と一匹目の夜叉猿が、私に礼を言うように静かに鳴いた。
それに対して、気にするなと手を振ってから夜叉猿の子を包んだ着物を指差す。
一匹目の夜叉猿が頭を上げないまま、父猿が赤子の面倒を見るように、赤子を構い始めた。
(さーてさて、どうやって帰ろうかなぁ)
ここに来た時点で、既に夕暮れ。
どれだけ経ったかは分からないが、今はもう真っ暗な夜だろう。
最悪深夜に片足を突っ込んでいるかもしれない。
更に言えば、今の私は立つのも一苦労なほどに疲労困培だ。
道中で動物に遭遇してしまったら、昼間の動物たちのように生命力目当てで襲って来ない事を祈るくらいしか出来ないだろう。
こんな状況でログハウスに戻るなど、あまりに危険だ。
(でも帰んないと勇次郎と安藤を心配させるだろうしなぁ)
あれだけ盛大に木を薙ぎ倒した後に、こんな時間帯まで行方知れず。
どうみても何かあったようにしか見えないだろう。
いやまぁ、実際何かあったんだけど。
「どうしようかなぁー……」
「なにがだ」
「……へ?」
ふと零した声に、何故か返事が返ってきた。
声が聞こえた方を振り返る。
そこには。
「勇次郎……?」
何故か小鳥を頭に、リスを肩に乗せて。
肩を僅かに揺らしながら、頬に一筋の汗を垂らした勇次郎が腕を組んで私を見下ろしていた。