世界最強の男がTS憑依して範馬勇次郎に負けた挙句同意レイプされる話 作:白髪ロング娘スキー
5キロのダンベルを左右に持ち、アームカールを行う。
契約の日から今日で1か月、課題の日まであと2か月。
「21……、22……」
翁の教える徒手での柔術はもうとっくに全て覚え尽くした。今や徒手での柔術に関しては教える事は無いと太鼓判を貰っている。
剛術も教えたいなーという目をしていたが、生憎この体では剛術を使用してもむしろ自壊するだけなので、悪いがその視線は無視させてもらった。
「33……、34……」
とはいえパンチの一発も放てないのは流石に論外のため、剛術と柔術の狭間、相手の力を利用しながら負荷の少ない殴り方が出来るように鍛錬はしている。
現状、あまり上手くは行っていないが。
力をそのまま跳ね返すのは問題なく出来るのだ。
だが、そこに自分の力も一緒に加えて威力を上げようとすると途端に力が霧散する。
刹那の判断が求められる時は、ついつい前の体の基準で動いてしまうのが理由なのだろうが……
最初に失敗した時は、そのまま返せなかったパンチを顔面に食らい、血を吐きながら意識を失って倒れた……らしい。記憶に無い。
「49……、50……、っふぅ……」
「お疲れ様です、輝夜様」
「ん、ありがとう絹代」
水筒を受け取り口をつける。
喉を潤わす仄かにしょっぱいスポーツ飲料が美味しい。
運動をした後の飲食というのは、やはり毅然無く美味しいものだ。
せっせとタオルで汗を拭いてくれている絹代に礼を言って水筒を返す。
この1ヶ月、それなりにこの体を鍛える事に成功した。この体になった当初と比べれば雲泥の差があるだろう。
だが、それでも足りない。
別に課題が達成出来ないとかではない。
ある程度の課題なら今すぐにでも取り掛かり、そのまま無傷で帰ってこれる。
発作さえ出なければ、という前提は付くが。
そう、発作が出るのだ。
症状の軽重こそあるが、最低でも眩暈でその場を動けなくなる。戦闘の場でそんな隙だらけな姿を晒した者の末路など、もはや想像するまでもない。
しかし、これに関してはもうどうしようもないような気がしている。
なんせ何人の医者に見せても揃って首を振るのだ。むしろ何故今元気に生活が出来ているのかが疑問だという一言を添えて。
なので、これに関しては諦め気味だ。今は発作が出る前に片を付ける方に意識が向いている。
あと、今のままだとあのクソ野郎を殺し切れない。
実力は今の時点でも俺がアイツの上を行っている自信はあるが、相手はニンジャの棟梁。それもあの性格の悪さだ、生き汚さは並大抵のものではないだろう。
故に、殺し切る前に
最低でも一瞬でアイツの首をへし折れる程度には強くならねばならない。
しかし、今の俺は停滞してしまっている。
着実に筋トレを重ねる度に強くはなっている。逆に言えば、筋トレの分以上の成長が無い。
こんな遅々とした成長では、課題を達成するまでに俺の強化が間に合わない。
「クソ……」
今になって今更、柔術を習ったのが失敗だったのではないかと思ってしまう。
脆弱な女の身でも扱える武術。つまり柔術とは、今の弱いまま戦うための武術なのだ。受け身の武術なのだ。
強くなるための武術ではない。相手を倒すという意思に欠けた武術なのだ。
武術に貴賎は無く、扱う者次第の筈なのに。どれだけ真摯にそれと向き合うかで、武術という物は無限の可能性を見せてくれる筈なのに。
俺を
その肝心の俺がこんな事を考えてしまっている有様だ。
強くなれない理由を他のものに押し付ける。
俺の性根は、いじめられっ子の頃から何にも変わっちゃいない。
「輝夜様……」
絹代の声に、そちらを向く。
彼女はタオルと水筒を持ったまま、心配そうな顔でこちらを見つめていた。
「大丈夫だよ、絹代」
とはいえ、自分の性根が臆病ないじめられっ子の頃から変わってない事なんて、とっくのとうに分かっていた事だ。
何をされたわけでもなく、ただ向けられるだけの恐怖の視線に孤独を感じ、それに怯えて精神安定剤に手を出すほどに衰弱する。そんなもの弱者以外の何物でもない。
そんな弱い自分を受け入れた上で我慢しながら10年の時を生きたのだ。故に対処方法も分かってる。
「んッ!! ……ったぁ~……!」
「輝夜様!?」
両の頬を両手で思いっきり叩く。
鋭いピシャンという音と共に鈍い痛みが顔に走る。
……ちょっと力を入れ過ぎたかもしれない。割と本気で痛い。
浮かんできた涙を指で拭う。
「よしっ、今日のネガティブはこれで終わり!」
結局は自己を肯定しきれず不安に押し潰されているだけなのだ。
だったら背中でも叩いて勇気を湧かせてやればいい。
この根性無しの僕め、代わりに俺が強くなってやるから大人しく引っ込んでろよ。そう自分を笑い飛ばすのだ。
今叩いたのは頬だけど。
まぁそういう訳で、僕が臆病な根性無しである事は俺にはどうでもいい。だが、成長が遅い事は見逃せない。
何とかして成長できる手段を探して確立しなければならない。
さて、どうするか。
そうして顎に手を当てて考え込む俺の近くに、くるくると回転しながら竹刀が吹き飛んできた。床に弾んで絹代の方へと跳んで行くそれを掴んで止める。
竹刀か……竹を初めて見た時は驚いたな。あんなに細いのにピンと真っ直ぐ立っていて、それでいて硬さと柔らかさも備えている。
しかも食えるときたもんだ! 食えるのは小さい頃の竹、タケノコだけらしいが。その日の夜に出された炊き込みご飯はとても美味しかった。
しかも、クソ野郎が輝夜用の箸を一つ駄目にしてしまったからと、その補填として竹で作った箸もプレゼントしてくれた。
料理長が。あの男何でも出来るな。
にしても、竹刀かァ……武器としては無駄に命を奪う事の無い良い武器と言える。
けど、カタナは上手く扱える気がしないんだよな。というより武器全般がそうなのだが。
武器を使うというのは、それだけで相手よりも優位に立ってしまうような気がするというか……あと単純に武器を使うよりも、拳を握り締めて真っ直ぐ行ってぶっ飛ばした方が強かったし……
そういう思いもあり、今までに武器は一度も使った事が無い。
握った事のある刃物も包丁と髭剃りのみだ。根本的に武器を扱うという事に慣れていない。
まぁでも、貧弱なこの体だ、何か武器を持つくらいの方が良いのかもしれないな。
そういう点では、竹刀というのは俺に向いた良い武器と言えるかもしれない。
手に持った竹刀を観察してみる。
握り手に赤い痕の染みついた使い込んでいる事が分かる竹刀だ。ただの竹刀にしては妙に重いが。中に鉛でも入れてあるのだろうか。
飛んできた方を見ると、鞭を持ったクノイチと素手のニンジャが顔を青褪めさせてこちらを見ていた。
「「も、申し訳ありません輝夜様ッ! お怪我は!?」」
「無いわよ」
だからそんな顔をするなと、手をひらひらと振る。竹刀を掴んだのとは逆の手で。
竹刀を掴んだ方の手は少しヒリヒリしているため、恐らくは軽く内出血でもしているのだろう。それを見せると猶更心配されそうだ。
心配してくれるのはありがたいが、流石に過保護が過ぎると面倒になってくるからな。俺はこの1ヶ月でそれを学んだ。
まぁ眉を下げてこちらをジッと見て来る辺り、絹代にはバレているようだが。
「はい、竹刀。今度は手放さないようにね」
「ハッ! 二度と手放さぬよう誠心誠意込めて握らせて頂きますッッッ!!」
「重い重い……」
これはこれで面倒だな、と苦笑いしつつ、近付いてきたニンジャに刃の部分を抓んで柄の方を向ける。
するとニンジャは膝を立ててしゃがみ、両手でしっかりと竹刀の柄を握り締める。そのままゆっくりと俺の手から抜き取る様にして竹刀を受け取った。
手に持った竹刀を柄をこちらに向けるように持ち替えてから腰に宛がい、ぺこりと一礼して3歩後ろに下がった所で立ち上がる。
そしてこちらに背を向けて歩き出し……他のニンジャ達に群がられて押し倒された。
「てンめ何輝夜様を危ない目に遭わせてんだ! 処分されてもおかしくなかったぞお前!?」
「竹刀が飛んでった先に輝夜様がいるのに気付いた瞬間天国にいる母ちゃんの顔が浮かんだ……最近輝夜様が優しくなったって話は嘘じゃなかったよ母ちゃん……」
「最近の輝夜様は優しいよな……誰かが処分されたって話を聞かなくなったし」
「あれじゃもうただの絶世の美少女じゃねェか……ッ!」
「おいどうだったんだよ、近くで輝夜様と話して」
「……良い匂いした。汗だらけの筈なのにすんごい良い匂いした」
「「「テンメ羨ましいぞクソがッ!!!」」」
……うん、聞こえてるんだよな。小声で話してるけど。普通に聞こえるんだよな。
元男として気持ちは分かるから、特に何かツッコんだりとかはしないけどさ。
ただ、絹代やクノイチ達の顔が凄いことになってるから、早く気付いて話を止める事を勧める。
そんな事を考えながら、苦笑いしつつニンジャの山を眺めていると、パァンッ! という何かが弾けるような音が道場内に響いた。
音の発生した方を見ると、先ほど竹刀ニンジャとスパーリングをしていた鞭を持ったクノイチが立っていた。その額には青筋が浮かんでいる。
それを見た瞬間ニンジャの山が一つ一つそそくさとスパーリングに戻っていく。最後に残ったのは、もみくちゃにされた竹刀ニンジャのみ。
慌てて立ち上がり、竹刀を構えてクノイチと相対するニンジャ。そんなニンジャに対して、クノイチはチラッと目だけを一瞬こちらに向け、フンッと鼻を鳴らして鞭を構えた。
その表情はどこか満足げだ。
……なるほど、嫉妬か。
ん~、
「ねぇ」
「ひゅい!?」
こちらに背を向けていたニンジャの肩に手を回して話しかける。
瞬間、般若と化すクノイチ。見ていると笑いそうになるため、今は無視だ。
「私ね、1か月前にとある契約をしたの」
「あ……あの5つの課題とかいう……」
「そうそれ。だから強くなりたいんだけど、最近行き詰っちゃって。このままだと私、好きでもない人と結婚する事になってしまうわ」
「それは……」
途端、眉を顰めて心配そうな表情を浮かべるニンジャ。俺の言葉に女として何か思う所があったのか、クノイチも般若を引っ込めて何処か不快そうな表情だ。
優しいんだよなぁこいつら。他のニンジャ達にしてもそうだが、色んな刺客に襲われた事がある身としては、そんなに他人を思いやれる感性のまま暗殺者なんてしていたら、その内心を病んでしまうのではないかと心配になってしまう。
翁が言うには、この道場にいる者達はまだ
まぁ今はそれは置いておこう。大事な事だが今はいい。
「だから強くなれそうな鍛錬法を探してるのよ。必殺技みたいなのを作れないかなぁーって」
「つまり……?」
「技の参考にしたいから……カッコいい所、見せて?」
「!?!?!?」
カッコいい所の部分はクノイチを見ながら口にする。ついでにウィンクも決めておこう。
するとこちらの意図を察したのか、クノイチが一瞬呆けたように口を開き、そして何処か嬉しそうに笑顔を浮かべながら鞭を構えた。
ニンジャの背中を叩き、俺は巻き込まれないよう後ろに下がる。
「それじゃ、準備はいい?」
「ええッ、存分にたんの……叩きのめしてあげる!」
「も、な、なんなのおおおおお!?!?!?」
「はじめッ!」
口では混乱した様子を見せつつも、開始の声と同時にニンジャの足が動き、クノイチが鞭を振るった。
斜めに薙ぎ払う様にして振るわれた鞭を身を傾けて躱し、床に当たって跳ね返ってきた鞭を見もせずに竹刀で払う。
払われて伸びきった鞭を、クノイチが持ち手を操作して回収している間に、竹刀の射程圏内まで迫ったニンジャ。
竹刀を顔の横に構えて腕は後方に。もう片方の手は竹刀の下に置いてレール代わりに。引いた腕を前へと突き出す。
鉛入りの竹刀で放たれた突き。
当たり所が悪ければ、一発でノックダウンもあるそれをクノイチはしゃがんで躱し、回収した鞭をくるんと一回転させて輪を作る。
しゃがんだクノイチの上を通る竹刀、それを囲う様にして作られた輪。
罠だと悟りニンジャが竹刀を引こうとした瞬間、クイッと鞭の持ち手が捻られた。
竹刀に巻き付く鞭。それの持ち手を両手で握りながら、クノイチは立ち上がる勢いも乗せて全力で振り上げる。
すると、なんということか。
「釣り上げた……」
道場のどこかから聞こえてきた呟き。
水など無い場所で、魚などいない場所で聞こえる筈の無い呟き。
だが、宙に浮かんだニンジャ。両手で
確かに水など無く魚もいない場所で、ニンジャは魚さながらにクノイチに
その事に驚きの表情を浮かべつつも、どこか余裕の残るニンジャ。
それも当然だろう。なにせ、この釣り上げの本来の目的は竹刀を取り上げるための武装解除だ。
しかし、今ニンジャの手には竹刀が残ったまま。むしろニンジャが意地でも竹刀を手放すまいとした結果が、このニンジャ一本釣りなのだ。
反対に目的が果たせなかったクノイチは少し苦い表情。
竹刀に絡まる鞭を振り解き、ニンジャが竹刀を振りかぶる。
落ちる勢いと体重を乗せた鋭い袈裟斬り。当たれば肩の骨程度は砕けるであろう一撃。
そこにクノイチが全力で下に向けて鞭の持ち手を薙ぎ払う。
長い武器特有の、円を描く様な軌道で飛ぶ鞭。その膨らんだ先端が、竹刀とぶつかり合う。
ダァァァンッッ!!!
「うぉっ」
空気が弾けて炸裂する鋭い破裂音。
人間の本能に訴えかけてくるその音に、思わず体が震えて目が閉じかける。
それをなんとか意思で封じ、戦いの終わりを見届ける。
俺よりもよっぽど近い位置でその衝撃波を浴びたニンジャは、されど怯まず。鞭との衝突により、竹刀がカチ上げられたのを利用して足を振り上げ、クノイチの鞭を持っている方の手を蹴った。
痛みと衝撃で僅かに手が開き、その隙間から零れ落ちる鞭。ついそちらへと視線を取られるクノイチ。
ニンジャはそんなクノイチの両肩に両足を乗せ、落ちる勢いそのままにクノイチを押し倒した。
両肩を足で抑えながら胸の上に乗り、尚も手放さなかった竹刀を逆手に持って首に添えている。
上を取った者と、上を取られた者。
武器を持つ者と、武器を持たぬ者。
勝者は誰が見ても明らかであった。
「勝った……」
「おいおい勝ちやがったぞあいつ……」
クノイチを見下ろしながら、息を荒げて呼吸をするニンジャ。
やがて状況を理解出来たのか、ふと彼が首を上げ、とある方向へと目を向けた。
後にニンジャこと彼は、この時の事をこう語っている。
「あの戦いの時ですか? 覚えてますよ、妻が俺に惚れた切っ掛けだって言ってましたし。
なにより、あの輝夜様にカッコいい所を見せろ、なんて無茶ぶりされたんですから。
兎に角夢中でしたよ、なんせ相手は同期では一番とされていた彼女だったんですから。
全勝無敗、そんな彼女との戦いで輝夜様にカッコいい所を見せなきゃならない。
正直な話、輝夜様は怒ってるんだろうなぁって思ってました。無理ですもんそんなの。
あ、やっぱりお気に入りって噂のお付きを危ない目に遭わせたから怒ってるんだって。
許す優しさとこの処分はお付きのせいじゃないっていう印象を与えて、その上で他に処分するための理由を付けようとしてるんだって。
まぁ、それでもやるしかなかったんですけどね。竹刀だけは手放さない様にしてましたよ。万が一また輝夜様の方に飛んでったらその時点で死ですよ死。
釣り上げられた時も、鞭で竹刀ブッ叩かれた時もずっと竹刀だけは握り締めて。そして気付いたら彼女の上ですよ。
他の人はあの戦いの時の俺は輝いてたって言ってる? ははは、ありがとうございます。妻にもそう言われましたよ。まぁあれ以降、妻にはプロポーズの時の1回しか勝ってないんですけどね。
え、輝夜様がその時何をしていたかって?
カッコいいと言われた?
惚れられた……
はぁ~……ん~。
やっぱりあなた達は分かってない! 輝夜様という人物を。
そりゃ処分されなかったんだから、及第点は行ってたんでしょう。実際妻が俺に惚れたってんだから、惚れられる可能性もありますよ。
普通はね。だけどこれは輝夜様の話でしょ?
彼女はこっちを見てすらいませんでしたよ。
もう微塵も興味無し! 転がってた鞭を拾い上げて、『これだッ!』って。
正に天上天下唯我独尊。彼女の前ではたった一つの存在を除いて全てが下です。
あの時は無理矢理結婚させられる事を嘆いていましたが、それもきっと演技でしょう。その程度の些事で彼女は揺るがない。
それが輝夜様なんですねぇ」