※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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戦場希望はZEROの世界観を体現しているかの
様な人物です。天武日本は積極的な子作りを推奨する為に
避妊薬・強精剤・催淫剤等を手軽に購入出来る環境を
整えました。結果として人々が気軽にセックスを楽しむ様になり
人口問題は解決したのですが、必ず物事には歪みが出ます。

その歪みの犠牲者であり、そして他人が不幸せにならないと
心が満たされないと言う哀しみを背負ってしまった女性。
彼女自身、それが悪い事だと解っているがどうしても止められない。
椿もそうですが、その『性』がさらなる悲劇を招く事になります。


番外編 湯源郷の宴 鮮血の眠り姫

【西暦2000年 10月7日 午後5時10分 東京都千代田区 黒薔薇館 白薔薇エリア個室】

 

 小さなクローゼット、時計が置かれている棚、シングルベッド、シャワー付きの浴槽。

 最低限必要なものが揃った小さな部屋の中で、鶴野椿は生まれたままの姿で戦場希望の膣を舐めていた。

「はは、なかなか上手いじゃん」

「一通り、御客様から要求されるであろうプレイのやり方は教わっていますから」

 あくまで仕事として、事務的に希望と接する椿。

 

 不満を前面に押し出す様な顔はせず、使い慣れた営業スマイルをここぞとばかりに披露する。

 舌で彼女の股間を愛撫している椿の肉棒は、『御立派』と褒め称えたくなる程雄々しくそびえ立っていた。

「アタシをいかせてくれるんなら、舌以外でも構わないぜ」

「さらなる快楽を与え、天国に連れていってあげましょう」

 完全に勃起しているのだから痛みを伴うのは当然で、さらに性欲が理性を侵食する。

 

 以前の椿ならば本能に負けて目の前の女体に襲い掛かっていただろうが、彼女の身体は強靭なものへと変化していた。

 希望の膣口に指を差し入れ膣壁の上部、俗に『Gスポット』と呼ばれる箇所を的確に刺激する。

 簡単に言えば女性における人体の性的急所、弱点を突く事と同義だった。

「なッ、ああああ……

 ちょっと待てって、おッ、あひッ」

 

 人差し指と中指が、膣内の敏感な部分をこれでもかと攻撃した為、希望の声も自然と上擦る。

 何も知らなかった頃とは違う、『職人』の指捌き。

 真横に開いていた足が震えながら上を向き、彼女の肌や頬がみるみるうちに紅潮していった。

 

 俗に『アダルトビデオ』と呼ばれる媒体に登場する『男優』は、ありとあらゆるセックステクニックを事前に仕込まれる。

 女性に最高の快楽を与えて絶頂に導く方法、ペニスで相手の感じる箇所を突き急所を擦って相手の快感を極限まで高める方法。

 そういったレクチャーは『黒薔薇館』でも行われており、主に先輩風俗嬢が後輩に知恵と技術を伝えていく事で受け継がれていた。

「へ、変な感じにッ……

 アタシイッちゃ、くうううううッ!!」

 

 失禁したかの様に大量の透明な液体を膣から放出する希望。

 興奮が収まらず何度も足が痙攣し、その場から動く事も困難になっている。

「満足していただけましたか?

 御客様」

 この部屋には彼女の兄はおらず、理不尽な暴力を受ける可能性は低い。

 

 その為椿は性行為における主導権を握る事で希望を屈服させたいと思った。

「……ちょ、ちょっと感じちまっただけだ。

 アタシが負けたとでも思ってんのか。

 さっさと来いよ。

 アンタをあっと言う間に射精させてやる」

 

 彼女の精一杯の強がりも、掠れ気味の声で否定されてしまう。

 両手で膣を左右に開き虫を誘う植物の様に椿を誘惑する希望に対して、椿も正面から受けて立つと言う姿勢を取った。

「解りました。

 御客様の花に挿れさせてもらいますね」

 

 全く抵抗する事が出来ず一方的に射精させられ、クラスメイトに無様な姿を晒したあの日の悪夢が蘇る。

 その悪夢を払拭し先に進む為にはこの試練を乗り越えなければならないのだと椿は自らに言い聞かせた。

 (テクニックを身に付けた。

 耐えられる身体も手に入れた。

 私は泣きながら気持ち良くなる事しか出来なかったあの時の自分から卒業しなきゃいけない……!)

 

 先程から全く萎える事無く己の存在を主張している肉棒を、躊躇せず肉のうねりの中に埋め込んでいく。

 根元まで差し入れ子宮の入り口に先端が振れた瞬間、希望は情けない声をあげた。

「ヒイィ!?

 なんッ、で……

 そんな、アタシがぁッ」

 

 流砂か底なし沼かの様に相手を誘い込み、容赦なく喰らい尽くす。

 希望は相手に白旗を上げさせる事が出来ると踏んでいたが、実際は全く逆の展開となった。

 絶頂を体験し、殆ど無防備な状態となった膣の中に、熱い肉棒が入り込み体内を蹂躙していく。

 押し込まれた直後から希望の目には涙が流れ、完全に立場が入れ替わっていた。

 

「もっと良くしてあげますね」

 壁によりかかり椿を受け入れた希望の身体は、絶頂の余韻が残っておりまともに動けない。

 繋がったまま椿は彼女の身体を後ろから抱きかかえ、座った状態から肉棒を上へと突き上げた。

「あッああッ、おあッ、あッあッあッ」

 

 目の焦点が定まらず、快楽の渦に飲み込まれ獣の様な喘ぎ声を発する事しか出来ない希望。

 一方椿の肉棒は膣が与えてくる快感に屈する事無く、常に一定の強度を保っていた。

 (私は努力を重ね、射精するタイミングすら自在に操れる様になった。

 どんなにオチンチンが肉の壁に擦られても、下腹部で踏ん張る事によって耐え切る。

 相手が本格的に絶頂を迎えて全体がひくつくまで、暴発なんてしないわ)

 

 ただただ与えられた快楽に酔い、己を見失っていた頃とは違う。

 的確に相手が感じるであろう箇所に楔を打ち込み、相手を満足させると言う任務を完遂させる。

 復讐では無く、あくまで1つの仕事として椿は希望を絶頂に導こうとしていた。

「やッ、止め……

 一旦止まってぇ」

 

 希望は遂に敗北宣言とも言える訴えを椿に投げかけたが、椿は譲らない。

「御客様を性的に満足させる事が私の務めですから」

 希望の手を壁につかせ、膝立ちの状態で後ろから花弁に肉棒を打ち込む。

 どんなに激しく動こうとも射精する素振りすら見せない強靭さは、希望に恐怖すら与えていた。

 

 (嘘だろ、あの時は情けなくヘコヘコ腰振って簡単に射精してたってのに。

 あの時より出し入れのスピードが速いのにその兆しすら見せないなんて)

 肉と肉がぶつかり合う音、希望の喘ぎ声だけが部屋の中に響き渡る。

 繋がったまま少しだけ動きを止め、椿が希望の耳たぶを舐めた瞬間彼女の中で何かが弾けた。

 

「あへぇぇぇぇぇッ……」

 壁につけていた手が離れ、上半身がだらしなくベッドの上に倒れ込む。

 膣内の締め付けとうねりがさらに激しくなり、膣と身体が痙攣している事が肉棒を通して椿にも伝わった。

「くッ」

 

 耐えに耐えていた肉棒が『踏ん張り』から解放され、希望の膣内に透明な粘液を噴射していく。

 射精する瞬間だけはその快感に屈していた椿であったが、すぐに息を整え肉棒を膣から引き抜いた。

 全ては、あの夏の日の幻影だったのか。

 混濁する意識の中で、希望はそんな事を考えていた。

 

 (また、からかってやるつもりだった。

 マンコに汁吸い取られてアヘ顔を晒す椿を見て嘲笑ってやるつもりだった。

 でも、今のアタシは……

 負けた。

 完全に負けてしまった)

 

 みっともない醜態を晒したのは自分。

 余韻が抜けず動けずにいるのも自分。

 仰向けの状態でベッドに倒れ込み、ただハァハァと息を吐く事しか出来ない。

 完全に呆けている希望とは逆に、彼女を見下ろしている椿は殆ど息が乱れていなかった。

 

 (嘘、だろ……)

 椿の股間は、萎えるどころかさらに膨らみ重力に逆らっている様に見える。

 苦も無く立ち上がり、希望の方を向いて微笑む余裕すら見せていた。

「解ってくれましたか?

 あの時の私とは違うと言う事が」

 

 その微笑みの裏に『悪意』を感じて、希望の顔がサッと青くなる。

 (今、アタシは全く起き上がれない。

 腹を踏み付けられたとしても、ぶん殴られたとしても抵抗出来ない……!)

 椿の風俗嬢としての道は閉ざされてしまうかもしれないが、ボコボコにされる可能性がある。

 

 弱い自分を護ってくれる兄は、この場所にはいない。

 彼女の肩に近付いてきた手を、振り払う力も残っていなかった。

 (あーあ、罰が当たったかな)

 もし暴力を振るわれたら、運命と思って潔く諦めよう。

 そう思い覚悟を決めて目を瞑った希望であったが、椿の手はそのまま彼女の肩に優しく触れた。

 

「ちょっと休憩しましょうか。

 ジュースでも飲みます?」

 怒りも憎しみも全て封印し、風俗嬢として己がやるべき仕事に徹する。

 夢の為ならば仮面も被れる椿の『強さ』を知り、希望の感情が弾けた。

 

「あ、うあああああああ……

 あぁぁぁぁ」

 涙が溢れて止められない。

 惨めな顔を手で覆う事も出来ない。

 

 希望が被っていた『仮面』がボロボロと崩れ落ち、彼女の素顔が露わになる。

 悪ぶっていた不良少女と言う『表面上の姿』とはまるで違う、か弱い姿。

 防音構造になっている為泣き声が外に漏れる事は無いが、椿は心配して声をかけた。

「ごめんなさい。

 痛かったりしましたか?」

 

「違ぇよ。

 ひぐッ……

 アタシに優しくすんじゃねぇ。

 こんなアタシにぃ」

 

 自暴自棄になって泣きじゃくる事しか出来なかった、かつての自分の姿。

 椿は希望の態度に『過去の自分』を重ね合わせ、彼女も何らかの傷を負っているのだと気付く。

 

 (ああ、この人も……

 辛い事があって、歪んでしまったんだ。

 その辛さを他人に押し付けようと必死になって、それでも満足出来なくて……

 彼女は他人を苦しめながら自傷行為を続けていたのね)

 

 苦痛に打ちのめされた人間ほど、何も信じる事が出来ずに狂ってしまう。

 群れのリーダーとなり、相手を傷付ける事でしか喜びが得られなくなってしまった憐れな雌。

 彼女は、本当にそれを望んでいたのだろうか。

 本当は、『誰か私を止めてくれ』と泣き叫んでいたのではないか。

 椿は赤子の様に泣いている希望の顔を、何も言わずにじっと見つめていた。

 

 俯き、言葉を発する事無く座り込む希望。

 今にも虚空に消えてしまいそうな程弱々しい姿となった彼女の姿は、あの時とはかけ離れていた。

 明日が見えない絶望に包まれ、前を向く事が出来なかった頃の自分。

 椿はそっと彼女の肩に手を触れ、彼女を刺激しない様言葉を選びつつ語り掛ける。

 

「……風俗店は、単に性欲を解放し、発散するだけの場所ではありません。

 日頃のストレスや重圧を緩和させ、御客様の生きる活力を与える場所でもあるんです。

 話したい事があれば私に話してください。

 私が貴方の闇に光を照らす事は出来ませんが、吐き出す事で貴方の心が楽になるかもしれませんから」

 

 問い詰めるでも無く、宥めるでも無く素直になってほしいと言う願い。

 仮面が外され、周囲の人間を拒絶していた壁が静かに崩れ落ちていく。

 希望は過去の出来事を思い返し、誰にも話してこなかった秘密を話し始めた。

「……アタシの親父は、アタシにとっても兄貴にとっても自慢だった。

 大好きだった」

 

 希望の脳裏には、一家の長として皆をまとめる父親の姿が浮かんでいた。

 天武日本の与党、革新党に所属する国会議員。

 エリートの中のエリート。

 総理大臣からの信頼も厚く、順調に出世すれば大臣の座も狙える逸材。

 輝かしい実績を物語るかの様に、家庭においても優しく頼もしい父親であり続けた。

 

 毎日が煌めいていて、幸せ。

 かつて希望は本気でそう思っていたのだ。

 

「偉くて、誰からも尊敬されて恰好良いパパ。

 何時かは私もパパの様になるんだって……

 妄信していたし、何も疑わなかった。

 もう、悲劇が始まっている事も知らずに」

 そう言うと希望は立ち上がり、机の上に置いてあった名刺をもう一度椿に見せる。

 

「親父は、黒薔薇館の常連だった。

 風俗通いが問題だったワケじゃない。

 男なら性欲があるって事位アタシにだって解るし、ウチの場合はそれで金が枯渇するってワケでも無い。

 問題は……

 親父が本物の『ロリコン』だったって事さ」

 

 全てを諦めた様な表情を見せ、溜息をつく希望。

 実際に体力は消費しているのだろうが、それ以上に疲れている様に見えた。

 

「黒薔薇で、親父は幼く見える風俗嬢とセックスを繰り返していた。

 この店は会員制の秘密クラブみたいなものだし、非合法な所は数多くある。

 ……アタシにとっちゃ不幸な話で、それでもこの店には『本当の幼女』なんていなかった」

 彼女の話を聞いていた椿は、とてもおぞましい真実の扉が開こうとしていると思った。

 吐き気をもよおす程の邪悪で、救いの無い物語が始まろうとしている。

 

 思わずそれ以上言わないで、と言いそうになる心を椿は必死に抑え込んだ。

 (駄目よ、全部聞くの。

 彼女の口から全てを)

 希望はもう一度彼女の隣に座ると、まるで他人事の様にその続きを発する。

 

「親父は遂に、頭がおかしくなってしまった。

 すぐそばに、おあつらえ向きの幼女がいるじゃないか。

 娘とセックスしてしまえばいい。

 バレずに済む方法なんて幾らでもある……ってね」

 

 光を失った瞳から、涙が零れ落ちていく。

 信じていた者に裏切られる辛さは椿にもよく解っていたが、身内ならば尚更だろう。

 一度狂ってしまった歯車は軋んで、他の歯車をも狂わせていく。

 父親の狂気は伝播して、娘と息子の人生まで変えてしまったのだ。

 

「夕食に睡眠薬を混ぜて、完全に目を覚まさない状態になった所で何度も犯す。

 まだ初潮も迎えていないアタシの身体に親父のモノが何度も刺さって、恐らく膣内に射精もされた。

 最低だろ?

 しかも何時からその地獄が始まったのかアタシにも解らないときたもんだ。

 破瓜の痛みも感じなかった。

 知らない間に『女として開発された』なんて笑えないよな」

 

 恐らくその地獄はかなり長い間続いたのだろうと希望は考えていた。

 父親の死後『黒薔薇館』の名刺以外にも会員カードが見つかり、そこに来店日時が刻まれていたのだがある日を境に彼の来店記録が突然途絶える。

 恐らく、風俗店に通う必要が無くなったのだ。

 そこから計算すると彼女は10歳の頃から犯されている可能性が高かった。

 

「アタシが12歳の時だった。

 親父は何時もと同じ様にアタシの夕食に睡眠薬を盛り、アタシは深い眠りの中にいた。

 親父は裸になって、同じ様に裸にしたアタシを猿みたいに犯していた。

 兄貴は数日前から親父が非道な振る舞いを続けている事に気付いていて、親父の背中に包丁を突き立てた」

 

 恐らく、全ては一瞬で終わったのだろう。

 背中を向け、快楽を貪っていた希望の父親は背後から迫りくる刃を避ける暇も無かったに違いない。

 戦場渡は怪物から妹を救う為に、殺人者になったのだ。

 

「……兄貴には、本当に感謝してる。

 ケダモノからアタシを救ってくれた。

 でも、その後兄貴は荒んでしまった。

 父親を殺害した事と、少年院で乱闘騒ぎを起こした事で普通に生きる道は絶たれた。

 暴走族グループの総長になって、アタシにすら喋り掛けなくなって自分の殻に閉じ篭もって……」

 

 自分には何の責任も無いのだと言い聞かせ続けた。

 悪いのは全て屑の父親なのだと。

 それでも、最早何も口にせず狂気の光を瞳から放ち続けている兄の姿を見る度に心が痛んだ。

 

 償う様にレディースのトップとして希望もヤンキーになり兄を支えた。

 心の痛みは消えず、ますます酷くなる。

 そして彼女の身体も性欲に蝕まれていった。

 

「寝ている間に何度もモノを出し入れされて、睡眠薬とは別に催淫剤まで投与されて……

 アタシはこの世で最も軽蔑する親父と同じ、性欲オバケになってしまった。

 記憶として覚えていなくても、身体が本能的に疼いて男を求める。

 でも、父親に強姦されていたと言う事実から男とするのは抵抗があった」

 淡々と過去を思い出しながら語る希望であったが、内容は人に話せる様な代物では無い。

 

 両性具有と言う『爆弾』を抱えている椿だからこそ、打ち明ける事が出来たのだろう。

 そして、希望が椿に目をつけた理由も明らかになりつつあった。

「だから……

 私を、両性具有者を見つけようとしたんですね。

 見つかったのがたまたま私であっただけで、両性具有者であれば誰でも良かったと」

 

「親父の通ってた黒薔薇館には両性具有の嬢もいるって事が解ってね。

 男とするのが嫌。

 でもセックスはしたいと思っているアタシにとっては願ってもない話だった。

 黒薔薇館に行くのが一番手っ取り早い方法だけど、高校生のアタシじゃ客として店に入れるかどうか解らない。

 今日店に来た時も『20歳です』って嘘ついたし……

 それはともかく、元々ウチの学校にふたなりがいるのなら探してみたかった。

 アタシと同じ『苦痛』と『絶望』を味わってもらえると思ったから」

 

 自分だけ不幸になるのは嫌だ。

 ならば赤の他人を不幸にしてしまえばいい。

 心が壊れてしまった人間の心の拠り所、生贄として選ばれてしまったのが椿。

 真実が明かされても、椿は喚く事無く静かに彼女を問いただした。

「カタクナールΩを清涼飲料水が入ったポリタンクに混入させたのも、貴方だったんですね」

 

「そうだよ。

 アンタの中ではもう九分九厘そうだと思ってたんだろ?

 アタシがやった。

 『両性具有者にはアスリートとしての才能がある者が多い』……

 そんな文章をネットサーフィンしてた時に見つけてね」

 

 両性具有者には、運動神経が優れている者が多い。

 身体の中にある男性ホルモンの量が通常より多い為、そもそも筋肉の質が男性のものに近い為等色々な理由が考えられているがハッキリとした答えは出ていなかった。

 そもそも希望にとっては『アスリートに両性具有者が多い』と言う情報だけで充分だったのだ。

 

「その後は、アンタも知ってる通りだ。

 脅して、尊厳を破壊してアンタの人生と未来を狂わせた。

 アタシの事が憎いだろ?

 別に良いんだ。

 アンタにどう思われようが……」

 

 突き放す様な言動とは裏腹に、希望自身は涙を流し何かを訴えかける様な視線を向けている。

 無言のSOS。

 身体から発せられる魂の悲鳴。

 それを察した椿は、彼女の身体を抱き締めていた。

 

「私も貴方と同じです。

 貴方が私の事をどう思っていようとも、貴方は客で私は風俗嬢。

 私は一流の嬢として、貴方を精神的にも肉体的にも満足させる必要があります。

 だから、この店にいる間は私に思う存分甘えてください。

 それが貴方の権利でもあるんですよ」

 

 誰も彼女の魂を救わなかった。

 彼女の実の兄ですら殺人を犯した事で荒み、彼女の心を癒やす程の精神的余裕が無かった。

 母親も自己保身に走り彼女に金を渡すだけ。

 そんな希望に初めて、救いの手が差し伸べられたのだ。

 

「あッああ、あああああ――――……」

 ただただ泣いた。

 子供の様に泣きじゃくる希望を、椿はその優しさで包み込む。

 彼女の心を覆っていた氷が解けていくかの様だった。

 

「……アタシさぁ、本当はずっと友達が欲しかったんだ」

 湯船につかりながら、マットプレイの準備を進めている椿に対して、希望はそんな言葉を投げかける。

「何処から漏れたのか知らないけど、アタシが実の父親にレイプされたって噂はすぐに広まった。

 公式には母親が揉み消したけど、噂を全部握り潰す事は出来ない。

 兄貴が殺人者なのは流石に無かった事には出来なかったし、あっと言う間に独りぼっちになった」

 

 そう言えば、戦場希望もまた孤独だったのかと椿は思った。

 クラスメイトからは恐れられ、まともな会話は望めない。

 レディースのメンバーと話す事はあるが彼女達はあくまでも部下であり、同じ怯えを抱いている。

 元々は兄に償うかの様に入ったであろう不良の世界で、彼女はずっと助けを求めていたのだ。

 

 (この人は、ある意味幼稚だった。

 不器用で、誰かに助けてもらいたいと思いつつどう助けてもらえばいいのか解らなかった。

 歪んだ羨望と嫉妬が私に向けられていながらも、彼女には常に別の思いがあったのね……)

 誰かを傷付ける事、そして自分自身を追い詰める事でしか救難信号を打てない性分。

 そんな彼女が生まれて初めて、自分の言葉で謝罪し歩み寄ろうとしている。

 

「何度も通えば、アンタの儲けにもなるだろ?

 ……せめてこの店で会った時は、友達みたいに振舞ってくれたらなって」

 

 何もかもを脱ぎ捨てて、安らぎを得る事が出来る逃げ場所。

 彼女だけで無く、椿もまた同じ場所を得る事を願っている。

 だがただ願うだけでは思いは叶わない。

 椿はその逃げ場所を己の手で作ろうとしていた。

 

「貴方が私の御得意様になってくれるのなら、歓迎しますよ。

 全てを許したワケではありません。

 所詮、お金が絡んだ関係……

 この場所、そして時間の続く限りは貴方の我儘にお付き合いしましょう」

 

 ビジネスであると自らを納得させ、希望に対する恨みを軽減しようとする椿。

 この後、希望はマットプレイを堪能し、感想用紙の『星5つ』部分にチェックをつける事になる。

 彼女が来店する度、椿は相手を満足させる事だけを考えプロフェッショナルとしての仕事を完遂するのだった。

 

【2003年 10月19日 午後3時30分 東京都千代田区 黒薔薇館 赤薔薇エリア個室】

 

 目標金額、4千万。

 土地代を別として、椿が夢見る『天女の湯』1号店の建築費だった。

 当然、簡単な道のりでは無い。

 

 広い土地を安く確保出来るのか。

 建築費を抑えてどれだけ見た目を豪華にする事が出来るのか。

 問題は山積みで、椿にはこつこつ稼いだ金を貯金する事しか出来なかった。

「ユキちゃん、今どれ位『軍資金』があるのかな」

 

「……1500万位ですかね。

 4千万稼ぐにはもっと頑張らないと」

 諸田(もろた)仁典(とものり)は椿がそう言った後、湯船に浸かりながら微笑んだ。

「このままだと、お金が手に入るまであと数年はかかりそうだね」

 最初から、夢を打ち明ける間柄だったワケでは無い。

 

 黒薔薇館で働き始めた頃からずっと椿を指名してくれている上客で少なくても月に2回、多い時には3回も足を運んでくれている。

 諸田とのセックスにも慣れた頃、彼は名刺を取り出し身分を明かす程椿を信頼する様になった。

『水戸(みと)CERISE(セリース)取締役社長……!?

 茨城では知らない人がいない不動産会社の社長さんですか?』

 

『知ってくれていたんだ。

 嬉しいなぁ。

 家を買いたい時は気軽に相談してくれ。

 助けになるよ』

 

 近隣の不動産会社を調べていた椿は水戸CERISEの事も知っていた。

 顧客満足度が極めて高い優良企業で、建物の強度を下げる事無く建築費を節約する技術を誇っている。

 椿は彼との出会いを運命だと思い、逃がさない様常にサービスする事を心掛けていた。

「私に出来る事は、お金をこの店で稼ぐ事だけですから」

 勃起した陰茎を隠す事無く、全裸のまま浴槽でマットプレイの準備を進める椿。

 

 風呂桶の中にお湯を入れ、ローションを投入しながら淡々と答える。

「1500万を4500万にする錬金術があるとしたら、君は乗るかい?」

 諸田の顔を見ずに作業を進めていた椿であったが、その言葉に反応し思わず彼の顔を見つめた。

「え……?」

 

「私は不動産会社の社長だ。

 土地錬金術の裏技を知っている。

 裏技と言っても、そこまで難しい話じゃないけどね」

 

 湯船から身を乗り出し、椿を優しい瞳で見つめる諸田。

 迂闊に妄信してはならないが、話を聞く価値はあるだろう。

 そう考えた椿は、諸田からその『錬金術』の話を聞いた。

 

「東京都練馬区の一等地に空きが出来て、ウチがその土地を獲得した。

 アクセスは少し悪いけど、水戸にもかなり広い土地があってそれもウチが保有している。

 水戸の土地代500万、練馬区の土地1000万で手を打とう。

 私の見立てに狂いが無ければ、恐らく練馬区の土地を担保にして4000万は借りられるハズだ」

 確かに、それが全て真実ならば様々な問題が一気に解決する。

 

「でも、そちらのメリットが全然無いのでは?」

 鵜呑みにする事無く怪しみつつ聞いた椿であったが、諸田は気にせずニヤリと笑った。

 

「メリットはあるよ。

 建築をウチの下請けになってる建築会社に依頼してもらう事。

 4000万円を君自身の力で返した後、練馬区の土地をウチに売却して大田区の土地をウチから買ってもらう事。

 それと、ウチの会社の忘年会に『出張』してくれる事。

 コレが条件だ」

 

 風俗店の客としてでは無い、頭脳明晰なビジネスマンとしての顔を覗かせる諸田。

 最初の2つはともかく、最後の条件が椿には気になった。

「出張……とは?」

 

「あの大劇場での裸踊り。

 実に美しかった。

 その事を社員に話したら皆口々に『一度は見てみたいものだ』と言っていてね。

 忘年会で同じ事をやってほしいんだよ。

 勿論、店外に出して働かせる分のお金は私がキッチリ払う」

 

 諸田も大劇場でストリップを見ていたのか……

 そんな事を思いつつ、椿は考えを巡らせる。

 (諸田さんも確かに儲かる方法だけど、店外連れ出しでストリップかぁ……

 素顔を晒すワケにはいかないから、あの時と同じ様に仮面を被れば何とか)

 

 風呂桶をかき混ぜなければならないのに、完全に手が止まってしまう。

 仕事モードを一時中断して真剣に考えなければならない程、椿にとって魅力的な提案ではあった。

 

「私はね、ただ君のストリップが見たいだけでは無いんだよ。

 君がどれだけ『天女の湯』を作る事に拘っているのか、その本気度が知りたいんだ。

 泥を啜っても、大勢の前で恥を晒したとしても己の大望を成し遂げたい。

 その覚悟があるのかと私は君に問うているんだ。

 解るね?」

 

 不動産会社の社員一同が、自分の裸と肉棒を見つめ、射精する瞬間を眺める。

 風俗慣れしていない者が沢山いる空間の中で、自分が踊るとどんな反応が返ってくるのか。

 むしろ興味が沸いた。

 今の椿には、些細な事で逃げ出す様な弱さは無かった。

 

「先に言っておくが、『仮面』は無しだ。

 君は今後、我々のビジネスパートナーとして数々の署名をする事になる。

 君が経営する施設が収益を出せるのか否かは我々にも大きく影響をおよぼす事になるのは解っているね」

 

 風俗店の客としての顔では無く、敏腕社長としての顔を覗かせる諸田。

 土地を買い、建物を作ってもらうと言う関係が長く続く以上、顔を隠す事に意味は無い。

 彼はそう言いたかったのだろうが、椿は一瞬怯んだ。

 

 (素顔を晒して全てを見せるリスクを取ってでも、夢を掴みたいのかと。

 諸田さんは私に覚悟はあるのかと尋ねている。

 どうせ既に地獄を味わった身。

 ココで飛び込まなければ、何も成せないまま終わってしまう)

 

 様々な人の顔が浮かんだ。

 自分を軽蔑した両親の顔、最後まで自分を信頼してくれた妹の顔、そして自分を支えてくれている同じ境遇の風俗嬢達。

 顔も名前も知らない、自分と同じ身体の者達を暗闇から救ってやりたい。

 安息の場所を作ってあげたいと言う理想を曲げるつもりは全く無かった。

 

「解りました。

 やります」

 弱い己からの決別。一歩も引かないと言う覚悟。

 真剣な表情で諸田の方を見ると、彼は微かな笑みを見せる。

 

「……君なら、そう言うと思っていたんだ」

 目を瞑り、何かに思いを馳せている様な顔をする諸田。

 湯船の端に両手を乗せくつろいでいる彼を眺めながら、椿は自分に嘘をつかずに生きると誓った。

 

【2003年 12月28日 午後8時 茨城県水戸市 旅館喜楽屋 宴会場】

 

 午後6時~午後11時までの5時間レンタルで、50万円。

 椿ですら流石に『ぼったくり』なのではないかと思う程の大金を、諸田は目の色を変える事無く現金で支払った。

『私も私の信じた道を突き進んできた結果ココまで来たんだ。

 君と同じだよ』

 

 不満そうな顔を一切見せず、それが当たり前だと思っている様な表情。

 一方枚数に間違いが無いかどうか確認しながら、雲雀もまた眼前で大喜びする様な事はしなかった。

『上客を手放すんじゃないよ。

 アンタを好いてる客が多ければ多い程アタシの懐も潤うんだ』

 

 この店にいる者達や客は、決して他人に心を開いてはいない。

 だが自分と同じ様に信念に従って行動している。

 彼等と同じ様な生き方がしたいと椿は思った。

 

 CERISEが作った建築物の1つである『喜楽屋』は、6000人もの人数を収容する事が出来る宴会場を備えている。

 そこに集まった5000人の社員達。

 社長の諸田は勿論部長や専務と言った取締役、末端の社員に至るまでほぼ欠員を出す事無く参加していた。

 不動産案内担当の男性社員、受付嬢と言った若い男女の比率が高い。

 

「若さは武器だ。

 天武日本の政策『産業活性化計画』には若くて頭の良い男女が必要になる。

 総理は子作りに焦点を当て、避妊薬・強精剤・催淫剤を薬局で購入出来る様にした。

 国民が性行為に対して積極的にならなければ、子供は生まれない。

 新たに生まれた命こそが、大企業を支えていく『柱』になるんだよ」

 

 宴会場には舞台も用意されており、普段はこの場所でカラオケ大会等が催されている。

 舞台の袖から『観客』となる社員達を見つめていた椿は、あまりの人の多さに目が眩みそうになった。

「不動産会社の規模ってこんなに大きなものなんですね」

 

「ウチなんてまだ少ない方だよ。

 綾小路財閥傘下のローズ不動産は1万人の社員を抱えている。

 いずれはウチも、ローズみたいな天武日本一の不動産会社を目指したいね」

 数年後、ローズ不動産は強制的に解体させられ社員の多くがCERISEに流れてくる事になるのだが諸田はその事をまだ知る由も無い。

 ともあれ、大劇場の10倍もの人間が自分の姿を見ると言う現実は椿にとって重いものだった。

 

 自然と緊張し、顔が強張る。

 勝手に震えそうになる足を、無理やり鎮めた。

 (避妊薬・強精剤が気軽に出回る世の中だからこそ、こんなに大勢の若い人達がいる。

 そして私は、その2つがあったからこそ不幸のどん底を味わった。

 切ないものだわ)

 

 禍福は糾える縄の如しと言うが、5000人の幸福に酔う者達は鏡に映した椿の別の姿の様にも見える。

 あまりにも対照的な人生の歩み方を目にして、椿は少しの間自分の人生を振り返った。

 

 (私の『禍福』はどうだったんだろう。

 スプリンターとしてスポットライトを浴びる為に戦って、闇に落とされて拾われて……

 風俗嬢として生きるのは大変だったけれど、次の目標が出来てお金も貰えた。

 トータルで見れば、もっと酷い目に遭っている人は大勢いる。

 この一歩は、私が自分の手で幸せを掴む為のもの。

 そして、私以外の苦しんでいる人達を救い出す為の一歩なのよ)

 

 そう自分に言い聞かせ、心のバランスを取ろうとする椿。

 諸田に目で合図を送り、準備が整った事を伝えると彼は舞台の中央へと歩いていった。

 

 5000人もの社員が一同に集まる毎年恒例の忘年会。

 この日ばかりは無礼講で、集まった者達は歳・役職を気にせず酒を飲んで舌鼓を打つ。

「今年の船盛り最高ッスね。

 大トロの刺身まで入ってますよ」

 

「まま、部長。

 俺がビールつぎますから。

 今日はとことん飲んでください」

 社員以外の雇われたスタッフは大量の大型バスの中でスタンバイさせている為、飲酒運転と言う危険を冒す心配も無い。

 

 そんな中でも泥酔して他の社員に迷惑をかけない様、全員が自分の酒量を予め決め酩酊状態を楽しんでいた。

『皆さん、楽しんでおられますか?』

 浴衣姿で舞台の上に立ち、マイクを持った状態で諸田は社員達にそう呼びかける。

「最高です!」

「自分達、この日の為に頑張ってる様なものなので!!」

 

 ビールが入ったコップを高く掲げ、彼等は一様に己が満足している事をアピールした。

『結構結構。

 この宴会が、来年の営業努力や仕事に対するモチベーションになるのならば幸いです』

 そう言って笑った後、諸田は社員達に鋭い視線を向けた。

 

『そんな皆様に、今日は特別なサプライズを用意しました。

 私が独自のつてを使って連れてきた女性ダンサーが素敵なダンスを披露してくれます。

 ただし、皆様に御約束して頂きたい。

 これから彼女が見せるダンスの内容、及びこのサプライズがあった事自体一切口外無用でお願い致します。

 社員以外の知り合いに話す事、及びネットの日記等に書く事は全面的に禁止。

 もしこの規則を破った者がいた場合、役職を問わず『解雇』する事を予め理解しておいてください』

 

 社長が話し終わった瞬間、和やかだった場の空気が一気に冷え込んだ。

「一発解雇?

 どれだけやばいダンスなんだよ」

「口外出来ない踊りってどういう踊りなんだ。

 危険を伴うとかそういうものか?」

 

 社員達があれこれ思いを巡らせる中、諸田はもう一度強い口調で話し始める。

 

『このダンスを踊ってくださるダンサーは、CERISEの顧客となってくださる方です。

 彼女の踊りはまず日常生活では見られないものですが、彼女のプライバシーに深く関わってきます。

 ですから、彼女の踊りを堪能すると同時に彼女の人権を深く尊重してほしいのです。

 コレは、CERISEが創業時から掲げてきたスローガンと同じもの。

 『人を育て、守り、作る』。

 この『守る』と言う言葉は御客様を守ると言う事。

 単に雨風から御客様を守るだけで無く、御客様の秘密を胸にしまいこみ墓まで持っていく。

 我々にはそういった素晴らしい理想があるハズです。

 その理想は嘘偽りなのでしょうか?』

 

 不動産会社としての誇り、そして社員一人一人の誇り。

 酒が入っている事もあり、彼等の熱気は宴会場全体の温度を数度上げるかの様だった。

「嘘じゃない。

 我々は顧客となる家族の皆様を守る!

 コレは我が社の社訓だ!」

 

「顧客の情報を外部に漏らさない事と一緒だ。

 皆、この秘密は共有し死んでも守るぞ!!」

 その全てを遠くから眺めていた椿は、諸田の経営者としての手腕に舌を巻く。

 

 (諸田さんは私と同じ様に社員全員に『覚悟』を求め、それによって全体が団結した。

 単なる宴会の余興として終わらせるだけで無く、会社の方針をもう一度彼等に理解させ徹底させる。

 私の踊りを『経営力の向上』に利用するなんて……

 抜け目が無さ過ぎるわ)

 

 諸田は50万円と行き帰りの旅費を払い、その金額以上の儲けを手にする為の起爆剤に変えてみせた。

 彼の期待、そして社員の期待に応える為にも生半可な演技は見せられない。

 (私も全部を出し切ろう。

 50万円の価値があったと思える様な踊りをしなきゃ)

 

 頬を両手で数回叩き気合を入れると、椿は舞台へと歩を進めていった。

『それでは、彼女の踊りを最後までゆっくりお楽しみください。

 鶴野椿さんです。

 どうぞ!』

 社長が舞台の上から姿を消した直後、舞台の中央にバスローブ姿の椿が立ち社員達を見回した。

 

「御紹介にあずかりました鶴野と申します。

 皆様に満足して頂ける様全力を尽くしますので、応援の程宜しくお願い致します」

 羽織っているバスローブの下、それが裸足である事はすぐに社員も理解する。

 (ああ、ストリッパーか……

 プライバシーってのはそういう事だな)

 

 (でも、普通のストリップであそこまで強く言うかしら?

 私はそうは思えないわ)

 全裸でのダンス、バスローブを脱げば何も着ていない。

 社員達はそこまでは容易に想像がついており、そこまで大層なものだとは思っていなかった。

 男性の社員の中には浅草のストリップ劇場に足を運んだ者もいる。

 

「始めますね」

 舞台の奥に置かれていたラジカセからBGMが流れ始め、ダンスの始まりを告げた。

 彼等は皆単なるストリップで終わるとは思っていなかったが、どういった違いがあるのかまだよく解っていない。

 その正体が判然としないまま椿を見ていた社員達は、彼女がバスローブを脱ぎ捨てると度肝を抜かれた。

 

「えッ、嘘だろ。

 マジで!?」

「あー……

 うわ、信じられない。

 私、噂だけだとばっかり思ってたのに」

 

 生まれたままの姿、そして股間から勢い良く突き出している肉棒。

 遠くで見ていてもハッキリ感じる『違和感』が彼等の眼前に現れた瞬間、全員が言葉を失う。

「なあ、あれって『ふたなり』ってやつだよな。

 本当にいたなんて……」

 

「ビックリしない方がおかしいわよ。

 成程、そういう事だったのね」

 大半の社員が呆然として目の前の現実を受け止め切れずにいる中、何名かは口々にそう呟いた。

 その言葉は殆ど椿の耳には届いていなかったが、せめて心無い言葉を叫ばないでほしい。

 心の中でそんな願いを込めながら、椿は5000人の観客の前で踊り始めた。

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