1つの区切りと言うのはどんな作品にも必要ですが、
往年のあの名作ドラマの様に『FINAL』で終わらせたいと思います。
最後の3つの物語はこれから書き始めるのですぐには
更新が出来ないと思いますが、気長に待っていてくだされば
幸いです。
【2012年2月5日 合衆国ネバダ州ラスベガス ZEROアリーナ 現地時間午後5時】
『皆様、お待たせ致しました。
遂に遂にZEROプレイヤーの頂点を決める戦い、決勝戦が始まります!
先程の準決勝戦を見た観客の熱も沸騰しそうな程に高まっている事でしょう!!』
決勝に至るまでの2試合は、まるで天武日本とカダル連合王国のどちらが優れているのかを決めるかの様な戦いが繰り広げられた。
IQとFALUDA、SHINとSIGNIFIEが己の全てを賭けて激突した準決勝。
予選に参加した旧パキスタン地区の人間が2人しかいない中ココまで来た2人。
その2人の決勝戦になる可能性もあると考えていた観客も多かったが、決勝は天武日本勢同士の戦いとなった。
『ありえない!!
こんな事』
SIGNIFIEはウルドゥー語で自身の驚愕と己に対する怒りをぶちまけたが、新二は涼しい顔で受け流した。
結局、感情を露わにしてしまう様な人間は負けてしまうのだ。
我を出せない人間は大成出来ないし、熱くなり過ぎる人間は隙を見せてしまう。
この辺りの『負けず嫌いのバランス』を保つのが非常に難しいのだが、新二はそれを試合の積み重ねによって学習していた。
(自信を持つ事は大事だけど、傲慢になったら負けてしまう。
パキスタン2人の実力は確かに恐ろしいものだったが、どんな相手にも必ず弱点があるものだ。
それは俺にも言える事……
大事なのは、その弱点をどれだけ覆い隠せるかに尽きる)
IQも伸びに伸びた実力でFALUDAを黙らせ、決勝へ。
文句の付け様が無い試合運びを見せ、王者の如き風格を見せていた。
あと1回勝てば本当の王者になれると言う事実が、適度な高揚感を与えている。
(決勝と言う強烈なプレッシャーに押し潰されて優勝を逃してきた実力者は星の数ほどいる。
ココまで来たら、『負けたらどうしよう』なんて考えは頭の中から強引にでも追い出す。
目の前の一瞬一瞬で最高のパフォーマンスを出す事だけに専念すれば、きっと結果がついてくるわ)
合衆国の人々にしてみれば、面白くない決勝ではある。
心の何処かでは見下している『イエロー』が決勝に進んだ時点で、どちらが勝っても優勝が黄色人種になる事は避けられない。
前回の大会でも月山新二が優勝していた為、完全に白けて会場を後にする観客もいた。
『ココで最後まで御覧になって頂く方々こそ、ZEROを心から愛していると私は思います。
確かに合衆国のプレイヤーが全て敗れ去ってしまったのは我々としては寂しいですし、辛い事実です。
しかし、その事実を認めなければ来年もその次も恐らく勝つのは合衆国以外の国籍を持つプレイヤーでしょう。
勝ち残った2人に、盛大な拍手をお送りください!!』
アウェーの中のアウェーである会場に、拍手が響き渡る。
それが心からのもので無かったとしても、ブーイングを飛ばされるよりマシだと新二は思った。
(形だけでも紳士でいたいんだ。
合衆国の奴等だって。
差別を無くそうと言ったって、人の心から差別する気持ちを消すなんて事は到底出来ない。
人種がなんだ。国籍がなんだ。
今はとにかく、優勝する事だけに意識を集中させなければ)
心からの拍手を送っているであろう会場に駆け付けた天武日本人の客を思い、彼は優勝する姿を見せると誓った。
余計な『雑念』から解放された空間でひたすら戦ってきたのは瀬川美奈子も同じだった。
(電脳皇帝で人に教える時も、自室で携帯機を弄っている時もこの1年間ZEROから離れた事は一度も無かった。
寝ても覚めてもZEROの事だけ考えて、日々を過ごし鍛錬を怠らなかった。
それは、私自身の事もあるけれど、やっぱり私が生まれた国に私を認めてもらいたいから……)
国の誇り。
美奈子にはあって、新二にはそれ程無い感情。
必要なものは何でも揃い優秀な人材が続々と集まってくる魅力的な国、天武日本。
そこで暮らしていても美奈子は故郷である北鮮省の事を忘れる事は出来なかった。
(草原と青空。
それが何処までも続いている私の故郷。
何も無いかもしれない。
つまらない場所だと思う人もいると思う。
でも、そこが私の生まれた国。
私が心から愛している国なのよ)
平穏は、無惨にも打ち砕かれた。
彼女のせいでは無い。
誰が悪いと言っても時は戻らない。
事実として信国は崩壊した。
北鮮省にも新しい工場や広大な畑が作られ景色が全く違うものへと変わったと聞く。
それに抗う力など彼女には無い。
とてもちっぽけで、非力な存在。
(私が出来る事。
そして天武日本国に住んでいて唯一許されている事。
それは、この世界大会で優勝する事……
工場で働いているであろう国の同胞達に優勝したと報告したい。
風の便りでも良いから伝わってほしい。
それが勇気を生んでくれる)
最早国の為に立ち上がる程の力も人数も残っていない。
美奈子自身もクーデターが起きる事を望んではいない。
卑屈にならずに、明日に希望があると信じて強く生きてもらう為に。
彼女は自分が優勝する事で、信国人としての意地を示せると考えていた。
『決勝戦を開始する前に、まずは決勝まで勝ち進んだ2人に話を伺ってみましょう。
ナタリア、準備は出来ているかな?』
『問題ありません。
では、SHIN選手にインタビューを行います。
ココまで来て、優勝も見えてきましたがどんな気持ちですか?』
会場にいる女性リポーターにマイクを向けられ、新二は偽りの無い本音を語った。
『最初から優勝を目指してはいましたが、絶対に優勝出来ると思った事は一度もありません。
目の前の試合に勝つ事だけを考えて全力を尽くした結果、この場所に立っているんだと思います。
そうですね……
優勝を意識しないと言えば嘘になりますが、あくまで謙虚な気持ちで戦いますよ』
成功者、大金持ち。
世間からそう思われているからこそ、低姿勢でいなければ世間から良い評価を得る事は出来ない。
それが解っているからこそ、新二は己の燃える野心を決して表には出さなかった。
『SHIN選手は後進の育成に力を入れ、多くの生徒に指導を行っていると御聞きしていますが彼等に対して何か思う所はありますか?』
準決勝で精神を相当すり減らしていたにも関わらず、常ににこやかな笑顔で対応する新二。
『俺を尊敬してくれる良い奴等ですけど、もっと勝利に対して貪欲になってほしいと思っています。
汚い反則や勝ち方をするのは論外ですが、『良い子』では世界に通用しないんですよ。
全員ぶっ倒して優勝してやると言う様な気概を持つのが大事です。
それは俺の教え子だけで無く、ZEROをプレイしている全てのゲーマーに言える事でもありますね』
悟りを開いた僧侶が弟子に諭すかの様な優しい口調。
流暢に英語が話せる様になっているのも彼の努力・適応力の証であるが、新二は人間的にも大きく成長している。
火村あかりから全てを許す包容力を学び、九龍玖留美から決して諦めない往生際の悪さを学んだ。
彼は電脳皇帝とエターナルナイトが生み出した『最高傑作』と言っても過言では無い。
だからこそ、彼の様になりたい。
彼の様にスポットライトを浴びたいと願う者が後を絶たなかった。
『合衆国のプレイヤーにも同じ事が言えるのかもしれませんね。
最後に、貴方の活躍を期待している大勢のファンに対してメッセージをどうぞ』
会場に残っている『我慢強い』観客達も、早く決勝戦を始めろと息巻いている。
その為、月山新二と瀬川美奈子へのインタビューに長い時間を割く事は出来そうに無かった。
『優勝する為にこの舞台に立って戦い続けてきたのは事実ですが、だからと言って負けても俺のやる事が変わるワケではありません。
連覇したらさらなる連覇を狙いますし、負ければココへ戻ってくる為に再挑戦するだけ……
皆さんには俺の普段通りの姿を見てほしいですし、それを今後の生き方に活かしてほしいです』
ほぼ満点の解答だった。
自分と誰かを比べて貶す事もせず、インタビューを聞いていた全てのプレイヤーに勇気と自信を与える様な言葉。
合衆国の観客達はSHINの優勝を確信し、彼が再び優勝カップを受け取る姿を思い描いていた。
『有難うございました。
それでは次に、IQ選手にお話を伺う事に致しましょう。
IQ選手もSHIN選手と同じく天武日本国の代表として決勝に駒を進めた事になりますが、今の率直な気持ちを聞かせてください』
レポーターにマイクを向けられた後、美奈子は軽く咳をした後自身の思いを語り始める。
『私は名誉天武日本人として扱われていますが、心は何時でも北鮮省にあります。
あの頃の生活は大変でしたが、悪い事ばかりではありませんでした。
国が滅びていく姿を目の当たりにしながら何も出来ず苦しんでいましたが、私にも出来る事があると思ったんです』
当たり障りの無い言葉を選ぶ方が楽だったが、美奈子は敢えて茨の道を選んだ。
天武日本の操り人形としての自分では無く、洪美子として決勝戦を戦いたいと思ったのだ。
天武日本の政治家が喜ぶ様な発言では無かったが、最早彼女の発言を止める事は誰にも出来なかった。
「なッ、なんて事を!」
TVを見ていた丹羽律は唖然とした顔をしていたが、信虎は冷静だった。
「言わせておけばいいさ。
彼女が何を語ろうが、信国が滅んだ事に変わりは無い。
我々が損をする事は何も無いんだよ。
それより、彼女の身の安全の方が心配だな。
元信国人でありながら名誉天武日本人の称号を与えられている彼女を憎んでいる者は数多くいる。
この発言が火種となって瞬く間に炎が燃え広がらなければいいんだがね」
信虎の言う通り、彼女の言葉は天武日本に隠れ住んでいる元信国人の感情を逆撫でする可能性が極めて高かった。
信国人の精神の根源は『嫉妬』と『怨恨』にある。
自分の仲間が自分より優れていたり、良い境遇を手に入れた事を喜ぶ事が出来ないのだ。
本来ならば『名誉天武日本人』となって一定の発言権を得た美奈子の活躍は彼等にとって誇るべき事だったが、彼等の目には『醜い裏切者』としか映っていなかった。
『私に出来る事……
それは生き残っている信国人に勇気と希望を与える事でした。
私が勝ったり、この世界で活躍する事で失われてしまった信国の誇りを取り戻す事が出来る。
今も『真国』にいる私の仲間に明日を生きる力を信じさせる事が出来る。
その為に私はこの場所に立っていますし、これからもその思想を変える事はありません』
リスクを伴う発言である事は美奈子も充分承知していた。
自分が天武日本にいる『同胞』から疎まれている事も、妬まれている事も解っている。
彼等の怒りの導火線に火を付ける様な行為。
美奈子はそれでも自分の理想を貫き通した。
殺される覚悟まで決めていた。
(私がココにいる意味、生きている理由さえ否定されるのなら私が生きている意味も無い。
全力で、偽りの無い言葉を伝えてそれでも許されないのであれば私は潔く死を受け入れるわ)
彼女はあまりにも綺麗な心を持ち過ぎた。
それは天武日本人の考え方であり、信国人の考え方では無かった。
瀬川美奈子にとって不幸だったのは、自分の仲間とその思想が真逆であった事だろう。
『生まれ育った故郷の為に全力を尽くす、と言う事ですね。
IQ選手は天武日本のゲームセンターで腕を磨かれたそうですが、御自身が成長した理由は何だと思われますか?』
レポーターはさらに燃料を投下する様な質問をし、美奈子はただ真摯な態度で質問に答える。
『故郷で修業した日々が私の根底にあるのは間違いありません。
ですが今私の隣にいる月山新二さんや九龍玖留美さん、鏑木修吾さんといった電脳皇帝のメンバーがいなければ私は成長出来なかったでしょう。
人種や思想では無く、強い人に教えてもらう事は強くなりたいのならば当たり前の事です。
私は手段を選ばずあらゆるテクニックを強者から学んで自分のものにしていきました。
彼等に対する感謝を決して忘れる事無く、私が優勝する事で御恩を返せればと思っています』
美奈子は適当な発言でお茶を濁したりせず、オブラートに包む様な事もしなかった。
本心を隠さずに伝えれば理解してもらえる。
本気でそう思っていたのだ。
彼女は嘘がつけず、新二達の恩を仇で返す事も出来なかった。
純粋である事は、時に『罪』になる。
天武日本人への『感謝の言葉』は、美奈子の寿命を確実に縮める行為だった。
『天武日本への感謝、そして祖国への誇り。
IQ選手はどちらも両立させたいとお考えなのですね。
私もIQ選手の様に誇りを忘れない様にしたいものです。
最後に何か一言あれば、遠慮せずに仰ってください』
『信国人の皆さん、私は全力で勝ちに行きます。
そして優勝したら10億円を信国人の救済基金に全て寄付するつもりです。
お金だけで全てが解決するとは私も思っていませんが、それが私の精一杯だと思ってください』
一度甘い汁を与えれば、死ぬまでしゃぶりつくされる。
美奈子は信国人の本質を全く理解していなかった。
彼女に待ち受ける絶望を予感させるかの様な一幕は表向きには称賛の拍手で幕を閉じる。
『ただ勝つ事だけに固執して優勝賞金すら人に分け与える。
IQ選手が勝つか、SHIN選手が勝つか。
面白くなってきましたね』
レポーターは舞台から去り、後には新二と美奈子だけが残された。
『今年の世界大会は、『超人』と『聖人』の戦いになりそうですね!
連覇の夢を追いかけてただひたすらZEROと向き合い続けたSHIN選手が勝つのか。
それとも迷う事無く己の理想に殉じる覚悟を決めたIQ選手が勝つのか。
私としても、素晴らしい決勝戦になる事を期待しています。
では、筐体の前に移動してください』
舞台の上に向かい合わせの状態で置かれた2つの筐体。
この筐体から様々なドラマや伝説が生まれてきた。
それは数年、もしかしたら数十年続くものになるかもしれない。
彼等2人はそんな長きに渡る戦いの歴史において、記録を残す為に雌雄を決しようとしていた。
(遂にこの時が来たんだな。
数分後には全ての結果が出る。
勝つか負けるか。
まさに天国と地獄……
優勝と準優勝では天と地ほどの差がある)
濃密な『2年間』だった。
振り返るべきは今年からでは無く初優勝の時からだと新二は思っていた。
あの時から国民に『連覇』を期待され、純粋な気持ちで試合に臨めなかった頃の記憶が蘇る。
『周りの人の『雑音』は関係無いの。
大切なのは貴方が勝ちたいと思うかどうか。
迷ったら、まず自分の正直な気持ちに立ち返りなさい。
余計なものを削ぎ落していって、最後に残ったものこそが貴方が信じるべきものよ』
火村あかりの言葉が脳裏をよぎる。
彼女は今自分をテレビの前で応援してくれているのだろうか。
火村あかりがどう考えているのかは解らないが、優勝して笑顔で天武日本に帰りたい。
新二は残っていた僅かな雑念を振り払い、自分の前にある液晶画面を見つめた。
『お前がやりたい様にやればいいよ。
俺は美子のやる事を応援する』
かつての恋人の言葉が美奈子に勇気を与えていた。
(楨、私は貴方の為に戦うわ。
工場の中で私の声や姿が届いていなかったとしても、私は貴方の為に勝つ)
天武日本の人間に金銭的支援を受けている事実は覆せない。
それによって自分をあまり良く思っていない人間が大勢いる事も知っている。
今は目の前の勝利だけを考えなければ。
美奈子は共に生まれ育った仲間達や、祖国に勝利を届ける事を誓った。
人生は、何かを捧げたり賭けたりして、負けたり勝ったりの繰り返しによって構成されている。
大きなリスクを背負わなければ栄光は掴めず、勝った時と負けた時の落差は激しい。
それでも、人々は格闘ゲームに己の誇りを賭けて戦い続ける。
勝利した時の喜びや、負けた時の悔しさが忘れられないからだ。
もう一度勝ちたい。
今度は必ずリベンジしたい。
この相手には絶対に負けられない。
互いのプライドが火花を散らすのが格闘ゲームの華であり、だからこそ観る者の心を強く揺さぶるのだろう。
「新二君、張り切ってるなぁ」
「私達は直接エールを送る事も出来ませんけれど、こうして応援している事が少しでも向こうに伝わればいいですわね」
負けて、もう最高峰の舞台には挑めない『リタイアした者達』。
この世にいようがあの世にいようが関係無く、全ての視線が2人に注がれる。
何万人もの期待が2人の肩に乗っていても、実際に戦うのはたった1人。
頼れるのは自分だけと言う過酷な『競技』だ。
ZEROが世界的な人気を得ているこの世界では、その熱が冷める事は決して無いだろう。
『REAL DEATHGAME START!』
2012年度の世界大会。
その決勝戦は様々な意味で人々の記憶に残る試合となった。
勝利した者。敗北した者。
そしてそれを見守っていた者達のそれぞれの人生は続いていく。
それがどんなに辛く苦しい道のりでも、歩みを止める事は絶対に許されないのだ。