※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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恵と柳瀬のセックス物語です。
お互いに『こうしたかったけど出来なかった』と言う痛みを
抱えている2人は、繋がる事で痛みを解消しようとしています。
勿論傷のなめ合いに過ぎないのかもしれません。
それでも2人にとってこのセックスは必要な行為なのです。


ZEROFINAL1 『半日だけの恋人』中編

「何かさぁ、草むらに寝そべって星空を見ているみたいだよね。

 並んで仰向けになってるこの感じ。

 素っ裸でセックスし終わったばかりだからそんなロマンチックなものでも無いんだけど」

「ハハ、そうだな。

 子供の頃からお前の事が好きだったけど、デートすら1回も出来なかった」

 

 勉強や仕事でそれどころでは無かった柳瀬の人生。

 決められた結婚でお互いに愛情も無かった為妻ともデートはしていない。

 恵と映画館や遊園地に行って思い切り遊んで楽しむ。

 もう実現出来ないであろう儚い夢を思い描きながら柳瀬は溜息をついた。

 

「柳瀬君には奥さんと子供がいるじゃない?

 やっぱり子供は可愛いものなのかな。

 私にはまだ子供がいないからよく解らなくて」

 恵はそう言いながら、恐らく自分が子供を作る事は無いだろうと思っていた。

 柳瀬への恋心を抱いたまま人生を終えたいと考えていたからだ。

 

「3歳になって可愛い盛りだけど、今後どうなるかを考えるとな……

 俺と同じ様に息子には『医者になる』と言う運命が待ち受けている。

 俺は自分から親と同じ道に進みたいと思っていたけど、息子がそうなるかは解らない。

 やりたくない事を無理やりやらせても失敗するのは当たり前の事だ」

 

 勿論医者になりたいと言う思いを抱かせる様に色々工夫はするだろう。

 妻も子供に医療に興味を持つ様に仕向け、誘導していくに違いない。

 だがそこまでやっても息子が医者になりたいと思うかは別問題だった。

「そもそも何で医者の息子は必ず医者にならないといけないの?

 私も子供の頃は政治家の娘として政治家になろうとしてたけどさ」

 

 幼少期にその夢が実現しなかった為、恵は世襲の理由がよく解っていなかった。

 風俗嬢になったからこそ、そういった疑問を抱く様になったのかもしれない。

「色々理由があるだろうな。

 権力の維持の為には子供にその権力を継がせるしか方法が無いとか。

 世襲の方が突然一般家庭の息子が医者や政治家になるより楽だからとか……」

 

 柳瀬は世襲で医者になった為、世襲の利点をしっかり把握していた。

「考えてもみろ。

 政治家の息子や医者の息子は既に構築されている権力関係や地盤をそっくりそのまま引き継ぐ事が出来る。

 ゼロから積み上げるよりずっと楽だと思わないか?

 それに医者・政治家としてのノウハウを親が教えてくれるんだぞ」

 

 勿論、一般家庭に生まれた人物が医者や政治家になるのは不可能な事では無い。

 ただ、世襲で医者や政治家になるのが普通の人よりずっと楽だと言う事だ。

 恵はその言葉に納得し、同時にニヤリと笑う。

「じゃあ私もゼロから積み上げたんだから優秀な人間って事で良いよね~。

 風俗激戦区の吉原でナンバーワン風俗嬢になれたんだから」

 

 勿論恵としては冗談で言った言葉だった。

 赤の他人なら普通に笑うか鼻で笑って馬鹿にするかのどちらかだろう。

 だが柳瀬は彼女の冗談を笑いはしなかった。

 

「前も言ったが、職業に貴賤は無いと思ってる。

 風俗嬢だと馬鹿にする奴はいるかもしれないが、お前は立派に成し遂げたんだ。

 並みの女性には辿り着けない場所に到達した。

 それは、誇っていい事だと思うし少なくとも俺は称賛するよ」

 

 大真面目にそう言う柳瀬の横顔が、恵にはとても眩しく見える。

 (そういう所が好きなんだよね。

 柳瀬君は昔から堅物で真面目で融通が利かないって周りに言われてた。

 でも、裏を返せば誰に対しても真摯に接して優しいって事でもある。

 凄く輝いてるよ、柳瀬君)

 

 もし彼が隣にいてくれたらと思わずにはいられない。

 自分を心から愛して支えてくれる人がいれば人生が潤うハズだ。

 だが、恵も柳瀬も願っているこの思いが実を結ぶ事は絶対に無い。

 それが解っているからこそ互いに愛し合っていると言う事実が重かった。

 

「柳瀬君は優しいね。

 私もそんな優しい柳瀬君にもっともっと気持ち良くなってほしいんだ。

 もう準備は出来てるみたいだから、二回戦を始めよっか」

 気付けば寝そべっている柳瀬の肉棒はすっかり硬さを取り戻している。

 天井に向かって一直線に真っ直ぐな線を描いているそれは激しく脈を打っていた。

 

 この一晩に、己の生涯分のセックスをする気持ちで挑まなければならない。

 求められるのが1回や2回ではまるで足りない事を柳瀬はしっかり理解していた。

「上になってほしい。

 お前の裸を凝視しながら繋がっていたいんだ」

 

 明るい水色の光に照らされた裸身。

 褐色の肌はその光を浴びて輝いている様に見える。

 恵は身体を起こすと柳瀬の股間部分に手を伸ばしそれを優しく握り締めた。

「今日は柳瀬君が望むなら、どんな体位でも付き合ってあげるよ~。

 仕事の時はまずやらない様な面倒くさいやつでもね」

 

 風俗嬢としてセックスをする際、客に複雑な繋がり方を求められる事は珍しくない。

 10万円も払っているんだからと言う気持ちで客はそういう要望をするのだろう。

 だが明確な時間制限があり、次の客がいる事を伝えてやんわり断る事も少なくなかった。

 この日は寝る時間も作らなければいけないとはいえ朝方までかなりの時間がある。

 何より、柳瀬に対して性行為の最中に急かす様な真似をしたくなかったのだ。

 

 愛おしい。

 望みを叶えてあげたい。

 ずっと1つになっていたい。

 愛情と欲望が恵の中で加速していく。

 彼女は自身の膣に肉棒を招き入れ、ずぶずぶと沈めていった。

 

「触れ合っていると、それだけで幸せな気分になるよね~」

「ああ、俺もそう思う」

 合体したまま両手を握り合い、身体を上下に動かして相手の欲望を刺激する。

 先端が奥に沈む度に、言葉では言い表せない快感が全身を駆け巡った。

 

 (股間が熱い沼の中に浸かって、身体に電流が走っているみたいだ……

 全てがどうでもよくなり、射精する事だけ考えていたくなる)

 繋がっている部分はよく見えなかったが、肉棒に纏わりついてくる膣壁の感触は確かに感じている。

 蛸の足が亀頭に絡みついてきゅっと締め上げてくる様な感覚に思わず変な声が出そうになった。

 

 荒い吐息。

 潤む瞳。

 淫靡な彼女の表情を見ているだけで、ますます股間が漲ってくる。

 柳瀬は彼女の胸に手を伸ばし、思う存分揉みまくった。

 

「減るもんじゃないし、乱暴にしなければどんどん揉んでいいよ~。

 今この部屋の中にある全ての要素が、柳瀬君を気持ちよくしてるんだろうし」

 部屋の内装も、胸を揉んでいる行為自体も、繋がっている事も……

 呼吸がどんどん荒くなり、ゴールに向かって突き進んでいるのが感じられる。

 

 (ふふッ……

 こんな事を患者にしたら即クビだとか思ってしまう俺は仕事人間から脱却出来ないな。

 何でも医者としての自分と結びつけて考えてしまう癖が治らない。

 別に考えなくても良い事なのに)

 

 現実感があまり感じられなかった。

 セックスそのものが柳瀬の人生においてあまり行われておらず、働いている時間の方が長いせいだろう。

 まるで行為に集中しろと言わんばかりの激しい腰の動きに、柳瀬は思わず恵の尻近くに手を添える。

「柳瀬君のオチンチン、硬くなってビクビクしてるよ……

 何時でも気軽に出してねぇ」

 

 もう、声が出せなかった。

 出していたら声が上擦って何を喋っているのか解らなかっただろう。

 肉棒と膣が擦れ合い水音の様な音と肉同士が叩き付け合う音が混じって聞こえてくる。

 射精の予兆を感じ、柳瀬は思わず歯を食いしばった。

 

「あッ、あッ、凄く良いよぉッ!

 このまま私の中に来て。

 いっぱい出してぇ!!」

 舌を出し、誘惑する様な表情で妖しく笑う恵。

 我慢出来ず下からも突き上げていた柳瀬であったが、終わりは唐突に訪れる。

 

 彼は全身が発火したかの様に熱くなり、次の瞬間その全ての熱が肉棒の先端から抜けていく様な感覚に身を委ねた。

「ああ、あッ、あ……」

 最早人の声とは思えない、獣の吠える様な声。

 全身を痙攣させながら、柳瀬は欲望の全てを恵の膣内に注ぎ込む。

 

 一度目の射精より、感じている快感の質が高い様な気がしていた。

「御苦労様!」

 屈託無い表情でけらけらと笑う恵の姿が彼にはとても愛おしく見える。

 放課後、勉強を教えてもらっていた時の事が不意に脳裏を掠めた。

 

「私達最強の5人だよね。

 大人になったら何でも出来るんじゃない?

 柳瀬君もそう思うでしょ」

 その『最強の5人』の中で当時最高の頭脳を持っていたであろう恵。

 彼女は内容を吸収するのも、それを教えるのも幼い頃から抜群に上手かった。

 

 (俺達は勉強は出来ても中身はクソガキだった。

 でも恵は違った。

 当時から大人びていて、精神年齢は凄く高かった気がする。

 どんな所でもトップに立てると確信してた。

 そう、どんな所でも……)

 

 札束が飛び交う夜の街で。

 吉原が誇る高級ソープ店でナンバーワンになれる女性。

 下劣な男達の間を華麗に飛び回る夜の蝶。

 男達を翻弄する強かさと目の奥に宿る消えない闇。

 客はそんな彼女の人間離れした『何か』に魅了されているのかもしれなかった。

 

 射精直後で起き上がれない柳瀬を尻目に、立ち上がり陰茎を抜く恵。

 そのまま彼の眼前まで移動すると、膣を左右に広げぽたぽたと垂れる精液を見せ付ける。

「これが、柳瀬君の『思い』なんだよね。

 沢山出してくれて、とっても嬉しいよ~」

 

 悪戯好きな小悪魔の様に男を見下ろし、意味深な笑みを浮かべる恵。

 お淑やかな御嬢様として育てられ、清楚である事が武器になっていた柳瀬の妻とは真逆の存在だった。

 (全ては、愛があるかだろ。

 俺は出来る限り彼女を愛してやりたかったけど、彼女には俺に対する愛情なんて殆ど無かった)

 

 女性のタイプなど人それぞれだ。

 大事なのは両想いであるかどうかだけ。

 そんな事を考えながら、柳瀬はピンク色の秘所を見つめていた。

 

 2人にとって危険な事でも、恵は求められれば素直に応じた。

 デジカメで彼女の裸を撮影する行為である。

 立って全身を映し、椅子に座って膣を広げている姿も映し、2人でピースサインをしている姿も映した。

 

 当然、このデジカメが誰かの手に渡ったり妻に見られたりすれば即座に破滅である。

 そんな特大のリスクを背負っても、柳瀬は今日と言う日を決して忘れたくなかった。

 (彼女の裸なんて、正確に記憶してられるわけが無い。

 仕事に忙殺されてすぐに忘れてしまうだろう。

 危険だが、俺はそれでも恵の裸を記憶に留めておきたかったんだ)

 

 持参してきたクスコを使って膣内部の痴態を撮影しながら、柳瀬はそんな事を考える。

 彼女が最も輝いている今を残したい。

 お互いに老いて若い姿を己でも忘れてしまった時、この写真を見て何かを感じたい。

 こんな時もあったねなんて、笑い飛ばせる様な素敵な間柄。

 彼女の裸を収めながら、柳瀬はそうした未来を思い描いていた。

 

 (私も大分危ない橋を渡ってるね~。

 こんな写真見つかったら大問題になるよ。

 パラダイスでは風俗嬢の写真撮影は全て厳禁。

 知人とは言え写真を撮らせていた事がバレたら店から出て行かなきゃいけなくなる。

 でも、柳瀬君だからなぁ)

 

 特別扱いしてあげたかった。

 貴方は私にとって大切な唯一の恋人だと行動で示してあげたかった。

 本当にこの行為は柳瀬繁だけの『特権』なのだと。

 プライベートで心から愛している相手。

 そして今後こんな機会があるかどうかも解らない相手だからこそであった。

 

 自分の美しかった頃の姿を眺める、老婆になった己の姿。

 まだ想像出来ないが、必ずその時は来るのだ。

 柳瀬と再会して、今撮っている写真を見る時何を思うのか。

 様々な思いを抱えながら恵は『3回目』を始めていた。

 

 (今はまだ、風俗嬢を辞めてフリーになった自分が想像出来ない。

 東京群青大学に合格して、大学生活を始める自分の姿も……

 でも、本当にそうなったら嬉しいな。

 柳瀬君もサポートしてくれるだろうから……)

 

 座位も立ちバックも駅弁も応じた。

 素人同然である柳瀬にやり方を教えながら、様々な体位を味わってもらう。

 今日と言う日に人生の喜びを全て凝縮させてあげたい。

 恵は柳瀬の求めに応じ、柳瀬は彼女の優しさに甘えながら思う存分快楽を貪った。

 

 

 気力を全て使い果たした。

 起き上がる体力も無くベッドに裸のまま横たわりながら柳瀬はそれを感じていた。

 先程と同じ様に、隣には裸の恵が寝そべっている。

 お互いに目が合い、疲れている事で自然と笑みがこぼれた。

 

「明日も仕事があるのに、ちょっと張り切り過ぎちゃったね~。

 アソコが擦れて痛いよ。

 5回もしたんだからしょうがないけど」

「俺も少し痛くなってきた……

 明日はスマホの電源を落としてた事を叱られる所からだな」

 

 明日を嫌でも感じてしまい、明日なんか来なければいいのにとすら思った。

 それは恵も柳瀬も肌で感じている事だ。

 どんなに願っても残酷に時は過ぎ去っていく。

 寝なければ翌日の仕事に支障をきたすのを2人はよく理解していた。

 

「柳瀬君にはこうなりたい、って言う明確な目標はあるの?」

「あの有名な小説じゃないけど、医者が天武日本を代表する病院に入ったら熾烈な椅子取りゲームに身を投じるだけさ。

 誰もが院長になる為に身を削って実績を出そうとしてる。

 俺だってなれるものならなりたいよ。

 エリート医師としての1つのゴールだからね」

 

 トップになりたい。

 風俗嬢としてのレースを制した自分がそんな事も解らないなんて。

 恵は馬鹿な質問をしたものだと思った。

 そして同時に、そうなってしまう人生に少しだけ虚しさを感じてしまう。

 

「子供にそうなってほしいと思うのは親のエゴなのかな?

 ずっと過酷なレースが続くのは柳瀬君も辛いでしょ」

「運命だと思って受け入れるしかないよ。

 ちゃらんぽらんな人生を送れる奴なんて世の中にごまんといる。

 たまたま俺達がそうじゃなかったってだけだろ」

 

 『俺達』と言う言葉が恵の胸を抉る。

 そう、自分もそうだった。

 本当の意味で責任を全部投げ出して生きる事は出来なかった。

 堕ちていくその堕ち方すらも彼女はある意味真面目だったのだ。

 負けず嫌いだったのは恵も柳瀬もそこまで変わらないだろう。

 

「私達は、一番星になりたかったんだもんね」

「俺も、恵も、松波も、寿も、平野も……

 皆そうだ。

 特A時代から、自分が進むべき道で一番になりたいと思っていた。

 多少の躓きや苦難はあったと思うけど、それでも皆懸命に生きている」

 

「そうだね……」

 自分の人生を振り返ると、そこには何時も悲嘆と絶望があった。

 風俗嬢として働いていた時も、心から幸せだと思えた事は無い。

 そんな辛く苦しい日々に、『思い返せる素晴らしい記憶』が欲しかった。

 恵が柳瀬との性行為を望んだのは、そんな気持ちからだったのかもしれない。

 

 (私はあらゆる災厄を招くパンドラの箱を開けてしまった。

 残された希望には、『愛』も含まれていたんじゃないだろうか。

 人を愛する事を許されて、こうして結ばれて……

 柳瀬君には感謝しかないよ。

 私の我儘に付き合ってくれて本当に有難う)

 

 恵は自然と柳瀬の手を両手で握り締め、柳瀬もそれに応じた。

 やがて横に寝たまま2人は互いの身体を抱き締め、涙を流す。

 何か言葉を投げかけたかったが、何も言えなかった。

 言いたい事があっても、相手は全部解っている様な気さえしていた。

 

 (辛かったろう。

 俺に抱き着く事で傷が癒えるのなら、幾らでも来てほしい。

 俺にはそれ位の事しか出来ないんだから……)

 

 そして睡魔に負け、暗闇の中へと誘われていく恵と柳瀬。

 この瞬間だけは、誰も2人を縛らなかったし傷付ける事は出来ない。

 部屋内ではすうすうと言う軽い寝息だけが聞こえていた。

 

【1997年 8月8日 千葉県 松戸(まつど)市 群青(ぐんじょう)学園小学校 校庭】

 

「余計なものは持ってきてないわよね?

 先生に許可取るのだって大変だったんだから」

「大丈夫だって。

 手紙しか持ってきてねぇよ」

 

 あの惨劇が起こる一年前、特Aクラスの5名は教師に許可を取り夏休み中の校舎に足を運んでいた。

 未来の自分に宛てた手紙を入れた『タイムカプセル』を校庭の地中に埋める為である。

「この箱が入って埋められる程度の穴で充分だからね。

 時間もあまり無いし、シャベルで穴を掘ったら箱を入れてすぐに堀った土を戻そう」

 

 5人の中では一番力が強い松波がシャベルで穴を掘る。

 箱を持った柳瀬と恵、寿と平野がそれを見守りながら会話していた。

 

「ねぇ、松波君はどんな事を書いたの?」

「そりゃ当然刑事になってるかって未来の俺に質問してるよ。

 20年後の俺はキャリアの階段を順調に登ってますかってな。

 目指すは警視総監だよ。

 夢は大きければ大きい程目指すのが楽しいだろ」

 

 汗を流しながら作業をしている松波は、恵に視線を向ける。

「恵、お前は何を書いたんだ?」

「え、私?

 私はね……

 ううん、恥ずかしいから秘密にしておく」

 

 頬を赤くしてはぐらかす恵の姿を見て、寿と平野は気になった様子だった。

「そんなに隠さなきゃいけない事?」

「でも、私達とそんなに書いてる内容は変わらないでしょ。

 私が銀行員、キャリアウーマンとして最高の評価を得るって書いた様にね」

 

 後にプラナスの銀行員として働く事になる寿節子。

 恵以外の4名は『表の世界』で評価され、胸を張って生き続けている。

 恵は心に重い何かを抱えて『裏の世界』で生きる事になるのだが、今の彼女はそれを知るはずも無かった。

「20年と言う時間は今の僕達が考えているより相当長いよ。

 今僕達が考えている事と同じ事を20年後の僕達が考えているとは限らないからね」

 

 その『変化』を体験する為のタイムカプセル。

 自分達の書いた『夢』が実現しているのかどうか確認する作業。

 具体的にどれだけの年数が経過するかは解らなかったが、彼等は大人になった時全員でまたココに集まろうと約束していた。

「じゃあ、埋めよう。

 この木の下だから埋めた場所が解らなくなる事は無いはずだ」

 

 銀色に光る箱を柳瀬は穴の中に入れ、松波が再びシャベルで埋め戻す。

 その箱の中には5人分の封筒に入った手紙が入っていた。

 通常のタイムカプセルの様にその時自分が好きだったものが入っているわけでは無い。

 勉学に励む彼等にとって娯楽の様な『不純物』に熱中する事は許されなかった。

 

 

【2012年2月12日 午前6時 東京都豊島区池袋 ラブホテル『FIG』部屋内】

 

 セックスに溺れて、何時に寝たのかよく解らない。

 全裸のまま目覚めた柳瀬は、同じく全裸のまま寝息を立てている恵の姿を見て全てを思い出した。

 (ああ、そうだ。

 俺と恵がこんな所でセックスを……

 こんなに現実感が無いのは初めてかもしれない)

 

 相手を起こさない様ゆっくり起き上がり、頭を掻く柳瀬。

 毛布もかけておらず2人とも生まれたままの姿を晒していたが、室内の温度が高かった為寒くは無い。

 (しかし、あんな夢を見るとはなぁ。

 すっかり忘れていた。

 タイムカプセルの事なんて)

 

 小学生の自分達が『希望ある未来』を信じて書いた手紙。

 優秀な医者になって家庭を築いて幸せになっていますか?

 そんな質問を手紙の中で投げかけていただろうと柳瀬は思った。

 

 (理想はどんなに高くても、現実は厳しいからな。

 医者になる夢は叶ったよ。

 でも幸せな家庭を築く事は出来なかった。

 息子だってもっと大きくなれば嫌でも気付く。

 俺と妻の間に『愛』が存在しないと言う事を)

 

 血の通わない結婚によって生まれてきた子供。

 父親と母親の間に愛情が無い家庭。

 そんな少年が素直に『絶対医者になる』と思うだろうか。

 最悪の場合父親と母親を軽蔑して家を飛び出してしまう可能性すらある。

 そんな未来が感じられるからこそ、柳瀬は頭を悩ませているのだった。

 

 (勿論考えてみたって始まらない事だ。

 俺と妻の仲が劇的に変化するなんてありえないし、演じたとしてもすぐにボロが出る。

 俺も妻も個別にしっかり愛情を注いで、繋ぎ止めるしか方法が無い。

 医者になるのは難しかったが、医者を継がせるのがココまで難しいとはな……)

 

 柳瀬は思わず溜息をつく。

 心の中で愚痴っても何も変わらない。

 そして『残り時間』も少ない。

 ならば、心残りの無い体験をして恵との時間を終えよう。

 柳瀬から見て背中を見せ横向きになっている恵に、彼はゆっくりと近付いていった。

 

 何度もセックスを行っていた昨晩、柳瀬はカタクナールΩを服用していた。

 その影響もあるのか、彼の肉棒はすぐさま相手の膣に挿入が可能である程滾っている。

 熱を帯びて激しく脈を打っている槍を、柳瀬は恵の尻に近付けた。

 (この状態で、俺が同じ様に横を向けば後ろから入れられる。

 最後になるだろうから、じっくり膣内の快感を味わおう)

 

 そこまでゆっくりしていられる程の時間は無い。

 だが焦ってさっさと済ませるのも勿体無い。

 脳内に様々な思いが去来するが、それとは関係無く肉体は恵の中に潜り込んでいく。

 背後から肉の砲身を根元まで膣内に埋めた柳瀬は思わず変な声が出そうになった。

 

 (昨日も感じたが、なんてエグい締め上げなんだ……

 亀頭がきゅうっと口で吸われている様な気持ち良さがある。

 10万円払っても彼女とセックスしたい男がいるのも頷けるな)

 この名器が、どれだけ大量の男の精液を搾り取ってきたのだろう。

 そんな事を考えながら、柳瀬は彼女と深く繋がる為腰に両手を回した。

 

 ずるりと引き抜き、強く突き刺す。

 そういった行為を続けていた柳瀬の耳に声が聞こえてきた。

「おはよう。

 起きて早々我慢出来なくなって襲っちゃうなんて、柳瀬君も結構ケモノだね~。

 朝から凄い硬くなってるし」

 

 挿入して、強い抜き差しを繰り返していれば当然相手は起きる。

 柳瀬は謝ったものの性行為自体を止めるつもりは無かった。

「お前の寝顔が凄くいやらしかったものだから……

 後ろから突いているだけですぐに弾けてしまいそうだ」

 

「もうちょっと頑張ってね、柳瀬君。

 これが最後になるだろうから私もちゃんとイっておきたいし」

 背後から胸を両手で揉みしだかれ、下から上へと突き上げられる。

 がつがつしたやり方で襲ってきた柳瀬に驚きこそしたが、恵は少し寂しい気持ちになった。

 

 (ストレス溜まってるんだろうなぁ……

 激しくする人ほど悩んでる人が多かったもん。

 医者になって色々なものを手に入れても、全部幸せってワケにはいかないかぁ)

 性欲の発散の仕方が雑である事がそれを示している様な気がした。

 だが相手が愛する人間であれば、ストレスを受け止めてあげたくなる。

 

 恵はピストン運動を続けている柳瀬の獣じみた性欲を素直に受け入れた。

「気持ちいいよ、恵……!

 俺、お前とセックスする事が出来て本当に嬉しいんだ。

 許されるなら、世界中の男に自慢してやりたい」

 

 心も身体も裸の女性が与えてくれる愛を享受出来る男。

 多くの男とセックスしているヤリチン青年はこの天武日本に何人かいるかもしれない。

 だが、1人の聡明な美女に『愛している』と言われる幸せには到底及ばない。

 少なくとも、柳瀬はそういう人間より己が幸福だと感じられた。

 

「あはッ……

 思うのは良いけど、実際に自慢しないでね。

 私だってまだまだ仕事は続けないといけないんだから。

 くうん、深いぃ……」

 

 背後から性欲のままに深く潜っている自分が、まるで犬の様だと柳瀬は思った。

 喘ぐ声も、その激しさも動物のそれと大差は無い。

 それでも、何もかも忘れて快楽に溺れている時の方が幸せなのではないか。

 恵と繋がりながら、ラストスパートに向けて柳瀬はさらに動きを速めていった。

 

 本当はずっと1つになっていたい。

 そう思っていても終わりは来るし終わらせなければ。

 快楽と躊躇する心との狭間で揺れる柳瀬。

 欲望が爆発する限界は確実に近付いている。

 

 彼はとろんとした表情で舌を出し、懸命に腰を振っていた。

 恵もその快感に身を任せ、相手の欲望を全て受け止める。

 はぁはぁと言う荒い吐息と肉が肉を打つ音だけが部屋の中に響いていた。

 

 (身体が熱くなってる。

 俺のモノが震えて、上半身も下半身もそれに呼応している。

 出る……ッ!!)

 

 理性の箍(たが)はとっくに外れており、後は精を解き放つだけ。

 胸を鷲掴みにした状態のまま、柳瀬はさらに激しく奥へと潜り込む。

「柳瀬君、柳瀬くぅん!」

「出すぞ、お前の中に全部出すぞ……!」

 

 互いのボルテージが上がり、フィナーレが確実に近付いていた。

 何時の間にか体位が変わり、恵が柳瀬の上に覆い被さっている。

 唇でも股間でも繋がり合ったまま、唐突にそれは訪れた。

「あうっ、えううあ」

「らいふき、らいふきらろぉ」

 

 口の中で舌を絡ませ合っている為、最早何を言っているのかもよく解らない。

 そんな状態で柳瀬の肉棒は快感に耐えられなくなり、膣内に精液を放出した。

 朦朧としており、自分が何を考えているのかも曖昧な状態。

 まるで身体全部が繋がって溶け合い、1つの生命体になったかの様だった。

 

「あはッ、いっぱい出てるぅ」

 呆けた様な表情で口から涎を垂らしながら淫らな言葉を発する恵。

 柳瀬の肉棒に快感が何度も襲い掛かり射精が止まらない。

「お、うあ……あぐッ」

 今まで感じた事の無い極上の快楽に脳が蕩けそうになっていた。

 

 全身を痙攣させ、恵と密着したまま悪戯に欲望を吐き出し続ける。

 やがて射精こそ止まったが、快感の余韻が残っていたのか肉槍はまだ体内に刺さったままだった。

「好き、好きなの」

「俺も、お前の事を愛してる」

 

 1つになったまま愛情と欲望を貪り続ける恵と柳瀬。

 舌を絡ませる口と口でのキスだけで無く、頬にもキスを繰り返す。

 柳瀬は上になっている恵の背中に両手を回すと、ぎゅっと力強く抱き締めた。

「私の膣内でオチンチンがまだ脈打ってるよぉ」

「恵のオマンコが気持ち良かったから……」

 

 淫語を連発し、性行為が終わってもまだお互いに興奮したいと思っている2人。

 恵は柳瀬の興奮を鎮める為、フェラチオでもう一度射精させなければならなかった。

 身体全体が熱くなって、相手と重なり溶け合っている。

 2人は誰にも邪魔されない愛の営みを堪能していた。

 

 シャワールームで行う裸の会話。

 顔と股間を念入りに洗いながら、2人は強烈な快感を思い出していた。

「凄かったねぇ、さっきの柳瀬君のオチンチン。

 膨らんで何度もびゅるびゅる吐き出して……

 朝から特濃のセックスを味わえて嬉しかったよ~」

 

 まだ少し頬が赤いままでにこやかに笑みを浮かべる恵。

 恐らくこれからの人生で、先程の性行為以上の快楽を得る事は無いだろう。

 少なくとも他の女性とは……

 柳瀬はそんな事を思いながら、彼女の背中を流していた。

 

「俺達、何でこんな事になっちまったんだろうな」

 背を向けている為柳瀬がどういった表情をしているのかは解らない。

 だがその声は僅かに震えている様な気がした。

 

「もっと違った道は無かったのかと、何が間違っていたんだろうと思う。

 懸命にやってきてそうなってしまった。

 人生は非情だよ。

 なる様にしかならないんだって」

 

「……私だって、そんな事は何百回も思ったよ」

 医者として有名になって、地位・名声・権力を手に入れる。

 そんな柳瀬の夢は現実になったかもしれない。

 それでも彼の心は渇いて、飢えているのだと思った。

 

 (柳瀬君の私生活はまるで上手くいってない。

 少なくとも柳瀬君自身はそう思ってる。

 好きでもない女性と権力維持の為に結婚して、子供の将来にも不安を抱えてた。

 お金持ちで権力もある人の子供が『怪物』になっちゃう事もあるからね……)

 

 承認欲求、誰かに自分を認めてもらいたいと思う気持ちは人間には必ずあるものだ。

 自己顕示欲の無い人間は出世出来ない。

 だがそういった欲望を『人の実績』で満たそうとすれば歪みが生じていく。

 親とその子供の評価は切り離して考えなければならない。

 柳瀬がそういった教育を子供にしていけるかが鍵だった。

 

「突然私の人生が滅茶苦茶になって、それを自分で変える事も出来なかった。

 流されて、自暴自棄になって……

 でも落ち着くべき所に落ち着いたと思ってるよ~。

 もっと堕ちる人間なんていくらでもいるし」

 

『嫌な事なんてブリッジを吸えば全部忘れられるよ。

 昔根絶させられた薬物なんだけど、今結構復活してきてるんだ。

 世界が凄く煌めいて、とても素敵な気分になれるから』

 客が平然と違法薬物を勧めてきた時、堕ちようと思えば底辺まで堕ちる事は出来た。

 しかし恵は毅然とした態度でその客を警察に突き出したのだ。

 

 (確かに私は風俗嬢で褒められる事は大してしてないけど、クスリやるのは違うでしょ。

 全部台無しにしたいワケじゃない。

 本当に心から絶望してるのなら、高校時代に友達を新たに作ったりしないよね)

 

 汚れたが、自分を壊したいとまでは思っていない。

 逆を言えば、自分は何処までも中途半端な生き方を貫くのだろう。

 東京群青大学に挑んで合格したとして、どんな第二の人生を選ぶのか決めていなかった。

 恵にとっては、『合格した』と言う事実が最も大事なのだろう。

 それは自分を苦しめてきた様々な『悪意』を見返してやりたいと言う気持ちだった。

 

「俺はお前がやってる事が立派だと思うよ。

 自分から選んだ道だけど、迷い続けている俺とは全然違う。

 プロとして、目的を持って生きている。

 何度だって言うよ。

 俺はお前を心から尊敬しているんだ」

 

 その言葉は、ある意味プロポーズに近いものだっただろう。

 柳瀬は恵の事を高く評価しているからこそ、深く愛している。

 特A時代から、一途にその恋心を曲げなかった。

 そんなに愛されているのに、愛しているのに結婚出来ない。

 恵は人生の理不尽さを改めて突き付けられた様な気分だった。

 

「私はそんなに強い女じゃ無いよ~。

 迷ってなかったらこの仕事をやってたりしないんだから。

 でも、柳瀬君にそう言ってもらえるのはお世辞でも嬉しいな。

 そうやって励まされたら、また頑張れる気がするし」

 

 シャワーのお湯が2人の身体に当たり下へと流れていく。

 互いに涙を流しながら抱き合い、恵と柳瀬は温もりを感じ合っていた。

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