恐らくそのやってない事の集大成が最後の話になると思います。
シュールな絵面と言うか、そういうものをずっと求めていたんですよね。
1つの物語として、入れたいと思っていた描写。
最後にそれを書けるのは嬉しい事です。
物語の終着を見届けてください。
【2030年7月某日 午後7時 千葉県宮本市 アパート貧荘 月山優一の自室】
元々、優一にやましい気持ちが無かったとはとても言えない。
わざわざ1人暮らしをして、鶴野響1人を度々この部屋に招いていたのだ。
そういう雰囲気になった時の為に準備をしていたのは間違いなかった。
「俺は君に隠し事をしたくないから正直に言う。
こうなるかもしれないと思って、避妊薬とカタクナールΩは常備していた。
無理やり勃たせるには薬の力を借りるしかない」
優一は響にピンク色の錠剤とコップに入った水を渡し、彼自身は冷蔵庫の中に入っていたドリンク剤を持ってきた。
天武日本では高校生であっても容易く精力剤や避妊薬を購入する事が出来る。
いよいよその時が来た事を感じ響は思わず唾を飲み込んだ。
(遂に純潔を失う時が来たのね……
ユウ君は私にお尻を差し出してくれたんだもの。
ここまで来て約束を破る事なんて出来ないわ)
優一は彼女との性交を心から望んでいた。
愛する相手だし、女性との経験が皆無であったと言うのもある。
何度か火村あかりが彼を誘惑したが、彼女が歳を取っていた事もありその誘惑を跳ねのける事が出来ていた。
「お互いの覚悟を示す証として、同じタイミングで飲もう。
俺はこの行為を1つの儀式として行いたい」
響は優一の言葉の意味が理解出来た。
今から行う性行為は単なる互いの性欲を満たすだけのものでは無い。
結婚を意識している2人が踏み出さなければならない前段階なのだと。
御神酒の様に飲み干せば、その雰囲気が出るだろうと。
響はこんなあられもない姿で『儀式』も何もあったものではないと思った。
(笑ってしまうわ。
こんな生まれたままの姿で、コップを酒の入った盃に見立てるだなんて。
でも、それも良いかもしれないわね。
何しろ、私の始めては人生で一度きりなんだから……)
滑稽な行動かもしれない。
だがあくまでも優一は本気でそうした方が良いと思っている。
下手に反発するより、従った方が面白くなるだろうと響は思った。
実際に行われる結婚式でこれを思い出したら大変だとも思い思わず笑ってしまう。
「おかしいかな?」
「いえ、こんな格好でおごそかな雰囲気なんて出ないんじゃないかと思って。
ユウ君がやりたいのなら、私はちゃんと付き合うわ」
優一はカタクナールΩの中身をコップに注いだ後、コップを両手で持ち響の方を向く。
響も錠剤を1錠口の中に含み、同じ様にした。
「結婚を前提とした付き合いがしたい。
今からする事はそれをお互いに認める行為でもある。
真実の愛を誓い合おう」
全裸の状態で向き合い、正座をしたままコップの中の液体を飲み干す。
優一はカタクナールΩを、響は避妊薬を喉の奥に流し込む為の水を全て飲み込んだ。
この行為に優一は2つの意味を見出していた。
1つはお互い清濁を併せ呑み、今後起こるかもしれない数々の苦難も共に乗り越えていくと言う宣言。
もう1つは引き返せない己を戒める為、『全部飲み込む』つまり最後までやり遂げると言う決意。
最愛の相手が両性具有である事に対して怯えや躊躇いを感じていた彼にとって自分自身に檄を飛ばすのは必須事項だった。
それだけ、何かに縋りたかったと言う事でもある。
「始めようか」
優一の声は優しかったが同時に形容出来ない凄みも含んでいる。
断る事など考えていなかった響であったが、その圧を感じてすぐに首を縦に振った。
(いよいよユウ君と繋がるのね。
さっきは私が主導権を握っていたけど、今度は受け身……)
抵抗せず相手に従うと言う意思を示す様に仰向けになり、足を左右に広げる響。
布団の上に移動し相手の足を両手で掴んだまま、優一は勃起した肉棒を膣へと近付けた。
(尻の穴がまだヒリヒリする……
俺のよりも太いモノを入れられていたんだし当然か。
薬の力によって最大まで膨らんだ俺のと比べても全然違うしな)
響の膣は先程のアナルセックスで余程興奮したのか濡れて愛液が滴っている。
勿論、その真上に位置している肉棒も激しく脈打ちながらその存在を主張していた。
ついさっきまで己を貫いていたピンク色の剛直を目にすると気が滅入る。
優一にしてみれば今度も要求される可能性が高いのだから尚更だろう。
だが薬効によって無理やり大きくしているモノが萎える気配は全く無かった。
「いくよ」
膣口に先端部分を添え、腰を前に突き出せば容易に挿入出来る姿勢。
最後の確認として発された言葉に対して響はこくりと頷く。
本当は痛みへの恐怖、醜態を晒してしまう事への恐怖があるのだろう。
彼女の身体は僅かに震えており、彼女の身体に触れている優一にもその震えが伝わった。
(比較しようが無いけれど、尻の穴に突き入れられる痛みと破瓜の痛みはどちらがより痛いんだろう。
膜を破られると言う行為が身体が裂ける様な痛みを生むと言う話は聞いた事がある。
解っているのは、同じ事をされた俺が手加減せずとも良いと言う事だけ……)
雨音が凄いとはいえ、泣き喚けば隣の部屋の住人がドアを叩きに来る可能性が高い。
響が両手で口を塞ぐのを確認してから、優一はゆっくりと砲身を前に突き出した。
(ふぐぅ!?)
別に裂ける音が実際にしたわけでは無い。
だが響の身体はぶちぶちと言う肉が切れる様な音を感じているかの如くビクビクと痙攣していた。
根元まで埋まった肉棒と膣の結合部分から、鮮血がすっと垂れていく。
それと同時に痛みを快感だと勘違いしたのか、響の肉棒から透明な粘液が少量噴き出していた。
(えっ、何で!?
何でこんなに痛いのにオチンチンが反応してるの?
いや、こんなの恥ずかしい……)
響は妙な所で純情だった。
性交しているのだから快感を感じても恥では無いのに、自分が感じている痛みと真逆の反応を身体がしている事が解せないのだろう。
涙をポロポロ流し、顔を真っ赤にしながら激痛に耐えようとする響。
その痛みとは別に、肉棒を優一に扱かれる事によって身体が思い切りビクンと跳ねる。
「あッ嫌、駄目ぇ、おかしくなっちゃう」
「俺の前でならいくらでもおかしくなっていいんだよ。
秘密を共有するって言うのはそういう事だろ」
肉棒を刺激する事によって痛みが緩和するのなら扱いた方が良い。
そう思い、片手で彼女を快楽に導きながらもう片方の手を床につける。
精力剤を飲んでいた為、乱暴な動き方をしても優一のモノは簡単には暴発しなかった。
腰を前に突き出しながら、手を上下させる動きを加速していく。
響の視界は一瞬真っ白になり、槍の先端から透明な粘液が噴き出した。
「やッ、やらぁ。
いっちゃう、オチンチンいっちゃうのぉ」
射精に呼応するかの様に、膣が中にいる優一のペニスをきつく締めあげてくる。
ぎゅうぎゅうとダイナミックに収縮し、彼を快楽の極みへと誘った。
(彼女の襞が俺のモノを締めながら扱きあげてくる。
抜き差しするだけでも気持ちいいのにこれは、もうッ……!)
膨らんでガチガチに硬くなった剛直が射精を求めて猛り狂っている。
優一は最早響の身体を考慮出来る状態ではなくなっていた。
ひたすらピストン運動を愚直に繰り返す機械となって快楽を貪る。
響の方は射精の快感が膣を潤わせた事により痛みが大分和らいでいた。
射精の余韻に浸る間も無く砲身を刺激され、瞳孔を開きながら涙を流す。
「ひうぅぅッ!?
だッ駄目、ユウ君。
出たばかりのオチンチンを擦るの駄目ぇ、本当におかしくなるぅ」
「一緒に一番気持ちいい、最高の絶頂に辿り着こう。
俺も、そろそろ……」
優一は上から覆い被さり、繋がった状態で響に抱き着くとキスをした。
上と下が繋がっている状態で手を下腹部に回し、さほど激しくない手コキを行う。
(もう、何も考えられない……!)
思考が上空に漂い、フワフワ浮いている様な感覚に身を委ねる響。
肉棒への刺激は絶え間無く続き、もう片方の手で抱き寄せられさらに深く唇を重ねた。
(もう限界だ、俺も出る……)
覆い被さった後もへこへこと腰を振り、奥へ奥へと肉棒を潜り込ませる。
膨れ上がった欲望が我慢出来なくなり、一層硬く大きくなった直後に激しく脈動した。
(おッおおッ、おほぉぉぉぉ)
(あうッ、出てる。
ユウ君のオチンチンが私の中でビクビクしてるぅ)
熱く、硬くなった肉棒の先端から白濁液が噴き出し、竿が何度も膨張と収縮を繰り返す。
それと同時に絶頂した響の先端から再び粘液が噴射され優一の顔を汚した。
(すッ凄いッ、凄いの。
オチンチンが馬鹿になっちゃってるッ、出るの止まらないぃぃぃ)
(響の中に全部吐き出してる……
こんなに射精が続いてるの、生まれて初めてだ)
透明な粘液が幾度も発射され、その度に響の身体ががくがくと震える。
その震えは膣と連動しており、奥に埋まったまま勃起している優一の肉棒を締めあげた。
「くッ、何だコレ。
我慢出来ない」
射精している最中なのに、射精したいと言う欲望が泉の様に湧き出てくる。
優一は射精しながら腰を打ち付け、一突きする毎に白濁液を膣内に吐き出した。
(カタクナールΩを服用したのは初めてだけど、モノがここまで強靭になるのか……
射精した直後に萎える事無く勃起し続けたのなんて今まで一度も無かったぞ)
ぱちゅっぱちゅっと言う水をかき回す様な淫らな音が部屋の中に響く。
かなり長い間射精を繰り返していた優一の肉棒が、ようやく硬度を失い響の膣から抜けた。
響も優一も互いの精液を浴びて粘液まみれになっており、醜態を晒している。
特に響の方は股を広げた状態で膣と肉棒が丸見えの状態になっていた。
(うわ、凄いな。
俺と違ってカタクナールΩは服用していないのに、まだ元気な状態を保ってる。
これが常人よりも遥かに強い性欲を持つと言う両性具有者の本気なのか……)
膣口はぱくぱくと開閉しながら優一が注いだ精液を垂れ流し、肉棒の先端からはまだ粘液が流れ落ちている。
硬く反り返った砲身を晒しながら身体を震わせるその姿は今も尚あまり現実味が無かった。
火山から噴出するマグマの様にだらだらと透明な粘液を流し続ける肉の槍。
響はその無様な姿を取り繕う余裕が無かった。
顔は真っ赤に染まりハァハァと荒い呼吸を続けている。
両腕はだらしなく真横に伸び時折ほぼ垂直に伸びた竿がビクンと跳ねていた。
(私、こんなに情けない姿をユウ君に見せているのに身体が動かせない……
オチンチンが私の股間で大きくなったままなんて。
セックスして、私の身体おかしくなっちゃったよぉ……)
今はもう貫かれた事による痛みも大して感じていなかった。
受け止め切れない程の快楽を全身に浴び、その熱がなかなか消えてくれない。
布団に寝そべっていた響の隣に優一が移動し、横並びの状態になった。
「元気だね」
「やだ、恥ずかしい……
意地悪な事を言わないでユウ君。
普段はこんなに長い間大きくなったままじゃ無いんだから」
顔をさらにかあっと赤くさせ、思わず両手で顔を覆う響。
勃起した肉棒は最早両手では覆い隠せない程の威容を誇っている。
「こんなのに俺はさっき貫かれていたんだな。
ある意味醜態を晒したのも含めて『おあいこ』って事か。
お互いが明かせば即座に破滅する秘密を抱えるのも悪くないね」
優一はどこか悟ったかの様な、穏やかな表情を浮かべていた。
彼女も恥ずかしがり、俺も恥ずかしかったのだから貸し借り無しだ。
響には優一がそう思っているのが伝わったが、それでも硬くなったままなのは嫌だった。
(元々私は性欲が強い方だけど、淫乱な女だと思われるのは困るわ。
私はユウ君一筋なのに……)
男を一途に愛するからこそ、『男側』に回りたくなる。
彼女が別の女性に『浮気』していたら、優一は尻の穴を捧げずに済んだのだ。
彼もそれは承知していたが終わった事を悔やんでも仕方が無いと思っていた。
(互いに失って、別のものを得て……
そんなものなんだろう、人生は)
優一はぼんやりとそんな事を考えながら上体を起こし響の方を見る。
彼の欲望は収まり萎びていたが、彼女の方はまだ熱を持ったまま形を保っていた。
「……身体が汚れちゃったし、シャワーでも浴びようか」
響はようやく床に手をついて起き上がると、何も言わずこくりと頷く。
2人は支え合って立ち上がると風呂場に向かった。
シャワーを一度浴びて汚れを落とした後、優一は背後から手を回し響の肉棒を掴む。
硬くなったまま脈動している彼女の性欲を全て発散させる為だった。
(こんなの、恥ずかしいし情けないよぉ。
オチンチンが元気なままだからユウ君に処理してもらうだなんて)
普段はとっくに小さくなっているはずのモノが鈍い痛みを感じる程怒張している。
優一は男のペニスとは違うピンク色の性器を傷付けない様優しく扱いた。
剥き出しのクリトリスが巨大化したのと変わらない両性具有者の肉棒は、乱暴に扱うとすぐに腫れてしまう。
彼がそれを優しく扱っているのは、それを知っていたと言うより響への気遣いからくるものだった。
(それにしても、両性具有者のペニスって触っていると男のとは全然違うのが解るな……
俺だって自慰行為位はするけど、勃起していてもこんなに熱かったり脈動したりしないぞ)
膨れ上がり、血圧検査中の腕の様にドクドクと脈を打ち震えている。
響自身にもここまで勃起が持続している理由が解らなかった。
愛する相手の穴を掘ったと言う事実で興奮が収まらないのか。
それとも全裸同士で1つの部屋にいる状態が勃起を促しているのか。
確かなのは、これを小さくしなければ家に帰れないと言う事だけだった。
「ユウくぅん……
私、ユウ君にオチンチン扱かれてるぅ。
こんな事されたらもっと硬く、大きくなっちゃうのぉ」
頬を赤く染め、荒い息を吐きながら淫らな言葉を投げる響。
カタクナールΩのせいなのか、何時の間にか優一の肉棒も硬度を取り戻していた。
(うわ、また剥けちまった。
薬の効果が凄いんだろうな。
自然に勃ってると言うより、『無理やり勃たされてる』感じが強い)
これは本当に言語化出来ない感覚だった。
そう思う理由は説明出来ないが、勃起している時の痛みの種類が何時もとは明らかに異なっていたのだ。
互いに全裸になって向き合った時から現実感は全く無かったが、今の状況もおよそ現実感が無い。
重力に逆らって反り立った2本の竿を互いの手で扱き合う。
真正面にある互いの快楽に負けた表情が、より興奮を増す材料となっていた。
(ユウ君、気持ちいいよぉ)
(何で、自分で扱くのとは全然違うんだ……)
細い指での繊細な刺激。
ごつい手ででの荒々しい刺激。
手コキと言えども手の形によって相手に与える快感は異なっている。
それはひとえに肉棒こそ最も快楽に対して敏感で、些細な違いに気付く事が出来る器官だからだろう。
シャワーのお湯を浴びながら、2人は相手を絶頂に導く事だけに集中していた。
「私、もうオチンチン我慢出来ない。
射精しちゃうよぉッ!!」
「お、俺も……
出来れば君と一緒に……」
それは今までの射精と同じ様に、唐突に弾けて終了した。
互いの肉棒の先端から粘液が噴出し、相手の身体を汚していく。
その液体もシャワーによって瞬く間に洗い落とされていった。
「あッああッ、凄ぇビクビクしながら出てる」
「ユウ君の目の前で、またオチンチンの中身出しちゃったぁ……」
いわゆる目をカッと見開き舌を出すと言う『アヘ顔』を晒す響。
優一の方も射精している最中は全く余裕が無かった。
彼の肩に両手をかけつつ身体を預ける。
「ごめんなさい、こんな身体で……」
「良いんだよ、そんな事を言わなくても」
ずっと背負い続けてきたのだろう。
優一は響が隠し続けてきた『秘密』の重みを感じ思いを馳せる。
両親にしか本当の自分を見せられない。
何か手違いがあれば即座に全てが破滅すると言う恐怖。
自分よりもとんでもなく辛い人生を送ってきたのだろうと思われた。
(俺だって、綺麗な女性を見て興奮しモノが立ち上がる時がある。
でも彼女にはそんな何となくでの勃起ですら許されないんだ。
それは男と違ってあるはずの無いものなんだから。
心の底で、ずっと自分の身体を肯定してくれる相手を待ち望んでいたんだろう。
だったら、俺が彼女の心の闇を払ってやらなくちゃ……)
身体を預けてきた響を強く抱き締め、彼女を死ぬまで守ると言う決意を固める優一。
「俺は君の事を愛している。
生えているとか、性欲が強いとか関係無い。
君の事が好きだから君と一緒に全部乗り越えていけると信じてる。
秘密を沢山共有して、離れずに生きていこう」
最初に彼女の『本当の姿』を目にした時、引いてしまったのは事実だ。
だがそれでも愛と覚悟で彼女の全てを受け入れると決めた。
穴さえ捧げた優一に、彼女と別れると言う選択肢は一切残っていない。
そしてそれは秘密を晒した響も同様だった。
月山優一と言う最高の理解者を手に入れた喜びが彼女に涙を流させる。
「有難うユウ君……
貴方に会う事が出来なかったら、私はずっと独りぼっちだったかもしれない。
ユウ君が私を救ってくれたのよ」
抱き合う2人の欲望は全てを吐き出した事で愛情へと変わり急速に萎んでいく。
特に響の肉棒はどんどん縮んでいきクリトリスと変わらない程小さくなった。
生まれたままの姿で抱き合い、永遠の愛を誓う2人。
結ばれてはならない者同士が恋に落ち、心も身体も1つとなった。
後戻りする道は残されていないし2人には後戻りする気も無い。
この日を境に2人の仲はさらに深まり、響は優一の家にほぼ毎日顔を出す様になる。
身体と心の繋がりは続いていたが、ZEROの鍛錬もより深まった。
天武日本を代表するZEROプレイヤーが常に共にいて練習に励めば、加速度的に強さが上がっていく。
勿論携帯機やゲームセンターの筐体での全国・海外のプレイヤーとの対戦回数も増えていった。
響も優一も、成人して結婚する前に大きな結果を出したくて懸命に頑張っていたのだ。
【2032年6月某日 午後1時 東京都 プラチナプライダルホテル内 結婚式場】
天武日本では男女の婚姻は男性が18歳、女性が16歳からと定められている。
この歳に20歳を迎える月山優一と鶴野響は、婚姻届にサインをし晴れて夫婦となった。
「良かったな、ユウ!
お似合いのカップルだ、末永くお幸せに!」
「響ちゃんおめでとう!
ドレス姿、凄く綺麗よ」
このホテルで結婚式を執り行う場合、数百万の金がかかる。
2人が必死にZEROの全国大会で優勝しようとしていた理由の1つでもあった。
2031年12月31日に開催されたZERO全国大会。
この大会で鶴野響と月山優一は誰の記憶にも残る大記録を打ち立てた。
当時から恋人同士である事を公言していた2人は今大会でワンツーフィニッシュを決めてみせる。
月山優一優勝、鶴野響準優勝。
実力だけでこの結果は生まれるものでは無い。
決勝トーナメントの抽選において別の山を引かなければ実現しない結果だからだ。
実力と運を併せ持つ2人は一躍時の人となり人気者として担ぎ上げられる。
美男美女のカップルと言う事で人々の関心も高く、マスコミも彼等の活躍を大きく取り上げた。
そんな中、響の尊厳を守る為に奮闘した女性がいた事を忘れてはならない。
火村あかりは一貫して響の出自をぼかし、彼女を庇い続けた。
彼女の母親、鶴野椿が『両性具有者専用の銭湯』を経営している事など調べればすぐに解ってしまう。
火村あかりは闘戦興の副編集長にまで出世しており、マスコミの旗頭として彼女の家庭を詮索しない様呼びかけた。
同時に青葉せりと言うアイドルを抱えているアークラインズも決して他人事では無く、織田政権に助力を願い出る。
事実上の『平和な独裁政権』を築いている政権の力は絶大で、2人の出自に関する報道はすぐさま封じられた。
2人は『天武日本の英雄』であるが故に守られていたのである。
「いやぁ、本当に良かったですね。
優勝して賞金も得て結婚式を挙げられて、順風満帆な船出ですよ」
「優一君に至っては今年の世界大会のシード権が与えられたから、優勝も充分ありえるわ。
予選からだけど響さんにも頑張ってもらいたい。
2人はまさに今のZERO界を引っ張っていく存在よ」
結婚式には月山新二と関わりが深い火村あかりや雨宮比呂子も呼ばれていた。
月山新二・九龍玖留美・瀬川美奈子の『三強』が牽引していた界隈も変わりつつある。
優一や響、狩谷(かりや)未知(みち)達を中心とした新しい世代が結果を出しつつあった。
「御二人の子供も、きっと英才教育を受けてZEROで活躍される事でしょう。
格闘ゲーム自体も隆盛ですし、これから黄金期が訪れる予感がします」
狩谷優・狩谷真紀夫妻の娘である未知も全国大会決勝トーナメントに進んだ実力者だ。
8強まで残る大躍進を見せたものの、月山優一に敗れ彼女の挑戦は幕を閉じた。
「それにしても、まるでゲームセンターに来ているかの様ですね。
ZEROの強豪達が勢揃いしてますよ」
「身内以外の招待者がZEROの猛者ばっかりなんだから当然そうなるわよ。
ウチの涼介も来てるし、零と美香ちゃんも来てる。
あの2人は祝いに来てると言うより経営者としての責務を果たしてるだけだろうけど」
黒沢グループは積極的にZEROの強豪プレイヤーの広告塔となり利益を出している。
書籍やグッズ販売にも関わっており今回も2人を利用するつもりでいた。
「あの人が、鶴野椿さんかな?
後で挨拶に行かないと……
娘さんの事で色々話さなきゃいけないだろうし」
「隣にいるのは彼女の旦那かしら。
顔は悪くないけど随分影の薄い男ね」
口に出して言う者は少なかったが、鶴野椿と彼女の夫の間に響が生まれたとはなかなか信じられなかった。
容姿はそこそこだが響と顔が似ていなかったし、そこまで頭脳が明晰である様にも見えなかったからだ。
実際彼は響の父親では無かったが、黒薔薇館で働いていた事もあり口の堅さには定評があった。
「優一君はきっと私達の娘を幸せにしてくれるだろう。
なぁ椿」
「ええ、そうね。
私も同じ気持ちよ」
当然、偽装結婚を行った椿の夫は響が自分の娘では無い事を知っている。
そして、月山優一と鶴野響が腹違いの兄妹である事にも気付いていた。
だが、2人はこの流れを止めなかったのだ。
むしろ進展し、このゴールを迎える事を望んでいた。
(これは私への罰であり、私自身が心の何処かで望んでいた事……
新二君の子供と私の子供が結婚するなんて、夢の様よ)
ただ金を貰って契約を果たしていた椿の夫とは違い、響は新二の身内になれる事を喜んでいた。
近親相姦であろうが何だろうが、これで月山新二と『赤の他人』では無くなるのである。
彼女は狂おしい程月山新二の事を愛していた。
愛していたが、彼に妻がいる事は承知している。
それでも、彼に出来るだけ近付きたかった。
なるべく深い関係でありたかったのだ。
そういう意味では、この禁断の結婚も椿本人にとってはメリットのあるものだった。
(希望さんが2人を会わせた事は人から聞いて知っていた。
勿論、その時点で私が介入して止める事は出来たでしょう)
だが椿は止めなかった。
様々な思いと己の我儘を優先した結果だった。
軽蔑している両親の様な、2人を無理やり引き離そうとする冷酷な人間だと思われたくない。
地獄に堕ちても構わないから、せめて月山新二と家系図の上で繋がっていたい。
腹違いだとしても、椿は優一と響の結婚は予想されたものだと思っていた。
(響にZEROの事を教え、月山新二に興味を抱かせたのは私……
私みたいに、月山新二に憧れる様な人間になってもらいたかった。
私の願いを全て叶える為には、歪んだ結末でも仕方が無かったのよ)
自分は倫理観が壊れてしまっているのだろう。
椿はそう思いつつ、会場に来ていた戦場希望に視線を向ける。
希望は椿に見つめられている事に気付くと彼女に声をかけた。
「……アンタがこの結末を望み、喜んでいるとは思わなかったよ。
アタシが思っていたよりずっとアンタはとんでもない女だったんだな」
「良いじゃないですか私が2人を祝福したって……
色々なものに虐げられてきた私の願い、少し位は叶えさせてもらいたいんです」
希望が椿の魂胆に気付いている事を椿は察していたし、希望も同じだった。
幼い頃から『自由』に生きれず、希望によって『夢』も奪われた椿。
娘も自分と同じ身体である事を知った時、娘を理解し愛情を注ぐ異性が必要だと思った。
血が繋がっていたとしても、響にとっての救いはやはり優一なのだ。
残酷な結末が待っていたとしても、その点は変わらないと彼女は考えていた。
来場した仲間から祝福の言葉を浴びていた優一は、昨夜の出来事を思い返していた。
『ユウ君、私は今年の夏でZEROプレイヤーを引退しようと思っているの。
本当はもっとZEROと関わっていたかったけど、もっと大事な事があるから……
私と同じ様に苦しんでいる人達の受け皿は絶対に無くしてはいけないのよ』
天女の湯二代目社長兼女将と言う肩書。
椿も会長としてバックアップはする予定であったが今後表に立つのは響の方だった。
両性具有者の心の痛みは響も同じ身体を持っている為理解している。
獣の性欲を発散させる場所には需要があり不可欠なものである事も解っていた。
格闘ゲームから離れるのは辛かったが、社長業をこなしながらゲームを続ける事は出来ない。
響は夢を諦めるしかない自分の分まで頑張ってほしいと優一に伝えた。
『今年は8月に行われる世界大会……
ユウ君はシード権を持ってるし、優勝出来るだけの実力を備えてると思う。
私が出来なかった事をユウ君に達成してほしい。
私は裏からサポートするから、ユウ君は自由に羽ばたいていってね』
託されたのだから、自分に出来る事をするしかない。
響が自分の道を定めそこに邁進する決意を持った様に、ZEROゲーマーとしての道を貫き通す。
優一が望んでいた事であるし、響以外にも多くの人々から期待されている事を彼はよく知っていた。
天武日本にいる多くのZEROゲーマー及びファン、そして自分を産んでくれた両親。
月山新二・桃子夫妻の様に胸を張って生きようと優一は誓った。
彼等はまだ知らないが、幸福は続く。
今年度の世界大会では優勝こそ逃すもののベスト8に進出。
数年後、世界大会での三連覇を達成し瀬川美奈子に次ぐ『殿堂入り覇者』として永久に讃えられる事になる。
娘の誕生、少々の躓きこそあれど彼女をZEROゲーマーとして育てる喜び。
呪われた運命にさえ目を瞑れば、まさに優一はこの世の全てを手に入れた男だと言えるだろう。
「君を一生愛すると約束する。
だから君も、俺の挑戦を応援してほしい」
「勿論よ」
観衆の前でソフトなキスを交わす2人。
2人への祝福の声は暫く止まりそうに無かった。
1つの勝利の裏には、苦い敗北がある。
戦場希望は自分が『負けた』事を悟り、拍手しながら涙を流していた。
(ああ、アタシは何故鶴野椿と言う女の事をもっと深く理解しようとしなかったんだろう。
アイツにとって、月山優一と鶴野響の結婚なんて全く傷付く様な事じゃなかった。
鶴野椿は、アタシと同じ類の人間だったんだな……)
自分の性欲を満たす為に鶴野椿にカタクナールΩを飲ませた希望。
月山新二と関係を持ちたい一心で彼の子供を妊娠し腹違いの子供同士の結婚を望んだ椿。
どちらも常軌を逸した行動であり、犯罪だと露見していないだけで立派な『罪』である。
そして鶴野椿をそういう人間に変貌させたのは他ならぬ自分であると言う事を希望は認めなければならなかった。
(アタシがアイツを辱めて、居場所を奪ったからアイツは居場所を求める様になった。
そして、どんな手を使ってでも這い上がろうとする人間に変わった。
椿の本質が変わった事に、アタシが気付いていなかったんだなぁ……
こんなアタシを、椿は笑っているのかもしれない)
戦場希望は、虚勢を張っていただけで本来はか弱い1人の女性である。
辛い過去から人間不信に陥り、人を破滅させる事に喜びを見出す女になってしまっていた。
だがその破滅から這い上がり、近親相姦と言うおぞましい結末すら受け入れる強敵が現れたのだ。
それは最早己が作り出した『怪物』であり、彼女の手に負えるものでは無い。
この日を最後に希望は鶴野椿の前から姿を消し、以降行方が解らなくなった。
1つの戦いに決着がついた。
鶴野響にとっては月山優一と結ばれると言う幸福の決着。
鶴野椿にとっては長年の因縁が終わり自身が勝つと言う決着。
だがそれが『同じ血の交わり』と言う禁忌の行為によって成り立っているのは皮肉な事だった。
自分に似ている者に好感を持ち、恋心を抱くのはある意味自然な事だったのかもしれない。
『血が繋がっている』と言う事実が露見しなければ、2人が愛し合うのは必然だったのだ。
そしてその裏には椿の『月山新二への歪んだ愛』が存在し、目的は達成された。
椿は彼の子供を産み、彼の一族に加われた事を心から喜んでいるだろう。
そしてさらに年月が経過し、天武日本を揺るがす大事件が起こる。
その事件は全ての人々の思惑を殆ど『ゼロ』にしてしまう程大きなものだった。
人々の生活は劇的に変化していく。
激動の時代の中で、月山家の『血』は生き残りを果たしていた……