※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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永久がどういう人物であるかを説明するのは非常に難しいでしょう。
男でありながら女に憧れ、とは言え完全に女になるつもりでも無ければ
性自認が女であるわけでもない。
コスプレイヤーの最上位とでも言うべきでしょうか。
『理想の女性像』を追求してその女性になりきる事で快感を得る。
自分が普段の自分とは全く違う人間を演じる事で
現実逃避をする。そんな所なんだと思います。


ZEROFINAL3 『箱舟の子供達』6

【西暦2100年 ?月?日 午後1時10分 ノア内 メゾン・ド・ノワール 黒沢永久の自宅】

 

 鏑木美代子が黒沢永久の自宅に訪れたのはこれが初めての事であった。

 デートは全て何処かの施設に行って美代子の家に帰るの繰り返しで、自宅に呼ばれた事が無かったのだ。

「自室まで黒塗りってワケじゃ無いんですね」

「それ位の自由は認められているよ。

 あの外壁とロビーは『自分達は罪人である事を自覚しろ』と言うメッセージだろうね」

 

 白と水色を基調とした清潔さを感じさせる室内。

 キッチン・風呂・トイレ等生活に必要なものは一通り揃っている。

 目を引くのはZEROの筐体、そして棚に飾られた多数のトロフィーだった。

「僕のじゃ無いものもあるよ。

 僕は罪と功績は明確に分けて考えるべきだと思ってる」

 

 持ち込みを懇願し、許されたトロフィーや優勝盾の数々。

 そこには綾小路桜華の準優勝や氷室零の優勝を示すもの。

 黒沢美香が主催した桜華の十回忌追悼大会で美香自身が優勝した証が並んでいる。

「フェアな大会だったかどうかは参加者の判断に委ねていてね。

 僕自身は過去の映像を見る限り、不正は無かったと考えているんだ」

 

 人には様々な面がある。

 だから一面だけではその人間の『本性』を判断する事は出来ない。

 相手をサディスティックに虐め抜き絶望させる事に喜びを見出すのも黒沢美香。

 姉と慕う桜華の誇りを守る為ならば一切の不正を封印して血を吐く様な努力が出来るのも黒沢美香。

 漆黒のトロフィーはその『精神性の多様さ』を象徴している様に見えた。

 

『凄い、ピアノもあるんだね。

 あれはバイオリン?』

「バイオリンは綾小路桜華の遺品を飾っているだけだけど、ピアノはたまに弾くよ。

 気分が晴れない時にピアノと向き合っていると、嫌な事を忘れられるからね」

 

 全体的に見れば明るい様に見受けられる室内。

 座っているソファも目の前にある机も御洒落で実に綺麗なものだ。

 そんな居間や他の部屋とは明らかに違う異質な扉。

 黒と金色の装飾で彩られた大きな扉には外から鍵がかけられる様になっている。

「あそこは僕の寝室だよ」

 

 今も鍵がかかっている扉を見て美代子はそれとなく察した。

 (つまり、あの部屋が『見えない一面』に直結していると……

 黒沢さんの秘密が暴かれてしまう場所なのね)

 寝室に一体何があるのだろう?

 あの違和感を覚えた表情との関係性は?

 

 もうすぐ明かされるであろう謎であったが、美代子はずっと気になっていた。

『秘密を知られたくはないけど、家に客を招かなきゃいけない時はあるんでしょうからね』

「そりゃそうさ。

 黒沢グループの関係者や政府関係者がかなりの頻度でこの部屋のドアをノックしてくる。

 監視員はともかく、そういった連中に教える必要なんて何処にも無い」

 

 そう、監視員は既に永久の秘密を知っているのだ。

 このノア内部にいる全ての人間の恥ずかしい秘密は監視員に筒抜けとなっている。

 そもそもこんな絶望的な状況で御上に反旗を翻そうとする人間がいるかどうかも怪しいが、それは抑止力ともなっていた。

 己の恥部を暴露されてまで政府に盾突こうとする者はいない。

 犯罪者は一定の頻度で出現していたが、皆すぐに捕まり『外送り』にされていた。

 

「アイスティーでいいかな」

「あ、はい。

 有難うございます」

 机の上に高級そうなカップが3つ並ぶ。

 一口ずつ口に含んだ後、少しの間沈黙が続いた。

 

 (どう切り出したらいいのかしら……)

 どんな話をするべきなのか、それは充分理解している。

 だが、言い出し方やタイミングが掴めない。

 美代子がオロオロしているのを見かねたのか雫が話を始めた。

 

『今日の議題に移りましょうか。

 要は私達が互いの秘密を共有する事で繋がりを今以上に深める事。

 そして秘密を共有した事で美代ちゃんと永久さんが結ばれる。

 私はその手伝いが出来ると思ってます。

 何故なら私にも暴露されては困る秘密があるからです』

 

 雫は自分が間に入る事によって永久が秘密を打ち明けやすい状態になると思っていた。

 鏑木美代子には隠す程の秘密が無いからである。

 彼女の民族としてのルーツは誰もが知る公然の事実となっているし身体的な異常も無い。

 暴かれて困る情報が殆ど無い人物だけに秘密を打ち明けるのは相当な勇気が必要だと思われた。

 その点彼女は公然の事実にされては堂々と生きていけない秘密を抱えている。

 

 永久が生涯隠し通そうとする秘密があるのなら、自分の情報で引き出せると考えていた。

『ココで何時までも隠していては話が進まないので話させてもらいます。

 私は両性具有者です。

 色々あって美代ちゃんには『子供チケット』を譲渡しました。

 私個人としては御二人の結婚に賛成ですし出来る限り協力したいと思っています』

 

 美代子は決意に満ちた表情で語る雫の横顔を驚愕しながら見つめる。

 (凄い。

 確かに言い出さなきゃ話が進まないけど、相手が打ち明けるかも解らない状況で話すなんて。

 相当な覚悟が無ければ出来ない事だわ)

 

 雫もまた、今まで長い間永久と格闘ゲーム仲間を続けてきた。

 相手がどういった人物か知っているからこそ、信用出来ると踏んで先に告白したのだ。

 永久は暫くの間黙っていたが、両手を組み肘を膝につけた状態で返答する。

「……そうじゃないかと思っていたんだ。

 女性が生涯隠し通さなければならない秘密なんて、そう多くは無いからね」

 

 優しく、そして何処か寂しそうだと美代子は思った。

 まるでそんな秘密なんて自分の秘密に比べれば大した事は無いと言っているかの様な表情。

 哀しみと憂いを含み、同時に秘密を持たない美代子を羨んでいる様にも見える。

 雫もそのなんともいえない顔を見て、どう言葉をかけるべきか迷った。

「人はどうして、十字架を背負わなければならないんだろうね」

 

 永久は再びアイスティーを一口飲んだ後、カップを置き話を続ける。

「僕自身は物心がついた頃、自分がまともで何の問題も無い人間だと信じ込んでいた。

 他の男性と変わっている所なんて無いし、これからもそうなのだと。

 でも小学生になる前に見た1つの映像が、僕と言う人間を大きく歪ませてしまったんだ。

 僕にとっては衝撃的であり、同時にとても刺激的なものだった」

 

 あの扉の先に、答えがある。

 そしてその部屋を一見すれば解ってしまうと言う秘密。

 美代子にはその答えがおぼろげながら浮かんできていたが、脳が理解する事を拒否していた。

 黒沢永久と言うクールな男性の代表の様な人物が、そんな歪み方をしてしまうものなのか?

 そしてその歪みを何年もの間隠し通せるものなのか?

 

 勿論口が裂けてもそんな思いを言葉にしないと決めていた美代子であったが、ショックは大きかった。

 (でも、一体どうしてそんな事に……

 その映像の中身も気になる。

 全てが明らかになった時、私は黒沢さんの全てを受け入れられるのかしら)

 

 月山雫を受け入れる事が出来ても、それはまた別の話だ。

 そんな事をずっと考えていた美代子の耳に永久の声が聞こえ現実に引き戻される。

「雫さんが僕と美代ちゃんの仲を思って告白してくれたのは本当に嬉しい。

 そして僕もその覚悟に対して応えなければならないと思っている。

 つまり僕の『見えない一面』を君達に明かすと言う事だ」

 

 それは勿論、雫の心理的負担を一刻も早く取り除いてやりたいと思う永久の配慮だった。

 彼女の中にはまだ少しだけ彼に対する猜疑心が残っているのだ。

 自分だけが手札を明かして相手が手札を見せていない状態。

 自分がカードを切る事で彼女を安心させたい。

 その思いとは別に『美代子に受け入れてもらえるのか』と言う不安がずっと永久の心を苦しめていた。

 

『お互いに見せ合いましょう。

 その方が話し合うより簡単に全容が把握出来ます』

「ああ、僕もその提案をしようと思っていた。

 正直、まだ心の準備が出来ていないけどね。

 そうも言っていられない」

 

 意見を幾度か出し合った結果、雫と永久はお互いに逆の方向を向いて真実の姿を晒す事となった。

 そして2人の姿を同時に目にする為、美代子は目を隠したままソファに腰をかけている。

 目を瞑って手で目を覆っていると、普段より音がよく聞こえる様な気がした。

 鍵を差し込んで開錠する音、扉を開ける音、扉を閉める音。

 あの『禁断の扉』が開き、その部屋の中に永久が入った事を示すものだった。

 

 (目を開けるのがちょっと怖い。

 何が出てくるのか薄々気付いているから余計に……)

 再び扉が開いて閉まる音が聞こえ、2人の準備が整ったのを美代子は感じ取る。

 時間は10分程度だったろうか。

 誰のものか解らないハァハァと言う荒い吐息が聞こえていた。

 

『じゃあ、掛け声でもかけて振り向きましょうか』

「そうだね。

 美代ちゃんにはそのタイミングで目を開けてもらおう」

 目を覆っている手が震える。

 長い間ずっと気になっていた謎が遂に明らかになるのだ。

 

 永久と練習している時も、デートしている時も、何時も頭の片隅にその疑問があった。

 彼が必死になって隠さなければならない程の秘密とは何なのか。

 それが自分の目の前に現れた時、全部受け入れる事が出来るのか。

 何度も同じ事を思い、悩んできた。

 その悩みから今日、解放されるのなら解放されたかった。

 

『いっせーの、せッ!』

 掛け声が聞こえた瞬間、2人は互いに振り向き向き合う形になる。

 美代子も手をどけて目を開け、永久と雫の姿を確認した。

「あッ……」

 ある意味、2人は『似た者同士』だったのかもしれない。

 

 雫の方は完全な全裸となり、股間から生えた逞しい肉棒を晒していた。

 その身体も勃起した両性具有者特有の性器も美代子にとってはもう珍しいものでは無い。

 問題は永久の方だった。

 銀髪の長いウィッグを付け、ゴスロリ調の黒いドレスに身を包み女性的な化粧をした姿。

 一瞬別人かと思う程美しい女性にしか見えない風貌だったが、勃起している肉棒がそれを強く否定していた。

 

「ああ、とうとう見せちゃった。

 私の隠してた姿、見せちゃったぁ……」

 永久の股間は赤ん坊の様にツルツルの状態だった。

 恐らく永久脱毛したのだろう。

 腕にも足にもまるきり毛が生えておらず、その徹底ぶりが伺えた。

 

 絶句し何も言葉が出てこない美代子。

 永久はドレスの裾を掴んで持ち上げ、何も履いていない股間を晒している。

 無毛の肉棒はかなりの大きさで、完全に剥けておりビクビクと脈を打っていた。

 そのあまりにも綺麗な肉棒と玉袋の見た目に違和感があり過ぎて思わず笑ってしまいそうになる。

 彼の目はとろんとしており、薄く微笑んでいる顔はまさに『雌』と呼べる様なものだった。

 

「くッ黒沢、さん……?」

「今の私の事は、氷室(ひむろ)麗(れい)って呼んで」

 彼が発する『声』も、今までのものとは明らかに異なっていた。

 自然な女性の声の様に聞こえる。

 どれだけ必死に練習してきたのだろうか。

 

 美代子は彼の女性に対する執念の如き憧れと変身願望を目の当たりにしていた。

「小さい頃に黒沢美香のドレス姿を見た時、電撃を浴びたかの様な衝撃を受けたの。

 なんて美しくて綺麗なんだろう。

 私も彼女の様になりたいなぁって思った」

 

 それは、黒沢永久と言う男の拗らせに拗らせた特殊性癖の末路だった。

 元々彼は『黒沢永久』と言う自分に嫌悪する部分があったのだ。

 黒沢美香と言う、美しいが性根が曲がっているどうしようも無い女性。

 その血を引いている事を嫌がりつつも外見の美貌には強く魅了される。

 その相反する感情と『別人の様になりたい』と言う願望は歳を取る毎に強くなっていった。

 

「私は『黒沢永久』以外の誰かになりたかった。

 私が鏡を見て見惚れる様な人間になりたくて、変わる努力をしたの。

 毛を全部焼いて、女の子の衣装が似合う様な身体になろうと少しでも頑張って……

 新しい名前を考えたのも、黒沢美香の『本性』までは受け継ぎたくなかったから。

 妄想の世界では、あらゆる重圧から解放された1人の『女性』でいたかったのよ」

 

 大企業の社長が、普段の大きなプレッシャーから逃れる為にホームレスの扮装をして楽しむ。

 永久が望んだのはそれと同じ様なものだった。

 自分の身体まで使った壮大な『お人形遊び』。

 そして女装していると妙に興奮し、股間が激しく膨張するのを感じた。

 彼はそういう点では紛う事なき変態だったのだ。

 

 (黒沢さんは自分を誇りに思えなかった。

 自分を嫌悪しているから別の自分を作ってその理想を追求したのね。

 あれだけ格闘ゲームで実績を作って英雄と呼ばれ慕われているのに。

 ピアノの腕も一流で彼の弾いた曲がお金にまでなっているのに。

 それは彼にとって仮の姿であり何の意味も無かったのだと)

 

 複雑な感情だったのだろう。

 彼は『黒沢永久』である事を否定しつつも『黒沢美香』の美貌に心を奪われた。

 犯罪者である美香を嫌悪しながら美香の血を吐く様な努力に感心した。

 その結果、『男』である事すら一時放棄する様な秘密の遊びに溺れる様になったのだ。

 もし昔の様に服を着て街を歩く事が許されていたのなら、この秘密は大衆に露見していたかもしれない。

 

 捕まる事が無いのなら女装して堂々と街を歩いていただろうからだ。

 外で服を着る事が禁じられた為に永久の遊びは自宅のみにとどまった。

 鍵のかかった寝室の中で綺麗なドレスを身に纏い女性の様に振る舞い人形と戯れる。

 誰に迷惑をかけているわけでも無い、現実を少しの間だけ忘れる為の行為。

 やっている事が異常に見えるだけで、世の人間のストレス発散とそこまで違う要素は無い様にも感じられた。

 

「ふふッ、無様でしょう?

 おかしいと思うでしょう?

 でもこれが本当の私なの……」

 胸の部分が膨らんでいる。

 恐らく詰め物をしているのだろう。

 

 狂気にも近い女性への憧れ。

 顔も、声も、身体も、なるだけ女性に近付けたい。

 美代子が前に感じた違和感の正体は一瞬見せた永久の『素の表情』だった。

 あの女性の様な屈託の無い笑顔。

 それは美代子に与えた、ほんの少しの『ヒント』だったのだ。

 

 美代子はこの『醜態』を見て、笑ったりはしなかった。

 涙が頬を伝った。

 なんて哀しい人なんだろう。

 自分に自信が持てない、自分を愛せない。

 それは呪われた血の末裔である事に疑問を抱いてきた美代子と同じではないか。

 

 身体が勝手に動いていた。

 美代子は永久を強く抱き締め、ぽろぽろと涙を流す。

「黒沢さ……

 いや、麗(れい)さん。

 私は貴方を必ず救ってみせます」

 

 闇に落ちて、誰にも相談する事が出来ず苦しみもがいていた永久。

 美代子にも同じ部分があり、雫にも同じ部分があった。

 孤独と言う哀しみを持ち続け、誰かに助けを求めていた者達。

 そんな者達が一堂に会し、傷を舐め合って辛い気持ちを慰めようとしている。

 だがそれは彼女達にとって必要な事だった。

 

「私を許してくれるの?

 私と言う存在を認めてくれるの?

 気持ち悪いと言われて嫌われるんじゃないかって。

 ずっと本当の自分を明かすのが怖かった……」

 

 永久にとって、『黒沢永久』は本当の自分を隠す為の仮面に過ぎなかった。

 もっと早くに気付くべきだった。

 他の男性は腕・足に毛が生えているのに彼には全く生えていなかった事。

 脛毛・腋毛まで全く無かったのにその違和感に全く気付けなかった。

 きっとそれは、彼が『男として自分を磨いている』のだと勘違いしたからだろう。

 

 ムダ毛を排除しているのは、生やしているのを嫌悪する女性に清潔だと思われたいから。

 誰もが普通はそう思う。

 まさか『美しい女性を目指す為』に綺麗な肌を追求したとは思わない。

 その健気な思いや、男である事実から逃れられないのに女性を目指した哀しい努力が美代子の目頭を熱くさせた。

 彼を、いや『彼女』は雫と同じ『もう1人の自分』の様なものなのだ。

 

「私は麗さんの気持ちが痛い程解りますよ。

 自分を好きになれない事。

 自分が好きだと胸を張って公言出来ない事。

 それは私も通ってきた道なんです。

 皆で乗り越えていきましょうよ。

 1人では無理でも、私や雫さんと一緒ならきっと幸せになれるはずです」

 

 美代子の脳裏に、幼い頃父親と交わしたやり取りが思い出された。

『お父さん、何で私は真国人の血が入っている事を誇りに思っちゃいけないの?

 自分のルーツになっている国の事を大切だと思うのは普通の事でしょ?』

 父親は首を横に振り、美代子の型に両手をかけ真剣な表情で語りかける。

 

『いいかい、美代子。

 私達は『特例でお目こぼしされている人間』である事を決して忘れてはいけないよ。

 真国人は昔、天武日本を滅ぼして乗っ取ろうとした事があった。

 その侵略計画を主導したのが真国人と綾小路財閥だ。

 だから綾小路財閥は解体され、真国人は絶滅寸前まで追い込まれた。

 ノアの中では私達一家の他に真国人の血が混じっている人間はいない。

 他の人達は皆、ノアの中に入る事を拒絶されたからね』

 

 美代子達一家の肩書は瀬川美奈子が持っていたものと変わらない。

 名誉天武日本国民。

 美奈子がゲーマーとして築き上げた数々の優勝の記録と名誉。

 天武日本の様々な団体に惜しみなく渡した寄付金。

 全ては天武日本人に自分達の存在を受け入れてもらう為。

 

 その一心で美奈子が行ってきた事が『担保』として彼女達に残されている。

 ノアの審査でこっそり内部に潜り込めた真国人は1人もいなかった。

 DNA検査が必須でありそれを断った者は絶対に中には入れない。

 無理に突破しようとしても入口を見張る係員に銃で蜂の巣にされる。

 この様な状況では鏑木一家以外の真国人が滅ぶのも当然の結果であった。

 

『私達は『生かしてもらっている立場』である事を心に刻み付けなさい。

 何時も卑屈な態度でいる事。

 自分達の血を誇るなんて地球がひっくり返ってもやってはいけないよ。

 こうして生きている事そのものが奇跡の様なものなんだ。

 美代子、自分自身の存在を常に恥じる位の気持ちでいなさい』

 

 妹はそれをやらかしかけた事があり、その時はクラスメイト全員が敵に回りそうになったと言う。

 全員から無視されかけ、教師のとりなしで何とか事なきを得たのだと。

 学校でも社会に出ても、むしろ死ぬまで故郷をどうしようもない国だと思え。

 どんなにからかわれてもそれを絶対に受け入れろ。

 彼女の人生はそんな辛い出来事の連続だった。

 

 疑問を抱きながらも、ルールに逆らえば命すら無事では済まないから自重する。

 それを守りながらも、心は何時も『何故!?』と悲鳴を上げている。

 そんな十数年の人生だった。

 それがこれからもずっと続く事がどれだけ絶望的で辛い事か。

 美代子は心の中でその辛さを吐き出せる相手を求めていたのかもしれない。

 

「私は皆に認められたいと思って生きてきたんです。

 今の姿の、飾らない『本当の自分』を愛してほしいと思っている貴方の様に。

 貴方を愛しています、麗さん。

 その気持ちに嘘偽りはありません」

 

 せめて自分の前では堂々としていてほしい。

 隠していた心を解放して、一時だけでも楽になってもらえたら……

 美代子はそういった思いもあり思わず永久の肉棒を掴んでいた。

 赤ん坊の様に毛が全く生えていない砲身は見た目の凶悪さとのギャップを感じる。

 完全に亀頭が露出しているそれを上下に扱くと永久は切なそうな表情を浮かべた。

 

「やだ、凄い。

 オチンチンが、とっても気持ちいい……」

 少女の様な雰囲気を纏わせ、快感に喘ぐ永久。

 上半身と下半身を分けた場合、同一人物のものと考えるととても違和感がある。

 美代子はその違和感すらも受け入れ、相手を絶頂へ導く事だけを考えていた。

 

 (どんな人であれ、おちんちんを弄られたら相手は気持ち良くなるし最後には射精する。

 雫さんと同じ。

 私の手で楽になってください、黒沢さん)

 横を見ると雫は自分で勃起した肉棒を扱いている。

 男性器とは異なる薄桃色の肉棒は非常にいやらしいものとして映った。

 

『美代ちゃん、今の『彼女』は裸よりもいやらしいと思わない?

 ドレスの端を握って股間を晒しているのってゾクゾクする。

 隠していたものが露わになっている感が強いからかな』

 早くもクールな顔を脱ぎ捨て、目を細めながら舌を出している雫。

 片手で肉棒を上下に擦りながらもう片方の手で膣を刺激している。

 

 美代子は返答こそしなかったが、雫の考えに賛同した。

 最初から全てが開示されているより、隠しているものを露わにしている方が興奮する。

 雑な例え方をするなら中身が既に見えている宝箱より、鍵のかかった宝箱を開けて中身を見ようとする時の方がワクワクするのと同じ感覚だろうか。

 特にドレスの場合手を使ってワザと『御開帳』しており、手さえ離せば簡単に隠せてしまう。

 こういうシチュエーションに興奮する人間の心理は複雑だと思った。

 

「恥ずかしい……

 でも、もっとしてぇ。

 オチンチン、オチンチンが気持ち良いのぉ」

 美しい女性にしか見えない人物が男性器の名称を連呼している。

 全てにおいてギャップがあり、それが美代子や雫をさらに興奮させた。

 

「貴方が望むなら、もっと気持ち良くしてあげますよ」

 一刻も早く、安心してほしい。

 自分に対して全く疑念の無い状態になってほしい。

 その様な意味も込めて、美代子は躊躇する事無く肉棒の先端を口で咥え込んだ。

 ココまで踏み込んだ行動を取れば、永久も自分を完全に信用してくれるだろう。

 

 打算では無かった。

 愛情であり、大きな包容力だった。

 何の気兼ねも無く射精してほしい。

 亀頭に舌を這わせ、口で竿と亀頭の中間部分を強く刺激する。

 あまりの快感に、永久は思わずドレスから手を離しそうになった。

 

「はうッ、くううん……

 あッあッ、硬くなっちゃうぅ」

 快感に溺れ、元々勃起していた肉棒がさらに漲りを増す。

 雫はそんな2人の痴態を見ながら一心不乱に手淫を続けた。

『2人とも、とってもエッチだよぉ』

 

 淫らな宴に進んで参加し、混ざって存在感を発揮しようとする雫。

 生まれたままの姿で女性器と男性器を同時に刺激し、絶頂に至ろうとしている。

 永久も美代子の口内で自身の肉棒が包まれる快感に耐えられず射精の予兆が近付いていた。

「ああッ、出ちゃう!

 私のオチンチンから精液が出るぅ」

 

 股間がその瞬間ビクンと大きく跳ねる様に脈動し、直後に先端から白濁液が噴き出す。

 美代子はなるべくその全てを受け入れようと試みたが、量が想像以上に多かった為吐き出してしまった。

 (濃い、そして量も凄い……

 射精を数日間我慢していたんじゃないかと思う位だわ)

 

 彼の射精に少し遅れて雫も先端から透明な粘液を射出する。

「あは、あううあ……」

 とろんとした目に赤く染まった頬、犬の様に舌を出している姿。

 2人とも顔は『雌』そのものなのに完全な雌では無い事が少し可笑しかった。

 (雫さんも黒沢さんも、性欲が強いのね……)

 

 肉の柱が2本そりたち、中身を一度出したがまだ足りないとばかりにビクビク震えている。

 両性具有者の驚異的な性欲に手を焼いた経験がある美代子にとって、その状況は若干不安を感じるものだった。

 (私は勿論2人の事が好きだけど、その思いを全部受け止められるかは解らない。

 出来るなんて断言出来ないし、途中で力尽きてしまうかも……

 でも、私の体力が続く限りはなるべく応えてあげなくちゃ)

 

『麗さんも結構タフな方なんだねぇ』

「私は今日に備えて我慢してた部分もあるから……

 それより、続きをするなら場所を変えましょう。

 勿論、あの部屋でね」

 永久が指差したのは鍵のかかった部屋、つまり寝室だった。

 

 閉ざされている部屋が見れるとなれば様々な感情がわいてくる。

 未知に対する漠然とした不安や、どんな部屋なのだろうと言うワクワク感等だ。

 事前に用意していたのか、永久は懐から鍵を取り出すと鍵穴にはめ開錠を行う。

 ドアを開け、雫と美代子に対して先に部屋の中に入る様促した。

「うわ、可愛い!」

 

 黒と金色の重苦しい雰囲気の漂う扉からは想像出来ない光景がそこには広がっていた。

 壁は薄いピンク色に塗られ、豪華な装飾が施されたベッドが置かれている。

 そのベッドや棚には様々な形のぬいぐるみが置かれており、衣装をしまう為のクローゼットもあった。

 箪笥の引き出しを開けると色々なタイプの下着がしまわれている。

 それは全て女性用のブラジャーやパンティであった。

 

「綾小路桜華が収集していた『クマッタシリーズ』を一部持ち込んだものよ。

 他の人形はこのマンション内にある秘密の倉庫に保管してあるわ。

 それでも元々あった数の半分位しか持ち込めなかったのが残念だけどね」

 クローゼットの中には色々な色・形のドレス。

 化粧用の鏡がついた台と椅子まで用意されている。

 

 (確かにこの部屋は黒沢さんの秘密の集大成と言って差し支えが無い。

 理想の姿に『変身』する為の衣装や道具が全て揃っている)

 この部屋でドレスを身に纏いウィッグを被り、女性用の下着を穿いて興奮するのだろうか。

 そして我慢が出来なくなる程大きくなった肉棒をベッドで発散させたりするのだろうか。

 そう考えれば考える程、美代子はこの部屋に鍵をかけるのは当然だと思った。

 

「この部屋は私の趣味だけじゃ無く、黒沢美香の思いも引き継がれているの。

 彼女は綾小路桜華を崇拝していて、彼女の集めていたこの人形を保管する事に拘った。

 詳しい事を話せば長くなるけど、雨宮比呂子と言う女性に一度この人形達は譲渡されている。

 それを黒沢グループが買い戻した。

 買い戻さなかった人形はもうこの世に無いわ。

 ノアの外で消滅してしまったでしょうからね」

 

 黒沢美香を嫌悪しながらも憧れる。

 その歪な思想は『彼女の悪では無い部分』を引き継ぐと言う点では一貫していた。

 美香が着用していたドレスを再現して着こなす。

 桜華が使用していたベッドをこの部屋に持ち込む徹底ぶり。

 それはある意味、『誰かになりきる』事に拘っていた証拠なのかもしれない。

 

「1つ質問させてもらっても良いですか?」

「何でもどうぞ」

 美代子は永久に対し、素直な疑問をぶつける。

「貴方の『性自認』は男性と女性、どっちなんですか?

 私は貴方が性同一性障害なのかどうか知りたいんです」

 

 性同一性障害。

 つまり肉体は男性であるが中身は女性。

 性自認は当然女性であり、女性との性行為は望まないケースが多い。

 その傾向が強いだけで、『レズ』ならば女性に欲情する事もあり得る。

 美代子は『男性と女性としての愛』が成立するのか知りたかったのだ。

 

「……私は『男』よ。

 今の私は『氷室麗』と言う女性を演じているだけに過ぎない。

 女性になりきる事、演じる事に興奮と快楽を感じるだけ。

 だから美代ちゃん、貴方とセックスしたいと思うし結婚したいと思ってる。

 そうで無ければこんなにこれが大きくなるワケが無いでしょう?」

 

 永久はそう言いながら自身の股間を指差す。

 そこにはドレスからはみ出す形で己の存在を主張する肉棒の姿があった。

 完全に勃起しドクドクと激しく脈を打っている。

 その興奮は美代子と性行為が出来る事に対する喜びによるもの。

 永久の発言は彼女にとってとても嬉しいものだった。

 

「その言葉を、信じても良いんですよね?」

「ええ、勿論」

 美代子には何が真実なのかしっかりと把握出来たわけでは無い。

 それでも彼の口から直接そう言われただけで充分だった。

 彼は男として自分を愛そうとしてくれている。

 

 ならば自分も女性として彼に寄り添いずっと支え続けていきたい。

 美代子も永久もノア内にいる大多数の天武日本人と比べて少し違っているだけ。

 違っている者同士仲良くするべきだ。

 雫も自分達と同じ様に違っている者の1人。

 だからこそ美代子は結束力を高めたいと思っていた。

 

「ベッドに寝そべって」

「はい」

 生まれたままの姿でベッドに身体を預け、全てを相手に晒す美代子。

 胸も膣も丸見えになっている。

 永久は美代子に近付き、両手で膣を開いて露わになった股間を凝視した。

 

「アッそんな……

 ジロジロ見ないでください、恥ずかしい」

「とっても綺麗よ美代ちゃん。

 初めてじゃ無いみたいだけど……

 誰が貴方の膜を破ったのかは聞かなくても解るわ」

 

 永久は視線を横に逸らし、雫の方を見る。

 雫は見られている事を認識し、僅かに微笑んだ。

『だってこんなに可愛い女の子なんだもん。

 私だってコレで貫きたくなっちゃう』

 

「そうね。

 私もその意見には賛成よ」

 怒りこそしないが、永久は美代子が処女では無い事を残念がっている様に見える。

 この美しい容姿なら既に性体験を済ませていても不思議では無かったが彼は童貞だった。

 初めて同士で繋がりたいと考えていたのかもしれない。

 

「初めてでは無かったとしても、いきなり挿れたら痛いでしょう。

 私が濡らしてあげなくちゃ……」

 

 黒いドレスから肉棒を覗かせ、『雌』の顔になっている男に股間を舐められる。

 この場にはいない赤の他人が見たらどう思うだろうか。

 血の気を失ったまま呆然と立ち尽くすのだろうか。

 美代子はそんな思いを抱きながら永久に身体を委ねていた。

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