※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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突然戦国時代の話が出てきて困惑している方も多いかと思われます。
しかしこのZEROと言う物語と独自の歴史を歩んだ戦国時代は
決して関係の無いものでは無く、密接に関わり合っているのです。

天武日本が何故明と朝鮮半島を自分達の領土にしているのか。
何故総理大臣が織田信虎と言う織田家の人物なのか。
今紅虎明命と内閣が激しい争いを繰り広げている全ての発端は
別の世界線を辿った戦国時代にこそあるのです。
なので、この話を読めばZERO世界の情勢も理解してもらえるものと
信じています。


戦国番外編 1582 金色の天守

【西暦1582年(天正10年) 5月15日 滋賀 安土城】

 

 安土城とは織田(おだ)信長(のぶなが)が丹羽(にわ)長秀(ながひで)、羽柴(はしば)秀吉(ひでよし)らに命じて作らせた天守閣を持つ巨大な城である。

 当時これほど大規模な天守閣を持つ城は安土城以外には無く、その天守閣が黄金に輝く威容を誇っていたのも日本初であった。

 豪華絢爛な外観の為生活には不便かと思われたがそうでは無く、機能性にも優れており天守閣には信長の部屋も用意されていた。

 外観でも内装でも他を圧倒するこの城は信長の『天下布武構想』の為に作られた拠点であり、織田家の力を近隣諸国に誇示する為のものでもあったのだろう。

 

「それにしても、こんなでけぇ城は他に無ェな。

 お前もこの城の建設に関わったんだろ?」

「ああ。上様の派手好きはお前さんを越えている。

 いや、この国の誰よりも派手好きなのが上様だ」

 

 馬に乗ったまま安土城の規模を間近で把握した前田(まえだ)利家(としいえ)は、そのあまりの巨大さに言葉を失ってしまった。

 元々城と言うのは敵国へ攻め込む為の攻略拠点と言う意味合いが強く、その為居住性等考慮されていない。

 だがこの日、安土城では武田家滅亡と今までの諸将の慰労を兼ねた祝賀会が催されようとしていた。

「実に素晴らしい。上様の御力を体現したかの様な城ではないか」

「親父殿!」

 

 髭だらけの顔に鋭い眼を持つ男はそう言うと、天守閣の方へと目を向けた。

「思えば長かった……

 桶狭間での奇襲成功による薄氷を踏む様な勝利に始まり、何度も我らは包囲され窮地に追い込まれてきた。

 だが我々を討とうとした大名は全て滅した。

 最早上様の天下統一を阻む勢力はこの世に存在せんのだ」

 

「親父殿と我らの働きがあってこそでございます」

 羽柴秀吉がすかさずご機嫌取りも兼ねてお世辞を述べた。

 百姓から一国一城の主となった男。

 相手を喜ばせその気にさせる人心掌握力は並外れて高い。

 

「行くぞ。上様も我らの到着を待っておられるはずだ」

 織田家宿老筆頭、柴田(しばた)勝家(かついえ)はそう言うと部下達を連れ、表門から中へと入っていった。

 

 この日、祝賀会の饗応役(接待指揮)を任されていた明智(あけち)光秀(みつひで)は直前になって饗応役を解任されていた。

「それにしても、何故十兵衛様は饗応役を解かれてしまったのだ」

「祝賀の席に出す鯛が腐っていたと、十兵衛様自らが申し出てきたからさ。

 鯛は全て捨ててしまわれるらしい」

「勿体無い。あれだけ見事な鯛だったのに」

「祝賀に出席される者達の中に体調を崩す者が出てきたらどうする。

 腐っているものを出す道理は無いだろう」

 

 鯛は祝賀会のコース料理のメインを飾る食材だっただけに、料理人達の落胆は大きかった。

 代わりの饗応役は任命されると同時に食材を買い集め、僅かな時間で御膳を完成させる。

「この辺りでは珍しい鰹の刺身を皆様に召し上がって頂ければと思いまして、何とか用意する事が出来ました」

「鰹とは珍しいものを用意したものじゃな。

 鯛と比べると見劣りするかもしれぬが、儂も満足する味であったわ」

 信長はそう言うと、護衛の弥助(やすけ)と共に表門の方へと向かった。

 

 織田家と同盟軍による天下統一は、間近に迫っていた。

 武田家は滅び、上杉家は信玄死去後に織田家との同盟を宣言。

 北条家と島津家は徹底抗戦の構えを見せているが、織田家有利の状況は変わっていなかった。

 

「皆、武田攻めではご苦労であった。

 今日はその労いも兼ねて祝賀会を開いたのじゃ」

 安土城内の大広間に集結したのは、織田家を代表する武将と同盟を組んでいる大名達であった。

 

「特に左近太夫殿と次郎三郎、新九郎には大きな働きをしてもらった。

 包囲網を破り、天下統一に近付く事が出来たのはひとえに同盟の力あっての事。

 共に天下統一の夢に向かって、歩いてゆきましょうぞ」

「ふははは。この老いぼれに貸す力など残っておらぬわ」

 

 祝賀会出席者の中では最高齢である斎藤(さいとう)道三(どうさん)は信長にとっても特別な存在であった。

 道三の側近であった竹中(たけなか)半兵衛(はんべえ)は死んでしまったが、その息子も利発で、織田家を支える存在の1つとなっている。

「新九郎、父を斬って捨て、儂に加勢したその判断は正解であったぞ。

 もしお前が儂に刃を向けておったら、ここにいる者達と同じ運命を辿っていたであろうからな」

 信長の膳の隣に置かれていた盃は、3つ全てが頭蓋骨から作られたものであった。

 

「勝頼、義景、村重……儂の行く手を阻んだ者は皆悲惨な末路を辿る事になる。

 この3つの盃はそれを皆に周知させる為に作ったものじゃ。

 だが、儂に味方する者には永劫の繁栄を約束しようぞ」

 

 浅井(あざい)長政(ながまさ)は元々信長の実力と恐ろしさを知っていたが、父親の久政(ひさまさ)とは意見が合わなかった。

 勝ち馬に乗ろうとする長政と、あくまで朝倉家への恩義を貫こうとした久政。

 長政は父親を苦渋の決断の末斬り、織田家との同盟を継続した。

 その為長政は生き延び、徳川家と並ぶ大名家にまで成長したのだ。

 

「次郎三郎。お前も幼き頃から儂の夢に賛同し、共に戦ってきた仲じゃ。

 これからも儂や信忠の事、宜しく頼む」

「ははッ」

 徳川(とくがわ)家康(いえやす)は今川家の人質時代に信長と知り合い、信長の天下布武構想に感銘を受け同盟を結んだ幼馴染である。

 同盟期間は斎藤家に劣るが、親友と言う事もあって信長の信頼を最も得ていた。

 

「今日祝賀会を催す事にした目的は、諸将への労い以外にもある。

 これまでの織田家への功績を踏まえ、家中の『四天王』を明確に定める論功行賞を行う為じゃ」

 その瞬間、織田家の者達は驚き、ざわめきが広がった。

 

「親父殿は間違いないとして、あとは左近様と五郎左様であろうか」

「十兵衛様も充分候補の1人だぞ。

 多くの戦で計略を練り、幾度となく成功させてきたのだからな」

 

 織田家の四天王に選ばれると言う事は、名誉だけでは無く家中の権威に大きく影響する。

 四天王は宿老の中から選ばれる事が多いが、実力主義を標榜してきた信長がどんな判断を下すのかそこに注目が集まった。

「まずは、宿老筆頭である権六。

 お前は四天王のまとめ役となって他の3人を引っ張っていくのだ」

 

 最初に選ばれたのは柴田勝家。

 信長に反抗した時期もあったがその戦働きに免じて許され、今では信長に対しての忠義心は一番と言っても良い。

 

「そして三左。

 朝倉討伐、本願寺との交渉、武田討伐での活躍は見事であった。

 これからも織田家の為に力を尽くしてもらおう」

「有難き幸せ。

 この三左衛門、命続く限り織田家の為に働きまする」

 

 森(もり)可成(よしなり)は柴田勝家と並ぶ織田家の重鎮となっていた。

 特に交渉が上手く、弁が立つ為他の大名の所へ出向きそこで数多くの結果を残している。

 

「五郎左。お前は『米』と同じだ。

 織田家にとってなくてはならぬ存在。今後とも励む様に」

「ははッ」

 丹羽長秀は『米五郎左』と呼ばれる程会計能力が高く、いわば織田家の『会計事務』を任されている人物であった。

 勿論兵糧の計算だけでは無く戦術にも精通し武功も多く、織田家に丹羽長秀ありと言わしめる程の男である。

 

「最後の1人じゃが……」

 信長の言動にその場の全員が反応する。

 あと1人。本命明智光秀、対抗滝川(たきがわ)一益(かずます)、大穴羽柴秀吉。

 3人全員に四天王の資格があると言っても良い。

 貢献度で考えれば3人の武功にそれ程の大差は無かった。

 

「左近、お主じゃ」

 名前を呼ばれた一益は一瞬呆気に取られた様な顔をしていたが、すぐに頭を下げた。

「これまで左近は元忍であった経歴を活かし、織田家の窮地を何度も救ってくれた。

 ここでは言えぬ様な汚れ仕事もこなした。

 よって四天王最後の1人は左近とする」

 

 光秀、秀吉が絡んでいた織田家の権力争いに、1つの終止符が打たれた形となった。

「十兵衛様がまさか四天王に選ばれぬとは……」

「やはり饗応役での失態が響いたのであろう。

 最近は領地を取り上げられた事もあったらしい」

 

 だが当の本人は気にしていないのか、人形の様な笑顔を浮かべているだけである。

 彼は公の場では徹頭徹尾この無表情にも等しい笑顔を浮かべており、他の家臣達から煙たがられていた。

「残念だったな」

 前田利家にそう言われて肩を叩かれた羽柴秀吉であったが、その顔は晴れやかだった。

 

「なぁに、これで充分。儂は幸せじゃ。

 ただの百姓であった儂が、今や一国一城の主。

 長浜を与えられ、織田家の功労者として認められた。

 あとはもっと励んで評価を上げてもらえばよい」

 主だった論功行賞が終わり食事の時間が終わった後、信長は遂に本題へと進んでいった。

 

「儂が今日ここへ皆を集めたのにはもう1つ理由がある。

 ここだけの話にしておいてもらいたいが、天下を統一した後の事を、話しておこうと思ったからじゃ」

 信長はそう言って立ち上がると、部下に命じて地球儀と地図を持ってこさせた。

「まずは天下を統一した後の国内の話じゃが、織田家を中心とした『合議制独裁政治』を行う」

 信長はそう言うと、日本の大まかな形を描いた地図を指で差した。

 

「日ノ本の全容は大まかに描くとこの様になっておる。

 宣教師が持ってきたものじゃ。

 この日ノ本を先導していくのは織田家の頭領。

 儂がいなくなった後は信忠、信忠の後はその息子が日ノ本の代表となる」

 信長は墨汁と筆を持ってこさせると、日本地図を線で区切り始めた。

 

「だが広大な日ノ本をたった1人で統治出来るとは思うておらぬ。

 ゆえに日ノ本を『地区』に分割し、そこで独自の頭領を置くのじゃ。

 今までの大名統治と基本は変わらぬが……」

 

 信長は線を描き切ると、改めて家臣や同盟を結んでいる者達の顔を見据えた。

「織田家の支配のもと、それぞれの地区の者達が励んでいく。

 それぞれの土地で若干の変化は出よう。

 だがそれが特色となり、地方から日ノ本全土が栄えていく。

 完全なる独裁では必ず綻びが出るのだ」

 

 信長が目指していたのは、1人の『大統領』と大勢の『州知事』による、『ひずみの少ない独裁国家』を作る事だった。

 たった1人で物事を進めようとすれば破綻する。

 もし大統領が腑抜けであれば目も当てられない。

 そこで織田家の家臣や同盟を結んでいる大名に協力してもらい、全員が一丸となって国を統治していく方法を考え出したのである。

 

「朝廷や、天皇の処遇はどうなさるのでしょうか」

 明智光秀の問いに対して、信長はしかめっ面をした。

「キンカン、儂もそれが悩みの種じゃ。

 儂が目指す『合議制独裁国家』に朝廷や天皇は必要無い。

 織田家より強い威光を持った集団や個人がおっては話が進まぬ。そこで、朝廷は滅ぼす事にする」

 

 周囲の者達に動揺が広がった。

 朝廷は日本に『裏の影響力』を与えてきた集団。

 そこを滅ぼす事になれば大量の血が流れる事は避けられない。

 

「朝廷は滅ぼすが、天皇は『日ノ本の象徴』。

 つまり神にも等しき存在。滅ぼせば後の代まで遺恨となろう。

 天皇の権力だけ剥ぎ取り、代々この安土城で何不自由なき生活をしていただく。

 この国の象徴と言う仕事だけが天皇の存在意義となるのだ」

 

 つまり、天皇と言う形だけ残し、一般人並の権力しか与えないと宣言したも同然である。

 朝廷の恐ろしさを知っている者達からは怯えの声も出始めた。

 

「これは、日ノ本の中で争う事態を避ける為の措置じゃ。

 朝廷は儂を煙たがっており、完全に敵対しておる。

 天皇はともかく、朝廷はれっきとした『敵』。

 滅ぼす以外に織田家の繁栄の道は無い」

 

 信長はそう言うと、今度は地球儀を担ぎ、皆に見せた。

「内は織田家と同盟勢力のもとで1つにまとまる。

 問題は国外じゃ。見てみよ。世界はこれ程広い。

 日ノ本など世界から見れば豆粒の様じゃ。そう思わぬか」

 

 信長は日本の位置を指で差した後、ヨーロッパの国々を指差し始めた。

「南蛮人、特に『エウロパ』の者達は他の国を植民地とする事で発展してきた。

 儂の護衛を務めておる弥助も元々は熱帯の方から来た『黒人奴隷』と言うものであったそうだ」

 信長の傍らに立つ弥助は宣教師によって日本に連れてこられた黒人奴隷で、信長が気に入り引き取った後家来にした人物である。

 凄まじい体躯と身体能力を誇る為、信長のボディーガードとしての役割を果たしていた。

 

「エウロパの国々はこれからさらに力を増していくであろう。

 さらに植民地を得ようとするであろう。

 今は貿易程度の関係でしかないが、時が経てば日ノ本に兵を送り込むやもしれぬ。そこでだ」

 信長は再び大雑把な日本地図を見る様にさせると、日本の隣にある大陸を指差した。

 

「我々も『植民地』を持ち、西洋列強に対抗していく必要がある。

 その為に、明と朝鮮を侵略し我々で統治していこうと思う」

 家臣達の間で再び動揺が広がった。

 天下が統一されれば戦が無くなると思っていた者達は多い。

 

「勘違いしてはならぬ。

 朝鮮半島及び明全てを日ノ本の支配下に置く事は、後の平和の為に必要な事じゃ。

 我々も植民地を持っているとなれば、エウロパの者達もそう易々と攻め込んではくるまい。

 明や朝鮮の者達は犠牲となるが、どの道このままだと日ノ本も明も南蛮に吸収されてしまう。

 エウロパが治めるか、我々が治めるかの違いでしか無い。

 ならば日ノ本を守る為にやらねばなるまい」

 

 信長はこう力説し家臣に同意を求めた。

「日ノ本の為に、明や朝鮮を犠牲にすると言うのですか」

 無表情のまま信長に詰め寄る光秀に対して、信長もまた冷徹な顔のまま質問に答える。

 

「誰もが幸せになる世界等この世に存在せぬ。

 幸せになる為には、他の者を不幸にせねばならぬのだ。

 エウロパの者達は黒人を労働力とする事で発展してきた。

 我々もそれと同じ事をするのみじゃ。

 西洋の脅威が近付いている今、時間が無い。

 弱肉強食の世でこの国が生き延びる為の唯一の策よ」

 

 やがて、柴田勝家が重い口を開いた。

「上様は、これまでも幾度と無くとんでもない案を口にされて参りました。

 しかし、その全ては結果として正しかった。

 後で考えてみればの話でございます。今は突拍子も無い話に聞こえるやもしれませぬ。

 ですが、儂は上様の先見性を信じまする。織田家を存続させていく為に」

 

「儂も同意しとうございます。

 西洋列強がその道を歩む今、我々もその道を歩んでいかなければ潰されまする。

 明には申し訳ありませぬが、他の大名家を潰してきたのと同じ事。

 我らで成し遂げてみせましょう」

 柴田勝家と森可成の発言によって場の雰囲気は一気に賛成へと傾いた。

 

「上様万歳、織田家万歳!」

 信長に対して止まらぬ称賛の声。

 光秀は何も言わず、ただ不気味な笑顔を浮かべるのみであった。

 

「俺は加賀を治めよとのお達しが出た。

 そうやって、日ノ本を分割して政治を行っていくんだと」

「儂は大坂じゃ。徳川殿は北条家が滅んだ後の関東全域を任されるらしい」

「意外だな。てっきり元の領地を任されるものだと思っていた」

「上様も徳川殿の求心力を警戒しておるのだろう。

 同盟と言えども、決して油断は出来ないと言う事じゃな」

 

 大広間での話が終わった後、羽柴秀吉と前田利家は部屋でこれからの事を話し合っていた。

「それにしても朝廷を滅ぼすとなると、必ず上様は十兵衛殿と一悶着起こす事になるぞ」

「十兵衛様は朝廷と室町幕府に深い繋がりがある。

 幕府の勢いは最早風前の灯だが、朝廷は違う。

 既得権益が絡めば彼等も必死に抵抗してくるだろうな」

 

 明智光秀は『旧勢力の代表』であり、信長は『乱世の革命児』である。

 そういう意味では何故光秀が信長の部下になったのかが謎であった。

「それと、蝦夷への北伐や、琉球への進出も計画されているらしいぞ。

 明への侵略と同じ領土拡大の狙いがあるそうだ」

「多方向同時攻略が上様のやり方とは言え、天下統一を目前にしても忙しさは変わらないな」

 

 止まらぬ信長の野望。

 それに付き合っている家臣達の苦労は並大抵のものではなかった。

 

「だがそれでも、儂は嬉しいんじゃ。

 百姓の時に、この方ならば天下を取れると思った。

 儂が見込んだ御方が、今まさに天下を取ろうとしている。

 儂の考えは、間違ってはいなかった」

「ああ、そうだな。俺もそう思う。

 上様が天下を取ると考えただけで、わくわくするんだ」

 

 秀吉も利家も、信長への忠誠心は揺るぎないものがあった。

 これまでも織田家が一丸となった時、彼等は大きな戦果を挙げてきた。

 実績があるからこそ、織田家を信じて頑張れるのだろう。

 

 同盟を結んでいる者や家臣団がそれぞれの場所に帰還した後、明智光秀は信長に呼び出された。

 場所は天守閣。信長の居住空間となっている所である。

「上様、失礼致しまする」

「おお、待っておったぞキンカン」

 光秀は頭を下げた後、能面の様な笑顔を崩さぬまま話を切り出した。

 

「私めを呼び出した理由は、何なのでございましょう」

「解っておるのではないのか?」

 凄みのある声で信長はそう言ったが、光秀の笑顔は変わらなかった。

「見当も付きませぬ」

 

 信長は配下の者に命じて水槽を持って来させた。

 ガラス製の水槽は南蛮からの輸入品だ。

「見よ、綺麗な鯉が泳いでおるわ」

 信長は手に持った何かを水槽に落とした。

 鯉は条件反射でそれを口にしたが、その瞬間に絶命し水面に浮かぶ。

 

「今のは鯛の切り身じゃ。

 何の鯛の切り身かは既に解っているであろう」

 流石にそう言われてからの光秀の表情には焦りが浮かんでいた。

「あれ程見事な大量の鯛を全て捨ててしまうなど、おかしいと思ったのじゃ。

 見た所腐乱している様にも見えぬ。

 お主が捨てた鯛を調べてみた者がおってな。この始末じゃ」

 

 祝賀会の為に用意されていた鯛は全て『ある所』から調達したものであった。

 捨てられた鯛には全て猛毒が仕込まれており、普通に出していれば必ず鬼役が死亡したものと思われる。

「計算高いお主の事、お主がやった事ではなかろう。

 お主の背後にいる影が、非常にうつけでありこの様な事態を引き起こしたのだ。違うか?」

 光秀の頬に冷や汗が伝った。

 

「私めはあくまで鯛が腐っていると判断して捨てたまでの事。

 毒が仕込まれているなど存じておりませんでした」

「苦しい言い訳だな」

 信長が手を叩くと、横の扉から滝川一益と数名の忍者が姿を現した。

 

「最近、お主の動向が不穏になってきたのを感じてな。

 左近にお主の監視を命じておったのじゃ。

 聞けばお主は朝廷や明と通じ、儂が本能寺に滞在している間に寺ごと焼いてしまおうと企んでいると聞いたぞ。

 何か言う事があれば聞くが、儂が聞くべき事等もう残ってはおるまい」

 その瞬間、弾かれた様に立ち上がった光秀は、刀を手にしたまま信長に襲い掛かった。

 

「うおおおおおッ!!」

 背後から矢が飛んできて光秀の背中に何本も命中し、光秀は刀を落としてその場に崩れ落ちる。

「何か言う事はあるか」

「貴様ァァァァ!!朝廷を滅ぼし、明を滅ぼそう等悪鬼の如き所業!

 結局貴様は己の欲望の為に邪魔な相手を消し去っているだけに過ぎん!日ノ本の為など笑止!

 ここで我が魂が滅んでも、後の世で蘇り必ずや貴様の一族を滅ぼしてくれる!」

 

「やれ」

 信長の一言に反応した一益が、日本刀で深々と光秀の胸を貫いた。

 ぴくりとも動かなくなった光秀であったが、その死に顔も不気味な笑みが張り付いたおぞましいものであった。

 

「朝廷はすぐに滅ぼした方が良さそうじゃ。

 十兵衛の死を知り徹底抗戦に出てくるだろう」

「仰る通りでございます。

 上様の命を狙う勢力が増えた今、決して容赦をしてはなりませぬ」

 

 信長は一益の背後にいた忍者に声をかけた。

「幼き頃より修練に励み、儂の助けになってくれて嬉しく思うぞ」

 饗談の一員である赤い髪を持ったくのいち、燈(あかり)はその言葉に対して深々と頷いた。

 

 夜、信長は天守閣に設置されたバルコニーから、明るい城下町を見つめていた。

 その隣には生駒吉乃の姿もある。

 信長の寵愛をどの女性よりも受けている側室だ。

 

「儂は、この国と目の前に広がっている美しい夜景を守りたい。

 その気持ちに偽りは無い。

 例え悪鬼と呼ばれようとも、修羅となって日ノ本を変える。

 『日ノ本の民全員が幸せになる』政治を成し遂げてみせる」

「犠牲は、出るのでしょうね」

 

「ああ。今までもそうであった。

 信玄公にも、謙信公にも、義昭殿であろうとも、それぞれの目標がありそれを成す為に戦っていた。

 儂には日ノ本で生き残った責任がある。

 彼等の為にも日ノ本の舵取りを間違ってはならぬ」

 

 武田家は滅び、上杉家は織田家と共に歩む道を選び、室町幕府は事実上崩壊した。

 彼等にはそれぞれの明確な天下取りのビジョンがあったハズだ。

 信長は彼等の夢を引き継ぎ、その責任を負わなければならない事を理解していた。

 己の信じる道をひたすらに突き進む。彼はそうしてきた。

 そしてこれからもそれを続けていくだろう。

 

「私には、政の事はよく解りませぬ。

 ただ1つはっきりしているのは、私は上様を心から愛していると言う事だけです。

 これからも、最後まで付き従っていきまする」

「吉乃。日ノ本はこれから『天武日本』と名を変え、新たな道を歩んでいくのだ。

 お前に見せてやろう。いや、お前だけでは無い。

 全ての民達に美しい夜景を見せる為に儂は戦い続けるぞ」

 信長に寄り添う吉乃に対して、信長はそう宣言した。

 

 この後、朝廷は織田家との戦に敗れ滅び、天皇は『日本の象徴』となった。

 明は織田家の精鋭軍団と同盟軍の力もあり占領され、『信国』としての歴史を歩む事となる。

 そして日本の国旗は、白地に赤い『織田家の家紋』が描かれたものになったのであった。

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