※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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色々加筆したり描写を変更したりした番外編です。
今振り返ってみるとこの作品はこうあるべきだったと言う部分が
他の話より多かったですね。それだけ自分にとっても
特別な物語だったんじゃないかと思っています。


霜月番外編 恋に落ちた格闘少女

 千葉県宮本市にある公立虹見高校。

 この高校はスポーツ、芸術、音楽……

 様々なジャンルで優秀な成績を残る生徒を輩出する『中堅名門校』として知られている。

 本当の名門校の様に毎年毎年決勝まで進む様な事は無いが、一定の成績を常に残している部活動が存在した。

 

 虹見高校男子柔道部と女子柔道部。

 特に女子柔道部は1998年に全国高等学校柔道選手権大会で優勝しており、毎年全国大会進出を果たす等活躍している。

 女子の影に隠れてしまった『男子柔道部』の嫉妬や鬱憤は、この優勝以後どんどんと大きくなっていった。

 

「西園、決勝トーナメント進出おめでとう。

 テレビで見てたけど、凄かったぜ」

 11月21日、予選大会の翌日から西園(にしぞの)久緒(ひさお)は他のクラスメイトに祝福されていた。

 他の組で授業を受けていた中澤(なかざわ)安央(やすお)や、彼女を慕う2年生の柊(ひいらぎ)佳苗(かなえ)、万場(まんば)知里(ちさと)も久緒のもとへ集まってくる。

 昼休みの間、彼女は褒められっぱなしだったので、赤面していた。

 

「西園先輩なら、きっとやってくれるって思ってました!

 ここまで来たら優勝を狙いましょう!」

「そうですよ。

 先輩なら柔道の世界でも、ZEROの全国大会でも一番を充分狙えます!」

 

 女子生徒も惜しみない拍手を久緒に送る。

 だが久緒は照れてはいたものの複雑な心境だった。

「でも、2on2での決勝トーナメント進出だからな……

 あかりの強さは際立ってた。

 俺はただくっついて、棚からぼた餅で行けた印象が強い。

 流石に優勝は無理だよ」

 

 勿論久緒も優勝したくないワケでは無い。

 だが、残っているメンバーは強豪揃いで、自分がZEROを始める前から一線で活躍しているプレイヤーもいる。

 久緒は大した実績を残せていない己が優勝する姿を思い描く事が出来なかった。

 

「謙遜すんなって。

 お前が弱くて何度も負けている様な状態だったら、決勝進出は無理だっただろ。

 要所要所でお前はちゃんと対戦相手に勝ってた。

 それがあかりさんの負担を軽減して、決勝トーナメント進出の切符を掴む事に繋がったんだ」

 中澤はそう言うと、久緒の肩に両手を置き、大きな声で叫んだ。

 

「皆、彼女を現場で応援しよう!

 ZEROドームまで行って、決勝の場に進める様に支えるんだ!」

 その提案に教室にいた殆どの生徒が賛成の意を示した。

 後輩の2人も目に涙を浮かべながら頷き、彼女の側へ寄っていく。

 

「優勝出来るかどうかは解らねぇけど、精一杯頑張るから俺の事を応援してくれ!」

 教室中に響き渡る拍手。

 多くの生徒が久緒のいる教室に集まっていた時、数名の男子生徒は別の教室で苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。

 

「糞がッ!!どいつもこいつも西園久緒、西園久緒って五月蠅ぇんだよ!

 あの筋肉女が!!」

 白井(しらい)健児(けんじ)は机を拳で叩きながら大声を出したが、隣の教室の歓声にその怒号は掻き消されてしまう。

 一部の男子柔道部員の怒りは頂点に達していた。

 

「あいつが万が一ZEROの全国大会で優勝する様な事になったら、俺達男子柔道部の存在がもっと薄くなりますよ。

 ただでさえあの女の人気が高まって、俺達の事が気にされなくなっているって言うのに……」

 白井派に属していた柔道部の後輩達は、この現状を憂いていた。

 西園久緒が勢いを取り戻し、男子柔道部よりも実力で勝ると新聞部が記事にした事もあり男子柔道部は存続の危機すら迎える事になる。

 

 さらに今まではこっそりと行われていた『親善試合』が先月公の場で行われ、久緒が1人で5人抜きを達成。

 女子生徒に勝てない事で己の自信を失った部員の多くが柔道部から去り、部員数が激減。

 女子柔道部の部員が増え、男子柔道部は女子の3分の1まで部員数が減ると言う事態に陥っていた。

 

「あいつだ……あの女さえいなくなれば、男子柔道部はまた復活する事が出来る!

 あの女さえいなければ……」

 そう何度も呟きながら白井は憤怒の形相で隣の教室の方を睨み付けていた。

 

「それに、中澤の『裏切り』も許せねぇな。

 西園に尻尾振って、今じゃあいつの彼氏気取りだ。

 あいつが助言したせいであの女がどんどん強くなって俺達は今どん底にいる。

 中澤も『復讐』の対象だ」

 もう1人の男子柔道部の3年生が白井にそう提言した。

 彼等にしてみれば、彼女を応援している中澤も敵として映るのだろう。

 

「なぁに、問題がシンプルになっただろ。

 俺達が『西園久緒』に勝つ事は出来なくとも、『中澤安央』なら何とかなる。

 あいつが西園の仲間になっているこの状況を利用すればあの女を簡単に表舞台から消し去る事が出来るぜ」

 新しく発売された『スマートフォン』をいじりながら、白井は邪悪な笑みを浮かべていた。

 

 その日の放課後、西園久緒は中澤安央、柊佳苗、万場知里の3名と共に帰り道を歩いていた。

「それじゃ、後で連絡するから。

 大丈夫、お前なら決勝トーナメントでも勝てるって」

 途中で中澤安央と別れ、久緒は彼を見送りながら溜息をつく。

 

「俺、あいつのおかげで勝てたんだよな。

 でも恩返しの1つも出来てねぇ……自分が嫌になるぜ」

「恩返しは決勝戦で優勝する事ですよ。

 そうすれば、今までの私達の苦労も報われますし」

 

「そうですよ。

 それに、中澤先輩は見返りなんて求めてないと思いますよ。優しい人ですから」

 その中澤の『優しさ』に甘え、中途半端な関係のままでいる事に久緒は悩んでいた。

 

 (俺はあいつの事が好きなんだ……

 でもあの一件のせいで一線を越えられねぇ……

 俺が処女じゃ無い事は繋がれば即解っちまう事だからな。

 説明するのも嫌だしよ)

 

 井島豊とのセックスは久緒にとってみれば『事故』の様なものだったが、それが彼女の足枷となっていた。

 意地をはって醜態を晒した、その真実を中澤に打ち明ける勇気が無い。

 プライドが邪魔をして中澤と親密になれない己の情けなさに、久緒は思わず呻いていた。

「馬鹿だよなぁ、俺は」

 その呟きに、佳苗が反応する。

 

「どうかしたんですか?先輩」

「いや……今の関係の先に進むのがちょっと怖くてさ。

 俺、中澤の事が好きなんだ」

 空を見上げ、久緒は苦しい胸の内を後輩に打ち明けた。

 

「先輩、自分の気持ちに正直になれば良いんじゃないですか?

 正直になっていないから心が苦しくなるんですよ。

 私はまだ誰かの事を好きになった事が無いから解りませんけど、好きなら好きって中澤先輩に言えばいいと思います」

 純粋に己の気持ちを相手に伝える『勇気』が足りない事は、久緒にも解っていた。

 

 (告白しよう。

 柊の言う通り、俺は自分の気持ちに正直になるべきなんだ。

 過去の『傷』を打ち明けて、拒まれるのならばそれはそれで仕方ねぇ。

 この現状のままじゃ駄目だろ)

 後輩に背中を押された久緒は、勇気を出して中澤に思いを伝える決心を固めた。

 

「何か用か」

 白井達のグループに完全に囲まれた中澤は、内心冷や汗をかきながらも、気丈な態度を保っていた。

「裏切り者のお前に、ちょっとばかり付き合ってほしい事があってな」

「勘弁してくれよ。

 早く帰らないと俺の両親と妹が心配しちまうだろ」

 

 睨み付けてくる白井に対して中澤はそう応え、何とか包囲網から抜け出そうとする。

「ふざけんな!屑がッ」

 その態度に逆上した白井は膝蹴りで中澤の腹を抉ると、倒れた相手を何度も蹴飛ばした。

 

「お前のせいで西園が本気になって俺達はこのザマだ。

 同じ部で頑張ってきた仲間の癖に敵の肩を持ちやがって!

 あいつと寝たのか?筋肉女のハニートラップに引っかかったのか?

 俺達を裏切った代償はきっちり払ってもらうぜ!」

 他の者達からも足蹴にされ、中澤は意識を失った。

 

「よし、こいつを所定の場所まで運べ。

 それとそいつのスマホはあるか?」

「ありました。

 鞄の中に入ってましたが、恐らくロックがかかっているでしょう」

 

 気絶した中澤を後輩達に運ばせ、白井はこれから起こる『宴』を想像し満面の笑みを浮かべていた。

 (西園の活躍もここまでだ。

 あいつを表舞台から消す為の御膳立ては整ったぜ)

 

 帰宅した後、久緒は中澤からの連絡を待っていた。

 (電話するって言ってたのに、遅ぇな……何かあったのか?)

 自室でスマホの画面を見つめていた久緒は、メールの着信音を耳にし、メール画面を開く。

 

『大事な話がある。

 電話で話す様な内容じゃ無いから、近所の本郷わんぱく公園に来てほしい』

 中澤とは常に電話で連絡を取り合っていた為、突然のメールに対して久緒は不審に思った。

 

「電話で話せないような内容って何だ?

 まさか……突然告白するってんじゃないよな」

 彼ならそういう事もあるだろうと久緒は考えたが、一度生まれた僅かな疑惑がどうしても拭えない。

「柊、頼みがあるんだ」

 

 念の為、久緒は後輩に電話をかけもしも自分が1時間後に連絡を取らなかった場合助けを呼んでほしいと頼んだ。

『でも、それならすぐに警察に連絡した方が……』

「確信が持てねぇからな。

 事件性があるか否か、ハッキリするまではそれは出来ねぇよ」

 電話を切った後久緒はさらに念を入れる為、鞄の中に護身用の催涙スプレーを入れ私服に着替えて家を出た。

 

「おい、後藤がいねぇじゃねえか。何処に行った」

「さっきまでいたんですけどね……」

 白井達は西園に来る様指定した公園で彼女の到着を待っていた。

 男子柔道部8名が集まっていたのだが、1人が何時の間にか姿を消し、7名となっている。

 明かりの無い冬の暗闇の中、彼等の前に西園久緒が姿を現した。

 

「送られてきたメールでおかしいとは思っていたが、やっぱりな」

 腕を組み相手を威嚇する様に睨み付ける久緒に対して、白井は薄ら笑いを浮かべる。

 

「ほう、解ってたってのか。

 それなら話が早い。俺達についてきてもらおう。

 嫌だってんなら……中澤の奴がどうなっても文句は言わねぇ事だな」

 男子生徒が白井の命令に従い、ゆっくりと久緒を囲む。

 

「俺が何の用意も無くココに来たとでも思ってるのか?

 1時間以内に連絡がつかなかった場合、俺の仲間が警察に連絡する事になってるんだぞ」

「なぁに、1時間以内に終わる事だ。

 中澤を助けたいのなら、まずその鞄を地面に置け」

 

 中澤がその場にいない為、久緒はこの場所で暴れる事は出来ない。

「卑怯者め」

「幾らでも言えよ。俺達は男子柔道部の復活の為なら何だってやる。

 お前に最大級の屈辱を与えてやろう」

 久緒は鞄を置き、男子部員がそれを回収すると、他の生徒が身体検査を行った。

 

「鞄の中に催涙スプレーが入ってました。

 服のポケットにはスマホが入ってます」

「どっちも回収しろ。

 さぁ、ついてきてもらおうかお嬢さん」

 久緒は抵抗する事が出来ず唇を噛んだが、大人しく彼等の命令に従い、その後についていった。

 

 久緒が案内されたのは、白井健児の自宅だった。

 彼の家は裕福で、久緒と同じく格闘家一族。

 誰にも邪魔されずに練習を行う為の『鍵付き地下室』まである。

「さぁ、入ってもらおうか。

 お前がどんなに大声を出そうと、外には声が一切聞こえない」

 

 広い地下室に入り、奥の壁に縛り付けられている中澤の姿を見た久緒は駆け寄ろうとした。

「待った待った」

 立ち塞がる相手を投げ飛ばそうとした久緒は、素早く彼の近くに寄った生徒の1人がナイフを手にしたのを見て動きを止める。

「どこまでも卑劣な野郎め」

 

「卑劣じゃねぇとお前に勝てねぇんでな。

 お前があの公式親善試合で勝ってから、俺達の人生プランは大幅に狂っちまった。

 部員は次々に辞めていき、俺達は『女に負ける柔道家』と罵られる有様だ。

 この現状を打破する為なら何でもやってやる」

 下卑た笑い声を響かせる白井に対して、あくまで久緒は強気な態度を崩さなかった。

 

「事実だろ。

 悔しかったら、実力で俺に勝ってみろってんだ」

「ほほう、何時までその態度のままでいれるかな?

 おい、準備しろ」

 部員の1人がナイフを持ったまま中澤の近くで待機し、もう1人の部員が強力なスタンガンを持って中澤の傍らに立った。

 

「西園、逃げろ……俺に構わず逃げるんだ」

 意識を取り戻した中澤はそう呟いたが、久緒は逃げずに白井と向き合う。

「お前がその頑なな態度を貫くつもりなら、中澤は徹底的に痛め付けられる事になる。

 お前の目の前でな。

 それが嫌だと言うのなら、俺の言う事に従ってもらおう」

 

 白井はそう言って中澤の方を見た。

 スタンガンの電源が入り、バチバチと先端から火花が散る。

「俺に何をしろってんだ」

「お前に出来ねぇ事は言わねぇさ。

 まずは服を全部脱いでもらおうか。

 この部屋から逃げさせるワケにもいかねぇしな」

 

 既に地下室の扉は閉められ鍵がかかっていたが、万一中澤を担いで逃げられる様な事があってはならない。

 その様な判断での命令だったが、勿論別の企みも含まれていた。

「変態野郎め。その後は俺に襲い掛かるつもりか?」

「筋肉女の身体に欲情するもんか。

 もっと面白いイベントを用意してある……さぁ、さっさと脱げ」

 

 久緒はハッキリとした時間は解らないが、少なくとも電話してから15分以上は経過している様な気がしていた。

 恐らく相手も待つつもりは全く無いだろう。

 覚悟を決め、久緒は服を脱ぎ始めた。

 

「お前ら……何て事を……」

「裏切り者は黙って西園のストリップショーを見学してろ。

 おい、デジカメの準備は出来てるか?」

 中澤の頬を叩きながら白井は手下である後輩の柔道部員に対して言葉を発する。

 

「ハンディカムも準備出来てます。

 電波こそ繋がりませんが、電気機器は地下室でも動きますからね」

 (なるほど、そういう事か……)

 彼等の動きを見て、久緒は彼等の計画の全貌が解り始めていた。

 彼等は久緒の痴態を画像や動画におさめ、ネットの海にばらまくつもりなのだ。

 

 そんな事態に陥れば決勝トーナメントの参加も危うくなる。

 女子柔道部も不祥事によって存続の危機に立たされるだろう。

「男の癖に、そんな卑怯な真似をしなきゃ己の価値を上げられねぇのかよ!」

 脱いだ服を全て床に置き、生まれたままの姿になった久緒がそう言うと、白井は激昂した。

 

「五月蠅ぇ!

 女の癖に生意気なお前さえいなければ、こんな事をする必要も無かったんだ!

 女子柔道部は男子の影に隠れて細々とやってりゃよかったのに、今や女子の方が人気とはな。

 全てお前のせいだ!

 お前さえいなくなれば、俺達は再び素晴らしい青春の日々を取り戻す事が出来る!」

 

 白井はハンディカムが作動している事を確認すると、久緒に命令した。

「まずはそこの椅子に座って膣が見える様に広げてもらおうか。

 その後は俺達の前でいやらしく自慰行為をしろ。

 大人の玩具も用意してあるから好きに使え」

「くそッ!止めろ、馬鹿な事は止めろ白井!」

 

 中澤は激しく抵抗したが、ガムテープで口を塞がれ声を出せなくされてしまう。

「どうした?

 お前の騎士がピンチなんだぜ?やれよ」

 白井だけで無く、多くの者が全裸になった久緒の姿を見て嘲笑った。

 

 (畜生、俺は思いを寄せる相手を助ける事も出来ねぇのか……)

 久緒は椅子に座った後、両手を股間の方へ持っていく。

 震える指がゆっくりと膣を左右に広げ秘部を露わにした。

 憎い相手に見せたくも無い箇所を見せている怒りと屈辱で涙が止まらない。

 

「ふははは!そうだよ!

 俺はお前のその顔がずっと見たかったんだ!

 何時も生意気で何でも出来ると思ってるお前の自信たっぷりなその顔が歪む瞬間がなぁ!」

 白井は高笑いをし、他の者達も笑い声を響かせた。

 

 その時、地下室の入り口を叩く音が響き渡り、白井はぎょっとして周囲の者達と顔を見合わせる。

「誰だってんだ……まさか親父が帰ってきたのか?

 今日は遅くなるハズだったってのに」

 その音は単なるノックの音では無い。

 まるで丸太で扉を叩いている様なかなり大きな音だ。

 

 この地下室の音は絶対に外には漏れないが、逆もまた然り。

 外の声は中の者達には聞こえなかった。

「白井さん、これってちょっと不味いんじゃ……」

「開けないと余計に怪しまれますよ。

 とりあえず2人を隠して応対した方が」

 

 男子生徒がそう言った瞬間、金属で出来た扉が壊れ警察官が十数名地下室になだれ込んでくる。

「対象の女子生徒を確保しました!」

「脅迫罪と監禁罪、及び婦女暴行未遂の現行犯でお前達を逮捕する!」

 扉を壊されるとまでは思っていなかった白井達は呆気なく逮捕され、久緒は警察官に毛布をかけられた。

 

「もう大丈夫だよ」

「あ……ああ」

 状況が全く掴めない久緒はそう言ったきり、呆気に取られ言葉を失ってしまう。

 一方逮捕された白井達は自分達が何故捕まったのか解らずにいた。

 

「畜生、何でこの場所が解ったんだ」

「通報があったんだ。

 この場所でお前達が女生徒に乱暴を働こうとしていると言う通報がな」

 警察官のその言葉を聞いた瞬間、白井は誰がその通報を行ったのかを悟った。

 

 (後藤の奴、怖くなって裏切りやがったな。

 許せねぇ、ぶっ殺してやる!)

 暴れる白井を抑え込む警官達。

 無事に保護され、拘束から逃れた中澤は久緒に詫びた。

 

「ごめん。俺のせいでこんな事になるなんて」

「何言ってるんだよ。

 お前のせいだなんて俺は全然思ってねぇから安心しろ」

 中澤が無事であると言う事実が、今の久緒には何よりも重要な事だった。

 

「男子柔道部がここまで堕ちてしまうとは……

 もう、廃部は決定的だな」

 聞き慣れた声が聞こえ、白井は手錠をかけられた状態で顔を上げる。

 視線の先には、男子柔道部の部長、小栗(おぐり)和人(かずと)の姿があった。

 

「前にお前達にも話したはずだ。

 正々堂々と戦って彼女に勝つ為の力を手に入れる。

 それしか我々が取るべき道は無いと言う事を。

 お前達はそれを怠った。その結果はどうだ」

 

 男子柔道部1年生の後藤は公園に集まった後この後の事を考え恐ろしくなり逃走。

 その後部長の小栗に連絡を取り、小栗が警察に通報したのだ。

「この事件は致命的だ。

 男子柔道部の部員が女子柔道部の部員に対して強姦未遂……

 そんな記事が新聞の一面を飾るだろう。

 少なくとも何処の高校の男子柔道部なのかは書かれる。

 そうなれば廃部は避けられまい。

 お前達の愚かな所業のせいで、我々は依るべき場所を失ってしまったんだ」

 

 諭す様に話す小栗の態度が気に入らず、白井は悪鬼の様な表情を浮かべた。

「後藤がビビって逃げ出す様な事が無ければ、全ては逆だったんだ!

 女子柔道部が昔の状態に戻り、俺達が権勢を取り戻す。

 後藤とお前が邪魔をしたせいで全て水の泡じゃねぇか」

 他人のせいにして己の研鑽を放棄する白井の態度に、小栗は最早彼の更生は不可能だと感じた。

 

「お前自身が努力するだけで世界は変わったハズだ。

 男子柔道部と言う場所を奪ったお前の罪は重いぞ」

「ケッ、てめえらこそ震えて待ってろ!

 出てきたら真っ先にお前と後藤に報復してやるからな!」

 

 白井健児は数年後、少年院から出所し小栗和人と後藤(ごとう)啓太(けいた)の命を狙うが失敗。

 殺人未遂の現行犯で逮捕され、刑務所へ。

 背後から人を刺そうとした卑怯者として刑務所の囚人達に可愛がられる事になる。

 勿論今の彼にそんな未来が見えているはずも無く、白井は連行される際も狂った様に喚き散らしていた。

 

「男子柔道部を代表して、心から詫びよう。

 本当にすまなかった」

 毛布を羽織ったまま俯く久緒は、頭を下げた小栗の背後に立つ少年の姿を見て顔を上げた。

 

「本当にごめんなさい。

 僕、白井先輩に逆らえなくて……

 公園に皆が集まった時、暗かったから隙を見て逃げてきたんです。

 その後小栗先輩に連絡を取ったら、すぐに警察に通報するべきだって言われて……」

 肩を震わせ、涙を流しながら謝罪の言葉を述べる後藤に、久緒は心の中で感謝していた。

 

 (きっと正義感よりも、犯罪に加担する事への恐怖感から逃げたんだろうが……

 結果的にこいつがいなかったら俺の人生は終わっていた)

 毛布を羽織ったまま立ち上がった久緒は、後藤の頭を優しく撫で、言葉をかける。

「有難うな。助かったぜ」

「西園先輩……」

 

 後藤は久緒に抱き付くと、赤子の様に泣きじゃくった。

「怖かったハズだ。柔道部は特に上下関係が厳しい。

 裏切った後の事も、裏切らなかった時の事も両方な。

 だが後藤は『正しい道』を選択した。

 その決断力と勇気は称えられるべきだろう」

 

 小栗は自分と同じ程の体重がある中澤を軽々と背負い、そう言うと後藤に手招きをした。

「西園も裸に毛布のままじゃ恥ずかしいだろう。

 この後警察の事情聴取もあるだろうから、俺と後藤は中澤を病院に連れて行った後で聴取に応じるつもりだ。

 お前も後で事情を聴かれる事になるだろうが、その前に服を着ないとな」

 

 小栗は他の警官にその事を話し、男達は一旦外へ出る。

 地下室に1人残された久緒は服を着ると、そのままパトカーに乗り事情聴取を受けに行った。

 

 公立虹見高校で起こった暴行未遂事件は、被害者である久緒の本名こそ伏せられたものの、大きく報じられる事となった。

 名門校として知られた高校の柔道部生徒が起こした事件と言う事もあり、当然男子柔道部がクローズアップされる。

 連日の報道でマスコミが駆けつけ大騒ぎになる中、男子柔道部の廃部が決定される事になった。

 

「事件の影響はあまりにも大きい。

 この状況下で男子柔道部を存続させれば、我が校のイメージが著しく低下する事は避けられないだろう。

 校長も苦渋の決断だった。

 本日を持って、男子柔道部の活動は終了する。

 お前達にはすまないが、これも全て我が校の為だ」

 

 男子柔道部の監督兼顧問である教師は、自分の監督としての未熟さを恥じていた。

 監督としてもう少し彼等を見ていれば、この凶行もこの事態も未然に防ぐ事が出来たかもしれない。

 大勢の生徒達に迷惑をかけてしまったと言う現実が彼の心を苦しめていた。

「先生のせいじゃありません。

 白井達が悪いんです。俺達は先生を責めたりなんかしませんよ」

「俺達、これからは部員としては活動出来ませんが各々で鍛練を積み、天武日本が誇る柔道家になれる様精進します」

 

 逮捕された白井一味以外の部員達が教師を励ます中、小栗は何も言わず物思いに耽っていた。

 (中澤……これから我々は部としての活動を禁じられる。

 だが策を弄すれば、細々と鍛練を続ける事は出来るだろう)

 本気で悔しがりむせび泣く教師を部員達が取り囲み哀しみの空気が部室を支配する中、後藤はその輪に加わる事も出来ず立ち尽くしていた。

 

「派手に殴られたり蹴られたりしたけど、鍛えていたのが幸いしたらしい。

 あと3日もあれば退院出来ると先生が言ってたよ」

 病院のベッドに横たわる中澤の見舞いに来ていた久緒達は、心配そうに彼の事を見つめていた。

「男子柔道部の廃部が正式に決定したみたいですが、先輩達はこれからどうするんでしょうか……」

 柊の問いに対して、中澤は上体を起こしながら応える。

 

「部長が白井の両親と掛け合って、あの広い地下室を使わせてもらう様に頼んでいるそうだ。

 先生は絡めないし仲良しクラブレベルにまで下がるが、それでも完全に消滅するよりはマシだろう」

 白井の両親は今回の事件に対して負い目を感じているのは明らかで、彼等との交渉は順調に進んでいるとの事だった。

「部長である小栗が先頭に立って残った部員達を指導していく方向らしいが、部としての弱体化は避けられないだろうな。

 女子柔道部がとばっちりを喰らわなかったのは不幸中の幸いだった。

 男子柔道部だけが叩かれていて良かったよ」

 

 中澤はそう言って安堵の溜息をついた。

 この騒動が女子柔道部に飛び火すれば、西園の立場も危うくなる。

 残った元男子柔道部の部員達が小栗の命令に従い、その火消しに尽力した為女子柔道部は活動を続けられる事となった。

 

「傷だらけだったから、本気で心配したんだぞ」

「お前に心配してもらえて嬉しいよ。

 お前こそ、大事にならなくて本当に良かった」

 中澤の手を取って真剣な眼差しを向ける久緒に対して、彼は彼女の目を見つめながらそう言った。

 

「久緒先輩を裸にして、撮影しようとしたなんて許せないです。

 人質まで取って……卑怯過ぎるじゃないですか」

 万場は事件の事を聞いてから、白井達に対して憤りを感じていた。

 それは勿論他の女子生徒も同じで、被害者こそ知らされていないものの男子柔道部への風当たりはますます強まっていく一方だった。

 

「知里。佳苗。中澤も被害者だって事は報道されてねぇ。

 中澤が退院したら、色々話して守ってやってくれ」

「勿論です!私達の仲間である中澤さんの事は全力で守ります。

 守り切ってみせますとも!」

 

 柊と万場は声を揃えてそう言った。

 ZEROを通して仲良くなっていた中澤は彼女達にとっても信頼出来る人間の1人になっていたのだ。

「退院したら、お前と2人きりで話したい事が山程あるんだ。

 早く元気になれよ」

 

「ああ、そうだな。

 俺としても寝てばかりじゃ身体がなまるばかりで困るし……」

 笑顔を見せながら頷く中澤の様子を見て、久緒達は彼がすぐに退院出来ると確信していた。

 

 退院後、中澤は小栗と共に白井家の地下室で柔道部の活動を存続させる事に尽力した。

 小栗が部長兼監督代理、中澤が逮捕された部員の代わりに副部長を務めると言う体制が完成し10名程の生徒と共に鍛練に励む。

 地下室が広いとは言えその人数での活動が限界。

 最盛期には100名を超える部員がいた男子柔道部はその長い歴史に終止符を打つ事となった。

 

「後藤は男子柔道部員としての自分が嫌になったそうだ。

 これからは自分を見つめ直して新しい道を模索するらしい」

「それも良いんじゃねぇの?

 まだ高校1年生なんだし、やりたい事は沢山あるだろ」

 

 放課後、中澤と共に歩いていた久緒は、怯えきった彼の顔が脳裏に浮かび思わず相手を憐れんだ。

 (上下関係は何時の世も辛ぇな……特に実力が無ぇ奴はすぐにパシリにされちまう。

 次の場所ではそうならねぇ事を祈るぜ)

 暫く無言のまま歩いていた中澤だったが、久緒の顔を見つめ、頭を下げた。

 

「大事な時期に迷惑をかけちまって、悪かった」

「前も言ったけど、お前のせいじゃ無ぇだろ。

 俺の方こそ、お前を助けられなかった事を後悔してるんだ」

 久緒は生まれたままの姿になり、自慰行為に及ぼうとしたあの時の状況を思い出すと唇を噛んだ。

 

「俺は強くて、どんな状況でも負けねぇって思ってたんだ。

 でもそれは違った……1人じゃ誰も救えねぇ。

 弱い生き物なんだって事を思い知らされたよ」

 久緒は極度の負けず嫌いで、あかりに迷惑をかけたあの時の自分はもういないと思い込んでいた。

 だが彼女の中にはまだ驕りがあり、それが今回の事件を生み出したと言う現実がそこにある。

 

「1人じゃ駄目なんだ。

 皆で頑張るから強くなれるんだ。

 俺が変われたのは中澤のおかげだったのに……」

 持てはやされて、謙遜しつつも天狗になっていた事は否めない。

 そのせいで中澤の身を危険に晒してしまった事を久緒は心から謝罪し、涙を流す。

 

「俺だって、お前がいたから負の感情から逃れる事が出来たんだ。

 お前と出会って共に歩き出すまでは、白井達と大して変わらなかった。

 お前に敵意を抱いていた……

 久緒、お前が俺を変えてくれたんだよ」

 

 感情が爆発し、思わず久緒を抱き締める中澤。

 久緒は驚きながらもその抱擁を受け入れた。

「お前の事を、心から愛してる」

 お互いに涙を流し抱き合う2人。久緒は中澤と共に歩む決心を固めていた。

 

 翌日の日曜日。久緒は中澤の自宅に招かれた。

 中澤の両親は共働きで中学生の妹がいるが、両親は家を空けており妹は友達と遊園地に遊びに行っている。

 これまでにも一軒家である中澤の自宅に何度も足を運んでいる久緒であったが、この日は彼女にとって特別な日だった。

「何時も呼んでくれて悪ぃな。

 俺の家、結構親父が五月蠅いもんだから」

 

 久緒の父親は彼女がZEROを嗜んでいる事を黙認してはいたが、自宅でのゲームのプレイは一切禁じていた。

 武道家として勝利を目指す精神を叩き込まれた久緒であったが、今までは様々なものが欠落していたのかもしれない。

 その欠けた部分を火村あかりや中澤達が埋めてくれたおかげで、彼女の今がある。

「俺は、お前の事が好きだ。

 その気持ちは今も変わらない。お前はどう思ってるんだ?」

 

 中澤は彼女を自室に案内した後、若干の不安を感じながらそう言った後彼女の答えを待った。

 彼は知っている。

 久緒が井島豊に対して思いを寄せている事実を。だからこそ拒まれる事が怖かった。

「それに対して答える前に、俺の話も聞いてほしい」

 久緒はそう言うと、中澤の目の前で堂々と服を脱ぎ始めた。

 

「な、何を」

 驚く中澤に構わず、靴下もスポーツブラもボクサーパンツも全て身体から取り去った久緒はベッドに腰を降ろす。

 

「あの時、公園でお前と出会う前……俺は火村あかりと戦ってたんだ。

 何度も何度も、相手が嫌になるまで……

 だからあかりに『脱衣ZERO』を提案された。

 意固地になって着るものが全て無くなっても俺は負けを認めなかった」

 

 負けを認めず、生まれたままの姿になったあの時と同じ姿になった久緒は中澤の目を真っ直ぐに見据えていた。

「当然あかりも怒って、延長戦を行う代わりにペナルティを課された。

 負けたら隣にいる井島豊とセックスする事。

 俺は意地を張ってその条件を受けた。

 後の事を考える事も無く。そして……負けた」

 

 両手をベッドのシーツ部分に置き、俯いた久緒の目には涙が伝っていた。

「赤の他人と寝て、おまけに処女じゃ無くなった愚かさをお前に話す事が怖かった。

 嫌われるんじゃないかって、軽蔑されるんじゃないかって……

 でも、話さなきゃいけないとも思ったんだ」

 

 中澤はその時、全てを理解した。

 何故西園久緒が井島豊にあんな耳打ちをしたのか。

 そしてそもそも、2人が何故性行為に及んだのか。

 疑問が完全に氷解したのだ。

 

「俺の初めての相手だから、豊の事は少しだけ意識してるけど……

 でも俺が好きなのはお前だけなんだ。

 信じてほしい。

 好きだからこそ、全部打ち明けたうえでお前の考えを聞きたかった」

 久緒の隣に座った中澤は、己の率直な思いを口にした。

 

「俺の気持ちは変わらない。

 何があってもお前の事が好きだと言う事実は変わらないよ。

 豊さんの事が気になる気持ちは理解出来るし、それでも俺の事が好きだって言ってくれただけで今は充分だ」

 偽りの無い気持ちだった。

 互いを知らない時は嫌い合っていた2人の唇が合わさり、中澤は彼女を抱き締める。

 

「過去も含めて、お前の事を全部受け入れる。

 だから、改めてお前の答えが聞きたい」

「中澤……俺も、好きだよ。大好きだから」

 

 久緒は全てを打ち明けて尚、自分を受け入れると宣言した中澤の言葉に感謝していた。

「……お前と1つになりたい」

 中澤のその言葉に対して、久緒はしっかりと頷いた。

 

 2人はシャワーを浴びた後、中澤の自室に戻り性行為を始める事にした。

 久緒がまずベッドに横になり、中澤に全てを晒す。

 中澤は腰にバスタオルを巻き付けただけの状態で、彼女に足を開かせた。

「なんつーか……野性味溢れる身体だな」

 

 夏場より若干薄くはなっているものの、胸と陰部だけが白くなり他の場所は全て褐色に染まっている。

 全体的に筋肉質ではあるもののマッチョでは無く、腹筋も中澤よりは割れていなかった。

 

「ほ、ほっとけよ。

 お前だって、俺が女らしい身体じゃ無ぇのは前から知ってるだろ」

 久緒は頬を赤く染め、頬を膨らましながら視線を逸らす。

「いや、そんな事無いって。

 胸だって大きいとは言えないけど結構あるし、黒髪も凄く綺麗だよ」

 

 お世辞が苦手な中澤は精一杯繕おうとしたが、久緒はその言葉に対して思わず笑ってしまった。

「それ、褒めてるのか?お世辞が下手過ぎだろ」

「褒めてるんだって。それに……実際こうなってるし」

 

 中澤は照れながら、バスタオルを外して反り返った陰茎を見せる。

 皮が剥け、完全に勃起していた。

 (大きさは豊のと同じ位か……

 それにしてもペニスってのはやらしい造形してるよなぁ)

 膝立ちの状態で近付いてきた中澤の熱い肉棒を見ながら、久緒はそう思った。

 

 その滾りを手で握り、口で咥える。

 中澤の方は久緒の膣に指を入れ、掻き回していた。

「そ、それ気持ちいい!

 すぼまった口で先端を咥えられるとすげぇ興奮する」

 

 久緒は手で陰茎を軽く扱きながら先端部分を咥え、陰茎がどんどんと硬くなっていくのを実感していた。

 (やべぇ。乱暴に弄られてるけど、コイツ相手だと感じちまう……)

 互いに性器を弄りながら、感情の高ぶりを味わう2人。

 欲望のままに刺激を与えていく。

 

「俺、出ちまいそうだよ」

「ひひへふはへほ」(気にせず出せよ)

 熱く滾った先端を咥えながら久緒が喋った瞬間、互いの快感が頂点に達した。

「うくッ!」

 

 久緒が口に咥えている状態のまま中澤は射精した。

 荒い息を吐きながら己の欲望を彼女の口の中に吐き出していく。

「ハァ……ハァ……」

 脈打ちながら白濁液を放つ肉棒は次第にその硬度を失っていった。

 

「ごめん……我慢出来なくて」

「ッたく、出すなら出すって言えよな。

 お前のを全部飲んじまったじゃねぇか」

 文句を言いつつも、久緒は自分の肉体に欲情し、達した中澤の事が愛おしくなっていた。

 

 彼の欲望を真正面から受け止めたい。

 自分に出来る事なら何でもやってあげたい。

 そんな感情が久緒の中で大きくなっていく。

「萎えちまったのか?

 それじゃあ……大きくしてやらねぇとな」

 

 久緒はそう言うと再び柔らかくなっていたペニスを咥え、亀頭の部分を刺激した。

 (夢だったんだ……

 誰にも言えなかったけど、俺はコイツとずっとセックスしたいって思ってたんだ)

 

 中澤にとって久緒は性欲の対象だった。

 男子柔道部員の中澤安央としては彼女の敵であったが、何度彼女の裸を想像して果てたか解らない程自慰行為に及んでいる。

 久緒に近付いたのも全て下心あっての事だった。

 彼は久緒と同じ様に秘密を抱えながらこの日を待っていたのだ。

 

「結構でかくなるのって早ぇんだな」

「興奮してるからだよ。

 お前と結ばれると思うと胸の鼓動が抑えられないんだ」

 その言葉に偽りは無く、実際中澤の陰茎が再び勃起した状態に戻り繋がる事への期待でひくついている。

 

 久緒は寝たままの状態で、中澤が覆い被さり剛直が近付いてくる事を感じていた。

 (あの時とは全然違う……本当に違うんだな。

 愛のあるセックスと無いセックスってのはこんなにも……)

 豊と性行為を行ったあの時には全く無かった緊張と胸の鼓動。

 頬が勝手に赤くなり、羞恥心が極限にまで高まる。

 

「優しく……してくれよ」

「出来ればそうしたいけど、そうしてやれる自信が無いから先に謝っておく」

 陰茎の先端が膣口に触れる。

 中澤は陰茎を手で持ち、先端をあてがうとゆっくり挿入していった。

 

「せ、狭い……!」

 中澤が生まれて初めてのセックスで感じたのは膣内の凄まじい締め付けだった。

 異物を排除しようと全力で陰茎を締め上げてくる。

 膣が久緒の意思とは無関係に動いていた。

 

「は、入った……みてぇだな」

「こんなに俺のをぎゅうぎゅう締め付けてくるなんて……

 気を抜いたらすぐに暴発しちまいそうだ」

 

 最初の『経験』から時間が経過していた為挿入による痛みは大分薄らいでいる。

 久緒は熱い滾りが己の中に侵入しているのを肌で感じていた。

 元々彼女の膣は狭く、さらに腹筋が鍛えられている為に陰茎を締め付ける力が尋常では無い。

 中澤の肉棒は長さ・太さ共に平均的で、何とか根元まで押し込むと彼の肉体は凄まじい快楽に溺れそうになっていた。

 

 (駄目だ。さっきの射精で敏感になっちまってる。

 我慢したいのに、もう出そうだ……)

 男のプライドとして挿入直後の射精だけは避けたい。

 そう思った中澤は歯を食いしばり必死に耐える。

 

 一方久緒の方は己の体内で脈を打ち時折痙攣する肉棒の生々しい感触に心地良ささえ感じていた。

 (中澤……気持ち良さそうな顔してるな。

 もっと感じさせてやるぜ)

 覆い被さっていた中澤に抱き付き、ゆっくりと上体を起こしていく。

 

「な、何をするつもりなんだ?」

「口を閉じてた方が良いぞ。

 舌を噛んじまうかもしれねぇからな」

 繋がったまま、ゆっくりと久緒が彼の上になり、中澤の腹に両手を添える。

 

「こういう時は何時か来るんじゃねぇかって……

 思ってたからさ、練習してたんだ」

 正常位から騎乗位へと変化した交わりだったが、久緒が数回上下運動を行っただけで彼は弾けてしまった。

「ご、ごめんッ!」

 

 彼女の膣内に、熱い液体が容赦なく注がれていく。

 反り返った肉棒が痙攣しながら何度も射精を繰り返した。

「イッたのか……」

 久緒にとって自分が上になった状態で相手に射精されるのは初めての経験であった。

 滾った肉棒が己の中でだんだんと硬度を失っていき、やがてぬるんと膣から抜けてしまう。

 

「俺、まだ気持ち良くなってねぇんだぞ」

「ゴメン、我慢出来なくてつい……

 もっと耐えるべきだったんだけど」

 頬を膨らませて怒る久緒に対して、中澤は謝る事しか出来なかった。

 騎乗位だった為、抜けたペニスに彼自身が放出した精液がだらだらと垂れていく。

 

「結構出したなぁ……もう1回位は出来るよな?」

 久緒はそう尋ねたが、その口調には哀願の意味も込められていた。

 (いや、これで終わりじゃいけないってのは解ってるんだけどさ……

 俺、そんなにタフじゃねぇんだよ)

 

 中澤は愛する女性の願いに応えられそうに無い自分が嫌になり、涙すら出そうになる。

 それを察した久緒は、ティッシュで己の膣と相手の陰茎を綺麗にした後、テクニックで問題の解決を試みた。

 再び陰茎を口の中に誘った久緒は、なるべく深く咥えた後何度も往復して相手に快感を与えた。

「あ、それ凄ぇ……」

 

 萎えていた陰茎が反応し、ゆっくりと硬度を取り戻していく。

 さらに数分間攻め続けると、完全に勃起した。

「時間はかかったけど、勃ったな。

 俺のテクニックが良かったからだろ」

「今度は努力するよ。出来るだけ我慢するから」

 

 違う体位で挑戦したいと言い出した中澤の提案もあり、2人は後背位で繋がる事にした。

 壁に手をついた久緒の背後から、勃起した肉棒をゆっくりと埋めていく。

「くうぅ……この締め付けが、もうちょっと緩和されればなぁ」

「こんなの、無意識にやってる事だからな。

 あかりの奴は意識的に出来るらしいけど」

 

 膣内の動きを自在に操れると豪語していた火村あかりの自信に満ちた姿が、久緒の脳裏に浮かんだ。

 (俺は、あいつの事が羨ましかった。

 でも、俺はあいつにはなれねぇ。

 俺にはあかりとは違う魅力があるんだ。もっと自分に自信を持たねぇと)

 

 大きな胸、抜群のスタイル、艶っぽい表情……

 どの点でも火村あかりには勝てない事を久緒は自覚していた。

 だが、今自分の中に剛直を突き入れた男は、自分の事を愛してくれている。

 欲情して、膣内で射精までしている。

 

 その事実が彼女に喜びを与えていた。

 そういう相手が出来た事が嬉しかったのだ。

「安央……もっと動いてくれよ。俺の身体で感じてくれ」

「久緒ぉ……こんなの、気持ち良過ぎだろ。

 また出ちまうよッ!」

 

 少々乱暴に肉棒を出し入れしていた中澤は、今まで味わった事の無い刺激と快感に我を忘れていた。

 自分が繋がりたいと思っていた相手と繋がっている。

 その事実が彼の陰茎をさらに硬く、大きくさせる。

「気持ちいいか?」

「俺も……凄く気持ちいい。安央のモノが、俺の中で喜んでるのが解るよ」

 

 久緒はあまりの心地よさからか涎を垂らしていた。

 中澤も最後だとばかりに腰を打ち付ける。

「うッ!!……あああ、出るの止まんねぇ」

「凄ぇ……出てる。俺の中に注がれてるよぉ……」

 

 根元まで肉棒をねじ込んだ状態のまま、中澤は耐え切れずに己の欲望を全て久緒の中に吐き出した。

 膣壁が与えた快楽に耐え切れなくなった剛直の先端から、白濁液が何度も放出される。

「やべぇ、射精してる時に中にいるのが気持ち良過ぎて……

 こんな快感を味わっちまったら癖になりそうだ」

「俺も……俺も癖になりそうだよ」

 

 膣の中で肉棒が震え、何度も脈打ちながら欲望が吐き出された後、ようやく萎えた陰茎が抜けた。

 お互いに興奮を抑えきれないまま、触れ合い、互いの唇が触れる、

 久緒と中澤はその状態のまま、暫くの間余韻を味わっていた。

 

 互いの欲望を満たした2人は、裸のままベッドに横たわり、抱き合っていた。

「裸のままで抱き合うって言うのは……初めてだけど、暖かいんだな。

 身体の温もりっつーか」

「俺も生まれて初めてだよ。

 自慰行為と全然違うんだな。セックスって……」

 

 男性にとって、セックスと自慰行為は異なる種類の快感が与えられる。

 どちらが優れていると言う事では無いのだが、この時の彼にとって久緒とのセックス程心を揺さぶられる出来事は無かった。

「愛があるのと無いのとの違いが、こんなに違うとは思ってなかったぜ」

 僅かに笑顔を見せる久緒の姿を見て、中澤は少しだけ彼女をからかいたくなる。

 

「愛の無いセックスをした経験も、無駄じゃ無かったって事か」

「豊としたのも人生勉強ってか?

 ……そう思い込まねぇとやってらんねぇけど」

 自嘲気味な笑いをこぼした久緒に対して、中澤は真剣な眼差しを向けていた。

 

「俺は……いや、俺達は、男子柔道部に対して生意気な態度を取るお前の事を嫌っていた。

 でも、白井の様な選択肢だけじゃ無い。

 仲良くなって互いに理解し合うと言う選択肢もあったハズなんだ。

 俺は微妙な立場の人間だったからこそ、答えが1つじゃ無い事が解ったんだと思う」

 中澤の言葉は、久緒にとっても響くものがあった。

 

「そうだよな。答えは1つじゃ無ぇ……

 勝ってねじ伏せる選択肢もあれば、和解して一緒に強くなる選択肢もある。

 俺も結局白井と同じ穴の貉だった。

 1つの視点でしかものを見る事が出来なかったんだ……

 だから罰を受けた。俺が間違った道に進んだから……もう、間違うもんか」

 

 久緒は中澤の手を強く握り、涙を流しながらそう言った。

「俺は1人で答えを探そうとしていた馬鹿だった。

 でも、今は違う。

 安央や、火村あかり……俺を慕う後輩達が側にいてくれる。

 皆で1つの問題に対する答えを探す事が出来るんだ。

 今度の大きな問題……決勝トーナメントについても、相談したい。いいよな?」

 

「勿論。俺達は恋人である前に、夢を共に目指す仲間じゃないか」

 久緒はその言葉を聞いた瞬間、中澤を抱き締めたまま子供の様に泣きじゃくる。

 中澤は彼女の頭をそっと撫でながら、彼女を幸せにする為に何が必要か考えていた。

 

 西園久緒は、今までずっと己の力で物事を解決しようとしていた。

 自分が強いと言うその存在意義を糧にして生きてきた彼女は挫折を味わい、自分が無力である事を悟った。

 そして己が無力な存在であるならば、共に生きる事で力を合わせていくと言う事を学んだのである。

「おっと、あれを飲まなきゃな」

 久緒は涙を拭うとベッドから立ち上がり、自分が持ってきたバッグの中から薬の入った小瓶を取り出した。

 

「何だ?それは」

「あかりから貰った避妊薬だよ。

 女子高生が妊娠なんかしたら不味いだろ、色々と」

 そう言って笑う久緒に対して、中澤は頬を赤くしてそっぽを向く。

 

「でも、何時かは俺とお前の間に子供が欲しいな」

「そうだな。でも、金メダルを獲るまでは我慢してくれよ」

 恥ずかしそうに呟いた中澤の言葉を、久緒は真剣に受け止めた。

 彼女も子供は欲しかったが、己の身体に負担がかかる出産は鍛えている場合ダメージが大きい。

 

 久緒は柔道家として世界に挑み、結果を残すまでは『子作り』は出来ないと考えていた。

「あかりはセックスを『趣味の一環』と豪語してるからな。

 ああいう境地には至れねぇよ。

 あいつと俺とは違う……

 そんな当たり前の事も理解出来なかったんだ」

 

 火村あかりは今の久緒にとって『目標』だった。

 同じでは無いけれど、少しでも近付きたい存在。

 その強さに羨望の眼差しを向け、予選大会では大いに助けられた。

 彼女はその恩を結果で返したいと思っていたのだ。

 

「今は大事な事を全部解ってるんだろ?」

「お前が教えてくれたんだ。

 だから、今度は俺がお前と一緒に戦わなきゃいけないと思ってる。

 決勝トーナメントは俺1人じゃ無く、皆で戦おう。

 声援に応えて、勝つんだ。何としても」

 

 久緒の決意は、中澤だけでは無く彼女に関わる多くの者に伝播していた。

 彼女を本気で応援している者も増えつつある。

 少しでも先へ。もっと強く。

 彼女の力だけでは無く、皆で一緒に壁を越える。

 中澤も己に出来る事なら何でもしようと心に誓っていた。

 

「決勝トーナメントまであと1ヶ月。

 その間、俺達はやれる事をしよう。

 俺以外の15名の対策は俺1人じゃ無理だ。

 柊達の協力がいる。

 俺も出来る限り鍛えるが、正直16名の中じゃ一番格下だろう。

 諦めるワケにはいかねぇけどな!」

 

 久緒は仁王立ちのまま拳を握り締める。

 裸のまま気合を入れる彼女の姿を見て、思わず中澤は笑ってしまった。

「何だよ、俺が言ってる事がそんなにおかしいのか」

「だってお前、素っ裸で気合を入れてるのを見たら誰だって笑うだろ」

 久緒は中澤に言われるまで、少しの間自分が裸である事を忘れていた。

 

 それに気付き赤面した久緒は、まだ笑ったままの中澤に飛び掛かっていく。

「うるせー馬鹿!笑うんじゃねぇ!」

「ごめんごめん……ちょ、痛いって!

 頬をつねるな、マジで痛いから!」

 

 生まれたままの姿でじゃれ合う2人の間には、もう遮るものは何も無かった。

 お互いの事が好きだと言う純粋な気持ちで繋がった2人の絆は、これからも続いていくのだろう。

 

 翌日の放課後、エターナルナイトでは久緒を含む多くのプレイヤーが野試合を続けていた。

 傍らには中澤と、柊・万場の2人がいる。

 遠くから彼等の練習を眺めている小栗と後藤の姿もあった。

「久緒ちゃんも大分強くなったなぁ。

 紅白戦の時とは別人の様な動きになってるし」

 

 野試合で対戦相手を務めていた豊は、彼女の成長ぶりに舌を巻いていた。

「ベスト16からは抽選で対戦相手が決まるから、私と勝負する可能性もあるのよ。

 その時は手加減無しで、頑張りましょうね!」

 

「師匠が相手となると、ちょっとやり辛ぇな……

 相手が誰だろうと、勝ちに行く姿勢は変えねぇけど」

 今までの彼女ならば、もっと傲慢で人を見下した様な言葉を放っていただろう。

 力を誇示するのでは無く、ただ試合で示す。

 強くなる事を放棄したワケでは無いが、彼女はそれだけ『大人』になったのだ。

 

「西園先輩!私達、決勝トーナメントの時は必ずZEROドームに駆けつけますからね!」

「私、西園先輩が優勝する事しか願っていません!

 総力戦で頂点を目指しましょう!」

 慕う者がいて、己の為だけで無く、相手の為に全力を尽くす。

 久緒は自分を信じてついてきてくれた後輩達や中澤に勝つ姿を見せたいと思っていた。

 

「今ココにいるメンバーとも、決勝トーナメントではぶつかる可能性がある。

 俺を鍛えて、大舞台に連れてきてくれた。

 だからこそ、勝つ事で恩返しがしてぇんだ」

 久緒の視線の先には井島豊、火村あかり、氷室零、柏糸涼介、雨宮比呂子の姿があった。

 

 日本で最も結束力の強いZEROプレイヤー達と言っても過言では無い彼等と共に久緒は成長してきた。

 共に笑い、共に悩み……その約半年間の成果を披露したい。

 彼女の頭の中にはそれしか無かった。

 

「久緒さん。私達は仲間です。

 試合の時は敵同士かもしれませんが、勝っても負けても『良かった』と思える戦いにしましょうね!」

「比呂ちゃんの言う通りよ。

 それに、もし久緒ちゃんがあいつらと当たったら、絶対勝ってほしいわ」

 

 久緒も彼等から話を聞いて大まかな事情は把握していた。

 綾小路桜華と綾小路財閥が仕掛けた『悪魔の罠』……

 罪も無い者達を洗脳し、己の野望の為の捨て駒にする等、許されるべき事では無い。

 

「俺は悪い奴は大嫌いだ。

 勿論、綾小路財閥に関係してる奴等は試合で容赦なくぶっ飛ばす!」

 久緒は天に向かって拳を突き上げ、正義を貫く決意を固めた。

 

 人は誰もが傷付き、挫折しながら成長していく。

 人間の人生において傷の無い人生等存在しないだろう。

 西園久緒の人生もまた例外では無い。

 幼い頃から『強さ』に拘り続けた結果、敗北の味を知った。

 強さだけを見据えて他のものが見えていなかったせいで大切な者の命を危険に晒した。

 

 その経験と人との絆がその人間の性格を変えていく。

 彼女は強さ以外の大切なものを数多く手に入れる事が出来た。

 そして彼女が手に入れたいと渇望しているものは『栄冠』……その為に彼女は挑み続ける。

 運命の12月31日に向けて、彼女の大きな戦いが始まろうとしていた。

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