この物語の大きな鍵となる場面が多く登場します。
起承転結の転に該当し、この後から物語はゆるやかに
終点を目指して進んでいくのです。
イリスの死に顔を見つめていたハズの俺は、再びあの屋敷のエントランスに戻ってきた事を認識した。
俺がこの屋敷を訪れた時には16名もいたロビーには、俺ともう1人しか残っていない。
「あら、貴方でしたの。意外でしたわね」
金色の光を放ち、笑みを浮かべる女。
ユファール・シャインスピリアと名乗った神の1人だ。
「残ったのは私と貴方の2人だけ……
後は私と貴方が殺し合って、生き残った1人がZEROに願いを叶えてもらえると」
歌う様に喋り、勝利を確信しているかの様な女の態度が俺の心を激しく揺さぶる。
「既に14人も死んでるんだぞ。
どうしてそんなに楽しそうな喋り方をしてるんだ」
「あら、貴方達とスカイロンの民達が起こした戦争の被害に比べれば、微々たる死傷者の数ではありませんこと?
それに、貴方が勝って皆を生き返らせれば良いでしょう。
私に勝つだけの実力があるのかは解りませんけれど」
俺は彼女の言葉が気に入らなかったが、ココで揉め事を起こしても意味が無い事は解り切っていた。
少しの時間が経過した後俺を屋敷に連れてきた老人が現れる。
「ヴォルフ様、そしてユファール様。
お疲れ様でございます。
御二方のうちどちらかが、ZERO様に願いを叶えてもらえる者となる事でしょう」
老人もまた犠牲となった者達の事には触れもせず、俺達2人に向かって拍手した。
「私の願いはゴッドヤードに私を頂点とする素晴らしき世界を作る事。
その為にも、負けられませんわ」
「俺は……いや、今はいい。
とにかく、生きる為に戦う。それだけだ」
俺は願いを述べず、戦いの時が来るのを待った。
この場所ではそれしか出来なかったのだ。
「それでは、最終決戦を始める前に、ZERO様からの注意事項がございます。
よくお聞きください」
老人がそう言った後、エントランスの天井から声が聞こえてきた。
『お前達の戦い、楽しく拝見させてもらった。
最終決戦は、半球状の舞台で行ってもらう。
空を飛ぶ事が出来るゴッドヤードの女神は何処まででも高く飛ぶ事が出来るが、それでは獣人の勝ち目が無くなる。
故に、舞台の上空に『見えない天井』を設置した。
舞台の下は奈落となっており、落ちれば命は無い。
見えない天井と見えない壁は円柱状になっており、舞台はその中に設置されている。
さらに舞台は頑丈で、あらゆる攻撃を受けても破壊されない。
丈夫な床の上で存分に戦うが良い』
俺にとって『見えない天井』の存在は有難かった。
確かに相手が空を飛び、俺の攻撃が届かない範囲から攻撃を続ければ、俺が負けるのは目に見えている。
俺は女神の方を見たが、悔しがる顔を見せるでも無く余裕の表情を浮かべていた。
『それでは、始め!』
その声が聞こえた瞬間にエントランスから決戦の舞台へと俺達はワープさせられた。
あの老人の姿も視界から消えている。
「空を飛ぶ事が出来るのは確かにアドバンテージの1つでしょうけれど、それだけが私の強さの源ではありませんわ。
それを貴方に、ゆっくりと時間をかけて教えてさしあげますわよ」
彼女が俺の方に向かって指を突き出した瞬間、反射的に俺の身体は宙を飛んでいた。
元々俺がいた場所、俺の心臓があった場所目掛けて的確にビームが飛んでいく。
勿論俺はその場所から離れた為攻撃を受ける事は無かった。
「私を、せいぜい楽しませてくださいまし」
半球状の舞台の広さは直径1kmと言った所だろうか。
地平線が見える程べらぼうに広くは無い。
隠れる所が何処にも無いこの場所では、彼女から逃げる事が自殺行為である事はよく解っていた。
「楽しむ余裕は、こっちには無い様だな」
一発でも攻撃を喰らえば致命傷になる。
彼女の一挙一動を見逃すまいと俺は相手をしっかり見据えていた。
ユファールは、俺の方を見ながら余裕の笑みを浮かべていた。
「良いですわね、その表情。
絶望するのでも諦めるのでも無い。私に勝とうとしている男の顔ですわ」
再び指から発射されたビームを避け、俺は彼女に近付こうとする。
勿論相手も俺が接近戦しか出来ない事が解っている為、羽根を使い軽々と俺から離れてみせた。
「私としては、この『御遊戯』をずっと続けていても良いんですわよ。
いずれは私が勝ちますもの」
走る事でしか相手に追いつく事が出来ない俺と、宙に浮き距離を取る事が出来る彼女とでは相当なハンデがある。
彼女が驕るのも無理は無かった。
俺は相手の油断から生まれる隙に期待するしか無い。
「これを避ける事が出来れば、褒めて差し上げますわ」
彼女は両手から長い光の剣を作り出し、その形を保った状態で俺に向かって振り回してきた。
相手の手の動きから飛んでくる光の剣の位置を予測し、時には跳躍、時には四つん這いになりながら必死で避ける。
これでは俺が疲弊するだけで、彼女の勝利は揺るがない。
どうしても彼女に近付く必要があった。
「何て素晴らしい動き……
今までの対戦相手でこれを避け切れた者は1人としていなかったのに」
俺は回避行動に対して褒める彼女に隙が出来たその瞬間を、決して見逃さなかった。
両手両足で床を蹴り、彼女に襲い掛かる。
この長距離をいきなり詰められると思っていなかったであろう相手は狼狽した。
「なッ……!」
首元に狙いを定めて爪で引っ掻こうとしたが、相手が咄嗟に避けようとした為胸に掠り傷を付けた程度で終わってしまう。
「獣如きが、私の胸に傷を……!」
攻撃のチャンスは失われていない。
さらに距離を詰め、相手の首を狩ろうとした俺の目に、彼女の掌が触れた。
「無礼者!」
目を瞑る暇も無かった。
凄まじい光が俺の目に直撃し、俺はその痛みに悶絶する。
「ウオオオオオッ!」
真っ白な視界は一瞬で漆黒の視界へと変化した。
激痛をこらえ、何とか俺は立ち上がる。
「私の胸に傷を付けるなんて、万死に値しますわ!
お返しに、貴方の目を潰して差し上げましたわよ」
彼女の声と、光の刃が再び現れた音だけが聞こえる。
全神経を集中させ、俺は彼女の声と音だけを頼りに攻撃を避けた。
暗闇の中で、必死に床を蹴り研ぎ澄まされた野生の感覚だけを信じて俺は相手に喰らいついていく。
「馬鹿な、そんなハズは……!
両目を潰されても尚、私の攻撃を避け続けるなんて!」
ユファールの声がした方向は右斜めの後方。
俺は相手の攻撃に警戒しながらも走り出した。
「俺は勝つ、何としても勝たなければならないんだ!」
後ろに移動しつつある彼女の気配を察知しながら、俺は走り続ける。
彼女の狙いは解っていた。
当然走り続ければ半球状の舞台から奈落に落ちる。
相手はそれを知っているからこそ宙に浮き、俺の自滅を狙っているのだ。
「この位置から私を狙えたとしても、私を狙えると言う事は私も貴方を狙う事が出来ると言う事に他なりませんわ!」
チャンスは一度だけ。
跳躍のタイミングは早過ぎても遅過ぎても駄目だ。
床が終わるギリギリのタイミングで飛び出す。
「私の邪魔はさせませんわよ!」
跳躍した直後の俺が軌道を変える事は不可能。
ユファールはそれを読んでいたのだろう。
ビームは俺の胸を貫通したが、僅かなズレがあったのか心臓に直撃する事は無かった。
「なッ……!?」
その痛みに耐え俺は彼女にしがみつくと、相手の首筋に噛み付く。
「そ、んな……私が……この私が……」
ビームの弱点は、物理的な攻撃では無いので相手の勢いを殺す事が出来ないと言う点だ。
激痛に耐え抜く事が出来れば勝機は充分にある。
俺はそう踏んでいたのだ。
そのまま首を噛み千切り、俺は動かなくなった彼女の胴体と共に奈落へと落ちていく。
暗闇の世界の中、俺は命を失ったばかりの彼女が持つ身体の温もりを感じていた。
2005年12月31日。
天武日本国民1億人の殆どが待っていた記念すべき日。
今年で4回目となるZERO全国大会の決勝トーナメントが開催される日だ。
関東圏に住む者達は観戦チケットを手にZEROドームへ向かい、ドームに入れない者もテレビを食い入る様に見つめる。
10万名を収容する事が出来るZEROドームの観戦チケットは発売から僅か1日で完売。
このお祭り騒ぎに参加しようと会場に入れない事が解っていながら東京にやってくる遠征者も数多くいた。
「寒いな。
雪が降るって言う予報はあったけど、風も強いとは思わなかったぜ」
「ZEROドームの中に入るまでの辛抱よ。
受け付けも済ませなきゃいけないし、急ぎましょう」
毛糸の帽子にマフラーと手袋。
セーターの上にジャンパーを羽織り、口から常に白い息が出ている。
完全防備でやってきた豊とあかりであったが、東京の寒さは年々厳しさを増していた。
「今年は寒波の影響で、例年以上の寒さだそうだね。
今日も最低気温は-5度になるって言ってたし……」
「と、とにかく室内に入っちゃえば関係無いですよ」
同じ様に防寒着に身を包んだ氷室零と柏糸涼介も、東京駅からZEROドームを目指していた。
零や豊達は『決勝トーナメント』に参加するプレイヤーなので、ゴールドチケットが観戦チケットの代わりになる。
入場料は当然無料。
さらにベスト16となったプレイヤー達には豪華な食事と飲み物が用意されていた。
選手専用の控室も完備。
食事休憩等の時に自由に使用する事が出来る。
「おはようございます!ようこそ、ZEROドームへ!
本日はアークラインズが主催する格闘ゲームの決勝トーナメントが行われます。
井島豊様と、火村あかり様ですね?
トーナメントに参加されるプレイヤーの方は、観客用とは別の入場口を御利用くださいませ」
ドームの入り口付近に立つ受付担当の女性は2人の手荷物を確認すると、係員を呼び彼等を誘導した。
スタッフが利用する入り口から廊下へと進むと、自分達の名前が書かれたドアが立ち並ぶ。
「私達がお呼びするまではある程度自由に行動してもらっても構いませんが、午前9時50分までには自分の控室に戻っていてください」
「解りました」
あかりは『九州代表1・井島豊選手控室』と書かれたドアを開けると、豊と共に部屋の中に入った。
「机の上に高そうなワインのボトルが置かれているけど、あれは何?」
「ウェルカムドリンクさ。
選手が利用する控室のテーブルに必ず1本置いてある。
ま、ベスト16に入った『御褒美』ってやつだな。
俺が前に決勝トーナメントに進出した時もあったから恒例なんだろう」
控室は白のテーブルとソファ、化粧台と椅子、試着室と同じ着替える為の場所が設置されている。
決勝トーナメントでは『特別なおめかし』が許可されており、選手はコスプレでの出場が許可されていた。
「生まれて初めて『こっち側』に来たけど、正直ココまで来た実感が無いのよね……
全国予選でゴールドチケットを貰った時もそんな感じだったわ。
勿論、練習は沢山してきたけど」
「俺は『戻ってきた』から、感慨深いよ。
ずっとZEROをプレイしてきて、ZEROに関わる仕事に就いて……
特に今回は編集部の連中から期待されてるから、そう簡単には負けられねぇわな」
2人はそう言った後、お互いに黙り込んだ。
この1年間の出来事を振り返り、様々な事を思う。
「……エターナルナイトのメンバーが同士討ちを避けて、皆見事に予選を通過した。
今年は運命の神が仕組んだ『何か』がある。
俺はそう思ってる。
知ってる人間が相手だからやりにくいのは俺も他の奴等も同じだ」
「比呂ちゃんも涼介も、そして瞳ちゃんが応援してる零も1番になりたいって思ってる。
私達も気持ちは同じ。
優勝は難しいでしょうけど、少しでも先に進みたいわ」
予選通過が決まった後、この日を迎えるまで彼等は暇さえあればずっとZEROをプレイしていた。
あかりは単位を落としかねない勢いで、豊も仕事や取材そっちのけで練習を続けていたが、周囲はそれを認めていた。
天武日本ではベスト16に入った者は頂点を目指すべきと言う風潮があったからだ。
「頑張りましょう。
必死に練習してきた己の為に、そして応援してくれた皆の為に」
あかりの言葉に対して、豊は黙ったまましっかりと頷いた。
『現在、9時30分です!開会式まであと30分。
それまでには自分の席に着いていてください。
既に観客席は8割方埋まっている様に見えます。
通路で走る等の危険行為は避ける様にしてくださいね』
挑戦者が控室で出番を待っていた頃、一般客は観客席で開会式が始まるのを心待ちにしていた。
1年の最後、大晦日に行われる一大イベントと言う事もあり会場内では様々なグッズや食べ物が販売されている。
「オーナー、ココが我々の席の様です」
「なかなか良い席を引けたね。
会場全体がよく見渡せるし、オーロラビジョンが見易い位置だ」
エターナルナイトのオーナー蔵崎源三と従業員の2人、笹森冬司と高瀬加奈は観客としてZEROドームに来場していた。
ゲームセンターだけでは無く、この日は多くの店が休業してその店の従業員達もこの場所に訪れる程だった。
「豊君が一緒だったとは言え、土田君がベスト16に選ばれたと言う事実は誇れるものだ。
私達は土田君を応援して、少しでも彼が上に行ける様に祈ろう」
蔵崎の穏やかな表情からは、土田守に対する親愛の情が見てとれた。
ボクサーと従業員、ZEROプレイヤー、何足もの草鞋を履いて戦い続けてきた自分の部下。
蔵崎は彼の活躍を少し離れた所からずっと見ていた。
直接口に出して言う事は無かったが、ずっと応援していた。
そんな土田の晴れ舞台を見る事が出来る事は、蔵崎にとっても価値のある事だったのだろう。
「笹森君、あそこの区画……
テレビで見た事のある人達がいっぱい座っているわね」
「一般席じゃ無いからね。
あそこにいるのは特別に招待された人々だ。
政府関係者、スポンサーの会社社長、芸能人。
特に織田政権の人々は革新党の大臣達が揃い踏みだ。
綾小路財閥の黒沢さんも座ってる」
特別招待席には、信国の総理大臣である斎藤(さいとう)善龍(よしたつ)の姿もあった。
内閣官房長官の竹中(たけなか)醍醐(だいご)を筆頭に、大臣が多くの席を占める。
その周囲を有馬(ありま)弥助(やすけ)率いるSP達が警護していた。
「今日はZEROの歴史を塗り替える、記念すべき1日になるでしょうな」
防衛大臣の柴田(しばた)正勝(まさかつ)の言葉に対して、官房長官は笑顔で応えた。
「確かに。今日は記念すべき日になるでしょう」
彼の言葉には裏の意味が込められていた。
この日に彼等の計画は実行に移される。
(会場にいる信国の組織、紅虎明命の構成員は約5000名。
会場にやってきた招かれざる観客は私の力で潜り込ませた。
この国の手荷物検査は杜撰でお話にもならない。
危機意識が希薄過ぎる。
ま、そのおかげで会場にH2O爆弾を持ち込めたワケだが……)
天武日本で行われている手荷物検査はバッグの中身を少し覗いて終了してしまう。
信国から密かに日本にやってきた過激派達は部品をばらし、手分けして会場に持ち込む事に成功した。
爆弾だけでは無く数多くの銃器も持ち込まれ、会場内がお祭り騒ぎである事を利用して彼等の計画は今の所着々と進んでいる。
(綾小路財閥の協力のおかげで、小さいながらも抜群の威力を誇るH2O爆弾やマシンガンを大量に運び込む事が出来た。
会場の警備が最も手薄になる瞬間を狙って行動を起こす。
壇上に近付いた総理を殺し、天武日本の歴史を塗り替えるのだ)
この計画の内容を把握しているのは信国の過激派と竹中醍醐、綾小路財閥の上層部の者達のみである。
特に黒沢輝は万が一計画が頓挫した時の為に、殆どの部下にこの計画を漏らしていないと言う徹底ぶりであった。
「黒沢さん、綾小路財閥の協力があって今日と言う日を迎える事が出来ました。
本当に有難うございます」
「いえいえ、我がプラナスも資金調達に走った甲斐がありました。
素晴らしいイベントになる事でしょう」
黒沢の隣では何も知らずにはしゃぐ桜華の妹分、黒沢美香の姿もあった。
「姉様の優勝は揺るがない。
そうでしょう?御父様」
「ああ。御嬢様はこの日の為に努力してきたからね。
必ず優勝してくださる事だろう」
綾小路財閥はこのイベントの大口スポンサーとなり、多くの資金を提供した。
全ては『計画を成功に導く為』。
桜華を優勝させると言う目的を果たす為でもあったのだ。
『皆様、オーロラビジョンにご注目ください!
開会式の前に、本日のタイムテーブルを説明致します』
決勝トーナメントの司会兼実況担当者の声が、会場全体に響き渡る。
『午前10時から開会式。
開会式終了後、16名から8名に人数を絞る第1ラウンドを行います。
昼食休憩を挟んだ後、午後1時から8名から4名へと絞る第2ラウンド。
そして準決勝、3位決定戦と決勝戦を行う予定です。
決勝戦の後、表彰式及び閉会式を行い、全行程終了。
終了時間は午後5時を予定しておりますが、進行具合によっては延長する可能性があります。
予め御了承ください』
会場に設置された巨大な液晶パネルに日程が表示された。
『昼食休憩は1時間。
休憩に入るまでにフードコートに大量の食事を用意してもらえるそうなので、皆様どうぞ御期待ください。
そして今回の決勝トーナメントの司会進行及び実況は私、ドームDJのNEXTエリカが担当致します!』
NEXTエリカは昨年度の大会から司会兼実況を担当している、有名なDJだった。
若くして数多くのイベントDJをこなし、その飄々とした性格にはファンも多い。
『そして、私と共に今大会を盛り上げてくれる解説者として新潟県認定ZEROゲーマーの長尾遼子さんにお越しくださっています。
長尾さん、本日は宜しくお願い致します』
『宜しくお願い致します』
全国大会の予選で惜しくも敗れた長尾遼子は、今大会の解説者として抜擢される事となった。
織田政権の意向で、綾小路財閥に対する『牽制』と言う意味合いが強い。
神谷財閥を重用する織田政権は力を増す綾小路財閥に対抗する為、長尾財閥とも手を握りたいと考えている。
長尾遼子が解説者として起用されたのはその『仲の良さ』をアピールする狙いがあった。
『決勝トーナメントの見所は、何と言っても強いプレイヤー同士の真剣勝負を間近で見る事が出来ると言う点ですよね』
『そうですね。
単なる真剣勝負では無く、財と名誉を手にする為の戦いですから何時も以上にプレイヤーの本気が見られると言う事です。
私も出来るなら16名の中に入っていたかった……
参加するだけでも大きな経験になるでしょうから』
『そうですね。優勝するのは当然1人だけ。
他の人は敗北し、去っていきます。
でも、それで全てが無駄になるワケでは無い。次の大会への糧になる。
その証拠に、前の大会で優秀な成績を残したプレイヤーが今大会の決勝トーナメントにも残っていますし』
NEXTエリカはそう言うと、机の上に用意されている書類を手に取り、ページをめくった。
『愛知県認定ZEROゲーマーの五十神妖さんは昨年度の大会で3位と言う成績を残しています。
今大会の優勝候補の1人と言っても過言では無いでしょう。
井島豊さんも初年度に行われた大会で決勝トーナメントまで進んでいますね。
ただ、今年は珍しくその様な経験者が殆どいないんですよ。
初進出された方が多いです』
事前に与えられている情報では『ロボット』とされている2体、九龍拓巳と日向剛は『初参加』扱いとなっていた。
『長尾さんから見て、この人は決勝まで進みそうだなと思うプレイヤーはいますか?』
『千葉県認定ZEROプレイヤーの柏糸涼介さんですかね。
自分が戦って負けたと言う点でもそう思います。
計算された緻密な立ち回りは一朝一夕にマスター出来るものでは無い。
対戦相手にとっては脅威になるでしょう』
『成程。確かに彼は闘戦興でも取り上げられていましたね。
関東は特に強いゲームプレイヤーが多いので、その激戦区で勝ち抜いている彼の実力は相当に高いんでしょう』
彼女達がそうやって話している間にも観客席は埋まっていき、やがて席が人で完全に埋め尽くされた。
『まもなく9時50分になります。
到着されたお客様は、開会式の最中に決して立ち上がらない様お願い致します。
トイレは開会式が始まる10時前に済ませておいてください』
開会式自体はそこまで長くは無いが、全員で開会式に参加すると言うルールは初年度の大会から決められていた。
『皆さん、お待たせ致しました!
只今より2005年度、第4回ZERO全国大会決勝トーナメントを開始いたします!
開会式の前に、まずはトーナメントに参加される16名の入場及び紹介を行う事にしましょう』
会場が暗くなり、中央のフィールドに向かう為の入口にスポットライトが当たると会場を盛り上げる為の音楽が流れ始めた。
『まずは全国大会予選北海道ブロックからこの2名。
青龍選手と玄武選手!』
入り口の左右から噴き出す白煙と共に姿を現した2体のロボットは、機械的な動きで歩みを進めた。
どちらも大きな体躯をしているが、玄武の方がさらに大きい。
その名の通り全身が青で塗装されている青龍と、全身黒で塗装されている玄武がフィールドの中央に立つ。
『今大会において一番のサプライズと言っても良いでしょう。
ZERO全国大会は犬や猫等の動物、ロボットの参加を認めていますが、実際に決勝トーナメントまで残ったのは初の出来事です!
綾小路財閥が開発したこの2体のロボットは、2on2でタッグを組み、対戦相手を次々に撃破。
そして今、決勝トーナメントの舞台に立っています!
果たして、格闘ゲームにおいて機械が人間を凌駕する事は出来るのでしょうか?』
我々が生きている現代社会においても、『ロボットVS人間』は永遠のテーマの1つとなっている。
チェスの世界チャンピオンに勝利した人工知能『ディープ・ブルー』。
クイズ番組で優勝した人工知能『ワトソン』。
ハンデ無しで将棋を行いプロに勝利した日本のコンピュータ『Ponanza』等、人間がコンピュータに負ける時代が到来した。
人間と違い膨大な知識を無限に溜めこむ事が出来、さらに『決して忘れない』と言う強みがロボットにはある。
だが知識はあっても人間の動きを正確にこなすロボット、つまり『動きで勝つロボット』は出てきていない。
『格闘ゲームを操作するロボットと言うのは前代未聞ですね』
『そうなんですよ。
長尾さんの言う通り、普通はまず出来ない事です。
昨年度の大会でもロボットが人間を越える事は出来ませんでした。
ですが今年は堂々の決勝トーナメント入り。
どういった戦い方をするのか、要注目です』
観客の歓声に対して拳を突き上げる2体のロボットを見ながら、染井は醜悪な笑みを浮かべていた。
「綾小路財閥の科学力がどれだけ優れているのか、皆様に御見せする事が出来るのは有難い事です」
「動きは少々ぎこちなく見えますが、見た目は人間そっくりですな。
もし優勝する様な事になれば、海外メディアも注目するでしょう」
天武日本の大臣達もロボットの出場に対して興味津々だった。
このロボットを軍事・看護・サービスに転用する事が出来れば役に立つと考えていたのだろう。
『続きまして、東北ブロックから2名。
綾小路桜華選手と、五十神妖選手の入場です!』
同じ入口から2人の女性が姿を現した。
1人は純白のドレスを身に纏い、大きな胸や腕には宝石が輝いている。
金髪は左右にまとめられ、まるで2つの毛糸玉が頭に付着しているかの様だった。
『皆さんも御存じの通り、綾小路桜華選手は綾小路財閥の総帥を務めている事実上のトップです。
今回、財閥のトップとしてZEROの世界でも頂点に立つと意気込みこの舞台に堂々勝ち上がってきました!』
もう1人は逆に黒いゴスロリ調の服でまとめられ、本人の髪の色も黒い。
頭の飾りは漆黒のバラ。
指輪の宝石等も黒で統一され、その2人の極端なまでの対比が互いの美しさを際立たせていた。
『五十神妖選手は昨年度の大会で3位と言う優秀な成績を残しているプレイヤーです!
今大会の予選では綾小路桜華選手と共にタッグを組み、こうして決勝トーナメントの舞台に戻ってきました!』
白と黒の対照的な美しさに、観客席から大きな歓声が聞こえてくる。
「何を考えておるのだ妖の奴め。
御嬢様と同じ位目立つ様な衣装を着るとはけしからん。
後でたっぷりお灸を据えてやらねばなるまい」
染井は観客に向かって手を振る妖を見ながら、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべてそう吐き捨てた。
綾小路桜華が五十神妖のいる控室を訪ねたのは、30分前の事であった。
「あ、御嬢様!」
「妖、この大会は貴方にとって大きな晴れ舞台。
1年前よりも重要な意味を持つ大会になるでしょう。
もっとオシャレに着飾るべきですわよ。
遠慮など要りませんわ」
微笑みながら語り掛けてくる桜華に対して、妖は首を横に振った。
「そういうワケにはいきません。
御嬢様よりも派手な格好をすると、染井様に叱られてしまいます」
染井の冷酷な顔を思い浮かべて暗い顔になる妖の顔を、桜華はしっかりと見据えた。
「妖。私は籠の中の鳥。
綾小路財閥を背負う者としての責務がありますわ。でも貴方は違う。
自由に羽ばたいていける翼がある。
それはとても素晴らしい事なんですわよ」
桜華もこの全国大会での優勝を夢見ていたが、その裏に財閥の思惑がある事を理解していた。
自分の意志で物事を決めた事等殆ど無い。
財閥の操り人形。彼女は己の立場に気付いていた。
「貴方は誰にも縛られていないのだから、貴方の思った通りに行動すればいいんですわよ。
大切なのは自分の心。
迷う事があったら、貴方自身の声に従うべきですわ」
幼い頃からずっと自分の側にいた妖に恩返しをしたいと、桜華はずっとそう考えていた。
「私の声……」
「妖がどうしたいのか。何を望んでいるのか。
一番大事なのはそれだけ……他人の意見を気にしている場合ではありませんわ。
私がやりたくてもやれない事をやってくださいまし。
自由の翼は妖や普通の人々に与えられた特権ですもの」
自分の道を自分で選ぶ事が出来なかった桜華だからこそ、妖には自分の道をしっかりと進んでもらいたかったのかもしれない。
桜華の言葉に勇気付けられた妖は、この日の為に用意していた衣装を身に纏って戦い抜く事を心に誓った。
桜華と妖の2人が筐体の置いてあるフィールドへと移動すると、再び入り口にスポットライトが当たる。
『全国予選関東ブロックを突破したのは氷室零選手と柏糸涼介選手です!』
柏糸涼介は緑色の髪と対比させる様な、黄色のTシャツを着て登場した。
水色のショートジーンズに青のスポーツシューズ。
銀縁のインテリ眼鏡。腕には濃緑のリストバンドを装着している。
氷室零は何時もと同じ様な格好だった。
純白のワイシャツに濃紺のジーンズ。
黄土色をした革のサンダルを履いており、浮世離れしている感じがより強まっていた。
『氷室零選手は決勝トーナメント初進出ですが、闘戦興の読者ならば彼を知らない者はいないでしょう。
今大会のベスト16でもある元千葉県認定ZEROゲーマー、南屋朋美さんとの熱い名勝負。
古都府で天邪鬼さんと繰り広げた激闘は私達の心を熱くさせてくれました。
新星として現れた彼は、果たして台風の目となるのでしょうか!』
2人共冷静さを保とうとしていたが、会場の凄まじい熱気が否が応にも彼等の心を熱くさせる。
観客に手を振る事も無く静かに表情を変えぬまま歩いていく零の姿からは、絶対に勝つと言う決意が伝わってきた。
『柏糸涼介選手は現千葉県認定ZEROゲーマーとして、数々の店舗大会での優勝実績を持つ実力派です!
冷静沈着な立ち回りには定評がありますが、この決勝トーナメントで勝ち進む事は出来るのでしょうか!』
両の拳を握り締め、確実に歩を進める零の脳裏には、昨晩の出来事がハッキリと浮かんでいた。
強豪揃いの全国予選を何とか突破し、遂に挑む事となった決勝トーナメント。
零の自室にやってきた瞳は、兄の勝利を心から願っていた。
「……来年も、再来年も、全国大会は開催されるだろう。
だが、僕が来年も再来年もベスト16に入れる保証は1つとして無い。
最初で最初のチャンスかもしれないこの機会を逃しはしないさ。
優勝を目指して突き進むよ」
妹の目を見据えてそう言った零の両手を、瞳はしっかりと握り締めた。
「私はゲームをプレイしている兄さんの事が嫌いだった。
音楽の世界から『逃げた』と思っていたから。
でも、それは違った。
兄さんは『ゲームの世界で戦う』事を決めたのね」
目にうっすらと涙を浮かべている瞳の顔を見ながら、零は静かに頷いた。
「瞳。優勝する可能性は決して高くは無い。
1回戦で敗れる可能性の方が遥かに高いんだ。
それでも僕は諦めずに戦う。
希望を捨てずに走り続けるよ」
瞳は零の身体を抱き締め、涙を零す。
「兄さん……」
それ以上、瞳は零にかける言葉が見当たらなかった。
ただ、兄の目の前で泣く事しか出来なかった。
「明日は僕の事を応援してくれ。
瞳の期待に応えられる様に全力を尽くす」
涙を流しながら頷く瞳の頭を、零は優しく撫でた。
(勝つ、必ず優勝する……!)
普段感情を露わにしない零が、全身から勝利を貪欲に求めるオーラを発し続けている。
涼介もその零の『本気』を敏感に感じ取っていた。
「僕だって、負けませんからね」
零にだけ聞こえる様に呟いたその言葉が、届いたかどうかは解らない。
涼介もただ愚直に優勝を目指す。
その気持ちは彼と何ら変わらなかった。
『全国予選中部代表は、火村あかり選手と、西園久緒選手です!』
入口から姿を現した2人の女性の姿に、会場の客がどよめいた。
火村あかりは普段とあまり変わらぬ服装をしていた。
紅蓮の髪と対比しているかの様な黒のシャツに濃紺のジーンズ。
手首には青い焔が描かれたリストバンドを装着している。
彼女の姿も目立つが久緒の服装はそれ以上に目立った。
『資料によりますと……
西園久緒選手の父親はオリンピックに出場し、金メダルを獲得した柔道家だそうです。
彼女の衣装もそれを意識したものなんでしょうが、気合が感じられますね』
ショートカットの黒髪、褐色の肌。
それとは真逆の白い柔道着。
腰には有段者である事を示す黒帯が巻かれている。
手には指先のみ露出した薄い黒手袋、足元は灰色の足袋と草鞋で統一されていた。
「目立とうとする人も多いけど、柔道着を着て大会に挑む人って初めてじゃない?」
「なぁに、実力が無いから目立つ衣装で逃げてるんだよ。
すぐにいなくなるって」
彼女に対して心無い言葉が放たれるが、久緒本人にはその声は届いていなかった。
もし聞こえていたとしても言葉を返す事は無かっただろう。
彼女は無心を貫いていた。
昨晩、久緒は中澤の自宅で一晩を過ごした。
雨宮比呂子、南屋朋美と言った同じNEWSZEROのメンバー。
彼女達がベスト16に残っている事も久緒は把握していたがそれでも負けるつもりは無かった。
「恵からメールが来た……『私の分まで、頑張ってくださいね~』か。
素っ気ないフリしてるけど、本当は心配性なんだよな」
「それだけ相手がお前の事を心配してくれてるって事だろ。
良い友達じゃねぇか。大事にしろよ」
2人共生まれたままの姿でベッドに横たわり、そっと口づけを交わす。
「俺も観客として応援に行く。柊と万場もチケットを何とか手に入れたらしい」
「そっか……」
久緒は自分より逞しい中澤の身体を抱き寄せると、相手の目を静かに見つめた。
「ココまで来たら、徹底的に足掻いてやる。
行ける所まで、行ってやるぜ」
中澤は何も言わず、愛おしい相手の身体をしっかりと抱き締めた。
あかりと共に歩く久緒の表情からは、迷いは一切感じられなかった。
『久緒選手はまだまだ荒削りな部分はありますが、予選の2on2では火村あかり選手に匹敵する程の強さを見せています。
火村あかり選手は井島豊選手の幼馴染で、黎明期の頃からZEROをプレイしている古参勢。
彼に手解きを受け、現在もその腕は確実に上がっている様です!』
火村あかりは井島豊に導かれ、火村あかりは西園久緒に強くなる為のヒントを与えた。
お互いに強さを追い求め、その過程において関わり合っていく。
格闘ゲームは『人間の成長』を見せる鏡でもあるのだろう。
火村あかりに負けじと頑張ってきた久緒が、彼女と共に同じ舞台で雌雄を決しようとしている。
「久緒ちゃん。お互いに良い所見せましょうね」
「師匠、当たる時があればその時は容赦なく潰すからな」
あかりに対して複雑な感情を抱く久緒の気持ちを、あかり自身は理解していた。
今でも久緒はあかりに羨望と嫉妬の眼差しを向けている。
恐らくそれはこれからもずっと続いていくものだ。
(私も貴方も究極の負けず嫌い……でも生き残れるのはどちらかだけ。
この大会で白黒ハッキリ付けましょう)
あかりにも久緒にも大切な人がいる。
背負っているものがある。
勝者と言う名の椅子を易々と譲るワケにはいかなかった。
『全国予選近畿ブロックからは、九龍玖留美選手と、双葉沙織選手が勝ち抜けを決めました!』
スポットライトを浴びながら歩みを進める2人の表情もまた真剣そのものだった。
玖留美の長い金髪は後ろで束ねられ、ポニーテールになっている。
黄色のシャツの下は水色のスカート。
青色のスニーカーを履いていた。
一方沙織は天武日本で流行っている魔法少女アニメの主人公、『魔法少女ヒラミレモン』の衣装を身に纏う。
元々長い金色の髪の毛にさらに付け毛を装着して腰近くまで伸ばし、頭の上には緑色の大きなリボン。
ドレス風の衣装も黄緑と緑で統一され、靴も濃緑と緑一色にまとめられていた。
「皆、ウチの事を応援してや!」
にっこり笑って叫ぶ沙織に対して、観客席の一角から黄色い声援が巻き起こる。
『双葉沙織選手は『格闘ゲームアイドル』として非常に有名ですね。
彼女が着ている衣装は今大会のスポンサーでもある『スタジオSISA』様からの贈り物だそうですよ』
『確かにあの衣装を着てこの場所に出ていけば、宣伝効果は抜群でしょうからね』
関西では絶大な人気を誇り、全国区進出を狙う双葉姉妹。
2人にとってこの大会は『己の存在』をアピールする最大のチャンスでもあった。
(つかみはバッチリや。
コレで優勝する事が出来れば、ウチらの人気は急上昇。
全国制覇、アイドル戦国時代のトップに立つ夢に大きく近付く。
絶対に負けられへん)
歪な身体と言う秘密を抱えながら、アイドル街道を突き進んでいく双葉沙織。
その野望よりは小さいものの、玖留美もまた悲壮な決意を胸に秘めていた。
『九龍玖留美選手は、東京都認定ZEROゲーマーである昨年度全国大会の優勝者、九龍拓巳さんの妹さんです。
卓越した技術を持つ兄の背中を追い続けてきた彼女は、兄と同じ場所に到達する事が出来るのでしょうか!』
玖留美の視線は、既に中央で微動だにしないロボット、青龍に向けられていた。
九龍玖留美と氷室瞳は、似た者同士だったのかもしれない。
幼い頃から何でもこなす天才であった兄の姿を見ながら、玖留美は劣等感に苛まれていた。
勉強もスポーツもゲームも、兄に勝った事は一度も無い。
それは兄の姿に憧れてZEROを始めた時も同様だった。
あれよあれよと階段を何段か飛ばして登っていく兄を、呆然としながら見ている事しか出来なかったのが悔しかった。
それでも兄は玖留美に優しく接してくれた。
常に彼女の事を一番に考えてくれる優秀な兄だった。
『玖留美、お前も強くなって同じフィールドに上がってこい。2人で優勝争いをしよう』
玖留美にZEROの手解きをしながら笑顔でそう言った時の兄の姿が今でも心に強く残っている。
兄を越える為には、兄を助けて自分の強さを示すしか無い。
己の全てを賭けて、久留美は兄を助けたいと思っていた。
(兄さん……必ず助けるから、待っててね)
玖留美は今まで送ってきた人生において、兄に何度も助けられてきた。
心が折れそうになった時、側にいて励ましてくれた兄。
九龍拓巳を必ず魔の手から救い出す。
優勝よりも大事な事が彼女には確かにあった。
『全国予選中国ブロックを突破したのは、南屋朋美選手と雨宮比呂子選手です!』
観客に向かって手を振る朋美には余裕が感じられたが、比呂子の方はガチガチに緊張していた。
朋美の服装は長い黒髪と同じ黒のシャツ、藍色のスカートに橙色の革靴。
両腕には金色のリングが付けられている。
比呂子はショートカットの髪を覆い隠すクリーム色のニット帽に青色のセーター、濃紺のジーンズに地味目のスニーカーと至って普通の恰好だった。
「ホラ、比呂子さん。
あそこに恵さんと栞がいますよ。手を振って応えてあげてください」
「そ、そんな余裕無いですよ。
朋美さんは本当に度胸がありますね」
比呂子は心臓の鼓動が鳴り止まなかった。
大勢の観客の前にいる事が彼女にプレッシャーを与える。
「落ち着いて。さぁ、行きましょう」
朋美は観客の目を気にする事無く、堂々と比呂子の手を握り締めると彼女を先導した。
『南屋朋美選手は元千葉県認定ZEROゲーマーです。
今回は通っている高校のクラスメイトである雨宮比呂子選手と協力して、この決勝の地に進んできました』
『私は雨宮比呂子と言う名前を聞いた事が無いんですが、ここまで来たと言う事はやはり強いんでしょうね』
何気ない長尾遼子の一言が、比呂子の胸を抉る。
(南屋さんに比べたら、私は実力で劣る。
でも、私だって……)
「気にする必要はありませんよ。
経歴や実績なんて、戦いの場において意味を成すものではありません。
大切なのは試合で勝つ事、それだけです。
私と比呂子さんは、全く同じ場所に立っているんですから」
胸に手を当てて唇を噛んでいた比呂子の気持ちを見透かし、朋美はそう言って比呂子を励ました。
「勿論、試合で当たれば敵同士。
負けても、恨まないでくださいね」
朋美は比呂子にとって憧れの存在だった。
スタイルでも、その立ち居振る舞いにおいても彼女にはかなわない。
それでも上へ。自分の限界を超えて羽ばたきたい。
比呂子の大いなる挑戦が始まろうとしていた。
『全国予選四国ブロックを突破したのは、海野亜津子選手と、天邪鬼選手です!』
会場の入口から姿を現した天邪鬼は、薄い青色を基調とした着物に身を包んでいた。
着物の胸から腰下の部分には散っていく桜の花びらが描かれ、紺色の帯が巻かれている。
零達が古都で出会った時と同じ様に顔には青色の隈取である『鬼女隈』が施され、さらに手には青鬼の面を持っていた。
長い黒髪は幽霊の如く腰の近くまで長く伸びており、得体の知れなさに拍車をかけている。
『天邪鬼選手は、RN(リングネーム)で参戦した正体不明のプレイヤーです!
しかしその強さは全国予選において充分示されました。
曲者揃いの四国ブロックで優勝したのは彼女が兵である証です。
決勝トーナメントに現れた青鬼は何処まで駆け上がっていくのでしょうか!』
海野亜津子も天邪鬼と同じ様に、水色のシャツに紺色のジーンズと寒色系の服装でまとめていた。
青色に染めた髪と褐色の肌が、彼女の溌剌さを体現している。
手首には青と白の縞模様をしたミサンガが巻かれていた。
『海野亜津子選手は香川県認定ZEROゲーマーとして前々からその名を知られていましたが、遂にこの決勝の舞台へやってきました!
四国予選準決勝、及び決勝進出と、過去2回涙を呑んだ彼女。
3度目の正直で悲願の優勝を果たす事が出来るのでしょうか!』
雨宮比呂子程では無かったが亜津子も大勢の観客の前にいる現実に対して、なかなか緊張をほぐす事が出来なかった。
「亜津子、大きく深呼吸を3回行いなさい。
息を整えて、リラックスするの」
天邪鬼が亜津子に耳元でそう囁き、亜津子は頷いた後大きく息を吸って吐く行為を繰り返す。
(私が前に『兎川真紀』で出た時も、私自身が亜津子みたいな感じだったわね。
懐かしいわ)
そんな事を考えながら、彼女の意識は少し前の過去へと遡っていった。
昨年の全国大会決勝トーナメントで彼女が見せてしまった失態……
2回戦敗退によりベスト8止まりが確定した瞬間、兎川真紀はへたり込み大勢の観客の前で号泣してしまった。
係員に連れられ退場したあの『悪夢』を振り払い、前に進む為に己の正体を隠してこの場所に戻ってきたのだ。
「約束するわ。
私はこのラストチャンスを掴んで、貴方を『ZERO全国大会優勝者の夫』にしてあげる」
「ああ、そうあってほしいよ。俺もお前が勝つ事を心から望んでいるからな」
昨日の夜、狩谷優にそう誓った己の言葉が何度も頭の中で繰り返される。
その重圧を今度こそ克服し、頂点に立ちたい。
ZEROプレイヤーとしてのラストイヤーだからこそ、彼女は勝ちたいと思っていた。
ようやく落ち着きを取り戻した亜津子の姿を見て、天邪鬼は歩き出した。
「行きましょう」
「はい、リーダー!」
2人共その表情に迷いは無い。
瞳に強い決意を宿し、勝ち残る為に全力を尽くす事を誓っていた。
『そして九州ブロックにて優勝し、この場所に来たのは井島豊選手と、土田守選手です!』
井島豊は金髪の髪と顎鬚、青と白の迷彩柄のシャツ、黒フレームでオレンジ色のレンズが入ったサングラスと何時もと同じ様な服装をしていた。
濃い灰色のジーンズに橙色のスニーカー。
両腕の手首には黄色に星が描かれたリストバンドが付いている。
土田守はエターナルナイトの従業員として働いている時と全く同じ服装をしていた。
黒に近い青色をしたジャケットにそれと同じ色のスラックス。
純白のワイシャツを中に着ており、胸元には真っ赤な蝶ネクタイを付けている。
燕尾服をモデルにした格調高い衣装であったが、両手にはめられた青色のグローブが凄まじい違和感を醸し出していた。
『土田選手がグローブを装着している理由は……
資料によりますと、プロボクサー志望だった事からそれを示す為に今回付けているのだそうです。
彼は現在、千葉県にあるゲームセンターの従業員をしているそうで、衣装はその制服の様ですね』
観客に向けてシャドーボクシングよろしく何度か鋭いパンチを披露し、片腕を上げて恰好を付ける姿は、初挑戦とは思えない程だった。
(流石百戦錬磨の土田さん。大舞台でも全然緊張してねぇな。
俺は2回目でも緊張するって言うのに……)
初年度の大会はZEROがそこまで浸透していなかった事もあり、観客の数も少なかった。
豊にとっても、ここまで規模が大きくなった大会の出場は初めての事。
自然と握り締めた拳にも力が入る。
『井島豊選手の事を知らないゲーマーはこの場所にいないでしょう。
言わずと知れた『闘戦興』編集部が誇るライターです。
若くして頭角を現した彼はZEROの表にも裏にも精通しており、知識量で言えば文句無しのナンバー1。
稼働当初からZEROに関わっていた経歴を活かし、夢の舞台の頂点を狙います!』
ZEROに触れた者ならば誰もが手に取る格闘ゲームマガジン。
その知名度の高い雑誌に携わる者として、簡単に負けてほしくは無い。
豊は編集部の人間から口を酸っぱくしてそう言われている為、1回戦敗退の様な無様な負け方だけはしないと心に誓っていた。
『土田守選手は今大会で初めて決勝トーナメントの舞台に足を踏み入れました。
井島豊選手とは仲の良い知り合いで、2on2でコンビを組むきっかけになったそうです。
今回の決勝トーナメントには『格闘家』が参戦していますが、ゲームでも栄冠を掴む事は出来るのでしょうか!』
土田の視線の先には、応援に来ていた蔵崎源三、笹森冬司、高瀬加奈の姿がある。
(オーナー、俺の挑戦を見ていてください。
必ずメダルとトロフィーをエターナルナイトに持って帰ります)
蔵崎の唇が動いているのがかろうじて解った。
土田に呼びかけていたのだろうが彼は蔵崎が何を言っているのかまでは解らない。
「頑張るんだよ!」
蔵崎は自分を支えてくれたスタッフである土田の事を心から応援している。
それは同じ職場で働く仲間、笹森も高瀬も同様だった。
「大分期待かけられちゃってるみたいですけど、大丈夫ですか?」
「それはお前も同じだろ。
いや、全国区で名前が知られてるんだ。俺よりかずっと上だな」
豊は心配そうに土田に呼びかけたが、杞憂だった。
彼は何時も以上に落ち着いている。
豊と土田が中央のフィールドに辿り着いた事で、決勝トーナメントに参加する16名が揃った。
『16名の猛者達が、ZEROドームのバトルフィールドに集結しました!
トーナメントは泣いても笑っても一発勝負の勝ち抜き戦!
この中の誰かが優勝の栄冠を掴む事になります!
長尾さん、プロとして彼等に期待する事はありますか?』
『そうですね。
ココに立つ16名全てがプロと言える程の腕前なのですから、最後の最後まで諦めずに戦い抜く姿勢を見せてほしいです。
それを見せる事が、観客席にいる次世代のプレイヤーを奮起させるきっかけになる事は間違いないでしょうから』
遼子はこの瞬間だけで無く、その先を見つめていた。
これからZEROも新しくなり、新規プレイヤーはさらに増えていく。
その流れを活発化させる為にも、16名が全力で戦わなければならないと言うのが彼女の考えだった。
『それでは、1回戦を始める前に、開会式を始める事に致しましょう。
最初に行うのは天武日本国総理大臣である織田信虎総理の開会宣言です。会場にいる皆様は御起立ください!』
観客が立った後、中央のフィールドから離れた所にある舞台に織田総理と主席秘書の丹羽が姿を現した。
舞台の端にはSPリーダーの有馬の姿も見える。
舞台の中央に立った総理は少々大袈裟に手を広げた。
『今から400年以上前、人々は戦いを繰り広げていた。
天武日本でも外国でも領土を巡る争いは続き、太平洋戦争まで戦いは続く事になる。
現在、我々は戦争の無い平和な生活を送っているが、それでも心の中に持っている熱い滾りがあるのだ』
織田総理の声はマイクを使用していたとは言え会場全体に響き渡る程大きかった。
『平和な世の中になっても、人々の心の中には『獣性』が残り続ける。
それは人間の心から決して消えない欲望の1つだと言えるだろう。
即ち、『相手を倒して自分が相手より上である事を証明したい』と言う欲望だ』
傍らに立つ丹羽律は、一言も発する事無く織田信虎の顔を見つめていた。
『その『獣的な欲望』を、従来の方法で満たす時代は終わりを告げた。
平和的解決によってその欲望を満たすべきなのだ。
欲望を満たすツールこそが格闘ゲームでありZEROである。
それ故にZEROは世界的なブームを巻き起こした。
疑似的ではあるが、自分が相手より優れている事を証明する事が出来る。
これ程素晴らしい事が他にあるだろうか!』
拳を強く握り締め、信虎はさらに語気を強める。
『その欲望を抱えた16名の若者が今年も集った。
殺し合う事無く、ゲームで優劣を競う為に集まった若者達だ。
ゲームこそが平和への道、そして我が国が繁栄に向かう為の道である。
我々はその道を進み続けよう。
頂点に向かって努力せよ!
それは今勝ち残っている者だけでは無い。
天武日本全ての国民に対して平等にチャンスがあるのだ。
今年も来年も再来年も、永劫に果てなき頂点を争う戦いは続いていく。
今年もその熱を大いに味わおうではないか!』
再び信虎が両手を広げ多くの観客に呼びかける。
彼等はその言葉に共感し多くの歓声があがった。
『2005年度ZERO全国大会、決勝トーナメントの開会を、ココに宣言する!』
万雷の拍手と歓声がZEROドーム全体を包み込む。
圧倒的な存在感とカリスマ性を持つ信虎の演説に人々は酔いしれた。
信虎を憎む竹中ですらもそのカリスマ性を認めざるを得ない。
人を惹きつける才能は努力だけでは手に入れられないものだった。
(織田政権はこの信虎の卓越したカリスマ性によって求心力を得ている。
逆を言えば、盤上から王将が消えると政権そのものが瓦解しかねないと言う事だ。
砂上の楼閣……現政権の実態だな)
優れた政治家は一流の演説が出来るとされている。
演説によって人の心を掴み、大衆を導いてきた政治家は過去に数多く存在した。
天武日本においては織田信虎が歴代総理の中では最高の統率力を持っており、民衆に支持されている。
竹中はその指導者を消す事で民衆を不安に陥れ、そこから新たなる指導者として姿を現すつもりであった。
(ふざけるな!平和な世の中に『なった』だと!?
我々は我々の平和を求めて戦っている最中なのだ。
貴様の言う通り、貴様を殺して紅虎明命こそが最も優れている事を証明してみせる)
紅虎明命のリーダーである尹(ユン)昌浩(チャンホ)は織田総理に憎悪の瞳を向けながら心の中でそう吐き捨てた。
彼は『紅虎(ホンフゥ)』の名を持ち、竹中醍醐と取引をしている。
織田信虎の暗殺計画を実行に移し、首謀者があくまで紅虎明命であると天武日本の国民に思い込ませる事。
竹中醍醐の隠れた手引きによって紅虎達は無事に織田総理を殺した後会場から脱出。
混乱する国民をまとめる新リーダーとして竹中が現れ、信国に有利な法案ばかりを作る。
例えば『ネット規制法案』。
外国との連絡手段を断ち、合衆国の介入が入る前に外堀を埋める為だ。
さらに『外国人参政権』を可決させ信国の人間が天武日本の政治家達を軒並み自分達の国の出身者にして内堀も埋める。
天武日本の国民が『何かがおかしいぞ』と思う前に『武力行使を行わない侵略』が完了。
信国が天武日本を属国にすると言うシナリオを描いていた。
竹中は勿論そうさせるつもり等毛頭無い。
暗殺が完遂した暁には口封じとして紅虎明命の者達を消すつもりでいた。
綾小路財閥もそれに乗るが、最終的な覇権は竹中と争う。
目的は同じでも3つの組織の野望はバラバラだった。
その後、観客達は総理と共に天武日本の国歌である『敦盛』を斉唱。
徳川維康のスピーチや、滝川光治らのスピーチが終わり、開会式は終了間際を迎えていた。
『開会式のラストを飾るのは、前大会優勝者の優勝トロフィー返還です!
……と言いたい所なのですが、前大会の優勝者である九龍拓巳さんが行方不明となっている為選手宣誓で締めたいと思います。
この大会の選手宣誓を行うプレイヤーは決勝トーナメント参加者に限られるのですが、宣誓するプレイヤーを決めるのは織田総理です!』
NEXTエリカの言葉に観客席の者達がざわついた。
九龍拓巳が行方不明となった事を報じるメディアが極端に少なく、今までその事実すらも知らなかったプレイヤーが多かった為だ。
勿論、綾小路財閥と竹中醍醐がメディアと警察関係者に圧力をかけたせいである。
「マジで?九龍さんが行方不明になってたの?」
「そんな、私サイン貰った事もあるのに……
何処に行っちゃったんだろう」
観客席のざわめきを、染井は冷ややかな瞳で見つめていた。
(どうせ、お前達はそいつの事などすぐに忘れるのだ。
もっと凄惨な事件がこの後に起こるのだからな。
織田信虎と紅虎明命を消し、指導者を失った革新党を崩壊させ、綾小路財閥が天武日本を牛耳る時代がやってくる)
染井と黒沢は『綾小路財閥の繁栄』の為に動いている。
その気持ちに何ら偽りは無い。
どんな汚い手を使ってでも財閥を頂点に導く。
それは綾小路財閥を率いる桜華を歪んだ感情で思いやっていたと言う部分も大きかった。
『選手宣誓を行うプレイヤーは、氷室零とする!』
織田総理がそう言った後、さらに会場はざわついた。
あまり活躍が知られていない氷室零に選手宣誓を行わせる事を訝しんだのだ。
「誰それ?とは言わないけど、適任なのは他にいるでしょ。
最もZEROとの関りが深い井島豊さんとか」
「スポンサーが綾小路財閥なんだから、桜華にさせとけば波風も立たなかったハズなのに」
織田総理が軽く咳払いをして、会場のざわめきを止めた。
『諸君の疑問を呈する気持ち、解らなくも無い。
だが氷室零こそが、選手宣誓を行うに最も相応しい人物であると私は考える。
何故ならば、名も知られていないプレイヤーが僅か数ヶ月でこの場所に辿り着く事そのものが、ZEROの理念であるからだ。
下剋上……あらゆる者達に可能性があると言うのがこの大会の最も素晴らしい所であり、醍醐味となっている。
彼はこの数ヶ月で次々に強敵を撃破し、遂にはこの決勝の舞台に来た。
彼こそがZEROを体現する人物であると言っても過言では無い』
織田総理の理路整然とした論拠に対して、会場は静まり返り、彼の声だけに耳を傾ける。
『ZEROと言う格闘ゲームの理念に最も近い青年である、氷室零。
君こそ選手宣誓を行うに相応しい!』
壇上にいる信虎から声をかけられた氷室零は、彼の隣に立つと、真剣な表情のまま片手を高く上げた。
『宣誓!僕達ZEROプレイヤーは、優勝を目指して正々堂々の勝負を行う事を誓います!
僕達は、全国予選の結果選ばれた精鋭達です。
この夢の舞台に立っている事それ自体が誇るべき事だと思っています。
だからこそこの舞台で不正を行わず、真っ向勝負で対戦者に挑んで勝つ事に拘る所存です!』
一切の淀みの無い、澄み切った声に対して、観客は疑念を払拭し、惜しみない拍手を送った。
勿論綾小路財閥からしてみれば面白くない話ではある。
桜華が選手宣誓を行えば優勝した時のインパクトが強まるからだ。
(この大会の目的は織田信虎総理の暗殺だけでは無い。
綾小路桜華御嬢様が天武日本のリーダーに相応しい事を証明する機会でもある。
颯爽とこの会場に現れ有象無象の愚民共を倒し、チャンピオンになれば国民の人気も上がると言うもの)
綾小路財閥と竹中官房長官にとっては、この大会が覇権争いの前哨戦と言えるのかもしれない。
何としても桜華を優勝させたい綾小路財閥陣営と、他の者に優勝してもらいたい竹中官房長官陣営。
この格闘ゲームの全国大会の裏で政治的な駆け引きが起こっている事を知る者は殆どいなかった。
『以上を持ちまして、開会式を終了致します。そして、皆さんお待たせ致しました!
お待ちかねの全国大会決勝トーナメント、1回戦の始まりです!』
気合の入ったDJの声に、会場は大きな歓声に包まれる。
『皆さんも御存じの通り、決勝トーナメントは勝ち抜きの1発勝負です!
この最初のくじ引きが、優勝の行方を大きく左右する事になります。
どの様な組み合わせになるか、目が離せませんね』
『ZEROのキャラクター同士の相性差はあまりありませんが、対戦相手との勝率に関する相性は確かに存在しますからね。
そういう相性の悪い相手と当たらないと言う『運』も優勝する為の大きな要素の1つになりえると思います』
長尾遼子も身を持ってその『相性の悪さ』を痛感したプレイヤーの1人であった。
腕前は互角だったハズの相手だったが零達の戦いに『やり難さ』を感じたのは事実。
優勝する為には『運』も味方に付けなければならない。
『壇上に用意された机の上に、その優勝の鍵となる『抽選ボックス』が用意されています。
1番から16番の数字が書かれたボールが中に全部で16個入っており、それがトーナメントでの自分の参加位置となるワケです』
トーナメント表の左から順番に番号が割り振られており、16番は右端と言う事になる。
最初の対戦相手も重要だが、2回戦で『誰と対戦する可能性があるのか』と言うのも重要だった。
『それでは、中央のフィールドにいる選手の皆さんは、壇上に上がってきてください。
先程紹介した順番で、ボックスの中に手を入れ、ボールを1個だけ掴み取ってもらいます。
プレイヤーの方々は、そのボールに書かれている番号をコールしてから対戦フィールドに戻ってください』
NEXTエリカが説明を行っている間に、挑戦者が次々に壇上へと上がっていく。
青龍と玄武は階段を上がる際に大分時間を使ったが、何とか上がる事が出来た。
「なかなか露骨な『機械アピール』ですね」
「まぁ、化けの皮は俺達が対戦で勝利する事で剥がれるさ。
勝ちに行こう、比呂ちゃん」
「はい!」
井島豊と共に階段を登っていた雨宮比呂子は、豊と同じ様に九龍拓巳や日向剛を救いたいと言う気持ちでいっぱいだった。
その為には、何としても勝たなければならない。
マッチングした場合の事を想定し、全員が青龍の動向に注目していた。
『16名の皆様が壇上に揃いました。誰と当たっても恨みっこ無しですよ。
それでは最初に、青龍選手からボールを取ってもらう事に致しましょう!』
青龍は腕を伸ばし、箱の中に手を入れた。
流石に透視能力があるワケでは無い為、ボールを選ぶ不正は行えない。
『今青龍選手がボールを取って、高々と掲げました。
数字は5番の様です。第3ブロックになりますね』
『青龍選手や玄武選手と、当たるのは避けたいですよね。
私個人としても彼等と当たってしまうのは不味いと思います』
その次に呼び出された玄武は第6ブロックである11番を引き、ロボット同士の対決とはならなかった。
(そう簡単にロボット同士が潰し合う展開にはならねぇよな……)
豊は唇を噛み、悔しさを滲ませた。
2on2で協力した者同士の対戦もあり得る抽選方法だけに、僅かな期待は持っていたがそこまで思い通りの展開にはならない。
続いてボールを取った綾小路桜華は第7ブロックの13番、五十神妖は第8ブロックである16番を引いた。
「あまり良い引きではありませんわね……
私と妖が勝てば、必然的に私と妖の対決になりますわ」
「御嬢様。その時は……」
五十神妖はあくまで綾小路桜華を優勝させると言う任務を果たす為にこの場所に立っている。
己の夢を優先する事は決して許されなかった。
「その時は、全力で来てくださいまし。
私が負けたとしても、染井や黒沢の事は私に任せれば良いんですわよ」
桜華自身は『不正』や『八百長』と言う言葉を嫌悪していた。
正々堂々実力で勝ち頂点まで行く事。それが彼女の悲願だったからだ。
周りの者達に運命を翻弄されながらも、己の考えは決して曲げない。
それは長年共に歩んできた妖相手でも変わらなかった。
「1番です」
透き通った声が会場内に響き渡る。
氷室零は『1』と書かれたボールを観客全員に見える様に掲げた。
その後柏糸涼介がボールを取り、14番である事をコールする。
涼介は最初の試合で綾小路桜華と対決する事になった。
「いきなり桜華とかぁ。
ココで涼介が勝ってくれれば俺達も楽になるんだけどな」
「零が負けた程の相手だから、そう簡単に勝敗が予想出来る試合じゃ無いわ。
勿論、涼介には頑張ってもらいたいけど」
待機していた豊とあかりは小声でそんな会話をしていた。
桜華が勝ち上がれば、自ずと対戦する可能性は高まる。
今大会で零と桜華は『初っ端から当たりたくない相手』とされていた。
「じゃ、行くからね」
「出来れば、俺とはマッチングするなよ」
あかりとしても、幼馴染である豊と当たる事は避けたかった。
だが、運任せであるボール選びでは、何が起こるか解らない。
西園久緒と共に壇上に上がったあかりは、箱の中に手を入れ、ボールを1個掴み上げた。
「7番です!」
その後、西園久緒が10番を引き、壇上から降りる。
対戦カードが決まる中、プレイヤー達の興奮も徐々に高まっていった。
『次は近畿代表の2人にボールを取ってもらいましょう!』
(出来ればすぐにでも桜華さんと勝負して、私の思いを伝えたかった)
九龍玖留美はそんな思いを抱きながら双葉沙織と共に壇上に上がった。
兄の失踪には間違いなく綾小路財閥が絡んでいる。
そして、桜華も……その一件を知る誰もが、それを信じて疑わない。
当たり前だ。トップだけが重要な事項を知らされていない等誰が思うだろう。
だが玖留美には一抹の疑念があった。
「15番です」
玖留美は五十神妖の顔を見つめ、その隣にいた綾小路桜華の顔に視線を移す。
(妖さんに勝てば、桜華さんと戦える。
絶対に負けられない)
桜華が本当に黒幕なのか。
それを確かめる為に、玖留美は彼女に勝つ事を誓った。
双葉沙織が8番、南屋朋美が2番、雨宮比呂子が6番……
徐々にトーナメントの全容が明らかになっていく。
(うわ、あかりはんとだけは当たりたく無かったわ。
ウチもそういう運は持ってへんなぁ)
自分を孤独と言う闇から救い上げてくれた恩人との対戦に肩を落とす者。
(青龍さんとの対戦……
とても私が勝てる相手じゃない)
絶望的な対戦カードに対して落胆する者等、様々な思惑が交錯していた。
「3番です」
天邪鬼がボールを掲げた後、箱の前に立った海野亜津子は不安と必死に戦っていた。
(残っているのは12番、9番、そして4番……!
4番だけは引くワケにはいかない)
2on2でのパートナーで、ギルドZEROにおける自分の『上司』である天邪鬼=兎川真紀との対戦は、海野にとって絶対に避けたい事であった。
恐る恐る箱の中に手を伸ばし、ボールを選ぶ。
3個のボール。確率は勿論3分の1。
(どれが4番なのか解るワケが無いけれど……
この端のにしよう)
ボールを取り出し、高く掲げる。
自分でコールする為に数字を確認した瞬間、海野は泣きそうな顔になった。
「4番です」
3分の1を見事に引き当ててしまった海野の肩を、天邪鬼は優しく叩いて励ます。
「これも運命でしょう。
こうなってしまった以上、お互いに死力を尽くして戦うしかありませんよ」
天邪鬼にとっても辛い現実だった。
ギルドZERO創設以前から仲良くしていた『友』である海野亜津子との対戦は重荷以外の何者でも無い。
それでも、決まった以上は勝利を目指して全力で勝負しなければならない事は、2人共よく理解していた。
『九州ブロック代表の2人がボールを取った時点で、トーナメント表の組み合わせが確定します!』
土田守が12番、井島豊が9番を引いた事でトーナメント表が完成した。
オーロラビジョンに表示されたトーナメント表の対戦カードは、実力者同士の見応えがあるものが多い。
観客達がああでもないこうでもないとベスト8の予想を行う中、NEXTエリカの声が会場内に響き渡った。
『トーナメントの内容が決まった所で、改めて1回戦の対戦カードを確認してみましょう。
まずは第1試合、氷室零選手と南屋朋美選手の対戦です!』
『注目されている氷室零選手ですが、元千葉県認定ZEROゲーマーである南屋朋美選手にも注目すべきでしょうね。
両選手はどちらも無理に攻めない技巧派ですから、静かでありながらも白熱した試合が見れるのではないかと思われます』
技巧派の1人である長尾遼子にとっても重要な意味を持つ試合である事は間違いなかった。
今年逃してしまったこの席を来年獲得する為に、研究しなければならない2人だと言えるからだ。
『第2試合は天邪鬼選手と海野亜津子選手。
四国代表同士の激突となりました』
『九龍さんが立ちあげた『ギルドZERO』の中心人物である2人の戦いですから、この試合も要注目ですね』
導く者とそれを補佐する者。
どちらが強いのかがこの決勝の舞台で明らかになる。
海野亜津子にとっては初の決勝トーナメント。
相手が真紀であろうとも、勝ちたい気持ちに変わりは無かった。
(亜津子との戦いも覚悟していたけれど、こんなに早く当たる事になるなんて……
でも優、私を見守っていて。
私が挑む最後の大会に相応しい戦いを見せるから)
天邪鬼は会場内で自分の事を見ているであろう狩谷優の事を思い、拳をぎゅっと握り締めた。
『第3試合は青龍選手と雨宮比呂子選手。
ロボットと人間の対戦カードになります』
『青龍選手の『機械としての限界』があるのか、『機械としての飛躍』があるのかが重要な鍵を握ると思いますね』
比呂子は暗い表情で青龍の方を見つめていたが、急に視界を両手で覆われ驚いた。
「せ、先輩!?」
「ハイハイ、もう負けたみたいな顔をしないの。
やってみなきゃ、試合の結果なんて解らないでしょ?
比呂ちゃんだってこの日の為に頑張ってきたんだから、自分自身を信じる事が出来なくてどうするのよ」
比呂子の背後にあかりが立っていた。
屈託の無い笑顔を見て比呂子は涙を流す。
彼女の心が折れそうになった時、何時も傍らにあかりがいて、助けてくれた。
自分の力になってくれて、相談にも乗ってくれる。
彼女は比呂子にとって大切な先輩だった。
「有難うございます先輩。
私、一生懸命頑張ります!」
「その意気よ比呂ちゃん。
準々決勝で会いましょう!」
手を取り合って健闘を誓い合う2人の姿に、一部の観客から拍手が起こる。
『火村あかり選手は、雨宮比呂子選手の先輩にあたる様ですね。
出身高校が同じですから』
『あー、あかりさんが3年生の時に比呂子さんが1年生だったんですね』
遼子にとっては、少しだけ羨ましいと思える光景だった。
財閥の長女として生まれてきた彼女に純粋な心で近付いてくる者等おらず、尊敬出来る『先輩』も現れなかったからだ。
互いに信じ合える間柄がとても素敵なものである事を彼女は感じていた。
『第4試合は火村あかり選手と双葉沙織選手の一戦です。
2人の出身地で言えば関東VS関西の構図になりますね』
『双葉沙織選手は関西では今最も伸びていると言われているZEROプレイヤーです。
アイドルゲーマーと言う肩書に惑わされると痛い目に遭うかもしれません』
(比呂子はんと同じ様に、ウチもあかりはんには特別な感情を抱いとる……
ココにいる人の中で、ウチとあかりはんだけが知っとる絆。
あかりはんを越えて、先に進むんや!)
双葉沙織が古都で火村あかりと出会い、仲良くなってからまだ数ヶ月しか経過していないと言うのに沙織にとってあかりは実の姉以上に尊敬出来る人間になっていた。
どんな相手であっても広い心で包み込み、傷を癒やす包容力。
仲間思いの姿勢は沙織自身も救われ、そして見習わなければならないと思っている部分だった。
「沙織ちゃん。思う所は色々あるかもしれないけど、もっと単純に考えるべきだと思うの。
どっちが強いか、決めましょう」
「あかりはん……」
沙織に向かってサムズアップを行うあかりの方を見ながら、沙織は少しだけ俯きながらもしっかりと頷いた。
『第5試合は井島豊選手と西園久緒選手の対決になります』
『豊さんの立ち回りは豪快で、それでいて隙が無い理想的なプレースタイルですからね。
そのスタイルで今大会は何処まで勝ち進むのか、興味が尽きません』
火村あかりと関わりを持ち、人生が変わった者同士の対決。
そして、愛の無い性行為を行った者同士の対決。
(あーあ。井島豊とはやりたくなかったんだよなぁ。
よりによってマッチングするとは思わなかったぜ)
久緒は井島豊に対して複雑な感情を抱いている。
中澤を愛している事に偽りは無いが、あの一件が自分の人生の分岐点となっていた為だ。
意地を張って勝つ事『だけ』に拘った結果、罰を受けた。
彼女が中澤と親密になったきっかけこそが豊との性交だった。
「久緒ちゃん。お手柔らかにね」
「アンタ相手に手加減なんかしたらすぐに負けちまうっつーの。
絶対勝ちに行くからな」
ばつの悪そうな表情を浮かべながら頭を掻く豊の顔を見ながら、久緒はこの一戦にどうしても因縁を感じずにはいられなかった。
(これは、昔の俺からの『決別』を象徴する試合になるかもしれねぇ……
豊に勝って、俺が成長した事を見せ付けてやる)
豊にもあかりにも、そして中澤にも、自分が強くなった事を示したかった。
それが彼女なりの『恩返し』の形なのかもしれない。
『第6試合は玄武選手と土田守選手の戦いになります。
こちらも人間VSロボットの図式ですね』
『土田守さんは雨宮比呂子さんと同様、皆が知っている様な戦績を持っていない為この大会で強さを示せるかに注目すべきでしょう』
黒づくめのロボットは土田守と比べると相当に大きい。
中身があの人物ならば納得ではあったが、相手に与える威圧感は相当のものだった。
「うっし!」
両手で頬を叩き気合を入れる土田。
精神論の極みではあるが彼は常に心の強さを大切にしている。
『俺ニ挑ム奴ハ、絶対ニ潰シテヤル』
玄武の目が赤色に光り、対戦相手である土田を睨んでいる様に見えた。
(ココでこのポンコツ野郎に勝つ事が出来れば、俺以外の奴等も喜んでくれる。
オーナーに良い所を見せる時だ)
グローブを外した土田は『格闘ゲームプレイヤー』として、玄武と真っ向勝負を行う事を誓った。
『第7試合は綾小路桜華選手と柏糸涼介選手の戦いです』
『今大会最大のスポンサーである綾小路財閥の総帥と、ZERO屈指の技巧派である柏糸涼介さんの対決は見物ですね。
私自身も涼介さんに負けていますが、彼のプレースタイルをどう桜華さんが崩していくのかがポイントになると思います』
柏糸涼介にとって、長尾遼子が今大会の解説を務めていると言う事実は非常に大きなものになっている。
全国予選で会った時に感じた、あの高揚感……
彼にしてみれば、生まれて初めて『一目惚れ』と言うものがあるのだと言う事を認識した瞬間だった。
彼女の事を思うと、胸が熱くなり顔が赤くなる。
彼女に認められる様なプレイヤーになりたい。
そして、長尾遼子を振り向かせてみたい。
涼介はそんな気持ちを持って綾小路桜華に挑もうとしていた。
「私とそこまで変わらない年齢ですわね。
同年代としても、絶対に負けるワケにはいきませんわ」
一方桜華は、財閥の期待と言う荷物を背負わされながらも、優勝したいと言う気持ちでは誰にも負けないつもりだった。
ただ純粋に表彰台に立ちトロフィーを受け取り、皆に祝福されたかった。
孤独だった彼女は皆から褒められたかったのだ。
(比呂子、出来れば決勝は貴方と戦いたいですわ。
待っていますわよ)
妹分である美香でも、側役である妖でも無い。
桜華が最も心を許していた『友』は、雨宮比呂子だった。
『そして1回戦の最後の試合となる第8試合は、九龍玖留美選手と五十神妖選手の戦いです!』
『九龍拓巳さんの妹である玖留美さんと、前大会で3位となった五十神妖さんとの対決ですね。
実力がハッキリしているのが妖さんですけど、玖留美さんがどれだけ互角に戦えるかがポイントになると思います』
玖留美は妖の方を見て、敵意を露わにする。
(彼女は綾小路財閥の人間……
ギルドZEROから多くの技術を盗んで裏切った。
兄さんの事も知っているハズ。
こんな悪人に屈するワケにはいかない!)
涙を滲ませながら睨み付けられた妖は、自分の立場をよく理解していた。
(貴方に恨まれる事は解っていましたよ。
ギルドZEROを裏切り、貴方のお兄さんが攫われるきっかけを作ったのが私ですから。
その様子だと、青龍と玄武の中に誰が入っているのかも理解している様ですね。
でも、私も負けられないんです)
妖は財閥の革命計画に加担している人間だった。
桜華と違い、計画の全てを把握している。
財閥に逆らう事が出来ない彼女としては、全てを受け止め勝ちに行く事しか出来なかった。
「御嬢様が待っているんです。
道を開けてもらいますよ」
妖の紅蓮の瞳が不気味に光る。
玖留美も桜華と対戦する為に、道を開けるつもりは全く無い。
「お断りします」
因縁と言う意味では、最も見応えがある対戦カードなのかもしれない。
妖はそう思っていた。
『現在時刻は午前10時30分です。
それでは早速、1回戦第1試合を始める事にしましょう!
中央のバトルフィールドでは筐体2台の設置が完了しました。
プレイヤーの皆さんには予選で使用したキャラクターと同じキャラクターを使用して頂き、通常のバトルを行ってもらいます。
勝った方が2回戦に進出決定です。
プレイ中の不正は一切禁止なので、注意してくださいね。
さぁ、氷室零選手と南屋朋美選手が今、バトルフィールド内に入りました!』
会場の中心に設置された円形の舞台。
その舞台の中央に2台の筐体が置かれている。
その筐体の横に零と朋美が立ち、手を後ろに回して観客の前に立った。
「頑張れよ、零!」
「朋美、負けるんじゃねえぞ!」
他のプレイヤーや観客から応援されていたが、会場内が五月蠅かった為最早2人の耳には言葉として認識する事が出来なかった。
例え聞こえていたとしても、それに応じる余裕は無かっただろう。
2人は静かに目を閉じて、己を奮い立たせていた。
(絶対に優勝してみせる)
仲間の為、妹の為、己の為……
今まで自分を支えてくれた全ての者達の為に。
(この大舞台で、私の方が貴方を越えたと言う事を証明してみせます)
NEWSZEROを躍進させる為、己の為……
決勝の舞台に立つ事も出来なかった栞や、恵の為に。
2人はそれぞれ負けられない理由を持っていた。
それでも、勝つ事が出来るのは1人である。
『両選手、フェアプレーの精神で戦う事を誓うその証明として、握手してください!』
2人は互いに向き合い、しっかりと握手を交わした。
その瞳に、己が勝つと言う信念を宿らせ、譲れぬ戦いに勝つと言う意思を相手に示す。
『それでは筐体の方へ移動し、キャラクターを選択してください』
まさに今、大いなる戦いが幕を開けようとしていた。