それを文章だけで表現すると言うのは難しいものです。
自分もまだまだ未熟なので到底全部上手くやれているとは言えませんが、
精一杯書いた結果です。もっと精進していきたいと思います。
決勝トーナメント第1回戦第3試合。
格闘ゲームの鬼と化したコンピュータと人間の融合体である青龍と雨宮比呂子が戦う事になる。
『青龍と雨宮比呂子の両選手は、中央のバトルフィールドにお集まりください!』
NEXTエリカの声に応じ、比呂子は大きく深呼吸をした後歩を進めた。
(あかり先輩でも全く歯が立たなかった『怪物』が相手。
でも投げ出さない。私は諦めちゃいけないんだ)
負けを認める事は何時でも出来る。
彼女を支えてくれた多くの人々の期待に応える為にも、最後まで全力を尽くす。
比呂子はそう胸に誓っていた。
『フン。退屈ナ試合ニナリソウダ』
青と銀色で塗装された見た目は、相手を畏怖させるのに充分な程の威圧感を放っている。
比呂子もそこまで極端に背が低いワケでも無いのだが、それでもかなりの身長差があった。
『それでは、互いの健闘を誓う為に握手をしてください』
血の通っていない金属製の冷たい手が比呂子の手に触れる。
青龍の冷血さが現れている様に感じ、比呂子は思わず身震いをした。
『2人が筐体の前に座り、キャラクターを選択します。
青龍選手はフガミ・ヤシオ。
雨宮比呂子選手はアメジスト・アクアスフィアを選びました』
『近距離格闘主体のキャラクターと、遠距離飛び道具主体のキャラクターの対決ですね。
こういう勝負は、キャラクターの『良さ』の押し付け合いになりがちです。
キャラクターの良さを出し切る事が出来た者が、勝利を掴む事になるでしょう』
遼子は互いの良さを出し合う戦いを嫌と言う程見て研究し、また経験もしてきた。
そういう試合では初手を取れるか否かと言う部分が非常に大きい。
(ファーストアタックを何としても取らないと……)
比呂子もまた、その重要性を理解していた。
遠距離特化型のアメジストは相手を寄せ付けずに戦わなければならない。
逃げる事が出来るかどうか。
彼女は試合開始直後の心理戦にも勝たなければならなかった。
『舞台は『スカイロン市街地』に決まりました。
会場の皆さんもこの勝負の行方が気になっています。
始まりました。青龍選手、様子見なのか少し後ろに下がります。
アメジストのカウンターを警戒しているのでしょうか。
ココでアメジストが雨雲の設置罠を作りながら鉄砲水で牽制。
雨宮選手としてはなかなか良い滑り出しです』
青龍もいきなり突撃する様な真似はしなかった。
牽制技をかいくぐって仕留めようとするが、勿論比呂子はそれをさせない立ち回りを行う。
「良いぞ比呂ちゃん!
逃げてその状態を継続するんだ!』
「徹底した立ち回りが出来れば勝てるわよ、勝てない相手じゃ無いわ!」
比呂子にとって大切な2人、井島豊と火村あかりの声援が聞こえ、比呂子はさらにやる気を出す。
(臆していたら勝てない。行くしかない!)
『俺ニ勝テルトデモ思ッテイルノカ?
舐メラレタモノダ』
青龍はアメジストに近付く為の最短かつダメージを受けない移動手段を一瞬で導き出した。
勿論秒単位で戦況が移り変わる格闘ゲームの世界において100%の正解は存在しないが、それでも高確率で成功する事には変わりが無い。
『ダッシュで圧力をかけつつ跳躍も使ってアメジストに近付いていきます。
ココで蹴りが入った。
アメジストが右端にいた為壁を使ったコンボが入ります。
起き攻めは継続。衝撃波すら出させない非情な立ち回りが光りますね』
『これは……凄いですね』
遼子だけで無く、会場にいた観客の殆どが言葉を失っていた。
衝撃波をガードするタイミング、ガードからのカウンター、コンボの精度。
全てにおいて隙が見当たらず、一方的な攻めが続く。
『虐殺』と言っても良い程の力の差に会場全体が静まり返った。
『起き攻めがさらに継続。ガードに対して投げ。
相手の動きを完全に見切っています。
まるで予知能力でも備えているかの様です。
そしてアメジストがダウン。
相手はパーフェクトで次のラウンドへ向かいます』
端で攻撃が当たれば最後、倒れるまで容赦なく襲われ続ける。
拮抗した勝負を見てきた観客の口から溜息が漏れた。
「……比呂ちゃんが戦意を喪失しそうになってるな」
「比呂ちゃん!駄目よ、諦めちゃ駄目!」
他のキャラクターにも言える事だが、起き攻めを受けている時やダメージを受けている時には設置罠を置く事が出来ない。
つまり一方的に追い込まれると反撃の機会を失ってしまうのだ。
(……うぅ)
歯を食いしばる比呂子の瞳には、涙が滲んでいた。
『決勝トーナメントの試合において、1ラウンド目で完封勝利。
この様な事態は過去の大会ではありませんでした。
比呂子選手の実力の問題では無く、青龍選手の読みがあまりにも的確である為この結果に繋がったのではないかと思われます』
『1つ1つの局面で常に選択を迫られるゲームなのに、一切外さないと言うのは驚きました。
ロボットが人間を超える日が、近付いてきているのかもしれませんね』
青龍には様々な機能が搭載されているが、中でも『心理状態』を把握出来る事が大きい。
相手の心拍数・脈拍・サーモグラフによる温度変化、見えない指の動きすらも青龍の目から見えている部分で推測してしまう。
『俺ハ無敵ダ』
青龍にしてみれば相手を丸裸にしている様なもの。
特に精神面ではまだまだ未熟な比呂子ではとても太刀打ち出来ない。
第2ラウンド開始直後、再び距離を取ろうとするアメジストに対してダメージを受けてでも近付こうとする。
『ココはライフの差を利用して、無理やりに勝負を決めに来ましたね。
喰らうと怯んで動けなくなる様なダメージは極力避けています。
喰らい方が上手いと言うんでしょうか』
『喰らい逃げならぬ喰らい接近なんて、初めて見ました』
比呂子の心は完全には折れていなかった。
勝利を信じて、出来る事は全て行う。
『しかし設置罠がヒット。
ココで相手を遠ざける事に全力を尽くします比呂子選手。
青龍選手はすぐさま態勢を立て直し接近。
ジャンプで端に追い詰められるリスクを避けました』
跳躍は狙われる危険性もあるが、端で情け容赦の無い起き攻めを喰らうよりはマシだと判断した比呂子。
何とか着地硬直の際に攻撃される悪夢は回避し、鉄砲水で相手を追い払おうとする。
『蝿ノ様ニ飛ビ回リヤガッテ』
青龍は尚も相手に近付こうとする。
ただ近付くだけでは攻撃を受けてしまう為、ブラフも混ぜつつ安全地帯を探っていった。
『青龍選手、先程のダメージ以外は殆ど無傷のままです。
信じられません。
この遠距離からの猛攻を凌ぎきっています。
その刃が、遂に比呂子選手を捉えました!
パンチをガード。衝撃波を跳躍しながらガードで回避。
下蹴り、相手が倒れ、起き上がる瞬間に超必殺技を重ねてきました。
凄まじい動体視力です。
しかしダメージが無い為削れたのはゲージの3分の1程。
まだ相手のライフは残っています!』
第2ラウンドの時点で残りHPは4分の1程。
一度ダウンしている比呂子は既に崖っぷちに立たされている。
バックステップで何とか相手の一撃を回避し、跳躍で逃げようとした。
『甘イ!』
その跳躍に合わせる形でヤシオも飛び、ワンテンポ遅らせる事で相手の背後を完全に取る。
跳躍中も設置罠を作る事は出来るが、逃げている時に背後に接近されていた為その位置に罠を設置する事が出来ない。
(相手は移動している!
先読みで設置→発動が前提の設置罠が意味を成さない……)
相手の着地に合わせて攻撃を行った青龍が、最初のゲージを3分の1減らしただけの状態でこの試合を制した。
会場中が、まるで葬式会場の様に静まり返っていた。
多くの観客が言葉を失い、呆然としたままオーロラビジョンを見つめている。
『俺ニ勝テル人間ナドコノ世ニ存在シナイ。
俺ニハ最先端ノ人工知能ガ搭載サレテイルノダ』
結果に満足した青龍が立ち上がり両手を高々と上げる。
このロボットから放たれる何かの力に対して、多くの観客が恐怖心を感じた。
『……身震いする程の試合内容でした。
この大会においてロボットの参加は認められています。
故にこういった結果を目の前に突き付けられたとしても、私達は受け入れるべきなのです』
『見ていただけなのに、冷や汗が出てきました。
対峙していた雨宮選手は、さらに強い圧力を感じていたのでしょう』
NEXTエリカも思い出したかの様に言葉を絞り出し、そう締めくくる。
比呂子の方は魂を失ったかの様な瞳から涙を流し、真っ青な顔をしていた。
敗北した事実だけでは無く、試合中感じていた『得体の知れない恐怖』に飲み込まれていたのだ。
『全ク、弱過ギルナ。
俺ノ相手ガ務マル様ナ奴ハイナイノカ?』
そう吐き捨てる青龍の姿を、染井は邪悪な笑顔を浮かべながら見つめていた。
(状態は良好だ。
その調子で御嬢様の前に立ち塞がる蠅どもを踏み潰していけ。
決勝戦は恐らく青龍と御嬢様の戦いになるだろう。
そこで青龍に何らかの理由を付けて負けさせ、これ程強い青龍を倒した御嬢様と言う結末を生み出せば良い)
計画は順調に進んでいた。
綾小路財閥がリードする為には、桜華の優勝が必要となる。
竹中としては、この優勝を食い止め他の者に優勝してもらう必要があった。
(決勝で財閥はさらなる布石を打ってくるだろう。
これ以上、黒沢君達の好きにはさせない)
両者の思惑がぶつかり合う中、豊に支えられた比呂子は、そのまま退場していった。
「比呂ちゃん、大丈夫?」
観客席に戻る事も出来ずに床にへたり込んだ比呂子の涙を、豊はハンカチで拭った。
「……最初から、何かおかしいなって思ってたんです。
私の攻撃が全部防がれて、相手の攻撃が全部当たってしまうレベルだったので。
でもそれだけじゃ無かった。怖かったんです。
相手から人間らしさが全く感じられなかった。
無表情だったハズのロボットの顔が笑っている様に見えて……
戦っている間ずっと、生きた心地がしませんでしたよ」
「中身が機械じゃないのは私達だけしか知らない事だけれど、人間らしさが消えているのは恐ろしいわね」
「対策を考えないと、成す術無く全員負けちまう。
比呂ちゃんの敗北を無駄には出来ねぇよ」
井島豊と火村あかり。
2人の『人間の熱を持つ大切な仲間』の側にいる事を実感した比呂子はようやく安心し、あかりに抱き付くと嗚咽を漏らした。
「ごめんなさい……」
「謝る事なんて何も無いわ。
比呂ちゃんは全力を尽くして戦ったんだし。
決勝トーナメントに進んだだけでも凄い事なのよ?」
あかりは比呂子の頭を優しく撫で、ぎゅっと抱き締める。
豊は比呂子の分まで勝つ事を心の中で強く誓った。
『新世代の台頭が目立つ決勝トーナメント第1回戦。
4試合目も新世代同士の戦いになりそうです。
火村あかり選手対双葉沙織選手!
さぁ、両選手がバトルフィールドに足を踏み入れました!』
あかりは南屋朋美に比呂子を観客席まで連れて行ってもらう様に頼んだ後、戦いの舞台に来ていた。
「比呂子はんは大丈夫なん?
顔が青くなっとったけど」
「朋美ちゃん達に任せるわ。
とにかく今は、勝負に集中しましょう」
あかりも比呂子の体調が心配ではあったが、試合の順番が回ってきた以上行かなければならない。
(ウチの恩人で、今や姉やんと同じ位大切な人とベスト8への切符をかけて戦わなアカンのやな)
沙織の脳裏に、様々な思いがよぎった。
初めて古都で出会ってからまだ数ヶ月しか経過していないにも関わらず、あかりは彼女にとって親友以上の存在となっている。
火村あかりに勝つ事で、『恩返し』がしたかった。
自分がこれ程成長出来たのだと言う証が欲しかったのだ。
「じゃ、やりましょうか」
「手加減無しやで」
しっかりと握手を交わした後、2人は椅子に腰かけそれぞれのキャラクターを選ぶ。
『近接格闘キャラクター同士の戦いですね。
サイファは一応炎を飛ばす遠距離攻撃を持ってはいますが、効果的なダメージを与える為には近付かなければなりません』
『バウンティも素早い動きが特徴的な近接キャラですからね。
スピードに秀でたバウンティが場を引っ掻き回すのか、それともサイファが腰を据えて場を掌握するのか。
注目の一戦でしょう』
近接格闘キャラ同士の戦いはZEROでは頻繁に行われていた。
遼子も場慣れはしていたが、殴り合いで勝ち続けるのは難しい。
大会での一発勝負ともなれば番狂わせも充分あり得る。
(ウチの方が実力的には格下……
決勝トーナメントに進出した事のある豊はんのもとで力を付けてきた人や。
でも、姉やんと一緒にウチ等かて成長してきた。
ギルドZERO組の底力を見せんとな)
沙織を応援しているのはギルドZEROのメンバー達だった。
特に仲間意識が強く歳もそこまで離れていない亜津子は声援を送り続けている。
「沙織さん、リーダーに続いてください!
西の実力、見せていきましょう!」
天武日本は京都を中心とする『旧勢力』と、首都東京を中心とする『新勢力』とのライバル関係が今も多少残っている。
この戦いはそんな『東西決戦』のカードでもあった。
『背景は『ヴァルー 湿地帯居住区』ですね。
さぁ、バトルが始まりました!
まずはあかり選手、バックステップで距離を取りながら牽制。
炎を飛ばして削りを狙います。
勿論沙織選手も怯まずに喰らい付いていく。
バウンティが跳躍。壁際で両者が対峙しました。
キッチリガードを固めますが永久に耐えられるワケでは無いのがガードです。
隙を突いてサイファの小足がヒット。
ヒットから確実に決めていきます。ココでミス。
バウンティが距離を取って今度はサイファが追いかける展開。
しかし深追いはせずに回避が難しい距離から炎を飛ばして再度牽制。
強豪プレイヤー同士、戦い方を熟知してますね』
あかりは良くも悪くもセオリー通りの堅い戦い方を徹底していた。
だが動き方まで平凡と言うワケでは無く、硬軟織り交ぜた立ち回りで沙織を焦らせている。
(何とか、追いついていかんと……)
積極的に攻める沙織であったが、その勢いが殺されている事は嫌でも解っていた。
『お互いに攻め所を欠く膠着状態が続きます。
サイファが炎が当たってのを見てから飛び込んでくる。
バウンティの迎撃を絶妙なタイミングで回避。
相手の動きを予測したうえでの見事な立ち回りですね。
しかしギリギリの所でバウンティのガードが間に合う。
猛攻に対して衝撃波で対応。
今度はそこからバウンティが攻める。
両者の攻撃が相討ち。再び膠着状態に陥りました』
激しい殴り合いが発生しないのは、両者の技術が高いからに他ならない。
お互いの力量を把握しているからこそ、無理に攻める事が出来ず深追いもし難い状況が続く。
「実力は拮抗していますが、あかりさんが一歩リードしているのは事実です。
打開策を見出さない限り、沙織さんは勝てないでしょう」
(沙織さん……)
朋美と共に試合の行方を見守っていた比呂子は、どちらか一方に肩入れする事も出来ずただ試合を見つめている事しか出来なかった。
この試合の勝者が『青龍』と戦う事になる。
2人のうちのどちらがあの怪物に対抗する事が出来るのか。
比呂子には最早それを予想する事さえ出来ない。
現在の状況は彼女の予想の範疇を既に超越していた。
『30秒が経過。両者共に焦れてきているのが解ります。
決定的な一打が欲しい。
サイファもバウンティもダメージを喰らわない方針を貫いているので勝負に行き難いのでしょうか。
現在サイファが少しずつ相手を左端に追い込んでいる状況。
バウンティは裏を取りに行く。
サイファがめくってジャンプ蹴りからコンボが入りました。
対戦相手をよく見てますね』
背後を取る互いの攻防を制したのはサイファだった。
目まぐるしく変化する位置関係を把握し、攻撃に繋げていく。
一方バウンティは起き攻めをバックステップで回避して反撃。
だがなかなか連続攻撃に移行する事が出来ない。
「あれだけ逃げられちゃうと、ちょっと厳しいね」
「最後の精度で実力の違いが出るな。
沙織ちゃんも弱くは無いんだけど相手が悪いか……」
零も豊もあかりを育ててきた者として、彼女の強さを把握していた。
格闘ゲームは己との勝負。
敵との駆け引きだけで無く、コンボを継続する為の『正確さ』が要求される。
沙織は確かに強いプレイヤーだが、あかりの方が一枚も二枚も上手(うわて)だった。
『HPの差がなかなか縮まらない。
かといって無理に攻めにも行けない。
葛藤したまま第1ラウンドが終了。
最初のラウンドはあかり選手が取りました。
沙織選手としては何とかこのラウンドを取って最終ラウンドに望みを繋げたい所でしょう』
『そこまで実力に大きな差は無いですからね。
ココで取ればもつれる可能性も高いでしょう。
あかり選手もそういう状況には持ち込みたくは無いハズです。
寧ろ積極性を増す可能性もあるかと』
HPに差が無い状況での勝利だった為、2ラウンドでも充分逆転が可能な範囲ではあった。
しかしそこで堅い立ち回りを貫かなければHPを持っていかれると考えたあかりは消極的な動きを見せる。
『牽制を交えながら攻める機会を伺うサイファ。
しかし無理に動こうとはしていませんね。
バウンティがこの局面こそチャンスと踏んだのか攻めに行く。
攻撃をガードで耐えきりサイファは逃亡。
追いかけて空中戦。空中でもガードが光る。
そのまま画面端へ。バウンティの投げが通りました』
沙織もこのまま終わるつもりは全く無かった。
あかりが最終戦に目を向けている事は解っていたが、それならば即座に倒して万全の状態のままラストバトルを迎えたい。
しかし詰めの甘さが露見しまたも最後までコンボを繋ぐ事が出来ない。
反撃された瞬間、沙織の口から思わず溜息が漏れた。
「集中してはいますが、やはりまだ差が出ますね。
今までかなり甘えた勝ち方をしてきたのかもしれません」
「コンボの精度もそうですけど、あかり先輩の戦い方は守りが盤石って言う印象ですね」
沙織の集中力が切れた瞬間を見逃さず、バウンティの動きが緩んだ所を見計らって超必殺技を入れる。
炎を纏った拳の連続技が全てヒットし、バウンティのHPが半分以上消し飛んだ。
『致命傷には至りませんでしたが、かなり苦しい戦いを強いられているのは明らかです。
沙織選手としては何とかサイファを倒して最終ラウンドに突入するしかありません。
バウンティが反撃覚悟の攻めを敢行。
サイファは気の緩みなのかあっさりとこの攻撃を通してしまう。
今度は……おっと、コンボをきっちり決めています。
起き攻めもほぼ完璧。
相手の衝撃波をガードで耐えてもう一度引っ掻きからコンボへ。
ピヨった所で超必殺技。
沙織選手、この苦境において粘りを見せました。
第2ラウンドを何とか勝ち取って最終ラウンドに向かいます!』
両者共カードを温存せず目の前の勝利を掴む為に使い切った。
この消耗戦を制する為には純粋な力が求められる。
「あかり先輩も、油断しちゃいましたね」
「2人共、相手の気の緩みに反応している。
身内読みとでも言えばいいのでしょうか。
ずっと緊張感を保ち続ける事は難しいですからね。
この最終戦でも緩んだ所を如何に叩くかがポイントになるかもしれません」
沙織はHPが3分の1程度残っており、逆転する為には無理にでも攻めに行くしか無い。
この逆転の勢いに呑まれれば敗北もあり得ると言う事を、あかりも重々承知していた。
(沙織ちゃんがギアを上げてきた。
私は兜の紐を締めて、余計なダメージを喰らわない様にしないと勝てない)
相手が沙織だからこそ、あかりは負けたくなかった。
まだまだ自分が実力的には上である事を示したかったのだ。
そして沙織の方は格下だろうと何だろうとこの一戦で勝ち、奇跡を起こし続けたいと願っていた。
(優勝するのが難しいのはウチかて解っとる。
ええんや、自分らしく戦って勝てば。
それを何度も繰り返せば優勝出来るんやろ?)
先程の試合とは違い、観客席からの声援も熱を増している。
あかりにも沙織にもその大声援が届いていた。
『もう両者共に切るカードはありません。
全て使い切ったうえでの最終戦。今まで以上に両者の動きが堅くなっています』
『負けられない気持ちがそうさせますよね。
強い相手とやっていると言う自覚もありますし』
サイファもバウンティも攻め手を欠き、試合は再び膠着した。
『最終戦の60秒も既に20秒が経過。
牽制の遠距離攻撃でバウンティにチクチクとダメージが入っていますが、まだ逆転は可能な体力差。
何時形勢が引っくり返ってもおかしくありません。
ココでサイファがバウンティに近付く。
めくりを狙ったジャンプ蹴りをしっかりガード。
沙織選手の集中力が上がってきているのか。
無駄にダメージを喰らわない為の立ち回り、徹底出来てますね』
絶体絶命の状況下において沙織は覚醒していた。
絶対に負けたくないと言う強い思いが、全体的な視野を広げ相手の攻撃に対応する力となっている。
「沙織さんの方が、あかりさんを追い詰めてきてるね~」
「リーダーの言う緊張感を保つ力……
沙織さんの方にあるんでしょうか」
恵も栞も、この勝負を真剣に見つめていた。
どちらが勝っても不思議では無い。
『残り30秒。
どちらも相手の攻撃を受けてはいませんが試合が動きません。
このままタイムオーバーになればHPで上回っているあかり選手の勝利となってしまう為、沙織選手は何としても攻撃を当てなければならない状況です!
バウンティ、まだ焦れずに機会を伺うか。
サイファの牽制をかいくぐるのに精一杯で前に進めない様にも見えます。
壁際に追い詰められそうになりましたが何とか裏を取るバウンティ。
絶妙のタイミングで衝撃波を放ちサイファが窮地を脱しました』
あかりも沙織以上に勝ちたい気持ちを強く持っている。
位置が入れ替わったのを目で見た次の瞬間には衝撃波を出していた。
互いに全く攻撃が通らず、緊迫した局面が続く。
あかりも沙織もただ目の前の画面だけに全神経を注いでいた。
『残り20秒。
沙織選手、何としても攻撃を当てたい。
ジャンプ攻撃を匂わせつつどんどん距離を詰めていくバウンティ。
サイファの横に辿り着きました。
壁際、ジャンプ蹴りを交えた怒涛の攻め。
耐える耐える。サイファが正確無比な防御で凌いでいます。
まだ攻めが続きます。ガードがもたないか。
バウンティの投げをバックステップで回避。
飛んで逃げる。地上ダッシュで再び逃げます。
逃げ切る事を選択した様です!』
攻めるリスクを回避し、相手の攻撃を回避し続けるあかり。
その技術の高さはまさに全国レベルと言い切れる程見事なものだった。
攻めるチャンスを活かしきれない沙織は玉砕覚悟の攻勢に転じる。
『残り5秒!
ダッシュで追いかけるバウンティに対して回し蹴りでのカウンター。
吹き飛ばされ画面端に移動してしまった為最早追いかける事が出来ないか。
試合終了!火村あかり選手の勝利です!』
会場にいた多くの観客が一斉に立ち上がり、勝者であるあかりに惜しみない拍手を送った。
あかりは大きく伸びをすると椅子から立ち、その拍手に応えるかの様に頭を下げる。
沙織は敗北を受け入れ笑顔を見せたが、その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
『いや、本当に凄い!
あの状況下での粘り勝ち。見事な試合でしたね』
『あかり選手の精神力の高さには驚かされますね。
あそこで焦れて勝負に行くのもまた1つの判断なんですけど、敢えてそれを捨てて勝利の為に逃げ切った。
卑怯では無く寧ろそれを完遂する事自体が困難なので、皆彼女の勝利に納得しているんでしょうね』
自分がHPで勝っていると言う驕りを持たず、勝つ為だけに行動したあかり。
沙織の方が逆に『逃げ腰になっている相手だから何とかなる』と戦況を見誤り、相手の実力を過小評価してしまった。
それは理性的にそう思ったと言うより無意識にそう感じてしまっていた程度の事だったが、その意識の差が試合に大きな影響を及ぼしたと言えるだろう。
「完敗やね……」
泣き出したい衝動を必死に抑え、沙織はあかりに対して手を差し出す。
「沙織ちゃんの攻めを何とか凌げたのは運もあったと思うの。
無茶な突撃をする事無く効果的な攻撃をし続けた。
私もまだまだ発展途上。皆と一緒に強くなっていけるハズ……
出来ればまた来年も、2人でこの場所に来れたらいいわね!」
あかりもそれに応じてしっかりと握手を交わした。
敗者である沙織の健闘を称える拍手も聞こえてくる。
NEXTエリカも長尾遼子も、立ち上がると拍手を送り2人の戦いを褒め称えた。
「沙織が……負けたんか」
頭では理解出来ていても、双葉香織の心はなかなかその事実を認める事が出来なかった。
「沙織さん、あかりさん相手に頑張ったと思いますよ。
少しでも歯車の噛み合いが違っていたら、勝っていたのは沙織さんの方だったのかもしれません」
亜津子はお世辞では無く、真剣にそう言い切った。
古都の親善試合で2人の強さの差を理解していた亜津子であったが、沙織はあっと言う間にあかりに追いついた。
その成長速度は彼女にとっても脅威であり、そこにいたプレイヤーの殆どが彼女と戦えば苦戦は免れないだろうと思っていた。
「次は久緒ちゃんだね~。
相手が豊さんだから、沙織ちゃんと同じで相当苦戦すると思うけど……」
「紅白戦の時は明らかに豊さんの方が格上だったのですから、久緒さんとしては相手を何としても倒すと言う信念が必要になってくるでしょう」
火村あかりに負けた双葉沙織に負けたのが、西園久緒である。
紅白戦から約半年の月日が過ぎているが、彼女がZEROプレイヤーとしてどれだけ成長したのかが試合の行方を大きく左右する事になりそうだった。
「姉やん……ごめん」
観客席にやってきた沙織は香織に頭を下げ、俯いたまま席につく。
「沙織さん、立派でしたよ」
亜津子は沙織を励ましたが、沙織はその言葉に応えず黙ったまま唇を噛み締めていた。
「相手の逃げを許すなんて最低の負け方や。
血の繋がった双子の姉として恥ずかしいわ」
香織は沙織を睨み付けながら棘のある言葉を口にする。
「そんな言い方……!」
「せやけど」
抗議しようとした栞を制し、香織は沙織に対して言葉を続けた。
「どんなにキツイ負けを経験しようとも、這い上がってきたのが沙織やないか。
また2人で這い上がればそれでええ。
来年も再来年もチャンスはある。気張っていこうや」
微笑みながら涙を流し、沙織の肩を叩く香織。
沙織は溢れる涙を止める事が出来なかった。
「ふッ……ぐぅぅ……うあああ……」
最早言葉にもならない嗚咽を漏らす沙織の姿を、NEWSZEROのメンバーは静かに見つめていた。