成長してくれました。ZEROと言う作品を象徴していると思います。
格闘ゲームをもっと身近なものへ。
現実の格闘ゲームが下火になってしまっているからこそ、
こういった熱気の復活を願ってやみません。
『準々決勝第3試合は、井島豊選手と、玄武選手の戦いになります。
綾小路財閥が送り込んだ『人型ロボット』は、少々のトラブルがありながらも全戦全勝。
破竹の勢いで2体とも決勝トーナメントの舞台に立ちました。
対する井島豊選手は闘戦興の編集員として有名ですが、過去には決勝トーナメントに進出した事のある実力者。
格闘ゲームのプレイヤーとしても一流です。
計算で勝る機械に対して、どの様な戦い方で挑むのか注目が集まりますね』
NEXTエリカの声に、観衆の大声援が重なる。
会場にいる多くのZEROプレイヤーが、井島豊の方を応援していた。
常に誌面でプレイヤーにアドバイスを送り、励まし続けた存在。
闘戦興を読んでいる多くのプレイヤーが、今一線で活躍しようと頑張っている世代である。
彼がそうして多くの者を奮い立たせた理由。
それは、幼い頃の思い出が大きく影響していた。
中央のバトルフィールドに歩を進める井島豊の脳裏には、様々な思いが浮かぶ。
幼い頃に経験した両親の離婚、それにより発生したいじめ。
自分では何も出来なかった弱い自分を助けてくれた幼馴染。
お互いに励まし合って成長してきた。
学業も、仕事も、プライベートも。
そんな彼だからこそ編集員としてコラムを任された時、『弱者の味方』になりたいと思った。
『今、格闘ゲームを扱う雑誌はプロ目線で書かれたものが殆どです。
コマンドやコンボを理解しているのが当たり前、その次に行こうか。
そんな内容ばかりじゃないですか。
それでは競技人口は増えないんです。
少人数で盛り上がっている地下アイドルのファン層と何も変わらないでしょう。
ZEROと言うゲームは素晴らしいポテンシャルを持っています。
格闘ゲームを触った事が無い人に触ってもらう。
そういう記事作りが必要なんです』
上層部を説得させ、『素人の目線』に立ちつつも『プロとしての励まし』を送る。
そんなコラムがスタートした。
孤独だった過去の記憶がそのアイディアを生み、始めてみれば大好評。
井島豊のコラムは闘戦興の名物となり、今では無くてはならない程の人気コーナーとなっている。
(編集部での俺の立場は上がり、実績を積み上げれば編集長になる可能性もあるとか言われてる。
でも、俺はそうやってのし上がっていく為にコラムを書いてるワケじゃない。
皆の笑顔を見たいから書き続けているんだ)
挫折して、誰にも相談出来ずに泣いている事しか出来なかった幼少期の自分。
そんな自分を救ってくれたあかりの様に、豊自身も困っている人を助ける光になりたい。
その思いが多くの人の心を動かし、賛同する者達を増やした。
尊敬されるのは少々照れ臭かったが、それも有難い事だと思えている。
「精一杯頑張りますんで、宜しくお願いしますね!」
観客に手を振りながら歩く豊。
子供の頃の自分が今の自分を見たらきっと驚く事だろう。
豊はそう思った。
筐体の近くで微動だにしない玄武に手を差し出すと、ゆっくりと腕が動き相手が握手に応じる。
「悪いな。勝たせてもらうぜ」
『随分ト強気ジャネェカ。
テメエモスグニ思イ知ルダロウ。俺ニハ勝テネェ。
無様ナ屍ヲ晒ス事ニナルダケダトナ』
情を感じる事が出来ない金属製の冷たい手で握られたが、豊は全く動じなかった。
(ココで引き下がるワケにはいかねぇんだ!)
筐体の前に座り、何時も通りにゲーム画面を見つめる。
ぶれない、何時もの自分を保ち続ける力が求められていた。
『シラノもGU-DONも動きの鈍さと言う欠点と、相手に与える一発あたりのダメージ量が多いと言う長所を持っているキャラクターです。
シラノはリーチの長さとスピードで、GU-DONは誘導式ミサイルと言う飛び道具や火力で勝っている為どうやって良い部分を発揮していくかに注目すべきですね』
『どんなキャラクターにも『穴』はあると思うので、豊さんはそこを的確に突いてくるのではないかと思っています』
キャラクターを選択し、画面が暗転。
準々決勝の幕が上がった。
『背景は『廃工場内部』ですね。
アイスノーのステージ背景に映っていたあの廃工場の中での戦いが始まります。
ラウンド開始と同時に両者が勢い良く突進。
ダッシュ攻撃を仕掛けましたがシラノが勝ちました。
速度と仕掛けるタイミングの問題なので、豊選手が勝ったのは運の部分も大きいでしょう』
幸先の良いスタートを切ったシラノは、巨体のGU-DON相手のみ可能になるコンボを完遂しダメージを与える。
動きの鈍いキャラクターにはダメージが入りにくいと言う特徴がある為、3分の1程しか体力を減らす事が出来なかった。
『起き攻めの跳躍に対してGU-DON側が衝撃波。
今度は突撃せず、誘導式ミサイルを撃ちながらゆっくりと前進していきます。
このミサイルは必ず相手に向かって飛んでいくので、相手の動きを大幅に制限する事が出来るのが利点と言った所でしょうか』
『大きさもあって軌道もハッキリ見えるので、ガードもし易いですけどね』
豊としては、一定間隔で飛んでくるミサイルの攻撃をガードしつつ、相手の懐に潜り込む技術が必要になってくる。
ミサイルは1回に1発しか撃てず、撃ってから時間が経過しないと再度発射する事は出来ない為万能の飛び道具では無い。
『相手に近付けば近付く程ミサイルの飛距離は短くなりますが、相手に詰め寄られるリスクも高くなります。
GU-DONはジリジリと間合いを詰め、シラノはそれに対して飛び込むタイミングを伺っていると言った所でしょうか』
牽制の応酬。
1つのミスが大きなダメージに直結する格闘ゲームにおいて、牽制は自分のペースに持っていく為にも必要な行為だ。
先制攻撃を喰らってしまった玄武は、早くも負荷をかけて勝負を早々に決めようとしていた。
「玄武の方も青龍と同じく、メンテナンスは怠っていないだろうな」
『はい。100%の負荷に耐えられる時間も向上致しました。
万全の体制を整えております』
染井は1回戦で見せた玄武の醜態が気になり、電話で研究員に確認を取っていた。
玄武は染井の杞憂をよそに、飛び込む隙を作らせる事無く画面端に相手を追い詰めている。
『GU-DONが完全に場を制圧しています。
豊選手としては飛び込むか衝撃波で逃げるか、判断を迫られる局面ですね。
……おっと、下段攻撃で相手を崩して反撃。
今のはなかなか思い切った判断でした』
『焦らないですね。
どうすれば相手に効果的なダメージを与えられるか解っているって感じがします』
あれ程盤石な勝ち方をしてきたGU-DONが一方的に負けている。
勿論豊の立ち回り方が優れていると言う事実もあるのだが、玄武の『中身』が影響をおよぼしていた。
玄武の電子頭脳が強制シャットダウンを行った後、機械部分のメンテナンスは行われた。
だが、日向剛自身には何の手も加えられていない。
彼の意識は目覚め、覚醒しつつあった。
『あれは……豊さんじゃないのか?
俺は何でこんな所で戦っているんだ』
『黙レ。オ前ハタダ勝ツ事ニノミ集中シテイレバ良イノダ。
私ハ何時デモオ前ノ記憶ヲ破壊スル事ガ出来ルノダゾ』
電子頭脳が脅迫と痛みを与える事によって日向を服従させようとしている。
だが、一度目覚めてしまった彼を止めるのは青龍の中身である九龍拓巳より難しい。
『コウナレバ、奴ヲ制御スル為ニ負荷ヲカケ続ケルシカアルマイ』
相手の頭脳を支配している電子頭脳は、日向の記憶を破壊する様な勢いで負荷を上げ続けた。
『一度は豊選手がリードを取った展開となりましたが、残り20秒となった時点で玄武選手が逆転。
とは言ったもののその差は僅かです。
まだ1ラウンド目の勝敗は解りません!』
黒煙を頭から出しながら、玄武は豊を追い詰めていた。
ミサイルの直撃によるガードに合わせた飛び込みで相手を翻弄。
起き攻めが通り3分の2以上のダメージを与えている。
今もシラノが防戦一方の立ち回りを強いられていたが、相手も同程度のダメージは受けている。
(急に厳しくなったな。
だが、やられっぱなしで逃げてばかりもいられねぇ。勝負に出ねぇと)
前がかりになって攻めて来るGU-DONに対して、シラノは居直り気味の攻撃を仕掛けた。
『この攻撃は全く同じタイミングでぶつかった為相討ち。
HPの差は埋まりません。
即座に起き上がり攻めの手を緩めない玄武選手。
ですが跳躍の飛び込みからシラノが投げを決めましたね。
相手をガードで耐えようとする判断を見抜いた一手です』
だが判断を誤り、コンボの途中で攻撃が途切れた。
GU-DONのカウンターを受けてしまい、シラノは倒れてしまう。
(負荷100%!コイツハ手強イ。
コノ際私ガ準決勝デ敗レテモ構ワン。コイツノ準決勝行キハ絶対ニ阻止スル)
玄武の電子頭脳は『綾小路財閥』に従う様にプログラムされている。
一番大事なミッションは桜華を優勝させる事だと教わっている為、玉砕覚悟で勝ちを拾おうとしていた。
『GU-DONのHPは残り僅か。
この差を死守して差を広げる事が出来るのか。
それともシラノが最小限のダメージで乗り切るのか。
大事な局面、第2ラウンドが始まりました!』
歓声を上げる観衆に囲まれながら、豊は相手の強さが変化している事に気付いていた。
(明らかに相手の腕が上がった。
黒煙が出てるのもその影響なのか?)
第2ラウンドを取られてから、シラノはGU-DONに全くダメージを与えられず、後手に回っていた。
『俺ハ、最強ダ!』
明らかに様子がおかしい玄武の見た目とは裏腹に、GU-DONはミスする事無く場を制圧しつつある。
『ミサイルと剣振り回しによる攻撃と共に、緩慢な動作ではありますが確実にシラノとの距離を縮めています。
豊選手もチャンスを作りたいんでしょうが、なかなかチャンスを作らせてもらえません』
『下手に飛び込むとミサイルの直撃を喰らってしまいますからね。
シラノも相手に与えるダメージ量は多いので、何とかココで相手をダウンさせたいんでしょう』
画面端に追い詰められたシラノ。
同じ手は通用しないと踏み今度は跳躍で端からの脱出を試みたが、それを見抜かれめくり攻撃に失敗。
端から逆側へ吹き飛ばされた。
起き上がり直後にミサイルが当たり、どんどん差が広がりつつある。
「不味いな。
このまま最終ラウンドに持ち込まれたら豊が不利だ。
何とか突破口を見つけ出さないと」
零が危惧する通り、最終ラウンドでHPがフルになったGU-DONと、HPを相当量失ったシラノでは相当不利な状況へ追い込まれる。
『再びシラノに近付いていくGU-DON。
しかしココで敢えて豊選手、突撃を敢行します。
相手の近くで止まり、敵の攻撃をガードした直後に超必殺技を発動。
賭けに近い選択でしたが通りました』
『衝撃波で無効にされる可能性もありましたからね。
ですがもったいない使い方をしてしまった気がします。
ラウンドこそ取りましたが豊選手のHPは3分の1程減ってしまいましたからね。
相手も切り札を温存する形になりましたし……』
豊はこれ以上相手に差を広げられるのは危険と判断し、超必殺技を使ってでも相手をダウンさせる作戦に出た。
(負荷100%ヲ継続。
ドンナ手ヲ使ッテデモコイツダケハ潰シテオカナケレバ)
一方、居直り気味の攻撃を避けられない玄武はもうもうと上がる黒煙の中で、中身を壊す覚悟で戦っていた。
日向は中で抵抗を続けていたが、徐々に意識が遠のき呂律が回らなくなっていく。
(ア……ガ……俺……の、頭が……痛い。割れる様に痛い……)
ギリギリの状況の中で始まった最終ラウンドも、終始玄武がシラノより上回る展開が続いていた。
『最終ラウンドが始まりました。
先程と両者の動きは殆ど変わっていません。
何とか弱者の一刺しをしようとするシラノと、強者の振る舞いを見せ続けるGU-DON。
実に対照的な戦い方ですね。
ミサイルで相手の動きを奪い、ハンマーで打ち上げコンボが入ります。
シラノのHPはもう半分以上減ってしまいました』
超必殺技で一気に決着を付けに来る。
豊は黒煙で頭が見えなくなっている玄武を見ながらそれを確信した。
(明らかに奴は勝負の決着を急いでいる。
超必殺技で倒せる残りHPになった瞬間に襲い掛かるつもりだ)
GU-DONの超必殺技は相手が真横にいなければ発動出来ない。
衝撃波で豊はGU-DONを遠ざけ、距離を取った。
(フン。勝負ヲ捨テテ私ノ白旗ニ賭ケルツモリカ。ソウハサセン)
電子頭脳は息巻いていたが、勝負に熱中するあまり実際に操作をしている『中身』の状態に気を回していなかった。
無謀な距離の詰め方で試合を終わらせようとする。
シラノはその一瞬に勝機を見出し飛び込んでいった。
『馬鹿ガ!』
それを見抜いていた玄武は、そのタイミングに合わせてミサイルを放ち、近距離で命中させる。
『おっと、起き上がりに合わせて超必殺技を当てるつもりでしょうか?
シラノもそれをさせまいと……』
『ウガァァァァァァッ!!』
それはまさに突然の出来事だった。
突然玄武が椅子に座ったまま後ろ向きに倒れたのだ。
バッタリと倒れ微動だにしない。
黒煙がもうもうと上がり身体からは火花が出ている。
『ど、どうしたのでしょうか?
玄武選手が倒れてしまいました。
これ以上の試合続行は不可能と判断し、井島豊選手の勝ち上がりと致します!』
「くそッ!あと少しの所で壊れてしまうとは……
研究員を用意して運べ!すぐに持って帰るんだ」
「待ちたまえ」
染井の発言に対して、織田信虎は横槍を入れた。
「先程から見ていたが、あのロボットの挙動は何かがおかしい。
私はこの場で解体して、中を検査すべきだと思うのだが」
「それはなりませんぞ」
信虎の発言に対して黒沢が立ち上がり、連絡を入れようとした彼を制する。
「玄武と青龍の内部情報は秘中の秘です。
技術力の全てを注ぎ込んで作り上げた傑作ですからな。
内部情報をお教えするワケにはいきませんよ。
例え、天武日本の総理大臣が提案したとしてもです」
「総理の発言に非があると仰るのですか」
主席秘書である丹羽が腹を立てたが、信虎は彼女を諌めた。
「いや、確かにその通りだ。
ココは引き下がろう」
「総理!」
食い下がろうとする丹羽の姿を見て、黒沢は邪悪な笑みを浮かべる。
「検閲の様な事をされてはたまりませんなぁ。
天武日本の総理大臣ともあろう御方が。
特許出願中の『製品』なのですぞ?
勝手に解体を行った場合損害賠償も視野に入れねばなりますまい」
歯を食いしばって悔しがる彼女を座らせ、織田総理は厳しい表情のまま運ばれていく玄武を見つめていた。
「今のは、完全に奴のペースだったな。
超必殺技が当たるかどうかと言う瀬戸際だった……」
豊は『勝ちを拾った』形となった。
玄武が故障しなければ敗北していた可能性が高い。
だがそもそも豊がここまで追い詰められる形になったのも、玄武が常に無理をしていたからに他ならなかった。
(チッ!玄武は対して役に立たなかったか。
早急に中身を廃人にしなければ。
いや、もう既に廃人になっているかもしれんがな。
スパークまで起こして倒れたのだ。無事に済むとは思えん)
染井は心の中で唾を吐いた。
彼にとって綾小路財閥に関わる人間以外は全て捨て駒であり、使い捨ての人形としか考えていない。
「玄武は負荷に耐えられなかったと言う事でしょう。
青龍が二の舞にならない様に、メンテナンスを行うべきだと私は考えますが」
染井に進言を行う黒沢。
普段は対等な立場で話す彼も、大勢の前では『格下』の様に振舞っていた。
「これ以上財閥の科学力を侮られる様になっては困りますからな。
研究員に伝えておきましょう」
染井は再び携帯を取り出し、電話をかける。
彼等は最悪の事態が起きぬ様、万全の態勢を整えておかなければならなかった。
『波乱こそ起こりましたが、準々決勝第3試合は井島豊選手の勝利となりました!
続いて、第4試合で戦う2人をお呼びする事にしましょう。
綾小路桜華選手と、九龍玖留美選手の御二人はどうぞ中央のバトルフィールドまでお越しください!』
静かに、だがしっかりとした足取りで歩を進める玖留美の姿からは、迷いを感じる事は無かった。
幼い頃から何でもそつなくこなす天才肌の兄の姿に心を奪われ、常に頼りにしてきた玖留美。
だが心の何処かで兄を尊敬する一方で、兄の実力の影に隠れて霞んでいる自分を認めてほしいと言う渇望があったのかもしれない。
だからこそZEROに己の存在価値を見出した氷室瞳の様に、格闘ゲームプレイヤーとして努力を重ねた。
勉強でも、体力でも、かなわない。
でも1つでも良いから勝てるものが欲しい。
そう思い、彼女は愚直に鍛錬を積んできた。
兄を助けたいと願ったあの日から休む事無く続いた練習。
(私の力で財閥の暴走を止めるにはこの一戦に勝って、綾小路桜華を止めるしか無い)
真っ直ぐな目で見据えたその視線の先に倒すべき相手がいる。
派手な髪型と豪華なドレス、煌びやかな装飾品の中に、『純真』を携える少女の姿。
だが、真実がどんなに綺麗なものだったとしても玖留美にはその姿は歪んだものとして映っていた。
「貴方が『どんな手を使ってでも勝ちたい』と思う、その気持ちは解らなくもありません。
でも私は貴方と同じかそれ以上に勝ちたい気持ちを持っています。
この一戦は譲れませんよ」
玖留美は感情を抑える事が出来なかったが、言葉を選ぶ余裕だけは失っていなかった。
桜華もその言葉を好意的に解釈し、言葉を返す。
「私も貴方も、今日の為にあらゆる手を尽くしてきたのでしょう。
勝つ為に多くの者を手本とし、自分1人では到達出来ない高みを目指してきましたわ。
優勝賞金に興味があるワケでは無いんですわよ。
私はあくまで、自分が最も強いプレイヤーである事を証明する為に来たのですもの」
その発言には、揺るぎない自信と負けられないと言う意志が感じられた。
『それでは、互いの健闘を誓い合い握手を行ってください!』
無防備に差し出された美しい手には、数多くの時間をかけて作られた努力の形跡が刻まれている。
ほんの一瞬だけその手を握る事に対して躊躇した玖留美だったが、意を決してその手を握り締めた。
「宜しくお願いします」
「フフ……こちらこそ。
良い試合になる事を心から願っていますわ」
桜華は余裕そうに振舞っていたが、心からそう思っているとは言い難い。
寧ろ相手に心の動揺を悟らせまいと演技している様に見える。
玖留美は今までの経緯からどうしても彼女を色眼鏡で見てしまっていた。
負けるハズが無いと言う驕りや傲慢さだと思ってしまう。
(策を巡らせた所で、彼女本人が勝たなければ意味が無い。
ココで私が勝って、兄さんを助けてみせる!)
この試合で桜華が負けた場合、青龍に財閥の期待がかかる事になる。
彼女に勝っても拓巳が助かるかどうかは怪しい所ではあるが、少なくとも勢いを削ぐ結果になるのは間違い無い。
『両者、筐体の前に座ってキャラクターを選んでください』
NEXTエリカの言葉に従い、2人は席に着く。
この勝負も大会の展開に大きな影響をおよぼす事になりそうだった。
『石盤を召還して戦うサラギクルミと、貫通ビームと閃光設置罠を使って戦うユファール。
遠距離での攻防が予想されるテクニカルなキャラクター同士の対戦です』
『先程の試合を見ていても両者が攻め時と耐え時を理解していますから、簡単には決着が付かないのではないでしょうか』
飛ぶ石盤も守る石盤も、貫通ビームの一撃で破壊される。
閃光設置罠は地面に置くタイプの為、石盤を無効化出来る。
不利な状況である事は明白だったが、それを理解したうえでの立ち回りが玖留美には求められていた。
『背景は『ゴッドヤード 天空神殿前』ですね。
ヴァルーの神殿は古代遺跡に似ていますが、この神殿はギリシャ神話がモチーフとなっています。
始まりました。
まずはお互いに石盤や光の矢で牽制。
石盤の上から跳躍してクルミがユファールに攻撃を仕掛けます。
ココはユファールが防御で対応。
ユファールが反撃を試みますが、バックステップで一旦回避。
教科書通りの、適切な対応でクルミが先にダメージを与えました。
桜華選手も必死の防御で致命傷は免れています』
相手の真横に位置取り、相手が攻撃を空振りしたのを見てから突っ込む。
格闘ゲームにおける基本的な立ち回りだ。
逆を言えば、その基本をどんな局面でもこなす事が出来れば脅威となる。
玖留美は追撃が失敗した事を受けて後退した。
(九龍玖留美……かなりやりますわね。
昨年の優勝者の妹と言う肩書は確かに本物ですわ)
桜華も無理な攻めに転じず、ゆっくりと場を制圧し間合いを狭めていく。
『閃光設置罠を使い、ユファールがクルミに近付いていきます。
自分のいる場所の手前側に設置しつつ間合いを狭める事で、先程の様な飛び込みを防いでいるのが素晴らしいですね。
光の矢で相手のガードを崩そうとしましたが、今度はクルミが自キャラの手前側に石盤を召還。
相殺された瞬間に再び上から攻撃を仕掛けます。
設置罠はガードしている間に発動する事が出来ませんからね。
ユファールが隙を突いて前蹴り。
画面端が近かった事もあり叩き付けられた後でコンボが入りました』
拮抗していた2人の戦いであったが、遂に桜華が玖留美を捉えた。
閃光設置罠を使って真上に吹き飛ばし、上空で丁寧にダメージを加えていく。
彼女もまさしく完璧な立ち回りを遂行していた。
(いけると思って前がかりに攻めた所で喰われた……
この人のセンスは本物。とにかく立て直さないと)
HPを3分の1程削られた所で、ユファールの起き攻めに対してクルミが衝撃波を使い難を逃れる。
『玖留美選手が相手を追い払った事で、また慎重な駆け引きが行われる事になります。
今度はクルミの方が石盤を飛ばして距離を縮め、主導権を握ろうとしますが当然ユファールも同じ様に立ち回っていますね』
『先程、相手の勢いを利用してカウンターを仕掛けて失敗したので、今度は能動的になる事でダメージを与えようとしているんでしょう。
ある意味、2匹のアリジゴクが互いに口を開けて獲物が飛び込んでくるのを待っている状態に近いかもしれません』
2人共、自分のフィールドを形成し、待ち構える。
勿論、どちらかが飛び込まなければ試合は動かない。
「さぁ、行きますわよ!」
桜華は躊躇いを見せた玖留美の隙を見逃さなかった。
その一瞬を利用して滑り込み、攻撃を始める。
『的確な攻撃でしたがココは譲れないとクルミがしっかりブロック。
カウンターを狙いますがその時を見計らって相手が跳躍。
がら空きになった背中に蹴りがヒット。
距離が離れてしまった為、致命傷には至りませんが光の矢で追加ダメージも決めます。
落ち着いた立ち回りでリードを保っているのは桜華選手。
玖留美選手としては何とか巻き返したいでしょうね』
相手がどう反撃するかと言うその判断が正しければ、不意を突く事が出来る。
桜華は玖留美を翻弄していた。
HPが半分以上削られてしまった玖留美としては、開き直った攻めに転じるしか道は無い。
『残り30秒。
HPの差としてはそこまで露骨に焦る必要はありませんが、玖留美選手は強引に近付きます。
しかしココで敢えて相手の接近を許してさらに追い付けない程のダメージを与えようとしているユファール。
もうHPの減少は許されないと言う思いからかクルミのガードも相当堅くなっていますね』
勿論、防御に意識を向ければ、なかなか攻撃に踏み切れなくなる。
「緊張してんなぁ玖留美ちゃん。
確かに相手も強いけど萎縮してねぇか?」
「上手く立て直せるチャンスはあると思うんだけどね。
思い切って飛び込む勇気も必要だよ」
豊や零が心配そうに見守る中、玖留美にもようやく『自分のターン』が回ってきた。
『ユファール、閃光設置罠をクルミの真下に設置しますが辛くも相手がダッシュで回避。
その勢いのままにユファールに攻撃を仕掛けます。
ガードで耐えますがそれを見抜いて投げで対抗。
投げからのコンボでダメージを稼いでいきます。
HPの差がどんどん縮まっていますね』
『相手の意表を突いた素晴らしい攻撃ですね。
ガードされた後の対処も完璧だったと思います』
起き攻めに対してユファールが衝撃波を放った為、再び牽制から相手の出方を伺う流れに戻る。
桜華も圧勝出来るとは思っていなかったが、玖留美の実力を軽んじていた部分があった事は否めない。
(何とか耐えてHP差で勝つか、それとも追い討ちをかけるべきか……
ココは重要な局面ですわね)
HPの差は僅かと言って差し支えが無い。
一度でも被弾すれば状況が一変してしまう。
『光の矢を使って距離を保ちつつ、閃光設置罠を相手のいる場所の前に置く事で前に出るなと徹底的に邪魔をしています。
残り15秒。
桜華選手はどうやら逃げ切りの態勢に移った様ですね。
勿論相手が前に出てくるのなら迎撃する構えでしょう。
解っている罠に踏み込んでいかなければ勝ちが拾えない玖留美選手。
とにかく前に出たい所ですが……』
距離を詰めたい玖留美だったが、下がりつつもクルミが離れればまた歩を進める事で壁際に追い詰められない様にしている。
時間が残酷に経過していく中で、玖留美は賭けに近いパワープレーを選択しなければならなかった。
『石盤を飛ばして石盤に乗り跳躍。
下に降りた瞬間にまた石盤を飛ばしての繰り返し。
設置罠を避けつつビームも回避する為の策でしょう。
残り5秒。ユファールが前に出る。
クルミが蹴り。届かない!
無情にもココでタイムアップ。
僅かにHPが少ないクルミのHPが無くなり、後が無い状態で第2ラウンドを迎える事になりました』
相手の攻撃を誘ったうえでのバックステップ。
焦りが玖留美の判断を狂わせ、安易な攻撃の道を選んでしまった。
「本物ですね。
コネでは無く、彼女の実力が優れているからこそこの舞台に立てているのでしょう」
「2人共、綱渡りを続けるね~。
もつれると結構きつそうかな」
南屋朋美も唸る程の実力を確かに綾小路桜華は持っていた。
玖留美にも悔しがっている暇は無い。
『桜華選手の残り体力は半分程。
この第2ラウンドで、玖留美選手は相手をダウンさせるか60秒間逃げ続けなければなりません。
玖留美選手にとっては非常に厳しい状況です。
既に静かな読み合いが始まっている所ですね』
お互いに接近する事無く、中距離での牽制が始まる。
桜華も玖留美も、相手が判断を誤った瞬間に飛び掛かろうとしていた。
閃光設置罠を避けて後ろに下がれば同じ距離だけユファールが前に出る。
暫くの間膠着状態が続いた。
『リスクを恐れる気持ちがそうさせるのでしょうか。
両選手とも非常に動きが鈍くなっています。
慎重な立ち回りでダメージを受けない事を優先した動きですが、桜華選手としては仕掛けていかなければいけない局面でしょう』
『下手にカウンターを喰らってしまった場合、相手を勢い付かせてしまう可能性が高いですからね。
最悪、このラウンドを捨てて最終ラウンドに賭けると言う戦略もありますし』
第2ラウンド開始から20秒、先に動いたのは桜華の方だった。
(圧力を掛けつつ、機を見て一気呵成に攻め立てますわよ)
石盤を飛ばしたクルミに対して光の矢で石盤を破壊。
それと同時に懐へ潜り込もうとしたが、地中から出現した石盤によって動きが阻害される。
閃光設置罠をクルミの足元に置き、跳躍で石盤を飛び越えると下段蹴りから猛攻を開始した。
『下段蹴りと地上での上段蹴りはしっかり回避。
閃光設置罠の発動に対しても衝撃波で無効化。
1度攻め切ったユファールに向かってクルミが突撃。
見事なカウンターを決めました』
全ての動きを読んだうえで、正確なコマンド入力にとって桜華の攻撃を耐え切り、反撃に転じる。
並のプレイヤーであれば耐え切るだけで精一杯だったのかもしれないが、玖留美は攻め時を見誤らなかった。
『投げ→下段蹴りからの起き攻めで桜華選手は選択をミス。
追加ダメージが入り残りHPは2割程。
おっと、追い討ちでダウンさせようとしたクルミに対して桜華選手が超必殺技を発動しました』
玖留美が一度離れた方が良かったかもしれないと思った時には最早手遅れだった。
指先から放たれるものよりさらに巨大なビームがクルミの胸を貫く。
(やってしまった……ココは一旦距離を取っておくべきだった。
判断を間違えなければ逃げ切りに転じる事も出来たのに……)
残り10秒の時点で残りHPは4割程。
ユファールの体力に余裕があった為一撃必殺とはならなかったが、余裕の無いクルミにとっては大きな痛手だった。
『タイムアップ。
必殺技が当たった時点で桜華選手は後退していました。
体力差により桜華選手はダウンしましたが、それでもHPは1本丸々残っています。
最終ラウンドで勝ちを狙う為には、桜華選手が既に使ってしまった超必殺技に賭ける必要があるかもしれませんね』
『切り札を残していると言うのは相手の精神にも影響を与えますからね。
HPの差だけが有利不利ではありませんよ。
桜華選手もより一層慎重になるでしょうからチャンスは充分あります』
勝負はもつれにもつれ最終ラウンドへ。
玖留美は後が無い分、『開き直り』が問われる事になりそうだった。
不利な状況だからこそ、開き直って果敢に攻めれるか。
有利な状況だからこそ、安易な道を選ばず決めきる事が出来るのか。
『最終ラウンドが始まりました。
先程とはうってかわって玖留美選手が前に出ています。
攻撃のチャンスと同時に被弾の恐怖とも戦わなければなりませんが、桜華選手は上手く立ち回っていますね』
後が無くなった玖留美の猛攻は、桜華としても望む所であった。
(最終戦で大事なのは、結局の所体力差。
私に与えられているこの体力をいかに60秒間死守出来るかにかかっていますわ。
相手が躍起になって攻撃すればする程、こちらは冷静に捌く事が出来る。
例え無様な勝ち方になろうとも、絶対に勝利を拾いますわよ)
決めきれず、攻め時では無いと判断した玖留美は一旦距離を取り相手の攻撃に備える。
一方桜華は本気で攻撃する気は無かったが、プレッシャーをかける事で終始相手の攻め手を封じていた。
『15秒経過。
桜華選手、相手の攻撃を上手くいなしていると言う印象です。
一方の玖留美選手は光の矢と閃光設置罠のせいでなかなか前に出ていく事が出来ません』
『ラウンド開始直後の近距離戦の時に当たっていれば、また違った展開になったかもしれませんね。
この鍵をどうこじ開けるか。玖留美選手には間をすり抜けるセンスが問われる局面でしょう』
奇襲で逆転に結び付ける。
それしか無いのは解っていたが無策での飛び込みは自殺行為でしか無い。
ただ疲弊して負ける位ならばと玖留美はダッシュで一気に近付こうとしたが、光の矢で防がれてしまった。
『怯んだ所で桜華選手が攻撃を仕掛けます。
行ける時には勝負を決めに行くと言う判断でしょう。
ですが距離が若干遠かった為ユファールのダッシュ攻撃を間一髪の所でクルミが防御します』
相手が飛び込んできた千載一遇の好機。
逃してなるものかと玖留美は超必殺技を発動する。
HPが3割近くまで減っている今、当たれば逆転勝利の可能性もあった。
(お願い、決まって!)
玖留美の心からの願いは、桜華のテクニックによって空回りに終わってしまう。
「うわ、マジかよ!」
「いや……桜華は理解したうえで飛び込んだんだ。
玖留美さんもそこは薄々解っていたんだろうけど……」
零の見つめる視線の先には、衝撃波で相手の超必殺技の発動を阻止した直後にとどめを刺すユファールの姿があった。
『劇的な幕切れでした。
桜華選手はあくまで『守り抜く』事に重点を置き、超必殺技を誘う事で相手の逆転の余地を潰したのです。
玖留美選手としても、もうそうするしか無いと言う判断の結果なので、責めるべき所は全く無いと言って良いでしょう』
桜華は溜息をついて笑顔を見せ、久留美は涙を浮かべながら歯を食いしばっていた。
(完全に誘い込まれた……
まだ時間が残っていたんだからそこまで焦る局面でも無かったのに!)
自制していれば、見えていた罠にかかる事は無かっただろう。
玖留美の『負けられない』と言う思いはあまりにも強過ぎた。
強過ぎたが故に、気付く事が出来ない。
桜華にしてみればこの罠に相手がかかるかどうかは微妙な所だった。
「私の強さを際立たせてくれた事を、心から感謝致しますわ」
相手が強く、その強い相手を倒す事が出来た己はさらに輝く。
桜華にはそれが良く解っていた。
そして、玖留美が充分『強者』の位置にいる事も。
桜華はその遥か上を狙っていたのだ。
「1つだけ言わせてください。貴方は勝てない。
私に勝てたとしてもその先へは行けない。断言します。
もしこの世にZEROの女神がいるのならば、貴方の優勝を認める事は無いでしょう」
試合後の握手を放棄して、玖留美が舞台から去っていく。
事情が解っていない桜華は、彼女の後姿を寂しげに見つめる事しか出来なかった。
(どうして、皆私を認めてくれませんの?
血の滲む様な努力を重ねに重ね、睡眠時間も削ってココまで来たんですわよ?
私は、その様な捨て台詞が欲しくて戦っているワケではありませんわ……)
桜華に悪気は一切無いのだが、彼女は人の癇に障る事を言ってしまう癖があった。
それは彼女がいかに帝王学を学び、上流階級のマナーをマスターしたとしても得る事が出来ない『人との触れ合い』が原因なのだろう。
桜華の側には染井、黒沢、妖、そして彼女を崇拝する美香しかいなかった。
多くの人と触れ合って人生を歩めば、人が何を言えば嫌がるのか感覚で理解していく事が出来る。
だが桜華にはその経験が皆無だった。
己を持ち上げる人間しか周囲にいなければ、どんなに純粋な心を持っていたとしても無意識の内に言葉は濁っていく。
桜華は大衆の前にいる時も、赤の他人と話している時も常に孤独だった。
『玖留美選手、随分と好戦的な発言でしたね。
彼女との間に何かトラブルでもあったのでしょうか』
『遼子さんのその気持ち、私にも解ります。
資料を見た限りでは彼女と桜華選手は特別親しいわけでも、憎み合っていると言う情報もありません。
あの剣幕で桜華選手に迫った時、一瞬場の空気が凍り付く程でしたからね』
玖留美の態度は、当然染井達を激怒させた。
「あの小娘め。
御嬢様に何と言う口の利き方だ。絶対に許さんぞ」
「まぁまぁ落ち着いて。
下賤の者達の戯言にいちいち腹を立てていては身が持ちませんよ。
何時の世も金持ちや権力者に対する不満は噴出するものです。
総理、そういうものでしょう?」
黒沢は染井を宥めると同時に、玖留美がああいう発言をした真意を誤魔化した。
「君達の所は、不満が出過ぎている気もするがね。
どうもここ数年、良い話を聞かないよ」
「貧乏人の僻みと言うやつです。
我々が裕福であるからこそ根も葉もない噂ばかりしている。
我々にとっては良い迷惑としか言えません。
とにかく今の『事実』が重要でしょう。
桜華御嬢様が準決勝に進出した。その事実を見るべきかと」
黒沢は内心では染井と同じ様に激昂していたが、表面上は上手く取り繕い欠片も表に出しはしなかった。
『少々の休憩時間を挟んだ後、準決勝に移りたいと思います。
この熾烈な戦いで生き残りを果たしたのは氷室零選手、青龍選手、井島豊選手、綾小路桜華選手の4名です!
準決勝第1試合は氷室零選手対青龍選手、第2試合は井島豊選手対綾小路桜華選手となります。
この4名の中から優勝者、準優勝者、3位が決まる事はもう間違いの無い事実ですが、遼子さんの予想としては誰が優勝に近いと考えますか?』
『人工知能を搭載した機械が勝つ事は無いと思います。
氷室零選手は決勝に行くでしょう。
ただ、百戦錬磨の豊さんとここまで強かに勝ち進んできた桜華選手のどちらが勝つのかは正直解りませんね』
遼子はベスト3はその3名になると予想し、優勝者が絞れない程実力が拮抗していると思っていた。
『いよいよ2005年度の最強のZEROプレイヤーを決める本大会も決着の時が迫ってきましたね。
皆さん、最後までプレイヤーへの応援を宜しくお願い致します!』
NEXTエリカの声に応える様に、盛大な拍手が巻き起こる。
会場は凄まじい熱気に包まれていた。
そんな会場のあちこちに、不穏な空気を纏った者達がいた。
先程まで持っていなかった大きなバッグを座席の下に置き、黒いスーツを身に付けている。
『H2O爆弾の設置が完了した。
命じてくれれば何時でも起爆させられる』
無線機で連絡を取り合う男の口からは、日本語では無い言葉が呟かれていた。
『電磁波爆弾は会場の外にいる仲間が用意している。
これも合図があれば何時でも爆発させられるぞ』
『了解した。
祖国の繁栄の為に力を尽くそう。
我等の敵を平伏させるのだ』
電磁波爆弾には殺傷能力こそ無いものの、あらゆる電子機器を無力化させる力がある。
つまり携帯等の連絡手段が全て潰される為、すぐに助けが呼べない様に出来ると言う事だ。
「倭国の猿どもめ。見ているがいい。
この国が我々の思う通りに変貌を遂げる様をな」
電磁波爆弾を使う事で逃走の時間も稼げる。
首尾良く仕事を終えた後はマシンガンやH2O爆弾を盾に脅しをかけ、撤退する予定だった。
数多くいたそんな怪しい者達も、バラバラに散らばっていた為目立ってはいない。
紅虎明命の『悲願』は、彼等自身の手で果たされようとしていた。
「すいませんでした。私が未熟だったばかりに」
戦いの場から離れ、観客席に戻っていた玖留美は悔し涙を流していた。
「玖留美ちゃんが謝る事は無いわよ。
精一杯やったうえでの結果でしょう?」
「そうですよ。凄く頑張ってたと思いますよ」
慰めにしかならない事は解っていたが、あかりや比呂子は彼女の健闘を称えた。
「それにしても、桜華さんの躍進は正直意外でしたね。
私はベスト16止まりだろうと思っていただけに驚いています」
南屋朋美はそう言うと、顎に手を当て俯いたまま考え込む。
「あのロボットの方が余程凄いんだけどね~。
中身が都道府県認定ZEROゲーマーだし……」
「とにかく、どうにかして奴等の不正を暴かねぇと大変な事になっちまうぞ」
久緒は事態を憂慮していたが、それを可能にするアイディアが思い付いたワケでも無い。
重い空気の中、井島豊と氷室零が勝ち残っている事だけが唯一の希望だった。
「リーダー、我々としては氷室零か井島豊のどちらかが優勝すれば文句は無いですよね?」
「……出来れば、零さんに勝ってほしいわ。
私に勝っておいて負けられると困るもの」
真紀は軽く唇を歪め、遠くを見る様な目をしたまま亜津子に言葉を返す。
優勝したかった者達が、勝ち上がった4名の決戦を見届けようとしていた。