2チームに分かれてどちらの陣営が強いのかを競う団体戦。
キャラクターの相性で結果が変わる面白い形式です。
ゲームセンターでのこういった戦いを見ていると心が熱くなりますね。
クラムと名乗った少年の強さはとても子供とは思えないものだった。
「逃げてばかりじゃ、勝てないよッ!」
両手で持ったスコップを振る速さは俺が繰り出す一撃よりも速く、そして強い。
(的確に俺の急所を狙ってくるとは……今はまだ回避出来ているが、このままでは負ける!)
助けてくれる者などいるはずも無い岩だらけの大地で、既に殺し合いが始まってから5分が経過していた。
「心臓を突いてほしい?それとも、頭を綺麗に斬り落としてあげようか」
無邪気に笑う少年だったが、発している言葉はとても少年が口にする様な言葉では無い。
底知れぬ強さと速さであったが何としても生き残らねばならないと俺は思った。
敢えて少年の間合いに飛び込み、相手の腹を狙う。
「俺にも守るべきものがある!」
スピードでは上回れないが、パワー勝負ならば勝機はある。
相手は咄嗟にスコップを横に構えて防御したが、持ち手の部分を破壊しつつ腹に傷が入った。
「へぇ、良い攻撃だったよ今のは。
でも僕のスピードを削ぐまでには至らなかったみたいだね!」
真っ二つに折れたスコップを両手で持つと、少年は笑いながら俺に突進してきた。
右手に持ったスコップで俺の首を狙い、左手に持った持ち手で脚を叩き動きを封じようとしてくる。
「俺は絶対に勝つ!妹のもとへ帰るんだ!」
跳躍からの攻撃と見せかけ相手の対空攻撃を誘いつつ、俺は素早く地面に立つと足払いで少年を転ばせた。
「うわッ!?」
バランスを崩し少年はスコップを落としてしまう。
武器を失ったこの瞬間を見逃さず、俺は少年の首を鋭い爪で刎ねた。
「残念だったな。金に対する執着より、俺はもっと強いものを持っている」
首を失った胴体はそのまま倒れ、首が地面をコロコロと転がっていく。
首からはおびただしい量の血が流れ出していた。
『ヴォルフ・ムーンリファードの勝利!』
上空から声が聞こえた瞬間、俺の身体は光に包まれ俺は意識を失った。
意識を取り戻した時、俺は老執事によって招かれたあの豪華な屋敷のエントランスに戻ってきた事を理解した。
隣にはシラノと、青い肌を持った鬼の少女の姿があり、壁側では俺に突っかかってきた黒い髪の少年が立っている。
「ヴァルーの民で生き残ったのは、我等だけの様だ……」
シラノがそう呟いた瞬間、俺はこのホールに集まっている人間が8人しかいない事を理解した。
「……妹も、死んだのか」
助ける事が出来なかった。
ただ目の前の相手を倒す事だけしか出来ず、妹を見殺しにしてしまった罪悪感が俺にのしかかる。
「何故だ、何故ヴィアージュが死ななければならない!」
涙を流しながら俺はそう言って吼えた。
もう一度ホールを見渡したが、ケルゾアの姿もサイファの姿も無い。
エンペラー様の姿も無かった事に俺はさらにショックを受ける。
軍神と呼ばれたあの方が誰かに敗北するなど到底信じられなかった。
「ヴァルーの民同士で殺し合わねばならぬ時が来るかも知れぬ。
ヴォルフよ、万一そうなったとしても挫けるでない。
もし本当に願いがたった1つ叶うと言うのならば、ヴァルーの民を蘇らせると言えば良いではないか……
拙者が負ける時があったら、お前が我らの無念を晴らしてくれ」
シラノはそう言って肩を落として泣いている俺の肩を叩く。
俺は涙を拭くと立ち上がり、天井に向かって叫んだ。
「約束する、必ずお前達を助けるから、待っていてくれ!」
「――信国は戦国時代、織田(おだ)信虎(のぶとら)総理の祖先である織田信長が明を攻め、統治した天武日本の姉妹国にあたる。
それまで明で使われていた言語や名前を全て天武日本のものに変え、現在では天武日本と変わらない経済水準を保っているワケだ。
太平洋戦争において天武日本は信国と協力しアメリカと同盟を結んだ。
ドイツ・イタリア・ロシアの三大国を破り現在でもその軍事力の高さから『アジアの虎』と恐れられている。
我々は二度とこの様な大規模な戦争が起きない様、信国やアメリカと協力する形で平和路線を進めていかなければならない」
歴史教科を受け持っている教師が生徒達に熱弁を振るう中、雨宮比呂子は窓の外を眺めていた。
(それにしても、何時まで降り続けるんだろう。嫌になるなぁ)
一昨日から降ったり止んだりを繰り返している不安定な天候に、気分まで憂鬱になりそうだと彼女は溜息をつく。
「雨宮、織田総理が推し進めている『産業活性化計画』は知ってるな?」
突然自分の名前を呼ばれ、慌てて比呂子は教師の方へと視線を向けた。
「はい。『産業を活性化させれば、国は豊かになる』を合言葉に、企業の優遇等を盛り込んだ法案が可決したものです」
「そうだ。織田総理は祖先である織田(おだ)信長(のぶなが)の『楽市楽座』が現代でも通用すると考え、それを実行した。
企業が負う税負担の軽減や、消費者へのサービスで我が天武日本の経済はさらなる発展を遂げたと言えるだろう」
信国は表向きには天武日本の同盟国とされていたが、実際は事実上の属国となっている。
天武日本が得た領土と強大な軍事力により、今やこの国はアメリカを脅かす程の巨大国家に成り上がった。
「この産業活性化計画は信国でも実施され大きな話題を呼んでいる。
我々が富を得て幸せになるだけでは無く、信国の国民にも同じ幸せを感じてもらいたい。
その互いに上昇していこうと言う精神が大事なんだ」
教師は熱に浮かされた様に話していたが、生徒の反応は微妙なものだった。
(信国の人達は確かに天武日本と同じ先進国としての歩みを見せているけれど、そこには自由が無い。
テロ活動が行われるのも、仕方が無い事なのかな)
「今日は織田政権誕生から現在に至るまでのまとめ授業を行ったが、今度のテストはこの範囲からの出題になる。
しっかり復習して、各自備える様に」
その瞬間に休み時間の到来を告げるチャイムが鳴り、生徒達は次の授業の為の準備を始めた。
公立虹見高校。千葉県宮本市にある高校である。
宮本市に住んでいる半分以上の高校生はこの高校に通っており、余程の事情が無い限り南条商業大学に進む生徒が多い。
火村あかりはこの高校の卒業生であり、その為比呂子は今でもあかりの事を心から慕っていた。
「比呂子さん、ちょっとお話したい事があるので残っていてもらえますか?」
この日の放課後、帰り支度をしていた比呂子はNEWSZEROのリーダーである南屋(みなみや)朋美(ともみ)に声をかけられた。
「解りました。NEWSZEROの活動に関しての話ですか?」
「ええ、今は私と栞さんしかいませんが、後で残りのメンバーにも話しておく予定です」
南屋はクラスメイトから『パーフェクトガール』と呼ばれる事すらある優秀な女性だった。
学年での成績は常にトップクラスで運動もそつなくこなし、造船会社の社長の娘と言う事もあって躾もしっかりしている。
「栞さん、あの紙を持ってきてください」
堀北(ほりきた)栞(しおり)は黙って頷くと、鞄の中から闘戦興の記事の切り抜きを出し、机の上に乗せた。
「貴方も最近はよく会っていると言う、氷室(ひむろ)零(れい)さんと私達NEWSZEROで紅白戦をしたいと思っているんです」
NEWSZEROは南屋朋美が立ち上げた非公式クラブで、雨宮(あめみや)比呂子(ひろこ)も含めた5名で活動している。
クラブ活動と言うよりゲーマーとしての研鑽が主な目的で、比呂子は5名の中では一番実力が劣っていた。
「零さんは相当強いですよ。南屋さんでも勝てるかどうか……」
「だからこそ私達が戦う価値があるんですよ。
私と零さん、どちらが格闘ゲーマーとして上の位置にいるのか確かめてみたいんです」
その瞳は真剣そのものだった。
学業でもトップクラスの成績を持つ彼女だがZEROでも素晴らしい戦績を誇っている。
「私もリーダーと同意見です。
現千葉県認定ZEROゲーマーの柏糸涼介が敗れたと聞いて益々気になっています」
インテリ眼鏡をかけ、髪を三つ編みにしている女性……
堀北栞も体力こそ無いが朋美に並ぶ学力を持っていた。
クラスの女子学級委員長を務め、高校の規律には厳しいが朋美には絶対の忠誠を誓っている。
それは彼女が努力でその順位を勝ち取ったのに対し、天才肌でさしたる努力もせずナンバーワンとなった朋美のカリスマ性に強く惹かれたからだった。
「貴方達が零さんと親しくしているのは人から聞いて知っています。
連絡を取って、私達がそういう意思を持っている事を伝えてきてください」
南屋の言葉に対して、比呂子は黙ったまま頷いた。
「おおッシャァ!」
女子柔道部と男子柔道部の『親善試合』は普通ならば男子柔道部の一方的な勝利に終わるハズだったが、西園(にしぞの)久緒(ひさお)の活躍によって阻止される事となった。
「やべぇな、久緒の奴強過ぎるよ。
身体もそんなにでかくねぇのに大将を任されて男子5人を全員潰しちまったぜ」
そこまで恵まれた体格をしているワケでは無い。
女子にしては身長は高いが男子程の重さは無く、明らかに体格だけを見れば男子に負けている。
しかしそれでも男子柔道部の部員が彼女1人に勝てない事は最早明白だった。
公立虹見高校3年生、西園久緒。
男達は劣等感や嫉妬から彼女の事を『男女(おとこおんな)』と呼んで馬鹿にする。
過去天武日本代表としてオリンピックに出場し見事金メダルを獲得した柔道家の父親と、合気道の達人である祖父のもとで育った格闘一家の少女は誰よりも強くなる事に拘った。
辿り着いた結論は、『相手の力を利用して相手が誰であろうが投げ飛ばす』と言うもので、しかも彼女はそれを実践する事が出来たのである。
「恰好良かったです、西園先輩!」
「今度の県大会でもきっと優勝出来ますよ、応援してます!」
男には嫌われる一方で、久緒は女生徒には憧れの存在だった。
彼女は自分達には出来ない『男を倒すヒーローの様な女性』だった為、自然と尊敬し、慕う様になっていったのだ。
「それにしても、俺を倒すと息巻いてたが結果はどうだ。
テメェ達の心が折れるまで、何回でも相手になってやるぜ」
男子柔道部の者達は彼女の横柄な態度に怒り心頭であったが、ギリギリの所で堪えていた。
彼等も県大会を控えている大事な時期。
少しでもおかしな『事件』が起これば退学処分は免れない。
さらに取り巻きの女性達が非常に多い為、もし西園に危害を加えれば彼女達の報復が始まるのは目に見えていた。
「もう、無様な姿を晒しちゃった男子の事はどうでもいいじゃないですか。向こうで話を聞かせてくださいよ」
「新聞部の鳥羽(とば)です。今度の県大会の模様を記事にしたいと思ってるんですが」
勝ち誇った顔をしながら男子の部室を去る西園の姿が消えた後、残ったのは男子部員の溜息だけだった。
「畜生、反則級だろあの強さは。
こっちの動きを全部読んでやがる。
無理に行くと掴まれるし、やったと思った瞬間には地面に叩き付けられるしよ」
「合気道と柔道の複合だからな。
それぞれの武道の良いとこ取りをした動きで隙を見せねぇ」
彼女1人のせいで男子柔道部の存在が蔑ろにされ、女子柔道部の存在だけが際立っているのが彼等には納得出来なかった。
「他の部員は大した事無いんだぜ。あいつだけおかしいんだよ。
何とかあの女に赤っ恥をかかせてやりてぇモンだが」
「お前達はそう言うが、今我々の中で西園久緒を倒せる者がこの場にいると言うのか?
数名でかかれば倒せるかもしれん。
だがそれは最早『柔道』では無い。
我々は誇り高き武術である『柔道』をしているのだ。
正々堂々戦って勝てる力を育む。それ以外に我々の溜飲を下げる方法は無い」
大将でありながら呆気なく巴投げをくらってしまった男子柔道部長はそう言うと、立ち上がって顧問が帰ってくる前に痕跡を消す様に指示した。
本来ならば、この様な『親善試合』も顧問に見つかれば命取りなのである。
「こんな事を聞くと説教じみた事を言うんじゃないかと誤解されるかもしれないが……」
夕暮れが近付いているラブホテルの一室で、全裸のまま爪の手入れをしていた褐色肌の少女に中年の男は尋ねた。
「どうして、君はこんな事をしているんだい?
いや、親が泣いてるとかそういう事が言いたいんじゃないんだ。
何故なのか純粋に知りたくなって」
ベッドに横たわっている中年の男性は少女と同じく全裸だった。
机の上には『身体を売って得た金』が置かれている。
「うーん……まぁ、私としては先行投資みたいなものかなぁ?
こういう事は今しか出来ないから」
「先行投資かい。これはまた随分意外な言葉が飛び出したね」
くしゃくしゃの金髪に派手な化粧。
絵に描いた様なコギャルであったが、屈託無く笑う姿は年齢よりも少し幼く見えた。
「だって、おじさんに身体を買ってもらえるなんて若い時しか出来ないでしょ?
こうやってお金を稼げるのなんて今だけだよ。
大人になったら風俗嬢になって30歳まで頑張る。
その間に貯めたお金で残りの人生を面白おかしく過ごすの。計画的でしょ?」
そう言ってけらけら笑う彼女であったが、目は濁っている様に見える。
「君は一途に、真剣に稼いで生きているんだね。
いいなぁ、おじさんはそうやって一生懸命に頑張る気持ちを失ってしまったのかもしれない」
くたびれた中年男性が可愛い少女に引っかかってこんな事をしてしまったと、彼は若干後悔している様にも見えた。
「これからだよ。貴方だって、やればきっと出来るハズ。
残ったお金で奥さんにいいものでも買ってあげれば喜ばれるんじゃない?」
少女はそう言って服を着ると机の上に置かれた札束を財布の中に入れ、足早にその場を去っていった。
東郷(とうごう)恵(めぐみ)は高校1年の頃から自らの肉体を売っている。
下着を見せたり、自慰行為を見せたりする行為ならば中学生の頃から行っていた。
服装や化粧こそ普通の少女に劣る様に見えるが、大人びた格好の中に光る魔性の輝きに男達はすっかり虜になってしまう。
格好と中身のアンバランスさに魅かれる男性もいたし、単純に可愛いからと言う理由で彼女と寝る男もいた。
「私は綺麗な外見を保ててると思うよ。
身体は汚れてるけど、その汚れた感じが好きだって言う人もいるしね」
彼女は売春行為を行っている事を仲の良いクラスメイトの前で当たり前の様に話した事がある。
相当の自信があるのか、それとも何らかの理由で自棄になっているのか、その答えを知る者は彼女以外にはいない。
「え?うん。解った。
明日は学校行くからその時に話そ。じゃね」
携帯の通話を終了した彼女はまた笑みを浮かべていたが、その表情は先程の笑顔とは少し異なっていた。
「へぇ。格闘ゲームで本気の勝負をするなんて楽しそうじゃない。
本当に朋美に勝てる様な人がいるのかな?」
翌日の夜、火村あかりの自宅を訪れた雨宮比呂子は、NEWSZEROが紅白戦を望んでいると言う話を伝えた。
「紅白戦かぁ。
そういえばエターナルナイトでは大規模な紅白戦を一度も行った事が無かったよなぁ」
たまたまその時あかりと共にゲームをしていた井島豊も話に加わる。
「それで、比呂ちゃんは向こうの陣営って事になるの?」
「はい。私としては先輩への恩義もあるので出来れば豊さん達と一緒に戦いたかったんですが……」
あかりに助けてもらった事があり心から感謝している比呂子であったが、今回はNEWSZERO側の先鋒を務める事が決まっていた。
「良いのよ別にそこまで気を遣わなくても。
敵と言っても格闘ゲームの話なんだから」
「比呂ちゃんが向こう側の陣営となるとメンバーを5人集める必要があるな。
こっちは俺とあかりと零と涼介はいるが……」
NEWSZEROのメンバーの強さは豊もよく知らなかった。
唯一知っていたのはリーダーの南屋朋美の強さである。
「南屋朋美は『元千葉県認定ZEROゲーマー』だ。
涼介が認定ZEROゲーマーになる1つ前のな。
涼介と戦った結果その座を失う事になったが、その試合があったのは結構前の話だしかなり腕を上げてるのは間違いねぇだろ」
NEWSZEROのメンバーの中でエターナルナイトに通っているのは比呂子1人だけの為、使用しているキャラクターや具体的な実力が見えてこない。
「あと1人、私達のメンバーはどうするの?
誰を入れるかあてが無いと困るわよ」
「引き受けてくれそうな子がいるんだ。
明日連絡を取って、来てくれるかどうか話をしてみる。
断られたら別の候補者を立てよう」
そう言いながら豊はあかりのサイファに追撃を入れ、確実に仕留める。
「コンボの精度が大分上がってきてるじゃない。私も頑張らなきゃ」
「零のレベルが着実に上がってるのに、俺だけ元のレベルのままってワケにはいかねぇだろ」
涼介に惨敗したあの日から、比呂子はエターナルナイトに来ても誰かと対戦する事が無い。
彼女はひたむきな気持ちで狩谷の『特訓』を受け、その腕を密かに上げつつあった。
(今回の紅白戦で、先輩に少しでも追いつけたら……)
見てきたからこそ知っている。
火村あかりの格闘ゲームプレイヤーとしての腕は一級品だ。
ゲームの裏側まで知っている井島豊が相棒である事が成長の大きな要因とは言え、天性の才能である部分も多い。
「今回私は先輩の肩を借りるつもりで挑みます。全力でぶつかってきてください」
「私もこの1か月で比呂ちゃんがどれだけ上手くなったのか楽しみなの。その時は宜しくね」
あかりも薄々比呂子が『特訓』をしているのだなと気付いていた。
以前まで俯きがちに話す事が多かった彼女の目は、しっかりとあかりの目を見ている。
(私も野試合で経験積んでるけど、今回はいわば『他流試合』。
新しい風が入る事で皆がますます強くなれるわ)
あかりは今後、自分達がさらに強くなり、ZEROの世界が発展していく事を信じて疑わなかった。
「誰と話していたの?」
スマートフォンでの通話を終えた零は、瞳の疑問に答えた。
「豊からだよ。紅白戦の大将をやってくれと頼まれてね。
会った事の無い強豪が揃うらしいから楽しみだ」
スカイヒルズ本郷の15階にある一室。その窓から見る夜景はなかなかのものだった。
煌めく街の光には人々の欲望が垣間見える。
その欲望の総本山とも言うべき場所、首都東京の灯りもこの高さならば見えそうだった。
「今年の11月にZEROの全国大会進出者を決める為の地方予選が各地区で一斉に開始される。
2人1組でペアを組みトーナメントを勝ち抜けば全国大会。
各地方ブロックから2人が選出され、16名が東京で開催される全国大会で戦う事になるんだ。
天武日本の人口は1億人。その内プロレベルのプレイヤーは10万人いるとされている。
勝ち抜く為にはひたすら場数を踏んで強くなるしか無い」
零は自分に言い聞かせる様にそう言った。
天才的な才能があるとは言っても彼はまだZEROを始めて数か月しか経っていない。
稼働当初から戦い続けている『古参勢力』と比べると互角と言ったレベルで、慢心する余裕等一切無かった。
「……今までは、兄さんの夢は兄さん1人の夢だったと思うの。
でも今は違う。私も一緒に夢を見たいと思える様になったから」
瞳の考え方もここ数日で大きく変わった。
格闘ゲームに対する認識を改め、嗜む程度ではあるが自分のキャラクターを持ちエターナルナイトに顔を出す様になったのだ。
未熟な腕前ではあるが今までより多く兄とコミュニケーションを取れる様になり、兄の笑顔を見ていると彼女も幸せな気分になるのだった。
「トレーニングに付き合ってくれて有難う。
単純な適応性なら、瞳は僕を上回っているかもしれないな」
「そんな事無いわ。兄さんには勝てる気がしないもの。
あの時見ていた試合の事を思い出すと、何故だか解らないけど心が熱くなってきて無性に筐体に触れたくなる。
皆に褒められたい。認められたいって思って……
私は兄さんと違って、あまり両親の期待を受けなかったから」
瞳は兄の才能を羨む一方で、劣等感も感じていた。
ピアノの才能があった零と違って音楽の才能を受け継がなかった瞳は両親の寵愛を受ける事が少なかったのである。
(零、お前はきっと世界一のピアニストになれるぞ)
(貴方は妹として、零を献身的にサポートしなさい。
零が持つ情熱の炎を絶やさない様に、薪をくべ続けるのよ)
自分は兄のおまけであり付き添い。
兄がこの世にいなければ意味の無い凡人。
両親からそんな評価を受けてきた彼女にとって、自分1人でも脚光を浴びる事が出来るかもしれない格闘ゲームは未知の領域だった。
勝てば称賛してくれる。負ければ慰めてくれる。
人の繋がりをより強く、そして温かく感じる事が出来た。
だからこそ彼女もこの格闘ゲームに魅かれ始めているのだった。
ゲームセンターが一番賑わうのは週末だが、日曜日も多くの人々が様々なものを求めてエターナルナイトを訪れる。
日常から少し離れて癒されたい者や強さを追い求める者、ストレス発散の為にパンチングマシンと戯れる者……
それぞれ違う思いを持ちながらもゲームセンターを愛する心は変わらない。
この店は地元の客のみならず遠征者も含めた多くの者達に愛されていた。
「初めて来ましたが、相当賑わっていますね。
私がホームにしているヘリオスより人が多く集まっている気がします」
約束の時間より早くエターナルナイトに来店した南屋朋美は、この店の活気を見てレベルの高さを感じ取っていた。
制服では無くクマッタのTシャツにチェック柄のスカート、新品だが味のある革靴を履いており多くのゲーマーの視線を集める。
一番魅力的なのはストレートの長い髪だった。
高級なシャンプーとコンディショナーを使っているのか、細く真っ直ぐな美しい髪が輝いている。
「比呂子さん。貴方が約束の時間より早く来ているのは普段通りですが、恵さんがいるのは珍しいですね」
朋美はUFOキャッチャーで暇を潰していた東郷恵とそれに付き合っている雨宮比呂子の姿を見て声をかけた。
「欲しいクマッタの商品があったから、先に来て取っておきたくってねー」
シルバーアクセサリーを耳や指、そして首にも付けている恵は朋美とは違う形で目立っていた。
黒に白の髑髏がデザインされたTシャツに下はホットパンツ。
ルーズソックスを着け銀色に光るハイヒールもさらに目立つ要因となっている。
それとは対照的に、比呂子はクリーム色のニット帽に紺色の薄いカーディガン、水色のTシャツにジーンズと言う地味な格好だった。
「遊ぶのも良いですが、用意された情報から対策を練ってきてくださいと私は貴方に頼んでいたハズですよ」
「任せてよ~。アタシだってただ遊んでたワケじゃ無いんだしさぁ。ねぇ比呂子?」
恵に目配せされた比呂子は、同調する形で頷いた。
今回の紅白戦では一番頼りにならないとされていた比呂子だったが、上昇志向があまり感じられない恵の方が深刻だった。
「久緒さんと栞は?」
「まだ姿を見ていません。まだ約束の時間まで30分ありますからね」
朋美はギリギリまで対策を練っているであろう栞が遅刻するのではないかと不安げな表情を見せる。
久緒は単なる遅刻だと思っていた。
彼女は時間厳守と言われても遅刻する事がある為必ず朋美は携帯電話で連絡を入れている。
「やぁ、初めまして。君が南屋朋美さんだね」
朋美が振り向くとそこには今回の対戦相手である零がいた。他のメンバーも後ろに全員揃っている。
「凄い綺麗な子じゃない。宜しくね!
今回は比呂ちゃんの代わりに洋子ちゃんを連れてきたの。仲良くしてあげて頂戴」
あかりの後ろに立っていた御母(みおも)洋子(ようこ)は人懐っこそうな笑顔を見せていた。
元々エターナルナイトのメンバーとは顔馴染みで、ゲームセンターにも足を運んでいる御母サエの孫娘だ。
「洋子さんでしたか。
本当に5人揃うのか解らない状態だったので心配してたんですよ」
比呂子と洋子は今回の紅白戦の先鋒を担う者同士である事が既に決定しており、2人はしっかりと握手を交わした。
「私達は全員高校生。
そちらは中学生が2名、成人している男女が3名ですか。
この紅白戦がお互いの研鑽と良い交流になる事を期待しています」
「こちらこそ宜しく。
僕も君みたいな強いプレイヤーと戦えるのは嬉しいよ。この日を楽しみにしていたんだ」
両者とも笑顔を見せてはいるが、その瞳の奥では激しい火花が散っている。
どちらの陣営も負けるつもりは全く無かった。
開始時間の10分前に栞に引っ張られる形で久緒もエターナルナイトに到着する。
「痛ぇよ。離せって」
「寝坊しそうになっていた貴方をわざわざ私が時間を割いて連れてきたんじゃありませんか。
少しは私に感謝したらどうなんです」
久緒は短い黒髪、褐色肌とは対照的な白いTシャツに紺色のジーンズと、胸が無ければ男性に見えるかもしれない風貌だった。
一方栞は三つ編みにしている髪をほどき高校の夏服に近い恰好をしていた。
灰色フレームの眼鏡もよく似合っている。
「リーダー。遅れてしまい申し訳ありません」
「開始10分前ですから問題は無いでしょう。
久緒さんが間に合ってくれて良かったです」
南屋朋美と堀北栞はZEROゲーマーとしての腕が非常に高い。
特に南屋朋美は元千葉県認定ZEROゲーマーだっただけでは無く、全国大会の決勝トーナメントに出場した事もある実力者だった。
「久しぶりですね豊さん。
お互い全国大会で生き残った者同士、貴方の事は尊敬していますが今日は勝たせてもらいますよ」
「いやいや、こっちこそ胸を借りるつもりで挑ませてもらいますよ。
何せ第2回大会のベスト16だ。
第1回大会のベスト16である俺とは段違いの実力を持ってるって証拠ですからね」
今エターナルナイトにいるメンバーの中で全国大会への出場経験があるのは井島豊と南屋朋美だけだった。
だがその井島豊と共に研鑽を続けている火村あかり・柏糸涼介の2名は驚異的なスピードで実力を付けつつある。
そして今回の紅白戦の大将を務める氷室零は天賦の才とたゆまぬ努力によって彼等をも上回っていた。
「ルールをお互いに確認しておきましょう。
後でいざこざが起こってもつまらないですから」
朋美が栞の方へ視線をやり、栞はそれに対して頷いた後説明を開始する。
「今回の紅白戦は5対5の勝ち残り方式です。
1人1人が対戦するのでは無く、勝利したプレイヤーは引き続き戦う事が出来ます。
我々NEWSZEROが紅組、氷室零率いる5人組を白組とし、勝ち残った最後の1人が所属しているチームの勝利となります。
今回は3連続で勝利した場合は交代等の連勝制限は入れません。
つまり5タテ(5人連続勝ち抜き)も可能と言う事です」
この様なルールの場合、先鋒は必然的に5人の中で実力が最も劣っている者が務める事になる。
今回の紅白戦では野試合での勝率が芳しくない雨宮比呂子と、まだまだゲーマーとしては未熟な洋子が選ばれていた。
「何か御質問等ございますか?」
「いや、問題無いよ。
早速始めようか。まずは御母(みおも)さんに出てもらおう」
零に呼ばれた洋子が雨宮比呂子の前に立った。
栗色の髪はツインテールにまとめられ、今時の中学生と言う服装をしている。
「お互いの手の内を知っているので少々やり辛いですが、お互いにベストを尽くしましょう」
「はい!宜しくお願いします!」
人懐っこい笑顔と溌剌とした表情は店の手伝いをする時にも重宝していた。性格は比呂子とは対照的である。
(洋子さん、こう見えて結構強いんですよね……
涼介さんと同い年で彼から教えてもらっているって聞いてますし)
それでも高校3年生の比呂子には年上としての意地があった。先鋒戦で無様に負けるワケにはいかない。
「こちらの台を使ってください。
モニターに映るので観戦する人達は筐体の近くに集まらない様お願いします」
エターナルナイトの店員、高瀬加奈が指示を出した後2人は隅にある筐体の方へと移動し、席に着いた。
「若い世代同士の戦いは、今後の全国大会の予選に大きく関わってくるだろうね」
「そうでしょうね。オーナーは挑戦するんですか?」
試合を静かに見守ろうとしている蔵崎源三に対して土田守は質問を投げかけたが、蔵崎は首を横に振った。
「この間の戦いで解ったよ。そういう事は、彼等に託そうとね。
多分買っても負けても、この2チームは全国大会に挑戦するだろう。
私も1人のプレイヤーとして誰が決勝トーナメントに進むのか楽しみにしているんだ」
比呂子はプレッシャーを感じていたが、気負う事無くプレイしなければ勝利は掴めないと言う優の言葉が脳裏をよぎり、頬を手で叩いて気合を入れた。
「比呂ちゃんリラックスリラックス。洋子ちゃんも頑張ってね!」
元々比呂子とあかりは姉妹の様に仲が良い為あかりも敵チームである比呂子の事を応援している。
それはあかりだけでは無く、何時もは仲間として共に戦っている涼介や豊も同じだった。
「リーダー、相手は随分と私達に対して優しいんですね」
「私達は勝利を貪欲に目指すのみです。
その優しさを利用して勝つのも立派な作戦ですよ」
南屋朋美は面倒見こそ良いが勝利の哲学に従い情を捨てる強さも持ち合わせている。
情を排し今いる人員で最高の結果を出す為に何が必要か。
右腕である栞はチームに勝利をもたらす為、全面的なサポートを行っていた。
キャラクター選択画面で2人がそれぞれのキャラクターを選び、試合が始まる。
「サラギユウコは超必殺技が回復って言う珍しいキャラクターだが、回復前の隙が大きいのが弱点だ。
それをカバーする事が出来れば倒せると思った相手の計算を崩す事が出来るだろう」
遠距離飛び道具使いの代表とも言うべきアメジストを使う比呂子にとって、おっとりとした動きではあるが接近格闘に秀でたユウコを使う洋子は脅威であった。
如何に相手を翻弄しつつダメージを抑えて勝つか。
狩谷(かりや)と共に行った特訓の成果を見せる時だった。
(相手の動きは遅い。
手数で勝負してくるタイプじゃ無いから充分捕まれない様に立ち回れる。大丈夫、私なら出来る)
呼吸を整え、画面を見つめる比呂子。
弱気になりそうな自分の心を鼓舞し、試合開始と同時に距離を取る。
「無理やりにでも近付いてみせますよ!」
勿論洋子も比呂子の作戦に気付いていた。
逃げ回る作戦ならば追いかけて捕まえるしか無い。
ただ闇雲に追いかけるのでは無く、相手の逃げ道を塞ぐ様な追い詰め方をしなければならなかった。
「へぇ……比呂ちゃんの動き、大分良くなってるわね。
随分沢山練習したみたい」
あかりが感心する通り、比呂子の操るアメジストは2段ジャンプを華麗に駆使しながら逃げつつも的確な攻撃を行っていた。
設置タイプの『雨雲罠』と横に放つ『鉄砲水』で相手の動きを封じつつ上手な立ち回りを見せている。
(うわ、どうしよう。比呂子さんの動き、今までと全然違うよ!)
比呂子の腕前が異なっている事に狼狽しつつも、洋子は懸命な粘りを見せる。
最初のHPゲージが半分ほど減った所で運良くアメジストに接近すると、投げ技で相手を地面に叩き付けた。
「これで巻き返せるかな?」
すかさずアメジストに近付き起き攻めを行うユウコ。
比呂子は防御しようとしたがダメージを受けてしまう。
ビンタや膝蹴りと言った他のキャラとは違う攻撃方法を持っているが、隙を見せれば反撃されてしまう事に変わりは無い。
洋子もそれをよく知っており、隙を見せない攻撃でアメジストの体力を1回目のダウン寸前にまで持ち込んだ。
「まだまだ!」
今までの比呂子であればココで心が折れ、負けるだけだったが精神面を鍛えた結果足掻ける様になった。
それも単なる悪足掻きでは無く、一瞬の隙を突いた的確な攻撃を行える様になったのだ。
2回目の起き攻めの途中で防御している時に設置した雨雲が相手に当たり、相手のキャラクターが怯んだ所を見逃さず反撃に出る。
鉄砲水と雨雲を罠の様に設置し、動こうにも動けない状況を作り出し何とかラウンドを取った。
「おお、比呂ちゃんやるぅ!」
豊は比呂子がこれ程相手と互角に戦っている事が信じられなかった。
試合が始まる前は洋子が場を制圧しつつ勝利するだろうと思っていただけに、意外な展開に驚きを隠せない。
それは豊だけでは無くあかりや涼介も同じ気持ちだった。仲間が活躍している姿を見ていると誇らしい気持ちになる。
「洋子ちゃん、相手の体力が少ない事に変わりは無いわ!
治癒魔法さえ使えれば勝てるわよ!」
それでも比呂子は敵チームの一員。あかりは洋子に助言を行い、洋子も気を引き締めた。
(比呂子さんがこんなに強くなっていただなんて……
それでも白組に入れてもらったからにはそう簡単には負けられない!)
洋子としては早めに同じ条件に持ち込んでおきたかった。
だが焦って飛び込めば設置罠の餌食になる。
かと言って様子を見る時間もそれ程多くは無い。
60秒以内に相手をダウンさせなければ敗北が確定してしまう。
何とか隙を作って相手の攻撃モーション開始前に割り込むしか方法は無かった。
比呂子はセオリー通りに設置罠と水流を的確なタイミングで出し、相手に割り込ませる隙を与えない。
洋子もこれ以上ダメージを受けると体力差が付いてしまう為、無理に攻め込む事は出来なかった。
「比呂子の技術向上には驚きましたが、相手のプレイヤーの防御もかなりのものです。
先鋒からこんな相手を用意してくるとは……私の出番が早くなってしまいそうですね」
栞は僅かに動揺しつつリーダーである朋美に話しかけたが、彼女は全く動揺せず冷静に試合を見守っていた。
「トーナメントでは無く紅白戦ですからね。
数の有利不利は問題ではありませんよ」
このレベルならば自分1人でも全員撃破出来ると言いたげな態度だったが、栞は寧ろその反応に安堵する。
(流石は私がこの世で最も尊敬しているリーダー。
私もZEROの強さに関しては一流だと言う自負を持っているけれど、リーダーは遥か上を行っている)
試合は残り40秒になった所で洋子が猛攻に耐えきれずラウンドを取られ、60秒のカウントがリセットされた。
両者共にライフバーにそれ程差は無く、コンボが1度でも刺さると圧倒的不利な状況になりかねない為両者とも慎重にならざるを得ない。
「比呂子、決めてやれ!年下の女に負けるんじゃねぇぞ!」
「洋子ちゃん、治癒魔法を使うのは最後の手段だ!
今の比呂ちゃんの上手さだと、動作前に潰されちゃうからな!」
必殺技は効果が大きければ大きい程発生時の隙も大きくなる。
ガードクラッシュの最中等、絶対に反撃されないタイミングで勝負を決めたい。
(この鉄壁のガードを崩さないと勝てないけど……どうすれば良かったんだっけ)
比呂子の脳裏に狩谷(かりや)優(まさる)の言葉が浮かんだ。
ZEROの全てのキャラクターで模擬戦を行った時、サラギユウコのガードを突破する術を教わっていたのだ。
『おっとりしている様に見えるキャラクターだが、接近戦とガードに優れているユウコをどうやって倒すか。
相手がこれはいける!と思い込む状況を作り出して攻めさせるしか無い。
敢えて隙があるのだと思い込ませ、一気に近付いて畳みかけろ』
本来サラギユウコは攻めに行くタイプのキャラクターでは無い。
アメジストもどちらかと言えば相手から遠ざかり隙を狙うタイプのキャラクターだ。
そういうキャラウター同士の場合、さらにユウコが接近戦でしか真価を発揮しないとなればおのずとその様な戦術が求められる。
(設置罠の位置がずれた……今なら飛び込める!)
洋子としても飛び込まない限り勝利は無い。
雨雲をかいくぐり、アメジストの眼前に迫る。
「いいわよ洋子ちゃん、そこで投げてコンボに移行すれば……ああッ!?」
あかりはモニターから見えた状況に唖然とし、素っ頓狂な声を出した。
絶妙なタイミングで比呂子がバックステップを行い投げを回避すると、技を出している最中の無防備な状態を好機と捉え相手を崩していく。
水流でダウンさせた後雨雲の設置罠で防御せざるを得ない状況を作り出し、画面端へと追い詰めていった。
(こんなに強かったなんて……!)
洋子も比呂子程の頻度では無いがエターナルナイトに通い、あかりや涼介から技術を教わり、成長を続けている。
だが1ヶ月前に野試合を行った時は洋子がかなりの差を付けて勝利した為、比呂子の実力を見くびっていた部分もあった。
「おっけーおっけー。そこで固めちゃえば勝てるよ」
比呂子のライフにはまだかなりの余裕があったが洋子の方はレッドゾーン。
ライフバー全体の5分の1程度しか体力が残っていない。
アメジストの雨雲罠設置から鉄砲水と言う固めコンボもギリギリの所で耐え抜き、ユウコは辛うじて脱出した。
(超必殺技で回復されたらバトルが長引いて判定負けになる可能性がある。
敗北する要素は少しでも多く摘み取らないと)
前がかりに攻めようとした比呂子であったが、優の言葉が脳裏をよぎりかぶりを振る。
『優勢にゲームを進めている時こそ油断をしない事だ。
多少の有利は格闘ゲームではすぐに巻き返される』
ここはとにかく相手を倒すのでは無く、回復をさせない事だと判断した比呂子は相手に技を当てる事だけに集中した。
ガードさせていれば当然必殺技は使えない。
何秒かの時間を与えてしまえばそれだけで致命傷になりかねなかった。
「洋子ちゃん、相手を張り手で一度地面に転ばせて超必殺技を使う時間を作ればいいわ!」
あかりの声援は届いているが洋子はそれを実行に移す事がどうしても出来なかった。
近付こうとすれば追い払われ、遠ざかろうとすると飛び道具で動きを封じられてしまう。
「ラスト20秒……カウントのリセットはありません。
比呂子が凌ぎ切るか、相手が体力を逆転してしまうかです」
だが比呂子の防壁をかいくぐり、洋子は何とかアメジストの眼前にまで辿り着いた。
掴み投げを決めれば相手は端に追いやられ、その隙に体力を回復する事が出来る。
体力が逆転すれば洋子の勝利は揺るがないだろう。
(比呂子さんの体力は5分の4程度。
攻撃を当てた程度ではその差は埋まらない。回復しなきゃ……!)
雨雲罠に気を付けながらジャンプ中の蹴りがヒットし、アメジストは倒れ込んだ。
すかさず必殺技を使おうとした洋子であったが、素早く起き上がり丁度ユウコの頭上に設置されていた罠を発動させる。
「どうしよう、焦っちゃった」
比呂子がさり気なく誘導したとは言え、洋子も勝利を急ぎ過ぎた故の失策だった。
前がかりになればなる程当たり前のものが見えなくなる。
格闘ゲームにおいて1度の失敗が敗北に繋がる事はよくある事だった。
『TIME UP!』
結局洋子は健闘しアメジストの体力を半分近くまで削ったが、必殺技発動の失敗が響き追いつく事は出来なかった。
放心状態となり筐体に倒れ込んで溜息をつく洋子。
比呂子は彼女に近付き握手を求める。
「比呂子さん、強くなり過ぎですよ……何かあったんですか?」
「特訓の成果だと思いますよ」
洋子は何とか立ち上がると白チームの方へと戻っていった。一方比呂子は筐体の前に戻る。
「比呂ちゃん随分強くなったなぁ。
こんなに強くなってるとは思わなかったぜ。次誰が出る?」
大将の零を含め強者(つわもの)が揃う白チームのメンバーであったが、手を挙げたのはあかりだった。
「このまま紅チームが勢いに乗ったら不味いわ。
比呂ちゃん相手ならもう何度もやってるし癖は掴んでるわよ」
比呂子とは仲が良く、比呂子にしてみれば姉の様な存在であるあかりとの対戦は比呂子にとって気が重くなる試合だった。
「次の相手はあかり先輩ですか……お手柔らかにお願いします」
「今の比呂ちゃんに手加減なんかしてたらこっちが負けちゃうわよ。
全力で行くからね!」
あまり場数を踏んでいないとは言え、エターナルナイトではかなりの実力者である御母洋子を打ち負かすとなればあかりが本気になるのも当然だった。
一方比呂子はあかりとの対戦で1度も勝った事が無い。
そもそも残りの白組メンバーには勝てる気がしなかった。
「比呂子、今の貴方の実力なら柏糸涼介とも互角に戦える。
気を引き締めて戦いなさい」
栞から檄が飛ぶ。紅チームのメンバーも比呂子の実力に満足していた。
(結果がどうなるか解らないとは言え、相手にプレッシャーがかかっている事は事実。押し切りたい所ですね)
南屋朋美はあくまでマイペースに、試合の結果を受け止めていた。
純粋に今の実力を評価すると東郷恵や西園久緒より雨宮比呂子の方が優れていると彼女は判断している。
「リーダー。下手をすれば我々白組が大崩れする可能性があります。
今の内に出来るだけ相手の数を減らしておいた方が得策かと」
小声で耳打ちをした栞に対して、朋美は何も言わず静かに頷いた。
あかりが何時も使うサイファ・レッドボルケーノと比呂子の使うアメジスト・アクアスフィアは炎と雨の関係である。
つまりお互いがお互いを天敵として見る、長所を潰し合う戦いになりがちだ。
「戦い方はお互い承知の上。戦術も解り切っている。
サイファはスピードを活かして近付き、殴らなければならない。
アメジストは豊富な飛び道具を使って接近戦に持ち込ませない様にする。
どちらか片方が有利と言うワケでもねぇからな」
豊は過去何度と無くこの2人の対戦を見てきた。
結果としてはあかりが常に圧勝する試合が多かったが、それはあくまでも比呂子が未熟だったからであり実力が等しくなれば最早勝敗の予想は出来ない。
「比呂子さん、この1ヶ月で凄い腕を上げましたね。
僕も負けてられないなぁ」
涼介も舌を巻く程比呂子の強さは驚異的に上昇していた。
だがあかりも大学にいる間以外は常に携帯機で腕を磨いている。
「どっちが負けても、恨みっこなしだからね」
「私もそう言おうとしてました。遠慮はしませんよ!」
キャラ選択を済ませ、ステージは神殿前。
ヴァルー所属のキャラクターを1プレイヤー側が選択した場合の背景が映し出される。
『REAL DEATHGAME START!』
格闘ゲームではお互いの位置取りが重要な要素の1つであるが比呂子が画面の左端に逃げる様に移動し、あかりがそれを追いかける形から始まった。
牽制として上空で鉄砲水を繰り出したアメジストだったが、着地した瞬間の無防備な状態に対して容赦無く炎を纏った蹴りが繰り出される。
「あー。捕まっちまうか。アメジストに比べると1.5倍位は早いんじゃねぇの?あの動き」
久緒は敵のあまりの速さに対して舌打ちをし、恵もあかりの強さに驚きを隠せない。
「比呂子もそこは解ってると思うけど、経験積んでるプレイヤー相手にそうも言ってられないからね~」
蹴りによって宙を舞い、落下した所でさらに血も涙も無い怒涛の起き攻めが開始される。
だが逆にここまでやらなければ危険なのだ。
サイファは接近している時こそ強いが申し訳程度の飛び道具しか備えておらず、遠距離戦に持ち込まれると逆に一方的に押されてしまう。
(無慈悲だろうが何だろうが徹底的に叩かないと鉄砲水と雨雲設置罠と言う地獄の壁を作られてしまう。
それだけは絶対に阻止しなきゃ)
サイファは移動スピードだけでは無く、攻撃するスピードもかなり速い。
サイファもHPに対しての防御力はそこまで高い方では無いがアメジストはそれより防御力が低い為、ダメージを受け続ければ致命傷になりかねない。
防御しても全てを捌き切る事は出来ず、だから何?と言わんばかりに投げを決められ、場面端から脱出する事が出来なかった。
「おーおー。比呂ちゃん相手にえげつねぇなぁ。
ま、あんだけ強くなった比呂ちゃん相手に手加減なんか出来ねぇわな」
開始20秒でいきなり最初の体力を6割も削られ、比呂子は内心焦っていたがそれを表に出すまいと踏ん張っていた。
『格闘ゲームは心理の読み合いも大事な要素になってくる。
焦りや嫌な表情を決して相手に見せるな。そんな事をすれば勝率が無駄に減るだけだ』
(師匠、教えはちゃんと守っています。
先輩も心の緩みが出てきてるハズ。攻勢に転じるなら今しか無い!)
比呂子は衝撃波を放ち完全に無防備だったサイファを画面端に吹き飛ばすと、こちらも飛び道具の弾幕を張って応戦する。
「ターンが入れ替わったね。
あかりさんとしてはこのターンを一刻も早く自分のものとして取り戻さなければならない」
零も2人の実力が拮抗している事を見抜いていた。
彼自身比呂子とは何度か戦い、そのレベルを把握していたのだが今となっては彼女との戦いが熾烈なものになる事を予感していた。
「是が非でもココは、突っ込む!」
サイファの動きはシューティングで自機が敵の弾を避けて進んでいく光景に似ている。
防御を交えつつもジリジリと相手に近付いていくが流石に無傷のままと言うワケにはいかず、体力も同じ様に減りつつあった。
(焦れてくれば無理やり突っ込んでくる。
そこで刺す。愚直にそれを繰り返せば必ず勝てる!)
どんなゲームにもセオリーはある。
絶対的な正しさでは無いが、先人が積み重ねてきたデータはその作戦が間違いでは無い事を示しているのだ。
「比呂ちゃん、多少のダメージは覚悟してるわ。
肉を斬らせて骨を断つ、でしょ!」
あかりはその言葉通り、緩急を付けながら比呂子と同じ様に愚直な作戦を繰り返した。とにかく何が何でも近付く。
比呂子は何が何でも寄せ付けない。
意地の張り合いは膠着状態を作ったが、意外と早くにその状態は破られた。
「うッ」
比呂子はサイファが撃った炎に当たり、よろめく動作を見せたアメジストが殴られた瞬間思わず呻いてしまう。
サイファも肉を斬られまくり7割も削られていたが、最初のライフバーを失いラウンドを取られたのはアメジストの方だった。
「雨宮さん粘るなー。
あかりさん相手にここまでやるなんて……もう怖くて野試合を頼めないよ」
「うーん、でも私は火村さんの方が怖いな。
あれだけ雨宮さんが強くても押されちゃう位強いって事だもん」
観衆もこの紅白戦の様子を見守っていた。エターナルナイトではとびきり強い、看板スターとも言える者達が本気で戦っている。
それだけで見る価値があると思い様々な用事を放棄してこの場所に立っているゲーマーがいる程だった。
「後は残ったライフを維持してアメジストの残り体力を削るだけ。
最後まで突き進むしか無いわ」
カウントがリセットされ、HPがゼロとなりダウンしたアメジストの真横に立つサイファ。
手加減等しないと言う明確な意思のもと、相手が起き上がった瞬間に再び何度も攻撃を加える。
(連続攻撃、特に弱パンチの連打はまず見えない。
よって反撃は無理。遠ざかった所で繰り出す蹴りに合わせて一撃を入れる!)
反撃のタイミングを見誤れば即座に防御を破られ、さらにダメージを受けてしまう事は比呂子も充分承知していた。
その為、決して焦る事無く今アメジストに危害を加えている敵の動きを冷静に見つめ、攻勢へのきっかけを探る。
「今!」
一瞬の隙が命取りとなった。
雨雲設置罠を喰らい一時的によろめいたサイファに対して威力こそ弱いが相手を出来るだけ遠ざける為の蹴りが入る。
サイファが仕方なく防御姿勢を取った段階で鉄砲水が当たり、ダメージを受けたサイファは1回目のダウンを余儀なくされた。
(ダウン前に3割は削ったけど、超必殺技のダメージを考慮すれば差は無いと思って良い。
今度は私が当てていかないと)
ダウンした為、ダウンからの起き上がりに被せる様に鉄砲水と雨雲設置罠がばら撒かれる。
鉄砲水には一直線に飛んでいく『雨弾』と広がった状態で遅く飛んでいく『シャワー』の2種類があり、比呂子はそれを巧みに使い分ける事でサイファの強襲を阻止していた。
「あかりと互角かぁ……」
豊が感慨深そうに呟くと、涼介は笑みを見せて頷いた。
少なくとも現在のエターナルナイトでは、零、豊、涼介の次、ナンバー4の地位となっている火村あかりと互角に戦えるプレイヤーはそうそういない。
比呂子はベスト10にすら入れない実力であったが、この戦いだけで見ても、あかりの地位を脅かす存在となったのは確かな事だった。
お互いに強くなり切磋琢磨していく事でプレイヤーは上を目指しさらに輝きを増していく。
そのポジティブサイクルに比呂子が入ってきたと言う事は豊達にとって歓迎すべき素晴らしい出来事だった。
「比呂ちゃん、私は凄く嬉しいわ。
貴方がここまで腕を上げてくれて本当に嬉しいの。でも、ここは勝ちに行かなきゃ!」
サイファは設置罠をステップ回避でかいくぐり、とにかくアメジストに近付こうと懸命に足掻く。
ダメージを負いながらも何とか蹴りの先端が入り、ダウン後5割の体力を減らした所でコンボに繋げる事が出来た。
「サイファの攻撃力の高さとアメジストの防御力の低さから考えると、このコンボが完璧に成功すれば体力が逆転するな」
「アメジストもサイファもまだ超必殺技を残しているから、どちらが勝つか解らない状況だよね」
ジャンプ蹴りの連続ヒットからダウン追い討ちを決め、怒涛の起き攻めを開始するサイファ。
この最後の1発が入れば致命傷になる事が解っていたアメジストは衝撃波を放ってサイファを追い払おうとしたが、超必殺技の始動無敵時間を使ってサイファはそれを無視する。
「えッ!?」
超必殺技を発動する直前、キャラクターは無防備な状態になってガードが出来なくなるが、通常攻撃では無い『衝撃波』に関してはそれをいなす事が出来た。
勿論、相手の発動タイミングを読まなければ到底衝撃波に始動無敵時間を合わせる事等出来ない。
早ければ相手の暴れに潰されるし、遅ければ必殺技の発動に合わせたカウンターとして衝撃波で処理されてしまうだけだ。
完璧な一致。
状況判断と相手の動きを読んだ者にしか繰り出す事が出来ない乾坤一擲の策だが、あまりにも難易度が高い為運の要素も絡んでくる。
炎の拳の乱打を受けてアメジストが敗北した後もまだ、比呂子は呆然としたまま暫く画面を見つめていた。
「リーダー……」
「あかりさんの対処が少しでも早かったり、遅かったりしたら、比呂子さんが逆に超必殺技を出して勝利していたでしょう。
比呂子さんが決して劣っていたワケではありません。
運が無かったと言うだけの話。ここは素直に敵を称えるべきです」
朋美はあかりに向けて拍手をし、その拍手は観衆によって次第に大きな拍手へと変わっていく。
そしてその拍手は大健闘を見せた比呂子にも向けられていた。
「恰好良かったぜ、比呂ちゃん!ナイスファイト!」
「比呂子さん、凄いです!私が負けたのも納得ですね」
大舞台でこれ程盛大な拍手を送られた事が無かった比呂子は、我に返ると人々が皆笑顔で自分を褒めている事を認識した。
自分がこれまで狩谷と共に歩んできた道は決して間違ってはいなかったのだと思い、大粒の涙がこぼれる。
「私はぁ……負けてしまいましたが、精一杯頑張って、少しでも先輩に追いつこうとしました。
で、でも……やっぱり壁は高かったです。
これからも絶対に諦めないで戦い続けようと思うので、私を応援してください」
涙を流しながらも、声を絞り出して自分の伝えたい事を伝えた比呂子の肩に、あかりの手が触れる。
「有難うね」
このゲームセンターで共に学び、共に戦ってきたプレイヤー達の為に努力してきた比呂子を目の当たりにした事であかりの目も潤んでいた。
「もう1度、雨宮比呂子を称える盛大な拍手を!」
勝利したあかりが比呂子の腕を手に持って持ち上げ、もう片方の手でその挙げられた手を指さす。
その行為に呼応して観客から割れんばかりの拍手が再び巻き起こった。
「先輩……」
「比呂ちゃん、今までもそしてこれからも、私は貴方の側にいるからね。
一緒にもっと上を目指しましょう」
比呂子は、あかりのその言葉が嬉しくて頷く事しか出来なかった。
雨宮(あめみや)健太郎(けんたろう)は、最後まで決して諦める事無く戦った姉の雄姿を遠くから眺めていた。
小学生の彼にも、比呂子がどれ程凄い戦いを繰り広げたのかは理解出来る。
(お姉ちゃん、とっても恰好良かったよ。僕の誇りだ)
エターナルナイトのメンバーに近付けず、観客の1人としてしか姉を応援する事しか出来なかったが彼の心は晴れ渡っていた。
今側にいる事が出来なくても、自宅で必ず比呂子を祝福しよう。彼はそう思った。
「やりましたよ、豊さん!私、凄かったでしょ!」
「いやぁ、比呂ちゃんがこのレベルだと、俺達もうかうかしてられねぇなぁ。そうだろ涼介」
「焦らずに行きますよ僕は。
紅白戦で比呂子さん以上の結果を出してそれを証明してみせますから」
一応敵チームである白チームの方へ駆け寄り、喜びを露わにする比呂子。
その光景は彼女がエターナルナイトに対して強い気持ちを持っている事を示していた。
「比呂子があれだけ力を付けたってのに負けちまうとは……
火村あかりって奴は相当強ぇみてぇだな」
「じゃあ次は私ね~」
筐体の前に座っていたあかりは恵が席に座ったのを見て、画面に目を移した。
「……私から見ても、あかりさんは相当強いプレイヤーである事に変わりはありません。
恵さんも久緒さんも恐らくあかりさんには勝てないでしょう……
栞さん、その流れを変える役目は貴方に託しますよ」
「解っています。リーダーの顔に泥を塗るワケにはいきません」
朋美は恵や久緒が格闘ゲームに向いている人間だとは思っていない。
2人共下手の横好きと言った感じで、実力のあるゲーマーとの対戦でボロが出るのは解り切っていた。
それでも心の中で思う事がある。格闘ゲームは実力が全てでは無い。
チャンスを掴んだ側に勝利がもたらされる事もあるのだ。
「初めまして、東郷恵って言います。宜しくお願いしますね~」
「随分肌が黒いわね……
テレビに出てくる今時の女子高生って皆貴方みたいな姿してるけど、流行ってるの?」
キャラクター選択画面であかりは引き続きサイファを選択し、恵はオーブ・クリムゾンを選んだ。
「オーブかぁ。カーミラよりパワーは劣るがスピードがある。
スピード勝負になるだろ」
格闘ゲームのキャラクターには動きが似通っているが細かいステータスが異なるものが存在する。
吸血鬼のカーミラ・クリムゾンの血を浴びて吸血鬼化してしまったと言う設定を持つオーブ・クリムゾンはそういうキャラクターだった。
「どっちもスピードがあって遠距離攻撃も出来るからね。
お互いが良い所を押し付け合う形になるんじゃないかなぁ」
ステージは『古城』になった。雷鳴轟く背景の下、城の屋上近くが戦いの舞台となる。
『REAL DEATHGAME START!』
2人共まずは様子見を決め込んだ。遠距離攻撃を行いながら相手の隙を伺う。
「やれると思ったら飛び込んじゃいたいんだけどなぁ~」
オーブ・クリムゾンの飛び道具は何も無い空間から突如出現し、真横に飛んでいく蝙蝠だった。
命中して怯めばチャンスと踏んで相手は躊躇無く自分に近付いてくる。
あかりはそれをよく心得ていた。
「でもまだまだ粗さが目立つわね」
羽ばたきながら降下するオーブのジャンプには着地する瞬間に隙が生まれる。
相手のタイミングがずれる可能性があると言う利点があるものの、上級者にとっては願ってもないチャンスだった。
「今!」
行けると思ったら迷わず飛び込む。
その思い切りの良さも格闘ゲームでは求められる。
リスクは当然発生するがそのリスクを恐れず己の攻撃に繋げられるかどうか。
そこが勝利する為の鍵でもあった。
「やっぱ、力の差が出るな」
豊が呟く通り、一方的では無いにせよ大きくリードを広げたのはあかりの方だった。
コンボを叩き込みダウンした所で相手を端に追い込み、起き上がった瞬間に再び攻撃が当たる。
単純に見えるがそれは一瞬の攻防であり、防げるか否かはまさに攻められている側の技量にかかっていると言えるだろう。
「やばッ……」
慌てて衝撃波でさらなるダメージを回避した恵であったが、既に1回目のダウンが近い所まで追い込まれていた。
一方あかりは焦る事無く再びターンの取り合いに移行する。
体力で勝っている以上、無理をする必要は無い。
「恵の奴を赤子扱いする位強ぇのか。エターナルナイトの連中は」
「思っていた以上ですね。
リーダーが氷室零との対戦を熱望したのも頷けます」
NEWSZEROのメンバー達はあかりの勢いに圧倒されていた。
圧倒的なパワーとスピードで押していくのがサイファ使いのセオリーではあるが、明らかに普通のプレイヤーとは動きが異なる。
自分が相対した時、飲み込まれる危険性がある事を感じ、栞は冷や汗をかいていた。
「ここは無理でも突っ込んでいかなきゃ」
無理に攻めればカウンターを喰らう可能性がある事は承知していたが、このまま時間切れでラウンドを奪われる事は避けたい。
サイファに対して果敢に突っ込み長い爪での引っ掻き攻撃等を行うオーブであったが、ことごとくガードされてしまう。
「甘い甘い。大学そっちのけで遊んでる私を舐めないでよ」
褒められた事では無いが、あかりは豊よりも実戦経験を積んでいる。
外では携帯機で、自宅では据え置きで。
ゲームセンターに通い続けゲーマーから羨望の眼差しを向けられる様になるまで、それ程多くの時間はかからなかった。
サイファの蹴りがまともにヒットし、倒れた後気絶状態に陥るオーブ。
恵はラウンドを取られてしまった。
「ピヨっちゃったかぁ……」
悔しそうに拳を握る恵。
普段は付け爪で御洒落を楽しんでいる彼女であったが、勝負の時はしっかりとそれを外していた。
「大分差が付いちまったなぁ。
超必殺技がヒットしても苦しいんじゃないか」
「あかりさんは相手との付き合い方を心得てるね。
距離の取り方が上手いよホント」
ダウンこそ取られてしまったものの、体力ゲージは1本分残っている。
体力が残っている限り諦めるワケにはいかない。
一方サイファの体力ゲージは1本とさらに5分の4程残っている。
相当の有利が付いている事は間違いなかった。
多くの観客が見守る中、再びサイファとオーブのバトルが始まる。
60秒と言う時間制限がある為、恵としては何とか60秒の間に1度ラウンドを取る必要があった。
「これで相手が遅いキャラクターだったら逃げ続ける戦法もアリだけど、スピードはほぼ互角だからね」
涼介の言う通り、あかりはオーブの攻撃をいなしつつ凌ぎ切る実力が求められる。
「さぁて、やりますか」
ダウンさせられ。若干動きが及び腰になっている事をあかりは見逃さなかった。
すかさず相手の懐に入り込み一撃を叩き込む。
これ以上の追撃は絶対に阻止しなければならないオーブは早めに衝撃波を放った。
「気付いたら隣にいるんだもん。参ったなぁ~」
恵は逆転の可能性があるのならば今しか無いと考え、衝撃波で吹き飛ばされたサイファに追撃を行う。
サイファも懸命に粘るが、至近距離で出した蝙蝠がヒットし、守りが崩れてしまった。
「ちょっと雲行きが怪しくなってきたかな」
零はあかりの顔が一瞬歪んだのを見逃さなかった。
流れのままダウンを取られてしまう事は決して珍しい事では無い。
勢いのままやけくそ気味に突っ込んでも、勝てる時は勝ててしまう時がある。
それをどう防いでいくかと言うのも大切な部分だ。
「不味いかも」
あかりは早めにガードしたが、足を払う様な蹴りが入り、倒れてしまう。
起き上がりに大量の蝙蝠が出現し血を吸うと言う超必殺技が入り、一気にラウンドを取る寸前にまで追い込まれた。
「あー、やっぱりゲージに余裕があるから威力も若干弱いな。
レッドゾーンだったらダウンが確定してたんだが」
「豊、そこまでやられる余裕は無いって事だよ。
今はとにかく少しでも相手の体力を減らす事が優先だと判断したんだろう」
超必殺技を回避出来なかったのが悔しかったが、そんな事を考えている場合では無い。
あかりとしては一刻も早くこの嫌な空気を変えなければならなかった。
風向きが変わらなければ命取りになりかねない。
「まだまだ!」
超必殺技を受けてダウンしたサイファであったが、敵の追撃を何とかガードし隙を付いて炎の拳を当て相手を怯ませる。
残り20秒。この20秒が経過する前にオーブは是が非でも相手を倒す必要があった。
(牽制してる場合じゃない。意地でもダウンを取りに行く!)
だが焦りは同時に隙を生む。
オーブが走ってきた瞬間にサイファは炎を当て、怯んだ所で相手に近付き投げを決めた。
「裏目に出たね。ああなるともう再起のチャンスは巡ってこないよ」
一度は恵が感じた追い風も、自身の焦りと実力不足により空回りに終わり、今度は強烈な向かい風が襲い掛かる。
「負けられない、私は負けるのが嫌いだから!」
飄々とした態度を変えなかった恵も、ココに来て本気を出そうとした。
だが最早追い風に変える程の力は残されていない。
無情にもタイムアップとなり、紅白戦での恵の挑戦は幕を閉じた。
(私の攻めを赤子の手を捻る様にいなし続けて……完敗だね~)
溜息をつきながらも己の未熟さを把握する恵。
だがあかりは恵にも成長の可能性を見出していた。
比呂子の様に努力を怠らなければ、素晴らしいZEROプレイヤーになれるだろう。
それは彼女の今後の行動次第だった。
席を立ったあかりは彼女に握手を求め、恵もそれに応じる。
「貴方が最後に見せてくれた『負けたくない』って思う気持ち。
それを最初から最後まで貫き通せた時、きっと比呂ちゃんと同じ世界が見えると思うわ。頑張ってね」
恵に対して送ったあかりの言葉が彼女の心に突き刺さる。
クールを気取って熱くなれない自分の弱さを見透かされていた事を知った恵は、肩を落としたまま仲間がいる方へ戻っていった。
「見ててくれよ、恵」
彼女と言葉を交わした後、久緒は決意に満ちた表情であかりの前に立つ。
「強いんだな、アンタ」
恵に熱さが足りないとするならば久緒は熱過ぎる程の女性だった。
あかりを睨み、威嚇する様な態度で両手を腰に当てる。
「俺が止めてみせる。快進撃はココで阻止させてもらうぜ」
「私は何時もと同じ様に頑張るだけよ。疲れない様にしてね」
誰が相手だろうと同じ精神状態を保つ。
クールを気取る事とは違うが、格闘ゲームプレイヤーにとって心の強さは大事な要素だ。
少しの体調の変化や、努力の怠りだけで腕が大幅に下がる事も不思議な事では無い。
あかりはどんな相手が来ても万全の態勢で臨む事の大切さを心得ていた。
「久緒さんは彼女に対して随分敵愾心を剥き出しにしている様ですが……」
「なんというか、何処かしらあの女性と久緒さんは似ている気がするんです。
そこが気に障るんでしょう」
朋美の指摘は当たっていた。
久緒は自分と同じ『強い女性』に対して相手がそう振舞っている事が許せない時がある。
過去その気迫で相手を飲み込み何名かの女性ZEROプレイヤーに勝利してきた。
プレイヤーとしての腕は未熟であるが格闘家としてのプライドが久緒の原動力となっている。
(あかりさんは久緒さんの『力』に飲み込まれる様な小さい器では無い。
挑発されようが威嚇されようが平常心を保ち続けている。
残念ですが気迫が通用する相手ではありませんよ)
互いに席に着き、キャラクターを選択して画面が変わるのを待つ。
久緒は魔界の帝王と言う設定を持つD・KINGを選択していた。
「D・KINGかぁ。能力は平均的だがパンチに吹き飛ばしの判定があるキャラクターだ。
ヴォルフが技の発動速度で勝負するキャラクターなら、奴はコンボの多さで戦うキャラと言った所か」
「癖があるキャラクターだよね。
ヴォルフには無い『魔獣変身』があるし。
全く攻撃は出来なくなるけど速度が飛躍的に上昇する。
相手の猛攻から逃げるにはうってつけの形態でしょ」
豊と涼介もD・KINGとの対戦経験があった。
立ち回りを心得ているプレイヤーともなると『魔獣変身』を攻めにも利用する。
変身する時と元に戻る時の隙をどう誤魔化して戦うか。それがプレイヤーに求められる技術でもあった。
『REAL DEATHGAME START!』
再びステージは古城。あかりと久緒の戦いが始まった。
果敢に突っ込み無理やり攻撃を通そうとするD・KINGであったが、遠距離攻撃である炎の弾のせいで容易には近付けない。
「比呂子さんが使っているアメジストの様に連発する程の性能は無いけれど、サイファも遠距離攻撃を持っている。
あくまで補助的なものだけど、それを使いこなせているね。皆どんどん手強くなってるなぁ」
零はあかりのブレない戦い方に感心していた。
無理に攻めようとすればあしらわれ、逆に日和見になった瞬間に飛び込むと言ったタイミングを理解している。
「そう簡単には倒れないわよ。
エターナルナイトで育った私の力、見て頂戴!」
(クソッ。こんなに力の差があるってのか……
いや、そんなハズは無ぇ。そこまで強豪との差が大きいとは思っていねぇ!)
着地した瞬間の隙を見逃す事無く、D・KINGはすかさず拳を叩き込んだ。
攻撃した場所が画面端では無かったのでコンボには至らなかったが、有利と見て即座に追いかける。
「おー。やっぱ魔獣状態になると早ぇな」
「久緒さんと戦っていると苦戦するんですよ。
あのスピードは攻撃出来ないと言っても驚異ですからね」
比呂子の言う通り、攻撃が出来ないと言う欠点は変身解除によって幾らでも対応する事が出来る。
久緒は画面端で起き上がったサイファに追撃を浴びせようとしたが衝撃波によって防がれてしまった。
「堅ぇじゃねぇか。だが、俺は諦めねぇぞ」
キャラクターとプレイスタイル。この2つが解れば対策も見えてくる。
久緒は押せ押せとばかりにダメージ覚悟で突っ込んでくるがむしゃらタイプ。
そういう相手に対してはカウンターを狙う事が定石だ。
だが久緒の勢いを削ぐ為あかりは敢えて攻めに動いた。
(私の動きをよく見ている。こういう相手が調子に乗ると危険。
ココは叩き潰して弱気にさせなきゃ不味いわ)
技術でも年季でもあかりは久緒を上回っている。
それを証明するかの如く相手の防御を崩し、炎を纏った蹴りで相手を舞い上げると拳でコンボを綺麗に決めてみせた。
「やはり、真っ向勝負では……久緒さん。
技術勝負では勝てません。場を荒らすんです!」
朋美が助言を送ると、久緒はサイファの起き攻めを衝撃波で防ぎ、そのままステップを踏み始めた。
現在、あかりはHPバーをかなり残しているのに対し、久緒の方はあまり余裕が無い。
実力でも今の状況でも劣勢に立たされている為、彼女はギャンブル勝負に切り替える事にしたのだ。
「場荒らしか。『夢遊病』とも呼ばれる立ち回り方だな」
格闘ゲームでは常にこう動けば次はこうするだろうと言う一定のセオリーが存在する。
コンボのコマンドや気絶した時の対処法だけでは無く、立ち回りもある程度そのセオリーに従って行うのが普通だ。
それを敢えて崩し、予測不可能な動きを生み出す事で相手の動揺を誘い仕留める。
初心者にありがちな『ガチャプレー』(闇雲にボタンを押す行為)とは全く異なる戦い方だ。
「久しぶりに見たわね夢遊病。
私も腕が未熟な頃よくやっていたわ」
ただし、夢遊病をものともしないプレイヤーがいる事も忘れてはならない。
中途半端な実力で行う場荒らしは、自分自身の首を絞める可能性も大きいのだ。
あかりは魔獣状態で近付いてきたD・KINGが眼前に迫ると見せかけて距離を取る事を見破り、炎で足を止めるとそのまま攻撃しラウンドを取った。
「あかりさん、夢遊病も見破っちゃうかぁ」
「セオリー崩しと言いつつもガチャプレーとは違い夢遊病のセオリーも少なからず存在するからな。
そういう相手と戦ったり自分が実践していたりすると、そういう奇策に対して冷静に対処する事が出来るワケだ」
夢遊病の実践及び見破り方を伝授したのは豊だった。
元々ZEROプレイヤーの中には『古参組』と呼ばれている者達がおり、彼等はプレイ中のあらゆる動作を検証する事で様々な事実を教えている。
どの技がどの技に勝つか。
そのスピード、発生のタイミング。そういったものを把握する事で様々な対策が可能になるのだ。
(畜生……単なる強いプレイヤーじゃねぇ。
俺が全力で戦っても無理なのか。いや、まだ手はある!)
久緒は夢遊病を早々に諦め、通常の攻め方に戻した。
先程の怒涛の攻めでダメージが入った経験から、強引な攻めを展開する。
「元に戻っても、対処の仕方は同じよ!」
あかりは寄ってくる相手に対して応戦しようとした。
だが久緒は防御した直後に近寄り、そのまま拳を叩き込む。
「行ける!」
あかりの失敗は相手の気迫に押されたからでは無い。
『強引な攻め』が『強引過ぎる攻め』に変化した為タイミングが若干ズレていたのだ。
なりふり構わぬ攻めに対して同じ対処を行った結果、逆に自分が大きなダメージを受けてしまう。
「うーん。あかりも油断がモロに出たな。
通常の処理、夢遊病の処理、攻めに対する処理と違う戦い方を挟んじまったせいで呼吸が乱れたってのもあるんだろうが」
「これ、先輩のリズムが元に戻らないと不味い事になりますよ」
一度乱れた呼吸を元に戻すのは難しい。
不利な状況に陥っている場合は尚更だ。
あかりは何とか状況を打開しようとしたが、衝撃波を出そうとする前に防御が破られ、そのままあかりもダウンさせられてしまった。
(よし!イーブンまで持ち直した。
やっぱり俺の持ち味は攻めだ。ガンガン攻めていくぜ)
久緒が自分の持ち味を最大限に出す事であかりの実力を打ち消している。
あかりは気の緩みを自覚し両手で頬を叩き気合を入れた。
(調子に乗らせた結果がコレ。格闘ゲームはこの勢いに飲み込まれたら負ける。
ここからは気持ちを切り替えていかないと)
最終セットが幕を開けた。
どちらかがダウンするか、60秒経過した時点でのHP差で全てが決まる。
久緒は相手を怖気づかせ後退した所で仕留めようと、先程以上に積極的な攻めを展開した。
近付いて攻撃、近付いて攻撃を愚直に繰り返す。
「こういうのが意外と侮れないのよ。
じゃあどうするかって言うと……」
相手の猛攻を恐れて下手に出ると追い詰められる。
無理に捌こうとしても先程の様なミスをしかねない。
あかりは殴り合いを選択した。
元々サイファは攻めに回ると強いキャラクター。その戦い方が性に合っている。
「さっきの動きは相手を意識した攻めだったが、もうそれを捨ててただ殴りに向かう攻め方に変わったな」
「この2人の戦い方は似てるから、正直どっちが勝ってもおかしくないですよね。後は経験差かなぁ」
どちらも防御を捨てて殴り合う為、両者のHPが凄まじい勢いで減るのもこの戦い方の特徴だ。
そしてコンボを的確に入れられれば、圧倒的有利を保ったまま試合を終わらせる事も出来る。
サイファが近付いて投げを決め、起き攻めを行った所でD・KINGが衝撃波を出し、サイファが吹き飛んだ瞬間に魔獣状態となり近付いた。
殴り合いになれば当然攻守が目まぐるしく入れ替わる。
サイファは躊躇する事無く逆に近付いてきたD・KINGを攻撃した。
「お、変身を解除する前に殴られちゃったな。どうなる?」
「ちょっと焦り過ぎてるんじゃないの。
熱いのは構わないけど、タイミングを逃してるよ」
格闘家は周りが見えなくなる事があり、戦闘不能になった相手にも追撃を決めてしまう事がある。
久緒もカッとなると操作に粗が出る事があった。あかりにそのミスを見抜かれダメージを受けてしまう。
「俺は絶対に勝つ!
どんな戦いだろうと、負けるワケにはいかねぇんだ!」
不利な状況を覆す為には必殺技を当てる必要があった。
至近距離での発動にはリスクが伴うが、そのリスクを承知で久緒はサイファに近付いていく。
だが、相手にも必殺技がある事を忘れてはならない。
「ココッ!」
必殺技を当てる為に飛び込んできたD・KINGの攻撃範囲はそのままサイファの攻撃範囲となる。
あかりは必殺技を撃つ事を見越してカラ振りさせ、相手に隙が出来た瞬間に必殺技を当ててみせた。
D・KINGのHPはそのダメージによって全て失われ、あかりの勝利が確定する。
「……成程。流石に強い。
3人抜きを達成する実力はハッタリでは無いと言う事でしょう」
「私に任せてください。
リーダーの御手間をかける事無く、全員倒してみせますから」
結果を見てみればあかりも2本目のHPバーの半分まで減ると言うかなり危ない状況であった。
敗北に納得がいかず、呆然と画面を見つめる久緒。
暫くの間画面を凝視していたが、立ち上がりあかりの方を見る。
「面白かったわ。私も、久しぶりに熱くなれた気がしたもの」
「負けたワケじゃねぇ!完全に負けたワケじゃ……
畜生、覚えてろ!何時か必ず負けを認めさせてやるからな!」
久緒は今まで敗北を経験した事が無かった分、ショックも大きかった。
猛者達が集うゲームセンターで日々腕を磨いてきたあかりと比べると井の中の蛙であった事は否めない。
その瞳には涙が滲んでいた。
確かに圧倒的大差が付いたワケでも無く、今後の努力によっては伸びる可能性もあるだろう。
2人の健闘を称える拍手が起こる中、打ちひしがれた状態のままメンバーのもとへ向かう久緒。
だが彼女は全国大会で結果を残す事を諦めてはいない。
彼女もまた、頂を目指すZEROプレイヤーの1人なのだ。