火村あかりと井島豊。一緒に馬鹿な事をして笑って、触れ合って……
そういう若い不変の恋・友情を描きたいとずっと思っていました。
こういう話を書くのが1つの目標だったのでとても嬉しいです。
井島豊は、物心ついた頃からずっと母親と一緒に生活していた。
母親は優しく接してくれたが豊の心の中には常に満たされない部分があり、それが簡単には手に入らない事も薄々理解していた。
彼の傍らに、父親はいなかったのである。
「コラ、アンタ達!何やってるの!!」
火村あかりは公園で虐められていた少年を見つけ、数人の少年達と向かい合っていた。
「何だよ、女が邪魔すんなよな!」
「女だろうか男だろうが、不当に酷い事をされてる人を見捨てるつもりは無いわ」
子供の虐めは大人になってからの虐めよりシンプルで周りの人間が把握し易いものである。
気に入らないからとか、自分達と違っているからと言う些細な理由から『排除』しようと暴力を振るう。
しかも子供の為大人にはある自制心があまり無い。
その為、虐められている側は常にボロボロの状態に陥るのだった。
「そもそもよ、俺達に喧嘩でも売るつもりか?俺達は5人もいるんだぜ」
虐めっ子側のリーダー格が前に進んできてあかりを睨み付けた。
あかりは手で思い切り相手の頬をはたく。
一瞬視界が白くなる程のビンタを受け、相手はよろめいた。
その隙を見逃さずあかりは相手の腹に向かって前蹴りをし、そのまま相手を地面に倒す。
「かかってきなさい」
あかりは小学生の頃から背が高く、特にこの時は男子よりも背が高かった。
その為あかりも『大女』と呼ばれて虐められていたのだが、それを全て暴力で跳ね返してきたのだ。
「くそッ、こうなったら全員でやっちまえ!」
地面にのびたリーダー格を見て4人は一斉に襲い掛かるが、心の奥には怯えがあったのか、若干足がすくんでいる。
それを見たあかりは、足に蹴りを入れて怯ませると、虐められていた少年の手を取った。
「4人全員を相手にし続けるのはリスクがあるし、ここは逃げちゃいましょう」
少年達は痛みに顔を歪めながら追おうとしたが、時折足を押さえてしまう為捕まえる事が出来ない。
傷だらけの少年は走るのも辛そうだったが、何とかあかりと共に逃げる事が出来た。
「あらあら、顔にも傷が出来てるわね。
待っててね、すぐに綿とチンキ剤を持ってくるから」
あかりの母親はそう言うと、あかりの自室である部屋から一旦離れていった。
あかりの家は住宅街の中にあるごくありふれた一軒家で、一人っ子だったあかりは両親から溺愛されている。
蝶よ花よと育てられたが女の子よりも喧嘩が強く、困っている人を助けたいと言う気持ちを強く抱く様になった。
「どうして、僕を助けてくれたの?」
少年はあかりから顔を背けていた。
身体も青あざが目立ち、服も公園の土が埃の様に付着している。
「理由なんていらないでしょ。
君が虐められていたから、助けただけ。私も似たようなものだけどね」
あかりは少年の事を知っていたが、まだそれ程親しかったワケでは無かった。
少年もまたあかりが虐められている事、そして殴り返しに行く程の強さを知っており若干憧れを抱いている。
「持ってきたわよ。すぐに用意出来なくてごめんなさい。
傷が酷くなるといけないから、早めに消毒しておかないとね」
あかりの母親はかつて看護婦だったが、入院患者だった父親と親しくなり、退院後も交際を続けて結婚した。
困っている人を助けたいと言う気持ちは母親譲りであり、今でも母親は傷を負った相手を見ると献身的に接する。
「痛いかもしれないけど、我慢してね。
もっと痛くならない様に、今の内にちょっと痛みを経験すると思えばいいわ」
殴られたり蹴られたりした時の傷を治療してもらい、母親は部屋を出ていった。
「凄いよね、相手の数が多くても立ち向かっていっちゃうんだから……僕には真似出来ないよ」
「何言ってるの。こういうのはね、舐められたら負けなのよ。
虐めって言うのは虐める事にリスクが無いと相手が思うから虐めるの。
私達がしっかりしていれば怯むものよ」
少年はベッドに腰掛けると、壁の一点を見つめていた。
そこには一枚の絵が貼られている。
幼稚園に通っていた頃にあかりが描いたもので、今でも大切にしているものだった。
「それ、一番上手いって先生が褒めてくれたんだ」
その絵には肩車をしている父親と、あかり本人、そして横で微笑む母親の姿がいきいきと描かれている。
そして絵の上部には平仮名で『おとうさんとおかあさんとわたし』と書かれていた。
「僕、片親の子供って言う理由だけで虐められてるんだ。
どうして父さんと母さんが離婚したのかは今も解らない。離婚したのは確かな事だけど」
少年の頬には涙が伝っていた。
俯きながら、絞り出す様に言葉を発する。
「母さんは優しいけど、父さんの事は何も知らないし……顔も解らないんだ。
どんな人なのかも、どんな仕事をしているのかも。
あんな風に僕も、肩車してもらいたかったな……」
あかりは少年の顔に両手を当て、自分の方へ向かせると相手の目を見据えた。
「私にはアンタのお父さんの代わりにはなってあげられないけど、困ったり虐められたりしてるアンタを助けてあげる事は出来る。
1人で悩まないで。
苦しい気持ちは解るけど、1人だけじゃなかなか前を向く事は出来ないんだから」
笑顔を見せると、我慢出来なくなった少年はあかりを抱きしめ、声にならない嗚咽を漏らした。
あかりはそれを受け入れ、頭を撫でる。
彼を強くする為に、彼の力になろうと彼女は決意していた。
「何だよ、急に」
学校の昼休み、校舎の裏で虐められていた井島(いじま)豊(ゆたか)はリーダー格の少年を睨み付けていた。
「もう僕は今までの僕じゃない。
あかりの為にも、変わらなければいけないんだ」
その言葉に対して嘲りを含んだ笑いが起きた。
何時もの5人が彼を囲んでいる。
「大女がいねぇと何にも出来ねぇ片親ゴミ野郎が何を言うかと思えば……」
ヨロヨロと立ち上がり、相手に向かっていった豊は殴られ、地面に倒れ込んだ。
「親父はどうしようも無い奴だったんだろうなぁ。
だから離婚した。その駄目親父の息子はどうかな?」
無抵抗の相手を何度も蹴り、いたぶり続ける。子供はこういう部分で容赦が無い。
子供は無意識に自分達がどんな事をしようとそれ程大事にはならないと言う事を理解している。
「駄目息子、だろうが!」
背中を地面に押し付ける様な形で蹴って、そのまま踏みつける。
豊は何とか起き上がろうとした。
「コラ!何やってるの」
姿が見えなくなった豊を探していたあかりは、ようやく彼等を見つける。
あかりは駆け寄ろうとしたが、豊は横に転がって相手の足から抜け出すと立ち上がってあかりを止めた。
「僕が……やらなくちゃいけないんだ。
何時までもあかりに助けられてばかりじゃ駄目なのは解ってる」
自分に力が無いのは解っていた。
だが残っている全ての力を振り絞ってリーダー格の少年に掴みかかる。
「な、てめぇ!」
吼え声の様な声を発し続けながら、体重をかけて相手を押し倒した。
そして精一杯の力でビンタを見舞う。
(強く相手の頬を叩くと相手の脳が揺れて意識が飛ぶのよ)
相手が立ち上がれない間に今度は豊が相手の腹を足で踏みつける。
助けようと残りの4人が襲い掛かったが、その4人は向かってきたあかりと戦う事になった。
何度も何度も残った力を使って相手にダメージを与える。
リーダー格の少年は味わう事の無かった苦痛と恐怖にのたうちまわった。
「た、頼む!もう止めてくれ。俺が悪かった!」
すっかり怯えて身体を縮めているリーダー格の少年を見て、分が悪いと感じたのか残りの4人は逃げていく。
「無様なモンね。部下を従えた王様気分だったんでしょうけど、あいつ等は所詮有利な方にしか付かない蝙蝠よ」
背を向けて走り去る彼等の後ろ姿を見ながら、あかりはそう言って震えている少年の方へと目を向けた。
虐めっ子は自分が虐められる側に回る事を想定しておらず、自分が窮地に陥ると崩れやすいものである。
「もう、弱い者虐めは止めなさいよ。
そういう事を続けていると、いずれはアンタが社会的弱者になっちゃうんだからね」
そう相手に言い放つとあかりは傷だらけのまま倒れていた豊を抱え上げると、肩を貸して一緒に歩き出した。
「恰好良かったわよ、豊」
「あかりにそう言ってもらえると、僕も嬉しいよ。
今度は、君を護る側になりたいな」
豊はあかりに向けて笑みを見せる。それはあかりも久しぶりに見る彼の笑顔だった。
「わ、私の水着が……」
あかりと豊が出会ってから、かなりの年月が経過した。
あかりは高校3年生。豊とは違うクラスであったが変わらぬ交流を続けていた。
そして当時1年生だった雨宮比呂子が虐めに遭っていた時、彼女を救ったのもあかりだった。
「どうしたの?今日はプール開きしてから最初の水泳授業でしょ?」
数名の女生徒は臆病で引っ込み思案な比呂子に陰湿な虐めを行っていた。
靴に画鋲を仕込むのは日常茶飯事で、トイレにいる時にバケツで水をかける、動物の死体をポストに入れる等、その内容の全てが犯人特定がし難いものだった。
犯行グループの特定は容易だった。
だが決定的な証拠も無い為、教師も迂闊に動く事が出来ない。
事なかれ主義で動く高校では、虐めが横行する。
比呂子はこの日もカッターでズタズタに引き裂かれた水着を涙を流しながら見つめていた。
「あーあ。それじゃ胸も股間も丸見えね。
いっその事、裸で泳いでみたら?男子の注目を集めちゃうかも」
下卑た笑い声が教室中に響き渡る。
他の生徒は見て見ぬふりをしていた。
(またやってるよ、古橋グループの連中)
(慶子はうちの高校に多額の寄付を行っている綾小路財閥と関わりがある、大会社の御令嬢だからなぁ)
比呂子はただ悔しそうに歯噛みしながら、涙を流す事しか出来なかった。
「ちょっと待ったぁ!」
教室から離れていたこのクラスの担任と共にあかりが部屋の中に入ってきた。
比呂子は顔を上げ、彼女の顔を見る。
「あかり先輩!」
当時既にエターナルナイトで知り合っていた2人は意気投合し、あかりは彼女が受けている虐めについても知っていた。
「あらあら、火村あかりさんじゃないですか」
古橋グループのメンバー、鈴木玲子が声をかけた。
「アンタ達の悪行もこれまでよ。
どんなに卑劣な手を使おうが、映像は真実だけを映してくれるわ」
あかりは担任教師の方を見る。
これまでこの問題に関わろうとしなかった男性教諭が重い口を開いた。
「……古橋。お前が雨宮の家のポストに小包を入れる所が火村のカメラに映っていた。
即座に調べるとその小包の中には鳩の死骸が入っていたそうだ」
教室内が騒がしくなる。古橋はそれでも動じなかった。
「その映像が何処で撮られたものなのかは存じませんが、100%私が犯人だと言う証拠は有るんですか?」
無闇に喚かず、ボロを出すまいと彼女も強気だった。
彼女は自分だと解らない様にフード付きのジャージを着用しており、その場で捕らえなければ警察抜きでの立証は困難を極める。
「まず、フードを被っていた人物が比呂ちゃんの家のポストに小包を入れたのは間違いないわ。
私は定点カメラじゃ無く、ちゃんと家の前を見張っていたから貴方を尾行したの。
比呂ちゃんの家から貴方の家に着くまでには人通りの多い商店街を通らなくちゃいけない。
だから公衆トイレで普通の服に着替える必要があった。怪しまれたくないと思ったんでしょうけど」
あかりは商店街を歩く私服姿の古橋が写っている写真を提示した。
「公衆トイレから出てくる貴方の姿はバッチリ撮影したわ。持っていた鞄の種類は一致。
別の人に即座に調べてもらったけどその時トイレ内には誰もいなかった。
流石にこの2人が別人だと言い張るには無理があるわよね?」
畳みかける様に喋られ、古橋は動揺していた。
ここまであからさまな証拠を握られてはぐうの音も出ない。
「古橋、ここまで証拠が出たんだ。
私も動かないワケにはいかない。週末に親御さんと話し合おう。
この高校で虐め問題が表面化するのは避けたいんだよ。
もうこんな事はしないと誓ってくれるな?」
古橋は憤怒の形相であかりを睨み付けた。
「後悔する事になるわよ」
「私は悪には屈しないわ。貴方がどんな罠を仕掛けようと、絶対に暴いてみせるから」
そのまま教室を出ようとしたあかりに向かって、比呂子は力強く手を振る。
「先輩、有難うございました!」
一方虐めの証拠を握られた一味は、あかりに対する復讐を考え始めていた。
「いやー、丑三つ時まで起きてるのは流石にしんどかったわ。
あそこの商店街、深夜も賑わってるから良かったけどそうじゃなきゃ決定打にはならなかったわね」
放課後、あかりは比呂子と共に高校を出た。
比呂子の身を案じての行動だったが、自分の身に危険が及ぶかもしれないと言う事は彼女も承知している。
「先輩には助けられてばかりですね。
ゲームセンターで絡まれていたのを助けてくれたのも先輩でしたし……」
「ガラが悪いのは何処にだっているわよ。
その点エターナルナイトはそういう迷惑な客を締め出す人がいるからね。
もうすぐZEROの店舗大会だし、また一緒に頑張ろうよ比呂ちゃん」
「はい、先輩!」
その時、何者かの気配を感じたあかりは、咄嗟に比呂子を庇った。
胸に小石が直撃し、胸を押さえてその場にうずくまるあかり。
3人のフードを被った者達が囲む様に立っている。
「ふーん、その手で来るんだ」
人通りの少ない通学路。
逃がさない様に、そして距離を詰められない様に絶妙な位置取りをする3名。
手には小石が握られている。ポケットの中にも相当数の小石が入っている様だった。
「せ、先輩……」
「戦国時代によく使われていた石礫(いしつぶて)戦法よ。
石を投げるだけの単純な方法だけど、相手と距離が取れるし頭を狙えばかなりのダメージを与える事が出来る」
比呂子を庇い後ろに立たせると防御姿勢を取るあかり。
だが3名もいると背後からの攻撃が捌き切れない。
攻撃の意思を持っている3名は、あかりが庇っている箇所以外に石を投げつけ、怯んだ所で急所を狙おうとした。
2人が窮地に陥った時、数名の警官が道の両側から走ってくる。
3人は両側の高い塀に阻まれ逃げられず捕まった。
「危なかったな」
警官を連れてきたのは豊だった。
攻撃されている所を見せ、絶妙なタイミングで確保させたのだ。
「オッケー。タイミングもバッチリだったわね。
ここまで来るともう遊びじゃ済まされないわよ3人とも」
フードを取ってみると、その3名は全員古橋グループのメンバーだった。
「慶子に指示されて……仕方なく」
彼女達の証言は先程の迷いの無い攻撃の仕方からいずれ否定されるだろう。
3人は傷害未遂の現行犯で署に連行されていった。
「本当に有難うございます」
「いやぁ、あかりと一緒に夜更かししたり大変だったぜ。
でもこれで、奴等の虐めも沈静化するだろ」
「そうだといいんだけどね。
私もずっと比呂ちゃんを守る事は出来ないし、仲間になってくれる人を探さないと」
この数か月後にあかりは当時高校1年生で別のクラスにいたZERO好きの優等生、南屋朋美を見つけ、後を託した。
その後あかりは朋美とは疎遠になってしまい、紅白戦が行われる時まで会う事は無かったのだが……
季節は過ぎ去り、冬の訪れが近付いていた。
古橋慶子は配下の様に扱っていたクラスメイト3名が逮捕された後、逃げる様に転校し、姿を消した。
同時に公立虹見高校に資金援助を行っていた綾小路財閥も援助を打ち切ったが、既に多くの金を受け取った後だったので大事には至らなかった。
流石に刑務所に入る事は無かった3人だったが、クラスに戻ってからはまるで別人の様に大人しくなり周囲の冷ややかな視線に耐える毎日を送る事になる。
悪しき影響が消えた事で比呂子にも友達が出来る様になり、あかりと豊は安心して受検勉強に打ち込む事が出来た。
「この間、自分で記事を書いて闘戦興に送ってみたんだけどさ」
授業が終わった後の帰り道、豊はあかりと一緒に歩きながら話をしていた。
「よく書けてるって褒めてもらえて、見習いからで良いなら高校卒業後是非ウチに来てくれって言われたんだよ。
文才が認められたって言うのは嬉しいモンだよな。
大学に行く事も考えてたんだけど夢を追いかけようと思ってる」
嬉しそうに話す豊の話を聞きながら、あかりは頭の中で自分の将来の事を考えていた。
(大学には行けると思うけど、その先の事が不透明なのよね。
何になりたいとか全然無いし……
ZEROに対しての思い入れは強いから趣味人になっちゃうのかな。
仕事は適当に決めちゃいそう)
こういう仕事をしたい等と言った明確な目標は豊と違いあかりには無い。
あかりは目標を持っている豊が羨ましいと思いつつ、豊と疎遠になるかもしれない事に不安を感じてもいた。
「私はとにかく、目の前の受験に集中しないとね。南条商業大学は結構レベル高い所だし」
「お前の実力なら大丈夫だろ。
この前の試験でも学年でベスト30には入ったじゃねえか。行けるって」
小学校の頃からずっと一緒にいる豊と離れたくない。
その思いはとても強かった。
たとえ活躍する場所が変わっても、手を繋いで共に生きたいと思っていたのだ。
ただあかりには結婚願望は無かった。
結婚はお互いがお互いを束縛し合うだけで得は無いと思っていたからだ。
そして豊にも結婚願望は無かった。
幼い頃に両親が離婚していた事で彼は『愛』に疑問を感じていたからだ。
2人は何となく、『その時』が来る事を感じていた。
そしてそれは、予期せぬ形で唐突に訪れた。
冬休みが近付いていたある日、受験勉強の息抜きにあかりは豊を家に招き、共にゲームを楽しんでいた。
当時あかりは両親と共に実家で暮らしていたが、丁度その日は両親が夫婦だけで温泉旅行に出かけており数日は帰ってこない事になっていた。
「今はまだ夢でしか無ぇけどさ……
何時かゲーム雑誌の記者になって、皆が喜んでくれる様な記事を書きてぇんだ」
「豊なら出来るわよ。
私もちゃんと大学に合格出来る様に頑張らないとね。あ、やった8連鎖!」
落ち物パズルではあかりの方が強く、豊は5回に1回勝てれば御の字と言う有様であった。
「パズルではあかりには勝てねぇわ。ZEROでなら勝てるんだけどなぁ」
「ふふん。そう簡単には負けられないわよ。ちょっとジュース入れてくるね」
あかりは立ち上がると、飲み物が切れた為冷蔵庫の方へ向かった。
2人分の飲み物をパックからグラスに注いで、戻ろうとしたその時、不注意から躓いてしまう。
「うわッ!」
物音が聞こえた為、急いで豊はあかりのもとへ向かった。
幸い怪我は無かったが、グラスに注いだジュースの殆どがあかりにかかり、体中ベトベトになってしまっている。
「良かったな怪我が無くて……俺が後片付けしておくから、シャワーでも浴びてこいよ」
グラスも割れておらず、台所の床がフローリングだった為そこまで被害が大きかったワケでも無い。
あかりは脱衣場に向かい、豊は雑巾で床を拭き始めた。
シャワーを浴びている最中、あかりは自分の体の成長を改めて感じていた。
(毛も生え始めてきたし、胸もこの3年間で随分大きくなったわね……)
元々平均身長よりも高く運動神経も良かったあかりは、胸の膨らみや腰のくびれによりモデルの様な体型に変化しつつあった。
だが男勝りの性格から異性が告白してくる事も無く、女生徒から慕われているだけで誰とも恋に落ちた事は無い。
「初体験かぁ……もうやった子もいるみたいだけど、死ぬ程痛いって言ってたっけ」
激しい運動をする者は性欲も強い傾向があるが、あかりも一般の女性より性の興味は強く持っていた。
自慰行為は小学校高学年の時に経験し、それがどういう行為なのか正しく認識してからは回数も増した。
(もし初めてをあげる相手がいるとするなら、豊よね。
受け取ってくれるかどうかは解らないけど……)
セックスが初めての場合どう痛いのか。
そして本当に快感へと変化するのか。あかりは純粋に興味を持っていた。
自分の身体だけで無く異性の身体にも興味があり、その行為が『気持ちいい事』なのかどうか知りたかったのだ。
「もしかしたら、今日がその日なのかもしれない」
御膳立ては整っている。
家に2人きり。今日は誰も帰ってこない。後は自分が決断するだけ。
あかりは覚悟を決め、念入りに身体を洗い始めた。
バスタオルを巻いただけの姿で戻ってきたあかりを見て、豊は面食らった。
「服、無かったのか?ここはお前の家だろ」
その問いには答えず、あかりは豊に対して質問で返す。
「……豊はさ、セックスとかに興味ある?」
微笑んではいたがその瞳の奥に真剣さを感じ、豊は黙ってしまった。
「私は興味があるんだ。相手になってくれるのは豊しかいないと思っていたし……
私の初めて、貰ってくれない?嫌なら仕方ないけど」
「嫌じゃ無ぇよ。
だけど……なんつーかもうちょっと自分の身体を大切に」
あかりは頬を膨らませ、立ったままバスタオルを横に広げ、裸体を露わにする。
「私は、豊が好きなの。私が初めてをあげたい相手は豊しかいないから。
豊は私の裸に興味無いの?私の事、好きじゃない?」
矢継ぎ早に言われ、豊は黙ってしまった。
だが、その男性を誘惑する様な裸体から目が離せない。
「お前、思ってたより胸でかくなったな」
「もっと小さいかと思ってた?3年間で結構成長したのよ、私も」
豊はゲームとテレビの電源を消すと、ゆっくりとあかりに近付き、その身体を強く抱きしめた。
「本当に……良いんだな?
やるとなったら多分加減とか出来ねぇぞ。俺も初めてだし」
「それは、私としてくれるって解釈で良いんだよね?」
豊は頷くと、そのまま横にあったベッドにあかりを押し倒す様な形で覆い被さる。
彼は自分でも馬鹿な事を言ったと思っていた。
本当は彼自身、ずっと繋がりたいとは思っていたのだ。
ベッドの上で豊は、まじまじとあかりの裸体を見つめていた。
外はまだ明るかったが、ゆっくりと夕闇が近付きつつある。
その陽に照らされた彼女の身体はとても淫靡なものに感じられた。
「下、見てもいいか?」
「別に良いよ。これからそれだけじゃ済まない事をするんだし」
あかりに足を広げさせ、股間のそれに指を這わせる。
そのまま両手で膣を真横に開き、薄桃色の部分を凝視した。
自然と、豊の喉が緊張している事もあって鳴る。
あかりは覚悟こそしていたが恥ずかしくなり顔を両手で覆った。
「おっかしいなぁ。
私はもう全部覚悟の上なのに変に気恥ずかしくなっちゃって」
「別に不思議な事でも無ぇだろ。誰だってそうなるさ」
インターネットや本で、豊は何度か女性の裸体を見る機会があったが恥部に関してはモザイクがかかっており見る事は無かった。
女性の身体に関しておぼろげな知識しか持っていない豊にとって、何もかもが初めての事で勝手が解らない。
(それにしても、膣ってエロいな……多分本能的にそう思うんだろうな。形状とか色とかで)
あかりは両手で顔を隠しながらもその指の間から豊の方を見ていたが、相手の股間も膨張している事を認識した。
(あんまり時間をかけない方が良いかもしれないわね)
あかりは豊におあずけさせるのは気の毒だと思い、服を脱がしにかかる。
豊は下手に抵抗するのも変だと思い、相手のされるがままになっていた。
「準備しておくから、豊のも見せてね」
豊はあかりの頬が恥ずかしさ以外の要素で赤くなっている事に気付いた。彼女が喋る度に荒い吐息が漏れる。
(何だ?俺は何もしてねぇのに、あかりの奴やけに興奮してんな)
豊は疑問に思いつつも服を脱がされ、トランクスのみの姿になった。
子供の頃は貧弱な肉体だったが、最近は運動もこなしかなり筋肉が付いてきている。
あかりも女性にしてはかなり身長が高い方だが、豊はこの時点で180cmを越えていた。
「じゃあ、豊のを見せてもらおうかな。
実際に男の人のを見るのは生まれて初めてよ」
あかりも性知識は本やインターネットで見たが、モザイクがかかっている男性器すら見た事が無い。
膨らんでいる布に指をかけ、そのまま下に降ろす。皮が剥け、雄々しく反り立った陰茎が姿を見せた。
「へぇ……こんな形なんだ。これが私の中に入っちゃうんだね」
先程ジュースを拭く時に使ったタオルの中から使用していないものを取り、優しく陰茎を拭いていく。
裸のあかりに自分のモノを見られていると言う現実に対して、豊は抑えがきかなくなりそうになっていた。
「じゃあ、良いよ……とりあえず、入れてみよっか」
寝そべり、自分の両手で膣を広げてみせるあかり。
既に濡れており、愛液がだらだらと垂れてきている。
「どうして、俺が触ってもいねぇのにそんなに濡れてるんだ?」
「そうね、入れてみれば解るんじゃない?」
悪戯っぽく笑うあかりに対して、豊は我慢する事が出来なくなっていた。
片手で怒張している陰茎を掴み、あかりが両手で広げている膣の入り口に亀頭が触れる。
若干理性が残っていたのか、ゆっくりとその中に入っていく豊。
その刹那、あかりは鈍い衝撃を感じて歯をくいしばった。
(ひぎッ!?)
それは、皮膚を剥がされるかの様な強烈な痛みだった。
全身が擦りむいた後に海水をかけられた様な感覚も同時に襲ってくる。
破瓜の痛みは単一のものでは無く、言葉で言い表す事が出来ない複合的な激痛であった。
(覚悟はしてたけど、やばい位痛い!)
歯をくいしばった状態のままでいないと、舌を噛んでしまいそうな程の激痛に自然と涙が溢れる。
血が流れ出し、ベッドのシーツに赤い染みを作っていた。
(な、なんだこれ。どうなってるんだ?)
一方豊の方は、まるで別の生命体の様に陰茎を包み込み扱いてくる膣の中の感触に驚いていた。
あかりの膣内は俗に『ミミズ千匹』と呼ばれる名器で、さらに彼女自身の意志で膣内を動かす事が出来ると言う技能も併せ持っている。
つまり彼女は全く手や道具等を使う事無く自慰行為を行う事が出来、両手で本を持ちながら絶頂に達する事も出来たのだ。
(な、成程……だから俺が何もしなくても興奮してたり、濡れたりしてたのか。
それにしてもウネウネ動いてきて凄ぇな)
絡みついてくる柔らかな肉の壁に包まれ、陰茎がさらに硬く、太くなっていく。
(と、とにかく早く出してもらわないと私がもたない!)
あかりの方は激痛に耐えながら膣を動かし、少しでも早く初めての性行為を終了させようとしていた。
まるでフェラチオの様に陰茎に絡みつき、精を搾り取ろうとしてくる。
豊の方もなるべく早く終わらせようと激しく腰を出しいれした。
「うッ」
豊はその複合的な快楽に逆らえず、あっさり射精してしまう。
挿入してからまだ数十秒も経過していなかったが、名器に勝つ事は出来なかった。
避妊にまで考えが及ばず、中に熱い白濁液を注ぎ込む。
血が出ていた膣の中に注がれた事で鈍い痛みが襲ってきた。
「こんなに痛いなんて……ハンマーでお腹の中を何度も殴られてるみたいだったわ」
萎えた陰茎を抜くと、血と精液の混ざり合ったものがだらだらと膣口から溢れ出す。
豊は先程のタオルを2人分持ち出し、濡らして絞ると部屋に戻ってあかりに1枚渡した。
「痛ッ……何回か回数をこなさないと気持ちよくなれないって所は女性が損してるわよね」
濡れタオルで陰部から出てきている精液を拭きとる時も、傷に沁みて激痛が走る。
陰部に電気ショックを受けているかの様な痛みのせいか、勝手に涙が流れていた。
「気持ち良かった?」
全裸のまま、ベッドに横たわった状態であかりは豊にそう聞いた。
「なんか、気持ち良かったのは間違いねぇけどあまりにもせわしなくてな……」
豊の方は全裸のまま椅子に座るのも不味いと思い既にトランクスをはいている。
どちらも全てを出し切ったと言った感じで、暫く身体を動かしたくも無い状況であった。
「最初はね。私にも負担が大きいから……
慣れてきたらゆっくりする事も出来るんだろうけど」
特にあかりの方は膣内の痛みがまだ残っている為、ベッドから起き上がるのも苦痛になっていた。
「それでも最初が無ければその続きも無いのよ。
私達がもし出会っていなければこんな事をする関係にもなっていない様にね」
豊はあかりのその言葉を噛みしめていた。
初めて出会った頃から、ずっと彼女は変わっていない。
何時も豊を励まし、当たり前の様に側にいて優しく接してくれる。
そんなあかりの事が好きだった。
ただ、片親と言う状況の中で育った豊には、そこに恋愛感情は無かった。
寧ろ男と女の熱い友情だと思っていたのだ。
「……俺さ、小さい頃に親が離婚しただろ?
だから、人を愛するって事に関して臆病になっちまってるのかもしれねぇ」
あかりは何とか身体を起こして上半身を壁に預けると、涙を拭いて笑顔を見せた。
「それでいいんじゃない?
私も豊と結婚する願望は無いし。一緒に遊べればそれで良いのよ。
これからも宜しくね。
2人で一緒に歩いていけば、それぞれの負担も軽くなる。そういうものでしょ」
あかりの屈託の無い笑顔に、豊の涙腺が滲んだ。
豊にしてみれば快感を与えてくれる行為と言うだけのセックスも、あかりにとっては2人を繋ぐ絆の構築に他ならない。
ずっと一緒にいる為に。適当な暮らし方でも構わない。
2人で一緒に歩いていきたいと言ってくれているのだ。
「有難うな」
他に言葉が見つからず、豊はあかりを強く抱き締め嗚咽を漏らした。
(ホント、子供の頃から何も変わってないんだから。
私が側にいなきゃ駄目ね)
あかりも豊の抱擁に応じ、母親の様に頭を撫でながらしっかりと抱き合った。
公立虹見高校の卒業式で、一番涙を流していたのは比呂子だった。
1年生の為卒業生にエールを送る事は出来なかったが、あかりとはしっかりと握手を交わす。
「南条商業大学への進学、おめでとうございます先輩。私も頑張りますから」
「比呂ちゃんもね。今の内に勉強しておけば、きっと素敵な店を開けるわよ」
クマッタシリーズが大好きだと言う比呂子は、それらを扱うファンシーショップを開き店長となって経営を行うのが夢だった。
それぞれの夢に向かって皆走り出している。
あかりは彼女の事を誇らしいと思う反面、自分の将来に明確な目標を持てずにいた。
卒業式終了後、あかりは豊と共に家路に向かっていた。
高校卒業後、あかりは両親の承諾を得て1人暮らしをする事が決まっており、豊も同じアパートへ引っ越す事になっている。
「憧れていたゲームに携われるんだ。
何でもいいからZEROに貢献したいと思ってた。その夢がやっと叶うんだな」
「豊に実力があったからこそよ。これからも宜しくね」
豊の瞳は大きな希望に満ち光り輝いている。
あかりはそんな彼の事が好きだった。一生懸命になれる豊の事が。
「お互いに研鑽し合って、強くなっていこう。
時間はたっぷりあるんだからな。2人で前を向いて……」
唐突に頬へのキスをされ、照れ臭そうにする豊。
「おいおい。誰かに見られでもしたら不味いだろ」
「良いのよ、バカップルと思われても。
誰に笑われたって平気だわ。そう思わせとけばいいじゃない」
豊は微笑むあかりの姿を見ながら、この幸せがずっと続く事を心から願った。
出会いがあれば別れがある。
2人の旅はまだ始まったばかりだった。