気持ちを切り替えて前に進もうとする人の心とか
励まし合って共に強くなっていくのだと言う覚悟とか
その辺りがこの話のメインだと思っています。
【2010年 8月9日(月) 午後1時 千葉県本郷 火村あかりの自宅】
月山新二にとって、2010年の夏休みは忘れられないものとなった。
己の技術の全てを出し切り、自分を育ててくれた師匠に勝利したと言う事実を今も尚疑ってしまう。
そして新二の努力が実り火村あかりや九龍玖留美が氷室零を助ける事が出来た。
まさしくハッピーエンド。
それは新二にとっても同じだった。
(師匠はその日のうちに借金を完済する事が出来た。
減らなかった800万円を返して、200万円のプラスになった。
失ったお金の方が遥かに多いだろうけど、ヤクザまがいの金融屋が相手だったのだからしょうがない。
気持ちを切り替えて、再起を図るべきだと師匠に言った。
師匠も俺の意見に応じてくれた)
雨宮比呂子に対して涙を流しながら何度も頭を下げていた樽酒桃子の姿が脳裏に浮かぶ。
幼い頃に出会った姿とは違っていたが、新二にとって自分を導き一人前のZEROプレイヤーにしてくれた恩人である事に変わりは無い。
彼女と新二が経済的な余裕を手にする為に、自分が率先して頑張らなければ。
新二はそう思っていた。
(今年の全国大会で優勝すれば、1億円が手に入る。
合衆国で開催される全米大会への出場権も獲得出来るんだ。
そこで優勝する事が出来れば1000万ドル。
10億近くもの金が手に入る。
勿論、簡単に勝てる様な大会じゃないだろう。
でも俺は師匠に必ず貴方を支えると約束した。
格闘ゲーマーとして食べていく為には、この規模の大会で勝ち抜いていくしか方法は無い)
合衆国で初めて開催される『ZERO GALAXY BATTLE 2011』。
州予選を勝ち抜いた50名と天武日本の全国大会で優勝・準優勝という成績を残した2名、合計52名の猛者が集う。
州予選には国籍を問わず参加する事が出来る為、世界中のトッププレイヤーが並び立つ大会になるであろう事が解っていた。
新二がこの大会で優勝しようと思うのならば、大学生活も寝食(しんしょく)も忘れてひたすら練習に励まなければならない。
楽しい反面、苦しい時も沢山訪れるだろう。
心が折れかける様な事が起きるのも覚悟するべきだ。
そんな精神と肉体を擦り減らす日々に身を投じる前に、新二は『御褒美』だけは受け取っておきたかった。
火村あかり。
月山新二にとって彼女は第二の師匠であり、彼に性交の素晴らしさを教えてくれた女性でもある。
教わった事が全て糧となり、ZEROにおいても普段の生活においても助けてもらっていた。
彼女から受け取った技術や土壇場での自信が無ければ、大事な試合であっけなく敗れていたかもしれない。
『もうすぐ行われる大事な試合で貴方が勝ったら、もっと凄い夢を見せてあげる』
彼女に対する淫らな思いが勝利への渇望、原動力の1つとなった事は間違いの無い事だった。
(男って言うのは馬鹿だよな……
俺自身、馬鹿である事を自覚してるんだけどさ。
人参を目の前にぶら下げられて、懸命に走って……
そして勝ったからその人参を食べようと思っている。
師匠と共に歩んでいこうと誓ったばかりだと言うのに、快楽には抗えない。
酷い人間だよ俺は)
そう、樽酒桃子に『結婚してください』と言ったばかりである新二は、本来火村あかりから『御褒美』を受け取る事が許されない立場にいるハズだった。
あかりから電話がかかってきた時に毅然とした態度で断るべきだったが、誘惑に屈してしまったのだ。
(許してください。
俺は一生懸命戦って、結果を残した。
また同じ様な日々に戻る前に、温もりを感じておきたかったんです。
あかりさんとの温もりを……約束します。
今日があかりさんと交わる最後の日です。
御褒美を受け取ったら、師匠以外の人と交わらないと約束しますから……)
心の中で何度も言い訳を繰り返しながら、アパートの階段を登り扉の前に立つ新二。
本音を言えば夜の薄明りや朝の意識がハッキリしていない時に彼女と交わった為、真昼間に彼女とセックスが出来るのならばしてみたい。
その欲望に突き動かされて来てしまったと言うのが偽りの無い心境だった。
扉の前にあるインターホンを鳴らすと、火村あかりが彼の前に姿を現した。
「待ってたわよ、新二君。
期待してた?」
何時もの黒いTシャツ、紺のジーンズと言ったラフな服装だ。
新二も彼女とあまり変わらない恰好だった。
「期待してなかったって言うと嘘になっちゃいますね……」
満面の笑みを浮かべるあかりに対して、新二は困った様な表情をしながら頭を掻いた。
「立ち話もなんだから、上がって頂戴。
貴方には本当に感謝してるのよ」
綺麗な白い歯を見せつつ、腕を引っ張ってくるあかりと共に新二は部屋の中へと招かれた。
あの時と同じ部屋だがカーテンが開いており、夏の日差しが差し込んできている。
「暑かったでしょ。
大したものは無いけれど、麦茶があるから飲んで」
「あ、いただきます」
床に直接座り込み、机の上に肘をつけ自分の家の様にくつろぐ新二。
あかりは寧ろ『御客様』の様に振舞われるのは嫌だった。
仲の良い相手には普段通りにしていてほしかったのだ。
「冷蔵庫の中に入れておいたから、ある程度は冷たくなってると思うけど……」
「すいません、色々気を遣ってもらっちゃって」
コップに注がれた麦茶をビールの様にぐいっと飲み干すと、新二はあかりの顔を見つめた。
「やだ、私の顔に何かついてる?」
「いや……凄く綺麗だなぁと思って」
新二は御世辞では無く本気でそう思っていた。
樽酒桃子も初めて会った時に美しい人だと思ったが、火村あかりとは美しさの方向が違う。
桃子は恐らく、同性から見て『恰好良い』と思われる様な凛とした顔つきをしていた。
あかりは桃子とは違い、異性を誘惑するかの様な顔つきをしている。
上目遣いで見つめられると電気が走る様な感覚が全身を駆け抜けた。
「今日は東京からワザワザこっちに来てくれて有難うね。
大変だったでしょう」
「片道1時間ちょっと位、何て事無いですよ」
机の上で手を組み、微笑むあかり。
新二はこの屈託の無い笑顔を見て、子供の頃を思い出す。
桃子は厳しく新二を鍛え上げてくれたが、時折見せる笑顔が『頑張ろう』と思わせてくれた。
あかりもまた、最高の笑顔で新二を支え、上の領域へと押し上げてくれたのだ。
「最初に、お礼を言わせて。
貴方が勝ってくれなかったら、私達の勝利は無かった。
零の命だって保証されていなかったんだから、拳銃の弾を抜いていても勝たなければならなかった。
皆の勝利だけれど、その勝利に貢献したのは新二君、貴方なのよ」
「俺も勝てて良かったです。
正直な事を言うと、師匠に勝った事が少しだけ心苦しかったんですが……
でもあの局面では、勝つ事が大事だった。
皆の幸せに関われて俺も満足しています」
新二は隠さずに本音を語った。
自分が恩を感じている人間と勝負して勝利を目指すのは辛い事だった。
勝った時に僅かな虚しさが心に残ったのは確かだ。
それでも結果的には自分自身で納得出来ていた。
「あの後告白したんでしょ?
桃子さんから聞いたわよ。
貴方達2人なら、きっと上手くやっていけるわ。
幸せな家庭を築いていけると思う」
あかりが平然とそう言ったのを聞き、新二は少々戸惑った。
「知ってて、俺を呼び出したんですか?」
「あ、もしかして私が貴方の事を非難するとでも思ってる?
そんな事はしないわよ。
新二君が桃子さんに対して抱いている感情と私に対して抱いている感情は違うもの。
愛情と性欲は別だから……
楽しめばいいのよ貴方も、そして私も」
あかりはそもそも、電話をかけた時点で自分も同罪である事を解っていたのだろう。
新二がそれに応じた事も責めなかった。
井島豊もそうであった様に、男はそういう生き物だと言う事を把握していたからだ。
あかりは立ち上がり、一気にTシャツを脱ぐと床に投げ捨て新二を誘った。
「始めましょうか。
新二君も脱いで頂戴」
レース柄の黒いブラジャーが大人びた雰囲気と妖艶さを醸し出している。
脱がし合い等と言うまどろっこしい事をするつもりはお互いに無かった。
する時は、理性を捨てて性欲を貪りたかった。
全裸になり、ベッドのある寝室へ移動したあかりと新二は股間や胸を隠す事無く向かい合う。
「昨日の夜に電話したけど、その後溜めたの?」
「まぁ、そりゃ溜めますよ。
翌日の昼にセックスする予定があるのに自家発電する馬鹿はいないでしょう」
新二は少し目線を逸らして照れたが、股間の肉棒は完全に亀頭が剥け重力に逆らっていた。
さらに言えば新二に自家発電を行う余裕など無かった。
土曜日の朝から試合前日のプレッシャーと戦い、試合当日は言わずもがな。
妄想に現を抜かす暇さえ無いと言う状況の中で、精液はどんどんと蓄積されていく。
そしてあかりと裸で向き合った今、新二は欲望を遠慮する事無く解き放とうとしていた。
「新二君の好きな様にしていいからね……」
女性にしては背が高いあかりは、新二と真正面から向き合うと唇の位置がそこまで変わらない。
互いを求めるかの如く新二が少し強引にあかりとキスをしながら、Dカップの胸に手を添えた。
(へぇ、結構がっつくのね)
あかりはそっと剛直に手を伸ばすと、手で軽く握り締め扱き上げる。
新二のもう片方の手があかりの股間に触れ、指が膣口の中に潜り込んだ。
「あかりさん……」
「いいよ、新二君。
女の子が感じる部分の扱い方がだんだん解ってきたじゃない」
分泌液が指に付着し、指がべとべとになるのも構わず彼女を悦ばせようと努力する新二。
艶めかしい表情で荒い息を吐きながら、あかりも負けじと彼自身を上下に擦る。
2人はキスの時に舌を絡ませたり、抱き締め合ったりしながら快楽を得ようとし続けた。
欲望を抑えられなくなった新二があかりをベッドに押し倒す様な形になり、覆い被さる。
「君のやりたい様に動いてみて。
これは貴方への御褒美なんだから」
熱い吐息と共にそんな声が耳元で聞こえ、新二の股間は爆発寸前の所まで膨れ上がった。
「……解りました」
理性の糸を自分から切った新二は片手で陰茎の根元を持ち、挿入を試みるがなかなか入らない。
「おちんちんを入れる事だけを考えるんじゃなくて、腰を前にぐっと突き出さないと。
あともうちょっと下の方。
うん、この態勢で前に踏み出せば入るんじゃない?」
あかりが新二の手首を握り、位置を微調整する。
あかり以外の女性との経験がまるでない新二にしてみれば、まだまだ女性の身体の事を理解出来てはいなかった。
「あ、あああ……」
ぬるりと熱い肉壁の中に肉棒が潜り込んでいく。
根元まで埋めると新二はあかりの肩に両手をかけた。
「うん、入ったね。
後は抜き差しすれば大丈夫よ」
母親が子供に対して行う様に頭を撫で、微笑むあかり。
最初の時よりは慣れているとはいえ、初めてと変わらない新二は暴発しない様耐えるだけで精一杯だった。
(あの時もそうだったけど、勝手に絡み付いて俺のを擦ってくるんだよなぁ……
ピストン運動を始める前に終わってしまいそうだ。
あかりさんの為にも踏ん張らないと)
自分だけが気持ち良くなって終わると言う事態だけは避けたい。
そう思って動き出そうとするものの、名器の中で赤子の様に弄ばれる肉棒の快感に終始圧倒され続けた。
「私の事は気にしないで。
思いっきり気持ちよくなってもらうのが『御褒美』なんだから。
そのまま出しちゃっていいよ。
私が本気で相手をしてるんだからしょうがないわ」
あかりは自分の意志で膣内を自在に操る事が出来る。
入れた瞬間から新二に対して最上の快感を与え続けていたのだ。
「だッ駄目。
出ちゃう、出ちゃいます」
「解るわ。
新二君のが膨らんできてるから」
咄嗟に新二はあかりに抱き付き、あかりもそれを素直に受け入れる。
根元がきゅっと締め上げられた瞬間、決壊したダムの様に肉棒の先端から白濁液が噴き出した。
「くッ……くぅぅ」
「あー、新二君のがビクビクしてる……
身体も小刻みに震えてるし。
思いっきり射精してるんでしょ?」
僅かな膨張と収縮を繰り返しながら欲望を吐き出していく熱を感じながら、あかりは愛おしそうに新二を抱き締めた。
「すいません、俺だけ気持ち良くなってしまって……」
「いいのよ。
貴方に喜んでもらう為に呼んだんだもの。
私の事なんて今日は二の次で良いんだから」
やがて、勃起した状態を保てなくなった肉棒がずるりと抜け濁った液体が膣から溢れ出す。
「これだけで終わりじゃないでしょう?
まだいけるわよね」
「ええ、まだ勃つとは思いますけど……」
あかりの横でベッドに寝そべった新二。
あかりは移動すると萎えかけた陰茎に舌を伸ばした。
「とりあえず、また硬くなってもらわないとね」
乱暴に扱くのでは無く、指を絡ませながら丁寧に手を上下させつつ先端部分を咥え込む。
「う、うわ……
凄く気持ちいいです」
「ほりゃあね。
ひもちよふふぁへてるんらもの」
(そりゃあね。気持ち良くさせてるんだもの)
奥まで咥えたり、先端を舐めたりして常に刺激を与え続けるあかり。
しぼんだ風船に空気が入って膨らんでいく様に、陰茎が硬さを取り戻していく。
その作業を数十秒間繰り返しただけで、再び肉棒の先端が上向きの状態へと戻っていた。
「それじゃあ、次に進みましょうか。
もう出てきても大丈夫ですよ!」
誰かに呼びかける様な声を発するあかりに対して、上半身を起こし戸惑う新二。
「え、それってどういう……!?」
あかりや新二と同じ生まれたままの姿で現れたその女性の顔を、新二が忘れるハズが無かった。
「し、師匠……」
あかりよりも若干低い身長で、ぽっちゃりを通り越し肥満と言って差し支えの無い身体。
大きな胸は太っているせいなのか垂れ下がり、腹は蛙の様に膨れている。
「シン君……
あかりさんから電話をもらった時、浮気されたと思って辛かった。
でも考え直したの。
今の私の身体じゃシン君に振り向いてもらえないって。
今は94キロもあるけれど、いずれはダイエットして必ず昔の身体を取り戻してみせるわ」
桃子はそう言いながら、あかりとの通話を終えた直後の事を思い出していた。
欲望の捌け口の対象が自分では無く、あかりである事に強いショックを受けた桃子。
自室のベッドに座ると木製のベッドが大きく軋む。
(でも、今の私とあかりさんじゃあかりさんの方をシン君が選ぶのも……)
桃子の自室には姿見としての鏡は置かれていなかった。
過度のストレスから暴飲暴食に走り、ブクブクと太っていった日々。
大好物の肉まんをほおばる回数は倍近くにも増え、甘くてカロリーの多い飲料ばかり飲む様になった。
気付けば昔の美貌は失われ、自分が客観的に見てもおぞましい『怪物』へと変貌していたのだ。
「シン君の為にも、痩せないと……」
誰に言うでもなくそう呟くと、ベッドから時間をかけて立ち上がる桃子。
痩せていた頃は全く苦では無かった何でもない行為が、『太っている』だけで全て億劫になってしまう。
常に脂肪によって喉が圧迫されてでもいるのか少し息を吸っただけでも苦しい。
滝の様な汗が流れ出ていた。
幼少期の新二と行動を共にしていた頃の美しかったシルエットは見る影も無い。
彼女は荒い息を吐きながら服を脱ぎ、下着だけ着用している状態でスマホの自撮り機能をオンにした。
顔と身体の変化は自分が見ても即座に解る。
顔全体が膨らみ、特に頬は頬袋にものを詰め込んでいるのかと思う程大きく膨れ上がっていた。
腰から足にかけての下半身も見るに耐えないものだ。
三段腹に大根の様な太い足、足は太った身体を支える為に潰れ大きくなっていた。
特に致命的なのがその大きくなった足。
ダイエットに成功して脂肪を削ぎ落とす事が出来たとしても、28cmの足は元には戻らないだろう。
おぞましい現実を見せ付けられ、桃子は咄嗟にスマホをベッドに投げつけると椅子に座り頭を抱えた。
(栄光の日々を、楽しかった頃を忘れようとしていた。
私はこの数年間、死んだ様な生き方をしていた……
明日に希望を見出せなかったからこそ、自暴自棄になって身体のケアを蔑ろにした。
その代償は大きいわ)
椅子も座った瞬間にギシギシと音を立てる。
昔は運動もしていたが、脂肪が錘となって軽快な動きを封じ込めていた。
「それでも私は……」
桃子は新二と一緒ならば、やり直せる様な気がしていた。
ゴールの見えないマラソンを続けていた彼女に手を差し伸べた新二。
借金返済の為に金を渡してくれた彼の仲間達。
ようやく下を向いてばかりいた人生から脱却出来たが、この姿のままで終わるワケにはいかない。
(シン君があかりさんを選んだと言う事実は受け止めよう。
それを否定しても意味は無い。
私がしなければならない事は、昔の私を取り戻してシン君に振り向いてもらう事……)
愛し合いたかった。
自分を救い上げ、愛してくれる人と添い遂げたい。
今の体重では新二が潰れてしまう。
頭の中でまとまっていなかった考えが1つの答えに辿り着いていた。
「自堕落な生活とはさよならよ。
本気で頑張らなきゃ元には戻れないもの」
ダイエットもまた、地獄の苦しみが待ち受けているだろう。
食事調整・太った身体での運動……
身体を動かす事で生まれる苦痛や、強烈な食欲と戦わなければならない。
それでも暗黒の時代に味わった屈辱や涙に比べれば、我慢出来ると思えた。
愛する相手の為だと思えば、どんな困難でも乗り越えていける。
桃子はポジティブな考え方が出来る様になっていたのだ。
「シン君、待っててね。
私、必ず貴方に相応しい女になるから」
強い決意を口にした彼女の耳に、再びスマートフォンの着信音が聞こえていた。
「新二君が私の誘いに乗った時、私は桃子さんに連絡を取ろうと思った。
敢えて新二君が私とセックスする事を告げる事で、彼女が発奮すると思ったからよ。
元々綺麗な人だったんだから、プライドを傷付けられた事で痩せようとするハズ……
でもそれだけじゃ足りないと思った。
今の桃子さんと新二君が向き合う事で、見えてくる未来があると思うの」
悔しさや嫉妬が這い上がる為の材料になる。
敗北によって得られるものがある事は桃子が一番良く解っていた。
そして自分のだらしない身体を晒してでも、新二に抱いてほしいと言う欲望にも抗えなかったのである。
「私が……
今の太っている私が、シン君を支える女性として相応しくないと言う事は私自身が一番良く知ってる。
あかりさんの方がずっと魅力的だし、包容力がある事も解っているの。
我儘かもしれないけど、それでも私はシン君の事が好き。
その気持ちを裏切る事なんて出来ない!」
新二の前で全裸の姿を見せたのは、一歩も退かないと言う覚悟と決意の表明だった。
嘘や誤魔化しに逃げる事無く、今の自分を冷静に見つめ生まれ変わる事を大切な人に誓う。
桃子はそうする事が必要だと思っており、今度は自分から新二に自分の思いを伝えたいと思っていた。
「師匠……」
一方、桃子の事を一旦忘れてあかりとのセックスに溺れたいと思っていた新二は困惑していた。
自分がこれから共に歩いていこうとしている相手が、自分を許したとはいえ他の女性とのセックスを覗き見していたのだ。
自分が選ばれなかったというやるせなさや、嫉妬の感情が渦巻いていただろう。
新二は今、桃子に対してどういう言葉を投げかければいいのか皆目見当が付かずそれ以上何も言う事が出来なかった。
「次は私として。
抱いて!!」
涙を流しそう懇願する桃子の姿は、口に出す事は出来ないがとても憐れだと感じられた。
(俺、凄く醜い人間なんだな……
師匠とする事をこの時になって躊躇っているなんて。
所詮人間は顔や見た目が大事か。
コレで師匠が痩せて美貌を取り戻したら、心の中で掌を返す俺がいるんだろうな。
ああ、ダサい……ダサ過ぎるだろそんなの。
関係無しに抱き締めてやるべきなんじゃないのか)
頬を伝う涙は、桃子に対しての憐憫の情などでは無く情けない己の腐った根性を憂うものだった。
いざという時に委縮してしまう駄目な自分を変えたい。
その為に新二はあかりとセックスしたのではなかったか。
萎えそうになる陰茎を奮い立たせ、新二は彼女の前に立つと彼女の肩に手をかけた。
「こんな私と……
本当に相手をしてくれるの?シン君」
河馬(カバ)が小動物の様に懇願している。
心の中で溢れる侮蔑的な感情。
新二は己の心の矮小さに呆れていた。
それだけ、彼は無意識の底で太った女性を嫌悪していたのだ。
「師匠、姿がどんなに変わっても……
師匠が俺の憧れていた人である事に変わりは無いですよ。
あかりさんとは誘惑に逆らえなくてついしちゃいましたけど、師匠を愛する心に偽りはありません」
偽りだらけの言葉が並ぶ。
新二は桃子があの頃の美しい桃子に戻る事を期待して彼女と人生を共にする事を選んだのだ。
目の前にいる桃子に対して『愛情』を感じる事はあっても『性的欲情』は殆ど感じない。
「シン君!」
感情が弾けたのか、キスを求めてくる桃子。
不細工な顔が眼前に迫り、唇が突き出される。
新二は流石にこの要求を拒絶すると大変な事になるのが解り切っていたので、嫌々ながらそれに応じた。
目の前の映像を完全にシャットアウトして、昔の桃子を頭の中に思い浮かべる。
最悪、あかりの顔でも構わない。
こうして実際に桃子と対峙するまで、新二は自分が恐ろしいまでの面食いである事を理解していなかった。
服を着ている状態と、全裸の状態では当然露出しているパーセンテージが違う。
服を着ていた事で誤魔化していたのであろう『たるみ』が露わになっていた。
(うわぁ、あかりさんと比較してみると一目瞭然だな。
肩幅の広さが全然違う。
ちょっと垂れてるけどカップ自体はあかりさんよりも大きいのか。
Gカップ位はあるかもしれない)
膨れた顔は細面だった頃と異なり、似顔絵を描いた場合丸を描いて済ませられる程真ん丸に近くなっている。
大根足を広げてもらうと、切り揃えられて見栄えの良い陰毛と膣が姿を現した。
「今すぐに出来る事は、出来る限りやったつもりなんだけど……」
太っている人間が一番気を付けなければならないのは体臭だ。
汗をかきやすくなっており、特に脇や局部などは入念に洗わなければ匂いが取れない。
腋毛を剃り、香り付きのボディーソープで全ての体臭を取り除く努力を行った後香水でさらに己の匂いを誤魔化す。
事実新二が彼女の膣をじっと覗き見た瞬間、新緑の香りが鼻腔をすり抜けていくのを感じた。
(俺とどうしてもしたいが為に、ここまでの努力を……
これはやりたくないなんて言ってる場合じゃ無いな)
とにかく、性交に対するモチベーションを上げなければ挿入する事も出来ない。
新二は目を閉じ、先程あかりとしたセックス……
強烈な快感と幸福感を思い浮かべる。
「緊張してるの?
手伝ってあげるわ」
新二が全身から発している『やる気の無さ』をそれとなく察したあかりは、彼をサポートしてやる必要があると思った。
2人の邪魔をするのでは無くあくまでセックスがスムーズに行われる様、それぞれの性器を刺激する。
「いいですそれ……凄く良い」
「あかりさん、指が……
ああッ、感じちゃうぅ」
細い指を陰茎に絡ませながら亀頭に舌を這わせつつ、もう片方の手で桃子の膣を丁寧にまさぐった。
沙織とのセックスで男女両方の悦ばせ方を心得ているあかり。
少しの間それを続けただけで新二の肉棒は雄々しく脈打ち、桃子の膣内からは相当量の愛液が溢れ出ている。
「私の出番はココまで。
後は困った事があった時にサポートする位にしましょうか」
あかりはそういうと横にどき、椅子に座ると手を組んだまま微笑んだ。
桃子はベッドに寝そべったまま手淫による快感を残しており、その余韻に浸っている。
新二は桃子の足を横に広げさせ、熱く滾った亀頭の先端を膣口にあてがった。
「……それじゃあ、いきますよ」
とにかく、張っている時に入れなければすぐに萎えてしまいそうだった。
グラビアアイドル級の美貌を誇るあかりと比較している時点で桃子が凄まじく不利なのだが、新二の心の声が桃子に聞こえるハズも無い。
目を開けたまま興奮出来る妄想を頭の中に思い描き、中折れしない様注意を払いながら腰を前に突き出していく。
「シン君のが、入ってくる」
桃子は処女どころか、大勢の男と性行為を行っている。
さしたる苦労も無く肉棒は根元まで潜り込んでいった。
(あ、熱い?
あかりさんの中より温度が高い気がする。
熱が溜まっているかの様な……)
酷使され続けた膣はゆるくなり、新二の剛直を締め付ける力はあかりよりも劣っている。
だが熱を持った膣壁が肉棒に触れる度に、言葉で表現しようの無い快感が全身を駆け巡った。
(うわ、温かいのに包まれるとこんなに気持ちがいいんだ。
即射精って程でも無いけど)
膣内の温度が人間の平熱より少し高いと言う事はよく知られている。
太っている人間は常に熱を身体から発している為、痩せている人間よりも体内の熱がこもりやすい。
さらに桃子は無意識下で敗戦のショックを引き摺っていたのか、若干風邪気味の状態だった。
風邪を引くと人間の体温は上がる。
それに応じて膣内の温度もさらに上がっていくのだ。
「師匠、凄くあったかくて気持ちいいですよ」
「私で気持ち良くなってくれるのなら嬉しいわ。
もっと私を感じて頂戴」
温度だけで言えば熱いおしぼりが肉棒に巻かれているかの様な感覚。
あかりが持つ強烈な締め付けや蠕動による扱き上げは皆無に等しいが、熱だけで一定以上の快感を得る事は出来ていた。
(興奮してるからなのかな?
肌の温度もあかりさんより高い。
肉の塊に抱き締められてるみたいだ)
太っている女性とのセックスは、まるで母親の胎内に包まれているかの様な安心感がある。
何をしても許されるのではないかと思う程の包容力。
身体が大きい分、新二はその温かさをより強く感じていた。
「気持ち良くなってくださいよ、師匠」
「夢みたい……
シン君が、この姿の私を受け入れてくれるなんて」
心から受け入れたワケでは無い。
新二にはあかりとセックスをしていたと言う負い目がある。
桃子とのセックスを拒めば彼女が痩せた時、彼女の隣にいる事は絶対に出来ない。
今では無く、新二は数年後に訪れるであろう未来を見据えていた。
(師匠が俺の事を好きになってくれれば、ダイエットにも励むだろう。
今俺がすべき事はただ1つ。
自分の好き嫌いを殺して師匠を気持ちよくさせる事だけだ)
ゆるくなっている膣内でのピストン運動はあかりとセックスする時より遥かに容易だった。
抜けそうになるギリギリの所まで腰を引き、一気に奥へと突き入れる行為を繰り返す。
「シン君の、シン君のがいいのぉ!」
快感に酔い、昔の彼女からは想像も出来ない程だらしない表情を浮かべる桃子。
(雌豚って言う言葉は、こういう時に使うんだろうな)
新二は口が裂けても本人には言えない率直な感想を頭の中に思い浮かべた。
醜悪な顔に思わず陰茎が萎えそうになる。新二は桃子が喘いでいる隙にあかりの方を見た。
「桃子さんを悦ばせてあげなさいよ、新二君。
後で私も混ざってあげるから」
椅子の背もたれに両手と顎を乗せ、小悪魔の様な笑顔を見せるあかり。
溢れんばかりの大人の魅力と淫靡な姿を見る事であかりが与えてくれた強烈な快感が蘇る。
(ああもう、最低だな俺は。
あかりさんとの関係をスッパリ断ち切れそうに無い。
地上に舞い降りた女神が、俺みたいな平凡な男の相手をしてくれるんだから……)
刻み付けられたあの『1分の衝撃』が、肉棒に活力を与え太さと硬さを取り戻させる。
力強く脈動する性器は、桃子の体内で先程よりも一回り大きくなっていた。
「ラストスパートかけますよ、師匠!」
「きて、シン君。
私の中に貴方の欲望の全てをぶちまけてぇ!」
目をつぶり、肉体に与えられる甘美な快感のみに意識を集中させる新二。
上から桃子に覆い被さった状態で彼女を抱き締める様に両手を添え、一心不乱に腰を振る。
桃子は両足を広げて無防備な肢体を晒し、体内で暴れ回る肉棒の熱を受け止めていた。
(俺も師匠も汗だくで、まるで溶け合って1つの物体になっているみたいだ……
俺の身体も股間もべとついた肌が纏わりついてくる。
もう、射精する事しか考えられない)
ビクンと強く震える肉棒の先端から全身にかけて、射精の予兆を感じる新二。
数秒後、熱の中で蠢く熱の塊が熱を持った白濁液を放出していた。
「あ、ああ、あッ……」
「シン君、身体が凄く震えてる……
私の中に出してくれたのね、嬉しい」
吐き出した熱の余韻に浸る余裕も無く、そのまま倒れ込みゼエゼエと荒い息を吐く新二。
桃子は子供を褒めるかの様に頭を撫でた後、感謝の気持ちとばかりに彼を強く抱き締めた。
「全部出しちゃっていいからね」
「は、はい……」
脈動する肉棒の先端から精液が噴出している。
それに呼応するかの様に膣内も痙攣を繰り返していた。
桃子も新二も、絶頂を迎えた直後は何も考えられなかった。
疲れ果てた状態でお互いの身体に全てを預け、繋がったままの状態を保っている。
「愛のあるセックスっていいわね。
私と豊のセックスもここまで激しいものじゃ無かったわ。
ねぇ新二君。
私はまだ満足してないんだけど、残ってる?」
「残ってるかどうかって言うと、微妙な所ですかね……
師匠とは本気でやったので。
でもあかりさんが相手をしてくれるなら、もう駄目だと思っていてもいける気がします」
女性は絶頂を迎えた後、その余韻が長く残るが男性はジェットコースターの様に余韻がすぐに消える。
新二が桃子から離れた後も、桃子はベッドから立ち上がる事が出来なかった。
「桃子さん、新二君の事お借りしても宜しいですか?」
椅子から立ち上がり、魅力的な肉体を惜しげも無く披露するあかり。
全盛期の桃子と向き合ったとしても圧倒するであろうスタイルの良さは、桃子が素直に負けを認める程だった。
「シン君。
私がシン君に相応しい女じゃない事は、私自身が一番良く解っているわ。
そしてセックスにおいては、シン君があかりさんに強く魅かれている事も……
だから私は死ぬ気で頑張って、シン君があかりさんよりも上だって認めてくれる様な女になってみせる。
悔しがっているだけじゃ何も変わらない。
シン君が血の滲む様な努力を続けて私に勝ったのと同じ様に、私も努力しなきゃ」
動かないまま、桃子はそう言った。
桃子には解っていたのだ。
新二が嫌々自分とのセックスに応じたと言う事が。
そしてあかりとのセックスに溺れ、新二が最早彼女から離れられなくなっていると言う事も……
「私は新二君を貴方から横取りしようとか、そんな事を考えているワケじゃ無いんですよ。
ただお互いに気持ち良くなりたいだけなんです。
セックスは相手がいないと出来ないですからね。
身体の相性が良いから、今後も新二君と『身体だけのお付き合い』は続けていきたいんです。
桃子さんと新二君が結婚した後も……
私も、相手がいなくなっちゃって寂しいですから」
あかりはそう言うと、棚の上に置かれている写真立てに目を移す。
井島豊が死んだと言う事実は彼女の中で受け入れた。
それでも孤独感までは拭えなかった。
『結婚したいと思った事は無いんですか?』
新二は一度だけ、あかりにそんな事を聞いた事がある。
『んー……
豊と楽しく遊んでた時も、豊と結婚したいと思った事は無かったわね。
私も豊も、お互いの時間を尊重してた。
自由に生きる事が大好きだったから。
私は誰にも縛られたくないの。
結婚は妥協だって言うけれど、まさにその通り。
結婚すれば見たくも無かったお互いの悪い所が見えてきて、さらにはやりたい事も出来なくなってしまう。
だったら私は好きな時に会って、好きな時にセックスして、好きな時に別れた方が素敵だと思うんだけどなぁ』
あかりの意見が正しいのか、間違っているのかは解らない。
ただ、あかりがそういう人間である事は新二もよく解っていたしだからこそ飾らない彼女が一層魅力的に見えた。
桃子と結婚するのは自分の責任。
新二は『妥協の連続』が待ち受けていようとも、桃子と共に生きようと決意していたのだ。
「……貴方の事が、とても眩しく見える。
誰よりも自由で、誰よりも気楽に生きている人……
シン君に対して私が言える事なんて無いわ。
『浮気だ』なんて言って私がシン君を責めるのは御門違い。
だってそうでしょう?
私はもう数える事が出来ない程の男を受け入れて汚れきっている。
シン君がこんな私を受け入れてくれるだけで奇跡みたいな話なのに」
桃子が新二と出会い、新二に格闘ゲームの基礎を教え込まなければ桃子が誰かと結ばれるなどと言う事は無かった。
新二は自分を育て、一流のゲーマーへと成長させてくれた桃子に返しきれない程の恩義を感じている。
桃子を幸せにする為に自分の人生が犠牲になるというのならば、新二は甘んじてそれを受け入れるつもりだった。
「シン君、怒らないから正直に言って。
あかりさんと、これからもこういう関係を続けたいと思う?」
そして桃子もまた、自分が我儘を言える様な立場に無い事を自覚していた。
新二と再会しなければ、借金を返せたとしてもそれ以降の人生を送る事が難しかっただろう。
風俗嬢として生きてきた桃子がどんな職業を選択したとしても、幸せになれる可能性は低い。
プロのゲーマーとして成功の道を歩み、大金を得るであろう新二の横に寄り添う方が幸せになれると思っていた。
(私も新二君と同じ……
ううん、彼よりもずっと醜い人間。
新二君を利用して幸せになろうとしている。
すぐに捨てられたとしても文句なんて言えない立場である事は、誰よりも解っているハズなのに……
私に出来る事はただ1つ。
昔の自分を取り戻して、彼を満足させる事だけよ)
新二があかりに対する思いを捨て切れないでいる事は、彼女にもすぐに解った。
「師匠には幸せになってもらいたい。
いや、俺が幸せにしなきゃいけないと思っています。
でも、俺はあかりさんにも多くの事を教えてもらいました。
1つのゲームセンターの中で満足する様なレベルだったつまらない自分を、劇的に成長させてくれたのがあかりさんです。
あかりさんが望んでいる事なら、俺はそれにも応じたい。
あかりさんにも幸せになってもらいたいので」
性的欲望に突き動かされている事は新二が一番解っており、桃子もそうであろうと思っていた。
今の桃子に性的魅力が乏しいからこそ、新二があかりとのセックスに溺れていると言う事実も受け入れていたのだ。
「シン君。
貴方がそう思うのならそれが一番正しい選択だし、私もそれがあかりさんやシン君にとって一番幸せな事なんだと思う。
何度も言うけど私はその判断を非難出来る様な女じゃ無いし、拾ってもらえただけで幸せよ。
でも私にだって女としての意地がある。
何時か絶対シン君を振り向かせてみせるわ、私の実力で」
桃子は新二もあかりも、好意的に見ていた。
恋敵と思ってもおかしくないあかりも、自分よりずっと魅力的に映った。
ありのままを受け入れ、自分も幸せになれる様に努力する。
桃子は暗黒の数年間を経て、周りが思っているよりもずっと強かな女性になっていたのだ。
「そういう事なら、今度は3人で思いっきり楽しみましょう。
一度きりの人生なんだからもっと楽しまないとね。
今度は私達2人で新二君を気持ちよくさせてあげましょうよ。
新二君もその方が嬉しいでしょ?」
あかりは人懐っこい笑顔を見せながら新二に後ろから抱き付くと、桃子の顔色を窺う。
「確かに、そういうのも良いですね」
桃子は吹っ切れた様な笑みを見せ、ベッドの上で上体を起こすと腿に両手を置き新二の方を見た。
新二が幸せになれば、きっと自分も幸せになれる。
桃子は『妥協』する事で、これからの人生を乗り切ろうとしていた。
「世界に挑むって言う気持ち……
どんな感じなのかしら」
ベッドに寝そべっていた桃子がそう言うと、ティッシュで精液を拭き取っていたあかりが反応した。
「あー、それは私も気になってました。
新二君は全国大会で優勝して、合衆国の大会に行くつもりなんでしょ?」
「そりゃ一番良い形ですよ。
実際優勝出来る確率はかなり低いですから。
52名の中に確実に入れるから優勝出来るものならしたいって感じでして。
州の予選から勝ち抜いていくってのが現実でしょう。
勿論そこも勝ち抜けられる保証は無いですけど」
全米大会は52名の参加者を4グループに分け、総当たりの2次予選を行う。
成績上位の4名が2次予選の勝者となり、最後に16名での決勝トーナメントを行うと言う内容になっていた。
「ワクワクする?
それとも世界の強豪を相手にする事になるから、不安が勝るのかな……
私は世界で勝負したいと思った事は無かったから、ちょっと気になってね」
ベッドの端に腰を降ろしていた新二は、椅子に座っていたあかりと向き合う形で対峙していた。
事が終わり、トランクスを着用しただけと言う姿の新二。
欲望を全て吐き出しきったせいか、その顔は清々しいものだった。
「怖いですよ。
合衆国の人達の実力がハッキリしないから不気味ですしね。
でも、プロゲーマーとしてやっていく為には必ずでかい大会で優勝しないといけないんで……
虚勢を張ってでも勝ちに行きますよ。
全力で戦って結果を残したいと言う気持ちは変わりません」
性欲を満たした3人は、教える者と教わる者と言う関係に戻っていた。
あかりは合衆国へ行ってまで腕試しをしたいと言う気持ちは無く、桃子はその気はあるが自分が表舞台に出る事は許されないと諦めている。
桃子やあかりにしてみれば育て上げて送り出し、優勝させてやりたいと言うブリーダーの様な感覚だった。
「誰でも参加出来るとなれば、各国から合衆国に人々が集まってくるでしょうしね」
「噂では、ロシア連邦やカダル連合王国のプロゲーマーも参戦してくるって話ですよ。
反米国家の意地にかけて、合衆国で開催されるゲーム大会を台無しにしてやりたいと思っているんじゃないですか」
「国を失った元信国のプレーヤーもいるみたいだし、大会自体が相当荒れると思うわ。
ある意味、格闘ゲームを使った究極の『代理世界大戦』になりそう……」
世界の終末を確約する最終兵器の登場により、合衆国は気軽に戦争を引き起こす事が出来なくなった。
特に睨み合いを続けているカダル連合王国とまともにやり合えば、世界が崩壊する事を理解している。
合衆国大統領はそういった世界情勢の中、自国の偉大さを示すツールとして『ZERO』を選んだのだ。
『我が国はこれだけ優秀なゲーマーを多数抱えているのだ』と見せ付け、国民の『自慢したい』と言う思いを叶えようとしている。
「面倒な事を考えても仕方が無いですよ。
俺が1000万ドルを獲得したい。それだけで充分です。
勿論、今のままで勝てるとは思っていないので師匠やあかりさんの御力を借りる事になるでしょうけど」
「そこは任せて頂戴。
ウチには全国大会を制覇した猛者が揃ってるし。
オールジャパンの底力で新二君を天武日本代表として送り出してあげるから!」
あかりの言葉が頼もしかった。
あかりだけで無く、玖留美や涼介、咲、比呂子と自分を鍛えてくれるメンバーは揃っている。
桃子に勝つ程強くなれた様に、新二は彼等から学び続ける事でもっと強くなれると思っていた。
「もし1000万ドルをゲット出来たら、私を含めた皆に焼肉でも奢ってよ。
安い所でいいから……
それ位の贅沢は構いませんよね?桃子さん」
「それ位は良いと思うわ、シン君。
逆にそれ位の御礼じゃ全然足りないでしょう」
新二は桃子の言葉に対して無言のまま頷いた。
その真剣な表情は己の、そして2人の未来を見据えている。
「玖留美さんのおかげで、俺は目指すなら頂点を目指したいと思える様になりました。
あかりさんには細かな仕事の積み重ねが大きな結果を生む事を教わり、師匠には格闘ゲームが楽しいものなんだと言う事を教えてもらった。
教えてもらった全ての知識を無駄にする事無く、結果に繋げたいと思っています」
辛い時、苦しい時……
新二が頂点を目指す事で生じる困難は間違いなくあるだろう。
だがあかりや桃子が彼を支えれば、負けて倒れそうになっても踏みとどまる事が出来る。
皆が協力する事で新二に大きな夢を見せてあげたい。
あかりも桃子もその気持ちに偽りは無かった。
「きつくなったら何時でも言って。
慰めてあげられるから。
一番いけないのは自分の中だけで辛い気持ちを背負い込んじゃう事だからね」
そういう人間を間近で見ているからこそ、あかりは新二に同じ轍を踏ませたくは無いと考えている。
彼女に出来る事で新二を高みに導けるのならば、出来るだけ助けてやりたいと思っていた。
「……俺、頑張りますよ。
師匠の為にも、皆の為にも」
「シン君、頑張ってね。
まずは今年の全国大会に出れる様に全力を尽くしましょう」
桃子は新二もあかりも許し、全員で1つの目標に向かい進んでいく事を誓った。
寄り集まれば、恐いものは無い。
脆い一本の矢でも、束になればそう簡単には折れないのだ。
新二と桃子、あかりを中心とした『巨大な矢』は、1000万ドルと言う夢を追い続ける。
やがて2人に訪れるであろう幸せな結婚生活は、その夢を叶える為の旅でもあった。