※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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久緒ちゃんの番外編です。
格闘ゲームによくいる『褐色格闘少女』をゲーマーとして
登場させてみたら他のキャラクターとどういう反応を起こすのかと思い
西園久緒を登場させたのですが、思ってもいない方向に進み
それでも自分が満足出来るストーリーになったのではないかと思っています。


番外編 負けたくない気持ち

 NEWSZEROとの紅白戦が終わってから2週間が経過しようとしていた。

「こんな雨じゃあの娘から逃げようにも逃げられないわね」

 豊の部屋でZEROをプレイしながら火村あかりは溜息をつく。

「俺はその辺りの事情をあんまり把握してねぇんだけど、そんなに酷ぇの?」

 豊は仕事で平日は夜遅くに帰宅する為、あかりの憂鬱な気持ちを理解する事が出来ずにいた。

 

「毎日の様に押しかけてこられたんじゃたまったモンじゃないわよ。

 何とか止める方法を見つけたいんだけど……」

 その言葉を言い終わらない内にインターホンが鳴り、再度あかりは大きな溜息をつく。

「あーあ……また来たわ。久緒ちゃんよ。

 断ると逆に面倒な事になるから、開けてあげて」

 

 6月の第一日曜日に行われたZEROの紅白戦で、西園久緒は火村あかりに敗れた。

 己の研鑽と勝利の為に久緒はあかりをライバル視する様になり、何度となく勝負を挑む様になる。

 今の所トータルで久緒は負けが続いており、それがますます彼女を手に負えなくさせているのだった。

「やっぱりココにいやがったなあかり!

 俺はアンタに勝って次のステップに進むんだ!」

 

 傘を差していてもかなり強い降りだった為、ジーンズが少々濡れている。

 気温は湿度のせいでかなり高く、あかりは流石に下着では無かったものの非常にラフな格好をしていた。

「もういい加減にしてよ久緒ちゃん。

 この間の紅白戦から毎日の様にこっちに来られても迷惑なのよ。

 そろそろ終わりにしてくれない?」

 

 あかりな温厚なほうで人当たりも決して悪くは無いのだが、こう何度も家に来られると正直疲れてしまう。

「俺はアンタに勝たなきゃならねぇ。

 ZEROに本腰を入れて取り組むと決めた以上、アンタを越える事が最初の課題だからな」

 久緒はあかりに対して己に近いものを感じており、敵愾心やライバルとしての対抗心を燃やしていた。

 それ故あかりと何度も戦おうとするのだが、勝てない焦りも手伝って後に引けない状況となっているのだった。

 

「ま、まぁ中に入れても良いんじゃねぇの?

 結構雨も強くなってきたみたいだしさ」

 梅雨もこの時期が本番と言った所なのか、先程から降っていた雨は豪雨に近いものへと変わりつつあった。

「しょうがないわね……豊も甘過ぎるわよ。

 私だってここの所毎日の様に戦ってあげてるんだから」

 

 溜息をつきながらあかりは久緒を部屋の中に招き入れた。

 ココは豊の部屋なので当然彼の意見を尊重しなければならない。

「今度は絶対勝つ!NEWSZEROのメンバーと野試合して、悪癖を消す努力をしたんだ」

「しつこいようで悪いけど、今回の勝負で10回目なのよ。

 これで諦めてくれる様な、最後の勝負をしなきゃいけないわ」

 

 あかりは久緒との戦いに辟易しており、無理難題をふっかけて彼女を退散させようとしていた。

 今までずっとあかりが勝ってきたのだ。

 流石に時間の無駄だと考えており、豊もいた事であかりは良い考えを思いつく。

「普段の10先勝負じゃ何時もと同じよ。

 特殊ルールで、『次』が無い事をしっかり解ってもらわないと……

 私が勝ってきたんだし、ルールは私が決めるわ。脱衣ZEROをしましょう」

「だ、脱衣!?」

 

 豊も久緒もあかりの提案に対して面食らった。

 しかし今の状況を見てみると間違いなく久緒の方が有利だ。

「私の今の恰好から考えて貴方の勝率はかなり高くなってるでしょ。

 私は下着を合わせても靴下を履いてないから4回しか脱げない。

 対して久緒ちゃんは靴下も履いてるし外から来たばかりだから上着も羽織ってる。ハンデ戦として充分よ」

 

「つまり、1回負けたら衣服を1枚ずつ脱いでいって、全裸になったら負けって事か?」

「そうよ。私が今まで勝ってきたんだから『豊がここにいる』って事を私にとって有利な条件にさせてもらうわ。

 全裸になったら貴方の恥ずかしい部分も豊にしっかり見てもらう事。

 嫌なら帰ってもらって構わないから」

 多少無理な条件をつけてでも、あかりは久緒に諦めてもらいたかった。

 

 だが諦めの悪さならばあかりの上を行く久緒はその条件を呑み、『脱衣ZERO』が始まる事となった。

 (あーあ。始まっちまったよ。俺にとって役得っちゃ役得なのか。

 ただあかりが負けるとつまらねぇよなぁ)

 豊はあかりの生まれたままの姿を何度となく見ている為、普段からそこまで興奮する事は無い。

「今日こそアンタに勝って、俺がZEROの世界で通用する逸材だって事を証明してやるぜ」

 

 意気込む久緒であったが、いかんせんそのハードルは高い。

 豊と共にエターナルナイトで戦い続け、天武日本でも上位に位置するプレイヤーとなった彼女との対戦なのだ。

 付け焼刃程度の実力しかない今の彼女では、あかりに勝つ事は難しかった。

 (久緒ちゃんは上着と靴下を含めると3回分のアドバンテージがある。

 一足ずつ脱ぐと考えていけば7ライフと考えても構わないわよね)

 

 家庭用据え置き機での対戦はやはりあかり優位に進み、遂に久緒はパンツ一枚まで追い詰められていた。

 ただしあかりも無傷と言うワケでは無く、上下の下着のみと言う恰好になっている。

「あかり相手に2連勝はちょっときつくないか?」

 練習しただけあって、一方的な負けを演じはしなかったものの、ハンデを活かせず窮地に陥った久緒。

 一方あかりは全勝も視野に入れていた為、彼女の力を認め始めていた。

 

「なかなか凄いじゃないの久緒ちゃん。でも、ココで勝って終わりにするわよ」

「勝てばいいんだ勝てば!アンタの方を先に全裸にしてやるぜ」

 スポーツブラを付けていた彼女の胸は、褐色の肌とは対照的にあかりと同じ位白かった。

 (日焼けしてる部分としてない部分があるのって結構エロいな……

 しかも思ったより胸あるじゃねぇか)

 

 豊も男である以上、初めて見る久緒の柔肌を食い入る様に見つめている。

「あ、あんまりジロジロ見るなよ」

「それ前提で今回の勝負をしてるんだからね。元々承知の上だったでしょ」

 男に見つめられる事が少なかった久緒にとって、性的に見られると言う事自体が珍しい為変に意識してしまう。

 (なんだか変な感じだぜ……

 子供の頃から『男女』とか言われてて、そういう目で人から見られる事が無かったから余計にそう思うのかもな)

 

 あかりは久緒とは違い多くの男性から魅力的だと言われ、豊と共に海岸に行き水着姿になれば否応なしに性的な視線を向けられる。

 あかりに有利な状況はその様な意味でも変わらず、久緒は普段通りの実力を発揮出来ずにいた。

「次、久緒ちゃんが負けたら終わりだからね」

 

 だがその言葉で久緒は気合を入れ直した。

 自分はどんな道であれ勝利する事を望んできたのだ。

 こんな所で立ち止まっているワケにはいかない。

 テレビの中のキャラクターを彼女は食い入る様に見つめていた。

 

 あかりは冷静に立ち回り、D・KINGの魔獣変身も捌き切って無難な勝利を挙げた。

「畜生、これだけやっても勝てねぇのか……

 何が違うんだ?俺とアンタの間にそこまで差があるなんて……」

「経験よ。それと練習時間の差でしょ。

 格闘技と格闘ゲームの二足の草鞋じゃ、自ずと限界があるわ。

 どんなに頑張ったって1日は24時間しか無いの。

 練習にどれだけ時間をかけているかで実力は決まるのよ」

 

 あかりは大学生だが、講義の時以外は殆ど携帯機で練習を続けている。

 ゲームセンターでしか練習する事が出来ない久緒とでは、そもそも熟練度が違っていた。

「それじゃ、約束だから脱いで頂戴。豊に胸も股間もよ~く見せるのよ」

 久緒は立ち上がると、ボクサーパンツを脱いで生まれたままの姿になった。

 やはり陰部も日焼けしておらず、女っ気が無い為か陰毛もさほど手入れされていない。

 

 (それにしても腹筋が凄ぇな……

 普通の男よりかあるだろあれ。引き締まってるよなぁ)

 豊はあかりとは違う美しさを久緒に見ていた。

 あかりが女神的な美しさを持っているとするならば、久緒は戦いの神の様な野性的な美しさがある。

 

「もうこれでいいでしょ?服を着て、自分の家に帰って頂戴。

 私だって色々あるんだから、何度も戦ってられないのよ」

 正直彼女との連戦であかりは疲れていた。

 比呂子や涼介との和気藹々とした野試合とは違い、常に喧嘩腰で勝負を挑んでくる久緒との戦いは神経も磨り減るのだ。

「……まだだ」

 

 久緒はそう呟くと、あかりに対して炎の様な瞳を向ける。

「俺は諦めてねぇ!もう1回……もう1回だ!」

 豊も流石に久緒の事が気の毒になり、バスタオルを羽織らせようとしたが拒否された。

「もういい加減にして!終わりが見えない戦いを続けるのはウンザリよ。

 勝負は私の勝ちで終わっているんだから、これ以上やるんだったら今以上のペナルティを課す事になるわ」

 

 滅多に怒らないあかりであったが、堪忍袋の緒も切れかけていた。

 最早無理難題を突き付けて久緒を黙らせ、帰宅させるしかない。

 あかりはそう考えどう考えても相手が断るであろう無茶な提案をした。

「……こうしましょう。

 もう1つライフを貴方に与えて勝負を続行。

 貴方が負けたら、豊とセックスする事。

 私が3回負ける様な事があれば、私に好きな罰を与えていいから」

 

 その提案に対して豊は動揺した。

 恐らくは処女であろう久緒にそんな事は出来ないと仲裁に入る。

「お、おいおい……それは流石に不味いだろ。

 無茶な事を言い過ぎじゃねぇか?」

「それ位言わないと久緒ちゃんも折れてくれないでしょ。

 流石にこのペナルティで勝負する事なんてありえないんだし」

 

 あかりもこの提案をまさか呑むまいと思っての最後通告だった。

 諦めて家に帰ってもらえればそれで良し。

 万が一勝負を続けたとしてもこの罰ゲームの後でまた勝負を挑む等と言う事は考えられなかった。

 

『勝つ事に対して常に貪欲になるんだぞ、久緒。

 どんな時でも勝ちに行け。その位の気概が無いとメダルは獲れない』

 天武日本を代表する柔道家である父親と、その父親を献身的に支える母親のもとで久緒は育った。

 元々息子が欲しかった父親は子供が生まれたら『久雄』と名付けるつもりでいたという。

 

『お前の名前は『永久に雄々しくあれ』と言う意味で父さんが付けたんだ。

 女の子だったから後ろの文字を変えはしたが、性別は関係無い。

 もっと強くなってほしい。それが父さんの願いだ』

 

 西園(にしぞの)久緒(ひさお)。

 この名前を糧にして彼女は幼い頃から戦い続けた。小学生の頃から武道一辺倒。

 女の子らしい友達も出来ぬまま勝ち続け、取り巻きは増えたが、友と呼べる存在はいなかった。

 全ては尊敬する祖父と父親に認めてもらう為。

 その為に多くの犠牲を払って柔道と合気道を続けた。

 

『女子柔道は天武日本が世界に誇るメダルラッシュ競技。

 そこで金メダルを手に入れれば、お前の強さは世界に示される』

 武の道一直線で突き進んできた久緒であったが、心の何処かで周りのクラスメイトを羨む気持ちもあった。

 (私とは違う生き方をしている、女の子らしい女の子が羨ましい。

 自分だって御洒落をして、普通の恋がしてみたい)

 

 心の中にその思いを封印する毎日であったが、南屋朋美に出会った時にその思いはより顕著になった。

『私と一緒に、ZEROの世界でも一番になってみませんか?』

 美しさではとても叶わない彼女から誘われ、ZEROの世界に飛び込んだ久緒を待っていたのは、格闘技以上に男女の境界が存在しない現実であった。

 綺麗な女性であろうと屈強な男性であろうと、暴力無しで相手を叩き潰す事が出来ると言う新鮮な喜びに久緒は魅力された。

 そして念願であった友達に囲まれる喜びも得た彼女は、その友の為にとZEROの世界でも戦う努力を続けた。

 全てはどんな道であろうと勝つ為に。

 ゲームの世界でも金メダルを獲る為に。彼女は立ち止まらずに進んできたのだ。

 

 (負けたくねぇ……コイツにだけは!

 俺の持っていないものを持っているこの女にだけは負けたくねぇんだ!)

 あかりに対して必要以上に敵愾心を持つのもその為であった。

 美しい肉体と美貌は、勝つ為に犠牲を払って腹筋や力こぶを作ってきた久緒とは対極に位置するもの。

 だからこそ久緒はあかりに嫉妬し、彼女に勝ちたいと言う執念を燃やすのだった。

 

「……続行だ」

「な、何ですって!?」

 折れると思っていたあかりは面食らった。

 このペナルティを突き付けて応じるとは夢にも思っていなかったのだ。

「続行だって言ってんだろ。俺が3回勝つだけの話だ。

 甘く見てんじゃねぇぞ。絶対に勝ってやる」

 

 両の頬を両手で叩き、精神集中を行う久緒。

 下着姿でコントローラーを握るあかりの姿も異様だが、全裸でコントローラーを握る久緒の姿はさらに異様だった。

 (あかりも負けず嫌いだけど、久緒ちゃんはあかり以上だな。

 どうしたって負けを認めたくないって事か)

 

 鼻息荒く、鋭い眼光であかりを睨み付けてくる。

 その迫力はあかりも少々気圧される程だった。

「負けた時の事は、解ってるわよね?始めちゃったら、もう後戻りは出来ないわよ」

「約束は守るぜ。ただし、お前も負けたら約束は守れよ」

 あかりはもう何を言っても無駄だと悟り、しっかりと頷いた。

 

 10分後、全裸でコントローラーを握る久緒の隣に、同じく全裸となったあかりの姿があった。

 (ま、まさか私がココで2連敗しちゃうなんて!

 私が言い出した事だから罰ゲームは絶対行われる。死んでも負けられない……)

 本気を出して挑んできた久緒は何とかあかりに喰らい付き、辛勝ではあったが2連勝していた。

 

「俺が次勝ったら、夜中に全裸で一橋市の外周をぐるりと回ってもらおうか。

 俺達NEWSZEROのメンバーが見ている前でな!」

 久緒はイケイケムードのまま勝利をおさめようとしていた。

 格闘ゲームは技量だけでは無く対人戦のプレッシャーや精神力が相当勝敗に影響してくる。

 あかりも2連敗と言う逆転敗北の匂いが漂う中、懸命に勝利しようと足掻いていた。

 

「な、なぁ……イーブンって事で、ここで終わりにした方がお互いの為なんじゃ……」

 ヒートアップしていた2人は豊の方を向いて首を横に振り、キャラクター選択画面の方に向き直る。

 (駄目だ。こうなるとあかりも止まらねぇ……)

 自分が巻き込まれている事が解っている為、豊も開き直って腰を下ろすと2人の戦いを素直に見守る事に決めた。

 

 D・KINGは近接攻撃に優れサイファも同じく近接攻撃を得意としている為、必然的に2人の戦いは容赦の無い殴り合いになる。

 ただし相手の懐に飛び込もうとする際に遠距離攻撃を受けてしまうとそのまま大きなダメージを受けてしまいかねないので、魔獣形態が鍵を握っていた。

 (2人とも負けた時の事が頭をよぎっているのか、えらく慎重になったな)

 遠距離で睨み合いを続け、攻撃のチャンスを伺う両者。

 魔獣形態となったD・KINGが、サイファの懐に飛び込んでいく。

 

「甘い甘い!」

 サイファは絶妙のタイミングでバックステップを踏み相手のパンチを回避すると、そのままカウンターでダメージを蓄積させていった。

 (クソッ!負けてたまるか!絶対に負けられねぇんだ!!)

 何とか態勢を立て直すと、距離を取ろうとしていたサイファに向かって突っ込んでいく。

 同じパターンではあったが、僅かにサイファの対応が遅れ、今度はサイファがダメージを受けた。

 

「随分動きが洗練されてきたわね。

 私と勝負を続けてきた甲斐があったのかしら?」

 両者のHPはほぼ互角。

 一度ずつダウンを取られているので共に全く余裕が無い。

 コンボが1回でも通ってしまえば通した方の勝ちと言う状況で、若干D・KINGの動きが鈍った。

 

「いっけー!」

 土壇場で決意を見せた者にのみ勝利の女神は微笑む。

 日和見をしてしまったD・KINGは、サイファの必殺技を喰らってしまい、そのまま倒れてしまった。

 (嘘だろ……俺もジャンプしたのに上から被さってきやがった。

 全く恐れを感じさせない立ち回りだ……)

 

 黒焦げの死体と化したD・KINGと同じ様に、久緒は全裸のまま寝そべり手足を広げる。

「俺が負けたんだ……煮るなり焼くなり好きにしろ」

 その瞳には涙が浮かんでいた。

 これから受ける罰ゲームの恐怖より、今負けた悔しさの方が遥かに勝っていた。

 惨敗ならまだしも、勝つ可能性が大いにあったのに負けたのだ。

 

 自分が嫉妬しているあかりに負けたと言う事実も辛かった。

「豊、服を脱いで」

「おいおい、それはやっぱり不味いだろ。

 洒落になってねぇよ……他人相手に無理やりそんな事出来ねぇって」

 後ずさる豊の服をあかりは強引に脱がせていく。

 

「久緒ちゃんが折れなかったんだから仕方ないじゃない。

 なぁなぁで済ませちゃったらまた私が危ない橋を渡る事になりかねないでしょ?

 もうそういう気持ちになるのはどうしたって嫌なの」

 部屋の中に全裸の男女が3人いると言うシュールな状況の中、罰ゲームが始まった。

 あかりは大の字になって寝そべっている久緒の膣を左手でいじりながら、右手で豊の陰茎の皮を剥き咥えこむ。

 

「やっぱ上手だわ……お前に咥えられてるとすぐに勃っちまうよ」

 豊の陰茎はものの数十秒で完全にそり立ち、重力を無視する勢いで激しく己の存在を主張していた。

 (!!あ、あんなのが俺の中に!?)

 生まれてから今まで全く勃起した陰茎等見た事も無かった久緒はその肉棒の逞しさに驚きを隠せない。

 武骨に生きていた彼女は自慰行為もした事が無く、思春期に突入してそういう感覚に陥った時は激しい運動を行ったりして無理やり火照りを鎮めていた。

 

 膣に指が入る感覚も生まれて初めての事で、勝手に足が震えてしまう。

「や、止めろよ。そんな所いじくってどうするつもりだ……うあッ」

「いじくらずに挿入したら痛いに決まってるでしょ。

 まぁ初めてだろうから痛みが少し緩和される程度でしょうけど」

 豊の怒張を舌で刺激しつつ久緒の膣を蕩けさせ、両者共に準備万端の状態へと持っていく。

 

「そろそろいいかな……相当痛いでしょうけど、我慢しなさいよ。

 このアパート、壁が薄いんだから両手で口を塞いでおく事。解った?」

 (これが……敗北を否定し続けた人間の末路か。

 まぁ、どうせ俺としたがる相手なんていねぇんだ……セックスなんざ大した事は無ぇ)

 冷静に取り繕おうとしたが、口を押さえている手が小刻みに震えている。

 

 久緒の瞳から涙が勝手に流れてきた。

「やっぱり止めましょうか?その代わり、もう再戦は無しだからね」

 あかりはそう言って豊の相手をしようとしたが、久緒は自ら両手で膣を広げた。

「約束も守らねぇ屑だなんて、思われたら終わりなんだよ!」

 あかりは豊の肩を叩いて送り出した。

 

 滾ったペニスは理性の糸を断ち切らんばかりに屹立している。

「そこまで言うなら……」

 豊も紳士らしく振舞おうとしていたが、本当は久緒とのセックスに興味があった。

 これ程鍛えられた腹筋の持ち主と繋がったら、あかりに匹敵する程の快感が待っているのではないかと思ったのだ。

 (うわ……別の生き物みてぇにひくついてやがる)

 

 亀頭の先端が膣口に触れ、一気に奥へと突き進んでいく。

「ん―――ッ!!ん――――ッ!!」

 両手で口を塞いでいても、その激痛は確かに身体全体に伝わっていた。

 処女膜を破る際、慎重に挿入するよりも一気に貫いた方が痛みが少ないと言うがそんなものは僅かな差でしか無い。

 (こ、こんなに痛ぇのかッ……初めての痛みって。股間が引き裂かれたみてぇだ)

 

 大声を出して喚き散らしたい衝動に駆られるものの、久緒のプライドがそれを拒否していた。

 とめどなく溢れる涙をそのままにしておきながら豊の顔を睨み付ける。

 一方豊の方は異物の存在を感知して全力で陰茎を排除しようとする膣の中で強引にピストン運動を繰り返し始めた。

「久緒ちゃん、そういうお薬は用意してるから安心してね」

 

 あかりは全裸のまま薬棚の方へ向かい、行為終了後でも効果がある避妊薬を持ってきた。

 (痛ぇんだよ畜生、早く終われっての)

 両手を離したら反射的に叫んでしまうだろうと考え、久緒は豊を睨み付ける事でその意思を伝えようとする。

 だが豊の方は膣内を往復する度に締め上げてくる万力の様な壁に我を忘れかけていた。

 

 (な、何だコレ。腹筋を鍛えてるとマンコがこんなに締めてくるのか。

 俺のモノが根元からちぎれちまいそうだ)

 快感のまま何度も奥に突き入れ、ぎゅうぎゅう締めてくる膣内の具合を大いに堪能する。

 あかりの驚異的な絡みつきとは違い、ペニスが痛くなるのですぐさま射精する程では無かったが快感の度合いで言えば甲乙つけがたい。

「ごめん。もう少しだから」

 

 豊は乱暴とも思える勢いで奥へ奥へと先端をねじ込み、激しく腰を振った後溜まった精液を膣の中に吐き出す。

 (えッ?腹の中でビクビク痙攣して……コイツ、俺の膣内に出してるのかよ!)

 肉棒の熱と震えが膣に伝わり、久緒は己の腹の中に射精されている事を認識した。

 陰茎が引き抜かれた後、鮮血と白濁液が混ざり合った状態でこぼれ落ちてくる。

 痛みが全くおさまらず、久緒は呆けた状態で床に寝そべっていた。

 

 (豊ってやつ、底なしかよ。馬鹿じゃねえの)

 身体の痛みに耐え、荒い息を吐きながら久緒はあかりと豊の交わりを眺めていた。

 豊の陰茎はなかなか萎えず、そのままあかりと2回戦に突入していたがあっけなく射精してしまう。

「悪ぃ。なんか凄ぇ興奮しちまって……」

「興奮するのは構わないけど、久緒ちゃんには避妊薬を飲んでもらわないと。

 妊娠しちゃったら罰ゲームどころじゃなくなっちゃうわ」

 

 あかりはセックス直後であるにも関わらず、大して息も切れていない。

 何事も無かったかの様に膣から白濁液が出てきているあかりの姿を見て久緒はここでも勝てない自分を認識する。

「……お前も、最初はこうだったんだろ」

「まぁね。凄く痛かったわよ。慣れるまで数日はかかったわ」

 やっとの事で上体を起こし、薬を飲む久緒。

 

 まだ膣の中がズキズキと痛み、悲鳴を上げていた。

「大した事無ぇと思ってたんだ……セックスなんて。周りの奴から色々言われてたけどよ。

 思ったより、俺は弱かったのかもしれねぇ。色々な意味で……」

 歯を食いしばりながら、涙を流す久緒。

 痛みよりも、己とあかりに負けた悔しさの方が遥かに辛かった。

 

「勇気と無謀は別物なのよ、久緒ちゃん。

 人間、前に進む勇気は必要だけれど、一度後ろに下がって自分を見つめなおすのもまた大事な事。

 振り出しに戻って、もう1回やり直してみなさい。

 自分がもっと強くなったと思ったら、私の所に来て。

 ゲームセンターでなら何時でも相手してあげるから」

 久緒は首を横にも縦にも振らず、ただ涙を流し続けていた。

 

 翌日、久緒は親善試合の話を持ち掛けられ、了承した。

 女子生徒の見守る中、男子との試合が始まる。

 (なんだコイツ。何時もより動きが鈍いな)

 何度も負けているだけあって、対戦相手の男子生徒は久緒の明らかな身体の不調に気が付いていた。

 久緒は相手を投げる為に両足を床に付けふんばろうとしたが、股間に激痛が走り足が勝手に浮いてしまう。

 

「ふんッ!」

 そのまま畳の床に倒れ、動かなくなる久緒。

 女子生徒は彼女の敗北を信じられないと言った表情で見つめている。

「そんな、先輩が負けるなんて……」

 久緒は何も言わずに立ち上がると、部屋から立ち去っていった。

 

 近所の公園のブランコに揺られながら、制服姿の久緒は死んだ魚の様な目をしたまま涙を流していた。

 親善試合は己を律する為、わざと負けた様なものだった。

 一度振り返ってみる事で見えてくるものもある。

 もう一度傲慢な自分を見つめ直し、再起を誓う。

 その為に敗北した様なものだったが、悔しさは拭えなかった。

 

「西園、何泣いてんだよ。お前らしくも無い」

 久緒はその声に驚いて横を向いた。

 何時の間にか隣のブランコに先程対戦した男子生徒が座っていたのだ。

「他の奴等も言ってたぜ。本調子じゃなかっただろう。

 そりゃお前の態度には皆むかついてたよ。女の癖に威張りやがってってさ。

 でも、全力じゃないお前に勝ったって誰も喜ばねぇよ」

 

 久緒はこの男子生徒の顔も名前も把握していなかった。

 いかに自分が傲慢であったかと言う事が解る。

「痛がってた箇所からすると、どうやら『初めて』を卒業したみてぇだな。

 相手は誰かな?」

「五月蠅ぇよ。そんなの言うワケ無ぇだろ。

 言う位なら舌噛んで死んでやらぁ」

 

 口をへの字に結んでそっぽを向く久緒であったが、男子生徒は気にせず話しかけてきた。

「それ以外にも、嫌な事があったんだろ」

「……負けたくねぇ奴に負けた。勝ちたかったのに勝てなかった。それだけの話だ」

 これ以上話していたくないと思い、久緒はその場から立ち去ろうとした。

「あの紅白戦の事か?」

 

 久緒の動きが止まった。振り返り、男子生徒の顔を見つめる。

「お前、何で……」

「気付いてなかったんだろうけど、あの日俺もゲームセンターにいたんだよ。

 すんげー悔しそうにしてたから、それ絡みじゃねぇかと思ってさ。もしかして図星か?」

 久緒は拳を握りしめ、ポロポロと涙をこぼす。

 

「……そうだよ。勝てなかったんだよ。

 俺が一生懸命やっても届かなくて……俺なら勝てると思ってたけどそれでも駄目で……」

 (可愛い所あるんだな、こいつにも)

 男子生徒は立ち上がると、側に置いてあった学校鞄の中から携帯機を取り出した。

「じゃあまずは、俺とやってみるか?良ければ、だけど」

 

 久緒は驚いて彼の顔を見つめた。

 今まで自分がどうとも思っていなかった相手が、自分を励まそうとしてくれている。

「……有難う」

 当たり前の言葉が言えなかった事を久緒は恥じていた。

 そしてこれから生まれ変わろうとも決意していた。

 

 中澤安央の自宅はかなり大きな一軒家で、大勢客人が来ても対応出来る様になっていた。

「ガーキャンは窮地に陥った時に使うもんだが、ただ闇雲に使っても反撃される事が多い。

 まずは見る事だ。対戦動画も今はそこら中に転がってるから見ると良い」

 女子生徒がノートパソコンを開き、動画検索をした後久緒に見せる。

 

「これですよ先輩。去年の全国大会の決勝戦。

 衝撃波の使い方がよく解るってコメントも付いてます」

 中澤と同じ柔道部の男子生徒数名と、久緒を慕う女子生徒数名が久緒の勝利の為に動き始めていた。

「お、大分動きが良くなってきたんじゃねぇの?」

 

 元々柔道部の男子生徒や、高校の後輩にもZEROをプレイしている者がおり、アドバイスを受ける事が出来たのだが久緒はそれをしてこなかった。

 周りを見る事無くただ勝つ事に執着していた久緒にはそれが見えていなかったのだ。

 縋ってみれば助けてくれる仲間がいる事を今彼女は痛感していた。

 (俺は孤独じゃなかった。

 孤独だと思い込んでいただけだったんだ。俺の方から避けていた……)

 

 1人でがむしゃらに練習を続けていた時よりも、久緒の格闘ゲームプレイヤーとしての実力は明らかに上がってきていた。

 毎日の様に放課後中澤の家で対策会が開かれ、その後で柔道と合気道の練習。中澤はそれにも付き合った。

 孤独と戦って勝とうとした昔の西園久緒はもう何処にもいない。未熟な精神を徹底的に鍛え直した。

「明日、エターナルナイトに行く。俺が今までやってきた事が、間違っていなかった事を証明するんだ」

「あんまり熱くなるなよ。自分の力を誇示したがるのがお前の悪い癖なんだからな」

 

 あかりの家に出向いていた時は1人だったが、今回は沢山の応援を受けて戦う事になる。

 己の為だけでは無く、今まで自分を支えてくれたクラスメイトや後輩の為にもこの一戦は負けられない。

 (火村あかりに教えられたんだ。何回だって退がればいい。

 最終的に前に進めれば勝ちなのだと言う事を……)

 彼女達だけでは無く、対戦する火村あかりの為に勝つと久緒は心に決めていた。

 

 6月の長雨も、一時だけ雲1つ無い快晴に変化し、ゲームセンターも大いに賑わっていた。

 平日の夕方であったが意外と客も多く、放課後エターナルナイトに直行してきた比呂子や、火村あかりの姿も見える。

 何時もの様に連勝記録を作る勢いで勝ち星を増やしていた零が、一旦休憩を取ろうと自動販売機に向かおうとした時だった。

「あらら、随分大所帯で来たじゃないの」

 西園久緒を先頭に、中澤と数名の女生徒が店内に入ってきた。その中の1人か2人は比呂子もよく知っている後輩だ。

 

「柊(ひいらぎ)さんと万場(まんば)さんじゃないですか。

 珍しいですね、御二人がゲームセンターに足を運ぶだなんて」

「西園先輩の試合を応援する為に来ました。

 私達は格闘ゲームを触った事も無いんですけど」

 初めて訪れる未知の世界に困惑しながらも、その目は尊敬する先輩をしっかりと見据えていた。

 

「火村あかり、俺と勝負してくれ。

 あそこまでムキになった後でこんな事を頼むのがお門違いなのは解る。

 ただ、俺も今までの俺とは違うって所をアンタに見せたいんだ。恥を承知で頼みてぇ」

 生まれて初めて、赤の他人に対して深々と頭を下げ、真剣に頼み込む久緒。

 その姿勢にあかりの心も動いた。

 彼女もまた、久緒の実力がどこまで上がったのか確認してみたいと思っていたのだ。

 

「解った。久緒ちゃんの気持ちは伝わったし、私と戦いましょう」

 対面の筐体に座り、何時もと変わらぬキャラクターを選択する久緒。

「そ、それと……」

「ん?」

「もしこの試合で俺が勝てたら、俺の師匠になってほしい。

 もっと強くなって、全国大会に出場出来る様な実力を得る為には、アンタに教えてもらうしか無ぇんだ」

 

 あれだけあかりを敵視していた久緒が、恥も外聞も無しに頼み込む姿を見て、あかりはそれを嬉しく思った。

「大人になったわね。久緒ちゃん。

 そういうものよ、ZEROで強くなるって言うのは。

 私だって最初から強かったわけじゃない。

 豊がいて強くなれた。豊だって先人達の知恵を吸収して強くなったの。

 1人じゃ勝てない。それが格闘ゲームの世界。

 協力し合って、共に研鑽して大きくなっていくんだからね」

 

 久緒にしてみれば屈辱であろう。足掻いて足掻いて結局届かず、罰ゲームを受ける原因となった女性である。

 しかしそれでも勝利の為に手段を選んではいられない。

 憎い相手を利用してでも上へ行く。それが彼女の選んだ答えだった。

 

「あんま気負うなよ!普段通りの立ち回りをすれば充分勝機はあるからな!」

 背後から聞こえてくる声援に対して、振り向く事無くただ頷き、目の前の画面を見つめる久緒。

 何度戦ったか解らない火村あかりの使うサイファとの戦い。

 事前に中澤がサイファを使い疑似戦闘をしたが勝率はなかなか上がらなかった。

 しかしそんな時にアドバイスをしたのが格闘ゲームを全くプレイした事が無い後輩達だった。

 

『先輩、近接攻撃が得意な相手と真っ向から殴り合うから負けちゃうんですよ。

 確かにD・KINGも近接型みたいですが、動画で見る限り動きはあっちの方が速いですからね』

 頭に血がのぼりやすい久緒は、どんな時でも近付いて勝負を決めようとしていた。

 しかしその戦い方自体が間違っていた。

 魔獣変身で距離を取り、相手が攻撃を繰り出してきた時に攻撃を被せていく。

 それが正しい戦い方だったのだ。

 

「そうよ、その動きが効果的なのよ!」

 あかりも久緒の動きが今までとは全く違う事に気付いていた。

 勿論、相手の動きが解っていればその作戦を潰す事も出来る。

 相手が自分の攻撃の空振りを狙う場合、自分から能動的に動いて一気呵成に仕掛けていく必要があった。

 打撃では無く近付いた後に投げて、コンボに繋ぐ。

 

 それでも久緒は耐え抜き、何とか相手の体力を同じ所まで減らした。

「どちらも超必殺技を残した状態ですが、この体力からすると1回崩れただけで勝負が決まっちゃいますからね。

 久緒さんも先輩も、無理に必殺技に頼る必要は無いでしょう。

 ココが一番神経を使う場面ですよ」

 比呂子の言う通り、必殺技を温存した結果、必殺技が無くても勝てる所まで久緒はあかりを追い詰めている。

 

 だがそれはあかりも同じ事だった。

 お互いに間合いを詰めようとして一定の距離を保つ。

「比呂子先輩。やっぱり膠着状態になってしまうものなんですか?」

「お互いが有利な状況に持ち込んでから攻撃を仕掛けていきたいと思えば当然そうなりますよね。

 ただし、それは両者の実力がある程度近く無ければ起こらない事。

 つまり久緒さんは前より明らかに強くなっていると言う事です」

 

 最終局面は上の取り合いになっていた。

 空中から下方向へ放つキックを起点としたコンボに移行する為、互いにジャンプし合って何とか相手の頭上を取ろうとする。

 あかりはキックがガードされたと見るや素早くその場から離れる。

 無理に攻めれば相手のカウンターを喰らいかねない。

 だが久緒はそれを追いかける形で今度は彼女が上空からの追撃を仕掛けた。

 

「彼女はなかなか良い眼をしているね。動きの良さは完全に互角だろう」

 野試合をこなしていたハズだった零は、何時の間にか比呂子の隣で戦いの様子を見守っていた。

 あかりよりもさらに強いプレイヤーが見守る中、遂に均衡が崩れる時がやってくる。

 あかりはガードが崩され攻撃を受けたが、攻撃が致命傷になる前に衝撃波を放ち、距離を開けた。

 

 そして両者は同時に飛び、頭上を取ったD・KINGが連続で衝撃波を出せないサイファに対して必殺技を繰り出す。

「先輩、いっけー!!」

 サイファはD・KINGの連続切り裂き攻撃を受けて倒れた。

 

「俺が、勝った……勝ったのか」

 久緒は今までの惨敗や惜敗の過去を思い出し、そして背後にいる仲間の事を思った。

 (こいつらを笑顔にする為に、頑張ってきたんだよな)

「久緒、凄ぇぞ!土壇場で判断を誤らなかったのが勝ちに結び付いたな!」

「先輩、やりましたね!私達も色々研究した甲斐がありました!」

 

 後ろから聞こえてくる声。暖かい声援を思い出し自然と頬に涙が伝った。

「どうやら、本当に必要なものを手に入れたみたいね」

 そして目の前には、ずっと戦ってきた女性がいて、久緒に握手を求めていた。

 

「勝つ事は確かに大切な事だけれど、それだけじゃないの。負けて得るものは悔しさ。

 仲間と一緒にその悔しさを糧にして人は強くなれる。

 今まで貴方は敗北を糧にする事が出来なかった。

 でも、これからは違う。私がもっと上に連れて行ってあげるから。

 勿論、私以外にも手伝ってくれる人が沢山いるのよ」

 

 あかりはその場にいた比呂子と零、そして涼介に向かってウインクをした。

「仕方ない。あかりさんには色々とお世話になっているからね」

「私で良ければ、何時でも久緒さんの力になりますよ!」

 同学年の比呂子や、今やZEROのトッププレイヤーとして紹介される様になった氷室零までもが協力してくれる。

 その事実が信じられず、呆けた状態だった久緒の肩を中澤が叩いた。

 

「良かったじゃねぇか西園。これからもっともっと強くなれるぞ」

 久緒は涙を拭い、しっかりと握手を交わす。

 そこにいた者達が拍手で2人の戦いを讃えた。

 

「こんな雨じゃあの娘から逃げようにも逃げられないわね」

 数日後、前の戦いを思い出させるかの様な長雨の中、豊とあかりは豊の部屋でZEROをプレイしていた。

 そんな彼女の呟きに反応するかの様に絶妙のタイミングでインターホンが鳴る。

「久緒ちゃん……だと思うけど彼女1人だけかしら。とりあえず開けてあげて」

 豊がドアを開けるとそこには久緒以外にも中澤や後輩の女子生徒、そして雨宮比呂子の姿もあった。

 

「師匠、今日も宜しくお願いします!」

 傲慢な態度を取っていたかつての彼女からは想像も出来ない低姿勢でのお辞儀に、流石のあかりも面食らってしまう。

「皆で教えれば強くなるのも早いかと思ったもので……」

 あかりに微笑みかける比呂子の姿を見て、あかりも笑顔で返した。

「ま、皆でゲームするのは1人や2人でやるのよりも楽しいからそうしましょうか」

 

 携帯機で野試合を行う者、据え置きで対戦する者、その対戦を見ながらアドバイスを行う者……

 成り行きでZEROに触れる事になった後輩達もZEROの魅力にはまりつつあった。

「そうそう。D・KINGはインファイターだから、比呂ちゃんのアメジストみたいに遠距離攻撃を行ってくる相手に対してどうやって近付くかが鍵になるんだ」

 比呂子との対戦は前までは久緒の勝利数が多く、紅白戦以後は比呂子の勝利数の方が多かったが、最近は半々と言う結果になっている。

 それだけお互いが強くなり、差が無くなり始めている証拠でもあった。

 

「豊さん」

 久緒は呼びかけに応じた豊の耳元でそっと囁く。

「責任は取ってくれよ。別に恋人になってくれなんて言ってねぇ。

 もし万が一『次』があったら……その時は誠意を持って相手してくれよな」

 豊はそれとなく頷いて誤魔化したが、中澤にはその小声が聞こえていた。

 (あー、豊さんかぁ……あの人に勝つのは難しいな。ZEROでも、恋愛でも)

 

 中澤は元々彼女の裸体を想像して自慰行為に耽った過去がある程彼女に対して恋愛感情を抱いており、豊が恋敵の様なものだと解るとガックリと肩を落とした。

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと疲れが来ただけだ。それより柊、俺と野試合してくれよ」

「了解しました!私も早く強くなって、西園先輩に貢献したいですからね」

 ZEROも、恋愛も似た様なものなのかもしれない。近付けば離れる。離れるから近付こうとする。

 中澤にも、そして久緒にも芽生えた小さな恋心がどうなっていくかは、2人のこれからの行動で決まっていくのだろう。

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