※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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実験的な側面を持つ話です。50人の少年少女を
同じ所に閉じ込めて競争意識を持たせると、同じ国の人間同士でも
当然諍いが始まる。そして『王』が誕生する。
そこから逃れる為には、その閉鎖空間から逃げ出すしかありません。


番外編 いのち 中編 1つの『ゲーム』

【2006年 1月6日 真国(しんこく) 北鮮省(ほくせんしょう)中部 捕虜収容工場】

 

 2006年最初の金曜日。

 『真国(しんこく)』全土から集められた50名の少年少女達が一部屋に集められた。

 最年少は10歳。

 最年長でも13歳と非常に若い者達がこの状況に不安を感じ互いの顔を見合っている。

 それまで2~3名のグループで鉄格子の付いた個室に閉じ込められていた為、そわそわしている者も多くいた。

 

「全員集まると、やっぱり多いわね。

 信国全体から見れば、水一滴程度の人数だけど……」

 

「俺達以外は虐殺されただろう。

 ショッピングモールに残っていた奴等も殺されたハズだ。

 紅虎明命のメンバーが武器をかき集めて天武日本に渡ったから、まともな武器なんてこの国に残ってない。

 親父は完全に墓穴を掘ったんだ。

 今更そんな事を言ってもどうしようも無い事だが」

 

 H2O爆弾は地上の建物に隠されていたものは全て誘爆し、地下に格納されていたものは自衛軍が押収。

 合衆国が保有している最新の重火器を揃えた自衛軍と民間兵では勝負にもならない。

 一方的な殺戮が行われた事は誰の目にも明らかだった。

「お前達、御喋りを止めて私の話を聞く様に」

 その部屋の一番前に置かれていた教壇に兵士が立ち、その脇を銃を持った兵士が固める。

 

 大きな長方形のホワイトボードの前に立った兵士はわざとらしい咳をした後部屋全体を見回した。

「この捕虜収容工場に集められたお前達50名の若者は、真国人最後の生き残りである。

 自衛軍陸軍大将、村井(むらい)国重(くにしげ)閣下の助命嘆願によりお前達の命は救われた。

 だが、お前達に完全なる安寧がもたらされたワケでは無い事を予め宣言しておく」

 そう言った後、兵士はホワイトボードに様々な文字を書いた。

 

「この国は最早『信国』では無い。

 天武日本国の民・自衛軍・政府の為の国、『真国』である。

 特例によって生かされたお前達とは違い、他の元国民は『ダウンフォール作戦』を継続している為数を減らしている。

 50名以外が完全に滅びるのも時間の問題だろう」

 兵士は縦線と横線を引き、1日の大まかなスケジュール表を作成する。

 

「起床は午後7時。

 服を着て食事を取り、午前中は工場での作業。

 昼食後、病気を防ぐ為1時間の日光浴及び休憩時間を取り午後も作業。

 午後7時に夕食を取り男女別での入浴。

 消灯時間の10時までは自由時間だ。

 自由時間及び就寝時には服を着ず全裸でいる事。

 個室内での毛布の使用のみ許可する。

 何か質問はあるか」

 

 兵士がスケジュール表を書き終え、そう言うと黄崎明が手を挙げた。

「この工場内で、僕達はただ働きする事になるんですか?」

 

「いや、完全なただ働きでは無い。

 仕事には飴と鞭が肝要だ。

 この工場で日曜日以外は仕事をしてもらうので、日給は8800円。

 月給では21万円程の金がお前達の懐に入る事となる。

 食事以外の軽食、ジュース、菓子、成人してからは酒・煙草等の嗜好品。

 服以外の生活雑貨、本、映画鑑賞用チケット、日光浴中のスポーツ用品等を販売するのでその金で購入すると良い」

 

 兵士はそう言った後、脇にいる兵士から紐の付いたカードを受け取り全員に見せる。

 

「このカードは『Cカード』。

 お前達がこの工場で生活するうえでの必需品になる。

 電卓と同じボタンが付いているだろう。

 金額を入力し、『OK』のボタンを押した直後受信機にかざすのだ。

 天武日本でも導入されつつある『ICカード』と同じ様なものだと思ってくれて構わない」

 

 兵士は別の兵士が手に持っているCカードに注目する様命じた。

 

「このカードは個人と個人の間でならデータを送信する事も可能となる。

 方法は簡単。

 先程と同じ様に金額を入力してOKボタンを押し、相手のカードにかざすだけだ。

 正式なやり取りを行わず金を得ようとした者は厳罰に処す。

 相手のカードを奪おうとしたり、すり替えようとする行為は全面的に禁止。

 2人以上の人間が1人の人間から同じタイミングでデータ送信を行う事も禁止とする」

 

 兵士はお手本として実際にデータの送信を行い、残高を示す金額が変わる所を確認させる。

 別の兵士が50名分のCカードを持って部屋の中に入り、全員にカードを手渡した。

 

「Cカードには持ち主の名前が登録されている。

 すり替えようとしても無駄だぞ。

 違法行為を働いた者は特別房に入ってもらう。

 そこでは拷問がお前達を待っているのだ。

 何らかの方法を用いて脱走しようとした者は即座に射殺する。

 いいか、ココのルールに違反してお前達の得になる事等一切無いと言う事をよく覚えておけ」

 

 彼等がいる部屋にも壁の隅に監視カメラが設置されており、常時怪しい動きをしている者がいないかどうか見張っている。

 尹は定められたルールの中で目立たぬ様に生きる事が命を無駄にしない方法だと思った。

 

 (勤労意欲を削がない様にある程度の自由を設け、娯楽も与える。

 仕事をさぼったり、脱走したりさえしなければ生きていけると言う事か。

 そもそも逃げた所で『外』は全てダウンフォール作戦の対象区域なのだから意味の無い行為だが)

 そう思いつつ、尹は部屋の中にいる『仲間』の内容を確認した。

 

 50名いる子供達。

 バランスを考慮されているのか、男女比も無い構成となっている。

 

 (男子25名、女子25名か。

 これなら性別による発言の強さも無いと言って良いな。

 単なる偶然なのか、自衛軍の奴等が考慮したのかは解らないが……

 だが、俺達元朝鮮半島組は10人しかいないのに対し、元明組は40名もいる。

 文化の面では随分肩身が狭くなりそうだ。

 上手く立ち回っていこう)

 

 明の大陸の方が広く、住んでいた人数も段違いだったのでこういった格差が生まれる事は予想出来ていた。

「この工場にはいずれ天武日本や合衆国から作業員が来て、お前達と共に仕事をする事になる。

 意思の疎通は不可欠である為、天武日本語だけで無く英語も覚える様に。

 少なくとも単純な会話は覚えておけ。

 勿論彼等に危害を加える様な行為は全面的に禁止だ」

 

 施設内は広く、隔離されているとはいえそういった『絡み』が発生する事も予想は出来ていた。

 数百名の天武日本人がこの工場で信国人と共に働く事も充分考えられる。

 (そうなったら、ますます大きい顔をする事は不可能になるな。

 俺達が元々滅びゆく民族になってしまった事は解っていたが、ココまで徹底されるとやるせなくなる)

 息が詰まる様な毎日を想像し、思わず尹は溜息をついた。

 

「明日からお前達には仕事をしてもらう。

 日によって仕事の内容が変わる事もあるが、基本的には流れ作業だ。

 決して雑な仕事はしない様に。

 そういった仕事をすれば嫌でも解るからな。

 どういった作業を行うのかと言った大まかな内容は資料を作成したので興味のある者は閲覧する様に」

 

 子供に11時間もの労働を強いたとしても、非難する人間は誰もいない。

 助けなど来ないのだから、自分達の力で強く生きていく必要がある。

 尹はその決意を同じ様に持ってもらいたいと思い、美子の肩に手を添え彼女をじっと見つめた。

 美子も何かを察したのか、尹の目から視線を逸らす事無くしっかりと頷く。

 

「今日お前達に報告する内容はこれで終わりだ。

 仕事の作業内容についてはグループに分かれて直前に説明を行う。

 抵抗しようなどと考えるな。

 我々は常にお前達を見ているぞ。

 この後は全員で食堂に移動して朝食を食べる様に」

 

 兵士が立ち去った後、50名は別の兵士に先導される形で食堂へと移動した。

 

「個人同士での金のやり取りが可能となると言う所がこのCカードの肝だな」

 食堂は非常に広く、300名分の椅子が用意されている。

 給食の様にトレーと器を持って移動し、専門の兵士が食事を盛るスタイルだった。

 カレーをよそってもらった後、席についた黄崎は尹と美子に対して言葉を発する。

「金の貸し借りって事か?」

 

 尹は席に座り、スプーンを手に持ちながらそう言ったが黄崎は首を横に振った。

 

「違う違う。

 金の奪い合いだよ。

 サシでのギャンブル勝負が出来るって事さ。

 ギャンブルなら勝ち目はある。

 他の連中から吸い取って『金持ち』になる事も夢じゃない」

 

 黄崎の目には人を怯えさせる様な怪しい光が宿っている。

 

「勿論、Cカードに貯まるのは『仮想通貨』みたいなもんだよ。

 天武日本でも2001年頃にネズミ講まがいの詐欺事件で仮想通貨が使用されていた。

 だがそれとは意味合いがまるで違う。

 ココで得られる金は『力』に直結するのさ」

 

 黄崎はカレーを少しずつ口に運び、食べる事よりも今は喋りたいと言わんばかりに喋り続けた。

「力?」

「そう、この閉鎖された空間で50名の頂点に立つ為の力だよ。

 仮想通貨と言えど持っていれば様々なものを購入する事が出来る。

 脱獄なんて事を考えさえしなければ、寧ろ娑婆より良い暮らしが出来る可能性があるだろ」

 

 自信たっぷりに語る黄崎を見ながら、美子は彼を諌めようとする。

 

「でも、ギャンブルで勝ち続けるなんて無理よ。

 どこかで絶対負けてしまうわ。

 それに、自由時間の時には何処にいようが裸でいなければならない。

 イカサマを行う事はほぼ不可能。

 地道にお金を貯めた方がいいんじゃないの?」

 

「美奈子の言う通りだ。

 危ない橋は渡らず、通らなくても良い道を探すべきだ」

 尹も美子に同調したが、黄崎は大袈裟に両手を広げてみせた。

 

「危ない橋?

 命まで取られるワケじゃ無し。

 しかも無一文になったとしても最低限の生活は保障されてる。

 安いギャンブルだよ。

 金の力は発言力に直結する。

 俺は生き残った連中のリーダーになりたいんだ」

 

 最早2人が何を言っても、彼の野望を止める事は出来そうに無かった。

 

 翌日から、50名に『仕事』が与えられ、工場での作業が始まった。

 手先が器用な者は部品の組み立てに回り、不器用な者は完成された部品のチェック等を担当する。

「お前達にはシューティングゲームの『デバッグテスト』を行ってもらう。

 我々が指定した通りの操作を行い、不具合が出たらその都度どういった状態に陥ったのかだけ報告しろ。

 修復自体は天武日本にいるアークラインズの社員が行う」

 

 ゲームをプレイすると言っても、苦痛を伴う作業だった。

 与えられた任務を淡々とこなすと言う事自体は変わらず、プレイし続けるので目が痛くなる。

「武器を切り替えたらフリーズしました」

「敵の戦艦が大量の弾を撃ってきた時に処理落ちが発生しています」

 美子は部品の組み立てに参加し、尹はデバッグ班に回されていた。

 

「これで良いんですか?」

「ああ、随分飲み込みが早い様だな。

 真国人にしては優秀だ」

 兵士に言われた通りに部品を組み立て、ベルトコンベアに流していく。

 機械は細かい作業を得意とするがランニングコストもそれなりにかかる為、人間に出来る作業は出来るだけやらせる方針の様だった。

 

 作業服を着る事が許されるのは朝食前に服を渡されてから夕食を取るまでの間。

 シャワーを浴びる際に全裸になる様命令され、自由時間及び就寝中も生まれたままの姿でいる事が求められる。

 性的暴行を防ぐ目的で、必ず信国人がいる部屋には銃を所持した兵士が立っていた。

 

「恥ずかしいけど、慣れなきゃこの場所で生きていけないわ」

「お前達がいたと言うショッピングモールの中に比べればマシかもしれないな。

 天武日本人はそういう事件に対して相当敏感になってるからそういう問題が起こらない様にしている。

 昔、天武日本の刑務所で看守が買収され男の囚人が女の囚人を強姦したなんて話が……」

 

 信国では天武日本の情報がすぐに入ってくる。

 新聞やテレビで放送されるのが当たり前で、寧ろそういうニュースが無い事の方が珍しかった。

 

「何をしてるんだ?」

 黄崎が美子にそう言うと、彼女は机の上に広げていた本を彼に見せる。

「合衆国の言葉を勉強しているの。

 合衆国の人が沢山この工場に来るのなら、覚える必要があると思って」

 

「真面目だなぁ。

 俺はそんな事考えてもいなかったよ。

 そりゃ言葉が通じない事でトラブルが起きるかもしれないけど、向こうの言葉は天武日本語より難しいからね」

 信国人が話す言葉と天武日本語は成り立ちが似ている為とっつきやすいが、英語は成り立ちが異なる。

 合衆国の人間が天武日本語を覚えられないのと同様に、覚えられないのが当たり前とされていた。

 

「過度に親密になる必要は無いけれど、ギスギスした状態で一緒に仕事をするのは嫌でしょう。

 それに合衆国の言葉を話せる様になれば、きっと何処かで役に立つわ」

 美子は元々勉学に励みたいと言う夢があったが、両親の仕事の都合上それが叶わなかった。

 拘束されている身だとしても学べるのならば、それに越した事は無いと思っていたのだ。

 

「向上心の塊だね。

 俺は遠慮しておくよ。

 いや、『別の勉強』をする必要があるとでも言っておこうかな」

 

 黄崎がそう言うと、彼女がいた部屋から出て行った。

 例え1人になっても専用の監視が付く。

「10時までには自分の部屋に戻る様に。

 戻り次第我々が鍵をかける」

 時計が夜の9時を回った事を確認した兵士がそう言うと、美子は何も言わずにただ頷いた。

 

 見張られていると言う事は息苦しいが同時に一定の安全が保障されていると言う事でもある。

 全ての部屋に監視カメラが設置され自室以外の部屋では兵士が常駐している状態は彼等にとってある意味有難かった。

 

「翌日の起床は朝7時だ。

 我々が直接起こしに来るから心構えをしておく様に。

 就寝中に万が一体調を崩した者がいればすぐ訴えろ。

 兵士が交代で監視を続けている」

 

 兵士は『目』が何処にでもあると言う事を強調した。

 問題が起きる事を望んでいないのだろう。

 

 部屋の明かりが落とされ、美子は尹と共に裸のまま敷布団の上に寝転がった。

 就寝中、身体に毛布をかける行為は禁止されていない。

 尹は美子の身体を後ろから抱き締めると、顔を彼女の肩に埋めた。

 

「こうなるだろうと思ったんだ。

 確証は無かったが、あの時もし『恋人同士だ』と言わなかったら別の部屋にされていただろう。

 面識の無い男と同部屋にされていたかもしれない。

 それが怖かった」

 

「私も同じ気持ちよ。

 私も貴方と一緒で良かったと思ってる」

 2人は恐怖と孤独を感じていた。

 同じ国の人間とは言え、初対面の者達と過ごすのはストレスがかかる。

 互いの事を知り、慣れるまではある程度の時間を必要とする為、知っている者に甘えたかった。

 

「それに……」

 尹の勃起した肉棒が、美子の尻に触れる。

「お前を感じたかった。

 愛し合いたかった。

 過ぎた願いだろうか?」

 

 尹はマイクで拾われる事を恐れ、耳元で囁く様な声を出している時も天武日本語を用いていた。

「私は良いけれど、貴方は私で良いの?

 初めてを誰とも知らない男の手に捧げてしまった女が相手で」

「馬鹿、お前のせいじゃないだろ。

 それに俺は、そんな事をいちいち気にする様な器の小さい男じゃない」

 

 誰であろうと、性行為を直接見られる事には抵抗があった。

 毛布だけが2人の身体を隠してくれている。

 部屋に備え付けられているトイレにすら監視カメラがあるので、自慰行為すら厳しいと言う現実があった。

 

 (俺には美子がいてくれるからまだ良いが……

 他の奴等はどうしてるんだろうか?

 やはり我慢出来なくて見られる事覚悟で自慰行為をしたりしているのか。

 考えただけで背筋が寒くなるな)

 

 男性にも女性にも性欲はある。

 欲望を発散する事が出来ないのは苦痛でしか無い。

 尹の肉棒も12月31日からずっと射精していなかった為限界が近付いていた。

「入れるぞ」

 

 自由時間中も勃起しない様注意を払っていた股間の凶器が、完全に覚醒している。

 痛い程に硬くなった先端を後ろから彼女の穴にあてがい、ゆっくりと沈めていった。

 

「お、やってるな」

 監視カメラの映像を一括管理している部屋では、常時2人の兵士が待機している。

 毛布の中で繋がり、拙い動きで快楽を求め始めた美子と尹の姿はしっかりと捉えられていた。

「しかしあの2人、随分と我慢してたもんだな。

 他の奴等なんて監視カメラを気にする事無く自慰行為に励んでいたと言うのに」

 

「恥と言う概念がある時点であの2人は他の奴等とは違う。

 特に女の方は注視していく必要があるな。

 自由時間に勉強をしていた」

 カメラの映像をズームし、尹に口を塞がれている美子の顔をじっと見つめる兵士。

 

「それは随分と特殊だ。

 自由時間に勉強をする奴なんて他にはいなかった」

「我々の様な誇りと自尊心、そして向上心を持っていると言う事だ。

 考え方が信国人よりも我々の方に近いのかもしれんな。

 感情で行動する事が多いのが信国人の特徴だが、この2人にはしっかりとした理性が備わっている」

 

 監視役の兵士の方がその点に関しては彼等よりも苦しい立場だったのかもしれない。

 相手の女性がおらず、かなり禁欲的な生活を強いられていたからだ。

 欲望が膨らんでも発散する術が無いと言うのは男にとって拷問に近い。

 

「女とやれるだけ、こいつらの方が恵まれているかもしれんなぁ」

「全くだ。

 こっちはこっそり持ち込んだオナホールを使うしか無いと言うのに」

 管理する側も、心の中では任務から解放される事を望んでいた。

 

 硬く滾った熱の塊が、脈動しながら潜り込んでくる。

 手を突っ込まれた時とはまるで違う『異物感』に、美子は困惑していた。

 (コレが、男のモノだと言うの?

 私の中で痙攣を繰り返している……

 痛くは無いけれど、涙が止まらないのはどうして?)

 

 侵入者に対しての拒否反応。

 それが一番しっくりくる説明だったかもしれない。

 奥まで潜り込んだ肉棒を感じつつ、泣き叫ばない様に口を結んでいるのが精一杯だった。

 

「熱いよ、お前の中……

 ぬるぬるしていて、簡単にモノが弾けてしまいそうだ」

 一方尹の方は、今まで感じた事の無い未知の快楽に溺れていた。

 手淫で自分を慰める事しか出来なかった男が、爆発しそうな程張った肉棒を女の中に埋めている。

 精液を吐き出したくてウズウズしている己の息子を、欲望のままに突き動かした。

 

 (あ、楨が私の中に出たり入ったりしてる。

 出入りする度に震えている)

 毛布がはだけてしまわない様に細心の注意を払いながら、尹は背後から美子を抱き締めた。

 横を向いた状態のまま、上半身を動かす事無く下半身に力を込め腰だけを前後に動かす。

 

 (凄い。

 これが女の中なのか。

 膣に扱かれるだけで蕩けてしまいそうだ。

 中に出したい……

 俺と美子の子供をこの世に残したい。

 それは贅沢な望みなのか……?)

 

 尹の脳裏に様々な思いが巡るが、最終的には快楽の渦に巻き込まれて消えていった。

 とにかく気持ち良くなりたい。

 欲望をぶちまけたいと言う思いだけに支配されてしまう。

 

 (お願い。

 終わるなら早く終わって。

 こっちはもう限界なの)

 美子は性行為が初めてと言う事もあり、気持ち良くなる事が出来なかった。

 膣の中に手を突っ込まれて破瓜の痛みを経験したと言うトラウマも無関係では無かっただろう。

 

「ごめん、もう少しだから……」

 隣の部屋にいる黄崎に喘ぎ声を聞かれたくない一心でボリュームを最大限小さくする尹。

 だが毛布の中とは言え、ピストン運動の時に発される交わりの音は外に漏れ出ていた。

 

 (ああ、凄い。凄い……

 身体全体が熱くなって、その熱がどんどん股間に集まっている様な……

 出る、精液が出る!

 美子の中に、全部出したい!!)

 

 激痛を感じる程に膨張した男根は、逆になかなか射精する事が出来ない。

 射精したいと言う欲望だけが尹の心を支配し、奥へ奥へと槍を突き立てる。

 (痛いけど、楨が私の身体で気持ち良くなっていると言うのなら……

 我慢出来る。耐えられる。

 私は楨の事が好きだから)

 

 止まらない涙を拭う事も出来ず、美子は自分で自分を励ました。

 自分なら痛みを乗り越えられると思い、獣の様に腰を動かす尹に身を委ねる。

 あまりの快感に声が出そうになったが、尹はギリギリの所で歯を食いしばった。

 

「クッ……ウウ……」

 まるで縄張りに近付いてきた人間に威嚇を行う犬の唸り声の様な声を出しながら、美子の膣内に放出する。

 僅かな膨張と収縮、何度かの痙攣を終えた頃にはその欲望の全てを解き放っていた。

 

「ハァ、ハァ……」

 舌を出して熱がる犬の様な声。

 人に聞こえない様に注意を払ってはいたが美子の耳には当然届く。

 

 (人はセックスをする時、本当に獣になるのね。

 本能のままに動いて、本能のままに出して……

 私も、いずれそうなるのかしら)

 鈍い痛みと異物感しか感じられないまま相手が達してしまった為、美子は殆ど快感を得る事が出来なかった。

 

 だがそれも相手への深い愛情で許せる。

 愛する男性と繋がれたと言う喜びの方が勝っていた。

「あ、どうしよう。

 思いっきり膣内に出しちまった……

 このまま抜いたら零れ落ちて敷布団や毛布がベタベタになる」

 

 何日かに1回は洗濯してもらえるのだろうが、今日明日ですぐに洗ってもらえるとは思えない。

 余韻から覚めて焦り始めた尹の近くにティッシュ箱が放り込まれた。

「やるならもっと上手くやれ。

 不自然な動きでバレバレなんだよ。

 もっと工夫しろ」

 

 監視室にいた兵士の1人が良いものを見せてくれた礼と言わんばかりの態度を見せながら去っていくと、2人は急速に力が抜けていくのを感じた。

「でも、しょうがないわよね……

 だって、私達にプライバシーなんて存在しないんだもの」

「自由時間に堂々と何処かの部屋でやる奴も現れそうだな。

 こういう場所で生きていくには開き直りも大事だ」

 

 蒲団から一度這い出た2人は繋がっていた部分を外し、垂れてきた精液をティッシュで拭き取った。

「人前で堂々とする勇気なんて私には無いわ」

「解ってるよ」

 軽く口づけを交わし、再びベッドの中へと入る尹と美子。

 今度は繋がる事無く、そのまま深い夢の中に誘われていった。

 

 それから2ヶ月が経過した。

 工場内での仕事は相変わらず単調で、50名が全員自己紹介を行う機会はあったものの、あまり仲良くなる気配は無かった。

 信国が広い故に互いを信じきれない部分があるのか、単に相手を怖がっているのかそれは解らない。

 男子は特にその傾向が強かったが、美子は既に何名かの女性と会えば話す程度の仲にはなっていた。

 

「やっぱり、俺達の国が国だから男に近付くのも怖いんだろうな」

「心から信頼出来る大樹が欲しいって言ってた。

 天武日本の諺に『寄らば大樹(たいじゅ)の影』ってのがあるでしょう?

 彼女達は見定めたいのよ。

 男達の中に守ってくれるしっかりした男がいるかどうか」

 

 この日は2回目の給料日として約21万が振り込まれる。

 前の給料をあまり使わなかった為、尹の残高は32万程になる予定だった。

 

「お前達は外で遊ばないのか?

 外で身体を動かすと気持ちが良いぞ」

 昼食後の休憩時間は日光浴が推奨されており、殆どの信国人が外へ出る。

 黄崎の提案に対して、美子は申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「外には出るけど、読みたい本があるから運動はしないの。

 ごめんなさいね」

「どうせ俺には解らない難しい参考書でも読むんだろ。

 幸田はどうだ」

 

「何をするって言うんだ?

 激しい運動はあまり得意じゃないんだがな」

 尹がそう言うと、黄崎は馴れ馴れしく肩に手を回し思い切り笑う。

 

「なぁに、テニスだよテニス。

 下手でも良いから俺とチームを組もう。

 楽しいぞ」

 急速に距離を縮めてきても嫌な感じがしないのが彼らしかった。

 元々マフィアのボスの息子と言う事もあり社交的で皆を魅了するカリスマ性を備えている。

 

「解った解った。

 行くよ……美奈子、また後で」

「ええ」

 

 まるで昔からの仲間の様に意気投合している2人を見ていると、美子の心が明るく照らされる様だった。

 (外はきっとまともに見る事が出来ない地獄絵図のハズなのに、ココだけは平和で……

 偽りでも良い。

 この平和が永遠に続いてほしいわ)

 

 永遠は無いと知りつつも、そう願ってしまう美子。

 この幸せな日々が一時のものである事を知るのは、もう少し後になってからだった。

 

 その日の夜、勤務時間終了後に金が振り込まれた。

 夕食とシャワーを済ませた後何時もの自由時間が始まる。

 美子は再び兵士に本を借り、性格は良いが大人しい少女と2人で小さな勉強会を開いていた。

 

「I(アイ)will(ウィル)work(ワーク)。

 私は仕事をします」

「これって、仕事が『ウィル』なんですか?」

 

「うーん、『ワーク』が仕事だと思うわ。

 『ウィル』は~するって意味よきっと。

 だから、I(アイ)will(ウィル)play(プレイ)が『私は遊びます』になるんだわ」

 

 英語は1つの単語に様々な意味がある。

 天武日本語の場合、同じ言葉でも漢字を変える事によって意味を変化させるが、全くスペルを変える事無く様々な意味を与える英語は非常に難しかった。

 

「私も英語を話せる様になりたいです。

 何時か、もし外の世界に出る事が出来たら……

 世界中を巡りたい。

 それが私の夢なので」

 

「きっと叶うわ。

 今は皆の言う事に従って、その日が来る事を祈りましょう」

 美子はそう言って彼女の頭を優しく撫でた。

 

 同じ頃、かなり広い休憩室では異様な空気が漂っていた。

「どうだ、30万一発勝負と言うのは。

 この状態でイカサマはありえない。

 レイズ無しなら覗き見があったとしても無意味だろう。

 どうだ、やるか?」

 

「カードに傷も付いてない。

 カードに妙な落書きも無い。

 解った、受けて立つ」

 全裸の少年達が向かい合って座る2人の男の周りに集まっている。

 

 女性達はそこから離れた場所でひとかたまりになり、遠くから試合の行方を見守っていた。

「お前がシャッフルしてくれ。

 無作為に切るんだぞ」

 第三者にカードの束を渡し、かなり念入りにシャッフルした後山札として床の上に置く。

 

「上からのみってのも味気ないだろ。

 何処からでも取れる様にしよう」

「了解」

 

 自由時間を使って賭けポーカーをやろうと提案したのは黄崎だった。

 そしてその提案に腕っぷしには自信がある金(キム)俊煥(ジュンファン)が乗ったのだ。

 互いに5枚のカードを引いた後、1回のみの引き直しを選択する事が出来る。

 

「俺は引き直し無しだ。

 お前は?」

 天武日本語では金原(かねはら)俊夫(としお)と言う名を持つ少年がそう言うと、黄崎は指を立てた。

 

「2枚交換」

 カードを交換した後黄崎は暫く思案している様な仕草を見せ、じっと金原の顔を見つめる。

「お前はわざわざ2枚交換した。

 俺は元から強い手が出来ている。

 勝率は俺の方が上だな」

 

「そう思うなら、賭ける額を上げてみたらどうだ」

 金原は一瞬呆気に取られた様な顔つきをした後、大声で笑いだした。

 

「馬鹿野郎が。

 俺達は30万位しか持ってねぇだろ。

 そもそもレイズ無しと言ったのはお前だ。

 負けを認めたくなくておかしくなったか?」

 

「レイズは無しだ。

 賭け金を上げると言ったのには少し語弊があったな。

 一蓮托生で組む相手を見つけてでかい勝負をするんだよ」

 そう言うと黄崎は5枚のトランプを裏側の状態で床に置き、周りの男を見回した。

 

「さぁ、俺の方が勝つと思った奴は俺に味方するが良い。

 金原が勝つと思った奴はあいつに味方しろ。

 金を2倍にするチャンスだぞ」

 Cカードを用いた賭博は禁じられていない為、壁に立っている兵士は何も言わずに彼等の方を見ている。

 

「私、黄崎君につく」

「私も……」

「じゃあ私も」

 女達は何を思ったのか、次々と黄崎の側に集まり彼に30万を預けた。

 

「じゃあ俺は金原につくわ」

「賛成。

 女が負ければ俺達に春を売ってくれるかもしれねぇし」

 男達も群がり、結局300万と300万の勝負にもつれこむ。

 

「おい、幸田の奴黄崎の方についてるぞ」

「仲が良いからな……

 あいつらよくつるんでるじゃんか」

 

 女性特有の『大器を見抜く嗅覚』に尹も己の金を賭ける価値があると思った。

 単純に、金原より紳士的な対応をしてくれるからと言う理由だけかもしれない。

 だが尹はココまで女性が集まってくるのには何らかの意味があると踏んだのだ。

「よぉし、オープンといこうじゃねぇか」

 金原と黄崎は睨み合った状態のまま、裏側になっていたカードを全てオープンした。

 

「スペードの4と10のフルハウス」

「悪いな。

 ハートの6~10のストレートフラッシュ」

 

 その瞬間、何時もは静かな休憩室が凄まじい怒号と歓声に包まれる。

「凄ぇ!

 この大勝負でストレートフラッシュを出しやがった!

 しかも2枚交換で!

 やべぇなこの引きは」

 

 金原は全く予想外の展開に憤り、苦虫を噛み潰す様な顔をしていたがやがて顔を上げた。

「イカサマがあったとは思えねぇ……

 ココは引き下がるが、今に見ていろ」

 Cカードのやり取りによって、黄崎、尹、8名の少女の残高が60万以上となった。

 逆に金原はほぼ金が無いと言う状況に陥り、金を失った者達に囲まれてしまう。

 

「ふざけやがって……

 あまりにも自信満々な態度だから賭けたってのに」

「でもしょうがねぇだろ。

 フルハウスなら強気な態度に出れるさ。

 相手の豪運が異常だったと諦めるしかねぇよ」

 

 この一晩の大勝負だけで、黄崎は50名の頂点に立ったと言っても過言では無い。

 元々人を引き付ける魅力は備えていたが、この勝利によって少女達から頼られる立場となった。

「俺についてこい。

 悪い様にはしないから」

 女達にちやほやされながら、黄崎はあくまで冷静さを保っていた。

 

「それにしても、良くここぞと言う時に特大の運を掴めたな」

 残りの自由時間を使っての宴。

 アルコールは飲めないのでジュースで乾杯し黄崎の勝利を祝う。

 

「俺はそういう星の下に生まれたんだ。

 親父の息子として生まれた時から無限に湧き出る運を使ってきた。

 大体普通の人間は50名の生き残りになった時点で運を使い果たすものだが、俺は違う。

 負けられない時に勝てる人間だけが全てを得る事が出来るのさ」

 

 黒龍省を牛耳るマフィアのボスの息子として生まれたと言う事自体が強運と言えるのかもしれないが、黄崎の運の強さはこの日の勝利だけでは終わらなかった。

 尹は彼の『生まれ持って得た科学では説明出来ない力』に感銘を受け、女達と同じ様に彼に擦り寄っておくべきだと考える様になる。

 

 それから3ヶ月が経過したある日、またも黄崎は大勝負に挑む事となった。

 相手は復権を狙う金原。

 金と女と権力を得たいのはどんな場所にいても同じ事だった。

 

「またポーカーで勝負するのか?」

 仕事が終わった後の自由時間、誰もがこの大勝負を見届けなければと思い1つの部屋に集まる。

 全裸の少年少女が集う異様な状況の中、黄崎はあくまで冷静さを保っていた。

 

「俺と同じ様に、お前を蹴落としたいと言う奴が山ほどいてな。

 このCカードに俺の金も含めて600万が入っている。

 全額突っ込ませてもらおう」

 

 10名分の悪意。

 3ヶ月の間、黄崎は女達を完全に手中に収め、この世の春を謳歌していた。

 兵士に金を握らせ個室で女性達と自由時間にセックスを楽しむ。

 他の男達にしてみれば多くの女性達を独り占めにしている黄崎は煩わしい存在だった。

 

「スピードで勝負だ。

 俺はこの3か月間スピードで勝つ為に練習を続けてきた。

 今の俺なら勝てると他の連中も認めてくれたんでな」

 スピードはあまり運を必要としない、実力がものを言うゲームである。

 反射神経・判断力・空間認識力等、必要な要素が格闘ゲームに似ている事も特徴の1つだった。

 

「俺が勝てると思う者達がいたら、このCカードに金を預けてくれ」

 黄崎がそう言うと尹や美子、彼に惚れている女達が我先にと金を差し出す。

 安定した立場を得る為には勝ち馬を見抜く為の眼力が求められるが、尹は彼に全幅の信頼を寄せていた。 

 

 勝てば600万円を獲得し、負ければ全てを失う一発勝負。

 スピードは台札・場札・手札と言う3つのフィールドがあり、台札を見ながら場札にあるカードをいかに早く出していくかが勝負の肝となる。

 手札から場札に出す4枚のカードはシャッフルした手札の上から順番に出していくので、ある程度の運も必要になっていた。

「俺が黒で良いな」

「有利不利は無いんだし、それで良いよ」

 

 不正なシャッフルが行われない様にカードの束は敵側がシャッフルし、それを別の人間が逐一監視する。

 おかしなカードの切り方をしていないか細心の注意を払い、2人に見えない様カードの順番を確認する程の徹底ぶりだった。

「同じ数字のカードが何処かで固まっていると言う事も無い。

 問題は無さそうだ」

 

 まず台札を2枚裏返しの状態で置き、場札を4枚自分の陣地に表向きの状態で置く。

 合図で別の人間が台札を表にした瞬間からゲームが始まると言うルールになった。

 

 (この3ヶ月間、奴が女に現を抜かしていたのは俺にとっては好都合。

 俺がスピードの練習をしている間も奴はセックスばかりしていた……

 実力の差は明らかだ。

 情報も漏れない様にして、今日と言う日を迎えた。

 奴から全てを奪い尽くす)

 

 50名の頂点に立ち、実権を握る事で『王』となる。

 男達を平伏させ、女達を性奴隷の様に扱う。

 その為には金が必要だった。

 大金がかかった勝負で勝たなければ何も始まらない。

 金原は今日から自分の運命が変わると信じて疑わなかった。

 

「スピード!!」

 立会人役を任された2人の少年が2枚の台札を表にした瞬間から、熾烈な戦いが幕を開ける。

 相手より如何に早く置くか。

 スピードは『相手の流れを断ち切る』力が必要だった。

 

 (お前が仲間と共にスピードの練習に励んでいると言う情報は兵士から仕入れていた。

 個室に兵士が必ず1人いる以上、この工場に絶対的な秘密を保持出来る場所など存在しない。

 そして金を余計な事に使えないお前は俺がスピードの練習をしている事に気付けなかった。

 あのポーカーで敗北した事が全てなんだよ、金原)

 

 相手より素早くダイヤの8を置き、スペードの8が置かれる事を阻止する黄崎。

「な、なんなんだアイツ。

 残像が見えそうな位速いぞ」

「金原も速いけど、黄崎の方が的確に置けている。

 手札の減り方を見れば一目瞭然だ」

 

 黄崎は相手が置きたいK→A→2の流れを妨害する為、K→A→Kを平然と行う。

 (置かれる事が解っていても阻止出来ない。

 どんな脳味噌をしているんだ黄崎は)

 勝負の時間自体は非常に短い僅か2分の攻防だったが、結果として黄崎が相手の手札を10枚残す形で手札・場札を全て無くした。

 

 (置けなくなる事が一度も無かった。

 金原が妨害する事すら出来なかったからだ。

 本当に常人の2倍のスピードで動いているかの様だった……

 化け物と言う以外に無い)

 

 金原も決して下手なワケでは無かった。

 黄崎が常識の外にいる人間だったと言うだけで、ココまで一方的な勝負になるとは思われていなかったのだ。

 

「あーあ、また金があっちに行っちまうよ」

「もう金原に肩入れするのは止めようぜ、持っていかれるだけだし。

 黄崎の奴強過ぎるって」

 呆然として固まっている金原の周りにいた者達が、愛想をつかして去っていく。

 黄崎はCカードに600万円分のデータを移すと、互いの健闘を称え合う為に握手を求めた。

 

「面白かったぜ」

 金原は腸が煮えくり返る様な思いでいたが、相手を殴ったり、暴れれば懲罰を受ける事が解っていた為それも出来ない。

 握手に応じる事もせず逃げる様にその場から去っていく。

 この時点でもう彼の復活は考えられなかった。

 

「他の奴等から金を借りる事が出来なくなったから、自分の貯めた金で勝負しに来る可能性はあるけど……

 どんなにしつこく挑まれても俺は勝つよ。

 俺はそういう星の下に生まれているから」

 金原に肩入れした者達も、黄崎の圧倒的な強さに魅了されていた。

 

 彼の台頭を面白くないと思ってはいたものの、勝負にならない程の実力差を見せ付けられれば彼を認めるしか無い。

「やっぱりお前は凄いなぁ。

 ポーカーだろうとスピードだろうと勝っちまうんだから」

 

「なぁに、お前や美奈子さんが金を預けてくれたのも大きいよ。

 俺は信頼を勝ち取り、奴は信頼を完全に失った。

 こうなると奴の居場所はどんどん狭まっていく一方だ」

 彼の周りに出来た人の輪は、どんどん大きなものへと変わっていきそうだった。

 

 工場には50名を収容するエリア、働いてもらう為の作業場エリア、自由時間を過ごさせる為の多目的エリア等様々な場所が存在していたが、当然彼等が入れないエリアもあった。

 自衛軍の兵士達が連絡・報告を行う為のエリアである。

「それにしても、何で奴等はあそこまで好待遇を受けているんだ。

 雑魚寝させれば良いってのに」

 

「良いじゃないか。

 俺達の方が工場の外にでかい宿舎を作ってもらってるんだから。

 奴等が何か問題を起こして上から文句を言われる方が嫌だよ俺は……

 お、閣下のお通りだ」

 

 廊下を歩いていた2人の兵士は、村井国重の姿を視界に捉えた瞬間棒立ちのまま敬礼を行った。

「消灯時間を迎えたが、何も問題は起こっていないな?」

「ハッ、現在監視を続けておりますが目立った問題は発生しておりません」

 

「引き続き監視を怠らぬ様に。

 私は『白の部屋』で通話を行う。

 他の兵士は一切立ち入らせるな」

 一般の兵士とは違い、胸には沢山の勲章が付けられ腕章も彼の地位の高さを如実に表している。

 

 村井は50名の信国人をこの工場に閉じ込める役目と、ダウンフォール作戦の指揮両方を任されていた。

 (とにかく今はあの方を怒らせぬ様にする事が第一だ。

 あの方の御父上がトップに立っていた時はここまで精神的に厳しくなる事は無かった)

 溜息をつきながら村井は『白の部屋』と呼ばれる通信室に入り、内側からしっかりと鍵をかける。

 大将が上司と連絡を取る為の部屋で、一切音が漏れ出ない様防音構造になっていた。

 

 2006年の初めから、織田信虎政権はバトンタッチの時期を迎えていた。

 総理大臣は信虎のままであったが、信国に対する対応は全て彼の息子である信鷹に一任させていたのである。

 総理大臣としての力量があるかどうか親としてチェックすると言う意味合いもあり、村井は中間管理職としての苦しみに耐えなければならなかった。

 

 (来年には正式に信鷹様が総理大臣となり、信虎様が相談役と言うポストに就く事が正式に決定している。

 信虎様が上皇の様に一定の権限を持つ事は明らかだろうが、信鷹様はそれを良く思ってはいない。

 自分の権力を誇示する為に無茶な命令も下してくるだろう。

 出来るだけその『暴走』を食い止めなければ)

 

 権力が二分されると言う事が、国家を不安定にする最も大きい要因になる事は言うまでも無い。

 既に信虎と共に仕事を行っていた大臣達を筆頭とした派閥と信鷹に新しい大臣を任された者達を筆頭とした派閥が誕生している。

 最早その『分裂』を食い止める事が出来ない為、その2つの勢力間で決定的な亀裂が生まれない様村井が調整するしか無かった。

 

「夜分遅くに申し訳ありません。

 例の件ですが、とびきりの逸材が用意出来ました」

『ほう、どんな奴だ。

 言ってみろ』

 椅子に座ってふんぞり返っている姿が容易に想像出来る程の、威圧的な態度を取る声が受話器から聞こえてくる。

 

「黄崎明。

 黒龍省のマフィアのボスを務めていた男の息子です。

 信じられない程の反射神経と情報処理能力を持っています。

 今日も賭けでスピード勝負を行い圧勝しておりました。

 彼を出場させるのが得策かと」

 

 村井は相手を刺激しない様に努めたが、信鷹は元々電話する前から機嫌が悪そうな声をしていた。

 

『そんな圧倒的に強い奴を出してどうするんだよ馬鹿か。

 しかもマフィアのボスの息子を出場させたら国際問題になるだろ。

 大統領が良い顔をするワケが無い。

 別の奴を探せ。

 絶対に勝てない奴じゃつまらんし、強過ぎる奴も駄目だ。

 ゲームにならないからな』

 

 信鷹はまだ若く、人の命を軽んじている所がある。

 村井は少し前に彼と行った会話を思い出していた。

『50名だと!?

 50名は多過ぎる。

 10名に減らせ』

 

「しかし50名を残せと命令したのは貴方の御父上、信虎様でございます。

 殲滅した事を自慢するかの様な残し方をすれば国際社会から非難を浴びる。

 50名が最低ラインと思ってその者達を丁重に扱えと……」

 

 少数民族と化した信国の人間に虐待や苦しい生活を強いれば非難される。

 元々大規模なジェノサイドを敢行した時点で合衆国は火消しに奔走していたが、これ以上の問題を増やしたくないと言うのが本音だった。

 国際社会の非難を止める為のガス抜きをしなければならない。

 大統領の命令により、総理大臣である信虎は50名と言う人数を残す事を決断した。

 

『親父はどこまで腰抜けなんだ。

 50名もの信国人が生き残っていたら危険極まりないだろ。

 今はガキだが、大きくなれば俺達への報復を企むに決まっている。

 10名ならどうしようも無いが、50名なら軍隊を形成する事が出来るのが解らないのか』

 

「信虎様はまだ総理大臣の座におられます。

 強行すれば天武日本の秩序そのものが揺らぎかねません。

 どうか、賢明な御判断をされます様」

 

 村井はそう言って宥めたが、信鷹が譲歩する気配は微塵も感じられなかった。

『……フン、そこまで言うなら1つゲームをしようじゃないか』

「ゲーム?」

 

『親父が好きな格闘ゲームで、俺と親父のどちらが正しいのか勝負するのさ。

 2011年に合衆国はZEROの大規模な大会を開催しようとしている。

 信国人の連中の中である程度やれそうな奴を1人選出して、その大会に挑ませるんだ。

 もしそいつが優勝する様な事があったら、信国人の数を減らす事はキッパリ諦めるよ。

 だが予選敗退レベルの醜態を晒せば、40名は皆殺しだ。

 見かけ上はフェアなルールだろう?』

 

 村井は開いた口が塞がらなかった。

 暗愚の極み。

 間違っても口には出せないが、信鷹が為政者の器では無い事は明白だった。

 

 (馬鹿げている。

 人の生き死にを格闘ゲームで決めるなどと。

 しかも見かけ上はフェアなだけで、信鷹様が適性の無い人間を我々に選ばせればそれまで。

 予選敗退が最初から決まっている様なもの。

 信虎様がそんなゲームを許すハズが無い)

 

 愚かな人間がこれからの天武日本を動かしていく事を想像し、村井は怖気が走る思いだった。

 

『勝てるか勝てないか解らない、ギリギリの技量を持っている奴が一番良いな。

 ゲームが面白くなる。

 親父だって本音は信国人を皆殺しにしたいと思っているさ。

 結局は世間体だろ?

 俺が『殺した』事にすれば諸外国からの非難も抑えられるって』

 

 信鷹も自分が暗愚な人物だと思われている事は理解しているらしく、逆にそれを利用する作戦に出たらしかった。

 信虎が相談役として政界に一定の力を持ち続ける以上、信鷹が『暴走』しても国のトップが狂ったとは思われない。

 それを利用して暴れる事が出来る。

 信鷹はそんな事を考えている様子だった。

 

 (結局、信鷹様は親離れが出来ない子供なのだ。

 親を疎んじる一方で、親の力に縋り甘えている。

 自分が失敗しても親が尻拭いをしてくれるだろうと。

 子供の責任が親の責任になる事を解っていない。

 もし信虎様がいなくなって信鷹様だけになったら、この国が滅んだとしても不思議は無いだろうな)

 

 綾小路財閥も竹中官房長官もこの息子が愚かである事に気付いていなかった。

 気付いてさえいれば世代交代が起きるまで待っただろう。

 待てなかった事は財閥の不幸であったが、天武日本国にとっては救いとなった。

 もし織田政権と言う船が沈没したら、誰がこの国の舵取りを行うのか。

 村井は頭を悩ませながら、そんな事を考えていた。

 

 信虎はこの『ゲーム』を簡単に受け入れた。

 そもそも信国人が何人減ろうが問題にならないと思っている素振りまで感じられた。

『信鷹は子供だから、この問題に関しての主導権を握ったと思ってはしゃいでいる事だろう。

 信国人が増えようが減ろうが天武日本においては大した問題では無い。

 それに50人の子供が多少減ったとしても増える要素は残っているからね』

 

 村井は自分だけが正常で、政治家と言う類の人間は皆頭がおかしいのかもしれないと思い始めていた。

 

 (人の命をゲーム感覚で奪う事に何の躊躇も無いとは……

 信虎様もまた『鬼』なのか。

 いや、そもそも信虎様にとって大事なのは『天武日本国民』であって『信国民』では無いのだ。

 興味が無いと言うのが正直な感想かもしれない。

 深く考えていると私がおかしくなってしまうな)

 

 村井はこの状況を危惧していたがゲームは始まってしまった。

 2011年までに格闘ゲームの才能がある子供を信国人の中から見つけて育成し、大会に出場させる。

 その結果次第で50名の運命が決まる。

 命令には逆らえなかった為、早速その選考作業が水面下で行われた。

 そして現在、黄崎明が候補に挙がるも却下されたのだった。

 

『ともかく、マフィアのボスの息子は論外だ。

 他の奴を探せ。

 なるべく早く見つけないと、練習する時間も無くなるぞ?

 俺にとっては嬉しい話かもしれんが』

 

 信鷹は不機嫌そうにしていたが『ゲームの勝利』を確信したのか大袈裟に笑ってみせる。

「了解致しました。

 なるべく早く候補となる者を見つけ出します」

 

『頼んだぞ。

 不戦勝は俺もなるべくなら避けたいんだ。

 親父にズルしたと思われるのは嫌だからな。

 また候補が見つかり次第連絡しろ』

 電話が切れ、村井は溜息をついた後受話器を戻し椅子に座ったまま頭を抱えた。

 

「黄崎ほどに頭が良くて格闘ゲームの才能がある人間を見つけろなんて無茶な話だ。

 そんな奴が残り49名の中にいるとは思えない」

 信鷹の機嫌を損ねれば、自分の立場も危うい。

 それが解っているからこそ、村井は苦悩していた。

 

「美奈子さん、アンタなかなか上手いじゃないか」

「そうですか?

 私は一生懸命手を尽くしただけですけど……」

 

 勝利の宴の後、消灯時間前に黄崎とスピード勝負を行った美子は彼とほぼ互角の勝負を繰り広げ惜敗した。

 手札はゼロ。

 場札に3枚残った状態で黄崎が勝利。

 薄氷を踏む勝利と言って差支えが無い。

 

「いや、凄いよ。

 黄崎は全く手を抜いてなかった。

 あんな速度で出していったのに美奈子が何回かその勢いを止めていたろ?

 金原には出来なかった事だ。

 しっかり阻止を決めていた」

 

 尹も美子にこんな才能があったとは思っていなかった為、驚いていた。

「才能があるよ。

 もし俺の実力を上回れたら、代打ちを頼みたい位だ」

「そんな……

 私にはそこまでの才能は無いですよ」

 

 美子は謙遜したが、黄崎は既に彼女の中に眠る隠された力を見抜いている。

「広い世界に出れば、アンタは必ず良い成績を残せる。

 何をやるかにもよるが、何かで成功する事だけは確かだ」

 

「私が……?」

 自分を信じる事が出来ず、褒められても素直に喜ぶ事が出来ない美子。

 信鷹が考案した『ゲーム』の候補が正式に決定する日は間近に迫っていた。

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