※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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洪美子はこのZEROと言う作品内ではトップ3に
入るであろう美女です。明確な1位は決めていませんが、
霧原冴子や長尾遼子、東郷恵あたりと争う事になるでしょう。
今まで登場してきた女性とはまた違った強さを出したいと
思っていましたね。


番外編 いのち 中編2 大海に出る少女

【2006年 6月5日 真国 北鮮省中部 捕虜収容工場】

 

 美子達が工場での勤務・生活を始めてからおよそ半年が経過した。

 殆どの者達が仕事にも慣れ、ココの生活に順応しようとする。

 そんな中、工場に訪れた数百名の工員は信国人達との軋轢を生みそうだった。

「今日から合衆国の工員200名、天武日本国の工員200名がお前達と共に働く事になる。

 作業と食事以外は別だが、お互いを尊重し無益な諍いを生まぬ様に」

 

 この捕虜収容工場以外に、最早元信国民の姿は無い。

 主要な街の建物はビルであろうと家屋であろうと殆どが爆破解体され、同じ様な工場ばかりが建設されていた。

 そしてその工場に大量の天武日本国民が工員として入ってくる。

 天武日本と合衆国の『生産拠点』として、この工場も役割を果たさなければならなかった。

 

「この部品がしっかり組み立てられているかどうか、精査してくれ」

「解りました」

 人生の中で、初めて目にする『外国人』の姿。

 天武日本人はこの半年間である程度見慣れていたが、西洋人の姿は見るだけで緊張する。

 

 (大きい……

 とにかく背が高い!

 顔の彫りが深い!

 髪の色が違う!

 ごつい男の人ばかりだし、緊張するわ……)

 

 合衆国からやってきた工員は『英語が喋れる』と言う共通項以外は様々な違いがあった。

 肌の色、髪の色、目の色……

 基本的に20歳以上の若者だった為常に相手を見る時見上げなければならない。

 年端もいかない少女である美子にしてみれば、常にこちらを見下ろしてくる威圧感のある人間と接するのは大変だった。

 

『それにしてもこいつ等が『生き残り』か、無様なものだ』

『50人も生き残ってるだけマシだろ。

 我々にはカランカワの事がある。

 合衆国に喧嘩を売って絶滅していないなんて、天武日本の奴等は実に慈悲深い連中じゃないか』

 

 かつて合衆国は合衆国内に住んでいた先住民族を絶滅に追い込んだ過去がある。

 繁栄の為には致し方無かったと言う認識があり、合衆国の者達に限れば民族を滅ぼすと言う事に関しては肯定的な意見を持つ者が殆どだった。

 

『ガキばかり残したのも、反抗的な態度を取られない様にする為だろうな』

『教育して、天武日本人にとって都合の良い人間にするつもりだろ?

 それにしても結構良い女になりそうなガキもいるじゃねぇか。

 1匹位持ち帰りてぇよ』

 

 合衆国からやってきた工員達は英語で喋る事を全面的に許可されている。

 英語が通じない相手には何を言っても構わない……

 彼等は相手を見下す様な態度を取っていた。

 

「こっちの方を指差して笑ってるぞ。

 何を言ってるのか解らないのは不気味だな」

「だがそれは向こうだって同じ事だ。

 俺達の言葉だって解りゃしない」

 

 天武日本語は合衆国の人間には非常に覚え辛い『悪魔の言語』として知られており、完璧に操れるのは余程頭の良い人間に限られていた。

 言語の体系がまるで異なる為、この2つの言語を覚えられる人間の知能指数は極めて高い。

 それ故に、天武日本国や合衆国では相手がどれだけ賢い人物なのかを測る指標の1つになっていた。

 

 仕事を覚え始めて数ヶ月も経つと、要領が良くなってくるものである。

 信国人50名のこなす仕事量は仕事を始めた直後と比べると1.5倍に増加していた。

「2ステージ目の序盤に出現するアイテムを斜めに飛行しながら取ると機体の色が変わるバグを発見しました」

「この部品のはんだ付け完了です。

 次の部品を持ってきてください」

 

 元々与えられた仕事を愚直にこなすと言う作業に関しては得意であり、信国人としての『色』が付く前に天武日本人の兵士が躾けていた為無闇に逆らったりしない。

 信国人としての性質が固まっている大人で無く、子供を選んだのにはこうした理由があった。

『おいおい、俺達のこなしてる仕事より多くなりそうだぜ。

 スピーディーで無駄が無い』

 

『奴隷気質なんだろ。

 奴隷としちゃよく働くが、仕事以外ではてんで役立たずって事さ。

 俺達は俺達のスピードでやろうぜ。

 焦ってミスしたら怒られるのは俺達の方だ』

 特に美子、尹、黄崎の3名は優秀な働きを見せており、兵士達も絶賛する程だった。

 

「幸田、瀬川。お前達の動きは素晴らしいぞ。

 信国人の工員全員の模範にしたい位だ」

「有難うございます。

 お褒めの言葉に対して決して奢らず、これからも地に足をつけて頑張っていく所存です」

 

 美子はどういった態度を取れば相手が喜ぶのかを学習していった。

 卑屈になる必要は無いが、自分が『出来る』とひけらかすのもマイナスになる。

 

 (とにかく、目立ち過ぎない様にしないと……

 妬みの対象になるのだけは避けなければいけない。

 楨にもそれだけは気を付けろって言われているんだもの。

 ボロは出さないわ)

 

 大勢の少女から支持されている黄崎の助けがあるとは言え、彼女はあくまでも慎重だった。

 金原の様に彼女達に良い感情を抱いていない者達がいるのだから尚更だ。

「畜生、兵士に擦り寄って点数稼ぎしやがって。

 ぶっ殺してやりてぇ」

 

「馬鹿!聞こえるぞ。

 諍いは即特別房送りになるって事を忘れたのか。

 今は我慢だ。

 俺達に有利な局面じゃない。

 流れが変わるまで待たないと」

 

 自分が評価されない事を他人のせいにして、不満だけが蓄積していく。

 金原はある意味信国人の中の信国人と言っても過言では無いだろう。

 自分に悪い点があると言う事実を決して認めず、他人が不幸にならなければ我慢が出来ない。

 元々常に監視されていると言うストレスの溜まる環境の中で、彼の怒りはどんどん強くなっていった。

 

 そんな彼等の『日常』に変化が生じたのは、合衆国の工員がやってきてから数日が経過した時の事だった。

 何時もの様に美子が自分が処理した部品を丁寧に籠の中へ入れ、他の工員の分も回収していく。

「こちらの籠にどうぞ」

 合衆国の言葉を用いずとも、その行動自体で相手が何をしようとしているのかは理解出来る。

 

『嬢ちゃん、随分可愛いじゃねぇか。

 今夜俺のベッドに遊びに来ねぇか?

 ……へへッ、冗談だよ』

『冗談を言ったって解るワケ無ぇだろうが。

 ホラ、同じ部品だ』

 

 何も言わず、合衆国の工員達から部品を受け取り籠の中に入れていく美子。

 だが近くにいた赤い髪の男性が胸を抑えてうずくまると彼女の顔色が変わった。

『大丈夫ですか?』

 眼鏡をかけた中年の白人男性はそのまま座り込み、明らかに苦しそうな表情を浮かべている。

 

『何処か痛い所があるんですか?

 立てます?』

『む、胸が痛い。

 破裂してしまいそうな程痛い……』

 

 額には大量の汗。

 とても自分で立って医務室へ行ける様な状況では無い。

 

『すいません、手を貸してください。

 この人を医務室に運ばないと……

 そうだ、確かこの部屋の隅に担架が置かれていたでしょう。

 誰か、それを持ってきてください』

 

 切羽詰まった状況で、周りにいる合衆国の人間の助けが必要。

 美子は自分が勉強してきた英語で懸命に彼等の助けを借りようとした。

『おい、あのガキ……

 マジかよ。

 俺達の言葉をあんなにも流暢に』

 

『馬鹿。そんな事を言ってる場合か。

 あの子の言う通り担架を持ってこい。

 彼を医務室まで運ぶぞ』

 

 英語を話す美子に対して呆気に取られる工員達。

 だが何名かの工員が担架を持って現場に戻り、刺激を与えない様慎重に男性を担架に乗せる。

『あ、有難う御嬢ちゃん……』

『当たり前の事をしただけです。

 揺らしたり、落としたりしない様にしてください』

 

 2人の工員が彼をゆっくりと運んでいく。

 美子はそれ以上何も出来ず、見送る事しか出来ない自分の力の無さを嘆いた。

 (あの人、元気になってくれればいいんだけど……)

 彼が運ばれていった後、合衆国の工員達は美子の手を取り彼女の行動を称える。

 

『凄いぞ、人助けだ嬢ちゃん。

 話せるんならもっと早くに言ってくれれば良かったのに』

『俺達にも解る綺麗な発音だったぜ。

 信国人にも英語が話せる奴がいるんじゃねぇか』

 

 手を思いっきり上下に揺さぶられたり、感謝の気持ちとして背後から抱き締められる。

 美子はそういった合衆国流のスキンシップに慣れておらず、揉みくちゃにされるだけだった。

 

 (どうしよう。

 黄崎さんから注意されていたのに、つい使ってしまった……

 合衆国の言葉が解る様になったとしても向こうの言葉は使うなって言われていたのに)

 彼女の勉強は実を結び、僅か数ヶ月で英語を話せる様になっていた。

 その事を黄崎に話した時、厳しい言葉で色々言われた事を今になって思い出す。

 

『学んでモノにすると言うのは良い事だ。

 だが、英語が話せる様になった事を絶対に周囲に漏らすな。

 それが解れば合衆国の兵士達がお前にちょっかいを出してくるかもしれないし、天武日本の兵士がお前を使い易い通訳として利用するかもしれない。

 お前の負担が増えて使い潰されるだけだ。

 英語が話せる様になったとしても、黙っているのが正解だ』

 

 黄崎の言葉通り、その一部始終を見ていた天武日本の兵士達が彼女を呼び出すのは自然な流れだった。

 

 部屋の隅に兵士が立ち、兵士以外は誰もいない小部屋。

 美子は椅子に座ったまま待っている様命令され、両膝に手を置いたまま緊張していた。

 

 (黄崎さんの言う通りになってしまった。

 私は何を言われるんだろう。

 こうなってしまったら仕方無い。

 相手の命令を跳ね除ければ待っているのは確実な死。

 どんな無茶な命令であっても、生きる為には従わなければ……)

 

 やがて、胸に勲章を沢山付けた中年男性が部屋に入ってくる。

 美子はその顔に見覚えがあった。

 初日に彼女達を集めて演説を行った人物だ。

「お前は私が『いい』と言うまで『部屋の外』で待機する様に」

「了解致しました」

 

 兵士が部屋の外へと出ていき扉を閉めると、男性は椅子に座り彼女と向かい合う。

「私の名前を覚えているかな」

 彼女を委縮させない様微笑みながら、男性は机の上に書類の束を置いた。

「村井さん……ですよね」

 

「おお、流石の記憶力だ。

 同じ質問を別の信国人にしても、覚えているか微妙な所だろう。

 君の事は事前に調べさせてもらった。

 間違っている箇所があれば遠慮無く訂正してくれ」

 天武日本自衛軍陸軍大将、村井国重はそう言うと部下から渡された書類に目を通した。

 

「洪(ホン)美子(ミジャ)。

 通名は瀬川(せがわ)美奈子(みなこ)。

 北鮮省出身。

 満年齢13。

 今年の10月10日に14歳の誕生日を迎える。

 両親は食肉用の馬を育てる仕事をしており、君もその仕事の手伝いをしていた。

 君と同じ部屋にいる尹(ユン)楨勳(ジョンフン)が紅虎(こうこ)明命(みんめい)のリーダー、尹(ユン)昌浩(チャンホ)の息子である事は知っているね?」

 

「はい。知っています。

 でも彼に危険思想はありません。

 とっても良い人です」

 

「いや、大丈夫だ。

 君達を責めているワケじゃない。

 確認をしただけだ。

 気分を悪くしたのなら謝るよ」

 

 村井も尹に見張りを付けていたが、半年間全くそういった話が出てこない事は確認していた。

 (危険思想があるか無いかと言う事は大事だ。

 特に彼女にそういった思想があるかどうか。

 そういった思想があった場合、彼女を海外に向かわせればリスクが伴う)

 

 元々、自衛軍は美子の行動を調べまとめ上げていた。

 それぞれの小部屋の中には高性能の隠しマイク及び監視カメラが存在し、妙な行動を取れば即座に解る様になっている。

 尹とのセックス等多少イレギュラーな行動はあったが、それは彼女に危険思想がある事を示すものでは無かった。

「話題を変えよう。

 君は合衆国の言葉を話せる様だが、ココで学んだ事が全てなのか?」

 

「はい。

 半年前は英単語も解りませんでした。

 英語の辞書、英会話を学ぶ為の教科書、ネイティブな会話が録音されているテープ……

 兵士の方々に貸してもらい、覚えました。

 覚えれば、いずれ役に立つと思ったんです」

 

 天武日本の自衛軍も英語を覚えるべきとされていた為、教材は余る程置いてあった。

 特に大量の英会話を倍速で聞くと言う優れた勉強法を取り入れた事で、美子の『話せる力』が向上していく。

 自由時間の殆どを勉強に費やしていたとは言え、ほぼ完璧に英語をマスターしたのは奇跡としか言いようが無かった。

 

 (この子は特別だ。

 黄崎と同じ『特別な力を持つ人間』なのだ。

 それに黄崎と比べれば我々に対して反抗もせず従順。

 『ゲーム』のプレイヤー候補としては申し分無い)

 

 村井は信鷹から『候補者』を早く選出しろとせっつかれており、焦っていた。

 誰でもいいとばかりに選んで惨敗すれば、信鷹を増長させてしまう。

 能力があり、なおかつ黄崎の様にその能力をひけらかさない人物が求められていた。

 

「君の天武日本語は実に聞き取り易い。

 英語に関しても合衆国の工員が絶賛していた。

 英語を勉強し続ければ、どんな状況においても物怖じする事無く喋る事が出来るだろう」

 村井は机の上に書類の束から分けた問題用紙と解答用紙を置き、鉛筆と消しゴムを渡す。

 

「私は君の『能力』を知りたい。

 この40問の問題を解いてくれ。

 制限時間は40分だ。

 よもや私の見ている前で不正は行えないと思うが、真剣に取り組む様に」

 

 問題は全て『北鮮省』の人間が使う言葉で書かれており、読めないと言う事は無い。

 彼女はこの問題を本気で解くべきなのか迷ったが、村井が見ている以上誤魔化しても見抜かれると思い覚悟を決めた。

 (彼は私がワザと間違えて、それに気付かない様な人間じゃない。

 テストの結果が私の今後にどんな影響を与えるのか皆目見当も付かないけれど、真面目にやるしか無いわ)

 

 根が真面目である美子は40問の問題に対して素直に向き合い、解く事に全力を注ぐ。

 一生懸命頭を悩ませている間に時が流れ、あっと言う間に40分が経過した。

「私だ。

 こっちに来て採点してくれないか……

 ああ、大至急な」

 

 何とか全ての問題の答えを書いた美子であったが、正解しているかどうかはまるで解らなかった。

 村井は無線で腹心である部下を呼び出し、即座に採点をさせる。

「どうだ、彼女のIQテストの結果は」

 

「……少なくとも130オーバーは確実です。

 知能指数だけで言えば、間違いなく天才の類ですね。

 半年で英語をマスターしたのも頷けます。

 恐らくあと半年あれば完璧に英語を話せる様になるでしょう」

 

「解った。

 下がってくれ」

 部下に小声で耳打ちされた後、村井は部下を部屋から退出させ溜息をついた。

 

 (彼女は知らないし、私と本人しか知らない事実だが……

 黄崎明も同じ様な知能指数の持ち主だった。

 IQ130以上の人間は50人に1人の天才とされるが、50人の集団の中に何と2人もいるとは)

 IQ=勉強が出来ると決めつける事は出来ないが、知能指数が130ある人間ならば偏差値の高い学校への進学が容易になると言う。

 彼女は北鮮省の言語、天武日本語、合衆国の言語を操るトリリンガルになりつつあったがそれもある意味当然の結果だった。

 

「あの……

 いつまでココにいれば良いんですか?

 早く仕事に戻らないと怒られます」

 美子は村井を怒らせない様にしながらそう言った。

 

 (仕事をしなければならないと考える姿勢。

 親切で真面目。

 やろうと思ったら躊躇せず実行する努力家。

 英語が話せる。

 知能指数も高い。

 人見知りも無く社交的……

 彼女以外には考えられない)

 

 村井は美子を『ゲーム』のプレイヤーにする意思を固めた。

 信鷹との勝負に勝つ為。

 そして相談役として退く信虎からの信頼を得る為にも、選択を間違う事は許されない。

 村井もまた、彼女の将来性に己の人生を賭ける決断を下した。

 

「仕事はいい。

 いや、言い方を変えよう。

 これから君には別の仕事をしてもらう」

「え……?」

 思ってもいなかった言葉に、美子は驚きその場から動く事が出来なかった。

 

 壁も天井も真っ白な部屋。

 そこに『ZERO SECOND』の筐体が置かれている。

 村井の後について部屋の中に入った美子は、自分がこの場所に連れてこられた理由が全く解らなかった。

「君は、ゲームをした事はあるかね?」

 

「いえ……

 どういうものなのかは何となく知っていますが、触った事はありません」

 村井は扉を閉めると、筐体の前にある椅子に彼女を座らせた。

 画面はまだ表示されていない。

 

「ZERO GALAXY BATTLE 2011と言う大会が2011年に合衆国で開催される。

 ZEROと言う格闘ゲームの大会だ。

 君にはその大会の出場及び優勝を目標としてもらいたい」

 美子は慌てて首を横に振り、村井の袖にしがみつく。

 

「む、無理です!

 格闘ゲームをプレイした事の無い私が、優勝を目指すなんて」

「君しかいないんだ。

 大会が合衆国で開催されるのだから、英語が話せないと参加すら難しい。

 君の様な優秀な頭脳の持ち主ならば、格闘ゲームもプレイ出来る様になるだろう」

 

 有無を言わせない様な口調に、美子は押し黙り彼から手を離した。

 

「それにだ。

 今はまだ2006年の6月じゃないか。

 2011年の2月までまだ4年半もある。

 1ヶ月後に開催される大会に参加しろと言うのは確かに無茶な話だが、4年半と言う期間があれば充分だろう。

 天武日本から優秀なプレイヤーをこの施設に派遣し、君をサポートする準備も整っている」

 

 やるかやらないかでは無かった。

 これはれっきとした『命令』なのだ。

 美子には拒否権は無い。

 拒否すれば特別房に入れられるのは明らかだった。

「……解りました」

 

「君には50州から州代表50名を選ぶ予選会から参加してもらいたい。

 予選会が開催されるのは2011年の1月。

 難易度を考慮すればハワイ州での参加が望ましいだろう。

 予選を免除された特別参加枠を含めた52名が第二次予選に挑む事になる。

 52名をABCDの4ブロック13名に分けて総当たりのトーナメント戦を行い、成績が優秀だった上位4名が決勝トーナメント進出。

 つまり、決勝トーナメントに進めるのは僅か16名だ。

 この16名の中に入るのが最低目標と言って良い」

 

 とんでもない人数が集まる予選会で勝ち抜き、さらに強豪と戦って16強入りを目指す。

 気が遠くなりそうな話だったが、それが最低目標となると気が重くなるばかりだった。

 (その16名からさらに勝ち抜いていかないと優勝は無理。

 それを4年半で!?

 人生をこの格闘ゲームに捧げないと、そんな事は絶対に出来ないわ)

 

「君が今まで行っていた仕事は全て免除だ。

 格闘ゲームの練習と完璧な英会話の習得が君の新しい仕事だと思ってくれて構わない。

 朝と昼は格闘ゲームの練習。

 夜の自由時間に英語の勉強。

 これなら、『無理』とは言えないだろう?」

 

 ただ闇雲に練習しても効率が悪ければ何の意味も無いが、優秀なプレイヤーが成長を促してくれると言う。

 そういった要素を踏まえ、美子は格闘ゲームのプレイヤーになる決心をした。

「出来る限りの事はさせてもらいます」

 

「頼んだよ。

 この大会は各国から強豪プレイヤーが集まってくる。

 この大会での結果が、『信国人』の評価にも繋がってくるんだ。

 つまり、『君達の運命』をも左右する大事な試合だ」

 村井は敢えてこの大会が持つ『本当の意味』を彼女に伝える事はしなかった。

 

 それを伝えてしまえば彼女に余計なプレッシャーを与えてしまう事になる。

 格闘ゲームによって自分達の生死が決まる等と言う情報を与えても良い結果をもたらさない事は解っていた。

「この事は他の人に教えても構わないのでしょうか」

 

「いや、別の仕事を任されたとだけ伝えてくれ。

 この情報が君以外の信国人の耳に入るのは好ましくない。

 君と同じ部屋にいる彼氏にも教える事は厳禁だ。

 守ってくれるね?」

 

 両肩に手を置かれ村井にじっと見つめられた美子は、自分に課せられた任務の重大さを感じ取っていた。

「はい」

 逆らえないのならば、とことんついていくしか無い。

 美子はこの日、格闘ゲームのプレイヤーとして頂点を目指す事を誓った。

 

 美子のゲーマーとしての腕を向上させる為に招かれたのは、狩谷夫妻だった。

 狩谷(かりや)優(まさる)と狩谷(かりや)真紀(まき)。

 どちらも人に『教える』と言う事に関しては適任と言えるZEROプレイヤーである。

 後に子供が生まれた為どちらか1人が美子を指導すると言うケースが増えていったが、どちらか1人だけで充分だった。

 

「そう、そこでジャストガードすると相手の態勢が崩れてコンボを叩き込むチャンスが出来るでしょう?

 チャンスを待つ事も大事だけど、懐に飛び込んでいってチャンスを作り出すのも大事なの」

 真紀も優も周囲の人間に『信国人を鍛えている』と言う事実を決して教えず、黙秘を貫く。

 元々隠し事ばかりしていた2人だからこそ、この任務が適任であるとも言えた。

 

「私、強くなってますか?」

「普通の人と比べたら、吸収速度が全然違うわ。

 学業で言えば飛び級って感じ。

 正直私達の実力を追い抜くのも時間の問題よ。

 もっと強い人に教わる事が出来たら良いんだけどね」

 

 さらに上を目指す為に取り組み始めたのが、世界中のZEROプレイヤーと対戦出来るネットワーク対戦だった。

 真紀や優の指導を受けながら、怪物級の力を持つZEROプレイヤーに挑んでいく。

 勿論最初は全戦全敗と言う状態だったが、練習を続ける事で少しずつ勝てる試合が増えていった。

 

「彼女、反応速度も目も良いし向いてますよ。

 今の状態を継続出来れば大化けする可能性があります。

 その辺りの事は上に報告しているんですか?」

 

「するものか。

 彼女の知能指数に関しても報告は一切行っていない。

 全てをありのままに話せば信鷹様に難癖をつけられるのは火を見るよりも明らかだ。

 とにかく彼女の事を過小評価してもらわなければならない。

 少なくとも本番直前までは」

 

 村井は真紀や優から情報を聞いてはいたが、己の耳に入ってきた時点で情報をシャットアウトしていた。

 信鷹も面倒くさがりの為、この施設を訪れて直接視察すると言う事は考え難い。

 村井や信虎にとって都合の良い結果を生み出す為、彼も必死になっていた。

 

「この『ゲーム』に関してはくだらないと思っているし、行う事自体が愚かだとも思っている。

 だがやるからには勝たなければならない。

 信国人の為と言うより、私と信虎様の面子の為だ。

 信鷹様の思い通りの結果になれば、向こうの派閥が勢いを増す可能性が高い。

 そうなれば陸軍大将としての私の地位も脅かされる。

 コレは『代理戦争』なんだ」

 

 無茶な難題を突き付けられ、その難題をクリアしなければならない。

 村井もまた己の権力を守る為に全力を尽くしていた。

 美子の為に必要なものがあれば多少金がかかっても用意し、モチベーションを保たせる。

 そうして、長い様で短い数年間が過ぎていった。

 

【2010年 10月10日 真国 捕虜収容工場 特訓部屋内】

 

 美子にとっては18歳の誕生日であったが、プレゼントもケーキも存在しない。

 入浴も食事も手早く済ませ、自由時間前からZEROの練習を始めていた。

 

「今日のノルマは?」

「最低ラインは10連勝。

 そこから先は伸ばせるだけ伸ばしていこう」

「解りました」

 

 軽くストレッチを行った後、全裸のまま椅子に座り画面を食い入る様に見つめる美子。

 優や真紀は『誰も見ていないのだから服を着て練習しては?』と提案したのだが彼女はそれを断った。

『他の女性達が全裸を強要され従っているのに私だけ服を着るワケにはいきません』

 そこには『仲間』を思いやる優しさと『どんな状態であろうと何時も通りのプレイは出来る』と言う自負が感じられる。

 この数年間で彼女の身体は飛躍的に成長し、兵士達を魅了する程の存在へと変貌を遂げていた。

 

 (175cmと言うモデルの様な身長、信国人特有の吊り目も『大人の女性らしさ』を思わせる。

 整った顔立ち、艶のある黒髪、控えめな胸と陰毛……

 いやらしさよりも恰好良さが勝るな。

 彼女が他の女性に慕われ、頼りにされていると言う話も納得出来ると言うものだ)

 

 贅肉や太い足と言った無駄な部分を全て削ぎ落とした、純粋な美しさと言う例えが的確かもしれない。

 そして彼女の戦い方もまた、シンプルかつ無駄の無い洗練された動きによって成り立っていた。

 

 (防御力の低さを遠距離攻撃の威力と多彩さでカバーするフローネを選んでから今まで、彼女が『迷った』局面は非常に少ない。

 常に己が勝つ為の『最善の手』を選択する事が出来るのは彼女の強みだ。

 『最高の手』を選ぶプレイヤーは幾らでもいる。

 だが自分が勝利する為だけの動きは相手の動きに寄り添っていないから隙が生まれ易い。

 彼女は『負けない動き』を実践する事が出来るからこそ強い。

 華は無いが確実に勝ち星を積み重ねていける)

 

 自分の力だけで勝とうとするプレイヤーはハマった時は滅法強いが、波に乗れないと瓦解してしまう。

 美子は常に薄氷を踏む様な勝ち方が多いものの、連続勝利数で言えば平均10連勝が当たり前だった。

 

 (彼女は世界のトップランカーとのマッチングを続けている。

 乱暴な言い方をすれば世界100位以内には入るであろう実力を持つ猛者達の集う戦場だ。

 そこで『負けない為の立ち回り』を徹底し、継続して勝てていると言う事実は大きい。

 対策されない様にRNを入力せずネーム無しで潜っているが、ネットでは既に噂が出回っていると言う)

 

 美子は『べらぼうに強い謎のフローネ使い』としてネットの掲示板内で対策会議が催される程の実力を手に入れていた。

 だが強くなれば強くなる程相手も限界を超えて上に行こうとするのが格闘ゲーム界の常識である。

 美子にはそれでも『10回戦って10回勝てる』程の力が求められていた。

 

 (世界から集まってくる強豪相手に、1回の負けも許されない州予選。

 決勝トーナメントも言わずもがな。

 優勝する為には、『絶対に勝てる』戦い方を貫かないと)

 

 彼女が懸命に戦い続ける理由は、少数民族となってしまった『信国人』としてのプライドだった。

 自分達は迫害されていても勝てるのだ。

 世界にその強さを轟かす事が出来るのだと世間に知らしめたい。

 50人の命が自分の成績によって左右される事や、優勝賞金が10億円である等の情報はまだ彼女の耳には入っていなかった。

 優も真紀もその事は村井から聞かされていたが彼女にその事実を告げる様な事はしていない。

 

 (重い荷物を背負わせたくない。

 自分の結果次第で人が死ぬかもしれないなんて事を知ってしまったら、彼女は激しく動揺する。

 優勝賞金の事もそうだ。

 そういう余計な情報は知らなくていい。

 今の彼女に余計な不純物を混ぜる事は許されない)

 

 ただ純粋に筐体と向き合い、勝利する事だけを考える。

 美子は務めを果たしていたが、優には不安要素が残っていた。

 

 (彼女が戦っている相手のレベルは、俺の実力を遥かに凌駕している。

 だから今俺が仮想の対人戦の相手を務める事が出来ない。

 こうして画面の向こうの相手と戦う事には慣れたが、実際に筐体の向かい側に人間が座った時どうなるか……

 それだけが気がかりだな。

 勿論、そういう経験をさせていないワケでは無いんだが)

 

 美子が真紀や優と直接戦ったのは彼女が15歳になった頃まで。

 そこからさらなるレベルアップを図る為に実力が上の相手と戦う様になったのだが、それは向かい側が全て空っぽの椅子と言う状況での戦いだった。

「美子、向こう側に人がいても大丈夫か?」

「……問題無いですよ。

 人がいようがいまいが、集中すべきはこの画面の中だけですから」

 

 彼女はそう答えたが、声以外にも伝わってくるものがある。

 (声はヘッドフォンで遮断される。

 だが相手の『勝ちたい』と言う熱意、勝利を求める貪欲な姿勢は彼女に何らかの影響を与えるハズだ。

 信じるしか無いだろう……

 彼女がそういったものを直接感じただけで崩れる様な人間では無い事を)

 

 11連勝を決めた画面内での華麗な動きを見ながら、優は彼女が優勝に値する人物であってほしいと願った。

 

 美子が数年間の間に力を付けたのと同じ様に、黄崎明も別の力を得て存分に活用していた。

「本当にお前達は可愛いな。

 言っておくが、御世辞なんかじゃないぞ。

 本気でそう思ってるんだ俺は」

 

「明様、素敵……

 私達だって、明様が恰好良いって思ってますよ」

 元々部屋として存在していたが物置としての利用しかされていなかったスペース。

 黄崎はそのスペースを『自室』として兵士から購入し、さらに兵士を『部屋の外』に立たせる事に成功した。

 

 自由時間に利用出来る『自室』を豪華なソファやシャンデリアで彩り、女性達を招いては宴を行う。

 今日も黄崎は10人もの美しい女性達に囲まれ、この世の春を謳歌していた。

「ああ、凄い……

 楨治様のモノ、こんなに逞しく反り立って……」

 そして尹もまた、黄崎の味方をした事でその恩恵に預かっていた。

 

 (美子、ごめんな……

 男は性欲には逆らえないんだ。

 目の前に裸の美女達がいて、無視出来る程俺は人間が出来ていない。

 こんな事が毎日出来るんだから、黄崎についたのは正解だった)

 

 勃起した肉棒の近くに女達の尻がある。

 その気になればどの女ともセックス出来る夢の様な状況。

 尹は1人の女性の尻に両手を置き、膣口に先端を合わせた後それをずぶずぶと潜り込ませていった。

 

「大きい。

 すっごく大きい……!」

 舌を出し、喘ぎながら肉棒が与える快楽に身を委ねる女性。

 ソファに座っている黄崎にも何名かの女性が群がっていた。

 

「明様ァ。

 私達にも御褒美をください。

 昨日も明様の為に『集金』してきたんですよ?」

 

「それは御苦労だったな。

 よくやってくれた。

 だが全員を労いたくても俺のモノは一本しか無いんだ。

 順番に入れてやるから、並んでおけ」

 

 1人の女性の腕を引っ張り、黄崎の上に座らせるとそのまま勃起したペニスが根元まで埋まる。

 下から軽く突き上げただけで女が嬌声を発した。

「明様、気持ちいいです。

 明様ァ……」

 

 密室状態で部屋自体は防音構造と言う事もあり、女性達は獣の様な声を出して快楽を享受している。

 尹としている女性の隣にいた女性が、尹の背中に自分の胸を密着させた。

「明様から、きっちりもてなせと厳命されていますから……」

 

「楽しんでる所を邪魔するなよ。

 腰が振れないじゃないか」

 尹も快楽に溺れ、ひたすら己の快感を得る為だけに肉棒を前後に動かし続ける。

 

「明様、私もう……」

「俺もだ。

 とりあえず1回出すぞ」

 ビクビクと全身を震わせ、彼女の膣内に欲望の全てを注ぎ込む黄崎。

 脈動する肉棒が彼女を絶頂に導き、一瞬意識を失う程の快感を与えていた。

 

「ふう……

 男にとってセックスに勝る程の快楽は無いな。

 女は違うかもしれんが……

 事前に強精剤を飲んでいるからあと2人か3人は相手をしてやれる」

 その言葉を聞き、黄崎の相手が出来なかった女性達が彼の肉体に次々と手を触れる。

 

「次は私の番ですよね?

 明様」

「アンタは2日前に愛してもらったばかりじゃないの。

 そこは遠慮すべきでしょ」

 

「私、もう3日も御相手してもらっていないんですよ?

 私としてください」

 一方尹も限界を迎え、女性の膣内に精液を流し込んだ。

「ああ、やべぇ……

 滅茶苦茶気持ちいいよ」

 

「明様の子供が欲しいわ。

 セックスする前には避妊薬を飲めって軍の人に命令されているけど……

 本当はあの人の子供を妊娠したいの。

 解るでしょう?

 この気持ちが」

 

 尹の隣で堂々と自慰行為を始めていた女性が、尹に悪いとも思わずそんな発言をする。

 (こいつ等の黄崎に対する『信仰』は本物だな。

 今ならどんな命令でも躊躇せず実行するだろう。

 やれと言われれば殺害命令だって受け入れる。

 俺はあくまで、黄崎と言う鮫にくっついている小魚に過ぎないんだ)

 

 肉棒を引き抜き、一旦立ち上がった尹は立ちバックを行っている黄崎と目が合った。

 

「楽しんでるか?幸田。

 人生は一度きりだ。

 味わえる快楽は思いっきり味わっておけ。

 俺達の命なんて蟻の命より軽い。

 奴等の気分次第で殺されたって文句は言えないんだ。

 明日が無いかもしれないんだから、今日を思いっきり楽しむべきなんだよ」

 

 黄崎が視線を合わせ指を向けた女性が、尹の萎えかけた肉棒に舌を這わせる。

「気持ち良くなってくださいませ、楨治様。

 私のアソコを使っても良いんですよ?」

 欲望の宴は自由時間の終了間際まで終わりそうに無かった。

 

 ほぼ同時刻、宴にあぶれた14名の女性達は首にかけているCカードを男達に見せていた。

 

「私達としたいのなら、お金を払う。

 簡単でしょう?

 何も難しい事なんて無いわ。

 1回5万円は適正価格よ。

 何時もしてるんだから迷うだけ無駄だと思うけど」

 

 完成された集金システム。

 黄崎は守ってほしいと思って近付いてきた女達にセックスの喜びを教え、同時に彼だけしか見えない様にする為洗脳した。

 うぶだった少女も簡単に股を開く淫売になる。

 今や美子以外の女性は完全に黄崎の言いなりになっていた。

 

「解った。払うよ……

 払えばやらせてくれるんだろ?」

 貯め込んでいた者も性欲に抗う事が出来ず金を吐き出す。

 黄崎に『上納』する以外にセックスする手段が無いと言う状況を作り出す事で、黄崎は敵対する者の動きを封じていた。

 彼を憎み、王座から蹴り落としたいと思っている金原でさえ女達の色香には歯が立たない。

 

「お前の得にならない事を、よくやるもんだぜ」

「そう?

 黄崎様はお金が手に入ってハッピー、私達はより深く愛してもらえてハッピー。

 私達全員が黄崎様を愛しているの。

 彼の寵愛を受ける為に皆必死なんだから」

 

 別室で黒髪ショートカットの女性を後ろから突きながら、金原は悔しさを隠し切れず歯軋りした。

 (女達に競争意識を植え付け、集金に励ませる。

 その金で豪勢な暮らしをしながら性欲に溺れる……

 俺がやりたかった事だ。

 最初で躓きさえしなければ、俺が奴の立場を手に入れていたと言うのに)

 

 どんなに神に愛された運を持っている男でも、永遠に勝ち続ける事は出来ない。

 黄崎はそれを熟知していたからこそ、対決せずとも勝てるシステムを確立した。

 男であれば、全裸になり膣を見せてくる女を無視する事は不可能に近い。

 金原は彼に挑むだけの金すら用意出来ないと言う現状が解っているからこそ、余計に黄崎が憎かった。

 

 (奴をこの世から葬る以外に、このシステムを破壊する方法は無ぇ。

 勿論暴力すら禁じられているこの工場で、俺が直接奴を殺す事は不可能だ。

 奴が自分から自殺するとか、そんな状況になる様に誘導出来れば……)

 だが必死に考えても、そんな状況を作り出す事が難しいのは解っていた。

 

 むしろルールを最大限に活用し王の様に振舞う彼を危険視している者がいなければならない。

 (ココの兵士達に色々吹き込んで、奴を特別房にぶち込む事も企んだが……

 兵士はおろか上官ですら奴の行為を黙認している。

 どうすれば奴を潰せるんだ)

 

 数年間もの間、彼を倒す事だけを考えて生きてきた。

 他の誰もが彼に敵対する事を諦め、女性達の『集金』に応じる中金原だけは夢を見続けていたのだ。

「クソッ!何故だ何故だ何故だ!!

 俺も奴の様になりてぇってのによ」

 

 幾ら激しく腰を振って肉棒を女性の奥に潜り込ませても、黄崎への強い忠誠心がある限り何の意味も無い。

「早く終わらせて頂戴。

 次の男の人だって待ってるんだから」

 今や彼女達が雌になるのは黄崎の前でだけだった。

 セックスをしようとも、膣内に射精されたとしても彼に対する愛が揺らぐ事はありえない。

 

「畜生――――ッ!!」

 敗北者としての苦痛を味わいながら、金原は彼女の膣内に欲望の詰まった白濁液を注ぎ込んだ。

 

 どんなに練習を重ねても、どれだけ勝利と言う美酒に酔ったとしても、本番で失敗すれば何の意味も無い。

 大会の予選が近付くにつれ、美子の心は常に期待と不安の間で揺れていた。

 

 (私が、本当に勝てるのかしら?

 優さんや真紀さんは『君の腕なら大丈夫。自信を持て』と言ってくれるけれど……

 絶対は無い。

 絶対は無いのよ。

 私達の意地を見せる為にも負けられないと言うのに)

 

 毛布の中で自然と震える背中。

 その背中に優しく触れ、尹は後ろから彼女を抱き締める。

「お前が何をしているのかは解らないけど、お前は1人じゃ無いからな。

 俺や黄崎だけじゃない。

 女達だってお前の事を応援している」

 

 美子が他の人間に決して教える事が出来ない『別の仕事』が、彼女を怯えさせている事は解っていた。

 黄崎に相談した時、彼女の態度から1つの推理に至った彼が出した答えを思い出す。

 

『彼女はこの数年間で変わった。

 美しさに磨きがかかっただけで無く、溢れるばかりの自信に満ちている。

 恐らく、仕事と言うよりもある任務を達成する様に命じられているんだろう。

 その任務を達成するかしないかで確実に何かが変わる。

 だから必死になっているんだと思う』

 

 睡眠時間を削ってはいないが毎日毎日練習を続け、美子の顔に疲れの色が出てきているのは尹にも解った。

 出来れば助けてやりたい。

 真実を知ったうえで協力したいと思っていたがそれが無理であると言う事も解っていた。

 

「楨治、私を離さないで。

 今日はずっと抱き締めていて」

 美子もまた、口止めされている以上苦しい気持ちを直接吐き出す事が出来ず尹に甘える事しか出来ない。

「美奈子……」

 

 愛する者の本名を口にする事が出来ないのが歯痒かった。

 信国人としての名前を口にすれば、即座に兵士が駆けつけ拘束される。

 うっかり口にしてしまった男性が特別房に連れていかれる姿を尹は目撃していた。

 

 (俺達は縛られているんだ。

 そして美子もきっと、やりたくも無い事を無理やりやらされている。

 平和に暮らしたかった。

 自由に生きていた頃が懐かしい。

 どうして俺達の国は破滅の道を選んでしまったんだ?

 天武日本になんか俺は興味が無かった。

 相手の国を滅ぼすよりも、ただ大好きな人と手を繋いで生きていたかっただけなのに)

 

 自然と涙が零れ、尹は彼女を抱き締めながら嗚咽を漏らす。

 美子も尹の考えている事が何となく想像出来た為、彼の愛に縋ろうとした自分を心の中で責めた。

 

 (そうよ、楨だって私と同じ様に恐怖や不安と戦っていると言うのに。

 私はあまりにも我儘で自分勝手だったわ。

 私は彼の優しさに頼ろうとしていた。

 ごめんなさいね……

 でも、貴方と同じ様に私も辛いの)

 

 感情が弾けてしまった事で興奮した尹が彼女の中に滾った肉棒を潜り込ませてきても、彼女は特に何も言わなかった。

 抵抗したいとは思わなかったし、相手が繋がる事を望むのなら叶えてあげたいとすら思っていた。

 

 (貴方の苦しみを少しでも癒やす事が出来るのなら……

 遠慮なく私の身体を使って頂戴。

 私も貴方と繋がりたい。

 繋がっている間だけ、私も色々な事を忘れる事が出来るから)

 

 今まで数え切れない程性の営みを繰り広げてきた2人が、慰め合う事で壊れそうな心を支え合う。

 美子にとっての『勝負の日』は、彼女が望む望まないに関わらず確実に近付いていた。

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