獣と化し1人の両性具有者がドン引きするレベルになると言う
設定を採用しています。その中で
『自分が満足する為にはどうすべきか』と言う問題を
解決する事に沙織達が取り組んでいくワケです。
【2011年1月9日 東京都大田区 天女の湯 愛の間】
浴場から愛の間へ移動する為に、フローリングの廊下を歩く咲。
愛の間が『そういう場所』であるのならば聞こえてくるハズの喘ぎ声や嬌声は全く聞こえてこなかった。
「防音構造になってるんだ。
風呂に入っている連中を『その気』にさせたらスタッフ側の落ち度になるだろ?
風呂に入って疲れを取る場所と、セックスして欲望を吐き出す場所を明確に分けている。
古都府の『天女の湯』もそうだったんだよな、のきあ」
らいはがそう言うと、のきあも微笑みながら言葉を返す。
「あの店は廊下が鴬張りになっていて風情があったわね。
店ごとに特徴を出して、遠くからワザワザやってきた客を歓待すると言う意味合いもあるんですって」
やがて、廊下の奥にある黒い扉が咲の視界に飛び込んできた。
かなり分厚そうで、半月型の輪を引っ張り手前側に開けるタイプのものらしい。
「開ければ音がだだ漏れになるから、すぐに入って扉を閉めるのがマナー。
この部屋の中で起きる事は全て自己責任。
店側も関知していない。
表向きは『サウナ室』って事になってるんだよ」
風俗営業法をクリアする為の『言い訳』。
コレはソープランド等の風俗店でも同様である。
表向きは『女性が身体を洗ってくれる店』であり、セックスが行われているのは『暗黙の了解』なのだ。
この店が警察に睨まれる事無く存続していく為の策だと言えるだろう。
「アタシが開けるから、中に入りな」
らいはが腕に力を入れて鉄の輪を引っ張ると、手前側に扉が開く。
咲はのきあ、まるうの2名と共に部屋の中に入りらいはもその後から入ってきて扉を閉めた。
「ああんッ、もっと乱暴に突いてェ!!」
「気持ちいいの、気持ちいいのォッ!!」
扉が開いた瞬間から、獣の咆哮の様な声が咲の耳に入ってくる。
そして部屋の中に入り辺りを見渡すと、部屋全体が異様な空間となっていた。
先程の浴場と同程度の広さの部屋で、数十名の女性がセックスを行っている。
立ちバックで相手の柔肉を貪る女性、フェラチオを行いながら著しくモノを隆起させている女性。
中には『連結』して相手の身体を使っている女性達の姿もあった。
「この部屋の中で捨ててるのは『人間の尊厳』と『理性』。
ヤリ部屋なんだから当然さ。
人にどう見られても構う事は無い。
アタシ達だってこれから同じ事をするんだから」
「らいはの言う通りよ。
浴場で普段しまい込んでいる自分のモノを人に見せ付けた後は、愛の間で思う存分性欲に溺れる。
このお店の存在意義はそこにあって、私達はそれを楽しみにしているの」
勃起していても長過ぎるが故にだらんと垂れ下がってしまう肉棒を手に持ち、既に臨戦態勢となっているのきあ。
仮面を付けているので表情を読み取る事は出来ないが、興奮状態である事が容易に解る。
何時の間にか咲の目の前に来ていたまるうが、手を伸ばして咲の膣をまさぐってきた。
「仮面を付けてるから、キスが出来ないのが困る所よね。
それ以外の事なら大体出来るけど。
ねえ、私の中にいらっしゃいよ」
「へへッ、じゃあ遠慮無く」
らいはが壁に手をついた状態ののきあに太いペニスを挿入し、ピストン運動を開始する。
まるうは一段高くなっている床に座ると、指で膣を広げ咲を誘った。
「ど、どうぞ……
来てください」
舌を出し、犬の様に『おねだり』をするまるうの姿を見て、既に勃起していた咲の剛直がより硬さを増す。
(確かに、コレは凄いわ……
誰に咎められる事も無くセックスし放題なんて夢の様や。
は、入る……
ずぶずぶって、ずぶずぶってぇ)
まるうの膣内は既に濡れていたのか、咲の槍をいとも簡単に受け入れた。
根元まで貫入し、咲はあまりの快感に足がふらつき壁側に倒れ込む。
そしてまるうに抱き付いた状態のまま、腰だけを前後に動かし始めた。
(き、きっつい!
ぎっちぎちにウチのを締め付けてくるわ。
ふたなりはオメコ自体が狭いってのは知っとるけど、この狭さは姉やん以上やで)
荒い息を吐きながら、一心不乱に腰を振る咲。
のきあは咲の肩に手を置いて、もう片方の手で咲の膣口に自身の先端を合わせた。
「楽しそうな事してるじゃない。
私達も参加させてもらおうかしら」
馬のペニスの様な太さのモノが、咲の身体の中へと入っていく。
「えッ!?
ちょ、ちょっと……
おぐぅッ!?」
入るハズも無いと思っていた規格外の大きさが、めり込む様にして咲の膣内へと侵入してきた。
亀頭にあたる部分、そして太い柱の様な肉の塊が全体の半分ほど入っていく。
(う、嘘ぉ……
は、入るワケ無いやん、こんなの……
入っとる、けどぉ)
自分の腹を見ると不自然な膨らみが出来ており、圧迫感と痛みで自然と涙が零れ落ちた。
「やだ、貴方凄く優秀なオマンコしてるじゃない。
らいはもまるうも私のオチンチンを受け入れてくれないのに。
中の感触、久しぶりだわぁ」
深く突き入れられ、その度に膣の奥にある子宮口が潰されそうになる程圧迫される。
「ふ、ふぇぇ……無理ぃ。
無理やってこんなん」
最早自分を偽り演技をする余裕など咲には無かった。
のきあの柔らかくも芯は硬い肉の凶器が、咲の中で思う存分暴れ回る。
「すげぇ、のきあのマンコ……
きつねのに入れてるせいか濡れ方が全然違う」
「きつねさんの、膨らんできてますね」
子供の頃から、自分と同じ大きさの陰茎を何度も突き入れられた事で咲の膣はある程度大きなモノを受け入れられる様になっていた。
そして今、興奮が最高潮に達した事で愛液が潤滑油の役割を果たしのきあの肉棒を飲み込んでいる。
「駄目、ぬるぬるしてて堪らない……
腰が勝手に動いちゃうのぉ」
肉が肉を打ち付けるパンパンと言う音が部屋中に響き渡る。
勿論そんな音を出しているのは咲達だけでは無かった。
仮面を付けた全裸の女達が、股間に生えた欲望で相手の花園を蹂躙している。
理性をかなぐり捨てて絶頂を迎える為に腰を振る姿がかつて自分を犯していた姉の姿と重なった。
「ええよぉ!
ウチのチンポ気持ちええ。
オメコももっと虐めてぇ」
だらしない顔。
容易に人には見せられない醜態。
この場所では皆が同じ顔をし、同じ事をしているのだから気にする事は無い。
咲はまるうの肉棒を扱きながら快楽を貪る為彼女の奥へと潜り込んでいった。
「あー、やべぇな。
1回出るわコレ……
クッ、ふぅぅぅ」
のきあの中で膨張し、脈を打っていたらいはの肉棒が唐突に弾ける。
痙攣しながら透明な粘液を遠慮する事無く吐き出し、舌を出しながら射精の余韻に浸っていた。
「貴方、鍛えているのにオチンチンは弱いわね。
すぐに出しちゃうなんて」
「しッ、仕方ねぇだろ。
この部分が鍛えられるかよ」
だらんとぶら下がったらいはの肉棒が、射精した事によりのきあの膣からぬるんと抜ける。
まるうも全身を震わせながら、咲がそのひくつきを手で感じる程の絶頂を迎えた。
「あッ、ああああッ……
はぁぁぁ」
びゅくびゅくと射精されたまるうの精液が、咲の手や仮面を汚していく。
その絶頂と合わせて彼女の膣内が咲の肉棒をぎゅうぎゅう締め付け、例えようも無い快感を与えた。
「い、いってまう。
ウチいってまう……
ああ、出る!
チンポから出るぅぅ」
その刺激に耐えられなくなった咲の欲望も弾け、先端から貯めていた粘液をこれでもかと放出していく。
腰回りががくがくと痙攣し、立っている事が困難になる程の快楽が全身を巡った。
「もう、私を置いていって皆せっかちね。
良いわ、とことん楽しませてもらうから」
のきあは歩くのも難しくなっている咲の身体をゆっくりと後ろへ引き倒し、そのまま自分は床に倒れ騎乗位を強制する。
ふんばる事すら出来なくなっていた為、のきあの肉棒が咲の子宮口に『キス』をした。
「やあぁ、ウチのオメコ全部使われとる。
オメコにチンポが突き刺さっとるぅぅぅ」
重力によって身体が自然と沈み、のきあの肉棒の半分以上を受け入れる咲。
彼女の腹が少しだけ膨らみ、痛みと快楽が混じり合う事で自然と涙が零れる。
「丁度良いや。
そこに口があるんだし、アタシのをしゃぶってもらおうか」
らいはの萎えかけたモノが、咲の口元に触れた。
完全に興奮が収まるとその大きさですら無くなる事は咲にも解っていた為、彼女が満足する様全力を尽くす。
(中途半端な状態が一番苦しいのは身を持って知っとるからなぁ。
頑張らんと……)
先端から吸い付く様にモノを口に含み、刺激する咲。
下の口と同じ様に、相手の全てを受け入れる事こそ出来なかったが歯を立てぬ様気を付けた。
(うッ!?)
勿論止まったままでは達する事が出来ないので、のきあは寝たままの状態で下から咲を突き上げる。
「あッ、駄目です……
そんなぁ」
「ココに来た以上、暴力以外の行為なら黙認されるのよ。
貴方だって欲しいんでしょう?」
ふと横を見れば、まるうが別の女性によって背後から欲望と言う名の楔を打ち込まれていた。
(無法地帯やな。
それ位はココに来た時に覚悟する事だったのかもしれんけど)
ふらふらと夢遊病患者の様にふたなりの女性がやってきて、今度はまるうの口を使い始める。
「皆、普段は獣性を抑えているんだよ。
アタシだってそう。
本当は本能のままに相手の身体を貪りたい。
ふたなりはその衝動を必死に殺して日常生活を送っている。
馬鹿丁寧な応対で客と対応する受付嬢だったとしても、政治家の秘書だったとしてもこの場所では関係無い。
溜まりに溜まった反動で完全な獣になっているだけさ……
ハァ、ハァ」
咲は上下に動いている状態で肉棒を咥え込み、手でも快感を与えようと試みる。
だらんと垂れていた柔らかい肉の塊が徐々に熱を持ち、ビクビクと口の中で震え始めていた。
「ああ、サイッコーッ!
アタシのをもっと扱いてよ。
もっと口使って気持ち良くしてよ。
すっごい震えてきちゃってるんだからぁ……
あはッ」
「私のも、私のも受け止めてくださいぃぃ!
ああッ、出ちゃうぅぅ」
硬くなった欲望の先端から、再び透明な粘液が放出される。
それと同時にのきあの肉棒も震えながら、咲の膣内に具現化した欲望を勢い良く吐き出した。
「うわぷ、ちょッ、ちょっと!
顔とか髪に思いっきりかかっとるやんか」
「ワザとかけてるんだよ。
後で顔や身体の汚れを落とす所は風呂以外の場所にあるから心配すんなって」
口に含みきれず粘液と同時に吐き出したらいはの肉棒が射精を止めず、咲の身体を汚していく。
らいはは犬の様に精液で相手をマーキングする事に快感を覚えるタイプらしく、咲の姿を見てまた肉棒が硬くなった。
「アタシの精液で汚れた姿……
ゾクゾクしちまうな。
こんなになってるの、見えるだろ?」
この部屋に入ってきた時から、全員が理性をかなぐり捨てている。
咲はそれを理解していたが、らいはがココまで極端な行為に走るとは思っていなかった。
(確かにコレは、同じふたなり同士とは言え仮面を付けて素性を隠す必要があるわ。
アブノーマルな性癖を隠すつもりも無い。
タチの悪い赤ん坊の群れやな)
そして咲自身も、その赤ん坊達の1人である事を認めなければならなかった。
「……こうなったら、とことん相手したるわ。
変な所で無ければ、何処使ってもええで」
「のきあもまだ満足してないみたいだからね。
アタシも空っぽになるまで使わせてもらう」
肉棒を咲の頬に擦り付け、にやりと笑うらいは。
この後、彼女達の狂った性欲の宴は数十分に渡って続いた。
自分の性欲を上回る程の性欲が、咲に襲い掛かっていた。
口でした。
両手で扱いた。
膣を使った。
顔にかけられた。
身体にかけられた。
姉とのセックスでも幾度かしかした事の無い菊穴でのセックスも何時の間にかしていた。
自身の肉棒も何度となく弾け、強精剤を使っていないにも関わらずむせかえる様な淫靡な匂いに触発されまた勃起を繰り返す。
誰に入れていたのかももうよく解っていなかった。
らいはにも、まるうにも、のきあにも、湯名さえ知らぬ多くの女性達にも己の身体を捧げた。
最後は3人や4人での数珠繋ぎも目撃し体験もしたハズだがそれすらもハッキリとは覚えていない。
やっと我に返った時、咲は『愛の間』にあるシャワーの湯を頭からかけられていた。
「あ、起きた」
「良かったぁ……
皆で心配してたんですよ。
起きなかったらどうしようって」
まだ若干視界が揺れているかの様な錯覚に囚われたが、意識はかなり戻ってきている。
ゆっくりと立ち上がって自身の股間を確認すると、先程あれだけ存在を主張していたのが嘘の様に肉棒がその姿を消していた。
正確に言えば縮んでクリストス大になっただけなのだが、咲はもう雫(しずく)も出ない程出し切ったのだろうと想像する。
(ウチ、何発出したんやろう……
多分量こそ少なくなってたけど10発以上は絶頂を迎えた気がするわ。
最後の方は……
いや、今もチンポが痛いなぁ。
擦り切れて傷になってなければええんやけど)
周りの女性達を確認すると、少なくとも咲の周りにいた数名は肉棒がすっかりしぼんでいた。
あの馬のペニス並みの欲望を滾らせていたのきあですら、クリトリス大とまではいかなかったがかなり小さくなっている。
「吐き出して、もう満足した事を相手に伝えれば流石に皆遠慮してくれるわ。
倒れるまでセックスする事が主目的じゃないものね。
貴方は初めてでちょっと耐性が無かっただけよ」
「ええ……?
いやぁ、相当きつかったで。
幾らふたなりっちゅうても」
シャワーで髪の毛についた粘液を洗い流している咲の隣にいたまるうが、遠慮がちに尋ねてきた。
「あの、最初お会いした時と喋り方が違っているんですけど……
関西出身の方なんですか?」
まるうの後ろにいたらいはが、彼女の質問を慌てて遮り拳の裏で彼女の後頭部を小突く。
「馬鹿!
ココのルールは『詮索しない』が第一だろ」
「すッ、すいません」
怒鳴られ、小動物の様に震えるまるうを見て、咲は彼女を庇わなければと思った。
「いやぁ、ええよー。
ウチがそもそも隠してて、自分からバラしてもうただけやから。
気にせんといて。
自分から関西出身って事を明かす分には問題無いんやろ?」
にこやかに笑って場を和ませようとする咲だったが、のきあは首を横に振った。
「こういう事はなぁなぁで済ませてはいけない事なの。
私達は全てを曝け出して、この銭湯では欲望のままに動いている。
例え両性具有者同士であったとしても、もし正体が露見して誰かに密告されたらどうなるか解るでしょう。
貴方が大手を振って日常生活を送る事が出来なくなるかもしれないのよ。
まるう、軽はずみな質問は慎みなさい。
私達全員の問題なんだから」
一切融通の利かない、ルールを順守する事に対して熱心な女性。
詮索はいけないと今言われたばかりだが、咲は心の中で彼女の職業を想像していた。
(多分、教師か良いとこの社員やろな……
怒りと言うよりも厳しい愛の鞭、指導的な言い回しを感じるわ。
まるうはんはきっと、虐められた事がある人や。
小突かれた時の反応が比呂子はんとよう似とったで)
殴られたり蹴られたりした事がある人物は、拳を振り上げられた時通常の人間よりも大袈裟に反応するものだ。
先程小突かれた時には後頭部を叩かれてから反応したが、彼女の潜在的恐怖が蘇ったかの様だった。
(皆、常に自分の正体が露見しないか怯えながら暮らしとるんや。
ウチも同じ……
いや、まぁウチの場合は周りの親しい人間全員に知られてるんやけど)
傷を抱えて生きる事が、どれ程辛く苦しいか咲はよく知っている。
だからこそ、唯一の逃げ場所である銭湯で揉め事が起こる事は万が一にも避けたい。
のきあの対応は彼女がそんな風に考えている様に見えた。
「……ごめんなさい」
消え入る様なか細い声で俯きながら謝罪の言葉を述べるまるう。
咲は流石に可哀想になり咄嗟に彼女を力強く抱き締める。
「泣くのは、『現実世界』だけでええんとちゃうか?」
腕を組みながら彼女達を眺めていたらいはは、のきあの肩に手を置き彼女を諌めた。
「もういいだろ。
きつねの言う通りだ。
アタシ達は欲を吐き出して笑顔になる為にこの銭湯に来ているんじゃなかったのか。
夢は夢じゃなくちゃいけない。
アタシはそう思う」
のきあは暫くの間黙っていたが、やがてふっと笑みを見せる。
「……そうね。
私がちょっと言い過ぎたわ。
ココは乾いた心を癒やすオアシスで無ければならない。
今までも、そしてこれからも。
誰もが気軽に足を運べる様に」
あくまでも自分は客であり、従業員では無い。
自分が厳しい態度で臨む事に何の意味があるのだろう。
諦めとも取れるその態度の変化に咲は胸が締め付けられる様な思いがした。
(思ったより、息苦しい場所やわ。
のきあはんもまるうはんも悪くないのに、ウチのせいで場の雰囲気が険悪になってもうた。
会員にはなったけど、もうこの銭湯には足を運ばん方がええかもしれへんな……
ウチ自身が皆の異常性欲についていけへんし)
咲は『愛の間』での集団セックスに順応する事が出来なかった。
自分の異常性欲以上に女性達がよってたかって搾り取りに来る。
肉棒も膣もヒリヒリ痛んでいた。
これが来店する度必ず起こるとなれば身体がもたない。
(せいぜい、この3人を相手にするのが捌ける限界やな……
誰に挿入されたのか解らなかったで最後の辺りは。
でも、折角仲良うなれたのにもう2度と会えないと言うのも寂しいなぁ)
どうすれば、繋がりを保つ事が出来るのだろう。
咲は先程のきあが言っていた『相手の詮索はしない』と言う発言を思い返していた。
ロッカールームで着替えた後、咲は別の場所で服を着ていた3名に歩み寄る。
「着替えるの早いな。
また遊びに来てくれよ。
アタシ達も歓迎するから」
らいははそう言って笑ったが、咲は何も言わずメモ帳の切れ端を差し出した。
「今からウチが言う事は、全部独り言やと思って聞いてほしい。
ウチには、ウチの事を『全部』知ったうえでウチと仲良くしてくれる女の人がおるんや」
「……それは、アタシ達と同じって事か?」
咲は首を横に振り、のきあはそんなハズが無いと言う表情を浮かべる。
「嘘よ。
ノーマルが私達を受け入れてくれるハズが無い。
私達は正体が露見すれば蔑まれ迫害される。
そういう運命の下に生まれてきてしまったの」
「嘘は言わん。ウチかてその人に会う前はそう思っとった。
どんな女性であれ、ノーマルならウチの事を化け物扱いするって。
でも、その人は違った。
ウチを1人の人間として認めてくれたんや」
火村あかりは、ある意味普通では無いのかもしれない。
明るい笑顔。
海よりも広い心。
その包容力に救われてきた。
この3人には、そういう人間もいると言う事を知ってもらいたかったのだ。
「……アタシ達は、『ノーマル』に気味悪がられ、罵倒され、非人間の様に扱われてこの場所に流れ着いたんだ。
程度の違いはあっても、皆同じ痛みを抱えてる。
そんな事あるワケが無い。
馬鹿な作り話で、アタシ達を混乱させないでくれ」
「嘘やない!
ウチは信じてほしいとしか言えへんけど、その人に心を救ってもらったんや。
ほんの少しでもええ。
信じてくれるのなら……」
4つに折ったノートの切れ端を開くと、そこには咲が所持しているスマートフォンの番号が記載されていた。
「連絡してほしい。
ウチは、何時でもアンタ達の事を待っとるで」
他の客が不審に思う前に決着を付けなければならない。
咲はその一心でのきあにその切れ端を渡すと、そのまま出口の方へと歩いていった。
「……長い独り言だったな。
多分、アイツはもうこの銭湯には来ないだろ」
「くだらない戯言よ。
さっさと忘れてしまいましょう」
のきあは怒りに任せてその紙を破り捨てようとしたが、まるうがそれを止める。
「貴方、あんな解り易い嘘を信じるって言うの?」
「……信じているのかどうかは、私にも解らないんです。
でも……
あの人は全力で私の事を庇ってくれた。
悪い人じゃ無いと思うんです。
要らないのなら、その紙を渡してください」
のきあは大きな溜息をつきながら、その切れ端をまるうに手渡した。
「詐欺師に騙され易いタイプね。
ちょっと親身になってもらったからって相手の事を信用して。
貴方の心に付け入る為の罠かもしれないでしょう?
少しは自分を守る術を磨きなさい」
のきあはコーヒー牛乳を購入する為に背を向けてその場から去り、らいはもその後に続く。
「確かにあの女……
嘘をついている様には見えなかったよ。
でもそれだけで信用すると言うのはあまりにも軽率じゃないか?まるう。
きつねがその『ノーマル』に騙されていると言う可能性も考慮すべきだ。
何かの為に利用されて、捨てられる。
アタシ達はそれに巻き込まれちゃいけない。
両性具有者は、少しの油断で全てを失うって事を忘れるな。
家庭も、人間関係も、自分の居場所も」
ふたなりは、幼少期から親しい家族であってもその秘密を隠し続けている事が多い。
遠藤和枝の様に、心無い人間にそれが露見すれば心を抉られる程の苦痛を味わう。
まるうもかつて小学生の頃、仲が良かった女友達に身体の秘密がばれてしまい、距離を置かれると言う過去を背負っていた。
(涙は、嫌と言う程流してきた。
傷付くのが怖くなって、今ではプライベートでの友人はゼロ。
卑屈になって根暗になって、自分に自信が持てなくなってしまった。
……でも、誰も信じられない自分は嫌。
また涙を流す可能性があったとしても、私はもう一度だけ人を信じたい)
本当は信じ合える友が欲しかった。
心から渇望しながら、得る事が出来なかったと言う傷は今でも癒えていない。
心から笑う事が出来なくなってしまった自分に、神様がチャンスをくれたとするならば。
まるうは咲の必死な訴えを受け入れ、後日連絡を入れる事を心に誓った。
「誠に申し訳ありません。
未成年の御客様の来店は、全店舗においてお断りさせて頂いているんです。
風俗営業法に触れてしまう事と、私やスタッフが貴方の身に不測の事態が起きても対応する事が出来ないと言う点で禁止しております。
はい、はい。
そちらのお気持ちも痛い程解るのですが、成人を迎えてから御来店くださいます様お願い申し上げます」
咲が玄関の方へと向かうと、丁度ロビーの方で着物姿の湯姫がスマートフォンを片手に持ちながら誰かと会話をしていた。
話に夢中になっていたせいか咲の接近に気付かず、彼女は溜息をつきながら本音を口にする。
「……解っているんですよ。
思春期の両性具有者こそ一番性欲が旺盛で、悶々とした日々を過ごしている事は。
でも、未成年の我儘でこの銭湯を潰してしまうワケにはいかないんです。
許してください」
血の滲む様な努力によって作り上げた最初の1号店。
彼女の夢は茨城県の奥地から始まった。僻地で無ければ土地も上物(うわもの)も用意出来なかったのだ。
その1号店を作るまでの苦労も並大抵のものでは無かった。
まともな方法ではとても夢を実現させる為の金を稼ぐ事が出来ず、身体で稼ぐと言う屈辱的な方法を取るしかなかった。
裏社会で開催される見世物の『商品』として客の前で全裸になって肉棒を晒し、大勢の人の前で自慰行為を行って射精する。
人間である事を放棄したかの様な日々にも耐えた。
夢の為に己の尊厳を犠牲にした。
全ては自分の様に居場所が無く苦しんでいる両性具有者を救済すると言う目的の為。
高い料金にも、客は納得してくれた。
そのおかげで店がどんどんと増えた。
今では全国に12店舗を構える一大チェーン店の社長兼女将としてその界隈では名が知られるまでになったのだ。
店と客を守る為ならば、多少の犠牲は仕方ない。
そう思っていた。
「えっと……すいません。
私失礼させて頂きます」
サングラスをかけ、仮面を手に持った状態で話しかけてきた咲の存在に驚いた湯姫は、慌てて振り向き頭を下げる。
「すいません。
今色々と立て込んでまして。
またの御来店をお待ちしております」
仮面を渡した咲は足早に店から外へと出て行き、玄関には湯姫だけが残された。
(未成年の『御客様』、貴方にも解る事があるでしょう。
貴方を拒絶する事が出来るのは店の中だけ。
店の外で起きた事に関して私達が責任を負う事はありません。
……後は勇気を持って飛び込んでいけるのか、それだけですよ)
ノートの切れ端を愛しそうにギュッと握り締める1人の女性の様に、『勇気』が無ければ人間は動けない。
社会の中で繋がりを持つ為には一歩を踏み出して、近付かなければならないのだ。
湯姫は自分の仕事とは別に、自分と同じ身体を持つ女性が1人でも多く救われる事を祈っていた。
店の場所を知り、店の前で待機していれば『自分と同じ境遇の女性』が必ず外に出てくる。
その相手が信用に足る人物なのか、普通見ただけでは解らない。
だが電柱の影に隠れながら様子を伺っていた女性は、店の外に出てきた咲の姿を見て目を丸くした。
(えッ……嘘でしょ?
こんな所で会えるなんて。
信じられない)
咲と同じ様にニット帽を被った小柄な女性。
濃い青色の長い髪は後ろで束ねられ、灰色のコートを羽織っている。
その女性は咲の事がすぐに解った。
サングラスをかけていても一発で見破れる程、彼女の姿をずっと見つめ続けていた。
咲は彼女にとって憧れの存在であり、絶対に追い抜く事が出来ない『大先輩』だった。
「あ、あの……
すいません!」
早歩きでその場所から去ろうとした咲は、背後から聞こえてきた声に思わず振り向く。
自分とほぼ同じ背丈のスカートを履いた女性が膝に手をつきながら立っていた。
「こんな事を突然言うと驚かれるかもしれませんが、私貴方のファンです。
貴方が『双葉沙織』と言う名前でゲーマーアイドル活動を始めた時から、ずっと貴方の事を見てました」
サングラスをかけている為表情はよく解らなかったが、その声は嬉しそうに弾んでいる。
咲は東京都内において『昔の名前』で呼ばれた事が無く、戸惑ってしまった。
(ウチの、ファン!?
確かに、ウチの事が好きなんて言うファンやったらウチがサングラスかけてても見抜けるかもしれんけど……
あ、もしかして湯姫はんが話してた『未成年の客』ってこの人なんかな)
本当は彼女に構う事無く逃げるのが最善の方法なのかもしれない。
だが咲はついさっき『信じてほしい』と他人に向かって訴えたばかりだ。
その自分が目を輝かせている様に感じられる相手を突き放すワケにはいかなかった。
「私、芹沢(せりざわ)葵(あおい)って言います。
簡単に言っちゃうと、貴方の『後釜』をやらせてもらっているんですよ。
アークラインズお抱えの専属『ゲーマーアイドル』を務めています」
咲は自分がその世界から離れた後そういった情報をなるべく見ない様にしていた為、彼女の事を知らなかった。
アークラインズは遠藤和枝が殺人を犯し自殺した事件の後、新たな『ゲーマーアイドル』を探す必要に迫られた。
人がゲームを紹介する時、その人物が美少女であれば確実に視聴数は伸びる。
合衆国が動画配信サイトを世界中に広めたのと同じ様に、アークラインズも専用の動画サイト『EYE-Line』を開設した。
アークラインズで製作しているゲームソフトの紹介動画は勿論、プレイ動画も多数アップしている。
そのプレイ動画や紹介動画で爆発的な人気を集め、アイドルとして有名になったのが葵だった。
「EYE-Lineでは『青葉せり』って言う芸名でゲーマーアイドルをさせてもらっています。
動画視聴数が爆発的に伸びて、写真集・ゲーム内で使われる曲のボーカル担当・ZEROドームでのコンサート等……
2009年の冬からデビューして、今では『アークラインズ』にかかせない存在とまで言ってもらえてるんですよ」
駅の近くにあった喫茶店で嬉しそうにそう語る葵の姿が、咲にはとても眩しかった。
(姉やんもウチも、横田に再会する事が無ければなぁ……
今頃は、ウチらが葵はんと同じ様に看板娘になって多くのものを手に入れていたはずなんや。
人生はホンマ残酷やな。
でも、そのおかげで彼女の今があるとも言えるし人生はどう転ぶか解らんわ)
「あの事件の事も、私は知っています。
貴方の『身体の秘密』の事も一時期ネットで話題になってましたよね。
でも、その事実を知って私はより貴方に対する思いが強くなりました。
だって……
私も貴方と同じ身体なんですから」
そう言われ、咲は言葉が詰まり何も言う事が出来なかった。
「子供の頃、私は自分が他の人とは違う身体である事を知りずっと悩んでいました。
誰にも明かせない秘密……
実の親にすら打ち明ける事が出来ませんでした。
それをひた隠しにする事だけで精一杯で、次第に友達とも疎遠になっていきました。
深く接すれば接する程、露見する可能性が跳ね上がるのだと……
そんな私の心の支えになってくれていたのが沙織さん、貴方でした」
葵はサングラスを外し、淡いブルーのコンタクトレンズが入った瞳で咲の顔をじっと見つめる。
「煌びやかな世界で歌って踊って、大勢のユーザーの支持を得るゲーマーアイドル。
天武日本を代表する一流企業であるアークラインズが褒めちぎる逸材。
何時しか私の部屋は貴方達姉妹のポスターや写真集、手作りのグッズで溢れ返る様になりました。
そして私自身も貴方と同じ様に、どんな人間の前でも堂々と振舞える女性になりたいと思える様になったんです」
最早、『崇拝』に近い程葵は咲の事を一方的に好いていた。
彼女は咲を愛するあまり『双葉沙織のコピー』とも呼べる存在となっている。
咲はそれを不快だとは思わなかった。
寧ろ拍手したい位であった。
(誰もが憧れる存在になりたいと夢見る人間は幾らでもいる。
努力もせずに言うだけやったら簡単な事や。
でも葵はんは違う。
ライバルを蹴り落として、血の滲む程の努力をして今の場所を手に入れた。
ウチらがかつていた場所を……
彼女に勝ちとってもらって良かったわ)
咲も和枝も芸能界に憧れた。
まともな方法で居場所を手に入れる事が難しい事も解っていた。
地道な活動から始めて、アークラインズに注目される様になるまで戦い続けた。
全ては世の中の人々をアイドルと言う存在になって見返す為。
恐らく、芹沢葵も咲と同じ様に『自分は社会に必要』であると認められたかったのだろう。
「事実上の後任を決める為のオーディションに、参加する事をすぐに決めました。
今思えば、私は貴方に憧れて貴方に近付きたかったんだと思います。
オーディションが始まる前から最低限の練習はしていましたが、周りのライバルも本当に凄い人達ばかりで……
運が良かったんでしょう。
最終的には私1人がスポットライトを浴びていました」
年収600万。
ゲーマーアイドルとしては破格の値段だが、胸を張って高給取りと言える程でも無い。
それでも構わなかった。
彼女にしてみれば咲と同じ舞台に立つ事が最上の喜びであり、大切な『夢』だったからだ。
そして彼女が抱き続けてきたもう1つの『夢』は、たった今実現する事が出来た。
「……私がゲーマーアイドルになれたのは、貴方と言う『先人』の背中を追いかける事が出来たからです。
貴方が私にとっての憧れで、何時も心の中で励ましてくれる存在だったからこそこの場所に辿り着く事が出来ました。
本当に有難うございます。
感謝してもしきれません」
机に頭を擦り付けそうな程の勢いで頭を下げる葵に対し、咲は両手を前に出し左右に振る。
「そ、そんな……
ウチは葵はんに対して何もしとらんのに。
葵はんが自分自身の力で頑張って勝ち取った栄光やないか」
「貴方の事なら何でも知っています。
調べられる事はとことん調べて頭に叩き込みました。
好きな食べ物、旅行で行ってみたい国、スリーサイズ、貴方が歌った全ての楽曲の歌詞……
それでも勿論、調べられない事はあります。
私は、この際貴方の全てを知りたい」
アイドルの『追っかけ』と言うよりも『ストーカー』に近い発言だったが、咲は彼女を追い払う事など出来なかった。
同じ悩みを持ち、同じ夢を抱いて、同じ様に苦しい人生を送ってきた彼女が他人とは思えなかったからだ。
(葵はんは、恐らく『童貞』……
誰にも自分の秘密を打ち明けられず、かと言って自分の性欲の受け皿になってくれる女性がいるワケでも無い。
ウチには姉やんがおったけど、葵はんはきっと自分で慰め続ける日々が続いたんやろう。
そして遂に耐え切れなくなり、『天女の湯』の存在を知ったけれども……
ちゅう所か)
両性具有者の性欲の凄まじさは咲が一番よく解っている。
葵が自身の体をコントロール出来なくなったのも頷けた。
そして、こういった懇願をされた場合誰が彼女を癒やすべきなのか。
咲は自分より相応しい存在がいると言う事も解っていた。
【2011年1月16日 千葉県宮本市本郷 一橋駅前】
火村あかりと雨宮比呂子に頭を下げ、咲は何とか暇を作ってもらった。
日曜日を丸々使って、芹沢葵と『まるう』の相手をする。
咲は彼女達を出迎える為に一橋駅の改札前に立っていた。
(葵はんは元々ウチの申し出に対して積極的やったけど、まるうはんはこっちに連絡してくるかどうかと言う感じやった……
電話がかかってきた時には、態度には出さんかったけど暖かい気持ちになれたで)
あかりは元々両性具有者への理解が深く、比呂子は自分の身体を差し出す事を強く望んでいる。
自己犠牲の精神なのか、自棄になっている所があるのかどうかは咲にも解らなかった。
(比呂子はんには、ウチと同じ『闇』がある気がするわ。
姉やんが纏っていた闇と同じ様な、どうなっても構わないと言う思いを感じる。
ウチやあかりはんがその気持ちを癒やす事が出来ればええとは思うんやけどな……)
比呂子が協力してくれる事は咲としても嬉しい事だったが、セックスをする事によって彼女の心が癒されれば良い。
咲は比呂子の心に深く干渉するつもりは無かったが、良い方向に向かえたらとは思っていた。
「きつねさんですか?」
改札前の時計を見ていた咲の耳に、聞き覚えのある声が届く。
声のした方に視線を向けると、私服姿の『まるう』の姿があった。
「もう御一方(おひとかた)来るって、仰ってましたけど……」
彼女も目立ちたくないのか、黒を基調とした衣服を身に纏っている。
さらにサングラスをかけている為、明るい色の服を着た人が多い駅前では逆に目立っていた。
「一緒の電車に乗ってへんかったら、あと5分はかかると思うわ。
芹沢葵って言う人なんやけど、ウチやまるうはんと同じ身体やで」
「そうですか……」
天女の湯で初めて出会った時から感じていたが、彼女はやたらと何かに怯えている様な態度を取る人間だった。
常に小動物の様に身体を小刻みに震わせ、周囲の様子を非常に気にしている。
(ウチが言えた義理や無いけど、端から見たら絶対挙動不審な人間やろ……
夜出歩いてたら絶対職務質問されるタイプや。
もうちょっと自信を持てばええのにな)
咲は自分が両性具有である事が解った後でもクラスメイトと変わらぬ付き合いを続けていた為、まるうの様にはならなかった。
だが和枝が神経を尖らせ他人をあからさまに避ける様になったのを間近で見ていたので彼女の気持ちも理解は出来る。
「遅れてしまってすいません」
やがて、サングラスをかけた芹沢葵が咲とまるうがいる改札前に姿を現した。
大田区で会った時とあまり変わらない服装だったが、コートの色だけ少し違っている様に見える。
「少し遅いで。
あかりはんを待たせるのも悪いしすぐに出発しよう」
咲は先導する形で歩き出し、葵、まるうは後ろから彼女についていった。
賑やかな商店街を抜け、人通りの少ない住宅街へと歩を進める3人。
「それにしても、火村あかりさんとプライベートで会う事になるとは思いませんでした。
私、アークラインズ主催のイベントで何度も取材を受けているんですよ」
「あー、そうか。
そうなるわなぁ。
あかりはん、『闘戦興』の編集部員やったわ。
あかりはんに会っとるんなら、ええ人なのは解るやろ?」
咲がそう言うと、葵はその言葉に対して頷いた。
「仕事に対して熱心で一途で、誇りを持って生きてるんだなぁとは思っていました。
取材前に私の体調を気遣ってくれたり、優しさは常に感じてましたね」
まるうは黙って会話を聞いていたが、アークラインズの事は知っていた為興味が沸く。
(格闘ゲームはやらないけど、パズルゲームとかなら少しは……
葵さんて人、関係者と知り合いなんだ。
凄いなぁ)
まるうは常に自分と人とを比較し、自分を過小評価してしまう癖があった。
臆病で卑屈で、胸を張って生きる事が出来ない己が嫌だったが変わる事も出来ない。
咲の『誘い』に乗ったのは、そんな自分に『変化』を望んだからかもしれなかった。
「ココやな。
『アパート貧荘』……
あかりはんと比呂子はんが待機してくれているハズや」
高給取りだと思っていた火村あかりが、御世辞にも綺麗とは言えない寂れたアパートに住んでいる。
葵はその事実が信じられず、建物の壁や階段を見回していた。
「本当にこんな所に、あかりさんが住んでいるんですか?」
「引っ越そうと思えば、もっとええ所に引っ越せるんやろうけどな。
あかりはんにとっての思い出が一杯詰まっていて、住み続けたい理由があると思うんや」
葵は『魔の全国大会』の後で火村あかりの親友である井島豊が亡くなったと言う事実を知らなかった。
ただ、彼女が時折見せる『暗い影』は自分が持っているものに似ており他人とは思えなかった事はよく覚えている。
3人は2階に上がり、『火村』と書かれた表札が付いているドアの前に立った。
「あかりはん、葵はんとまるうはんを連れてきたで」
咲がそう言いながらドアを叩くと、数秒後にドアが開き火村あかりが彼女達を中に招く。
「待ってたわ。
外は寒かったでしょう。
入って入って」
暖房で暖められた部屋の内装は、前に咲が入り浸っていた時とそこまで変わっていない。
正常位で何度も彼女の中に欲望をぶちまけたベッド。
座位で底知れない快感を味わったソファ。
だがいくつかの棚と、その棚の上に飾られていた井島豊の写真を目にして咲は無意識に視線を逸らす。
(豊はんにしてみれば、ウチは嫌な存在なんやろうな。
いなくなった隙に横取りされた様なモンなんやから……
でも、許してほしいわ)
豊が使っていた調度品があかりの部屋に運び込まれた後も、咲は何回かみゆるの目を盗んでこの部屋に足を運んでいた。
豊の事が忘れられないと言うあかりに、咲は自分とセックスする事に対する罪悪感は無いのかと尋ねた事がある。
『それは別よ。
幼馴染に対する親愛の情と性欲は分けて考えなくちゃ。
豊が死んだ事は勿論哀しいけれど、私だって人生を楽しみたい。
沙織ちゃんだってそうでしょ?』
あかりの言葉が、今になって彼女の胸に刺さった。
(ウチは、あかりはんの様に大人になれんかった……
幼馴染に対する友情より性欲が勝って、自分を止める事が出来んかった。
一見節操無くセックスしとる様に見えても、引くべき線をキッチリ引いとるのは偉いと思うで)
過去を思い出し物思いに耽っていた咲は、あかりに肩を叩かれ現実に引き戻される。
「沙織ちゃん、もう貴方が連れてきた人達には脱いでもらっているけど……
さぁ、沙織ちゃんも脱いで」
そう言われ葵とまるうを見ると、既に下着姿になっている。
葵はかなり目立つ青色の下着、まるうは黒の野暮ったい下着、比呂子は大人しめの白下着を身に付けていた。
「比呂ちゃんにはもうスタンバイしててもらったんだけど、問題無かったわよね?」
「勿論。
ウチも脱ぐわ……
あかりはん、相変わらずええ身体しとるなぁ」
あかりが身に付けていたのは煽情的な黒い下着だった。
まるうの下着と違い透けている部分があり、セクシーランジェリーである事が解る。
「それにしても、『芹沢葵が両性具有者で、女性とセックスしたがっている』って聞いた時には驚いたわ。
沙織ちゃんの後継者である貴方も沙織ちゃんと同じ身体と悩みを抱えていたなんて。
取材していてもそういう雰囲気は全く感じられなかったし」
「普通に会話していて、そんな素振りを見せる事はありませんよ。
ただ、あかりさんはとても魅力的な女性なのでもし繋がる事が出来たらな……
なんて考えた事はあります。
初めての相手があかりさんになるのなら、私にとっても光栄な事です」
サングラスを外して棚の上に置き、あかりに抱き付く葵の頭を、あかりは優しく撫でた。
「貴方もサングラスを外したら?
これから深く繋がるのに、隠し事してたらつまらないでしょう」
あかりにそう呼びかけられたまるうは、少しの間躊躇していたがサングラスを外し、あかりと向き合う。
自信が無さそうな暗い表情、視線は常に下の方を向いており、口はへの字に結ばれていた。
「あれ?
周防さんじゃないですか。
私ですよ、雨宮比呂子です」
まるうは比呂子にそう言われた瞬間、思わず目線を上げ比呂子の方を見る。
人の顔を直接見る事が苦手である彼女が、時折心を通わせた相手がそこにいた。
「比呂ちゃん、その人……
貴方の知り合いなの?」
「ええ、本当に『知り合い』って言う感じの間柄ですけど……
私、本を読むのが好きで時々都内の大きな図書館に行く事があるんですよ。
彼女はその図書館に勤めている司書の方なんです。
名札を見ただけなので名前をしっかり覚えているワケじゃないんですが」
池袋駅の近くにある『豊徳(ほうとく)池袋図書館』。
比呂子は月に数回その図書館を利用しており、本を借りる時かなりの頻度で彼女とやり取りをしていた。
『これ、お借りします。
1週間以内には必ず返却しますから』
『あ、はい……
信頼してますよ。
もう何度も利用されている会員の方なのは承知しておりますので』
元々人見知りがちな彼女、周防(すおう)幸枝(ゆきえ)も比呂子とは普通に話す事が出来た。
お互いに人見知りがちで気弱、人から距離を置かれた過去を持つ同士であり他人とは思えなかったのだ。
とは言ったものの、本の貸し借りと言う僅かなやり取りでは友情が芽生える事は無かった。
(顔よりも、声で覚えてる……
私と同じ、遠慮がちに喋る人だから印象に残ってた。
仕事で会っていたそれ程親しくも無い人とココで会うのは、運命みたいなものなのかな……)
比呂子は名札で、幸枝は会員カードで互いの名前を把握しているが殆ど赤の他人。
その2人が火村あかりの部屋で再会し、互いの身体を使って快楽に溺れようとしている。
幸枝は人から距離を置かれてきた自分が、それでも人を信じようとした事で神様から御褒美を貰ったのだと思った。