※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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拓巳は『変な所で真面目な人物』である事を強調したつもりです。
誠実であろうとしている様に見えて、実は薄情。
自分を律する部分を持ちながら、遊び呆ける事もある。
そんな人間的な矛盾を持った人は沢山いると思います。


番外編 トリプル・ダンス 中編1 ありのままの君を

【2005年5月8日 東京都豊島区池袋 ラブホテル『FIG』店内】

 

 最初から、自分をホテルに連れ込むつもりだったのかもしれない。

 泪が誘ってきた時から、それは罠だったのではないか。

 様々な感情が心の中に沸いては消えていったが、それらは現在置かれてる状況に勝るものでは無かった。

「手をどけて。

 俺に全てを見せて」

 

 優しく、諭す様にそう言われ、ミアは『気をつけ』の姿勢を取る。

 両親にも見せた事が無い、今の自分の裸体。

 駆け出して、その場から逃げたくなってしまう程恥ずかしかった。

 

「へぇ、私より胸あるねぇ。

 それにすっごく綺麗な肌してる」

 先程までミアが座っていた椅子に、全裸の泪が座っている。

 人懐っこい性格と、小悪魔の様な笑み。

 

 (この性格と笑顔に、もしかしたら私以外の人間も騙されたのかもしれない。

 いや、拓巳さんも彼女の魔力に屈した人間の1人である可能性が……)

 

 ミアはそれでも、泪を嫌いにはなれなかった。

 誰もが目を合わせようとすると視線を逸らす中、彼女だけは真っ直ぐに自分を見つめていてくれたのだ。

 後悔はしない。

 この先の見えている苦難を受け入れなければ。

 そうして覚悟を決めようとしていたミアは、下腹部に指が触れている事に気付いた。

 

「なッ、何してるんです!?」

「何って観察だよ。

 君だって泪と俺のしている所を見ていただろう?

 こういう事をする前には、相手の事を隅々までよく知っておかないと」

 

 床に膝をつけた状態の拓巳が、両手を使ってミアの膣を左右に広げる。

 自分ですらよく見た事の無い『秘密の花園』を凝視され、ミアの顔が瞬く間に紅潮した。

 

「嫌だ、そんな所……

 ジロジロ見ないでください」

「後で俺のも見せるからさ、それでお互い様って事にしようよ。

 本当に綺麗だ。

 何処もかしこも綺麗で、文句の付け様が無い」

 

 そう言いながら瞳を僅かに潤ませる拓巳の顔を見て、泪はおかしくてしょうがないと言わんばかりに笑ってみせる。

「拓巳さんてば、いっつも大袈裟なんだからぁ」

「俺はどんな女性に対しても本気だ。

 セックスフレンドの関係であろうとも、誠実でありたいと思ってる。

 そうでなければ、女性から信頼を得る事なんて出来ないだろう?」

 

 相手が美しいからこそ、嘘は言わない。

 不思議なもので、拓巳が端正な顔立ちであるからか美しい女性ばかりが彼に近寄ってきた。

 拓巳のレベルが高いからこそ、女性のレベルもそれに比例して高くなっている様だった。

「気持ち悪いと思われるかもしれないが、君の為だ。

 膣をほぐせばそれだけ挿入した時の痛みを軽減させる事が出来るからね」

 

 そう言った直後、拓巳は膣を広げた状態のまま股間に顔を埋め、膣の中に舌を入れ掻き回す様に舐め始める。

「ちょっと、汚いですって!そんな所舐めちゃ……

 あうッ」

 拓巳の頭を両手で抑え股間から剥がそうとするミアであったが、拓巳の力には到底及ばない。

 嬌声を漏らしつつ、彼女は身体の奥が熱くなっていく感覚に襲われた。

 

 (こ、こんな所躊躇しないでベロベロって……

 男の人って皆こうなの?)

「優しいだけだと思うけど。

 拓巳さんみたいに『初めてだからほぐしてあげよう』なんて思う男の人の方が少ないから。

 普通だったら獣と化してベッドに押し倒して、相手の都合も考えずに突っ込んでるよぉ」

 

 困惑の表情を浮かべているミアの気持ちを察したのか、泪はそう言って拓巳が配慮している事を教える。

 改めて拓巳の顔を見てみると、そこには下品な笑顔も欲望から来る焦りも無かった。

 ただただ真面目に、彼女の身体を気遣ってクンニリングスを懸命に続けていたのである。

 (拓巳さん……)

 

 馬鹿正直と言う言葉が、これ程似合う男もなかなかいない。

 相手を思いやっているからこその前戯である事を知ると、ミアは僅かに笑みをこぼした。

「私にも、奉仕させてください。

 セックスってそういうものなんでしょう?」

 誰かから聞いたレベルの知識が、彼女に『拓巳を満足させてあげたい』と思わせていた。

 

 相手の性器を舐めたり、指で弄ったり口で咥えたりする事で快楽を得る。

 女子高と言う『女の花園』で育ったミアも、そういった断片的な知識は耳に入れていた。

 自分は関わっていなくとも、女子生徒同士の会話に猥談が混ざる事がある。

 そういう事をするのだと思っていた彼女も、いざその対象を目の前にした瞬間言葉を失った。

 

 (さっき、泪の中に埋まってたから見えなかったけど……

 男の人のって、先端がこんな風になってるんだ。

 薄桃色って言えばいいのかな)

 

 ミアの眼前に突き付けられた肉の槍。

 その先端が時折ビクビクと痙攣している。

 勃起した男根を見ながら手を伸ばそうとするも、その手が途中で止まってしまった。

 (触るの、恐い……)

 

 男性の股間から生えている『それ』がとても恐ろしいものの様に感じられ、完全にフリーズしてしまうミア。

 泪は呆然としたまま動けないでいるミアの手に手を重ね、無理やり肉棒に触らせる。

「脈打ってる……」

「男の人のオチンチンって、生命力の塊みたいなモノだからねぇ。

 舌で先っぽ舐めたりしてあげると、男の人は喜ぶよ」

 

 舌を出し、指でその舌を指差しながら泪はミアが拓巳に奉仕する様促した。

 (く、咥えるのは無理でも舌を這わせる位なら……

 さっき、拓巳さんだって私のアソコを舐めていたんだし)

 すぐにでも崩れ去ってしまいそうな勇気を何とか振り絞り、舌を出したままゆっくりと先端へ近付いていく。

 亀頭の部分に舌が触れ、そのまま機械の様に一定のリズムで舐め始めた。

 

 相手を悦ばせる為、コレは相手の為にやっている事。

 頭の中で自分に対しそう言い聞かせていたミアであったが、身体の火照りが強くなっていくのを体感する。

「性的本能って、最後は理性をぶっ壊しちゃうものだよ。

 自分のしたい事を、素直にすればいい。

 獣になったとしても、咎める人なんか今は何処にもいないんだし」

 

 泪の言葉が、とても遠くから聞こえてくる様な気がした。

 (どうして、こんなに硬くなってるの……?)

 無菌室で育ってきたからこそ、いざ性に触れてしまうとあまりにも脆い。

 人間としての性欲を封じられていた身体が、『もっと性欲を発散させたい』と訴え続けていた。

 

 (むせ返る様な男の人の匂い。

 アソコが、熱くなってる……)

 ペニスを目の前にして、今まで父親によって嵌められていた枷が破壊される。

 気付いた時には、雄々しく反り返る肉棒を咥え込んでいた。

 拓巳によって刺激を受けた膣から、愛液が滴り落ちる。

 

 殆ど無意識のうちに、ミアは咥えたまま前後に顔を動かすと言うフェラチオの基本動作を習得していた。

「お、おっと……

 ミアちゃん、そんな急にギアを上げられたら俺もやばいから」

 流石に性交経験の無い女性の口の中に、己の欲望を放出するワケにはいかない。

 そう思った拓巳は彼女を引き剥がそうとしたが、彼女は夢遊病患者の様な目をしたまま行為を続ける。

 

「やっぱり。

 素質あると思ったんだよねぇ。

 耐性が無い人間程、堕ちる時は底まで堕ちるもんだから。

 悪い事じゃないよ。

 今までミアが隠していた本当の自分に気付いただけだもん」

 

 泪も頬杖をつきながら彼女が欲望に身を委ねる姿に酔い痴れていた。

 ミアが抱え込んでいた持っていく場所の無い怒りと蓄積していくストレス。

 そして自慰経験も無い初心(うぶ)な身体は、少しだけ背中を押せば爆発すると確信していたのだ。

 

「私はミアを酷い目に遭わせたいワケじゃないの。

 楽しんでもらいたいんだよ。

 ただでさえ先の見えない暗い世の中で、辛い思いをし続けるよりは快楽に溺れた方が得だと思わない?

 私も拓巳さんの意見に賛成。

 最上のセックスは、若い時にしか味わえないって」

 

 泪の言葉など、最早ミアの耳には届いていない。

 周りが見えない程興奮した状態のまま、一心不乱に勃起した肉棒の先端を舌で舐め回す。

「うふーッ、ふむ、ふむぅ……

 おうう、ふッ、ふッ」

 

 コレが18歳以上推奨の成人漫画であれば、ミアの瞳の中にハートマークが浮かんでいた事だろう。

 ココで無様に射精する事は許されない。

 拓巳は懸命に欲望を抑えつつ何とかミアの口から息子を逃がした。

 

「ハァッ、ハァッ……

 危なかった。

 あと数秒しゃぶられてたら達していたよ」

 痛い程膨張した槍の先端から、透明な液体が溢れ出す。

 醜態を晒しそうだった拓巳は何とか息子を宥めると、机の上に置いてあったティッシュで涎を拭き取った。

 

 (この娘、物凄い逸材だ。

 泪ちゃんが紹介してくれただけの事はある)

 経験で言えば、少し咥えられた程度では射精する事は無いと思っていた拓巳であったが、今回は余裕を失っている。

 100人以上の女性とセックスをして、唯一何度も『お付き合い』をしたいと思わせてくれた相手が泪だった。

 

 (彼女はお金だけじゃ無かった。

 俺と付き合う事で何らかの『おこぼれ』を貰いたいと考えている女なんて星の数ほどいる。

 でも、彼女は違ったんだ……

 俺と同じ様に逃げ場所を求めていただけだった)

 

 天武日本の国民からの期待と重圧。

 拓巳はその重圧に耐え続ける事など出来なかった。

 連覇が当たり前。

 前回と同じ成績を残せるのが当たり前。

 トップに立ち続ける男……

 

 テレビや新聞で面白おかしく紹介される内容は、拓巳に『負け』は許さないと脅迫しているかの様だった。

 女を抱く事で漠然とした不安から逃れようとしていた拓巳に、近付いてきたのが泪だったのだ。

 

「人間は強くないって言う現実を認識しないから、皆壊れちゃうんだよ。

 逃避は『敗北』じゃない。

 次の勝利の為に羽根を休めるのと同じ事。

 私はミアから危険な気配がしたんだ。

 逃げずに無理ばかりしてる……ってね」

 

 拓巳の逃避を否定せず、ありのままの自分を受け入れてくれた泪。

 今度は自分が目の前の女性を救う番だ。

 そう思いながら拓巳はミアをベッドに寝かせた。

 身体全体が説明出来ない疼きを感じている。

 呼吸が乱れ、立っていられない。

 

 (ああ、私……

 拓巳さんと今からセックスするんだ)

 クンニで刺激された膣内を指で掻き回され、身体が時折小刻みに震える。

 感覚の変化は相手を受け入れる態勢……

 肉棒を膣に招き入れる準備が出来た事を示していた。

 

「ああッ、はうんッッ……

 やあ、駄目ぇ……」

 膣内の手前側を弄られ、勝手に変な声が漏れてしまう。

 自分自身で己の身体を制御出来ないと言う生まれて初めての体験は、若干恐怖を感じるものだった。

「そろそろ良いかな」

 

 拓巳はベッドの上に膝を乗せ、滾った肉棒の先端を膣口に密着させる。

 反り返る程怒張した男根がミアの体内に潜り込んでいった。

 

 挿入自体は驚く程簡単に成功する。

 奥まで男の槍を埋め込まれた瞬間、ダムが決壊するかの如く痛みが股間から全身へと広がっていった。

「かはッ」

 常軌を逸した強烈な痛みに、最早声も出ない。

 涙が頬を伝い、黒目を小さくしながら荒い息を吐き続けているだけと言う状態だった。

 

「大丈夫?」

 激痛の原因となっている相手に身体の心配をされるのは少し笑える……

 ミアは頭の中でそんな事を考えているのが精一杯で、返答する事が出来なかった。

「ごめん、悪いんだけどさっき君に口でされた時からこっちもギリギリなんだ。

 なるべく早く終わらせるから」

 

 一旦射精して、楽になりたい。

 拓巳の勝手な都合であったが彼に火を付けたのは自分自身だ。

 ミアはココでジタバタするのも醜態を晒すだけだと思い、泣きながら歯を食いしばった。

 (満足するまで、どうぞ御自由に)

 耐え難い痛みとは別に、膣の奥から腹部全体にかけて得体の知れない熱さが広がってきている。

 

 コレが快感なのだとしたら、溺れてみたい。

 上手く言葉を発する事が出来なかったが、彼女の覚悟を肌で感じ取った拓巳は繋がったまま彼女に覆い被さってきた。

「多分、初めてのセックスから2回か3回は痛みが伴ったものになると思うよ。

 我慢すれば男の人と同じ様に快感だけを得れるから、頑張って」

 椅子に座ったまま微笑む泪。

 

 彼女の言葉が本当なのかどうかミアには解らなかったが、現時点では全く余裕が無い。

「ま、まだ……

 終わらないんですか?」

 誰もいなければ、激痛に耐えられず泣き叫んでいた事だろう。

 ミアと顔を突き合わせている拓巳が、時折気遣う様な表情を見せていたからこそ踏ん張る事が出来ていた。

 

 (名器は先端をしゃぶりつくしてくると言うが、彼女はさらに凄い。

 奥に突き入れた瞬間、膣奥が招き入れる様に吸い付いてくるなんて。

 もう、出そうだ……)

 うねうねと蠢く肉の壁が、ベルトコンベアの様に動く事で肉棒の出し入れをより円滑にする。

 突き入れた時の音がより強く、大きくなっていた。

 

 本能のまま、ミアは拓巳の背中に手を回して強くしがみつく。

 拓巳はベッドに両手をついた状態を保っていたが、引っ張られた事で全体重が彼女にかかった。

「凄く気持ちいいよ、君の中……

 モノが蕩けてしまいそうだ」

「そ、そんなのどうでもいいですから……早く終わらせて」

 

 端から見れば、全裸の状態で腰だけを振り続ける拓巳の姿は滑稽に映るだろう。

 少し前までクールに振舞っていた『九龍拓巳』の面影すら感じられない。

 だが泪は、そうやって快感を追い求めている拓巳もまた彼の本質である事を知っていた。

 (あー、背中から下腹部にかけてピクピクしてる。

 コレはもうイクでしょ)

 

 達する為に、より腰振りを早める拓巳。

 そしてそれは唐突に訪れる。

「はッ、うあッ……

 くうッ」

 

 犬が吠えた時の様な声を出しながら、拓巳はミアの中に欲望を放出した。

 (えッ、お、終わったの……?)

 鈍い痛みを腹に抱え込んだまま、ミアは情けない顔を晒す。

 繋がった状態のまま、肉棒が膨張と収縮を繰り返していた。

 

 少しの間彼女の膣内で脈動を続けていた滾りが、急速に失われていく。

 拓巳が腰を少し引いただけで萎えた陰茎が抜け、膣口から血と精液の混合液が漏れた。

「どうだった?

 初めてのセックスは」

 泪は椅子から立ち上がり、床に両膝をついてミアの顔を覗き込む。

 

「どうだったって言われても……

 あそこがまだ痛いし、終わったのもよく解らなかったし……

 セックスって、そんなに良いものなの?

 私にはとてもそうは思えないけど」

 

 ミアには見た目を取り繕う余力等全く残っていなかった。

 だらしなく口を開け、瞳からは涙が流れ続けている。

 

「最初は私だって痛いだけだったよー。

 膜が破れると滅茶苦茶痛いもん。

 さっきも言ったけど、女性がセックスで快感を得る為には何回か痛みに耐えなくちゃね。

 でも、そこさえ乗り越えれば凄いよ。

 痛みが消えさえすれば……」

 

 泪はミアの眼前で股を開くと、指で思い切り膣を広げてみせた。

「痛みが通過点に感じられる程、気持ち良くなるんだから」

 発情した動物の様に頬を赤らめ、舌を出して男を誘う様な表情をする泪。

 

 (でも、何でなんだろう……

 パパに殴られたり蹴られたりした時よりは、この痛みを受け入れられる。

 理不尽な痛みじゃ無かったから?

 耐える準備をしていたから?

 よく解らない……)

 

 拓巳は彼女の横に寝転がり、後ろからそっと抱き締める。

 ミアは朦朧とした意識の中、痛みの中で僅かに感じた快感を思い出していた。

「コレ飲んでおかないと後が大変だよ。

 ミアだってまだ赤ちゃんは欲しくないでしょ」

 

 避妊薬と水の入ったコップを渡されると、ミアは素直に従った。

 やっとベッドの端に足をつけて座れるまで体力が回復したが、身体がとてもだるい。

 内側から下腹部を叩いてくる様な痛みに耐えつつ、重い身体を隣にいた拓巳に預けた。

「男の人って、何も痛くないんですか?

 不公平だと思います」

 

「身体の構造の違いだからね。

 そればっかりはどうにもならないよ。

 男は筋肉を得た代わりに肉体労働を強いられると言う代償を払い、女は美貌を得た代わりに性交及び出産の痛みと言う代償を払った。

 神話の世界ではそういう考え方らしいけど」

 全裸のままではあったが、快楽に酔っていた拓巳の姿はもう何処にも見当たらない。

 

 冷静さを取り戻している拓巳が、ミアには少し妬ましかった。

「拓巳さんも、代償を払う事になるかもしれませんよ」

 水で錠剤を喉の奥に流し込んだ後、ミアは腕で涙を拭いながらそう言った。

 

「私のもう1つの名前を教えてあげましょう。

 私の別の名前は、ミア・タリスマン。

 天武日本にある合衆国大使館で働いている参事官、ファヴロー・タリスマンの娘です。

 もし私を手籠めにしたなんて事が発覚したら、無事では済まないんじゃないですか」

 

 本気で脅迫するつもりは全く無かった。

 拓巳だけが気持ち良くなっていたと言う不公平さに対する抗議のようなもの。

 顔を青くするのか、それとも顔を真っ赤にして父の様に自分を怒鳴り付け、有耶無耶にしようとするのか。

 相手の反応を気にしていたミアだったが、拓巳はその2つとは違う道を選択した。

 

「君は、肩書なの?」

「えッ」

 真面目な態度を一切崩さず、突然思ってもいなかった言葉をぶつけられミアは面食らう。

 

「今まで俺は、肩書でしか評価される事が無かった。

 ZERO全国大会覇者。

 その肩書を剥がされたら、何の価値も無い男。

 今まで俺に身体を差し出してきた女性達は皆そういう考え方しか持っていなかったんだ」

 拓巳は姿勢を正し、ミアに対して誠実であろうとしている様に見えた。

 

「肩書は、生きていく為に必要なものだ。

 でも俺は、君の肩書を見て君を抱いたワケじゃない。

 事前に知る機会が無かったと言う部分もあるけれど、君の姿に惚れたんだ。

 君の瞳に、髪に、肌に、そして裸身に」

 

 ありのままの、今自分が見ているものだけが真実。

 その他の情報は不純物に過ぎない。

 そう言われている様な気がして、ミアは自分がどういう扱われ方をされてきたのか思い返した。

 

 (泪だけだった……

 私の肩書を、余計な情報を取り除いて私に接してくれたのは。

 参事官の娘と言う『事実』が邪魔をして、皆が私から離れていった。

 この人は、泪と同じ事が言いたいのかもしれない)

 

 拓巳はテンションが上がったのか、無意識にミアの手をギュッと握り締める。

「君が参事官の娘だったとしても、俺が君の美しさに見惚れた事には変わりが無い。

 互いの経歴を横に追いやって、男と女の関係を築き上げていきたいんだ。

 君が嫌で無ければ、俺のセックスフレンドになってくれないか」

 

 大真面目にそんな事を言ってくる異性が、今まで自分の前に現れただろうか。

 自分の命が大事だとばかりに、近付く事さえ拒んできた者達ばかりではなかったか。

「……拓巳さんって、面白い人ですね」

 ただ、目の前にいる裸の自分を好きになってくれた男。

 彼は両親にも友人関係にも恵まれてはいなかったミアに、初めて己の価値を教えてくれたのだ。

 

 感情がグチャグチャに混ざり、大粒の涙を流しながら彼女は笑った。

「そんな、真剣な表情で『セックスフレンドになってくれ』だなんて……

 恋人になってくれみたいなトーンで言われても困りますよ。

 アハ、ハハハ……」

 

 下腹部に残る痛みに悶えながらベッドの上に寝転がり、笑うミア。

 その光景を、泪は保護者の様な表情をしながら見つめていた。

 

「あの人はね、刹那的なんだよ。

 自分が今やれる事、やりたい事を躊躇なく実行してる。

 自分で人生の設計図を頭の中に描いて、その通りにしているだけ」

 ラブホテルから出て拓巳と別れた後、泪はそう言ってミアの方を見る。

 服装が乱れていないかどうか入念に確認していたミアは、不思議そうな顔をして彼女の方に視線を合わせた。

 

「さっき言ってたでしょ、若い女性とこんな事をしていられるのもせいぜい数年だって。

 その数年の間に問題を解決させて、結婚するんだって教えてくれたの」

 泪は財布の中から『優勝記念二次会』で撮影された写真を取り出しミアに渡す。

 その写真には拓巳、ごつい男性、そして褐色肌の女性が映っていた。

 

 (あれ、この人……

 私に似てる)

 肌の色や髪の色こそ違っていたが、満面の笑みを浮かべている女性の顔はミアにどことなく似ている。

 何かを察したミアは口を尖らせて文句を言おうとしたが、泪は彼女の抗議を遮った。

 

「日向剛、海野亜津子。

 この2人と拓巳さんはZEROで繋がっている親友と言う間柄。

 ただし、拓巳さんが今彼女に告白してしまうと、微妙な三角関係にヒビが入ってしまう。

 何年か経過して、状況が落ち着いたら彼女に自分の思いを伝えたいって考えているみたい」

 

 拓巳は我儘な男だった。

 腰を落ち着ける場所が決まるまでとことん遊びたい。

 そして泪と出会って話す中で、顔が少し似ているミアに対して興味を持った。

 今日に至るまでの経緯が見えてくればくる程、ミアは憂鬱な気持ちになるのだった。

 

 (私達は、結局遊び……

 拓巳さんが選んだセックスフレンドに過ぎない。

 関係を切ってしまえば楽になるハズなのに、どうしてこんなに心が苦しいんだろう)

 

 解らないフリをしているだけで、本当はハッキリと答えが見えている。

 ミアは、あの一目惚れの時から拓巳の事が気になってしょうがないのだ。

 端的に言えば、恋に落ちてしまった。

 九龍拓巳と言う磁石に引きつけられているかの様だった。

 

 (私があの人を愛しても、あの人にとって私は遊び。

 泪と同じ様に、抱く女の1人でしか無いのに。

 それでももっと近付きたい。

 繋がっていたいと思ってしまう私がいる。

 こんな、全部泪がいけないのよ)

 

 泪が自分を罠にかけてラブホテルに連れ込みさえしなければ、無駄な痛みを味わう事は無かった。

 そう思い再び文句を言おうとしたミアだったが、喉から出かけた言葉を無理やり飲み込む。

「もう少し、私達みたいに楽な生き方してみても良いんじゃない?」

 泪はミアの肩に手を置いてそう言うと、数歩進んだ後振り返って財布をミアの眼前に突き出した。

 

「さぁ、貰うものは貰ったんだし私と2人で豪遊しよう!」

「る、泪……

 貴方はもう、本当に……」

 ミアの財布の中にも、拓巳から受け取った10万円が入っている。

 最早愚痴を吐く気力も失せ、ミアは元気良く駆けだした泪の後を追いかけた。

 

【2005年6月某日 東京都港区 在日合衆国大使館内】

 

「小森君、すまないがこの書類を書庫にしまってきてくれないか」

 別の男性職員に呼ばれた小森(こもり)環(たまき)は無言で書類を受け取ると、部屋から出ていった。

 

「愛想が無いよな。

 彼女が喋ってる所なんて、日に数度、下手すれば数日に1回なんて時がある」

「良いじゃないか。

 御喋りで仕事が出来ない女は星の数程いるが、彼女はその逆なんだから」

 職員達からの評判は非常に良い。

 

 誰の悪口も言わず、何にも逆らわず、淡々と命令を実行する機械の様だ。

 小森は大使館職員として雇われてから5年になるが、その働きぶりは誰もが認めるものだった。

 大量の書類を両手に抱えた状態で廊下を出た彼女は、ファヴロー・タリスマンとすれ違う。

 自分の横を通り抜けようとしたイエローに腹が立ったタリスマンは、わざと彼女の足に足を引っかけて転ばせた。

「大丈夫ですか?」

 

 彼女が転倒して書類をばらまいた事に気付いた別の職員が慌てて駆け寄るが、タリスマンは気にも留めずに歩き出す。

「フン、イエロー如きが。

 余所見をしているから無様な醜態を晒すんだ」

 酷い言葉を投げられ、溜息をつく小森。

 男性職員は慌てて床に散らばってしまった書類をかき集め始めた。

 

「天武日本人嫌いの参事官殿にも参りますよ」

「いえ、私は気にしていませんから」

 愚痴をこぼす男性職員を尻目に、小森は何事も無かったかの様に歩き出す。

 職場で度々パワハラを受けている彼女に対して、殆どの職員が同情していた。

 

 実際、彼女にとってそんなパワハラ等些細な問題でしか無い。

 もっと大事な仕事が、果たさなければならない使命が小森にはあった。

 (12月31日、私はハワード・C・イシュメルを暗殺する)

 その密命を達成する為に、大使館に潜り込み多くの職員から信頼を得てきた。

 彼女は紅虎明命から放たれた刺客、狐狸(フーリー)だったのだ。

 

 彼女は自分の本名も、親も、故郷も知らない。

 知っているのは暗殺の為に必要な体術や剣術、そして組織への潜り込み方だけだった。

『お前は我々が一流の技術を教え込み育ててきた最高傑作だ。

 最強の暗殺者(アサシン)としてお前が成すべき事。

 それはイシュメルを暗殺し、イシュメル→オズワルドの連絡網を破壊する事だ』

 

 大使館側に謀(はかりごと)がばれぬ様、紅虎明命は慎重に事を進めていく。

 天武日本人は信国人や信国人と天武日本人のハーフの顔をすぐ見破ってしまう為、仲間を安易には使えない。

 整形も見破られる可能性がある。

 そこで、天武日本人の赤ん坊を攫って死んでも構わない道具に仕立て上げる事にした。

 

 天武日本の遊園地で攫った名前も解らぬ赤子に暗殺者としての名を与え、完璧な戦士へと育て上げた。

 架空の戸籍を作成し、一流高校から一流大学へとエリートコースを歩ませ大使館に潜入。

 信国人との繋がりが露見しない様、彼女の指導は全て天武日本語でこなす程の徹底ぶりだった。

 

『2005年12月31日の午後4時、我々は主力部隊を率いてZEROドームを占拠し織田信虎を殺害する。

 その事実がイシュメルの口から合衆国側に伝えられるのを阻止する事で時間稼ぎを行いたいのだ。

 合衆国が何も知らずに胡坐をかいている所へ、信国で密かに製造していたH2O爆弾を戦闘機に乗せて運ぶ。

 合衆国の首都に落とす事が出来れば我々の勝利。

 もし事前に信虎殺害が漏れる様な事があれば我々の敗北となる。

 つまり、紅虎明命が覇権を握る為にはお前の力が絶対に必要になると言う事だ』

 

 狐狸は燃えていた。

 自分の手で、何としてもイシュメルを殺害しなければと決意していた。

 殺害方法は事前に指示を受けているとは言え実際に仕事をこなすのは彼女1人であり、作戦遂行中に不測の事態が発生しても助けてくれる者は誰もいない。

 だからこそ、肩に自然と力が入るのはある意味当然だった。

 (私が、野蛮な合衆国の人間を滅ぼす為の手助けをしなければ)

 

 イシュメルとタリスマンが黄色人種を差別し毛嫌いしている事はこの数年間で嫌と言う程承知している。

 信国が天武日本を滅ぼしても、合衆国を滅ぼさなければ先が無い事は明白だった。

 

 (せいぜい、大晦日の夕方まで椅子に座ってふんぞり返っているが良い。

 この大使館内で強い力を持っている合衆国の人間はこの2人だけ。

 私が地獄を見せてやる)

 彼女は、自分が行うであろう暗殺計画の成功を信じて疑わなかった。

 

【2005年6月25日 東京都豊島区池袋 ラブホテル『FIG』店内】

 

「多分、暫くの間……

 君達に会えなくなると思う」

 生まれたままの姿でベッドの中にいたミアは、隣にいた拓巳に視線を向けた。

 自然に『嫌だ』と言う感情が漏れ出たのか、彼女は咄嗟に彼の腕を掴む。

 

「もうすぐ、古都府で親善試合が行われる。

 そこで勝つ為には練習しないと。

 その後は全国大会で連覇を果たす為に練習、練習、また練習だ。

 俺もセックスするのは好きだけど、それに溺れて本質を見失う程愚かじゃ無いからね」

 泪はミアに対して『仕方ないでしょ』と言わんばかりの表情を浮かべた。

 

「私が拓巳さんと会ったのは今年の1月の始め。

 去年も今年ほどじゃないけど女の子と遊んでた。

 この1月から6月にかけて想像を絶するハイペースで私達以外の女の子とも寝続けて……

 ハッキリ言って、生き急ぐ程体力を消耗してるのよ。

 そろそろ休息しないとね」

 

 若さで耐えているとは言っても、100人の女性と関係を持ちながら格闘ゲームをプレイするのは至難の業である。

 今が人生最高のチャンスと見定めて無理を続けてきた拓巳であったが、戻らねばならぬ場所がある事を忘れてはいなかった。

「楽しかったよ。

 女性を次々に取り替えて思う存分性欲を貪る日々は。

 それのせいで午前様どころか朝帰りも増えて、妹には迷惑をかけまくっているけどね」

 

 気に入った女性を次から次へと喰ってきた拓巳が、今年最後と思って選んだ相手。

 それが、これからも付き合いを継続していこうと考えているミアと泪の2人だった。

「妹さんがいるんですか?

 悪いお兄さんもいたものですね」

 

「健気に俺の帰りを待ってくれている妹だからね……

 そう言われると困ってしまうよ。

 来年、全国大会の優勝報告を手土産にして君達と再会したい。

 お願いできるかな」

 頭を掻きながらそう言う拓巳に対して、泪とミアが出した結論は同じだった。

 

「勿論。

 こっちもお金が貰えるんだから凄く助かってるし」

「拓巳さんが望むなら……

 私は出来る限り応えたいと思っています」

 

 相思相愛で無くとも、拓巳を愛する気持ちは変わらない。

 ミアの報われぬ思いを察した拓巳は、良心が痛んだが今更引き返せないとも思っていた。

 

 (流石に彼女と結婚する事は出来ない。

 彼女だって、薄々それは解っているハズだ。

 それに俺は亜津子に恋い焦がれている……

 今は押し隠しているが、その気持ちに嘘をつけないんだ。

 許してくれ)

 

 精一杯の誠意。

 単なる報酬としてでは無く、感謝の気持ちとしての10万円と言う金額。

 他の女性にも払ってきたその大金が、拓巳の中で別の感情を持って渡される様になる。

 泪も拓巳が、ミアに対して単なるセックスフレンドとは異なる接し方をしている事に気付いていた。

「お別れする前に、君に頼みがある」

 

 ミアはじっと見つめられ、自然と頬が紅潮していく。

「明日は日曜日で、学校は無い。

 この部屋の宿泊代金もこっちが持つ。

 だから……

 挿入したまま寝させてくれないか」

 

 突然の申し出に、唖然とするミア。

 思ってもいなかった『お願い』を聞いて目が点になった。

 

「君と繋がったまま夢を見てみたいんだ。

 膣に挿入した状態で寝た場合、夢精するのかと言う疑問も含めて興味がある。

 それと、最後まで君の温もりを感じていたいんだ。

 駄目かな」

 

 どう答えるべきか、ミアは迷った。

 朝帰りとなれば父親であるタリスマンに詰問され、最悪暴行を受ける事は目に見えている。

 それを庇った母親が殴られる光景が容易に想像出来、ミアの心は揺れた。

 

 (ママの為を思うなら、ココは毅然とした態度で断らなきゃいけない。

 今ならまだ、夜遅く帰宅した程度で済ませる事が出来る。

 でも……

 この日を逃したら、また半年拓巳さんと会えなくなるんだよね)

 

 実らぬ愛を取るか、父親の御機嫌を取る惨めな日常へと戻るのか。

 考えに考えた末、ミアは自分の心に従う道を選んだ。

「私からもお願いがあります。

 寝る前に私の事を出来るだけ可愛がってください。

 それが条件です」

 

 裸の自分になって本当に望んでいるものは何かを己に問うた時、選ぶべき道は既に決まっていたのかもしれない。

「君を落胆させない様に努力するよ」

 ミアを抱き締め、背中に擦り寄ってきた泪の熱を感じる拓巳。

 3人にとっての熱く、長い夜が始まろうとしていた。

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