※この作品はR-18です。

ZERO ~格闘ゲームに翻弄される者達~   作:夜月光介

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『天女の湯』を登場させた時から、ふたなりを
主題の1つとしてきたこの作品の中で隠れ家作りに尽力した
鶴野椿の話は絶対にやりたいと思っていました。
彼女の願いはふたなりが誰にも傷付けられない、
貶される事の無い理想郷を作る事。
その願いを持つ事になった過去の事件を探ります。


番外編 湯源郷の宴 3色の薔薇

 貴方に薔薇を渡しましょう 赤と白と黒の薔薇を

 血の様に赤い薔薇 清らかで誠実な白い薔薇 闇に紛れそうな程黒い薔薇

 貴方はどの薔薇がお好きなのかしら?

 

【西暦2000年 4月3日 午後1時 東京都新宿区 職業案内所】

 

 天武日本にも様々な職業を客に提示する施設が存在する。

 建築現場での作業、下水工事、倉庫仕事、ゴミ処理……

 素人にも出来る仕事ばかり用意されているがどれも過酷だ。

 この日、職業案内所を訪れた1人の女性は受付の女性と言い合いになり騒ぎを起こしていた。

 

「ですから、上限としてはコレ以上『稼げる仕事』を我々が紹介する事は出来ないと言うのが実情でして」

「どんな仕事でも良いんです。

 それも長期で沢山稼げる仕事が。

 何とかなりませんか?」

 

 見た所、まだ20歳にもなっていない様な若い女性だった。

 黒髪は肩まで伸びており、その髪も顔も非常に美しい。

「我々が紹介出来るのはあくまで『合法的』な職業に限られますから……

 1日で10万あるいはそれ以上稼げる仕事なんてウチでは扱っていませんよ」

 

「そこを何とか、お願いします。

 私にはまとまった額のお金がどうしても必要なんです」

 目に涙を浮かべ、何度も頭を下げる女性に対して、受付嬢も困り果てた様子で周囲を見回す。

 やがて案内所を運営する責任者の男性が彼女の前に現れ、優しい口調で出ていく様に促した。

 

「我々が斡旋出来る内容の仕事では、御客様の望む結果は得られないと思いますので」

 お引き取りくださいと言おうとした男性の視界にある女性の姿が映った為、彼の身体は石の様に硬直した。

「お金が欲しい。

 どんな事でもする……

 アンタ、確かにそう言ったね?」

 

 年齢は30後半辺りだろうか。

 髪は芸者の様に結われ、黒い着物を身に纏っている。

 着物には赤い薔薇と白い薔薇が描かれており、彼女の手には純金製の煙管が握られていた。

「どッ、毒蝮(どくまむし)さん。

 どうしてこちらに?」

 

 動揺する男性の手に煙管が振り下ろされ、あまりの痛みに男性は悲鳴に近い声を発する。

「雲雀(ひばり)の姐(ねえ)さんと呼べって何度も言ってるだろう。

 覚えが悪いね。

 この辺りの職業案内所で次々と門前払いされてる女がいると聞いたものだから、見に来たんだよ」

 彼女はまるで値踏みするかの様に泣き顔の女性の顔、そして身体を見つめていたがやがて酷薄な笑みを浮かべた。

 

「合格だよ。

 アンタみたいな上玉をアタシも探してる所だったんだ。

 上手くやればウチの看板娘にもなれるよ。

 勿論、お金だって保証する。

 アンタの名前は?」

 

 着物の女性……

 毒蝮雲雀にそう尋ねられた女性は、少し怖がりながらもハッキリとした口調で自分の名を告げた。

「鶴野(つるの)椿(つばき)です」

 

【西暦2000年 同日午後7時 東京都千代田区 国会議事堂周辺】

 

『アンタに名刺を渡しておこう。

 アタシの連絡先が記載されている。

 どんな仕事でもいいから金が欲しいと言う意志が変わらないと言うのなら、電話しておくれ』

 

 名刺に書かれた『黒薔薇館(くろばらかん)オーナー 毒蝮雲雀』の文字。

 まともな仕事では無い事は椿にも充分解っていた。

 『看板娘』と言う言葉から察するに彼女が経営しているのは風俗店。

 大金が稼げると太鼓判を押していたが、それも『非合法』な店だからだろう。

 

 しかし椿の決意は固かった。

 彼女は夢を実現する為数千万単位の金を必要としていたのだ。

 (私は私と同じ様に苦しんでいる人達を救済したい。

 その為には、私を含めた女性達が逃れられる『安住の地』を作るしか無いのよ)

 

 どんな目に遭うのか想像もつかない。

 それでも、諦めると言う選択肢は彼女の中に存在していなかった。

「本当に来たんだね。

 大金を得る為にはそれなりのリスクが伴うんだ。

 アンタもそれが解っていない程甘えた人生を送ってきたワケじゃないだろう?」

 

 国会議事堂の近くに設置されている電話ボックス。

 その前で待っていた椿の前に、雲雀が姿を現す。

「覚悟も無しに、お金が貰えるとは思っていません。

 全ては私の夢の実現の為……

 何があっても全部我慢すると約束します」

 

 真剣な表情で思いを伝えた椿に対して、雲雀は大きく息を吐いた後言葉を返した。

「それだけ肝が据わっているんなら、アタシから言う事はもう何も無いよ。

 じゃあ行こうか、アタシの根城……

 『黒薔薇館』に」

 

 カランカランと言う下駄の音が夜の街に響く。

 歩き出した雲雀の後を、椿は黙ったままついていった。

 

「ちょいと待っていておくれよ。

 なぁに、すぐに終わるからさ」

 どこからどう見ても行き止まりの壁にしか見えない場所。

 左右に道が分かれているT字路で、付近に目立つ建物は全く無い。

 雲雀が慣れた手つきで壁の突起を押すと、壁の一部が開き中から暗証番号を入力する装置が姿を現した。

 

「コレはウチの店に入る手段の1つに過ぎないんだよ。

 皆が知らないだけでこの辺りにはそういう仕掛けが山程あるのさ」

 暗証番号を入力しながら、誰かが歩いてこないか左右を確認する雲雀。

 番号を入力して右下にある赤いボタンを押した瞬間、マンホールだと思っていた丸い枠が浮き上がった。

「えッ、嘘……」

 

 近未来を思わせる様なガラスのエレベーター。

 突如突き出てきた円柱型のエレベーターのドアが開くと、雲雀は早く中に入る様にと手招きする。

「都内にこんな仕掛けが施されているなんて……」

「驚くのはまだ早いよ。

 エレベーターなんてほんの序の口さ」

 

 ボタンを押し、扉が閉まるとエレベーターはかなりのスピードで地中へと潜っていった。

 

 椿は、目の前に広がる光景が現実であると暫く信じる事が出来なかった。

 ホテルか宮殿かと思う程の巨大な建物。

 地下にある建物である為高さはせいぜい3階建て程度であろうがその広さがとんでもない。

 郊外にある大型ショッピングモール程度の規模はありそうだった。

 (東京の地下に、こんなとんでもない広さの建物が!?)

 

 外に降り立った椿は驚きのあまり声も出なかったが、雲雀は平然としている。

「ココがアンタの職場になる風俗店、『黒薔薇館』だよ。

 客は政治家や大手企業の社長と言った上級国民。

 風俗店に行く事すらスキャンダルになりかねない彼等の『憩いの場所』とでも言うべきかねぇ」

 

 2人がエレベーターから降りた後、エレベーターは地面に『蓋』をする為にまた上へと登っていく。

 建物の中央に位置している入口から中に入ると、沢山のスタッフが椿達を出迎えた。

「おかえりなさいませ、雲雀オーナー」

「今日も大劇場は満員御礼。

 赤薔薇も白薔薇も大勢の御客様で賑わっております」

 

 燕尾服やスーツに身を包んだ男性スタッフが彼女に対して頭を下げ、その御辞儀が列を成している。

 大名行列かと思う様な御辞儀の列を通り抜けて奥の部屋に入ると、下着姿の女性達が座って話をしていた。

「今日は『あぶれ』が出ているのかい。

 月曜日だから、仕方が無いか」

 

 着替えが出来るロッカールームは風俗嬢達の『待機場所』となっている。

 お呼びがかかるまでは彼女達も会話をして暇を潰す程度の自由が与えられていたが、呼ばれればすぐ客の所に向かわなければならなかった。

 

「丁度良い。

 アンタ達もプロとして大分目が肥えてきただろうから、ココで品定めに協力してもらうよ」

 雲雀がそう言うと、4名の女性達は立ち上がり一斉に頭を下げる。

 彼女達の態度は一見雲雀に忠誠を誓っている様に見えるが、その目には明らかに怯えの色が浮かんでいた。

 

 (やっぱり、厳しい上司なんだろうな)

 そう思いながら椿は女性達を眺めていたが、彼女達全員が一級品の美貌を持っている事に気付く。

「黒薔薇館で働く事が出来るのは、一定水準以上の顔とスタイルを兼ね備えている人間と決めているからねぇ。

 このスタッフルームは『赤薔薇』専用で、男性用のスタッフルームも別にあるんだよ」

 

 雲雀の説明によれば、この風俗店は『女性が男性の相手をするエリア』と『男性が女性の相手をするエリア』に分かれているらしい。

 さらに男性客と女性客がスタッフの痴態を見て楽しむ『大劇場』と言うエリアも存在していた。

 

「ココまで来たんだ。

 アタシの命令に従ってもらうよ。

 椿、今着ている服を全部この籠の中に入れて全裸になりな。

 アンタがどれだけのものを持っているのか直に確認する必要があるからね」

 

 ココが風俗店である事は解っていた。

 そして風俗嬢として自分が働かされるであろうと言う事も。

 椿は腹を括り、薄手のセーター、スカート、その他諸々の衣服を全て脱いだ。

 

「……普段『黒薔薇館』で働く人間をスカウトする時は部下に全部任せているんだが、アンタはアタシが直接見るべきだと思ったんだよ。

 思った通り、女のアタシから見ても惚れ惚れする様な身体をしているじゃないか」

 過度な主張をしない胸、腰のくびれ、少し大きめの尻、透き通る様な白い肌。

 若いと言う事もあるが、椿の裸は彫刻の様に完成されたものだった。

 

 (どうしよう、私の身体の事……

 言った方がいいのかな。

 あの事で『雇えない』と言われてしまったらとても困る。

 でも私からは言い出し難い)

 

 彼女自身は解っていたが、コレが彼女の『全て』では無い。

 本当の事を言えず悩んでいた椿であったが、雲雀の声で我に返った。

 

「まずはその状態で手を身体の両側にくっつけてゆっくり回っておくれ。

 右でも左でも構わないよ。

 アンタの裸を立体的に眺めるのが目的だからね」

 雲雀を含めた大勢の女性達に自分の裸を見られている。

 顔から火が出そうな程の羞恥が彼女を襲ったが、椿は何とか耐えその指示に従った。

 

「……アンタ達から見て、彼女の身体はどう見える?」

 煙管を口に咥え、4人の女性を一瞥しながら意見を聞こうとする雲雀。

「私達と遜色無い、とても美しい身体だと思います」

「男性なら、間違いなく彼女の顔や身体を気に入るでしょう」

 

 嘘は許さない。

 そんな無言の張り詰めた空気が流れる中彼女達は次々と本音を口にする。

 ライバル候補を蹴落とす為に本音と違う事を喋る事は決して許されなかった。

 

「アタシもそう思うよ。

 彼女には間違いなくスターの素質がある。

 次は『中身』だね。

 椿、両手で膣を広げて私達に見える様な恰好をしな」

 

 風俗嬢を1つの『商品』として見るのならば、傷や不具合があってはならない。

 さらに恥ずかしい恰好を強要され椿は戸惑ったが、勇気を振り絞り全てを彼女達の前に晒した。

「ほう……

 薄桃色の綺麗な襞だね。

 新品かい?」

 

「はい、未経験です」

 椿はセックスの経験こそあったが、『膣に肉棒を入れられた事』は一度も無い。

 

「初物は客も食いつくからね。

 悪い点じゃないよ。

 クリトリスは普通の女より少し大きめ……

 気になる程でも無いか」

 

 そう言いながら、感触を確かめる様にクリトリスを指で弄る雲雀。

 ぐりッと指がクリトリスを擦った瞬間、椿は『耐えられない』であろう事を悟った。

 (ああ、もう駄目……)

 思わず目を閉じる椿。

 クリトリスが瞬く間に膨張し、男根の様な形状へと変化する。

 

「ふたなり……!!」

 下着姿の女性達が一斉に驚き息を呑んだ。

 それとは対照的に雲雀は顔色を全く変える事無く肉棒をギュッと握り締める。

 

「成程成程……

 このオマケは正直予想していなかったけど、ウチにとっては掘り出し物だよ。

 ウチの店には何人か両性具有の嬢がいるが、彼女達は全員店の稼ぎ頭だからねぇ」

 椿は思わず顔を上げ、驚きの表情で雲雀のいる方向を見た。

 

「フフッ……

 ふたなりだとバレたら働けないとでも思っていたのかい?

 寧ろ逆さ。

 こういう大規模な風俗店ではふたなりの嬢の方が稼げる。

 何せ『赤薔薇』『白薔薇』『黒薔薇大劇場』の全てに所属して活躍する事が出来るんだ。

 アンタは生まれた時から金を稼げる身体を手にしていたんだよ」

 

 思ってもいなかった言葉を投げかけられ、涙が彼女の頬を伝っていく。

 自分でも『呪われた身体』としか思っていなかった身体に新しい価値を与えられた様な気持ちだった。

 

 そして翌日から、彼女は『黒薔薇館』で働く風俗嬢となった。

 本名で働く事は出来ない為『ゆき』と言う源氏名を用い、客からの人気と信頼を勝ち取っていく。

 基本的には『赤薔薇』でふたなりである事を明かし男性客の相手をする事が多かったが、『白薔薇』の方に行く事もたまにあった。

 

 男性とセックスする事に抵抗感があるがレズへの興味はあまり無いと言う女性客の欲望を満たす為である。

 上級層においてもそういった若い女性はある程度存在しており、そういった客は椿の様なふたなりの嬢でしか対応する事が出来ない。

 スタッフルームで燻る事無く確実に客を得る事が出来ると言うのは大きな利点だった。

 

「ゆきちゃん。

 また君に会えて嬉しいよ」

 床に三つ指を置き、床に頭を擦り付ける様な形で御辞儀を行う椿。

 セックス用の個室に姿を現したのは、熾烈な処女オークションを制して彼女の『初めて』を手に入れた常連客の男性だった。

 

「まだまだ未熟者ですが、本日も喜んでもらえる様全力を尽くしますので宜しくお願い致します」

「やだなぁ。

 そんなにかしこまらなくたっていいんだよ。

 もっと気楽にいこうよ気楽に」

 

 不動産会社の社長だと椿に名乗ったこの男性は性格面においても間違いなく『上客』だ。

 黒薔薇館では『暴力行為や嬢の商売道具に傷を付ける様な行為を全面的に禁止』しているものの、それ以外の行為はほぼ黙認されている。

 グレーゾーンに近い乱暴なセックスや言葉責め等は許容されていた為、神経や肉体が磨り減る場合の方が圧倒的に多かった。

 

「ゆきちゃんの身体には『希少価値』がある。

 そう思っているのは私だけじゃ無いと思うよ」

 プレイが終わった後、ベッドに寝そべったまま椿に向かって話しかける男性。

 椿は全裸のまま浴槽に向かい、浴槽に湯を溜めたりマットやローションの準備をしたりしていたがその言葉を聞いてベッドの方へと視線を移す。

 

「知っていると思うけど、天武日本には1億人の国民がいる。

 両性具有者は5000人程度しかいない。

 勿論、しっかり調べたワケでも無いだろうから数字は多少違うかもしれないよ。

 でも間違いなく君は『珍しい人間』なんだ。

 そして美しい顔と身体を手にしている。

 神に選ばれた。

 そう考えるのが自然なんじゃないかなぁ」

 

 プレイの時は元気であったが彼の肉体には衰えが感じられる。

 年齢は50を越えているだろう。

 

 椿は自分の『正体』を知られた状態で自身を肯定される様な発言をされたのは初めての事だった。

「私自身がこんな事を言うのも変かもしれませんが、怖かったり気持ち悪かったりしないんですか?」

 

「……随分苦労してきたみたいだね。

 そういう扱いを受けてきた過去があると言う事かな。

 結論から言えばそれは『NO』だ。

 普通の女性より美しいんじゃないかと思う時すらある」

 ベッドから身体を起こし、ベッドの端に座った状態で彼女を優しく見つめる男性。

 

 彼の態度を見ていると、椿には相手が嘘をついているとは思えなかった。

「まさか」

 

「私は本気だよ?

 そもそも古代の美と言うのは天使の様な『完璧な存在』を追求していくものだった。

 男性の持つ荒々しい性欲と、女性の持つ洗練された肉体美が1つになる事によって究極の美が完成する。

 両性具有者は神と同一視され、そういった女性を崇める国家すら存在していたんだ」

 

 神の代理人として扱われるか、あるいは神への供物として捧げられるか。

 違いはあれど神聖なものとして扱われていたのだと男性は熱弁した。

「君はもっと自分に自信を持つべきだ。

 ココで働いている君なら解るんじゃないか。

 その身体は君にお金を与える大きな『武器』になりうると言う事をね」

 

 風俗店で働くまで、椿は両性具有者の自分が金を稼いでいる姿が想像出来なかった。

 だが蓋を開けてみればひっきりなしに予約が殺到し人気風俗嬢としての地位を瞬く間に確立している。

 その現実すら、暗い過去を背負ってきた椿には夢だとしか思えなかった。

 

「武器、ですか……

 私も今はとにかくお金が欲しいですからね。

 利用出来るなら何でも利用して、私の夢を掴まないと」

 椿は浴槽の湯が溜まった事を確認すると、男性を椅子に座らせ身体を洗い始めた。

 

 黒薔薇館は3つのエリアの他にも様々な施設を備えている。

 館内の飲食スペース、宿泊施設、大浴場、ダーツやビリヤードが楽しめる娯楽部屋等。

 椿はこの店で働いている一部の従業員や嬢と同じ様に、自宅には帰らず黒薔薇館で生活していた。

 寝泊りを職場で済ます事が出来れば、睡眠時間以外の時間を嬢としての練習や仕事に充てる事が出来る。

 高校卒業と同時に家を飛び出し、格安アパートで暮らしていた椿であったが金を払って僅かな家財を黒薔薇館に持ち込むと賃貸契約を終了した。

 

「ウチでは駆け込んでくるワケ有りの嬢も多いから住まわせてやっているが、アンタは純粋に儲けたいが為に居場所をココと定めたのかい。

 しっかり仕事をこなしてもらえればアタシの懐も潤うし、有難い事だよ」

「私、この身体の事がバレてから両親とは上手くいって無いですし空いた時間を少しでもお金稼ぎに回したいので……

 ココに来た時はどうなるのかなとも思ったんですけど、今は私の天職だったのかもしれないと思っています」

 偽りの無い本音をぶつけてきた椿に対して、雲雀も自身の率直な思いを口にする。

 

「テクニックとモノの強度さえ高めれば、アンタは間違いなくこの店のナンバーワンになれるよ。

 今度の日曜日に黒薔薇大劇場での仕事を紹介しようと思っていた所さ。

 鍛え方や踊り方に関してはウチの嬢を付けるから、一生懸命頑張りな」

 雲雀にしてみれば、彼女は突然目の前に姿を現した『金の卵を産む鶏』。

 成長させる手間をかけてでも彼女を一流に育て上げなければならないと思っていた。

 

「はい!」

 椿も最初のセックスでは客に迷惑をかける等失態を晒してしまったが、直せる所は直し確実に腕を上げている。

 大劇場でのストリップは、今後彼女に客がつくか否かと言う分岐点ともなっていた。

 

【西暦2000年 6月11日 午後8時50分 東京都千代田区 黒薔薇館 黒薔薇大劇場】

 

 黒薔薇大劇場は1階席・2階席の合計500席によって構成されている。

 催される演芸は基本的にポールダンスを含めたストリップや本番観覧、淫靡な大道芸で、男性客だけでなく女性客の姿も多い。

 特にストリップに関しては大いに相手を欲情させかつ感動させると言う高い技術力が求められる為、演芸の花形となっていた。

 

「今まで貴方がしてきた練習と、私が教えてきた言葉を思い出して。

 貴方からは天性の才能を感じるわ。

 初めての『主演』だから緊張すると思うけど、頑張ってね」

「大丈夫です。

 私がこれまでカナデさんに教えられてきた事を舞台の上で表現したいと思っています」

 

 バスローブ姿の先輩風俗嬢、カナデは椿よりも5歳年上のベテランストリッパーだった。

 風俗嬢としてトップ5から陥落した事は在籍してから一度も無く、ストリップにおいても必ず劇場が満席になる程の実力を持っている。

 そんな彼女が惚れ込みわざわざ時間を割いて指導を行う程椿の裸体も完成されていた。

 

 (絹の様な肌、艶やかな黒髪、華奢でありながらも肉感的な身体。

 そして雄々しく反り立つ肉棒。

 美しさにおいては負けない自信があるけれど、『いやらしさ』に関しては正直私も負けを認めざるを得なかった。

 姐さんから彼女の面倒を見る様頼まれた時、彼女の裸を見て即座に指導する事を決めたあの日の事が忘れられないわ)

 

 風俗嬢としての『品格』を手に入れる為の訓練。

 白薔薇において『女性を悦ばせる為の竿役』を完璧にこなせる様にする為の肉棒の鍛錬。

 そして、舞台の中央に設置されているポールを使った踊りの訓練。

 ただ踊るだけでは無く、客が望むものを与える為にはその一挙手一投足全てにおいて気を遣わなければならない。

 

「私にも仕事が入っているからそろそろ行かなくちゃ……

 貴方の演技を実際に見る事が出来ないのは残念だわ。

 最後に私からアドバイスを1つ。

 何かに押し潰されたり負けそうになったりしたら、舞台の上で成功する自分の姿を想像しなさい。

 それでも危ないと思ったら、目の前に真っ白な壁を作るの。

 言っている意味が解るわよね?」

 

 カナデは彼女に踊りの指導を行っている際に、彼女の中に潜む『闇』に気付いた。

 両性具有の肉体を大勢の人間の前で晒す事に対する恐れと怯え。

 彼女が過去に体験したトラウマが今も彼女の心に根を張ってしまっている。

 それを払拭しなければ、大劇場のスターとして喝采を浴びる事は出来ない。

 

「解ってます。

 私の夢を実現させる為には避けては通れない道ですから……

 傷を負わされていたとしても関係ありません。

 私は私に与えられた仕事を遂行しないと」

 

「そうよ、開き直りなさい。

 貴方がこれからする事は、『表現』。

 貴方が貴方である事を証明する為のもの。

 自分を卑下する必要なんて無いわ。

 貴方には人を釘付けにするパワーがあるんだから」

 

 500人もの観客の前で晒し者になると言う恐怖を跳ね除けなければ、自分が望む結果を得る事は出来ない。

 天武日本に住みながら肩身の狭い思いをしているであろう『仲間』を救う為にも、逃げるワケにはいかなかった。

『当劇場にお越しくださっている御客様に御案内を申し上げます。

 間もなく黒薔薇大劇場におきまして、黒薔薇館が誇る風俗嬢『ゆき』のスペシャルショーを開始致します。

 短い時間ではございますが、最後までゆっくりと御覧くださいませ』

 

 空席が1つも無い劇場。

 見渡すと年齢層はバラバラで、若くして成功した実業家やリタイアした老婦人の姿もある。

 主に男性客への宣伝として行われる事が多いストリップショーであったが、女性客も舞台の方を食い入る様に見つめていた。

 これから大勢の人間に自分の裸体を晒し、全裸のままポールダンスと自慰行為による射精を行う。

 頭では理解している事であったが、それを今からすると言う現実が土壇場になっても椿には信じられなかった。

 

 (身体が熱い……

 全身の毛穴が開いて汗を噴霧しているんじゃないかとすら感じる。

 やらなきゃいけないのよ。

 もう後戻りは出来ない!)

 両性具有の女性達が迫害から逃れて幸せに過ごせる理想郷を作る為。

 

 もう二度と、他の女性を自分と同じ目には遭わせないと固く誓った。

 必死に彼女はそう言い聞かせながら、震える足を無理やり前に一歩踏み出そうとする。

 罵声が飛んできてもおかしくは無い。

 いやらしい目で自分を見てくる観客の視線に耐えられるのか。

 頭の中に次々と浮かんでくる不安や恐怖を無理やり抑え付け、椿はマントを羽織ると舞台の方へ向かった。

 

『お待たせ致しました。

 只今より、黒薔薇館の人気風俗嬢『ゆき』のスペシャルショーを開始致します!

 館内での写真撮影、御飲食は禁じておりますので予め御了承ください。

 彼女の魅惑の踊りが、御客様を未知の世界へと誘います。

 皆様、拍手で御出迎えください!』

 

 顔見せと己の顔を売る為の宣伝。

 他の風俗嬢も客を取ろうと必死になっている為1人あたりの出演時間は短い。

 だが椿に与えられた時間は他の出演者と比べるとかなり長く、15分間となっている。

 雲雀が彼女の実力をそれだけ買っていると言う証拠でもあったが、椿にしてみれば時間が長ければ長いだけ精神的負担も大きくなっていた。

 

 薄暗くなった劇場。

 客席と舞台を仕切っている緞帳が上がり、ショーが始まる。

 赤いマントを羽織った椿が舞台に姿を現すと、彼女だけに白いライトが当たった。

 (客席にいる人の姿は舞台からだと殆ど見えない。

 コレなら大丈夫、きっと我慢出来る)

 

 マントは彼女の身体全体を覆っており、何も履いていない素足だけが白い光に照らされている。

 彼女は観客に対して御辞儀をした後、勇気を振り絞り自らの手でマントを取り去った。

 羽根飾りが付いた白い下着。

 ブラジャーとパンツが椿の胸や股間を覆い隠している。

 

 これだけならまだ驚くべき段階では無いハズであったが、観客席からは息を呑む声、どよめきが聞こえてきた。

 女性の股間には通常存在しないハズのモノ、肉棒がガチガチに勃起した状態で客の目に晒される。

 脈動する肉棒の先端には靴下の様な白い布が被せてあり亀頭にあたる部分は隠されていたが、彼女が両性具有者である事は誰の目にも明らかだった。

『この黒薔薇館には貴方と同じ身体の女性が何人か在籍しているけれど、大劇場で踊った経験のある風俗嬢は1人もいない。

 貴方は両性具有者として初めて黒薔薇大劇場で踊る人間になるのよ、ゆき』

 

 カナデの言葉が椿の脳裏をよぎる。

 身体全体が熱くなり、その熱が全て股間に集まってきている様だった。

 

 自分の肌を人目に晒すと言う苦痛とは全く異なる意味での苦痛。

 それは精力剤である『カタクナールΩ』をショー開始30分前に飲み干し、ペニスが漲っている状態で踊らなければならないと言う事だった。

 無理やりその漲りに蓋をした状態、つまりサポーターを付けているワケでは無い為そこまでの激痛は伴わないが辛い事には変わりが無い。

 

 (私のモノが猛り狂っている。

 あの時と同じ様に……

 とにかく、今は正気を保たないと)

 性的欲求が凄まじいものへと変化していた。

 

 本能が今すぐに手でも何でも良い、精液を吐き出して楽になりたいと常に訴えてくる。

 閉じ込めていたハズの獣が檻から飛び出そうとしているが、椿はギリギリの所で踏み止まっていた。

 (御客さんに苦痛に満ちた表情は見せられない。

 何時もの仕事と同じよ。

 仮面を被るの)

 

 オペラグラスを使えば、彼女の笑顔に若干違和感がある事や肉棒が彼女の意思とは関係無く脈を打っているのが容易に見えただろう。

 それでも彼女は艶めかしく動く事を念頭に入れ、舞台の中央から飛び出してきたポールに手を触れた。

 目を半分開けた状態での、煽情的な笑顔。

 人を堕落させる小悪魔の様な笑みを浮かべながら、音楽に合わせて踊り始める椿。

 彼女を照らしているライトも白から桃色に変わり、劇場全体の雰囲気も当初とは違うものへと変化していた。

 

 (大切なのは、いやらしく振舞う事を前提にしつつ『下品な踊り』にはしない事。

 観客が私を凝視したとしても、最終的には感動を与えなければならない)

 このショーは彼女のポテンシャルを紹介する『実演販売』としての意味合いが強い。

 こういう身体をしていますよ。

 これだけの事が出来ますよと言う主張を言葉を一切使う事無く踊りで表現する。

 

 椿は膣を用いた大道芸のショーを見て感激しており、彼女に匹敵するものを残したいと思っていた。

 (ポールを使って身体を回転させながらその間にブラジャーを取る……)

 元々両手を使っても苦戦する事がある背中部分のホックを片手で、それも回っている最中に外して床に放り投げる。

 椿の実力は鍛えられた事により確かなものとなっており、客の中には拍手を行う者もいた。

 

 痛みを訴えてくる肉棒、そして己の理性との戦い。

 踊っていようが何をしていようが観客に勃起した肉棒がよく見える様にと言う配慮。

 15分間の間絶対に萎えない様にする為の措置だったが、限界は刻一刻と迫っていた。

 

 (脳味噌が性欲に浸食されそうになってる……

 まだ自分を見失う時じゃない。

 耐えないと。

 この激痛を乗り越えた先に、今日の儲けがある)

 

 今日大劇場で催されるショーは自分のストリップを含めて10回。

 チケット代は2万円と高額で、その半分の1万円が『黒薔薇館』側の取り分。

 椿の取り分は客1人あたり1500円だが、500人分である為一気に75万円が彼女の懐に入る事となる。

 もしこのショーが失敗してしまえば、雲雀は彼女を今後一切起用しないだろう。

 逆にこのショーが大成功に終われば、定期的に75万円と言う大金を手にする事が出来る。

 

 大輪の花を咲かす事が出来るか、それとも枯れて野に朽ち果てるか。

 惨めだった自分の運命を変えたいと言う椿の強い意志が、彼女の理性を辛うじて保たせていた。

 

 自然と呼吸が荒くなり息を吐く回数も増えているが、それでも時間配分を気にしながら踊りは続けられる。

 劇場にはデジタル時計が設置されているものの、客席側から見れない為椿は体内時計で15分を計らなければならなかった。

 (パンツをココで取る。

 オチンチンに被せている布は最後に取る……)

 どの様な動きを行ったかを記憶し、全体を把握する事によって15分間のショーを演出する。

 

 早くもなく、遅くも無い。

 椿は腰の部分で結ばれているパンティーの紐を解くと再び片手で自分の身体を撫でながらポールを軸にした回転を始めた。

 最初にスポットライトが当たった時はマントを羽織っていた椿の身体も、今では亀頭部分を隠している布以外全てを観客の前に晒している。

 膣から愛液を垂らしながらの舞踏となっていたが、余裕が無い事を悟られない様表情だけは変えなかった。

 

 (そろそろ、皆の前でペニス用の下着を取らなきゃいけない……

 その後は扱いて射精。

 敏感になってるからすぐに射精しちゃいそうだけど、力強さを見せなきゃ……)

 観客の目の毒にならない様、陰毛や腋毛と言った無駄な体毛は脱毛クリームによって取り除かれている。

 

 滾った砲身を全力で扱いても簡単には達しない様にする為勃起した肉棒を熱湯と氷水に交互に浸す鍛錬を行う程の徹底ぶりだった。

 全ては観客に『完成された裸体』を披露する為に。

 少々の刺激ではびくともしない強靭な身体をアピールする為に。

 自分を指名してくれる客を増やす為にも、ココで無様な姿を見せるワケにはいかなかった。

 

 椿を照らしていた桃色のライトが淡い水色へと変化する。

 それは即ち、『最後の布を取り去り自慰行為をしろ』と言う合図だった。

 (ハァ、ハァ……

 ようやくその時が来たのね。

 自分を保っていられるかしら)

 

 血流が肉棒に集中している為か、気分が悪くなり意識に靄がかかった様な状態となっている。

 全ては金を稼ぐ為。

 そう割り切った椿は亀頭を覆っていた布を取り去り勃起した肉棒の全てを露わにした。

 

 (ああもう、硬くなりすぎてペニス用下着が我慢汁で濡れてる……)

 汁に塗れた白い布を床に落とした後、彼女は腰を前に突き出すと仁王立ちの状態で両手を腰の両側に添える。

 ストリップの為の踊りが終わり、『私を見てくれ』と言わんばかりのポーズ。

 爆発しそうな程に膨れ上がった自身の欲望を観客に見られていると言う事実が彼女にはとても信じられなかった。

 

 (後は扱いて出すだけ。

 早過ぎても遅過ぎても駄目。

 尺の都合を考えた射精を行わないと……)

 舞台から見える客席は薄暗く、多少ざわついている事は解るが誰が何を言っているのかまでは解らない。

 過去にトラウマを抱えている椿にとっては、客の姿が見えない事が有難かった。

 

 右手を肉棒に添え、指で包み込んだ後荒々しい手つきで扱き上げる椿。

 正直もう片方の手で膣を刺激したかったが『黒薔薇館』側のスタッフから女性器での自慰は禁止されていた。

 (左手で口を塞ぎたい……

 喘ぎ声を出すのは御法度だと言われているけど、こんなの我慢出来ないわよ)

 

 漏れそうになる声を何とか堪え、口を真一文字に結んだまま右手を上下に動かし続ける。

『おいコイツ、マンコの方も濡れてやがるぜ。

 スケベだなぁ椿は』

『そのまま皆の前で射精しやがれ。

 男の手で擦られてイクのは屈辱的だろ?』

 

 彼女の過去のトラウマが顔を出し、心を抉る。

 あの時後ろから手で扱かれ、大勢のクラスメイトの前で射精した。

 その男の隣にいた女性……

 彼女のニヤニヤ笑いはずっと椿の記憶に残り続けている。

 

 (負けない……!

 こんな所であの女に負けたら、夢を諦めた事と同じになってしまう。

 彼女に屈して涙を流す位なら、大勢の客の前で射精する方がまだマシだわ)

 口の端から零れる涎と、目に浮かんだ涙。

 この一瞬だけは演技を続ける事が出来なかった。

 

 1人の女性として、身体だけでは無く心まで曝け出して一心不乱に肉棒を刺激し続ける。

 (あッあうッ、イク、オチンチンイクッ、出るッ……!!)

 扱いていた時間は約2分間。

 クリトリスの数倍の感度を持つ両性具有者のペニスで2分も自慰行為を続ける事自体が難しい。

 ずっと抑え込んでいた扉を解放した瞬間、とんでもない量の精液が肉棒の先端から噴き出した。

 

 (でッ、出てるッ……

 シコシコするの止められないぃ。

 どんどん出てるぅぅぅ)

 水鉄砲の様に透明な粘液が吐き出され、床にぶちまけられていく。

 ビクビクと肉棒が痙攣するタイミングと同じ時に精液が飛び出し、それが数回続いた。

 

 (はッ、ああああ……

 酷い。

 全然収まらない。

 さっきより硬くなってる気がする)

 一旦精液は止まったが、精力剤の効能により硬くなった肉棒は全く萎える様子を見せない。

 

 激しく脈動して暴れる陰茎の主張を無視し、椿は客に向かって頭を下げた。

 射精した直後の肉体は彼女自身でも制御する事が難しい。

 心臓が早鐘を打つ。

 過呼吸に近い程の荒い息の吐き方。

 そして精力剤による猛烈な性欲。

 

 自慰行為を続けたいと叫び続ける肉棒に背を向け、彼女は観客にとびきりの笑顔を見せた。

 その瞬間、観客の多くが立ち上がり割れんばかりの拍手を送る。

 大劇場でショーを見続け目が肥えている観客から見ても、椿の演技と精神力は称賛に値するものだった。

 

 踊りの上手さ、肉体美、そして決して声を漏らす事が無かった鋼のメンタル。

 両性具有者が本能的に飼っている『性欲の獣』を理性だけで捻じ伏せてみせたのだ。

 椿が『両性具有者初の黒薔薇大劇場ストリップショー踊り子』となったのも、ある意味当然だった。

 

 (後は、脱ぎ散らかした下着やマントを回収して舞台の上から去るだけ……)

 踊っている時よりも、客に向かって挨拶をしている時の方が精神的に厳しい。

 椿は鉄仮面を被っているかの様に本音を隠し通し、観客の視界から消えるまで一切弱音を吐かなかった。

 

 舞台を映しているモニターの電源を切った後、雲雀はソファに座っている男に向かって呼びかける。

「如何ですか?

 彼女がどういう女性に見えるか会長の御意見をお聞かせください」

 白い帽子と白いスーツに身を包んだ老人はニヤリと笑い、雲雀のいる方に指を向けた。

 

「それはお前が一番解ってる事だろう。

 コイツは掘り出し物だよ。

 しかも滅多に手に入らない掘り出し物だ。

 ふたなりでさえ無ければ俺の愛人にしてやっても良い位だな」

 

「そう見えますか、会長にも」

 雲雀が『会長』と読んだ男の両隣りには屈強な男性が2人立ち、彼を守る為常に周囲を警戒している。

 相手が着物を着た女性であっても、ボディガード達は油断する事無く雲雀の顔を睨み付けていた。

 

「おいテメエら。

 前会長の縁者にガン飛ばすんじゃねぇぞ。

 俺が毒蝮さんにどれだけお世話になったのか知らねぇのか。

 彼女が『上級国民御用達の高級風俗店を作りたい』と言った時も俺が後ろ盾になってやったんだ。

 俺は毒蝮さんの形見でもある雲雀を全力でバックアップする必要があるんだよ」

 

 老齢の男性はそう言ってボディガードを叱責した後、雲雀がいる方へと視線を戻す。

「血生会がバックに付いてくれているおかげで、私も大分経営が楽になってます。

 これからも宜しくお願いしますね」

 血生会の前会長と関わりがある雲雀は、組織の財産を使って風俗店を作る許可まで与えられていた。

 元々経営センスがあった為、今では血生会の稼ぎ頭として羽生も彼女の腕を大いに評価している。

 

「コイツを簡単には手放すなよ。

 500人の観客の前で一切恐れる事無く踊ってみせた豪胆さ。

 カタクナールΩを飲んでおきながら性欲に負けず使命を全うした強靭な精神力。

 元々の美貌もあるし間違いなく大物になる。

 少なくとも数年は働いてもらわねぇとな」

 

「大丈夫ですよ、彼女は金を必要としている。

 それも数千万単位の額です。

 かと言って巨額の借金があるワケでも無い。

 彼女は私と『同じ』ですよ。

 経営者になると言う野望の為にあらゆるものを犠牲にする。

 まるで鏡を見ているみたいで……」

 

 母親の様な感情を抱いたまま椿の事を語る雲雀の姿が、羽生には少し眩しかった。

 (アイツもそうだった。

 仮面を被りながら、最後は己を貫き通した。

 永遠にアイツが最初に会った頃のままでいてくれたら良かったのになぁ)

 

 不可能と知っていながらも、そう思わずにはいられない。

 羽生が妙齢の女性である雲雀に目をかけているのも、彼女に『妻』と同じ強かさを見出したからだった。

 

 黒薔薇館においての椿の『立場』は、ストリップショーの前と後で激変した。

 ストリップショーを行う前であっても人気があり客を得ていた椿であったが、ストリップショーの後で客の予約が殺到。

 名実共に赤薔薇と白薔薇両方の『ナンバーワン風俗嬢』となり、2ヶ月先まで予約が常に埋まっていると言う異常事態にまで発展する。

 特に何人かいた椿と同じ両性具有の風俗嬢が保持していた客まで椿の客となったのは衝撃的な出来事だった。

 人気を独占する状況になると『虐め』が始まるのは組織の御約束だが、今回の件は例外となる。

 

「私だったら絶対出来なかったわ、あんな事……

 胸を張って頂戴。

 貴方は私達ふたなりの希望よ」

「カタクナールΩを飲んで射精欲に勝つだなんて私達には無理。

 だからストリップショーも全部断ってきたんだし」

 

 先輩である両性具有の風俗嬢達が一斉に兜を脱ぎ、椿に対して憧れと尊敬の念を抱く様になったのだ。

 15分間完璧な演技を行ってみせた事で女性スタッフ、男性スタッフの両方から評価され、妬みや僻みを言う者はいなくなる。

 椿は75万円以上のもの、即ち施設内での地位と名声を勝ち取り我が世の春を謳歌していた。

 

「次の御客は白薔薇目当ての女性客だよ。

 『竿役』を御所望の様だからしっかり務めな」

「解りました」

 

 赤薔薇エリアと白薔薇エリアを往復し、貫かれたり貫いたりする日々を送る椿。

 1日にカタクナールΩを数回服用する事も珍しくなくなってきており、勃起したままある程度理性を保つ事が出来る様になっていた。

 裏を返せば睡眠薬の常用者と同じで、薬が与える効果への耐性が付いてきていると言う事でもある。

 

「頑張りなさいよ。

 稼いで『自分の店』を持つのが貴方の夢なんでしょ」

「勿論。

 休んでなんかいられませんよ」

 

 膣とペニスの酷使により身体にかかる負担も相当増していたが、それでも入る仕事を決して拒まない。

 先輩風俗嬢に見送られつつ、彼女は廊下に出た後白薔薇エリアへと向かった。

 

 白薔薇の個室は基本的には赤薔薇と同じだが、女性客が部屋を気に入ってくれる様人形が置かれたりしている。

 芳香剤や香水にも気を遣い、相手の機嫌を損ねない様にするのが重要だった。

 

「いらっしゃいませ。

 本日は『黒薔薇館』へようこそいらっしゃいました。

 貴方の御相手を務めさせて頂きます『ゆき』と申します。

 宜しくお願い致します」

 部屋に入ってきた相手に対して三つ指をついた状態で頭を下げ、客の要望を尊重すると言う立場を示す椿。

 

 それはどの客にも行っている『社交辞令』でしか無い行為であったが、聞き覚えのある声が聞こえてきた瞬間彼女は思わず顔を上げる。

「久しぶり。

 元気にしてたか?

 何だよ、幽霊でも見た様な顔して」

 服装こそあの頃とは違うが、特徴的な笑い顔は忘れたくても忘れられない。

 

「希望(のぞみ)さん……

 どうして」

 演技をかなぐり捨て、彼女に対する嫌悪感を露わにする椿。

 彼女の過去に消えない傷を付けた人物が、今彼女の目の前に立っていた。

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