※解釈違い、設定違い
※ご都合主義、ご都合展開
※膨乳表現、母乳表現といった特殊性癖
※本番行為なし
以上のご注意の上、それらが許せる方はお暇つぶしにでもどうぞ
※※※
害虫の毒には色々なものがある。
致死毒、麻痺毒、神経毒。出血毒や幻覚を見せる毒。中にはお酒のような毒を振舞って、それを飲んだ者を攻撃的言動にさせる毒を持つ害虫もいる。
毒とは少し違うけれども、害虫の体液が料理の香辛料として用いられることもあるみたい。本から得た知識だけれども、私はそんな怪しい香辛料を好き好んで使いたいとは思わないわ。
何にしても薬も過ぎれば毒となるように、毒も薄めると薬になるものもある。害虫の毒を逆に利用して薬に変えるという発想は、この世界の住人たちが逞しい証拠でもあるかも知れない。
一般人にとっては驚異的な害虫毒だけれども、世界花の加護を持つ花騎士たちは多少の耐性を持つ。加護が害虫の毒をある程度中和し、浄化する。おかげで致死毒を受けたとしても花騎士であれば生存する確率は一般人よりも大きく上がる。
それは私、花騎士のカトレアであっても変わらない。
いいえ。私の場合は寧ろ毒を完全に浄化、あるいはそこから抗体を作り出すことだって可能かも知れない。
何故ならば私は世界に愛された存在。
致死毒だって、麻痺毒だって、神経毒や出血毒だって、私の前では無に等しい。……そう、思っていた。
あの日、突然変異と言われた害虫から特殊な毒をこの身に打ち込まれるまでは。
事の全ては私が世界に愛された存在であり、他の人よりも魔力の質や量が優れているせいであり……。
団長に対して、素直になれなかったせいでもあった。
※
※※
※※※
春も終わりを告げ、ウィンターローズでも寒さが多少和らいできた昼下がり。屋敷の玄関から呼び鈴の音が応接間の呼び鈴の音と共鳴した。魔法で作られた二つの呼び鈴は、片方が鳴ればもう片方が鳴る仕組みであり、その音は二回鳴った後に再び静かになる。
「……面倒ね」
来客。それも、花騎士であり、私の育ての母親と言っても過言ではないデンドロビウムが手の離せない場所にいる時に。
しかも私は、ちょうどその時に気まぐれを起こして呼び鈴の音が聞こえる応接間で本を読んでいた。ソファーに座ったまま玄関へと一瞥した私は、思ったことをそのまま口にした後で再び本へと視線を落とす。
すると、そんな私の言動に呼応するかのように再び呼び鈴が共鳴した。最初と同じように二回。音の響き方からは慌てている様子もなく、痺れを切らした様子もない。ただ、その屋敷の主が応対してくれるのを待つようなその丁寧な鳴らし方に、私は少し興味を惹かれた。
「一体、誰かしら?」
礼節さを弁えている迷い人であっても、もう少し荒い鳴り方がする。緊急を告げる人であれば、ここまで余裕を持った鳴らし方はしない。
読みかけの本にしおりを挟んでから、ソファーの前にある応接テーブルの上に置く。それから軽く伸びをして、わざとゆっくりとした動作で立ち上がる。そして、愛用の杖を片手に玄関へと足を運んだ。
玄関先の相手に失礼かも知れないけれど、この屋敷の主は他でもない私、カトレア。その主直々に応対してあげるのだから、相手は寧ろ私に感謝するべきだわ。
「はいはい」
ちょうど玄関の扉前まで来たところで、三回目の呼び鈴の音が鳴る。私はその音を聞きながら、少しとはいえ興味を惹かれた私自身の行動に小さくため息を吐く。
確かに相手が痺れを切らせるように行動を遅らせたけれども、この扉の先にいる人なら待ってくれる。そんな些細ではあるけれどもこちらの期待に反した結果を前に、私は自分勝手とは思いつつも扉の先の人物への興味が失われた。
それでも一度行動に移した以上、中途半端なところで止めるのも好きではない。
「今、“開けた”わよ」
杖先を玄関の内鍵へと向けて、魔力をそこに集めて放出する。
イメージは、細く、長く、伸ばす。それから、触れる、摘まむ、捻る。
以前の私であれば、それこそ玄関先にいる人物ごと玄関の扉を吹き飛ばしてしまっただろう。けれども団長と出会うことで、今はこうして繊細な魔力操作も可能になっていた。
横に倒れていた内鍵は、私が放った魔力が到達すると同時に小さく金属音を出しながら縦に起きる。異常も問題もない。我ながら完璧な魔力操作だわ。
「……」
内鍵が開いた音を扉越しに聞いたのか、恐る恐るという感じでドアノブが音を立てて回る。それからゆっくりと両開きの扉の内鍵側の扉が開く。
その様子を見ながら、改めて私は彼に、団長に感謝すべきだと思った。
彼が私と出会い、私を屋敷から連れ出し、私に広い世界を見せてくれた。
屋敷の中にいても、不自由なことは何一つない生活。そんな私に不自由な、それでいて屋敷にいた頃には想像も出来なかった素晴らしい光景をいくつも見せてくれた。
微細な魔力操作に関しても、団長と出会わなければやろうとすら思いつかなかった
だからこそ、私は彼にお礼を言った方がいい。それは分かっている。
けれども団長を前にすると、私はどうしても素直になれない。何故か突っかかってしまう。
それから少し間をおいて、両開きの扉の片側のドアノブが動き、外側へと開いていく。同時に外の冷たい空気が室内へと入り込み、少し眉根が寄るのを感じた。
「……あら、あなただったのね」
扉が開き切り、冷たい外気が頬を撫でる。その思わぬ寒さに眉根が寄るのを感じたのも束の間で、私の意識はすぐに正面に立つ男へと移る。間の抜けたような笑顔で私に挨拶するその男こそ、私が素直になれない騎士団の団長だったから。
「ちょっとぉ」
意外な訪問者を前に私は次の言葉を濁しつつ、左手で前髪を軽く撫でる。同時に微弱な魔力を走らせ、全身のセルフチェックを行う。
髪は乱れていない。服装も問題なし。顔も血色が良いし、露出している肌も健康のそれ。化粧は……そもそも家にいるのだからするはずもない。けれども世界に愛された私だもの、団長の前に立っても恥ずかしくない。自信を持って胸を張れる。
覚悟しなさい、団長。普段の私であっても、見惚れさせてあげるのだから。
「……ふん」
そんなふうにこちらが色々と気にしているというのに、彼は私に見惚れることなく屋敷への入室を願い出る。その気にしていないような言動に眉根が寄るのを感じるも、すぐに気づく。
普段の間の抜けたような言動はそこにはなく、彼の丁寧な物腰からして普段の様子とは違うことが理解できたからだ。
それはそれとして、凛々しくも少し剣呑な面持ちの団長を前に内心ときめく。
「来るなら来ると、事前に連絡が欲しいわね」
けれども、私は彼に背を向けて暗に入室を許可しつつ、皮肉めいたことを言ってしまうのだった。
※※※
「ふぅ~ん」
突然の、それも真剣な顔つきでの来訪であることから、彼が屋敷へと来た理由は察しがついていた。
それでも、開口一番に私に会いに来た、などと言われれば期待しない方がおかしな話だとは思う。
だからこそ。だからこそ、なのよ。
「へぇ~。そう」
私が今、どうしようもなく不機嫌な気持ちになっているのは、他でもない私自身が止められなかった。
団長の来訪理由は至極単純。私の魔力、力を貸して欲しいというものだった。
こちらの心底興味がありません、という反応に対して、彼は肩をすくめながら軽く微笑んで見せる。すぐにでも協力して欲しいと思っているだろうに、次の言葉を飲み込むように手にした紅茶入りのカップを口にする。
それから、ゆっくりと息を吐いた後に紅茶の味についての感想を述べる。私の顔を見て、破顔して、美味しいと一言。
当然よ。何せデンドロビウムがいないのだから、私が直々に淹れてあげたのだもの。美味しくない、なんて口にしたらそのまま屋敷の外に吹き飛ばしていたところよ。
それに、私に対して協力を強制したり、返事を急かすような真似をしなかったりしたのも正解。仮にそんなことをされたら、次の瞬間には彼は屋敷から出ていくことになるだろうから。
「そう。口に合ったようで何よりだわ」
互いに応接間のソファーへと腰を掛け、机越しとはいえ対面同士。これが単なるお茶会であるのならば、もう少し私の態度も軟化したと思う。
けれども団長の目的が私ではなく、私の力と言われたのならばやっぱり面白くない。
しかし、それはそれとして私が淹れた紅茶の感想分ぐらいなら、話は聞いてあげようかしら。
我ながら甘すぎると思うけれども。
「協力するとは言わないけれど、話すだけ話して見なさいよ」
聞く姿勢を取ったとはいえ、私の少し辛辣と思える態度を見ても尚、彼は真剣な表情を崩さない。それが格好良いと思いつつ、誤魔化すために咳払いをしてから返事をする。それを聞いた彼はどこか安堵するように胸をなでおろした後、手にしているカップを机の上に置いて口を開いた。
※※※
「ふぅん。異常な繁殖速度、ねぇ?」
団長の話によると、ベルガモットバレーの荒野にてハチ型害虫が大量発生しているとのこと。何でもその害虫が異常なのは繁殖速度であり、また行動なのだという。
害虫としての基本的な行動は他よりも鳴りを潜めてはいるものの、とにかく数を増やしているのが既存の害虫とは異なっている。それも害虫としての繁殖が時期を問わず行われ、ハチ型にも関わらず蛹を介して成虫となるタイプではなく初めから成虫として生まれるという。
団長は説明する際に、「まるで畑の野菜を荒らすアブラムシのようだ」とか何とか言っていたけれども、所詮は害虫ということで私は大して話を真剣に聞いていなかった。そもそも、団長の話だからわざわざ聞いてあげているだけであり、仮にこの話を持ってきたのが他の奴だったらまずこの時点でお帰り願っている。というか、会うことすらしない。
私があまりにも面白くなさそうに聞いていたのか、団長が申し訳なさそうな顔をしながら一旦話を中断しようとした。
「……何よ、ちゃんと話は聞いているわ。続けなさい」
話の内容は確かに面白くない。けれども、団長の話を聞きたくない訳ではない。私が続きを話すように伝えると、彼も頷きながら再度口を開く。
何でも、繁殖方法も従来のハチ型とは異なるということで異常だというのに、何よりも奴らは自分たちの毒を繁殖相手や生まれてきた害虫に打ち込むのだという。
相手の害虫からその毒を打ち込まれた害虫は、発情期に入る。これは生殖活動を強制的に行うためであるという報告があったとのこと。
それとは別に、親から毒を打ち込まれた子害虫は、短期間で生殖可能状態まで成熟する。
そして、異常成長した害虫は体内で同じ毒を精製し、生殖活動のために、繁殖相手へと毒を打ち込む。これを延々と繰り返した結果が、今回の異常発生の原因だという。
害虫と言うだけでも良い顔は出来ない。その上、破壊と蹂躙しか能が無さそうなのに、生意気にも増えるなんてますます面白くない。
というか、話を聞くだけでも増えるところを想像してしまい気持ちが悪い。
「なるほどね」
そして、厄介なのはその害虫は人を襲う際にも同じようにこの毒を打ち込むのだという。但し、その毒が人に対してどのような効果があるのかは未だに不明なのだとか。毒を採取しようにも数が多すぎるので下手に手出しが出来ない。
それでも害虫の毒の同族に対しての効果や生態に関してある程度分かっているのは、害虫発見や最初の討伐に赴いた花騎士たちの被害と報告によるものだという。
どうやら害虫は外敵に対しても自らの毒を積極的に用いるようで、対応に当たった花騎士の中にも数名がその毒を受けた。
「ふぅん。害虫の毒ねぇ」
けれども、遅効性なのか量の問題なのか。もしくは世界花の加護を持つ花騎士に対しては効果が薄いのか。毒の詳細についてはいまだ不明。
一応報告によると、今のところは何人かが発熱による体調不良を訴え、もう何人かは身体が火照る程度の被害だという。毒を検出しようにも打ち込まれてからは短時間で体内へと浸透するらしく、不可能だったそう。
同族に打ち込むような、強制的に発情及び生殖活動を行わせるような毒なのか。もしくは人に対しては別の毒を打ち込むのか、それすらも分からない。
害虫としての行動が繁殖行動を第一にしているため、現在は積極的に獲物を狙わないのだろうとは団長の見解だった。繁殖に必要な栄養に関しても、周辺の植物から得ているらしいとの報告もあったという。
けれどもそれは、あくまでも今現在の話。
今はまだ毒の効果が表れないだけで、遅効性や感染性のある毒の可能性も大いにある。最悪なのは遅効性且つ致死性だった場合。そうなると毒がすぐに体内へと浸透することも相まって、現状解毒方法が分からない脅威のものとなってしまう。
それに害虫たちの繁殖行動が終わった後、数を増やす必要が無くなった後のことを考えると、到底見過ごせるものではないと彼は言う。
「……なに? 聞いているわよ、続けなさい」
しかし、害虫の数と先行した花騎士たちの損害や意見とを照らし合わせると、数で押しても数で返される。策を用いても、害虫自体が現在繁殖活動を主としているためか成功しない可能性が高いとは彼の判断。
毒の分析や花騎士たちの解毒が済んでいない以上、事は急を要する。
そのため、少数精鋭による一点集中の力がいると団長は考え、問題発生からすぐにその力を有する私のところにきたと言う。
それが、害虫の異常発生からの偵察、交戦。現場からの撤退、事後処理を終えてから三日経った今。急いできたために、現在毒を受けた花騎士がどうなっているのか分からないそう。
「で。私の力が必要、と?」
あくまでも、興味はないという体を装って尋ねると、団長はゆっくりと頷いた。
無駄に言葉を重ねる訳でもなく、こびへつらう訳でもない。私をおだてることもなく、ただお願いをするだけ。私の力を借りたいという気持ちだけをその眼差しに乗せて、まっすぐとこちらを見つめる。
本当は内心焦っているだろう。本当はすぐにでも私の力を借りて事を済ませたいのだろう。全ては団長自身のためではなく、被害を受けた花騎士のために。
けれども、彼はそれを堪える。落ち着いて私にお願いをする。顔は少し強張っているけれども、それが一番私の力を借りる方法であり、私のためでもあると知っているから。
……本当に気に入らない。
彼のそういうところが、ではなく、そんな団長の姿に見惚れている私自身が。
確かにおだてられるのも、無駄に褒められるのも嫌いではない。もちろん、嫌いではないだけであって、それを伝えてくる相手によっては当然聞く耳すら持たないわ。
けれども、団長は違う。
褒められるのも、何か下心があっておだてられるのも、彼ならば嬉しく思う。
「っ……はぁ~、分かったわよ。力を貸してあげるわ」
そしてそんな団長が深々と頭を下げてお願いをする姿を見せられては、断ることなんてできなかった。
けれどもまあ、今回は何だか乗り気ではなかったから、逆にこれでいいと思う。
私の強さを改めて証明、彼に認識させてから、存分に褒められるのも悪くはない。
「その代わり! 今度私の用事に付き合って貰うわよ!」
※
※※
※※※
「団長は離れていて」
私に二言は無く、団長に力を貸すと決めたら即行動に移した。
流石に着替える時間は貰ったけれども、それでも彼が驚くほどの速さで現場へと急行。団長と対面してお茶を飲んでいた時から二時間も経過していないと思う。
「もう手加減出来ないわよ!」
場所はウィンターローズ側にあるベルガモットバレーの荒野。岩肌や砂ぼこり舞う地面が雪化粧をされず無骨なまでに晒されている様子は、木々の少なさも相まって酷く寂しく見える。
遠目から見ても分かるぐらいに黒々と増えている害虫の群れを確認した私は、団長を後方へと下がらせてから目を閉じて集中する。
私の全身から溢れる世界花の加護、魔力を解放。膨れ上がったそれらを杖の先へと集束させる。
その右手にした杖を高く上げると、杖先の花の蕾が開き、熱を帯びた。
私自身の魔力であり、自分は影響が無いにも関わらず、熱いと思える巨大な火球が頭上高くに現れる。
目標は少し離れた場所にある害虫の群れと害虫の巣。私の発する魔力に警戒している様子は見せるものの、事前の情報通り離れていれば危害は加えてこない。
そして目の前にこうして脅威が迫っているというのに、それでもテリトリーの中で繁殖活動を続けようとする行動が、奴らの最大の敗因になる。
「派手に散りなさい!」
私は杖を前方へと振り下ろす。その動きに連動するように、その巨大な火球が害虫の群れと巣へと斜めに落ちていく。ゆっくりと、そして徐々に落下速度が上がっていく。
自分たちを滅ぼそうとするものが放たれた、とようやく気付いたと思われる数匹の害虫が私に向かって来ようとするが、もう遅い。
放たれてから数秒も立たないうちに、目標である巣へと着弾。灼熱の示す赤い閃光。それから少し遅れて轟音が響き、魔力を含んだ土埃が舞う。害虫の群れは断末魔を上げることなく焼き尽くされる。
手ごたえはあった。害虫は間違いなく全滅した。
「……っん!」
放った巨大な火球はいわば魔力の塊であり、爆弾。
爆弾自体は本でしか知らないけれども、実際には今のような爆発と轟音、爆風を巻き起こすのだろう。
場所が場所なだけに、熱を伴い視界全体を覆うように襲い来る砂塵。それを前に私は咄嗟に杖を持っていない方の手で顔を防ぐ。私の魔力が含まれているせいか、そこまで不快ではないけれども何も見えないし聞こえない。咳が出そうなぐらいの埃と私の魔力以外は感じられない。
その状況が、仇となった。
「……ぐぅっ!? ~っっっ!?」
胸部二か所と下腹部に強烈な痛み。
予想すらしていなかった痛みを前に思わず杖を落としてしまうほどのものだったけれど、辛うじて膝を折ることは無かった。
「つぅ~っ! ひぅっ!?」
そして、反射的に腕を払いようやく開けた視界の元に視線を痛みの走る場所へと向けることで、事の重大さに気付く。
痛みに耐えて膝を折らなかったのではなく、折れなかった。
何故ならば三匹のハチ型害虫が私の両胸と下腹部に張り付いて、こちらの身体を羽ばたきによって支えていたのだ。しかも、痛みの鋭さから察するに針をそれぞれの場所に刺している。針の太さは分からない。分かりたくもないけれども、痛みの感じからすると私の人差し指ぐらいはあるように思える。
「……いっ、きっ」
害虫自体の大きさは、小さいと言われるハエ型害虫よりも更に小さい。けれども見た目は完全に成体化したハチ型害虫のそれであり、私の片胸を余裕で覆うほどの大きさだった。
この大きさであれば、近づいてくる羽音は聞こえてくるはず。それが聞こえなかったのも、こいつらを視認できなかったのも、全ては私自身に原因があると瞬時に気付く。
けれどもそれはそれとして、そんな害虫が三匹も身体に張り付いていたのだから、私は痛みも忘れて嫌悪感のまま腕を振るった。
「きゃーっ!」
世界に愛され、常人では触れるどころか近くにいるだけでも気分を害する程の魔力を持つ私。
そんな私のがむしゃらな行動とはいえ、振るった腕には無意識に魔力が込められていたらしい。下手をすると先程集めた魔力以上のものが込められていたのか、私の両胸に張り付いたハチ型害虫の上半身は形を保つことなく消し飛んでいく。
「ひぐっ!? ~っ!?」
けれども下半身のみとなった二匹の害虫は、最期の足掻きとでも、反射的とでもいうかのように刺した針の先端から液体を私の両胸に注入した。瞬時に胸全体を熱と痛みが走り、事前の情報と合わせてその液体の正体が毒であると察するには時間を要さなかった。
針の太さと毒液の量も相まって、嫌でも胸の中に液体が注ぎ込まれる感覚が分かり、私は嫌悪感で忘れかけていた痛みを再び思い出す。液体であるためか、何だか胸が重く、大きくなったかのような錯覚すら感じる。
しかしすぐに、その焼けるような痛みと胸全体が注ぎ込まれる液体以外の感覚が無くなっていくような薄ら寒さが私を襲う。
その激痛と熱を前に、私は今度こそ両膝を折って倒れかけた。
「ぎっ!? ぁ……ぐぅっ!?」
だが、それは同時に下腹部へと走った同等の焼けるような痛みと注ぎ込まれる液体の感覚を前に阻まれた。上半身をお辞儀するように傾け、お尻を突き出す形で腰が浮く。反射的にそうしたのは痛みから逃げるためだと思う。
この感覚は胸に注がれたのと同じ痛み。それも毒だと気付くのと同時に苦悶の声が漏れる。
痛みに耐えながら視線を落とせば、残る一匹の害虫がまるで私の顔色を窺うかのように見上げており、目が合ってしまう。そして、私が気付くと同時に害虫はまるで挑発するかのように口を開閉させて音を鳴らして見せると、腰を押し付けるように動かし針を奥深くへと突き刺して更なる毒液を注入してきた。
「がっ!? ひぐぅ~っ!?」
追加される痛みと熱さに膝が笑う。更にはその害虫の動きに連動するように下半身だけとなった害虫たちも毒を吐き出すように胸の中へと注ぎ込んでくる。
そののけ反る程の痛みを前に、流石の私も一瞬だけ意識が飛びかける。このまま仰向けに倒れて気絶したらこの痛みや熱さ、苦しみから解放されるだろうか、という考えすら脳裏によぎった。
「……っ、こ、のぉっ!」
だが、害虫の悪あがきもそこまでだった。
薄れゆきそうになる意識の最中、団長が私の名前を呼ぶ声が耳に入り、意識を取り戻す。
同時に生命の危機に反応したのか、全身から魔力が溢れ、私は怒りと共にそれを体外へと放出する。
私と私に合わせて作られた服や装飾品、靴や杖以外の全てが私から放たれる魔力の前に吹き飛んでいく。
それは流石の害虫も同じであり、こちらの身体にしがみついていた足ごと粉みじんに消し飛ばされていく。予想外だったのか、それともこのまま勝てると思っていたからなのか、その断末魔にも似た鳴き声は酷く間抜けなものとなった。
「ぐっ……くっ、わた、しとしたことが」
けれども、太すぎる針と大量の毒を打ち込まれて痛みと熱に侵されている私はその害虫の断末魔を聞いて勝利の余韻に浸る余裕はなかった。毒の効果なのか、感じていたよりも針が太くなかったのか、刺されたか所から血が流れる感覚はない。
しかし、同時に毒が刺されたか所から排出される様子もないことが恐怖を煽る。
出血の心配がないからといって、安堵は全く出来ない。寧ろ早急に痛みはともかく毒を何とかしようと、残った魔力と加護を身体の内側へと向ける。意識が朦朧とするけれども、これだけはしておかないと後々面倒なことになる。
毒の効果はいまだ不明だけれども、これだけ大量に注入されたともなれば私であってもただでは済まないと思う。
これまで我慢していた膝を折り、傍から見たら無様にも両手で上体を支える格好で、私は私自身の魔力と世界花の加護を以て自身の内にある毒を無毒化しようと試みた。
異常生体の害虫毒とはいえ、私の魔力を前にすれば毒が効果を発揮する前に無力化できるはず。
「っ……何よ、心配そうな顔しちゃって」
敵となる害虫はもういない。だから時間を掛ければ毒なんてすぐにでも無力化できる。
そう思っていた矢先に、再び私の名前を呼ぶ声が耳に入る。
忘れていた、と思うと同時に、弱み何て見せられないとも思った。私は悪態をつきながら声がする方、団長へと顔を向けた。
やや霞む視線の先には、本気で私のことを心配している素振りをしている団長が苦痛に顔を歪ませている。
私に触れたいけれども触れられない。傍にいたいけれども、それが出来ないという苦悶に満ちた彼の顔は、それだけで何が起こっているのか理解するのに十分過ぎた。
今の私は、痛みで心身のコントロールが上手く出来ていない。つまるところ、魔力操作がいつも以上に不安定な状況。そうでなくとも、普段の私は耐性の無い者は触れるだけでその魔力に酔ってしまうほどの魔力の量。
それが二度、三度の全力放出によって周囲に魔力が色濃く滲み出ている状態。
団長は私の魔力に対して耐性がかなりある方だけれども、そんな彼ですら近づくことすら苦痛に思える程の魔力が私自身から放出されっぱなしなのだろう。
苦悶の表情を浮かべ、今にも倒れそうな頼りなさだというのに。団長はそれでも何とか私の傍に来ようとする。こちらへと手を伸ばそうとする。
「バカ、ね……」
団長の前で無様な姿は見せられない。そして、私の前で団長を傷つけるのは許されない。
例えそれが、世界から愛された私自身の力であっても。いいえ、私自身の力だからこそ。
「あなたが……心配しなくても、この程度、何とも、無いわ……っ!」
だから私は虚勢であっても、姿勢を正す必要がある。受けた毒へと回さなければならない魔力を、放出されてしまう魔力を抑えるために使う必要がある。
上体を起こし、胸を張る。それからいつものように、彼の方を向いて不敵に笑って見せる。
それが私、花騎士のカトレアなのだから。
「すぅ……、ふっ!」
一度深呼吸をし、周囲に溢れる魔力を自身へと引き寄せる。頭の中は風邪を引いた時に感じた頭痛が走り、膝は寒さに震える小動物のように笑う。
それでも意識を魔力コントロールへと集中させ、痛みを無視し、放出されている魔力を全て体内へと納める。
魔力が胸と下腹部に集中したような気もしたけれど、それも一瞬のことであり、不思議と痛みも引いていく。無理やり魔力操作をしたために頭痛はまだ続いていたけれども、魔力や加護を内に集めたことが結果として解毒に繋がったのかも知れない。
「……ふぅー」
肌で周囲の魔力が薄くなったことを確認した後に、ゆっくり息を吐く。再び魔力が発露しないように抑える意識は続けなければならないけれども、取り敢えずはこれで何とかなったと思う。
目を開けて、視線を先程まで団長がいたところへ向けると、そこには手を伸ばしたまま呆気にとられる彼の姿があった。
それが本当に間の抜けた顔であり、私は思わず吹き出してしまう。
「ぷっ。何よ、その間抜け面は」
先ほどまでの自分の必死さを棚に上げて笑う私に対し、団長は安堵のため息を吐いた。そしてすぐにこちらの身体の心配をし、治療と看護を約束してくる。
私の態度に怒ることも無く、気を遣ってくれるのはとてもありがたかったけれども、団長以外の誰かに触れられてまた魔力酔いや暴走を引き起こしてはいけない。
それに、彼の顔を見たせいか今の私は悪いどころか気分が高揚してすらいる。
だからこそ、団長のお節介に対して、私はありがたいと思いつつ胸を張って口を開く。
「ふん! 私を誰だと思っているのかしら? この程度、何てことはないんだから!」
刺されたか所こそ服が破れてしまったものの、出血も毒の効果も表れていない。痛みも頭痛以外は無く、胸や下腹部の異常も感じない。
そのため少しの休憩の後、彼の提案を断ってそのまま屋敷へと戻ることにした。
これ以上、団長を心配させないためであったし、負い目を感じて欲しくないからでもあった。
※
※※
※※※
「女王様。また胸が成長なされましたね」
団長の依頼から一日経った翌日の朝。
団長から別れた後の無毒化とはいえ、それには成功したと思っている。けれども大事を取って今日一日は休むことにした。そう思って自室で朝食を摂っている最中に、デンドロビウムから不意にそんな言葉をかけられた。
またとはいうものの、私自身はよく分からない。確かに視線を胸元へ向けると大きくなっているような気もするけれど、そもそも以前から立った状態で足先が見えないぐらいには胸が育っている。……団長と出会ってから更に大きくなった気がしないでもないけど。
「そうかしら? 自分ではよく分からないわ」
無毒化の影響のせいか胸の感覚が何故か鈍くなっていることもあって、その大きさはともかく胸の重さも分からない。
恐らく、原因は昨日の害虫の毒が胸にまだ残っているせいで一時的に大きくなっているのだろう。毒を打ち消したところで毒液自体は、体内で単なる液体として吸収または排泄されるまではそのままのはず。いくら私でも体内にある物体……つまりは液体を、意図して無傷のまま体外へと取り出すことは出来ない。つまりは毒液だったものは自然に身を任せるしかない。その内、身体に吸収されて消滅するはず。
けれどもそれを彼女に伝えてしまうと、こちらを心配するあまり色々と苦労をかけてしまうのは目に見えている。何だったら医者を呼ばれるかも知れない。
だから私は、特に気にしていない風を装って誤魔化すことにした。
「こうしてデンドロビウムがずっと近くにいるのは久しぶりだもの。私の身体を間近で見たからじゃないかしら」
「そうかもしれませんね」
いつもの調子で返すことで、デンドロビウムもさほど気にせず追及を止めてくれた。けれどもすぐに、私の胸と洗濯に出すために渡した私の服とを見比べて苦笑してみせる。
害虫の針で破れてしまったところは帰る前に魔力で直したからバレないはずだけれども、それでも少し神妙になってしまう。
「ですが、洋服は新調しなければならないかも知れませんね」
「え~? 別にいいじゃない。対して大きくなっていないと思うわよ」
デンドロビウムの言葉に、私は内心バレていないことに安堵しながらも口を尖らせてみせた。
一時的な胸の微増で今ある服装を全部仕立て直されるのは困る。今の服たちが気に入っているというのもあるけれども、直してもらった後に胸のサイズが元に戻って合わなくなるというのも恥ずかしい。
何よりも、昨日の服は団長が出かける前に私に似合っていると褒めてくれたものだ。胸元だけを仕立て直すならまだいいけれども、デンドロビウムならこれを機に全部服を新調してしまうこともしかねない。
「そうは仰いますが、団長さんとまたお会いになる際に身だしなみが悪いのは嫌でしょう?」
「うっ……それは、そうだけど」
柔らかく微笑んで見せるものの、団長を例に挙げてそれとなく詰め寄ってくる彼女の圧に思わず言葉を呑む。
けれどもデンドロビウムの言う胸が大きくなった理由が、害虫の毒を受けたからだとはやっぱり口が裂けても言えない。なら、ここは彼女の意見も受け入れながら話を後回しにした方が良さそうだった。
「それに、団長さんも胸の大きな女性が好きと仰っていましたし、悪いことではありませんよ」
「え? それ、本当? ……ぁ」
「えぇ。本当です」
しかし、続くデンドロビウムの言葉につい釣られてしまう。気付いた時には笑みを崩さずに私を見つめる彼女。こうなってしまっては、こちらが何を言っても服を仕立て直すか新調しようとするはず。
それでも、今回ばかりは私も簡単に頷くわけにはいかない。
「分かったわ。けど、ちゃんと採寸はしてね? 仕立て直したはいいけれども、寸法が合わないのは恥ずかしいし」
「はい。もちろんです」
「あ、後、採寸は明後日以降にね。今日明日は休ませて貰うわ」
「分かりました」
即興で理由付けをしたものの、デンドロビウムは了承してそれ以上追及はしてこなかった。洗濯をする服をまとめ、きちんと休養を取るように言うと彼女は私の朝食を運んできたワゴンと共に部屋から退出する。
扉が閉まり、デンドロビウムの足音が遠ざかっていくのを確認した後、私は大きくため息をついた。
「……そんなに大きくなっているかしら?」
面倒なことになったと思う反面、胸が大きくなった自覚は全くない。何となしに両手で両胸を下からすくい上げるように持ち上げてみても、特に重さも大きさも変わっていないように思える。今の姿がブラジャーもしていない室内着であるため、重さも大きさも誤魔化しはきかない。
一度は中断し、団長と別れるまでの間は無毒化していなかったこともあって、ある程度の覚悟はしていた。
けれども、害虫の毒の効果である発情を促す媚薬のような効果すら感じられない。
「あ、異物感は少し残っているわね」
こうして胸を色々と揉んだり搾ったりしてみても、胸の性感度が高い私にしては珍しく何も感じない。何となく胸の中に液体が溜まっている様な感覚こそあれ、何かしらの異常や快感、痛みすら覚えない。ただ、胸に触っているという感覚のみであり、これは無毒化の反動なのかも知れない。
「ふふん。まあ、当然よね?」
となれば、害虫の毒の無毒化は無事に成功しており、流石は私という結論に至る。
無事を確認できた今だからこそ言えるけれども、魔力の消費、暴走にも似た発露からの無毒化という不安はあった。
しかし、それらをものともせずに魔力や世界花の加護を使いこなして、こうして事なきを得ている。世界から愛されている者としての面目躍如、と思うのは当然のこと。
胸の安全が確認されたので、大丈夫だとは思いつつ念のために下腹部に触れてみても同様の感覚だけがある。触覚だけを感じるというのも何だか感覚麻痺を起こしているみたいで不気味ではあるけれども、それ以外に異常は感じられないので大丈夫だと思う。
「あーあ。こんなことなら面倒だし採寸は明日にでもして貰った方が良かったかしら?」
身体の自己診断が終わり、残す面倒はデンドロビウムの採寸だけとなり、何だか疲れが全身に押し寄せてくる。
討伐依頼が終わったのが昨日の今日ということもあって、私は自身のベッドへと仰向けに倒れる。その際に胸が大きく弾むも、その感覚は中の液体が跳ねたようなものだけで特に何も起きないし違和感を覚えるほどでもない。
「明日にはこの中の毒液……でいいのかしら? まあ、この液体も消えて元に戻るでしょ」
仰向けの状態で頭だけを少し上げ、視線を胸元へ向けてぼやきながら私は大きく伸びをする。部屋の箪笥の上にある時計を横目で見ると、時間はまだ九時前。
朝食を摂った後にすぐ寝るのは良くないと知りつつも、睡魔は伸びに誘われたかのようにやってきた。特に用事も予定も無かったため、私はさして抵抗することも無く襲ってきた睡魔に身を委ね、眠りについた。
※
※※
※※※
「ん゛っ、んぅっ……んふっ!」
異常事態は眠りから覚める少し前から起きた。
いいえ。正確にはその異常事態の発露によって眠りから起こされた。
「ぁんっ、んんっ? なに、よ……もぅっ」
身体が熱い。
寝苦しくなるほど掛布団は被っていないし、部屋の室温もいつも通り。それでも全身からゆっくりと汗が滲み出るような火照りを内側から感じる。
特に酷いのは胸と下腹部。それぞれの内側に懐炉でも仕込んであるのかと錯覚するほどの熱がある。
おまけに酷く重い。
熱による身体の気怠さによる重さではなく、物理的な重さ。
もっと言えば、胸に重しが付いているような、そんな重さ……。
「んぐっ、んっ……えっ?」
少なくとも両手は多少の気怠さは残るものの、普通に動かせる。両腕も身体を支えて上体を起こそうとすることが出来る。
けれどもその上半身が重すぎた。
それでも何とか上体を起こしたところで、私は自身の身に起きている事態を目の当たりにした。
「な、なに、これ……は?」
声が震える程の動揺。
目の前で起こっていることが理解できず、私は眩暈すら感じながらもそれを見た。
「わた、わたし、の……胸が……っ」
微増した、という可愛いものではなかった。
私の頭と同じかそれ以上の大きさ。少なくとも足を延ばして上体を起こした状態から見ても、腹部どころか太ももが見えないぐらいに大きくなっている。
こんなにも大きければ胸の付け根が重みで酷く痛むはずなのに、世界花の加護のおかげなのか痛みは感じられない。それでも、胸の重みは普段以上に感じられるし、何よりもものすごく張っている気がする。まるで胸の中いっぱいに水でも入れたかのように。
「水……っ!? まさか、毒!? んぁあっ!?」
胸の張り具合と中に液体が溜まっているような感覚から、注入された害虫の毒を想起して両胸を下から持ち上げて感触を確かめようとした。
けれども、胸に触れて、持ち上げようとし、指が胸に食い込んだ瞬間に全身に甘い痺れが走る。触れたところから快感が瞬時に広がり、特に頭と下腹部に響く。
「はぁんっ、んひぃっ!? んぉおおぉぉっ!?」
予期せぬ快感から逃げようと咄嗟に手を胸から離すも、今度はその動きと振動によって胸が揺れる。慌てたためかその振動は胸全体を揺らすものとなり、それが新たな快感を生んでしまい、私は情けない声を上げてしまった。
頭の中で弾けるような快感に視界がぼやけてしまう中、それでも胸の大きさとは別の異常にも気づけた。
胸が敏感になっている。
普段からして胸は私の意志とは別に感じ過ぎていると思ってはいた。けれども、触ることや揺れることでここまで快感を覚えたことはない。それも、乳首どころか乳房に振れただけなのに。
「ひぅっ……んふっ、こ、これも……毒の、影響?」
息を荒くするだけでも胸が揺れると気付き、何とか快感に耐えながら呼吸を整えた私は考えを巡らせる。
異常なまでの胸の肥大化。そして少しの刺激でも快感が走る胸の性感度。
どちらも間違いなく害虫毒の影響というのはすぐに分かった。けれども、その害虫毒自体は団長の報告ではあっても発熱程度。それでなくとも元々は発情し、生殖行為を促す毒なはず。
胸の感度が上がるのはまだ分かるとしても、胸に注がれた害虫の毒液の量と今現在の胸の大きさは一致しない。一致するのであれば、昨日の討伐時点でこうなっていたはず。
量が一致しないのなら、原因は限られる。それこそ、毒以外の液体が胸の中で精製でもされない限り、ここまで肥大化はしない。
「……んぁっ、くぅうっ!?」
けれども、通常の一回りも二回りも大きくなり、張った胸の内部にあるものを触る以外の方法で調べることは他に一つしかない。
そして、もし私の予想が正しいのであれば、その方法は更なる状況の悪化を招くことに繋がりかねない。
それでも原因が胸の中にあるのが何であるかが分からない以上、やるしかなかった。
「ふーっ、ふーっ、んっ、んぁあっ!」
快感は先ほど受けた。ならばそれを予め覚悟して触れば耐えることは出来る。
緊張と震えで息が荒くなる中で、私は何とか自身の胸を下から持ち上げることに成功した。とはいえ、最早片手では到底収まらない胸は重みによって形を指に合わせて変え、思わず嬌声を上げさせるような快感を与えてくる。胸の快感に反応して下腹部も熱くなり、下着を濡らしていく。
胸自体には重みをそこまで感じていないのに、手のひらで持ち上げた自身の胸はバナナオーシャンへ行った際に貰った大玉スイカのように重い。大きさもそれと同等か、下手をすればそれ以上。そんなものが二つも身体にくっついている状態は、傍から見れば酷く歪で滑稽に見えると想像しなくても分かってしまう。
「はひっ、はっ、はっ、はーっ……」
そんな恐怖にも似た不安を覚えながらも、両胸を両手で持ち上げる。それだけのことなのに胸と下腹部が熱い。下着の湿った部分は更に広がり、陰核は触れてもいないのに自己主張を始めている。
動いていないのに、動かしていないのに。呼吸はまるで次の行動を期待するかのように荒くなる。胸の奥が疼き、下腹部の奥も切なく感じるぐらいの収縮を繰り返す。まるでそこに何かが差し込まれるのを待っているかのように。
このままこうしてはいられないのは分かっているのに、次の行動に移るのが怖い。
今の状態でも快感を得ているのに、この両手を動かせばこれ以上の快感が来ると分かってしまうのが怖い。
「……ふーっ、んっ、んんっ!」
ベッドの上で割座することで姿勢を正し、呼吸を落ち着かせる。
それからゆっくりと身体の内側から魔力を操作し、指先と胸へと集中させる。
覚悟を決めれば、迫りくる快楽の波にも耐えられるはず。
「ひぃんっ!? あっ、あっ、やぁっ!? んぁあっ!」
魔力が波打ち、背筋から頭と腰にかけて快感という名の電流が走る。迫る快感から逃げるように太ももを閉じ、腰を浮かしながら前かがみになってしまう。その動作で揺れた胸が手の中で暴れ、更なる快楽を引っ張ってくる。
そのせいで濡れた下着はその範囲を更に広げ、秘所からは噴水を思わせるような飛沫が排出される。
けれども指先と内側からによる魔力の自己診断は、抗いがたい快楽と引き換えに何が起きているのかを私に教えてくれた。
「ひぅっ、ふっ、ふぅーっ、ふぅーっ! ……これっ、毒、だけじゃ、ないっ」
害虫の毒は身体に吸収されてしまったのか、残りは乳首のすぐ裏内側に半固形物と化している。
けれども胸が張っていると感じられるほどの他の液体は、他ならない私自身が原因らしい。
「私の魔力がっ、胸の中っ、で液体、化? なんっ、な、のよぉっ! はぅっ!? ~っ!」
それに気づいたのは、内側から胸へと送った魔力が何かと反応してお湯が沸く時に聞くような音の振動と共に変質したからであった。
ただでさえ張っている胸が、その魔力の物理的変換によって更に大きくなったように感じられ、同時に襲い来る快感に身悶えする。
異常事態であることは言うまでも無かったけれども、何がどうなっているのかが分からない以上対処のしようがない。対処のしようがない上に、快感は容赦なく私を襲う。
「はひっ、はひぃっ!? んっ、あ゛ぁっ!? だ、めっ! ダメダメだめぇっ! あ゛っ、あ゛~っ!」
そしてそれまでの快感で高ぶっているところに、更なる快感が積み重なることでついに爆発する。
「イ゛、ぐっ!? ~っ……イクイクッ! イ゛ッッッぐぅう~っ!?」
反射的に腰が引けることで前のめりに倒れるも、大きすぎる胸が身体を支える形となる。けれども上半身の重みが全て二つの胸に集中することで張っていた胸は潰れ、その衝撃が更なる快楽を生むことで私は絶頂を迎えた。
頭の中で火花のようなものが走り、口は閉じることも出来ずに涎を垂れ流す。下腹部からは生温い液体が奥から勢いよく噴き出し、両胸も上半身という加重によって内側から弾けたかのような快感と同時にあるものを噴出した。
「ん゛っ!? はぁ゛あ゛~っ! 出るっ! 出てるぅっ!? わ、私のっ! むね、からぁああっ!?」
それは黄色い半固形物であり、次に透明の液体が半固形物を押し出すように漏れ出てくる。未知の液体が自分の胸から出てくるという異常事態に頭が混乱しそうになるけれども、それ以上に未知の快感を前に私は獣のような喘ぎ声を漏らしてしまう。
「お゛っ!? あ゛っ、やっ、やぁあ゛あ゛ぁ゛っ!? やだっ、いぐっ!? まだイ゛ッちゃ……んお゛ぉ゛お゛ぉっ!?」
そして、白く濁った液体がまるでシャワーのように勢いよく噴出すると同時に、私は二度目の絶頂に達した。
普段以上に敏感になった乳房は上半身の重みによって快楽の圧迫と共に搾られる形となり、それらが更に敏感になっている乳首を通して液体をとめどなく放出していく。
「あ゛っ、あ゛っ、やらっ! とまっへ! とまっ!? ん゛あ゛ぁ゛~っ!」
胸の奥から溜まっていたものが吐き出される開放感。ともすれば排尿感にも似た一種の快感を覚えたのも一瞬であり、乳首から白い液体を噴出するという快楽に私は腰が砕けてしまった。
両腕は力が入らず、腰を激しく震わせながら下腹部からも広がる快感を前に下半身を支えるのがやっと。
そんな状態で上体を起こすことは不可能であり、私は脳内に静電気が乱れ弾けたかのような快楽の渦の飲まれたまま、噴出絶頂を続けるのだった。
※※※
「う゛ぅ~っ」
起きてから身体の異変に気付き、連続噴出絶頂をしてしまってから時間はそれ程経っていない。胸からの液体噴出が止まり、胸の疼きも下腹部の疼きにもようやく慣れ、また収まってきたのを見計らって時計を見ても十時前。
けれども十時を少し過ぎればデンドロビウムがお菓子を持ってくるかも知れない。
その前に胸の大きさと敏感さ。そして下腹部……秘所と子宮の疼きを何とかしなければならなかった。
「こんなの、ぁあんっ!? ……くっ、どうしたら、いいのよ!」
忌々しく思いながら右の乳房を持ち上げるも、そんな単純な動きですら敏感に快感を得てしまう。
胸の張りや快感は先ほどの噴出によって多少はマシになり、重みも意識すれば猫背になってしまわない程度には耐えられるものとなった。
けれども、部屋の中を換気してまき散らして汚してしまったシーツも箪笥の奥に隠しても尚、それは匂いとなって私の鼻腔をくすぐる。
「これってやっぱり、もしかしなくても……」
牛乳に砂糖を入れて煮詰めた時のような鼻先を撫でる良い匂い。
私は乳牛ではないし、そもそも母乳は普段の食生活であれば甘い匂いも味もしないとウィンターローズのエッチなウソホントという性知識本で知っている。
しかし、現に私の胸から出た液体は母乳と言っても過言ではないものであり、少なくとも先の害虫から受けた毒液ではないことは明らかだった。
母乳は血液から作られる。それも本で見たから間違いはない。だからこそ、匂いもなく味もなく、赤ちゃんは本能によってそれを飲むものだということも知っている。
「でもまさか……」
だが私の場合は魔力から作られている。そのため、通常の母乳と違い、甘い匂いもするし、まだ舐めてはないけれども味もあると思う。まるで誰かに進んで飲んでもらうことを望んでいるかのように都合が良いものが、私の胸の中で精製されてしまっている。
身体の性感度が上がっていることや、その、エッチな気分になってしまうのは害虫の毒液の影響。これは間違いないと思う。
けれども途中で中断してしまったとはいえ、世界花の加護で毒液自体は無効化したはず。
ならば胸の、それこそ母乳が作られる部分が無力化前の毒液の影響で発達こそすれ、魔力が母乳に変わるという身体異常まではいかないはず。
「……」
しかし、現にこうして私の身体は魔力を母乳に変える体質となってしまい、異常なまでの性感度と発情を得てしまっている。
となると、原因は害虫の毒を無力化出来なかったのではない。害虫の毒とそれを無力化しようとする世界花の加護が奇跡的に融合してしまい、結果としてこういう体質に落ち着いたのだと考えられる。
……自分でそう結論付けてしまうのもバカバカしいけれども、実際にそうなっているのだから嫌でも納得するしかない。
思い返してみれば、今の症状が表に出るまでの感覚麻痺に近い感度の鈍さは、害虫の毒と世界花の加護が同時に作用することによる副反応だったと言える。
「……一体、どう、したら」
症状自体は、流石に一時的なものだと思う。思いたい。
根拠として、私は世界から愛された存在。融合して新しい毒のような何かになって、私の体質を変えてしまったものも、世界花の加護の強さによっていずれは元に戻る。
けれども、それがいつになるのかは分からない。
今ここで、加護と魔力にものを言わせて治すことは出来る。いいえ、治してみせる。
しかし、先程の魔力行使による強烈な性感度の上昇と発情にも似た快楽。更には魔力に反応して精製される母乳とそれを噴出するという悦楽。それらに耐えて治そうと思うと、流石の私も躊躇してしまう。
確実にそれで治せるのであれば、多少の無理や無茶を通して行いたいけれども、その無理無茶が通らずに中断。結果として症状の悪化につながってしまったら、今以上に目も当てられない惨状が待っている。
……もしもそのせいで、胸の大きさやこの体質が定着し、一生このままだと思うと怖くて実行に移せない。
「……うぅ」
噴乳しても尚、二回りはゆうに大きくなった胸は当然、ブラジャーはおろか部屋着や普段着すら入らない。
無理を押して迫りくる快感に耐えながら着た、いつもの花騎士としての服でさえ、胸の露出は乳首を隠すどころか胸全体を見せているのと変わりない。
当然、ブラジャーは出来ないし、下着に関しても常に濡れてしまうのが気持ち悪くて穿いていない。それでも胸を隠そうとタオルを巻いてみようとしても大きすぎて長さが足りない。かといって、シーツやカーテンで代用しようにも乳首に触れただけで感じてしまうので結局さらけ出すしかなかった。
だけど、それを嘆くだけでは何も変わらない。寧ろ、これから部屋に来るであろうデンドロビウムや遊びに来るオンシジュームやシンビジュームにバレてしまう恐怖すらある。
けれども、今の私には何も出来ない。無理やり着替えた後にこうしてベッドの上で放心気味に現実逃避をするだけであり、それがどうしようもなく惨めに思えてくる。
目に涙が浮かび、顔を伏せたくなる。
「……団、長」
けれども顔を伏せようにも、その先には敏感になった胸がある。行動の一つ一つが快楽に繋がってしまうという恐怖すら覚える中、私の脳裏を過ったのは彼の姿だった。
団長に会いたい。
会ったところで現状が解決できるとは思わない。
いくら彼であっても、今の私を見たら気持ち悪く思うかも知れない。会うことで彼から拒絶され、私の絶望が更に深いものになるかも知れない。
それでも会いたいと思ってしまった。
「あなたに、会いたい」
そして、それを言葉にしてしまうともう止まらなかった。
この大きくなりすぎてしまった胸も、団長のことを思うだけで熱く、切なく疼いてしまう秘所も。彼に会えば何とかなるかも知れないと思えてきた。
普段の私であれば、素直になれなくて、くだらない意地を張って行動しなかった。
けれども今は、団長のことがどうしようもなく恋しい。
仮にこれが、毒の効果や発情した今の気の迷いでも構わない。……それらを抜きにしても、私は団長のことが好きなのだから。
「……バカね、私」
同時に、今この状況が彼に対して素直になれなかったことが原因であるということにも気付く。
あの時、害虫の毒を受けて心配する団長の言うとおりにすれば。病院で手当てを受ければ。害虫の毒を分析することが出来れば。
全てはこんな事態を招かなかったかも知れないのに。
「でも、んんっ!? くっ、だからこそっ……んぁっ!? 私は行くわ」
立ち上がることで揺れる胸。そこから得られる甘く痺れる快感によって、腰が震え下腹部にも広がっていく。
でも、もう決心したわ。
これまでは素直になれなかった。けれどもこれから素直になればいい。
「んふっ!? ふっ、ふぅーっ……それ、にっ、約束、したんだからっ!」
杖を手にして部屋の窓を開け、魔力を杖へと流して横向きに宙へと浮かせてそこに腰を下ろす。
いつもの魔力飛行の動作ですら、こぼれた微量の魔力が胸や下腹部へと流れ、快感を私に与えてくる。
だけども、これぐらいなら耐えられない訳ではない。幸いにも意識して身体に魔力を集めなければ、得られる快感も相応に少ないものとなる。
「今度っ、私の……ぁんっ! 用事に付き合っ、てっ、貰うって!」
それに一度絶頂までいってしまったのだから、得られる快感に対してはどの程度なのかも文字通り身体で覚えた。
後はその経験に基づいて、耐えられるように飛行すればいい。
書置きも残さずに、団長に会いたい一心で窓から外へと私は出る。その振動に揺れる胸と下腹部は快楽を与えてくるけれども、構わないし迷わない。
自分に素直であるために。団長に対して素直であるために。
私は一直線に団長のいるブロッサムヒル目指して飛んだ。
※
※※
※※※
害虫の中には、空を飛ぶものもいる。
そのため、高度を取りつつもなるべく早く飛んだつもりだった。魔力操作による快楽の波や発情はあるかも知れないけれど、それが最善だと流石に理解していたから。
それでも先ほど噴乳しながらも絶頂を繰り返したのだから、少しは耐えられる。
そう思っていたし、そのはずだった。
「ん゛っ、ぁっ、はぁ゛~っ、はぁ゛~っ」
ブロッサムヒル王城の郊外。
世界花の姿がはっきりと見えるその位置で、私は飛ぶことに限界を覚えて降下した。
身体が熱い。そして尋常ではないぐらいに疼く。周囲に害虫や人の気配がいないことを確認出来る程度の理性は残っていたけれども、それ以外の一切合切を無視して早く胸と秘所の疼きを発散させたかった。
勢いよく屋敷を飛び出して、ウィンターローズの世界花の上空を抜けた辺りまでは耐えられた。
「んひっ!? ん゛ぁっ! あ゛っ、あ゛ぁ~っ!」
けれども昼過ぎにウィンターローズの霊峰を飛び越える際から寒さからの保護として全身に魔力をまとったのが仇になった。
快感の強さは次第に強くなっていき、夕刻に近づくブロッサムヒルのガルデ要塞を通り過ぎた辺りから高度と飛行速度を落としても耐えがたいものになっていた。
周辺を見渡せる小高い丘の上に佇む大木の根本へと、半ば乗っていた杖から転がり落ちるように降りた私はまるで犬のようなポーズになる。
「ひぐぅっ!? あひっ!? あ゛っ、はぁっ! ん゛ん~っ!?」
けれども勢いよくその姿勢になったせいで、肥大化した胸が地面を擦ることとなり、その際の揺れと刺激が今まで耐えてきた快感を爆発させた。
全身が快楽の歓喜に打ち震える中、痙攣しつつ両手足だけは姿勢を崩さないようにしつつ、私は服越しにも関わらず盛大に噴乳する。屋敷を出る前に噴出した母乳は長距離飛行による魔力の弊害で再び胸に溜まってしまっており、搾り出していないにも関わらず露出した地面を湿らせていく。
外の、それもあまり知らない土地での失態に自尊心と羞恥心が滅茶苦茶になるも、全身が泡立つような快楽はそれすらも上塗りしていく。
更なる快感を得るために、いっそ地面にこの膨れ上がった両胸を押し付けたい。それでいて、疼く秘所を指で弄り倒したい。
視界がぼやけ、頭の中では火花が散るような感覚すら走る中、いっそのことここで思いっきり発散した方が楽になれるとすら思えてくる。
「あっ、あっ、あぅ……んぅっ! んぎっ……ぐっ、くぅうっ!」
それでも溜まった母乳が噴出することによって、僅かではあるものの理性が快楽を上回る。
歯を食いしばり、両腕に力を入れて快感から逃げるように私はゆっくりと上体を起こす。そして落ち着かせるためにその場で割座するようにお尻を地面に下ろす。
……下着が濡れて気持ち悪いから、何も穿いていないことは快楽によって忘れたままに。
「ひぐぅっ!? あっ、かっ……は、ぁっ!?」
快感による注意散漫。とにかく噴乳する胸を何とかしようとそっちばかりにかまけていたせいで、私は私が座る地面がどういう状態になっているのかを見ていなかった。
冗談みたいな話。ちょうど私が座り込んだところに大木の根っこが露出してそこだけ盛り上がっており、快感によって勃起していた陰核と秘所はそれによって思いっきり擦られる形となった。
出すものを出した胸の疼きの落ち着き。理性を取り戻せたことによる安堵。それらに意識を割かれていたこともあって、今一番疼いていたところに予想していなかった刺激。
こんなところで学びたくはなかったけれども、強すぎる性感刺激を受けると呼吸が止まり思考も停止するのだと実感した。
「ひぅっ!? ……あっ、やっ、やだ……っ、やだっ、やだやだやだぁっ!」
そして刺激による一時的な痺れが薄れ、思考が回復し、呼吸も再開する。同時に陰核と秘所から下腹部、それから全身へと広がる絶頂の波が広がる。
刺激された性感帯が痺れたからこその快楽の波であり、それに抗えないと悟った瞬間、私は顔を強張らせ迫る絶頂に対して子どものように喚くしか出来なかった。
「んぎぃっ!? イぐぅっ!? イ゛っぢゃうっ! い゛っっっぐぅぅううっっ!?!?」
絶頂の快感が胸付近に到達した瞬間に陰核と秘所の痺れが完全に消え、痛いぐらいの陰核の勃起と秘所からの絶え間ない拡縮と同時に愛液が大量に勢いよく噴き出す。
またそれらに連動する形で胸部内に母乳が急速に精製、溜まって重くなっていくのを感じたが、その精製に快感を覚える前に絶頂の波が脳内に到達。
結果として私は割座のままのけ反る形で三度の噴乳絶頂を迎えた。
「あ゛~っ、はぁっ、ん゛んっ、あ゛ぁ~っ……っ」
気持ちが良かった。どうしようもないぐらいに。
絶頂の瞬間も、絶頂中も。その後の余韻ですら、頭の中をかき混ぜられるような快感を前に全てがどうでもよくなる。
視界に映る世界は回り、情けなく舌を突き出して呼吸し、口端からは涎が止めどなく流れる。屋外であっても無風なためか、噴出した母乳の甘い匂いが立ち込め、それを喜ぶかのように母乳が乳首から滲み出る。
そしてその母乳の匂いに負けず劣らずの愛液と汗の匂いが入り混じったものが私の鼻をくすぐり、反射的にまた秘書から愛液が小さく飛び出る。
「ぅ……ぐすっ、ううぅっ! ぐぅううっ……ひっく」
絶頂の波が引き、余韻に浸っていたものが冷め、この場に残ったのはみっともなく座り込んだ私だけだった。
その惨めすぎる現状に耐えられず、冷静さを取り戻した私の目尻から涙が溢れてくる。堪えようにも堪えられない。寧ろ堪えようと身体を強張らせれば、その振動で胸が揺れてまた快感に疼き出す。
「だんちょ……団長ぅう……」
再び疼く胸と秘所から生み出される快感を前に、私は最早恐怖しか感じなかった。
そんな中で助けを求めるように団長を呼び、彼のことを想う。
今の私の姿を見て、団長はどう思うのか。心配してくれるのか、それとも引いてしまうのか。後者であれば私にはもう縋るものがなく、後に残るのはこのだらしない身体と絶望だけ。
「だんちょう……だんちょうぅっ……んっ、んっ」
けれども、彼はそんな人ではない。それは他でもない私が一番よく知っている。
こんな私でも、団長ならば受け入れてくれる。優しくしてくれる。
そう思うだけで、私は子どものように泣きながらもまだ耐えられる。
目を閉じて、頭の中で想像する彼は私に優しく微笑み、「よく頑張った」と頭を撫でてくれる。想像とすら呼べない私の妄想だけれども、今の私にとっては十分だった。
団長のことを想うと、手は自然と胸と秘所に伸びていた。どちらも指先で触れるだけで快感が背中を這う。けれども一度絶頂をして余韻の後ということもあって、自慰によって生み出される快楽はコントロールが出来るようになっていた。
「んっ、はっ、あっ、あぁんっ! はぁんっ!? ん゛んっ!?」
両手で両胸を弄り、揉み、搾って母乳を出す。それによって次第に身体は再び火照っていき、全身に広がる快感に私は上体を支えられずに前のめりに倒れる。
咄嗟に胸を手で守ったために、先程のような抑えきれない快楽の波が発生することはなかった。
けれども団長のことで頭がいっぱいになっていた私は、その両胸を守る手をどけて、上半身を胸で支える姿勢となる。
「ん゛っ、だんちょうっ、だんちょうっ……あっ、んんっ、はぁっ、お゛っ、ほぉっ!?」
それからその姿勢のまま腰を浮かし、空いた両手で秘所と陰核を弄り倒す。
左手で敏感になった陰核をこねて揉み、右手でいやらしい音が響くほどに秘所を搔きまわす。その動きによって全身が快感に震え、再び両胸に母乳が溜まる。
「ん゛おぉ゛っ!? んひぃっ!? あ゛っ、お゛っ、はひっ、はへえっ……! だんちょっ! だんちょぉおっ!」
しかし胸に溜まった母乳は上半身の重みによって押しつぶされて無理やり搾り出される。自慰によって揺れる身体によって乳首が地面とこすれ合い、更なる快感を生みだしながらも母乳をまき散らす。
そんな痴態を晒しているというのに、私はその快感や快楽全てを妄想の中の団長が与えてくれているものとして自慰に没頭する。
団長が愛おしい。団長が恋しい。団長が欲しい。
その想いが両手の動きを加速させ、軽く達し続ける快楽を生み出し、噴出する母乳の量を増やす。
「すきっ! すきすきしゅきぃいっ! だんちょっ! だんちょうぅっ! だいしゅ……ん゛っ!? ぁ゛っ、ん゛~っ!」
初めて団長と肌を重ねた日のこと。それが忘れられずに団長に会いに行った日のこと。彼と一緒に出かけた夏の思い出。花騎士の人気投票で輝いた私へのご褒美を貰った日。
団長と出会い、団長と触れ合い、団長と過ごした日々のことを次々と思い出し、それら全てを今の自慰の燃料とする。
彼への想いはもう抑えきれず、彼に会いたいと思う気持ちは溢れて止められない。
「あっ、や゛っ! だんちょうっ、だんちょうっ、だんちょ~~~っ!? はっ、ぁ゛あ゛あ゛ぁあぁぁあ~~~っっっ!」
そして陰核を強く抓り、人差し指と中指で思いっきり膣内へと挿してからお腹側の膣壁を引っ掻き、体重を両胸へと預ける。
その瞬間に脳内の彼の色んな姿が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、私はその日一番の絶頂を迎えた。
栓が壊れたかのように溢れ出る母乳と愛液で周辺を汚し、頭が真っ白に染められていく中で、それでも私は団長のことを想い続けるのだった。
※※※
「……はっ、はっ、ふぅっ」
意識が戻った時には夕刻近かった空は完全に夕暮れ模様となり、辺り一面も薄暗くなっていた。
人はともかく、少し気を失っていた間に害虫が寄って来なかったことに安堵する。それから私は、未だに残る快楽の余韻を短い呼吸の繰り返しによって落ち着かせた。
けれども、胸の内側に点った炎は消せそうにもなかった。
「……団長」
そして、沈みゆく太陽とそれに合わせるかのように街灯が灯り始めるブロッサムヒルの王城都市を見つめ、団長の元へと行く決心を再度固める。
彼に対してまだ素直になれないかも知れないし、また変に突っかかるかも知れない。
「……好き。大好き」
それでも、今この瞬間からも身体の奥から溢れてくる温かい気持ちと、彼に対して素直になれている心だけは、例え私自身であっても否定することは出来なかった。
後編に続く
最後までお読み頂きありがとうございました。
後編に続くということで、そちらも投稿しましたらよろしくお願いします。