ホロメン視点は初挑戦です。
……吾輩は、ラプラス・ダークネス。ずっと、ずっと昔から……生きてきた。何千年も、何万年も、何億年も……寂しくて、涙が出ることもあった。物心ついた時にはお父さんもお母さんもいなくて、それからは力を使って、ずっと一人で生きてきた。何億年くらい生きた頃だっただろうか……ルイに出会って、二人になって……三人も加わって、すごく賑やかになった……おかげで、寂しくなくなったんだ。だけど、そんなある日……
「お買い物終わり! ナスもちゃんと買ったし、家に帰って食べるでござる!」
「今日の晩御飯も楽しみだな~!」
「そうだな……」
この時間が、嬉しい。まだ100年も行ってないのに、これまでの何億年よりも楽しくて充実している……仲間がいるって、いいな。昔できた友達は……動物くらいで。動物は、すぐに死んでしまった。人間も100年くらいで、すぐに死んでしまう……吾輩をまた、一人にする。だけど、みんなは長命だ。ずっと一緒にいられるんだ……でも、もしも……
「……ん? 何でござるか……?」
「っ! 伏せろ!!」
「え……わっ!?」
それが、無くなってしまったら……失うようなことがあったら。
「……爆発した? 今の魔法は……あいつが!?」
「ダークソルジャー……? やけに数が多いけど……」
「気をつけろ、こいつらは普通じゃない……強いぞ!」
吾輩は、壊れてしまうかもしれない。
「ぽこべぇは離れてるでござる! 大丈夫、すぐ戻るでござるよ!!」
「……」
「心配しなくても……風真達は強いでござるよ!! 早く片付けて、ルイねぇのご飯を食べるのでござる!!」
ぽこべぇ……さむらいの非常食、らしいが……実質ペットで、大切な旅のお供だ。だから、吾輩も……頭の上のカラスに呼びかける。
「……お前も逃げておけ。危ないぞ」
「……!」
「心配しなくても外れないよ。吾輩は死なん、総帥だからな」
そう言うと……二人はどこかに逃げていった、これで思う存分戦えるな。
「さて、やってやるか……」
「時間はかけてられないでござる……」
「これくらい、こよ達三人で十分だよね!」
モンスターの大群に三人で突っ込む……魔法を避けつつ、反撃の魔法を撃ち込んでやる。一体はそこまでじゃないな、簡単に消し飛ばせる。
「Uraaaa!!」
「……遅い」
「Gu……!?」
そのくらい、対応できないとでも? 攻撃をバリアで防いで……風魔法でバラバラにした。二人もやってるな……
「どんどん喰らえー!!」
「Gwaa!?」
「まだまだぁ!!」
爆弾を投げつけていくはかせ……それによってその場にいた化け物が、全て消し飛んでいく。相変わらずすごい威力だ……さむらいも負けちゃいない。
「……ふっ!!」
「……?」
「次でござるっ!!」
化け物がバラバラにされたことにも気づかず死んでゆく……風のような速さ、これがさむらいの強さだ……いつも、すごく努力してるもんな? 三人で奴らを蹴散らして、街の中心に向かっていく。
「……大丈夫でござるか?」
「お、お姉さん……?」
「早く逃げるでござる、危ないでござるよ」
さむらいが動けなくなっていた男の子を逃がしつつ、中心部に向かうと……
「……なんだ、貴様らは?」
「お前がこれの首謀者だな? 今すぐこれをやめろ」
「断る。これは崇高なる魔王様の平和の第一歩なのだよ、お前ら如きには理解できないだろうがな」
こんなに犠牲を出しておいて……平和だと?
「罪のない人達を大量に巻き込んで……何が平和なんだよ! 酷すぎるよ!!」
「……魔王様を侮辱しおって。うるさい奴らだ」
「やめないなら……強硬手段でござる!!」
さむらいが刀を構えた。吾輩とはかせも構える……
「身の程知らず共めが……思い知らせてやる! 魔王軍四天王が一角!! 『不退転の軍師』バルカが貴様らを殺す!!」
「やってみろ……やれるならな!!」
「行け、ダークソルジャー!!」
大量に雑魚が向かってくる……あいつが操っているのか。なら……
「わざわざ相手することはないな!!」
「フン……」
「Gaa!?」
あいつはダークソルジャーを出して、肉壁にした……そう来るか。
「近づかないとダメそうだな……さむらい、いけそうか?」
「やってみるでござる!!」
「こよがサポートするよ!」
あれは気化する麻痺の薬……あれを吸わせる気か。
「チッ、厄介なものを……!?」
「風真流……落ち椿ッ!!」
「おのれ!!」
またダークソルジャーか……幾ら数を増やしても無駄なのに。
「逃がさないよ!!」
「クソ……!」
「風真流、崩れ牡丹!!」
奴はなんとか躱しているが……時間の問題だ。吾輩が肉壁を突破して、土魔法を叩き込んでやろうとした……その時。
「喰らえ……!!」
「……なんてな。詰めが甘い奴らだ」
「な……!?」
気がつくと、ビルの上にいたダークソルジャーが魔法を撃ってきていた。回避が間に合わない、バリアを張らないと。
「っ……!!」
「それくらい予測してないとでも?」
「総帥、危ない!!」
後ろから斬りかかってきていたが、いろはが庇ってくれた……そんな時。
「うっ……!?」
「はかせ!?」
「こよちゃん!?」
魔法を食らった……まずい、囲まれてる。
「やめ……」
「やれ」
「あっ、ぐ……っ……」
その場に倒れるはかせ……やられた。
「貴様……何をしたかわかっているのか」
「よくも風真の仲間を……!!」
「……安心しろ。すぐに起こしてやる……」
怪我をしたはかせが、すぐに起き上がる。
「はかせ! 無理するな、逃げ……はかせ?」
「風真達はこっちでござるよ……?」
「私の力『魔界軍師』。私の倒した相手の体を操る……本人の意思とは関係なくな」
恐ろしい真実。それじゃ、今のはかせは……
「……嘘だ!!」
「嘘かどうか、お前の最強の目で確かめるがいい! 行け!!」
「こ、こよちゃん……?」
薬を調合して……投げてきた。攻撃してきたのだ。
「そ、んな……」
「嘘ではないと言っただろう……? さぁ、殺し合え!!」
「そんな……こよちゃん、起きて……!!」
この動きは、本人の意思とは関係ない。その事実が重くのしかかる……薬が飛んできた。
「こっちもいるんだ、忘れるなよ?」
「くそ……はかせ!! 吾輩達は……友達だろ!?」
「……」
呼びかけには返事がない……その代わりに、涙が流れる。ボタボタと滴り落ちていく……
「無駄だというのがわからんのか!? さっさとやられろ!!」
「こよちゃん!! そんなもの友情で打ち破るでござる!! 風真達は……世界一大切な友達同士、でしょ!?」
「この世界は現実だ! 正義はないし……平等に救いはない!! 犠牲のないものもない、戦争は終わらんし……それも全て人間のせいだ、汚らしい人間共のせいで……!! そんなものあってたまるか、奇跡などないわ!!」
それを肯定するかのように、爆弾を投げるこより。泣き腫らして真っ赤になった目……もう、涙も枯れたのか……なぜ、守れなかった? 吾輩は、総帥なのに……!! 目の前が、思わず潤む。さむらいも同様に……
「……っ……」
「隙ありィ!!」
「しまっ……」
さむらいですら、回避が間に合わない。さむらいの目の前で、激しい衝撃波と熱が全てを壊した。ボロボロのいろはが、吹っ飛んでいく。
あのままじゃ、いろはもこよりも……
「死んじゃう……っ!?」
「麻痺の薬か? 考え事なんかするから当たったんだ……マヌケめ」
「……」
ダメだ。このままじゃ……いろはも起き上がってしまった。無論、敵として……泣いてる。でもそれも……枯れてなくなるんだ。
「……峰打ちで頼むぜ。こいつは強いからな、力を貰うとしよう」
「……っ、やめろ……やめてくれ……いろは!!」
「じゃあ、お前らの友情とやらで……人間の作った、薄っぺらなその概念で防げるかどうか……! 試してみろよ!!」
……いろはは、向かってきた。いつものように見えなくなって……何発も、打ち込まれる。
「あ、ぐ……」
「よし……」
「……ルイ……クロヱ……た、すけ、て……」
意識を保てない……そのまま、意識を飛ばしてすぐに……意識が戻される。体が勝手に動く……涙が溢れて止まらない。
「……行け。学園を壊すんだ……無論、醜い人間の街もな!!」
体が勝手に動いて、魔法を乱射する。いろはの大事な刀が、人斬りに使われて……こんなの、こんなのってないよ……
「ぐぁぁぁぁ!!」
「うぎゃあぁぁぁっ!!」
「実に気分がいいな、人間の悲鳴を聞くのは……この辺りは終わりだ、学園に向かって進軍するとしよう」
もう、涙を流せない。お願いだ、誰でもいい。いろはとこよりだけでも、助けてやってくれ……助けるのが無理なら、せめて……楽にしてやってくれ。そして、吾輩も……そう思っているのに、体は破壊行為を続けた……そんな時。
「……フレイムタイフーン!!」
なんの声だ? 男の声……ルイやクロヱじゃない。
「……何か出てきたな。行ってみるか」
会話が聞こえてくる……
「……全く。使えない兵士共め……私の言う事も満足に聞けんのか?」
「……お前がこれをやったのか?」
「いかにも。我が名は【不退転の軍師】バルカ。世界最高の軍師にして、魔王様に大昔より仕える四天王の一角」
どうやら、ダークソルジャーを倒しに来たらしい……
「それにしては若いな? 不老不死なのか?」
「よくわかったな? その通り、我ら四天王は魔王様の力を受け取り、不老不死の身となっている。そしてそうなった時にこそ、魔王様に永久に従う栄誉を得られるのだ」
「……まぁいい、なんでこんなことをしたのか教えてもらおうか」
察しの良い奴だ、頭はいいみたいだな……
「可愛い圧だな……人間などこんなものか。人間にしては中々だ……それに免じて教えてやろう。この街には、魔王軍の障害となる者が大量にいるとの報告を受け、魔王様直々に私を向かわせたのだ! この街を完全に破壊せよ、とな!!」
「みんなの事か……悪いがその計画は失敗だ! なにを隠そう、その障害となる者達のバトルロワイヤル優勝者は俺だからな!!」
「……なるほど、噂には聞いていたが……貴様、人の身でありながら龍を殺した男か。こいつだけは絶対に殺せと言われていたな……むしろ好都合! 貴様を倒すことも目的だったのだ! この場で滅んでもらおうか!!」
炎剣の龍殺し……? あいつか? 取材されてたやつ?
「俺は炎剣の龍殺し……堀川 守男! 勝負だ、魔王軍四天王バルカ!!」
「堀川守男……? 貴様が……堀川守男だと!?」
「なんだ? 俺はそっちでも有名なのか?」
知っているような口ぶりだな……
「ク、ククク……クハハハハハ! こんなところで因縁の敵に会えるとはな! 魔王様がやけにお怒りだったのは……そういうことか! すまんが、なにがなんでも貴様を生かしておくわけにはいかなくなった……覚悟してもらおう!!」
「上等だ……俺を舐めるなよ!!」
「……普通にやっても勝てんことはわかっているさ。だから軍師らしく戦わせてもらう……」
……吾輩達が出されるのか。
「……どうするつもりだ!?」
「お前の前に、間抜けにも私に挑んできた馬鹿共がいてな。そいつらを利用させてもらおう……来い!」
「な、なに……!?」
体が勝手に動いて、あいつの方に向かっていく……やっぱりあいつだ。頼む、殺してくれ……もう、無理だ。生きていたくない……
「な、三人……!?」
「こいつら、全員まとめてかかってきおってな……流石の私もまずいかと思ったが、攻撃途中に一人ダウンしてくれてな……そいつを洗脳して差し向けたら、あとは楽勝だったよ。友情だとかなんとかうるさかったが……もう一言も喋らん、今となっては最強の駒よ! クハハハハハ!!」
「……なんてこと、なんてことしやがる……!!」
怒ってくれるなら……吾輩達のためを思うなら、殺してくれ。もう助からない……体中が激しく痛む、限界を超えて強化されているんだ……
「どうした? もう怖気づいたか?」
「許さん、絶対に許さん……ぶん殴ってやるぞ!!」
「それはこいつらを殺してみせてから言うのだな!! 行け、最強の駒達よ!!」
それからあいつは……吾輩達を助けようとしているのか、攻撃しないように戦っていた。けどそれでも、助けることはできなかった……そして、ついには。
「……そろそろトドメを刺せ、貴様ら。最大の技でな!!」
「じ、地面が揺れて……!」
「よく頑張ったが終わりだ! さらば!!」
こよりの爆弾を避けて……追撃のいろはの攻撃が迫る。それを攻撃で弾く時に、いろはにダメージが入った……そして、最後に吾輩。因果律に干渉して、災害を起こす最後の切り札……それを使わされた。街の中で……!! あいつは子供を庇って、それをもろに食らった。お人好しだな……どうにか生きているようだ。そう思った時、突然込み上げてきたものを……吾輩達は一斉に吐き出した。血だ……体がもう、持たない。
「……っ、か、は」
「っ、あぅ……」
「っ、ひゅー、ひゅー……」
もう、あいつの顔すら見えない……
「……!!」
「……使えんな。恐らくこの後、仲間が来れば解除されて、お涙頂戴になるところなのだろうが」
「やめろォ!!」
ダメだ、間に合わない。肉壁を突破できない……殺されるのか。三人全員で……同じ場所で倒れている。吾輩達の喉元に、剣が向けられた。終わりなのか……でも、死ぬなら……それもいいのか……この痛みからは……解放されるんだもんな……?
……やだ。
嫌だ、死にたくない。枯れたはずの涙が溢れ出す。みんなでやりたいことが沢山あるのに。早く帰って、ルイのご飯食べたいのに……クロヱを風呂に入れなきゃなのに。こんなところで、死にたくないよ……やだよ、やだ……お願い、助けて……吾輩は、まだ生きてたいよ……無慈悲に剣が突き刺された。
「……何故だ?」
「……わかんねぇよ。でも、それで十分だ。人を助けられるようになれるのなんて……!!」
「ッ、早く殺れ!!」
助かったのか……? あったかい……誰かに抱き抱えられてるような、そんな感じだ。強化魔法が消えた……洗脳も消えてる。指が自分の思い通りに動く……ってことは、いろはとこよりも……でも、どうして? あいつが助けてくれたのか? 自分の力でか……? 自分も、痛いだろうに……骨だって折れてるだろうに。あいつは……見ず知らずの、誰かのために。吾輩が気絶する前に響いてきた……最後の声は。
「だぁらららららぁッ!!」
「あぎゃらばっぽっばぁーッ!!」
「だぁらぁぁぁっ!!」
奴の断末魔と、ガラスを突き破る音……殺ったんだ、あの状態で……そう思いながら。吾輩達は意識を飛ばした。そして、次起きた時は……三人と相部屋の病室だった。点滴がされている……
「……ここは……?」
「病院のようだぞ……」
「助かったので、ござるか……?」
どうやら、幻聴じゃなかったらしい……やってくれたんだ。それと同時に、吾輩の心の中に溢れてきたのは……安心感でも、憎悪でもなく……
「……! こよは、なんてことを……!!」
「私も……あぁ、人を……あの人だって……!!」
「……ひぐっ、ぐすっ」
罪悪感。それが、重くのしかかる……血塗れのあいつに、吾輩達が破壊したもの。殺した人……事情はどうあれ、やってしまったんだ。反省や謝罪で許されることじゃない。泣くことしか、できなかった……
「う、うっ、あ……うわぁぁぁぁぁん!! ごめんなさい、ごめんなさい……!!」
「うぇぇぇぇぇん!! わたしは、わたし、は……うぁぁはぁぁぁっ!!」
「なかないで、くれ、よ……全部、わがはいの、せきに、ん……うっ、うぁぁぁぁぁっ!!」
泣いても、状況が変わるわけではない。罪の意識は消えないし……あの人だって、吾輩達のことを恨んでいるかもしれないんだ。それをわかっていても尚、泣き止めない。途中で看護師が何か言ってきたが、よく聞こえなかった……泣き声でかき消されてしまったから。しばらく泣いて、涙がまた枯れて……
「ひぐっ、私達は……どうしたらいいの?」
「こよにはわかんない……ぐすっ、あの人が生きてるかどうかも怪しいし……」
「……もし死んでたら……」
吾輩達は命の恩人をぶち殺したことになる……そうなったら、二度と立ち直れないかもしれない。そんなことを思っていた時だった……ドアが開かれ、誰かが入ってきたのだ。最初は看護師だと思った……でも、吾輩達はすぐに自分の目を疑うことになった。何故なら、そこには……
「お邪魔しまぁす!!」
「誰……っっっ!?」
「あ、あぁぁ……」
涙が枯れて出ない。その代わりに……罪悪感が再燃する……こいつに注目して気づいた。何かが足りない……大事なものが、足りない気がする。でも、そんな気づきも罪悪感に押し潰された。
「ご、ごめん、なさ……私は……うあぁぁ!!」
「……なんでそんなに責任を感じてるんですか?」
「だ、だって……だって!! その傷は私がつけたのでござるよ!? 大怪我したのだって私のせいでござる!!」
……なんでこいつ、こんなにケロッとしてるんだ? 恨みが強すぎて、逆に笑顔になってるのか? そう思いながら、話を続けて……責任の背負い合いで、いつまでも話がつかない。そんな時……あいつがとんでもないことを言い出した。
「……皆さん! 恨むなら、俺を恨んでください!!」
「な……!?」
「なんであなたに責任があることになるの!? こよの責任だって言ってるのに!!」
あいつはそれを否定した……そして、続ける。
「そ、そんなわけ……!」
「だから、恨むなら俺を恨んでください。悪いのは俺です、俺の悪口はいくらでも言ってくれて構わない……殴ってくれたっていいです。だからもう、自分の責任だと思うのだけはやめてください!」
「……そんなことない!!」
吾輩は必死で否定した。それだけは違う、否定しなくては……!
「ラプちゃん……?」
「お前が助けたから吾輩はここにいられるんだ! あのままだったら、吾輩達はずっとあいつの奴隷だった!! 街だって、お前が来なかったらもっと酷い有様だったはずだ!! お前のおかげなのに……なんで責められなきゃならないんだ!!」
「総帥……」
吾輩が必死にそう言うと、あいつは笑った。まるで、予定調和かのように……
「……そう言ってくれるんですね」
「そうだ、当然だろう!?」
「じゃあ、自分にもそれを適用していいんじゃないですか?」
「え……」
まさか、それを吾輩達に気づかせるために? 今の一瞬でそこまで考えたのか?
「あなた達が戦ってくれたから俺は間に合った。あのままだったら俺は間に合わずに終わってた……街だって、もっと酷い有様だったでしょう。あなた達のおかげなのに……どうして自分を責めるんですか?」
「あ……!」
「……恨んでないの? たくさん大怪我したのに……治らない傷もついたのに」
あいつは頭を横に振る……骨が折れていないかのように直立してるし、そこまでして吾輩達を励ましたかったのか?
「そんな馬鹿な……恨むことがどこにありますか? 俺は確かに怪我をした、でもその代わりに、街のみんなとあなた達の命と心が助かった! 破格の交換じゃないですか!!」
「ど、どうしてそこまで……風真達が女の子だからでござるか?」
「それ、あいつにも言われたな……違いますよ、俺はただあいつの行為、性格、全てを見下し潰そうとする傲慢さ……とにかく、奴の全部が気に入らなかったからぶん殴って、被害者を助けただけです!」
だから助けてくれた……? 気に入らないから?
「そ……それだけ? それだけで、命を懸けて……あいつを?」
「それだけです、他になんの理由もありません! 人を助けるのに理由がいりますか?」
「……いで、ござる」
……そんなのずるい。なんで、そんなに優しくできるんだ。
「ずるい……そんなのずるい……!!」
「なにが!?」
「カッコよく人を助けて、自分で全部責任を背負おうとして、見返りもいらないし傷ついても構わない……おかしいよ!!」
こよりのいう通り……吾輩も同じ気持ちだ。あいつはなんか、看護師さんと話していたが……それを気にしている暇はない。枯れたはずの涙が戻ってきたのだ……
「うっ、うぅぅ……な、なんで風真、泣いて……情けないでござる……」
「いろはだけじゃないよ、こよも……うっ、ぐす」
「わ、吾輩は泣かんぞ……総帥だからな……!!」
もう、泣くしかない。罪悪感を消し飛ばす言葉ばかりかけられて……また泣いてしまいそうになったが……総帥が何度も泣けるか。そう思って耐えていたのに……あいつは。
「……泣いてもいいんじゃないですかね?」
「なっ……!?」
「だって、女の子でしょう? 泣きたい時に泣くのは女の子の特権です! 使わなきゃ損損!! 我慢は体に毒ですよ?」
吾輩達に言ってきたのだ。泣きたいなら泣けと……あのお人好しは。その言葉でまた溢れそうになる涙を堪えて、言葉を紡ぐ。
「お、女の子だと……?」
「女の子でしょ? 男が泣くのは情けないですけど、女の子はいくら泣いてもいいのです!」
「な、なんでだ……どうしてそんなに……優しいんだ……」
あいつは首を傾げた……それは、全てこれらが本音から出た行動であることの証明になった。何かが足りないとしても、こいつはすごく強くて……底抜けに優しいやつだ。
「え? 『泣いていいよ』って……男が言われたら情けないことこの上ないけど、男が女の子に言うのはカッコいいこと……じゃないんですか?」
「……それだけ、なのか……?」
「男ならカッコよくありたいですもの! カッコ悪くはなりたくないです! カッコよくて、タフで強くて優しい! それが漢ってものですよ! 千里の道も一歩ずつ、です!! 漢にいつかなるんじゃない、今なるんです! 明日って今ですからね!!」
そう、サムズアップして言ってくる。そうされた瞬間に……プツンと音がして、涙が溢れ出す。張っていた糸が切れてしまった……そんな吾輩を見るあいつの顔は、この上ない安心に緩んでいた。よかった、泣いてくれて……とでも言いたいのか? このお人好しめ……
「……やっぱり、ずるい……ずるすぎる……! う、ぅぅぅ……うぁぁぁ!!」
「ラプラス大丈夫!?」
「ラプ……!! なんで泣いてるの!?」
みんなも来て、誤解されそうになりながら……事情を説明すると。
「そうだったのか……ラプ、辛かったろ? 2人もごめんな、その場にいなくて……」
三人で、ルイの胸の中に飛び込む。そうだ……やっぱりここは、どんな時でもあったかい。
「かんぶぅ……!!」
「ルイルイー!!」
「ルイねぇー!!」
……吾輩達はこうして、あいつと出会ったんだ。それから……泣き止んで、立ち直ったあと。あいつの顔を見ると……顔が熱い。罪悪感はないのに顔が見られないよ……ルイが勧誘をしてるけど……holoxに来てくれることを考えると、何故か嬉しくなった。なんでだよ……給料はいっぱいいっぱいだろ? 雇えるわけないのに……
「……あの」
「ラプラスさん? お二人も……」
「ありがとね……わざわざ慰めに来てくれて……おかげで、もうすっかり立ち直れたよ」
顔を見ると……とてつもなく嬉しそうに笑っていた。その顔をやめてくれ……顔から湯気が出そうだ。二人もそうなってるし……心臓がうるさい、原因があいつなのはわかってるのに、考えるのをやめられない。負の連鎖だ。それからもお人好しっぷりを発揮して、吾輩達の体を焼こうとしてくる守男は……
「これでいつでも話せるね!」
「おう! また電話番号が増えたぜ、これで8個だ!!」
「早く元気になって……なったら……その」
一緒に遊びに行きたいのか……照れ屋なのに、頑張るなぁ。
「あぁ、一緒に遊ぼうな!」
「ひゃ、ひゃいっ!!」
「……天然女たらしって、こういう人なんだね。エロ本とかで読む人とはちょっと違うけど……」
女たらし……これがか。
「あの、そろそろ昼食の時間なので……部屋に戻っていただけると」
「あ、そうですか! じゃあな、皆! また会おう、アディオス!!」
「あっ、うん、またね!」
……やられた。吾輩達はまんまと惚れさせられたわけだ……
「……全然顔見れなかった」
「風真もでござる……」
「吾輩も……」
三人まとめてやられたな。
「……ははーん。やられちゃったってわけだね」
「わ、わかるの?」
「今までにない顔してたらわかるよ。そっか……まぁ、いい男の子なんだろうね。ラプラスが、こんな簡単に気を許すなんて……滅多なことじゃないよ」
全く……本当に。
「凄いやつだな……」
そう、呟いた。
「……ん」
「起きたか? 丁度おやつ出来たぜ、ラプラス」
「本当か!?」
そうか、今のは夢か……昔の夢を見たな。そうだ、ああやって好きになったんだ。あの後も色んなことがあったな、飛行機事故にあった時は本当に焦った……腕も足も無くなって、それでも戦って……親を殺して。因縁に決着をつけて……今、ここにいられる。これはきっと、奇跡だ……因果律にもなかった奇跡。守男が掴み取った……最高のエンディング。
「眠そうにしてたから、頭を撫でて寝かしつけたらぐっすり寝ちまって……いい夢見たか?」
「あぁ……最初に出会った時の夢だった」
「そうか……あの時はまだ演技してたよな」
でも、優しさだけは本物だった。
「でも、お人好しさは変わらなかったな」
「まぁな……」
「……ホットケーキじゃないか、美味しそうだな! 食べさせて!!」
これも、いつも通り。
「いいぜ、ほら……あーん」
「んっ……美味しい……!」
「好評だな、相変わらず。おかわりいるか?」
……きっと、いつかはまた一人になるのだろう。けど……今は凄く幸せだ。掴んだ奇跡を噛み締めよう、今ある幸せを噛み締めよう……美味しいホットケーキと一緒に。
「いる!!」
「ハッハッハ、OK! ちょっと待ってろ!」
「……幸せだな」
虚しそうな守男を見るのは辛かった。でも、今の守男は……すごく楽しそうだ。大変そうにしてるけど、それでも……これは、吾輩達が全員で掴んだ奇跡だ。誰にも渡さない……吾輩達の一番の、宝物。
「はい、お待たせ……結構寝てたけど、夜寝れるか?」
「寝れなかったら、また寝かしつけてくれよ」
「またか……いいけど。あーん」
始まったばかりの、守男と吾輩の物語。それ
ぞれが掴んだもので手に入れた……非現実的な、ハッピーエンド。でも……あれだけ苦労したんだ。そろそろ報われたって、文句は言えないだろう。
「……ごちそうさま!」
「夜ご飯食えるか?」
「美味しいから大丈夫だ!」
この何気ない会話すら、楽しい。
「本当かねぇ……」
「本当だっての! 吾輩の年齢は地球とタメなんだぞ!!」
「それ何回も聞いたぞ~?」
わかってないな……なら、わからせてやる。
「なら……これでわかるだろ!?」
「ん……!?」
「……っは。わかったか?」
座ってる状態でも、ちょっと背伸びしないと届かない。傷だらけの顔の……頬にキスをした。
「積極的だな……」
「嫌か?」
「そんなんじゃないさ……できれば、これがずっと続いて欲しいな」
そう言って、遠くを見つめる守男……かけられる言葉はない。その代わりに、そっと体を寄せる。守男が何かをしてくることはない……でも、守男は……少し笑ってくれた。それがたまらなく嬉しいんだ……心から笑えるようになって本当によかった。守男の戦争が、報われてよかった……そう思いながら……吾輩は守男と同じ方を、しばらく見続けた。
きっとまだまだ、平和はあります。