今日はちょっと不思議なお話。R18要素なしなので、お口直しにどうぞ。
……学園は今日も平和だ。戦争を終えた兵士である俺は、今日も銃を置いて学園にいる。そんな俺は今……窓際で太陽光を浴びて、うとうとしていた。自分で言うのもなんだが、とても軍人とは思えんな……
「あ、守男がうとうとしてる! かわいい~!」
「でも、こんなところで寝たら頭痛くなっちゃうよ?」
「何か枕にできそうなものない?」
……何か言っているようだが、眠過ぎてよく聞こえん。これまでの疲れってやつか……ツケが回ってきたんだな。
「ん~……そうだ! ビビ!」
「ビビって……トワのペットだっけ?」
「そう、いつもは帽子なんだけど……ビビ、元に戻って?」
……みんなが楽しそうに話している、一体なんのことだ……? 起きたいところだが、如何せん眠すぎる。
「わっ、丸っこくなった……かわいい!」
「……ちょ、ちょっとモフモフさせて欲しいでござる!」
「いいよ? はい」
ヤバい、本当に寝そう。昼休み終わったら起こして欲しい……
「うわぁ、モフモフだぁ……!!」
「あ、やばい! 守男が本格的に寝そうだぞ!?」
「いろはちゃん、もうおしまい! ビビ、ちょっと我慢してね?」
……枕? 誰かが置いてくれたのか……ありがたい、起きたらお礼言わなきゃ、だ、な……
「あ、寝た……寝顔ってあんまり見たことないけど、可愛いな」
「ギャップっていうか、なんというか……」
「おやすみ、守男……」
俺はそのまま、眠ってしまった。
「……んぁ?」
俺はさっき寝たはずだが……ってことは、これは夢か。俺はロクな夢を見たためしがないから、大分不安なのだが……
「ジャスティーどころか、一番出てきそうなルサンチマンの気配すらしない……」
そう思っていると……段々景色がハッキリしてきた。血塗れの何かが見えると思って、身構えていると。
「パパ! 起きて!!」
「……え?」
「え? じゃないよ! 今日はお休みだし、一緒に遊んでよ!」
誰だ、この子は……? 見たところ、6歳くらいに見えるが。夢の中なのに妙にリアルだ……
「ちょ……ちょっと待て。ここはどこだ?」
「え~? パパ記憶喪失? しょーがないなー、ママ! パパが認知症になったよ~!!」
「はぁ!?」
ますます意味がわからない、何故俺は認知症扱いされているんだ。夢じゃないのか? 余りにも感覚がリアルだぞ……
「何言ってるのさ、優一? いいから早く起こしてあげて、ご飯できたから!」
「はーい! ご飯食べたら思い出すよ!! おいで、パパ!!」
「むぅ……?」
そう言われては着いて行くしかない。そう思って、階段を降りる……
「あ、やっと起きた。お寝坊さんになったね、守男?」
「……トワ、か?」
「何言ってるのさ、そうに決まってるじゃん」
いや……おかしい。明らかに何かが違う……雰囲気そのものが変わっている。この夢、一体どうなってるんだ?
「ってことは……優一、お前は俺の子供……? 誰とのだ?」
「そりゃあもちろん、みんなだよ! 僕はトワ母さんの息子!!」
「……そうなのか……」
よく見ると、小さいが角と尻尾がある。ってことは、これは……未来の話、ってことか?
「ご飯置いてあるよ、教えてもらったから美味しくなってると思うんだけど……」
「……うっま、何これ」
「何って、手取り足取り守男が教えてくれたんじゃん。みんなに」
そうなのか……俺、大変だっただろうな。
「他のみんなは?」
「外にいるんじゃない? 遊んでるんだと思うよ」
「あっ、ずるい!! 僕も遊ぶ!!」
俺の息子……と思わしき子が、外に走っていこうとしている。まだパジャマじゃないか、着替えて行け。
「着替えてから行きなさい……優一」
「ちぇっ、はーい……」
「はい、洗濯しなきゃいけないから、顔洗って服脱いで! 守男も!」
……とりあえずやるか。そう思って、洗面所と思わしき場所に行って……顔を洗った。顔は変わらず、傷だらけだな……
「服、ここに畳んで置いとくぞ……あ、ちゃんと畳めよ!」
「やっといて、パパ!」
「しょうがない子だよね……ヤンチャな時期なのかな」
俺は子育てしてるのか? ……俺に出来るのか、そんなことが。そう思っていると、また気になるものがあった。
「……トワ。首に下げてるそれはなんだ?」
「守男がくれたんでしょ? ロケットペンダント……みんな持ってるよ、この写真入れてね」
「集合写真か……」
思い出せん、この体なのに……記憶だけがない。まさかあっちが夢だったのか?
「あ、もう全部畳み終わった……懐かしいなぁ、この写真見てると……あの頃を思い出しちゃうよ。優一に守男のこと言ったら、『僕も強くなる!』って言って……今から筋トレなんかしちゃって」
「……俺も遊んでやりに行く。用があったらまた呼んでくれ」
「うん、最近休めなかったから優一寂しそうだったよ? 遊んであげて?」
……優一、か。頭を掻きながら外に出ると……
「あ、来たよ!」
「パパ、遊んで遊んで!!」
「うぉぉ……わ、わかったから……押すな!」
結構力が強い、とりあえず抱き上げて……ラプラスにやってるみたいに、肩車をしてやった。
「きゃはは、やっぱり高いや!!」
「あ、また乗っけてあげてるの?」
「まぁな……他のみんなは?」
またってことは、俺はちょくちょくこれをやってあげているのか。そう言ったのはかなただ、みんな昔と変わらないな……庭がやけに広い。家もデカいし……
「いろはなら、あっちで練習中。守男に負けてられないって言ってね。ルーナは国の行事だよ、もう女王様だからね……ココとわためは買い物、holoxのみんなもあっちにいると思うよ」
「そうか……ルーナは……みんなも変わってないな」
「なに? 久しぶりに帰ってきた人みたいに……」
久しぶりっていうか、記憶がないんだが……まぁいいか。行ってみよう……
「パパ、見に行きたい!」
「そうか? じゃあ一緒に行くか」
「うん! かなたママ、行ってきます!!」
父親は一人だが、母親は八人だものな。そう思って、言われた方に向かうと……練習場に、嵐が吹いていた。正確に的が叩かれていく……そうか、強くなったなぁ。
「いろは! 頑張ってるな、調子はどうだ?」
「守男!! 見に来てくれたのでござるか? 優一も……」
「動きが速くなったな、それに打ち方も正確だ……柳さんと比べても遜色ない」
そう言うといろはは、顔を赤く染めた。照れ屋なのも変わりないな……未来でもみんなは変わらないようだ。
「やってるな、さむらい……守男!? いるならいるって言ってくれよ……!!」
「悪いな、ラプラス……ここにいたのか。というか、これは……」
「修行場兼、holox本部だ! ここに移転したらどうだ、って言ってくれただろ?」
そうだったのか……頭の上のカラスは、今日も元気そうだ。
「よう……お前も元気か?」
「カァー」
「ハハ、元気そうでなによりだ」
こよりはどこだろう、そう思っていると……目の前が見えなくなった。
「だーれだっ!」
「あ、こよりママ!」
「こら、優一!! 答え教えないの!!」
そこにいたのか……俺としたことが迂闊だった。反応速度まで遅くなってるな……どうやら、しばらく戦争をしていないらしい。
「よう。みんな元気そうで何よりだぜ……他の人達も元気か?」
「うん! 相変わらず沙花叉はお風呂入らないし、ルイねぇのギャグは寒いし……holoxは変わらないよ!」
「それならよかった……新しい薬はできたか?」
さりげなく、研究成果を聞いてみる。こよりは聞いてあげると喜ぶのだ……
「ふふん、よくぞ聞いてくれました! もう少しで完成しそうなんだよね!! holoxの頭脳が作り出した、絶対売れるお薬が!!」
「どんな薬だ?」
「名付けて……カムカムベイビーCくん!!」
はぁ……なんだそれ。
「カムカム……朝ドラ?」
「違うと思うぞ」
「その驚きの効能は、なんと! 理論上はこれを飲んですれば……絶対、100%百発百中で赤ちゃんができる!!」
……つまり、外れることなく一発命中させられるのか。確かに売れそうではある……
「それホントでござるか!?」
「なんで早く言わなかったんだ、早速使うぞ!!」
「おい待て。一体何人増やす気だ」
お前ら、やるのは俺なんだぞ。産むのだって、命懸けなんだから……
「ねーねー、ママとパパ。赤ちゃん増やすためには何するの?」
「あ……」
「……そ、そうだっ!! かなたママとも遊んできなさい、俺ちょっと仕事しなきゃ!」
そう言って、息子を引き剥がす。少し可哀想だが……
「わかりました! 行ってきまーす!!」
「行ってらっしゃい……素直だな」
「あぁ、性格は父親に似たらしい」
……俺に似たのか。じゃあ……まともに育てば、『まともな環境でいた俺』になるのかな?
「……あの子には、戦争させたくないもんだな」
「ほら、またそうなる……守男の話すると、絶対そっち考えちゃうからダメでござるよ!」
「ご、ごめん……」
俺のこれは変わってないんだな……夢にしては、妙にリアルだが、本当にどうなってるんだ?
「……それ、今日から使うのか?」
「もちろん!!」
「で……誰から?」
そう聞くと……こよりは固まってしまった。前も同じような話題でこんなこと無かったか?
「考えてませんでした……」
「おいはかせ!!」
「またくじ引きでござるか?」
多分、そうなるんだろうな。本っ当に、な~んにも変わりない……
「みんな変わってないなぁ……」
「どうしたんだ、久々に帰ってきたみたいに……ずっとここにいるだろ?」
「あぁ、俺はどこにも行かないよ……きっとな……」
多分、大分時間が経ってる。俺がこうなってるということは……戦争は起きていないということ。なんて素晴らしいことだろう……魔王や勇者の死は、決して無駄ではなかった。山積みの死体は戦争を押さえ込んでくれたのだ。本当によかった……
「そういえば……俺の剣はどこにやったっけ?」
「お前の部屋にあるんじゃないのか?」
「部屋……そうか、一人ずつ部屋があるんだな?」
だからこんなに家がデカイのか、納得。金はあるからな……というか俺、なんの仕事をしてるんだ? やっぱり軍人か?
「今日の守男……なんか変な気がするでござる」
「匂いは変わらないけど……」
「あー……まぁ、久々の休みなもんでな。仕事してたら色々忘れちまうんだよ。俺の仕事、何か知ってるだろ?」
それとなく聞いてみる……これでなんの仕事かわかるぞ。
「知らないわけないだろ? 同居してるんだから! モンスター狩りと、時期によってはダンジョン潜り。おかげで収入は十分だ……吾輩達の方がヒモだな、これじゃ」
「……だよな! みんなが居るだけで頑張れるんだ、頑張るのは俺だけでいい!」
「守男は昔からそう言ってるよねぇ……」
そう言われて、自分を省みる……無茶しすぎ、頑張りすぎって何度も言われたっけ。モンスター狩りでいつもは金を稼いで、ダンジョン潜って宝探しか……自分で言うのも何だが、天職な気がする。戦争が起きていない今軍人になるより、そっちがいいだろう。大体は殺せるはずだ、魔王よりは弱いだろうからな。
「本音だからな。そういえば……世界征服の方はどうだ? 上手くいってるか?」
「順調だ! 守男のネームバリューのおかげで、吾輩達holoxも有名になり……今となっては有名人だ!! 世界に吾輩達が知れ渡る日もそう遠くない!!」
「じゃあ期待しとくよ……頑張れ、総帥」
そう言って、優一のところに行く。かなたは大丈夫かな、優一は大分やんちゃみたいだからな……
「おーい、かなた? 何やってるんだ?」
「泥団子!」
「一緒に作ってるんだけど……ダメだね、ボクじゃ潰しちゃう」
泥団子……綺麗にやったものだ、ピカピカじゃないか。
「子供の才能って、どこで発揮されるかわからんな……」
「ふふーん!」
「どれ、俺も……」
やってみようとするが……意外と難しいな。
「ぬ、ぬぬぅ……くっ……!!」
「お父さん、下手だね~」
「くそ……子供に負けてちゃ話にならんぞ」
そう思って、俺が泥団子作りに悪戦苦闘していると……
「ただいまー!!」
「……わため! ココ! おかえり!!」
「あ、守男!!」
買い出しに行ってたようだ……だからいなかったんだな。ちっとも変わってない……安心した。
「おう、起きたか! ねぼすけ!!」
「そんなに寝てたのか……俺もよく寝るようになったな」
「自分で自分を分析してる……」
相当平和らしいな、俺がここまでなるなんて。
「寝ないより寝れる方がマシだろ!」
「まぁ……それはそうだな」
「わため特性羊毛布団が効いたかな?」
そういえば、やけにモコモコしてたが……そうだったのか。
「おい……そんなに羊毛取って大丈夫なのか?」
「そこは大丈夫、抜け毛で作ったから!」
「それならいいんだが……」
わためが寒くちゃ元も子もないからな。
「寒かったら言いなよ? わためが抱き枕になってあげるから!」
「私でもいいよ、守男?」
「……ついでにヤる気だろ、お前ら」
図星らしい。表情が引きつっている……
「そそ、そんなことありませんよ~?」
「……嘘だな。分かりやすい」
「う~! だって!! 最近一緒に寝てくれないから、寂しいんだよ!!」
そうなのか……いかんぞ、俺。ちゃんと一緒に寝てあげないと……
「ごめんな……相手してあげられなくて」
「そ……そうだよ! 寂しくしたのは守男なんだから! わためは……」
「悪くない、だろ?」
寂しい思いをさせてるなら、それは俺が悪い。俺は何を考えてるんだ……? 自分で自分が何考えてたかわからんって、意味不明だな。
「あ、わためのセリフ……! もぉ~!!」
「もぉ~、って……お前いつの間に牛に……?」
「わためぇは羊だよ!! ねぇ、守男も何とか言ってよ!!」
こういう会話も変わっちゃいないんだな……みんな仲良しじゃないと。
「……ん? あぁ……わためは羊だから……牛肉じゃなくてラム肉が取れるな」
「守男まで!? 食べても美味しく……なくはないけど!! 食べないでよ!!」
「美味しいことは認めるのか……」
まぁ、ラム肉は美味いもんな。
「じゅる……ちょっとくらい、齧ってもバレないよな……?」
「ひっ……守男、助けてぇ……ドラゴンに食べられる!!」
「ココ、わためを食べるより普通にジンギスカン買った方が美味いだろ? というか、ちょっと欠けたら普通に気づくわ。バレないとでも思ってるのか?」
わための前でジンギスカンの話するのは……少し気が引けるが、まぁわためを守るためだ。ベンチに座りながら、そんなことを考えた。
「そうか……ちょっと買ってくる!」
「ふぅ、助かった……ありがとう、守男!」
「気にするな、俺はわための彼氏だろ?」
……そう言うと、わためは首を傾げた。何か違ったか?
「もう、守男は……何言ってるのさ! 私達もう結婚してるじゃない! だから……守男はみんなのお父さんなの!」
「……そうか、なんか昔の気分になっちまってたよ。そうだよな、ごめん」
「昔……あー、懐かしいなぁ……みんなで遊んで出かけて、笑い転げて……心配だったけど、すっかり感情豊かになっちゃって。今はもう、普通の優しいお父さんだね!」
……この世界でも、幸せは続いているらしい。よかった……
「懐かしいよな……こうしてられるのが奇跡ってことだ」
「うん……色んなことあったよね。楽しいだけじゃなくて、困ったことや苦しいこともあったけど……それでも守男がいつだって守ってくれたから、怖くなかったよ」
「そりゃあ、よかったよ……」
幸せそうだ……この世界の俺も、みんなも、息子も……
「一番辛かったのは守男、でしょ……? ありがとう……休みたくなったら言ってね? わため達は、ずっと守男の味方でいるよ……もう、あんな思いさせないから」
「……ありがとうな。心配しなくていい、俺は幸せだから。わための心も体も……あったかいなぁ」
「よかった……羊だからね、モフモフだよ? あったかい?」
あったかいな……動物の匂いがする。大嫌いな鉄や血の匂いは、欠片もしない。あるのは優しい暖かみと、わための体の感触だけ。
「……そろそろやめとこう。わためは自分のスタイルの良さを自覚しておけ」
「失礼な、わためはルーナよりおっきいんだよ!? って……あ……」
「性欲、あったらあったで不便だよな」
そうボヤきつつ、優一の相手をしに行こうとする。
「遠くで何言ってるのー?」
「あぁ、悪い! 泥団子、作り直しだ!!」
「……守男なら……いいかも……」
なにか聞こえたが……聞こえないふりだ。そう思って歩を進めると……背中に重たいものが乗ってきた。
「っ……!?」
「ただいま、なのら!! ルーナもそうだけど、守男もお寝坊さんになってきてるのら!!」
「ルーナか、帰ってきたんだな……ルーナは大変だよな、国のこともあるし……」
そう言って、ルーナを労る……相変わらず体は小さいまま、成長は見られない。もしかしたら謎があるのかもしれないが、『まだ』知らない俺にはわからないのだ。
「そうなのら、今日も色々やって疲れたのらぁ……疲れ取ってなのら!!」
「あ、イチャイチャしてる!」
「ル、ルーナ? 優一が見てるからさ、家の中でやろうぜ? ごめん優一、今度教えてくれ。俺はルーナを充電するから」
俺がそう言うと、優一は笑って……
「わかりました、お父さん! 行ってらっしゃい!!」
「はーい……」
「んなぁ~……」
しょうがない子だな……そう思いながら、手を洗ってから二人で座った。
「お疲れ様、ルーナ……疲れたろ? おいで?」
「守男~……やっぱりここが落ち着くのら……」
「俺はどこにも行かないぞ、いつでも充電してやるからな」
そう言って……頭を差し出されたので、撫でておく。
「んふ……いい気分なのら~! 散々な日もこれと美味しいご飯があれば、100点満点なのら!!」
「そんなに価値高いの?」
「プライスレスなのら!! どれもルーナ達専用なのら~」
そう言って、嬉しそうに顔を緩ませるルーナ……毎日こうしてるんだろうか。いや、全然いいんだけどな? しばらく、ルーナを撫でていると……仕事が終わったと思われるトワが、何だか物欲しそうな目で寄ってきた。
「……」
「……トワもおいで? 疲れたろ?」
「ん……」
ルーナと一緒に抱きしめる……同じように頭を撫でると、幸せそうに笑ってくれる。
「毎日やってて飽きないか、これ?」
「全然なのら! 寧ろ癖になってるのら!!」
「これがないと生きていけないよ……」
本当に毎日やってた。トワは依存度が高いな……俺が風邪引いたらどうするんだろうか。
「……俺の手がそんなにいいのか?」
「手だけじゃないよ? 守男が戦った証……傷だらけの体や、顔……男らしい匂いもするし……全部摂取できるから、これがお得なの」
「醜いって言われないのか?」
普通の反応はそれのはずだ。現代ではそう言われてもおかしくない……顔の皮膚があちこち爛れ、焦げた痕が何個も残り……痣や深い切り傷の痕もたくさんある。自分で言うのもなんだが、惨いだろう。
「言われたことはあるのら……でも、いいのら。だってルーナ達は全部知ってるのら……誰かのために殺し合いをしたこと。何回も自分の心の痛みを無視したこと……何回も助けに来てくれたことだって……全部覚えてるのら。だから……ルーナ達にとっては、傷の一つ一つが守男の優しさの象徴なのら!!」
「そうか……ありがとうな」
「自信持って? 守男は優しいし、かっこいいよ……守男は優しいからたくさん傷ついた。優しすぎたから、バカを見た。それでも……お人好しが治らなくて、だから傷だらけなんだよ。でも、そうじゃなきゃトワ達は好きになってない。そんな度を越したお人好しを、トワ達は好きになったの」
お人好し、か……やっぱり、そう言われるのは変わらないな。
「同感なのら~」
「……俺も撫でるの好きだぜ。本当にサラサラだ……」
「髪のお手入れは大事だからね!」
髪の感触に夢中になっていると……優一が家に入ってきた。
「3時だよ! おやつちょうだい!!」
「……とりあえず手を洗ってきなさい」
「はーいっ!!」
おやつね……
「今日はホットケーキ焼いて、みんなで食べる予定だったんだけど……一人じゃ足りないかな」
「よし、俺が手伝うから……さっさと終わらせるぞ」
「よっ、待ってました! スーパーハイスペック男!!」
ココに煽られつつ、ホットケーキ作りを急ぐ。急いでも焦らないように、美味しくなるように……
「よっ、と……トワも上手くなったな。俺とも遜色ない」
「守男にそう言って貰えると……自信つくね!!」
「……っし、あとはメープルシロップかけて……完成だ」
美味そうだ……全員分盛り付けて、みんなに出す。12人分作っておいた、holoxの皆さんにも差し入れといこう。
「わぁ、美味しそう!!」
「零さないようにな? 俺はholoxのみんなに差し入れだ」
「相変わらず律儀だなぁ……」
俺も食いたいし、早く届けて食べるとしよう。弁当の要領だ……大変なことじゃない。走るスピードに変化はないな。修行を怠ってはいないらしい……着いた!
「お邪魔します!! 差し入れですよ!!」
「あ、ちょっと待っ……行っちゃった」
「ホットケーキ……美味そうだな、みんなで食べよう!」
よし……あとは戻るだけだな。
「ただいま!!」
「もう帰ってきた……」
「流石、元弁当配達員だね……」
弁当配達……戦えなくなったら、本当に弁当屋やろうかな? 手を洗いながら老後のプランを立てる。まぁ、今はそれよりも……
「おやつだよな! いただきます!!」
「やけに美味しそうに食べるなぁ……いつもそうだけど、昔の守男に戻ったみたい」
「うん、我ながら美味い……丁度いい焦げ目が香ばしいし、生地の優しい甘み……そこにメープルシロップがよく合う」
みんなが不思議そうにしている……これ、もうやってないのか?
「懐かしいね、その食レポ」
「ん……? 今はやってなかったか?」
「ずっと前からやってないよ?」
そうなのか……する必要がなくなったんだな。味覚が戻ったから……味を感じるフリをしなくてよくなったんだ。
「なんか……昔の教室にいた頃みたい」
「ボクも思ってた……色々あったけど、なんだかんだ楽しかったよね」
「私達、世界で一番波乱万丈な人生を送ってるかもな!」
そう言って、笑う……少しからかってみようか。
「人じゃなくて竜だから、竜生じゃないか? わための場合は羊生だし……」
「こいつ! 言うようになったなぁ!!」
「俺だって変わるさ。平和なんだからな……ごちそうさま」
食べ終わると……眠くなってきた。俺はガキかなんかか……と思っていると、優一もウトウトし始めた。
「う~……」
「あ、寝そうだよ……? 守男もだ」
「守男、一緒に寝てあげて?」
そう言われて、ゆっくり立ち上がる。優一を抱えて、布団を敷いて……お昼寝の時間だ。
「パパ、眠い……」
「お父さんも眠い……だから、一緒に寝ようぜ?」
「うん……」
優一の頭を撫でて、眠らせる……俺も眠ろうか。
「可愛い寝顔……こんなところまでお父さんに似ちゃって」
「守男もおやすみ。夜ご飯、一緒に作ってね?」
「あぁ……わかった……」
そう呟いて、俺は夢の中でも眠った……夢の中で夢を見るのか? そう思っていると……目の前が急に明るくなった。
「ん……ふぁ~……」
「あ、起きた! ビビ、お疲れ様!」
「ビビって……トワのペットだったっけ。もしかして、枕になってくれてたのか……? ありがとう、ビビ」
ビビは疲れた様子で帽子に戻り……トワの頭に乗った。
「いい顔してたね、どんな夢見てたの?」
「……妙にリアルな夢だったよ。内容は……あれ?」
「思い出せない感じ? あるよね、起きた瞬間覚えてるのにすぐ消えていく記憶!」
あぁ、さっきまで覚えてたのに……忘れるのが早いな。少し悲しいが……
「でも、幸せな夢だったことはわかる……『優一』って誰だ? 夢の中に出てきた気がするんだが……」
「知らないな……誰だろう? 昔の軍人仲間、とか?」
「そんな殺伐としてるものじゃない……なんか、愛おしくて手離したくない何かだった、気がするんだ……」
優一……いい名前だな。何だかしっくりくる。
「……まぁ、わからないならいいのら! 夢より今が大事なのら!!」
「……それもそうだな! よし、今日はみんなにおやつ作るよ!! holoxのみんなにも作る!!」
「え!? 嬉しいけど……急になんで?」
わからん、だが……作りたい気分なんだ。
「何となく……作りたい気分でな。そうだ、ホットケーキにしよう!! それがいい気がする!!」
「今日の守男、なんか直観的だね……でもいいや、直感大歓迎! そうと決まれば連絡連絡! ……でも、なんでホットケーキだって即決で決めたの?」
「……なんか、美味しくできる気がするから!!」
放課後……ホットケーキをみんなで食べた。holoxの人達にも届けたが……思った通り、上手くいった。理由は分からないが……まぁ、ともかく喜んでもらえてよかった。
「ふぅ、美味しかった! ごちそうさま、守男!!」
「お粗末さまでした……こうやってられる日々が、ずっと続くといいな」
「……きっと続くよ。何だか、そんな気がするもん」
俺もそんな気がする……あの夢は、きっと普通の夢じゃないんだ。根拠はないが、そんな気がする……あの夢が本当になるように、歩んでいこう。未来は明るい……みんなといれば、そう信じていられるから。
この夢はいつか、本当になる。