どうしても書きたくなったので。
……あの人は、トワにとって……太陽そのものだった。どんな時も変わらずに輝いてた……本当に、宝石みたいに。その人の名前は……
「守男! お弁当、ありがとね!」
「ん? あぁ、トワ! おはよう!! 元気そうで何よりだ!!」
「守男もね?」
堀川 守男……トワの、初恋の人。トワが負けるなんて思わなかった……人間に負けたことなんて、なかったんだけどな。銃の動きを見切ってたような気がする……目付きも違ったし、研究して来てたのかも。その上、彼は龍であるココにも勝利を収めた。料理も上手いし、隙がない気がしていた。
「うーん、美味しい!」
「……」
「あはは、お母さんみたいな顔してる!」
そんな顔をする守男をからかいながら、ご飯を食べる。あぁ、幸せだ……彼のような人に守ってもらえたら、一生一緒にいてくれたら……どれだけ幸せなことだろうか。そう、思っていたのに……
「ルーナは守男の家から競争してたのら!」
その言葉に、思わず固まる。隣にいたわためもだ……守男は悪いことをしていない、そんなことわかってる。でも……悔しい。悲しい……その感情をぶつけても、彼は態度を変えなかった。どうしてそんなに上手いの? もしかして、彼女がもういるの? 考えがドツボにはまっていく……
「今日、トワも泊めてよ」
「え、いいけど……」
「っ、先を越された……!」
わかってる。二人は付き合ったんだ、きっと……でも諦めきれないの。トワも一緒にいたい……でも、そんな器量が守男にあるだろうか? あるはずがない……普通の学生が持ってていいものじゃないから。それでも、言ってしまった。みんなで話し合って、許可を貰えたら守男を共有しようって話になったけど……トワは無理だと思ってた。そして、家に行った後……
「本当にいないんだね、守男以外」
「あぁ、でもいいだろ? どんなことになったって、邪魔は入らないし!」
「……なんで」
どうしてそんなこと言うの? トワはその言葉に期待しちゃうのに。みんなだってそうだ、その言葉はトワを持ち上げて落とす……憤りとか、悲しみとか……感情がぐちゃぐちゃに混ざって、口から吐き出される。
「ん? どうした?」
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
「お、おいトワ……? 俺のことが好きすぎるのは嬉しいが、ちょっと落ち着いて……うおっ!?」
肩を掴む。思いの丈を、叫んだ。嫌われたっていい、想いが実らないことは、わかりきっているのだから。
「守男はいっつもそうだよ! そうやって思わせぶりなことばっかり言って! トワやわためがどれだけその言葉に期待しちゃうかわからないの!?」
「いや、期待してほしいんだけど……」
「そんなこと言って、わかってるんだよ!? ルーナが好きなんでしょ!? ルーナと守男が付き合う、そしたらトワは……捨て、られて……あ、あ゛あ゛ぁぁぁぁぁァァァァァァ」
頭がおかしくなりそうだ。もう、このままおかしくなれば……楽なのだろうか。きっとそうだ……実らないなら狂ってしまえ。あははは。そんなことを思っていた……その時。
「捨てないさ! 俺がそんな器の小さい男に見えるか? 財力だってある、仕事の当てだってある! 問題がどこにあるんだ!?」
「ふぇ……もり、お?」
「トワだって俺と付き合えばいいだろ? 『まだ恋人じゃないから』『付き合ってないから』なんて、クソな言い訳をするつもりはない……責任も持つ、当てもある、受け入れる器も十分だ! 周りにだって責める人はいないさ!」
信じられない。夢みたいな光景だから……夢? いや、間違いなく現実だ。でも、こんなことって……
「トワも……なれるの? 一緒にいてくれるの?」
「もちろん! 一生面倒見てやるさ! 約束する!!」
「……守男!! 好きっ、好き好き……!!」
嬉しい。落ちた先から、思いっきりぶち上げられた。今日は人生で最高の日だ……なんで守男が安心してるの? 安心した顔をして、頭を撫でてる……もしかして、トワのこと心配してたの? お人好しだな……好きな気持ちが溢れる。あぁ、我慢しきれない。もう、いいよね?
「よしよし、俺は約束破らないぞ……トワは可愛いな、悪魔なのに……」
「……ねぇ、守男……?」
「ん、どうし……っ!?」
自分の期待を、守男に聞かせる……恋人なんだから、わがままを聞いてもらおう。そう思って……胸に手を当てさせた。
「聞こえる? 今、トワすっごくドキドキしてるよ……期待しちゃってるんだ」
「積極的だな……もっと大人しくなかったか、トワは?」
「こんなトワは、嫌い?」
ブンブンと首を横に振る守男……あ、顔が元に戻った。
「そんなわけない! 大好きさ! けど……晩御飯食べようぜ? 先に……腹減ったよ。それに避妊具だって……」
「それならあるよ?」
「……逃げ道が塞がれたな。でも腹減ったよ……」
それなら仕方ないか……じゃあ、一つわがままを聞いてもらおう。そう思って……背中に抱きついた。
「も~……仕方ないなぁ。じゃあ……」
「ん……? おんぶしろってことか?」
「トワはずっと抱きついたまま、食べ物も守男に食べさせてもらう。今日はずぅ~っと一緒。それならいいよ?」
トワのわがままを、笑顔で受け入れて……背負ってくれた。あったかい……ザラザラしてる、傷があるのだろうか? 傷は男の勲章って言うしね……おんぶしながら、料理を食べさせてもらったり、洗い物したり……器用なことしながら、お家デート。本当に夢みたいだ……お風呂に入って、甘い香りのする部屋で待ってたら……頭がふわふわしてきた。それから、トワは……癖になっちゃうくらい気持ちよくなった後、守男の初めてをもらった。あの時は本当に嬉しかったのを、鮮明に覚えている。でも、そんな日に限って……夢は悪いものだったんだ。
「……真っ暗、だけど……守男、みんな、いる?」
「グゥオォォ……!! ア゛ァァァッ!!」
「え……なに?」
守男に似た声……だけど、優しさがない。感じられるのは、悲しみとか怒りとか……負の感情だけだった。遠くから聞こえるから、それを辿っていく……
「ガァァァァァ!! ウゴェェェッ!!」
「なに……なんなの? 床に落ちてるのは……?」
「グァァァァァッ!!」
聞けば聞くほど、似ている。床に赤黒い何かが付着し始めた……声に近づけば近づくほど、それは濃く、多くなっていく。その元に、ようやく辿り着いた……人型のナニカが、蠢いている。苦しむように、藻掻く様に。
「誰……? あなたの、名前は……?」
「グゥ、ギィィ……俺、ハ……軍人ジャ、ナイッ……夢ハ、ハーレム、スルコト……ギギギギ……!!」
「ど、どうしたの……!?」
体中から血を垂れ流しているそれは、聞けば聞くほど愛しい人に似た声をしていた。でも……違うはずだ、声も姿も違いすぎるもの。背中を向けていて、姿が見えないが……ナニカが、こちらを振り向いた。
「俺ハ、普通ノ、学生……ア、ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
「そ、それ……なに……?」
「……!? ヤ、メロ……トワハ、ミンナハ、関係ナイ……!! グギィィィィァァァァッ!!!」
人型のナニカは、笑顔の仮面を被っていた。仮面の穴という穴から、血が湯水のように溢れている。それは悲鳴が激しくなるのに比例して、多くなっていく……トワの足元にも、赤黒いそれが及んできた。よく見ると仮面はヒビだらけでボロボロだ……誰なのだろうか? 守男に声が似すぎている……優しさが一切感じられない以外は。
「痛い、の……? 大丈夫!?」
「ッ!?」
「とりあえず、手当しようよ……痛いでしょ?」
ナニカを引き寄せようとした、その時。ナニカは……無数の鎖に縛り上げられた。
「ア、ガ……」
「あっ、待って……!! その人を連れて行かないで!!」
「……」
それは鎖と、出てきた無数の手に引きずられて消えてしまった……視界が一気に明るくなる。目が覚めたらしい……服は着てない、昨日のことは現実だ……悪い夢のことは全部消し飛んだ。守男の口周りが赤い……そうだ、口紅がついたんだな。たくさんキスした気がするし……なんて幸せなんだろう。でも、とりあえず……
「……お弁当作るんでしょ? 布団はどうしよう、結構汚れてるけど……」
「……洗濯機ぶち込むか」
「そうだね……」
後片付けをして、何事も無かったかのように学校に向かった……幸せな日々が続くって思ってたのに……事件は起きた。
『魔王軍出現 一人が交戦』
「……まさか!?」
「そうかもしれない……行こう!!」
全員で、その場に急ぐと……やっぱりいた。守男だったんだ……血を吐いて、今にも倒れそうな状態だった。虫の息の女の子が三人、手を繋いで倒れてる……燃えるビルの中に、男が一人。聞いた話だと、あれが魔王軍四天王『不退転の軍師』らしい。それから、守男を病院に連行して……三人を見事なくらいにたらして。
「女たらし」
「唐変木」
「なんでそんなに言われなきゃならないの!?」
文句を言いながら、平和が戻った。これで……三人増えて賑やかになりながら、日常に戻れるんだな。そう、思っていたのに……現実は残酷だった。本当に……あまりにも。そして……一番残酷な真実を悟ってしまうのも、ここでだ。守男の明るさは……性格は、全部嘘で……演技だってことを。
『臨時ニュースです。北海道行きの飛行機が着陸に失敗し、爆発しました。生存者は一人のみ、救急隊員を無視して走り去ったとのことです。これが顔写真ですので、見かけた方はこちらまでご連絡ください。繰り返します……』
「え……そ、そんな……」
「そんなの……嫌だ……こんなの、嘘だ……!!」
ラプラスが信じたくない気持ちを爆発させる。トワも信じたくない……それは、守男だった。焼け焦げて分かりにくいけど、間違いない。学校が終わって、すぐに向かった……すると、案の定病室にいるらしかった。障害を跳ね除けながら進む。
「どけったらどけぇぇっ!!」
「ぐぁぁ!? なんて馬鹿力だよ……ドラゴンってこんなに強いのか!?」
「守男……!!」
ドアを開けると……そこには、間違いなく守男がいた。でも……雰囲気が明らかに違う。
「……元気そうでなによりだ! 俺は元気だぜ、ピース!」
「なぁにがピースだぁぁぁー!!」
「おぉぉっ、揺らすな揺らすな……!」
ココが感情に任せて守男を揺さぶっている……不自然だった。守男が、学芸会の演技をしてるみたいに見えたんだ……あれは、一体? いつもの守男じゃない……それから、話を聞いていくと……守男は腕を一本切られてしまっていた。それも驚いたが、トワはそれよりも……おかしいな。そう思えて仕方がなかった。
「なんで知らせてくれなかったのら……?」
「……一人で突っ込む方が都合がいい。奴らは人質を取ってくるだろうし……バルカの時のことを忘れちゃいないだろ? それに、飛行機に乗ってたら爆発に巻き込まれて終わりだった。結果オーライってやつだよ」
「……なんか、変だよ? いつもならもっと、おちゃらけて話すのに……」
明らかにおかしい。それにこの声、聞いたことがある……あの夢だ。仮面を被ったナニカにそっくりなんだ。ってことは、あれは本当に守男なの? 何となく、わかってしまった。でも……認めたくない。これが本心で、あっちは演技。そんなの嫌だ、あれが本心であって欲しい。トワは現実逃避をしていたんだ……それからはおかしなことが、次々起こり始めた。
「美味しい?」
「美味いよ? なんで聞くんだ?」
「いや……表情が変わらないから」
一切表情が変わらないのは、おかしすぎる。まるで、味なんか感じてないみたいで……その現実逃避は、すぐに終わりを告げることになった。魔王軍が、登校中に襲いかかってきて……守男が戦って、腕を一本落とされた上、爆発で焼かれた。さらに……守男が爆弾を吐かせろと言い出した。そんなこと言われても、どうすればいいの?
「は、吐かせるって……」
「こうやるんだよ!!」
「うっ……ごぇぇ!!」
守男は次々敵の胃を殴りつけて、血反吐と一緒に魔法玉が吐き出されていく。血が流れすぎて、どっちの血なのかもわからない……それから、決定的なことがあった。守男が物凄い剣幕で、尋問をしていた時のことだ。魔王軍は洗いざらい情報を吐いて、命乞いをしている。
「……私情? 情けをかけるのは、私情……う、うぐ……うおおおおお!!」
「そ、そんな、どうして……いやだ、嫌だァァァァーッ!!」
「……無理だ……俺には、とても……捕虜を殺すなんて……できない」
そう言って、剣を下ろした守男は……悲しそうな顔をしていた。今までの何よりも……捕虜って何なの? 私情って、どういうこと? みんなそう思っている……先生が来たので、それを説明すると……先生まで困惑してしまう。話を聞いた先生が、心配そうに声をかけに行こうとすると……
「お、おいどうした堀川? 大丈夫か……?」
「……戦争……そうだ、まだ終わってない……奴はどこだ……」
「た、立った……馬鹿な!? 骨はどうなってるんだ!?」
うわ言のように呟きながら、未だ流れ続ける血と取れた自分の腕を無視して、どこかへ向かっていく。そこに三人も来て、みんなで止めに入る。
「行っちゃダメ!! 病院行くっていう約束したでしょ!?」
「くっ……骨が折れてるっていうのに、なんて力だ!! 本当に人間……いや、そもそも本当に生物なのか!?」
「その体じゃ戦えないから! お願い、止まって!!」
必死に声をかけても、聞いている様子がない。まるで別の世界にいるみたい……私達のことが見えてないんだ。守男は違う何かを見てる。それは何? 考えても、わからない。守男がまた、何かを言っている……それは近くにいるトワ達の耳に当然入ってきた。
「……」
「……なにか、言ってる?」
「人肉を喰い……レイプして……虐殺して……捕虜の人を……あんな目に……助けてあげたいって思うのは甘えで、私情なのか……異常、なのか? でも、俺にはできない……彼らが、正しい……? じゃあ、打ち倒すべき……ワルモノは……俺……」
トワは、戦争をしたことがない。それでも、守男の呟いていることが猟奇的で、狂気の光景であることは理解できた。どうしてそんなことができるの? 考えても、それだけは理解できない……できていいはずがない。
「捕虜虐待……人肉食い……民間人虐殺に強姦だと? 全て戦争犯罪だぞ!! どういうことだ、堀川!?」
「一体どんな生き方してたらそんな単語が出てくるのら!?」
「わかんないけど……ここで止めないと、何もかも終わっちゃう気がする……!!」
守男が止まる様子はない、だが……このまま進ませたら全てが終わる。それだけは確かだ……そして、守男はついに……トワの現実逃避を、粉々に打ち砕いた。
「俺は……まだ、戦争をしなければ……終わっていない……のに……」
「せ、んそう……?」
「……堀川、お前は……少年兵、なのか……? いや、馬鹿な……有り得ん! だって……」
戦争。その言葉で、パズルの最後のピースが嵌ってしまった。辻褄が合ってしまった。つまり……あの時の守男は、全部嘘だった。その真実が、のしかかってくる。認めたくないのに、世界全てがそれを証明してくる。その場はこよりが睡眠薬で抑えたけど、一時しのぎでしかないだろう。みんなで守男について調べることになり、一旦別れたが……
「……何の収穫もなし、か」
ダメだ、守男については何もわからない。何なの? 学校は休んでしまった……守男は起きたかな? 嘘だとわかったのに、彼のことを考えてしまうのは……惚れた弱みなのだろうか。ふと、気分が変わるかと思ってテレビをつけた……その時。
『臨時ニュースです。堀川コンツェルン社長、堀川 干満(38)さんが、息子である堀川 守男(19)さんの、恋人への暴力をマスコミにリークしました。これに関して堀川さんは、『息子からは脅されていたが、正義感が許さなかった』と語っています。容疑者現在も逃走中で服装は……』
「なんで……!?」
こんな事実ないのに、何を言っているの? 親はいないんじゃなかった? 生きていたってことは……隠しておかなきゃならなかったってこと? どうして? 疑問は止まないが、とりあえず追いかけなくては。家を飛び出して、みんなと合流する。
「守男は!?」
「多分あっち、あっちから音が聞こえるから!!」
「急ぐよ!!」
お願い、無事でいて。そう願いながら、向かった先にあったのは……両足が取れて、ついに四肢を全て失い、血を垂れ流しながら、死体の前で倒れている守男だった。絶望より前に、不安が襲ってくる。
「足は取れちまったよ……気をつけろ……みんなも悪人に、される……」
そう警告して、倒れてしまった。早く病院に連れて行かないと!
「え……ど、どういうことなのら!? なんで骨が抜けて……」
「とりあえず病院連れてこう!!」
「誰がこんなにしたの……!? 起きたら聞かないと……!!」
急いで病院に連れて行った……なのに。
「犯罪者だ! 連行しろ!!」
「えぇっ!?」
「もう根回し済みかよ……!!」
どうして? なんで、守男ばっかり……そう思えて仕方ない。民衆から逃げている時、電話がかかってきた……ラプラスからだ。
「もしもしラプラス!?」
『トワ様!? 病院はダメだ、もう親が根回ししてる!! アジトに来てくれ、場所を送信するから!!』
「わかった……!! みんな、アジトに行くよ!!」
そう言って、アジトに運び込む。こよりに守男を預けると、ラプラスが何時になく真剣な顔でこちらを見てきた。いろはもだ。
「どうしたの? 急に改まって……」
「みんなには教えておかなきゃならない……真実をな」
「真実って……なに?」
ラプラス達は、苦しそうにしながら……真っ青な顔で全てを話してくれた。『マインドシェアマシン』で記憶を見たこと、それが耐えられない程に残虐であったこと。その内容はとても話せなかったので、紙に記入して渡してくれた。その内容は……ハッキリ言って、見るに堪えないものだった。狂気、残虐、殺意……それしか、守男の人生には存在しなかったのだ。あの時の夢は、夢じゃなかった。きっとあれは……本当に血反吐を吐きに行っていたんだ。演技をするために……
「……守男が、何したの……?」
「何もしてない。ひとつ、確実に言えるのは……奴らはド外道だ」
「ふざけんなっ!!」
ココが怒りに任せて、机をぶっ叩いた。紙をクシャクシャに丸めて、ゴミ箱に放る……これまでにない程、怒りが感じられた。でも、それはトワだって同じ。トワも同じくらい……いや、それ以上に怒っている。他のみんなも……
「許せない……」
「ぶっ飛ばしてやるのら……!!」
「……ラプラス。一つだけ……確認させて」
これだけは、聞いておきたい。
「トワ様……何ですか?」
「守男はトワのこと……みんなのこと、ちゃんと好き? 守男は心の底から、優しい? それとも……あれも全部、嘘だったの?」
「……好きだった、みたいですよ。恋人としてじゃなくて、守る対象としてですけど……でも、これだけは言えます。あいつは……あんな目に遭っても、心の底から……本当の本当に、誰にでも優しかった。保証します」
「風真も見たから、知ってる……彼の優しさだけは、嘘じゃなかったことを」
それなら、よかった……彼に惚れたのは、間違いじゃなかった。トワ達を守るために頑張ってくれてた彼は、嘘じゃない。本気で……守りたくて仕方がなかった。だから、大嫌いなことだってやったんだね……
「……行ってくるよ、ラプラス。やらなきゃならないことがあるから」
「奇遇だな、私もだよ」
「ボクも」
みんなが立ち上がる。向かう場所は、決まってる……奴らの住処、堀川コンツェルン本社だ。
「行ってくるね、みんな」
「守男によろしくなのら」
「……行くよ」
目的はただ一つ……復讐と、救済。あんな腐れ外道の鎖なんか……今すぐ断ち切ってやるさ。
「……随分と来るのが早いのね、男を見る目がないおバカさん達」
「よう、クソ女共。テメェのお仲間には色々言って貰ったぜ……? 散々な言われようだった、あー『傷ついた』なぁ!! 痛めつけていいよなァ!? 俺は『弱者』なんだからよォ!!」
「このクソ野郎共が……覚悟しろ……!!」
男が鎖を、女が魔法を展開する。お互い、殺す気だ。
「守男の仇、討たせてもらうよ……!!」
「あの無能猿の仇ですって? 猿と付き合うと、恋人の知能も落ちるのね。いえ、レベルが同じだから付き合ったのかしら? お姫様も子供みたいだし……レベルが子供以下の奴が付き合えるのは変ね? だからあいつは死ななきゃならないのよ」
「使い物にならねぇ道具を捨てて……何が悪いんだよ!?」
攻撃を躱して、銃弾を撃ち込む。それらは全て鎖の盾に弾かれてしまった。鎖がトワ達を縛り上げるために、どんどん伸びてくる。
「自分の子供を道具扱い……それでもあなた達人間なの!?」
「法は家庭に入らずだ!! そんなことも知らんのか!?」
「アンタが使っていい言葉じゃ……ないよ!!」
壊しても次が湧いてきたり、再生したり……なんて奴だ。
「あんなことしてなんとも思わないのら!?」
「思うわけねぇだろ!! 魔法も使えねぇ、天才でもねぇゴミに……生きる価値があってたまるか!! 奴はこの血筋の恥だァ!!」
「ゴミはテメェらの方だろうが! 絶対に許さねぇっ!!」
ココがドラゴンになった、あれを使うのか。
「喰らえ、クロスファイアブレス!!」
「うぉっと……!!」
「燃えて無くなれぇ!!」
奴らは防戦一方だ、今なら……そう思った時だった。
「ココ、後ろ!!」
「な……ぐぅ!?」
「攻撃に夢中になり過ぎたわね……」
鎖が体中に巻き付けられる。そして……
「切り裂け!! 『ブレードチェーン』!!」
「がぁぁぁぁっ!?」
「ココを離せ!!」
刃がココの大きな体中に食い込む。止めようと攻撃を仕掛けたが、それがまずかった。
「知ってるか? この鎖は……無限に伸びんだよ」
「あっ、ぎ……!!」
「殺しはしないわ、アンタ殺したらお菓子の国が黙ってないからね……干満。気絶させて」
鎖の締めつけが強くなる。気道を締めて気絶させる気だ……ダメだ、意識を保てない。
「あぁぁぁ……!!」
「流石はドラゴン……ヒビを入れるとはな。だが!!」
「『フレイムブレード』!!」
大地魔法。炎を纏った土の剣が、地面から生えてきた。それがココを傷つけて……気を失わせてしまった。
「う、うう……!!」
「頼みの綱は居なくなった……さぁ、とっとと気絶するんだな!!」
「嫌、だ……!!」
そう言った瞬間、魔法が次々に飛んできた。
「ぐっ、あ……!!」
「あぎっ、う……!!」
「わため!! かなた!!」
まずい、気絶しかけてる。どうにか、どうにかしないと……守男なら。守男ならこんな時、どんなことをするだろうか? そう考えて……銃を使って、鎖に撃ち込んだ。
「何をしている? 無駄だぞ!!」
「……それは、どうかな……?」
「なっ、同じところに撃ち込まれすぎて……ヒビが!?」
それを見て気づいたルーナも、全開で鎖に攻撃し始めた。
「お願いなのら、かなたにわため……逃げるのら!!」
「で、も……」
「守男なら……きっと来てくれるから。トワは、今でも信じてる……惚れた弱みかもね。これを伝えて……おね、がい……」
締め上げがどんどん強くなる。最後の力で、ありったけ撃ち込んで叫んだ。
「守男を、連れてきてッ!!」
「……ッ!!」
「あぁぁぁっ!!」
二人は全速力で走り始めた……無論、逃がそうとはしない。
「逃がすかぁ!!」
「がっ……」
「うっ!!」
ダメだ、逃げきれない。そう思っていた時……
「行かせない、のら……!!」
「も、餅……!? ふざけやがって、離せぇ……!!」
「クソッタレ共がァ!!」
そう言って、今度こそトワ達は意識を失った……逃げ切れただろうか? その答えは、すぐに出た……
「……ココ! トワ! ルーナ! 無事だったか!!」
「も、守男……やっぱり来てくれたのら!!」
来てくれた。二人は間に合ったんだ……深く安心する。そこからは、誹謗中傷を受けながら守男は戦った。途中、本当に死んだかと思ったけど……最後には。
「ま、待て……! 弱者を痛めつける気か!? 私は、社会的弱者の肩書きを何個も持って……」
「知るかぁぁぁっ!!」
「ぐぅ、っが……」
父親が、真っ二つに割れる。血を垂れ流しながら、左右に半分ずつ倒れた。
「そ、そんな……馬鹿な!?」
「守男……守男ぉ!!」
「次はお前だ……!」
そう言って、向かっていく。途中で剣が折られたが、守男はパンチで奴を貫いた後、マシンガンで奴を蜂の巣にした。ようやく決着がついたんだ、これで解放されるんだね……そう思っていたのに、現実は非情だった。かつての隊長や軍医の復活が、また守男を苦しめる。魔王城に乗り込む時、彼はまた一人で行こうとした。それは嫌だったから……もう、策は考えてあった。
「……だから!」
「……なんでくっつくんだ?」
「絶対離さない、どんなことされたって絶対にね!! 何を言われても、絶対ぜーったいついて行くからね!!」
そう言って、意地を張る。守男が折れて、連れて行ってくれることになった……そこでエミリシアと戦ったはいいものの……今度は学校が襲撃を受けてしまうことになったのだ。
「……ジャスティーッ!!」
「う、嘘……!? 皆は!?」
「わかんないけど……とりあえず消防車……!」
消防を呼ぶためにスマホを手に取ると、もう守男はいなかった。ジャスティー、隊長の名前。そいつがやったらしい……また、一人で行ってしまったんだ。
「い、いない!! また勝手に……焼け死んじゃうよ!!」
「もう止められないよね……無茶しかしないんだから……」
「もう……守男のやつ~!!」
しばらくすると、ラプラス達が逃げてきた。トワ達はその間に、三人と合流できた……
「守男が助けてくれた……中に残ってるのは守男だけだ」
「ってことは、今……」
「多分、戦ってるんだと思う……って!?」
ズドォォォン!!
爆発音がして、人が飛んできた。守男だ……
「も、守男だ……!!」
「守男、大丈夫……!?」
「まとめてプレゼントだ、一人残らず受け取りな!!」
そう叫んで、ミサイルランチャーを撃ってくるジャスティー。トワや他のみんなも攻撃に参加したが、あいつには掠りもしなかった。経験が違いすぎるんだ……でもそんな殺し合いも、最後はあっさりしているもので。
「……先に地獄に行け、ジャスティー」
「は……? あ、が……?」
「……影燕グレイトスラッシュ返し」
奴の体が肩から胸にかけて袈裟斬りにされ、ずり落ちた。奴はもう動かない……赤い液体が、奴を中心に流れていく。あんなに元気だった、ジャスティーの内蔵が転げ出した……これが戦争なんだ。守男は銃弾を受け取ると、脇目も振らず走っていった。決着をつけに行ったんだ……
「とりあえず、死体処理だな……警察にも連絡しないと」
「……はぁ、なんでここまで差が開いちゃったんだろうね」
「わかんない……私達なりに頑張ってるんだけどな」
届かない壁がある。それは経験の壁……何人殺したか、何回殺されかけたかの壁。一生かかっても越えられないし……越えたくない。もし越えてしまったら、壊れる気しかしないから……守男はそういう意味でも、異常なんだろう。
「……でも、ダメなところだってあるじゃん」
「すぐ無茶するよね……心配ばっかりかける」
「武器も体もよく壊すし、腕と足すら吹っ飛ぶし」
そうだ、彼は無茶苦茶すぎる。だから……面倒はトワ達が見てあげなきゃ。彼はトワのために、みんなのために……どこかの誰かのために、自分の嫌なことも、気が狂うとしてもやってみせる……お人好しだから。
「だから、こよ達は居てあげなきゃならない。どれだけ怪我しても大丈夫なように」
「……じゃあ、待ってようか。戦う男の帰りを」
「男は一人で戦うもんだよな、やっぱり」
学園には居られないので、避難所に行った。ここなら安全だ、そう言われて待っていた時……最悪は、連鎖した。浦下直哉が、殺しに来たのだ。
「よぉ……あのクソ野郎の仲間だろ? 死んでくれ」
「これが正義だぁ!!」
「なっ……がはっ!?」
一人殺されてしまった。大量の人が入ってくる、トワ達は立ち上がって戦闘態勢をとった。
「この……!!」
「ぐごっ……」
「うぉらぁっ!!」
どうにか捌いているが、時間の問題だ。みんなも戦ってくれているが、どんどん侵入されている。量が多いのだ……限界が近い。そんな時……
「くっ……うぅ、ごほっ……」
「フレイムタイフーン!!」
「ギャッ……」
次々、敵がバラバラになっていく。あの技は守男だ、そう思っていると……顔が歪んでいた。ぐちゃぐちゃになった顔と、血を垂れ流し続ける口。慣れていなければ見るに堪えないものだ。
「守男……なの? ふぅ、ふぅ……魔王は?」
「殺した、よ……ごほっ、ごはっ……」
「あ……血が!!」
激しく血が流れ落ちる。ペットボトルから水を捨てたような音がしながら、ダラダラと……心配して、自分が疎かになっていた。後ろに銃を持った市民がいる。避けられない。
「やめろ!!」
「う……ベッ」
「トワの心配より自分の心配してよ……!」
そう言うが、守男は聞き入れてくれない。
「俺は丈夫だからいいんだ……みんなは撃たれたら死ぬし、動けなくなるだろ……?」
「それが普通なの……麻痺しちゃってるんだよ!」
「生まれつき麻痺してるようなもんだから、元がどんな感じだったのかわからないな……」
笑みに浮かぶ、僅かだが確かな狂気と諦めの色。これが戦争の産むものなんだ……恐怖すると同時に悲しい。優しい守男ですら、こうなってしまう。こうならざるを得ないのだ……下手をすればジャスティーになる。それが戦争なんだな……
「こんのぉ!!」
「ごほっ……まとめて食らえ……!!」
「は……?」
ズガドォォォン!!
手榴弾が炸裂して、人が吹き飛ぶ。血や肉片、内蔵に腕や足……それらが散乱して、飛び散っていく。思わず目を瞑ってしまうが、守男はなんともなさそうだ。慣れているんだろう……それから、奴が出てきて……署長さんが来た後、奴はルーナを人質に取った。頬を抉られて、動けない。金とヘリを要求している……いろはが正々堂々戦うように言ったが……
「正々堂々? そんな言葉あるかよ。大体、人間って生き物自体ずる賢いもんだろ? それで戦争して、誹謗中傷とかしてきたわけだしよ。俺は人間として、生物として生きてるだけだ。俺は生きるためにお前ら全員犠牲にする……何が悪い? 人間ってのは、汚い生き物なんだからよ。善人ってもんが間違ってる、正しいのは俺だ」
「貴様は……!!」
「なに、言ってるのら……それを抑えるのが人間なのら! 抑えられない奴が人間を名乗るななのら!! こいつの方がよっぽど人間失格なのら!!」
ハッキリと言うルーナ……浦下はイライラを隠そうともしない。
「その子の言う事は正しい。そもそも、人間はそのままでは生きる価値がない。自分の悪意を抑え、それを正しく使い、制御しなければならないんだよ。それは全ての人間の義務だし、どんな人でも国でも適用されるんだ。生きる価値は最初からあるものじゃない、制御を続けて、義務を果たして、ようやく手に入る希少な物なんだ。お前も私も人間だ……その違いは、生きる価値があるかないかだ!!」
「……もういい! 死ね!!」
「ルーナ!!」
そう言われて、放り投げられた。撃つつもりだ……間に合わない。そんな時……署長さんが、ルーナを庇って銃を撃った。
「がっ……ぐぅおぉぉ!!」
「うがっ、あ……」
「食らえっ!!」
こよりが薬を投げて、麻痺させる。
「ぐぅ、動けん……!?」
「こよ特性の麻痺薬……今だよ!!」
「ごっふ、ダッシュ……スラッシュ……!!」
浦下は、横一文字に切り裂かれた。血が垂れ流され、断面から内蔵が露出する……署長さんも地面に倒れてしまった。
「署長さん……!」
「私は助かるよ……今の治療技術はすごいから、な……ごはっ!!」
「喋るな、傷が開く!!」
署長さんが、守男に話しかける。
「ひとつ言わせてくれ……君達は、数少ない善性の人だ……誰かのために、努力できる人だ……だから、生きてくれ……私は、人間だ……だから、人間の未来を信じる義務も、ある……犯罪者を、生きる価値のある、人間にしようとするのが、刑務所だから、な……善性の人間ばかりではないが……人間全てを滅ぼすと……悪意を制御している人間達まで、巻き込まれる……無論、私も……だから、やめて欲しいんだ……」
「……はい。俺は人間の味方ですよ……あなたのような人のために、俺は戦いたいです……」
「……終わった」
市民の波が止まった。どうやら、終わったらしい……これで完全に終わりだ……死体が処理され、病院にて。
「……守男、調子はどう?」
「いい感じだぞ」
「……」
ダメだ、変わってない。戦争が終わっても、守男は幸せそうじゃない……これまでが幸せじゃなさすぎたんだ。欲求だってないんだし……仕方ない。傷もそろそろ癒えてきた頃……いつものように、みんなでお見舞いに行ったら、彼がいなかった。外出したらしい……
「どこに行くとか聞きましたか?」
「いえ、歩いてくるとしか……」
「そうですか……」
また危ないことをしていないだろうか? 不安になってしまう……
「探そう!」
「じゃあ、ボクはこっち!」
「ルーナはこっちなのら!」
みんなで捜索していると……守男がいた。ただし、血塗れで。辺りには銃や剣などの凶器が転がっていて、平和な公園には血の海ができていた。肉片が血の海を泳いでいく。すぐにみんなも来た。
「も、守男……? それは……」
「……暴力団だよ。お前がルサンチマンを殺したから、金がないって言って……殺しに来たらしい。何発か撃たれて斬られたから……反撃したんだ」
「そう、なんだ……」
ボタボタと滴る血。顔から垂れていくそれが、トワには涙のようにも見えた。
「殺すのは……辛い?」
「辛かった。だけど、もう辛くない……一人、また一人って、野菜でも収穫してるみたいな……何の感情も沸いてこないんだ。終わってるな、人間として……俺も所詮ジャスティーの同類ってことだよ……」
「ち、違う……あんなことがあったら、誰だって!!」
その顔に浮かぶのは、心の底からの諦観と虚無。目の前の地獄に何一つ感情を抱けない自分への、呆れ……嘘だ。こんなのって……ない。
「事情があったら、人に迷惑をかけていいのか? 人の肉を喰らっていいのか? 一般人の女性を強姦し、挙句殺害してもいいっていうのか? ……いいわけねぇだろ? そういうことだ……」
後ろを向いていて、顔が見えない。そのままどこかへ歩いていこうとしている。
「どこに行くの……?」
「さぁな……でも、ようやくわかったよ。戦争はこういうものなんだ……希望も何もありはしない。俺にだってそれは平等だったのさ」
「……待ってっ!!」
本当に、そうなの? どうにもできないの? トワにはわかる、みんなだってわかってるはずだ。守男は優しすぎる、優しくなかったらあそこまでしてくれない。演技なんてしないはずだ……事実トワ達を見捨てて、殺しに行けなかったから。聞こえないはずなのに、音がする。ガラスにヒビが入るような音……守男の心が無くなる音だ。守男は血を被りすぎた……たった一人で。液体の中で人間は呼吸できない。呼吸ができなければ、死ぬのは必然……何ができるだろうか……体はもう、走っていた。
「なんだ……ッ!?」
「行かないで……!!」
「や、やめろ離せ……手が、手がっ……!!」
腕も手も血塗れ。だからトワの手も、当然血に塗れることになった。血の海の中に足を踏み入れたから、靴も血に塗れる。
「これが守男の、味わってきた感覚……」
「やめろって!! 血塗れなのは俺だけで十分だ!! 皆は日常に戻れるだろうが!!」
「守男だって戻れるのら。だって、血塗れになっても……何人殺しても、守男は……世界一のお人好しなのら」
振り払おうとしない。振り払ったら、転んで血の海に沈んでしまうかもしれないから……こんな時まで考えてるんだ。トワ達のことを……
「お人好しお人好しって……人撃ち殺すのに躊躇しない奴のどこがお人好しなんだよ!?」
「それは仕事だから、だろ? 仕方ないさ……例えば」
「っ……?」
ラプラスがいつになく真面目な顔をしている。
「ここでもしも、吾輩がお前に攻撃したら……お前は、吾輩の首を落とせるか?」
「無理に決まってるだろ……? どんな事情があるのかとか考えるよ……」
「だろ? バルカの時に吾輩達を殺さないでいたのは、お前がバカだったからだ……殺せば速攻で終わるのにな」
そうだ、他にもたくさんある。どんな時だって、トワ達を最優先で……被害が出ないようにして、そのせいで追い詰められたり……でも、最後にはちゃんと勝っちゃう。
「それは……」
「守男は、心まで血塗れになってない。ジャスティーと同じなわけないよ……わかんなくなっちゃったら、わかるようになればいい。戦争は、終わったんだからさ……もう殺さなくていいの。守男は兵器なんかじゃなくて、ただの優しい軍人さんだよ」
「……俺と一緒にいると、血塗れになるんだぞ」
それでも構わない。
「血なんて幾らだって、一緒に被るでござる。風真も、仕事柄何人か殺したことはある……今更遅いでござるよ」
「殺した数が違いすぎる……何千人殺したのかも覚えてないんだ……」
「……ねぇ、守男は私達のこと好き? 本心で答えて」
そうだ、それだけでいい。
「それは……好きなはず、なんだ。好きになれるようになったはずで……恋愛感情があるはずなのに……」
「わかんないなら、わかるようになるまで待つよ。まだ時間がかかるだろうから……それまでは、血をゆっくり洗っていこう。ね?」
「……あぁ」
ここから、元に戻す。何がなんでも、救ってみせる。守男の心を……それで本当にハッピーエンドだ。それから時間が経って、リハビリで感情が戻ってきても、警戒とかが消えることは無くて……戦争がまだ、終わっていない。守男だけが、まだ銃を捨てられてないんだ。敗残兵が、戦場を彷徨ってる。
「どうすればいいと思う?」
「う~ん……何かきっかけがあれば、一気に回復しそうではあるんだけど」
「思い出を作るっていっても、何が思い出になるか……」
そう……だから、手当り次第にやるしかない。遊園地も何もかも、試せるだけ試す。戦争を記憶の底に沈めるくらい、幸せな思い出を作るために……守男は戦争と、労働と演技以外やったことがないから、全部が初めてなんだ。教えてあげられるのは、トワ達だけ。結果的に、それは成功した……守男は、笑顔を見せてよく眠る人になったんだ。三大欲求もあるし、感覚だって全部ある。
「守男、おはよう!!」
「みんな! はい、お弁当!」
「いつもありがとね、守男!」
人間としての感情があるんだ。こんなに嬉しいことはない……でも、まだまだ幸せはここから。楽しいことはたくさんある……全部、教えてあげなくちゃ。きっと、それが……守男に染み付いた血を、払っていってくれるから。
「あ、桜が咲いてる……」
「守男! 今度お花見しない?」
「お花見……桜の下で、お弁当食べたりするんだっけ? 楽しそうだな……いいね、やろうよ!!」
守男の笑顔が、嬉しい。笑ったトワ達の顔を見て、守男も笑ってくれる……最高だ。これまでの分、いっぱい笑わせてあげるから……トワ達を、もっと笑わせてね。その傷だらけの顔も、キスした時の感触も全部違うけど……彼がトワ達の全てを愛してくれるように、トワも彼の全てが愛おしいんだ。みんなだって、そう。だから何度言っても、足りないけど……
「守男!」
「ん……?」
「なんか言うのら?」
守男、大好き。その優しい顔が、もう二度と血に塗れることがないように……心からの願いを込めて、とびっきりの笑顔で、そう言った。
「大好きだよ!!」