~蜂の巣~
青混じりの綺麗な銀髪が靡く。だが、その顔は綺麗な顔と髪に似合わず曇天だ。なぜなら……
「困ったなぁ~……」
「こりゃまた立派なのを……PP天使も大変だなぁ」
「業者呼ぶしかないんじゃない?」
大きな、黄色い蜂の巣。かなたは蜂がいるなとは思っていたのだが、春だし普通かと思っていた。だが……放置していた結果がこれである。
「そうだよねぇ、これだけ大きいとお金もかかりそう」
「出来ちゃったものはしょうがないよ」
「じゃあ、ネットで……」
申し込みをするために、スマホを取り出すと……そこに、その場にいる人達全員の彼氏が通りかかった。みんなご存知、守男だ。
「かなた? どうした?」
「守男! これ見てよ、ほら……」
「うわっ、デカい蜂の巣……」
守男も引く程の大きさ。多分、アシナガバチ辺りだろう。
「だから今、業者に電話しなって言ってるんだよ」
「守男もほら、刺されちゃうから離れよ?」
「……その必要はないぞ、かなた」
みんながぽかんとした。それしか、手段は無いはずなのに……
「え……?」
「バケツと殺虫スプレー借りるぞ」
「水貯めて、どうするの? 殺虫スプレーじゃどうにもならないような……」
1リットルのバケツに、水を満タンまで貯めて持ってきた。軽々片手で運んでいるのは、努力の賜物だろう。守男はそれを地面に置くと……
「危ねぇから離れてろ」
「ちょ、何する気!?」
「大丈夫だ。傷一つつけやしない……離れてくれ」
言われた通りに離れる……すると、守男は剣を抜いた。それから……思いっきり、蜂の巣にぶっ刺した。
「ええええええっ!?」
「ちょ、何してんの!?」
「お前正気かぁ!?」
無論、蜂も黙ってはいない。大量の蜂が、守男を殺そうと飛びかかってくる。しかし守男は気にしている様子もなく、蜂の巣の根元を引きちぎり……燃やしながら、殺虫スプレーを容赦なく吹きかけた。自分の体にも。やがて蜂の波が止まると、火が漏れ始めた蜂の巣に冷水をかけて……消し去った。
「はい、おしまい!」
「ああああああ!? 刺されてる刺されてる!! 滅茶苦茶刺されてるよ!!」
「大丈夫、腕も足も機械だ!!」
顔も結構刺されてるのに、全然平気そうにしている。銃弾よりマシだからだろうか。
「そういう問題じゃねぇよ!!」
「痛くないのそれ!?」
「いや、まったく……麻痺しててよかったかも?」
そんなことを抜かす守男に、一斉に言った。
ぜんっぜんよくないッッ!!
嫌がる守男を引き摺りながら、三人は病院へと守男を連行するのであった。
~無理のあるバレンタイン~
2月14日。それは、女の子が男の子にチョコを渡す日だ。基本的には……最近はそうでないこともあるらしいが。ともかく、守男にも関係ない話ではない。何たって恋人がいるのだ。その日のお昼休み……
「そういえば今日、バレンタインだっけか……確か内容はチョコレートを女の子が男の子に……演技のために勉強はしたけど、見たことは一回もないんだよな」
バレンタインにする話じゃない重さを醸し出す守男。そんなことは露知らず、チョコレートを貰って喜ぶ者やそれを妬む者、寝てやり過ごす者などがいた。
「守男~!」
「ん、どうしたトワ?」
「ハッピーバレンタイン! はい、チョコレート!!」
可愛らしい、ハート型のチョコレート。一番手はトワだ。
「俺のために作ってくれたのか……? ありがとう、こういう感じなんだな」
「それだけじゃないよ! ボクからも手作り!!」
「おぉ、かなたもか……!」
かなたは板チョコだ。無論……他のみんなもだが。
「守男!! これがバレンタインチョコだよ~!!」
「ココも……この調子で行くと……」
「わためぇのもあるよ~!!」
それぞれ、マカロンとチョコケーキだ。
「二人もありがとう……ってことは、もちろん……」
「ルーナもいるのらー!!」
「なんだろう、すっげぇいい匂いする……」
高級素材、何たってお菓子の国だ。ルーナがわがままを言えば、高級素材くらいすぐ手に入る。
「えっへんなのら!」
「それと……あと三人もね?」
「まぁ、いないわけないよな」
ラプラス達が来た。トップバッターはラプラスだ。型に嵌めて作ったであろう、星型のチョコレート……手を切ったのか、絆創膏が貼られている。
「クックック……守男! お前のために、頑張って作ったチョコレートだぞ! ありがたく受け取れ!!」
「その怪我……! 痛かっただろうに……そこまでしてくれるのかよ……いい子だなぁ、本当に。俺にはもったいないくらい」
「ふへへへ……次、はかせだろ? ほら!」
次は博衣こよりだ、マーブルチョコ……小包に入っている。
「守男く~ん!! 美味しいこよの手作りチョコだよ!! 食べてみて!!」
「薬とか入ってないよな?」
「大丈夫、今日は入れてないよ!!」
いつもは入れている、その事実を知ってみんなは困惑している。
「いつも入れるなよ……」
「大丈夫、栄養剤とかだから! たまに媚薬入れるかもしれないけど……」
「やめんか、性欲戻ってんだぞ」
最後、風真いろは……カオスなholoxだと、一番まともかもしれない。
「も、守男……ちょ、チョコクッキーでござるよ? た、食べてみて、欲しいで、ござる……」
「恥ずかしいなら無理して言わなくても……」
「うぅ、みんなの前で言うのはやっぱり恥ずかしい……けど!」
みんなが顔を見合わせて、笑う。チョコレートを手に持った……
「アレのためなら、このくらいは!」
「みんな平等に仲良く、だよね!」
「皆の者、チョコレートは手に持ったかー!?」
全員が構えた。
「え……なに? 俺の顔になんかついてる?」
「守男、口開けて? できるだけ大きくね」
「こ、こうか……?」
守男が大口を開けると……
「チョコレートを守男の口にシュゥゥゥーッ!!」
「おごごぼがががが!?!?」
「ほら、噛んで!!」
八人分が一斉に押し込まれて、手足をバタバタさせる守男……
「まにまにまにまに!?(なになになになに!?)」
「一人ずつ食べてもらうんだったら順番が出来ちゃうから、みんなで食べてもらえばいいって思って!!」
「うびばはふ、うびばはふっべ!!(無理がある、無理があるって!!)」
だが、お人好し守男はここで終わらない。無理があってもどうにかするのがお人好しの流儀なのだ。
「ん……まっへ……ほのなな……(まって……そのまま)」
「え? 何するの? 一旦抜こうと思ってたのに……」
「んがっ……!!」
なんと守男、顎の骨を力で外してしまった。もちろんみんなビックリだ。
「なぁぁぁっ!?」
「ちょおぉぉぉっ!? 守男!?」
「何してるでござるかぁ!?」
みんなに困惑されながら、顎を閉じて……その勢いで、見事に全て噛み砕いた。
「むぐむぐ……んっ、みんな超美味いっ!!」
「……今度からは平和な決め方考えようか……」
「うん、そうしよう……」
守男は首を傾げて、何の抵抗もなく言った。
「そんなことしなくても、また食うから遠慮しなくていいよ?」
「ぜっっったいダメ!!」
「え~……」
チョコを食べ終わり……帰り際のみんなから一言。
「ホワイトデー、楽しみにしてるよ!」
「三倍返しだからね、守男!!」
「わかった~……三倍? 何をだ?」
そんなことを考えながら、時間は流れていった。
~敗残兵のホワイトデー~
3月7日、ホワイトデーの一週間前。守男が家で悩んでいる。どうしてもわからないことがあるようだ……
「三倍返しね……」
トワにそう言われて、真面目に考え込む守男……素直さは日常生活にもしっかり及んでいた。
「普通に暮らしてりゃ、わかったのかな?」
そうボヤきながら、考え込む……何をどう三倍にするのか? 思わずため息が出てしまっている……
「みんなに聞くほかない、か……」
どうしてもわからない。そうするしかないだろう……次の日、守男はみんなに聞いてみた。
「何を三倍にするかって?」
「あぁ……考えても、中々わからないものでな」
「その場のノリで言っちゃったトワもよくなかったね、普通でいいよ?」
そう言ってはいるが、一度やると決めたら絶対にやるのが守男という男だ。
「でも、世間一般ではどうするんだ?」
「人それぞれかな……義理チョコだったら値段かもしれないけど、本命はどうなんだろう……大きさとか込めた愛の強さとか……」
「う~ん……ますますわからん」
一般人ですら正しい概念がわかっていないのに、戦争上がりの敗残兵にわかるはずもない。それでも、諦めの悪い守男は考え続けた。家に帰りながらも、ずっと考えている……
「……みんなのチョコレート、美味しかったなぁ」
チョコレートと一緒に思い出していく、思い出。みんながくれた、何もなかった守男の宝物……毎日のように想いを馳せている程だ。そして、ホワイトデー前日にてようやく思いついた。
「そうだ……! よし!!」
これが正しいのかはわかっていない。でも……これしか、思いつかなかったのだ。みんなに向けて、とびっきり美味しいチョコレートを、手際よく作っていく守男。あっという間に、立派な四角のチョコが8個出来上がった。
「あとはホイップクリームで……!」
ホイップクリームで、チョコに文字を描いていく。綺麗に包む前に、一枚の紙を入れた。
「できた!! みんなは喜んでくれるかな……?」
時は過ぎて、学園の放課後。全員に、チョコレートを配った。
「ありがとうね、守男!」
「全員分ちゃんとある辺り、律儀なんだよな~」
「……それとさ。俺なりに『三倍返し』ってやつをやってみた。合ってるかわかんないけど……俺は先帰っとくよ」
そう言って、教室から退出した守男……ラッピングを解くと、美味しそうなカカオの匂いと甘い香りが一気に開放された。
「美味しそうなのら~!」
「ん? なんか書いてないか、これ?」
「え……ホントだ、全員分書いてある!」
それら全てに書き込まれた文字……『ありがとう』、そう書かれている。みんな、優しい笑みを浮かべた。
「あはは、守男らしいや……」
「待ってみんな、まだなんか入ってるよ?」
「ラップの中に何か入れてある……」
それは、一枚の折りたたまれた紙。それを開くと……みんな目を見開いた。
「これって手紙……?」
「全員宛に書いたのか、これ?」
「とりあえず読んでみるでござる……」
そこにはびっしりと文字が書かれていた。まずかなた宛……
『まずはチョコレート、本当にありがとう。美味しかったし、何より愛が伝わってきたよ。俺のために……笑ったり泣いたりしてくれて。何回感謝したって足りないよ、俺のために傷ついちゃったこともあったし……優しすぎる、立派な天使様だ……もしよかったら、これからも一緒にいて欲しい。かなたへ、愛を込めて』
「……当たり前じゃん、バーカ……」
『まずはチョコレート、本当にありがとう。美味しかったし、何より愛が伝わってきたよ。トワには苦しい思いをさせたな……俺も苦しかったけど、トワはもっと苦しかったと思う。それなのに、トワは優しくて……最後は俺のために血の海に飛び込んでくるんだから、本物のお人好しだ……トワのおかげで今、俺は生きられてるよ。生まれてくれてありがとう……トワへ、愛を込めて』
8人分、漏らさず書いてある……チョコレートへの感謝の後に、全て違うメッセージが書かれているのだ。
「はは、守男らしいなぁ……」
『初めて戦った時のココは強かったな……流石は竜族。みんな強かったけど、ココは別格だった……あのジャスティーですら、撃つ前に止めてたんだ。多分撃たせたらヤバいってわかったんだと思う……尊敬してるし、俺を戦争から戻してくれたのもココだ。本当に感謝してる、またデートしような……ココへ、愛を込めて』
「本当に、もう……急に泣かせないでよ……」
次はわためだ。折り畳まれた紙が開かれる……
『わためも俺のために、たくさん傷ついたよな……かなたと一緒にルサンチマンにやられた時は心臓が止まるかと思ったぞ。まぁ、そんなところもわためらしくて好きだけどな……そういえば歌が上手いって、噂で聞いた。また時間があったら、聞かせてもらえると嬉しいな。わためへ、愛を込めて』
「言ってくれたら、いくらだって歌ってあげるのに……今度突撃しようかな? うん、それがいい! 守男だって望んでるし、わためは悪くないよねぇ?」
『ルーナはお姫様なのに、まったくそう思えないくらい自由で……優しい人だよ。そんな人だからこそ、騎士の皆さんもついてくるんだろう……でも、王族として小さい体からは想像もつかないくらい気高い時もあった……特に、浦下直哉に脅されてるのに、自分の身を顧みずに糾弾してた時は本当にかっこよかったよ。ルーナと一緒にいられて嬉しい……よかったら、これからも一緒にいてくれ。ルーナへ、愛を込めて』
それを見たみんなは、笑っている……笑いながら泣く者もいた。
「お城に帰ったら絶対額縁に飾るのら~!!」
『ラプラスはかっこいいのかかわいいのか、たまに分からなくなる時がある……それくらいギャップがすごいんだ。料理やおやつにがっついてる時は微笑ましいのに、いざ大事な時となれば、威厳とか強さとかが滲み出る……そんなラプラスが俺は大好きだよ……二度とあんな辛い目には遭わせない。だから、どうかそのままでいて欲しい……ラプラスへ、愛を込めて』
「……吾輩もそれは同じだっての。彼氏が辛い目に遭ってて悲しくないと思うのか? お人好しめ……」
毒を吐いているが、それでも笑っている。次はこよりだ。
『こよりは俺のために頑張りすぎだ……みんなもそうだけどな。知ってるぞ、徹夜で俺の義手と義足を作ってくれてたこと……昔から観察は得意なんだ。こよりの義手のおかげで世界は救われた……もっと誇ってくれ。すごいと思ってるよ、本当に……取れる度に作ってくれて、一番の功労者は絶対こよりだ。薬の研究とかも、呼んでくれたら手伝いに行くから……協力させてもらえたら、嬉しいな。こよりへ、愛を込めて』
「やっぱりバレてたか~……でも、頑張りすぎはそっちでしょ? 優しい軍人さん……」
『いろはは本当に強い人だ……毎日走ってるだろ? 見たことあるんだ、暗くて気づかなかったか? まぁ、それだけ夢中になってたんだよな。速さも刀の扱いも、全部努力で身につけたんだよな……俺が追いつかれるのも、そう遠くないかもな。でも、いろはが強くならなくていいのが一番なんだ。くれぐれも無理はするなよ? 怪我するのは俺だけでいい……いろはへ、愛を込めて』
全て読み終わって、いろはも笑う。
「……いつか、守男の背中を守れるように……世界最強の用心棒になってみせるよ。だから……絶対死なないでね」
「三倍どころか、100倍くらいになって返ってきたね。守男ったら……」
「よし、チョコレート食べよう!」
みんなが一斉にチョコレートを齧る……みんなの感想はひとつ。
美味しーいっ!!
「……お粗末さまでした」
血の匂いなど欠片もしない、敗残兵のバレンタインとホワイトデーは……どこまでも幸せに満ち溢れていた。
~守男の日常~
けたたましく鳴る目覚ましのスイッチを探して、手を伸ばす。三回目でようやく押せた……起き上がって、スマホを手に取った。
『おはよう、みんな』
『守男おはよう、やっぱり早いね?』
『早起きは三文の徳でござるよ!』
これがうちの決まり事、俺が勝手にどこかへ行ったり怪我したりしないように……朝昼晩、それとどこかへ出かける時も知らせなければならない。これまでの行いを顧みれば妥当だろう……軽く朝食を作りながら、予定を考える。
『食材無くなってきたし、買い物に行こうと思ってる』
『はいはいはい! 吾輩が着いてくぞ!! 暇だし!!』
『じゃあ、トワが行こうかな?』
二人が立候補した……他のみんなは?
『行ってくれると助かるなぁ、今日は神様に挨拶しないといけないんだよ……天使も大変だぁ』
『親父の予定がな、ごめん守男』
『構わないさ、何を謝ることがある?』
俺が戦争をしたのも、みんながこうやって自由に生きるためだ。俺が束縛しちゃ意味ない……
『わためも行きたいけど……換毛期だから、毛を綺麗にしてもらわないと……』
『国の行事も大変なのらぁ……サボりてぇのら~』
『みんな困っちゃうよ、行ってあげてくれ』
ルーナは一国のお姫様だ、ルサンチマンに捕らわれるなんてあってはならないことだが……不甲斐ない。
『守男がそう言うなら……』
『風真はholoxの仕事があるし……』
『こよももうちょっとで薬が出来上がりそうだから……お願いね?』
決まりだな。今日はラプラスとトワと一緒だ……俺が一人で行くと、どうしても困ったことになる。
『決まりだね』
『今から行くからな、ちょっと待ってろ!』
『おやつ作って待ってるよ』
作るものが増えたな。そう思いながら、手際よく調理する。パンが焼けたことをトースターが知らせてくれて、ちょうどベーコンと卵焼きができたので、それをお皿に出す。食パンの上に乗せれば、香ばしい匂いの三連打が俺の鼻をくすぐった。
「いい感じだ……紅茶よし、薬と水よし」
内蔵の損傷が治りきっていないらしく、毎日回復薬の錠剤を飲んでいる。一回4錠、一日で12錠だ。
「うん、美味い……卵も半熟だし、パンもいい焼き加減だ……我ながらよく出来てる」
紅茶を啜りながら、呟く。あっという間に食事が終わり、おやつを作り始める。
「歩きながら食える物がいいかな……クッキーでも作るか」
そう言って、一口サイズのクッキーを作り始めた……うん、できた。美味しい……
「守男~!!」
「買い物行くぞー!!」
「はいはい、ちょっと待ってね!!」
着替えはもう済んでいる。袋に詰めておいたクッキーを持って外に出た。
「守男、おはよ……って、あれ? その手に持ってるのはもしかして……」
「クッキーだ。おやつだよ、歩きながら食べれるようにな」
「ありがとう、やっぱり気が利くな!!」
笑顔でクッキーを頬張るラプラスと、ゆっくり一個ずつ齧っていくトワ……こういうところにも性格出るよな。
「料理人冥利に尽きるってもんだ……」
「軍人から料理人にジョブチェンジ? もうそっちの方本業にしたら?」
「う~ん、考えとくよ」
からかい合うのも、交流のうち。
「あ……トワ様の食べ方かっこいい……」
「トワの真似してるの?」
「そっちの方が綺麗だし、守男も嬉しいかなって!」
優しいな、ラプラスは。でも……
「そのままでいいと思うぞ。美味しく食べてくれれば、それで十分さ……」
「……ありがとう」
「女たらしは治ってないね……」
申し訳ない。
「ごめん……そういえば、なんでラプラスはトワのこと尊敬してるんだ?」
「もぐもぐ……んぐっ。よく聞いてくれた!! 初めての出会いは突然だったよ……運命だったんだ。吾輩が魔界に来ていると……トワ様が目の前に現れたんだ!! 美味しそうに料理を食べる顔、丁寧な所作……全てが完璧!! それで吾輩は、トワ様の眷属になりたいって思ったんだ!!」
「見んなや! 恥ずかしいだろぉ!!」
仲が良くて何よりだ……微笑ましい。
「着いたぞ、二人とも」
「よし、入ろ!」
「おやつ買おうおやつ!! ショートケーキとコーラと、あと……」
これが目当てだったな、絶対。カゴを取りながら、思う。
「迷子になるなよ~、ラプラス?」
「わかってまーす!!」
「ははは、守男お父さんみたい!」
父親か……嫌でも、奴がフラッシュバックする。
「……父親って、世間一般的にはこんな感じなのか?」
「あっ……ごめんね」
「構わん。配慮なんていらない……」
みんなのひそひそ話が聞こえてくる。
「ねぇ、あれって堀川守男さんじゃない?」
「その隣歩いてるの……悪魔族?」
「本当に恋人か、あれは……? 傷だらけの大男と美少女じゃ釣り合ってないぞ」
疑われてるな……仕方あるまい。この顔なんだ、そう思われない方がおかしい。時の人だなんて呼ばれたが、ブームは一過性のものであり……すぐに収まった。みんな飽きが早いのだ。みんながついてないと、通報されかねんからな……というか、実際された。エグい顔してるもんな。
「……ねぇ、守男。ちょっとしゃがんでくれる?」
「え、いいけど……」
「よい、しょっ!」
背中に乗られた。これは……おんぶしろってことか? 抱きしめて離さない……
「あれ……女の子の方からやったよな?」
「ってことは、ちゃんと恋人なんだ……」
「どうやって落としたんだよ……?」
言われてることが気に入らなかったらしい……お詫びも兼ねて、このままおんぶしとくか。必要なものをどんどん買い込む……あ、野菜安い。
「ラプラス、いいものはあったか?」
「ネギトロ入ってる寿司セットあった! 買って!!」
「零れる零れる、入れてやるから貸しなさい」
一つ一つ入れていく……子供っぽいチョイスだ。
「トワ様、なんでおんぶされてるんですか?」
「ちょっとね!」
「まぁ、ちょっとな」
二人して誤魔化す。そのまま進むと、今度は……
「子供が増えたぞ……」
「悪魔との子供かな?」
「何つけてるんだ、あれ?」
子供って言われてるな……違うんだけど。
「子供じゃないぞ、恋人だぞっ!!」
「ラプラス!?」
「え……あんな小さい子が?」
まずいか……いや。そういう責任取るのも、俺の役目だ。
「そうだっ!! 吾輩は58億歳……何の問題もない!!」
「何言ってるの……彼氏も本気で信じてるの? ヤバいよ……」
「俺は信じてますよ。ラプラスは嘘をつきませんから。では」
ハッキリ言い切って、レジに向かう。誰がなんと言おうとそうなのだ、問題はないさ。
「……子供だって言った方が、角が立たなかったような気がするが……吾輩もつい言ってしまったから、人の事言えないけどさ」
「俺はもう、二度と嘘はつかない。ラプラスにも、トワにも、誰にもな……一生分、嘘はついたから。もう懲り懲りだよ……それに、総帥に二言はない。そうじゃないか? 自分の言葉を後悔するなよ」
「っ……」
顔を伏せてしまった……照れ隠しかな。
「お人好しも治ってないね」
「悪いか?」
「そんなところも好きだけど、ね!」
表情は見えない……でも、きっと笑顔だ。
「ありがとうございましたー」
「ありがとうございます」
「ありがとうございまーす」
みんなで言っていく……これは誰でも変わらないな。
「こっちにお菓子、こっちには食べ物とかを……」
「あ、手伝うよ」
「吾輩も!」
三人でやると早いな、すぐ終わった。
「さぁ、帰ろう! 今晩は守男の家で食べていこ!」
「いいぞ、何がいい?」
「ハンバーグ!!」
そう、快活な声で言われた。よし、晩御飯決まり。
「よし、俺に任せとけ!」
「やったぁー! ……あと、な……しゃがんでくれるか?」
「ん?」
今日はしゃがむことが多いな。そう思ってしゃがむと……耳元で言われた。
「さっきの、ありがとう……嬉しかったよ」
「……ラプラスらしいな」
「っ……トワ様聞いてなかっ……あ……」
ニヤニヤしてる、多分聞こえてたな。
「可愛いね~ラプラスちゃん?」
「トワ様までぇ……吾輩は大人ですってばー!!」
「はいはい、大人大人!!」
二人がからかいあって、俺も笑って……幸せだ。本当に、見違えた。生活も何もかも。
「むぅぅ、守男もなんか言ってくれよ!!」
「いいんじゃないか? 子供も案外悪くないかもよ?」
「だぁぁぁぁぁ!! このやろー!!」
頬を引っ張られた。ちょっと痛い……痛いのも人間である証だ。
「いてて……やったな、この~?」
「んぎぎぎぃ……」
「子供の喧嘩かっ! やめやめっ!」
ラプラスの頬を優しく引っ張っていたら、ストップが入った。
「はぁーい……」
「へーい……」
「まったくもう……守男までガキになってどうすんのさ」
そう言われながら、店を探す。これは食後に飲む薬だから、朝昼晩きっちり食べないといけないんだ。
「昼飯食うか、何食べる?」
「マック食っていこうマック!!」
「この辺りにマックあったかな……? ちょっと遠いけど」
腹は減ってるな……よし。
「……早く行きたいなぁ、お腹空いた」
「よし、ちょっと失礼」
「わっ!?」
二人を俺に乗らせる、トワはお姫様抱っこでラプラスはおんぶだ。
「しっかり掴まれよ、ラプラス。飛ばすぜ!!」
「……うん!」
「出発進行……!!」
地面を蹴りつけて、飛び出す。重りをつけてなければこの程度余裕だ。
「きゃはは、早い早い!」
「手を離すなぁ!?」
「大丈夫だ! 守男なら落とさないように走ってくれるだろ?」
しょうがねぇな……まったく!
「手のかかる総帥だ……!!」
「そんなこと言ってる割には楽しそうだね、守男?」
「あぁ、楽しいさ……戦争よりも、何よりも!!」
幸福を表すように、地面から音がする。はしゃぐラプラスやトワ、それを見て笑う俺……美味しいものを食べたり……からかいあって笑ったり。人生って、悪いものじゃないな……たくさんの犠牲は出た。だけど、そっちばかり向いてちゃ、人生は楽しくない……みんなが教えてくれたんだ。
だから、できる限り前を向こう。それをする権利が、俺にはある。体に染み付いた血は、いつの間にか……流れ落ちる汗に、洗い流されて消えていた。