「はっ……!ここは!」
詩音は目を開き当たりを見回す。
胡座をかいた状態で両手首と両足首に巻かれた縄に6畳間程のコンクリートで覆われた部屋は本能的に圧迫感を感じさせた。
おまけに照明は豆粒程のスタンドライトが床にぽつんと置いてあるだけだ。
(そうだ私は……、ノア・ベルガー邸の扉を開け、入ったところを見知らぬ女に気絶させられたんだっな)
やられた時の状況を徐々に思い出してきた。
少女は尋常ならざる速さで真横に立ち、詩音の首筋に冷たい吐息を吹き掛けた。
そこから急な眠気に襲われ………寝たところを拘束されたのだろう。
(流石……吸血鬼。なんでもありだな)
捕まってるわけにはいかない。
何とか脱出しなければ。
「やっと起きたか!このクソ女!」
「ぐっ……!」
怨嗟の声が聞こえた瞬間とほぼ同時に動けない詩音のお腹に鋭い蹴りが入る。
あまりの鈍痛に顔を顰めた……少し吐血した。
この病院に入ってからいやって程聞き慣れた声だ……。
「……お前、吸血鬼のガキか!。ゴホッゴホッ!」
「僕の名前は嶺臣だぁ!お前だってまだほんの子供じゃないか!」
「うぐっ!!」
嶺臣は無力な詩織を更に蹴って甚振り続ける。
彼にとり、先程の詩織の反撃に余程腹が立ったのだろう……蹴られる度に骨が砕かれ、吐血し、出血する。
とうとう詩織は耐えられなくなり……地べたに倒れた。
「いいざまだな……もっと恐怖を与えて殺してやる!」
嶺臣は吸血鬼の人を越えた力で右手で詩織の首を持ち上げ宙に浮かせる。
その際、詩織と目があったが彼女の目はまだ闘志に満ち溢れていた。
「人間のクセに生意気な奴め」
「……悪いな性分の他に色んな人間に鍛えられたんだよ」
フッ、と自分が死ぬかも知れないのに詩織は笑った。
「ならもっと絶望させてやる」
顔面を狙った彼の左の拳に思わず目を閉じて覚悟したが、その攻撃は届かなかった。
「全く勝手な子ね」
これまた聞き慣れた第三者の声が響く。
「あ……ぁぁぁ……許して……ディアナお姉ちゃん……」
目を開けると嶺臣は発作でも起きたように痙攣をお越していた。
「くっ…!」
詩織の体が彼から解放される。
「何が起きてるの…?」
「うふふ。お仕置きよ」
震える嶺臣の後ろから…自分を気絶させた少女が現れた。
「嶺臣、誰が貴方にそこまで彼女を甚振れって指示を出したわけ?」
「ご、ごめんなさい……!」
「まぁ小さい男の子は我が儘だもんね。だけどペナルティは与えるわ」
少女……ディアナは嶺臣の腰辺りに優しく両手を添え何かを調べるように動かすと手を離す。
「この辺ね」
「やめて……!お姉ちゃん!」
「だーめ」
肉を鋭利な刃物で斬る音がした。
ディアナは両手を離すと右手で嶺臣の胴を真っ二つにしたのだ。
ボタリと飛んだ嶺臣の上半身は地に落ちる。
「痛いよ……」
「吸血鬼何だからその程度なんともないでしょ。自分でくっつけなさい」
涙を浮かべる嶺臣にディアナは見下すような視線を浴びせる。
嶺臣の上半身と下半身其々の切断面がウネウネ動いてるのを見て詩織は思わず目を伏せた。
「あら?刺激がお強いのはお嫌い?」
「強すぎなんだよ……」
「そう。ここからは私が質問するわ。何故ノア先生の家に入ろうと?」
「友達を助けるためだ」
ジィーと赤い双眸を輝かせてディアナは詩織の顔を見つめる。
吸血鬼の真っ赤な目は人間に酷似こそしていたがやはり詳細な作りは違く見えた。
………美しさすら思える。
「瞳孔の動きからして貴女嘘はついてないようね。いらっしゃい。ノア先生のもとへ案内してあげるわ」
「本当か……やった。ゴホッ!」
ダメージによりまた吐血する。
「見ていられないわ。私の血を少し舐めさせてあげる」
ディアナは自分の手の動脈をもう片方の手で斬るとドクドクと血が流れた。
「私も吸血鬼にさせる気か?」
「安心なさい。私が吸血鬼になる成分を貴女に意図的に注がなければこの血は万能の薬となる。少なくとも貴女の身体は全快する」
(まぁ……。別に吸血鬼になっても十字架やニンニクは愚か、太陽の光でも死にはしないけどね)
詩織に人並み外れた力を与え、不老不死の吸血鬼にするのは容易だが彼女の為を考えその事実は伏せた。
「分かったわ。あんたの血を吸わせてもらう」
「どうぞ。遠慮なく受け取りなさい」
手首を近づけられたため詩織は戸惑いながらも彼女の血を吸っていく……。
「……あんまり悪い味ではないわね」
「うふふ。お褒めに預かり光栄ね」
ディアナは手刀で詩織の手錠と足枷を切った。
「良いのか?」
「貴女は悪人じゃない。ついておいでノア先生のお部屋に案内してあげる」
言われるがままに詩織はディアナの跡を追う。
全ては真央のために……。
やがて詩織は気を失った。