「詩織遊びに来たよ!」
「何して遊ぶ!?」
無邪気な笑顔を浮かべる真莉と真央を玄関で出迎えた。
(あぁ‥‥‥。この感覚懐かしい‥‥)
詩織が今から行う事は楽しみとは真逆のこと‥‥二人にとってこの『記憶』を呼び起こすのは辛く苦しいことだ。
それでもやるしかないのだ。
あの惨禍を防ぐ為に。
その為にこの時代に戻って来たのだから。
「部屋行こっか」と詩織は二人を自室に誘う。
真莉も真央もワクワクした様子で、部屋に足を踏み入れる。
「相変わらず綺麗な部屋ね」
「だな。女子力高いぜ」
「やめな、煽てても出るのは茶菓子と飲み物だけだ」
「充分過ぎるわ」と真央が返し、三人で笑った。
その時ちょうど母の詩歌が三人分の飲み物を持って来てくれた為、それぞれお礼の言葉を口にしながら三人は腰を降ろした。
「真莉、真央。まずこの時代に戻れてまたあんた達の元気な姿が見れた事が嬉しい、ありがとう」
「どしたの急に?」
「わりぃもんでも食ったか?」
「そんなんじゃねぇよ。辛いだろうけどどうかこの記憶を受け止めて」
詩織は二人に前の時間軸で起きた『未来』を見せた。
「こ、これは‥‥!?。私の死ぬ前の記憶!?」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「予想はしてたけどやっぱりか‥‥‥」
若干の戸惑いを見せる真莉に対して真央は完全に気が狂ったように絶叫してみせた。
「ごめんなさい‥ごめんなさい‥ごめんなさい!ごめんなさいぃぃぃぃ!」
燃え盛る劫火の中で真央と彩菜は死闘を繰り広げ、真央は火と明かりに対し重度のトラウマを負った‥‥。
この時間軸では彼女を苦しめるわけにはいかない。
「真央!落ち着いて!私がついてるぞ!」
真央の両手を握り締め必死に彼女に訴える。
「し、詩織!彩菜が!火がぁ!」
「それはもう私達が過ちを犯さなければ存在しない『未来』だ!。今のあんたは何ともない皮肉屋で私の親友の渋谷真央だ!」
「けど‥‥それでも私は怖いよぉ!」
幾分か落ち着いたようだがまだ真央がパニック状態には変わりはない。
更に落ち着かせるにはどうすればよいか悩んでる時にポン、と真莉が詩織の肩を叩いた。
「手伝うわ」
「‥‥頼む!」
「嫌だ!怖い!怖いぃぃぃ!」
「真央。もう大丈夫よ」
泣きじゃくる真央を抱きしめ真莉は優しく背中を擦りながらあやすように語る。
「詩織も言った通りもうそれは存在しない未来。存在しないのに怯える必要はないわ」
「本当?本当にもう怖くない‥‥‥?」
泣き腫らした目で真央は真莉を見つめる。
「えぇ、だから安心して今は眠りなさい」
そう言い終えると真央はコクリと首を落としてそのまま寝息を立てた。
「お見事。将来保育士になれるな」
「どうだかね。この時間軸では私が生きられればいいけど‥‥‥貴女よね詩織。私達の記憶を呼び醒ましたのは」
「‥‥‥あぁ。あの惨禍を止めるためにこの時代に戻った」
「私と彩菜が死んだ後世間ではそれを『呪組事件』と呼んで面白おかしく扱ったのね。はははは‥‥‥」
『ふざけんな』
怨嗟混じりに真莉は低い声で呟いた。
詩織の記憶から本来の未来の記憶を思い返したのは勿論、その後詩織がどうなったか、真の黒幕、山瀬裕也に関してもばっちりと記憶した。
「裕也が彩菜の腹違いの兄だったとはね。ってか結衣がキャバやってそこそこの稼ぎを出してんのは驚きね」
一人おかしく思い真莉はクスっと笑った。
「真莉復讐すべきは総一朗だ」
「えぇ。あと山瀬裕也。あの2人が私達の運命を狂わせた。今ハッキリこの頭で理解したわ。殺すかそれと同等の苦難を味わらせてやる!」
真莉が両手を握るとあまりの力に拳の隙間から血が流れ出した。
泣いてもないのに目は充血し、異常な殺気が放たれた。
「あぁ‥‥そしてこれは真莉には大変言いにくいけど彩菜の事も味方にしたい」
「彩菜‥‥‥ね」
「彩菜だって、確かに藤沢の血筋だけど同時に被害者だ!。父や兄と違ってあの子は純粋だったんだよ!前の時間軸でお父さんが死ぬ前の真莉みたいに!」
「それはそうかもしれないわね‥‥」
真莉は一旦腕を組み考える仕草を取る。
彩菜には確かに憎悪があるが同時に真莉達と同じくあの冷徹な藤沢総一朗の被害者なのだ。
「やっぱり彩菜を仲間にすることには反対か?」
「えぇ。心情的にね」
「そうか‥‥」
「ただし―――」
落胆する詩織を元気付けるかのような口調で真莉は話し続ける。
「あんな極悪無慈悲な奴等相手にするんだから少しでも人数が多い方がいいわ。あんなのでも少しは役に立つでしょ」
「じゃあ!真莉!」
「えぇ。ハブっちゃ可哀想だから藤沢家のお嬢様も仲間に入れてあげましょ。同じ家にいるから総一朗の偵察にも使えるでしょうし」
「ありがとう!」
歓喜に満ちた詩織は真莉に謝意を述べた。
「明日早速彩菜の所に行こう!」
「そうね。じゃあ今日は帰るわ。真央はどうする?スヤスヤ寝てるけど?」
「もし起きなかったら一泊させてくよ。無理に起こすのも良くないだろうし」
「そう。じゃあまた明日」
「うん!真莉本当にありがとう!」
「お邪魔しました」と挨拶をし真莉は奥井家の外に出た。
「全く‥‥親友が命からがら過去に来てあんな嬉しそうな顔してたんじゃ断れないわよ」
そう呟き、真莉は帰路につく。